説明

金属コア多層プリント配線板

【課題】低コストで熱サイクルに対するインナービアホールの破断が少なく信頼性の高い金属コア多層プリント配線板を提供する。
【解決手段】プリント配線板の導体層として、内部に金属コア111を有すると共に、金属コアの両側に内側絶縁層121,122を介して内層導体112,113をそれぞれ少なくとも1枚ずつ有し、かつ内層導体の両側に外側絶縁層123,124を介して外層導体114,115をそれぞれ1枚ずつ有することで金属コアを含む導体層が少なくとも5層構造をなし、金属コア多層プリント配線板の内層導体間の電気的接続を図るためのインナービアホール101が金属コア多層プリント配線板内部に形成され、かつ金属コアがインナービアホールの銅めっきと接続しておらず、かつインナービアホールに沿った方向における前記内側絶縁層と外側絶縁層の熱膨張係数が異なっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属コアを内部に有し、実装密度が高くかつ放熱性や量産性に優れた信頼性の高い金属コア多層プリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば車両のエンジンルーム内や室内に装着される電気接続箱には、電気回路を形成するために3次元的に折れ曲がった金属導体からなるバスバーで基板間を接続する代わりに、金属コアを内部に備えたプリント配線板が用いられ、これらの基板を収容する電気接続箱の小型化を図っている。
【0003】
そして、この金属コアプリント配線板の構造上、導体層が積層されたプリント基板において任意の導体層同士を接続する手段としてスルーホールやインナービアホールからなるバイアホールが用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
バイアホールの形成方法としては、プリント基板厚さ方向に貫通穴(スルーホール)をあけ、貫通穴壁面に厚さ20〜50μmの銅めっきを施し、任意の導体層間を電気的に接続する方法が一般的に用いられる。なお、プリント基板は、エポキシ樹脂とガラス繊維をベースとした絶縁材料が用いられ、導体層として電解銅箔が用いられ、バイアホールには前述した銅めっきが施されている。
【特許文献1】特開平8−162765号公報(第4−5頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような例えば車両に搭載される電子機器の性能が向上するに伴い、搭載する電子部品の大容量化、配線板自身の高密度化により放熱の必要性が増大しているため、放熱性に優れた金属コアを有する金属コア多層プリント配線板の必要性が高まっている。また、金属コア多層プリント配線板を搭載する電子機器は、従来のように良好な環境ばかりではなく、氷点下から高温度まで曝される厳しい環境下で使用される場合が増えている。特に車両のエンジンルームなどに搭載された電気接続箱等に収容され、過酷な冷熱衝撃環境下におかれる金属コア多層プリント配線板に関して、内層導体間の電子回路を接続するインナービアホールには以下のような問題点がある。
【0006】
具体的には金属コア多層プリント配線板は、片面もしくは両面基板に比べて厚さが厚くなるため、絶縁層やこの絶縁層から流れ出た絶縁材とインナービアホールを形成する銅めっき層とが連続して接する接触長さが長くなる。
【0007】
そして、銅めっき層と絶縁層とではそれぞれの熱膨張率が異なるので、両者の熱膨張率の違いにより銅めっき層には冷熱衝撃環境下の温度上昇により引っ張り応力が発生すると共に、温度下降により圧縮応力が発生する。このようにして、スルーホールやインナービアホールの銅めっき層が冷熱衝撃環境下で温度の変動による熱応力による疲労により、銅めっき層の伸び率や抗張力によっては電気抵抗値の増加や破断(バレルクラック)が生じ、金属コア多層プリント配線板が熱サイクルの実用的な繰り返し回数まで耐えらない問題が生じる。
【0008】
このような問題を回避するために、例えば特開平5−301941公報に記載されたように、従来から内側絶縁層の絶縁材と外側絶縁層の絶縁材の双方に厚さ方向の熱膨張係数の低い絶縁材(以下「低熱膨張絶縁材」とする)を用いる対策がとられていた。
【0009】
しかしながら、一般に低熱膨張絶縁材は厚さ方向の熱膨張係数の高い通常の絶縁材(以下「通常絶縁材」と記す)より価格が高いため、内側絶縁層と外側絶縁層に同一の低熱膨張絶縁材を用いるとコスト高になるという問題があった。
【0010】
本発明の目的は、低コストで熱サイクルに対するインナービアホールの破断が少なく信頼性の高い金属コア多層プリント配線板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述の課題を解決するために、本発明にかかる金属コア多層プリント配線板は、
プリント配線板の導体層として、内部に金属コアを有すると共に、前記金属コアの両側に内側絶縁層を介して内層導体をそれぞれ少なくとも1枚ずつ有し、かつ前記内層導体の両側に外側絶縁層を介して外層導体をそれぞれ1枚ずつ有することで前記金属コアを含む導体層が少なくとも5層構造をなす金属コア多層プリント配線板において、
前記金属コア多層プリント配線板の内層導体間の電気的接続を図るためのインナービアホールが当該金属コア多層プリント配線板内部に形成され、かつ
前記金属コアが前記インナービアホールの銅めっきと接続しておらず、かつ
前記インナービアホールに沿った方向における前記内側絶縁層と外側絶縁層の熱膨張係数が異なっていることを特徴としている。
【0012】
本発明による金属コア多層プリント配線板の構造によると、内側絶縁層と外側絶縁層の双方に低熱膨張係数を有する高価な絶縁材を用いなくても熱サイクルに対するインナービアホールの破断を少なくすることができるので、低コストで信頼性の高い金属コア多層プリント配線板とすることができる。
【0013】
又、請求項2に記載の本発明にかかる金属コア多層プリント配線板は、請求項1に記載の金属コア多層プリント配線板において、
前記内側絶縁層と前記外側絶縁層のうち、何れか一方の絶縁層の熱膨張係数が16〜40ppm/℃であり、かつ何れか他方の絶縁層の熱膨張係数が45〜70ppm/℃であることを特徴としている。
【0014】
内側絶縁層に低熱膨張係数を有する絶縁材を用い、外側絶縁層に通常の熱膨張係数を有する絶縁材を用いても、その逆に内側絶縁層に通常の熱膨張係数を有する絶縁材を用い、外側絶縁層に低熱膨張係数を有する絶縁材を用いても何れも本発明に係る作用、即ち熱サイクルに対するインナービアホールの破断防止効果を高めることができる。
【0015】
又、請求項3に記載の本発明にかかる金属コア多層プリント配線板は、請求項1又は請求項2に記載の金属コア多層プリント配線板において、
前記内側絶縁層及び少なくとも当該内側絶縁層から流れ出た絶縁材が一体となって前記インナービアホールの銅めっきと連続して接する部分の厚さが0.6mm以上であることを特徴としている。
【0016】
インナービアホールの銅めっきと連続して接する絶縁材の厚さがこのように厚いと、熱サイクルに対するインナービアホールの破断が生じ易くなるが、本発明による金属コア多層プリント配線板によると低コストでこのような破断を生じ難くすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によると、低コストで熱サイクルに対するインナービアホールの破断が少なく信頼性の高い金属コア多層プリント配線板を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態にかかる金属コア多層プリント配線基板を図面に基いて説明する。図1は、本発明の一実施形態にかかる金属コア多層プリント配線板1をインナービアホール101の中心軸線に沿って配線板厚さ方向に切断した断面図である。
【0019】
本発明の一実施形態にかかる金属コア多層プリント配線板1は、図1に示すように、内部に厚さ400μmの圧延銅箔からなる金属コア111を有すると共に、金属コア111の両側に厚さ200μmのガラスエポキシ樹指からなる内側絶縁層121,122を介して厚さ175μmの電解銅箔からなる内層導体112,113をそれぞれ1枚ずつ有し、かつ内層導体112,113の両側に厚さ200μmのガラスエポキシ樹指からなる外側絶縁層123,124を介して厚さ18μmの電解銅箔からなる外層導体114,115をそれぞれ1枚ずつ有した構成を備えることで、金属コア111を含む導体層が5層構造をなす金属コア多層プリント配線板となっている。
【0020】
また、金属コア多層プリント配線板1には、内層導体同士を銅めっき141により電気的に接続されたインナービアホール(内部導通穴)101が形成され、インナービアホール101の銅めっき141の外側は上下の内層導体112,113に接続されていると共に、それ以外の部分にはガラスエポキシ樹脂からなる内側絶縁層121,122及びプリント配線板の加圧成型時に内側絶縁層121,122から流れ出て金属コア111とインナービアホール101の銅めっき141との間に充填されたエポキシ樹脂からなる絶縁材131が接している。また、インナービアホール101の銅メッキの内側は、プリント配線板の加圧成型時に外側絶縁層123,124から流れ出たエポキシ樹脂からなる絶縁材132が充填されている。
【0021】
なお、内層導体112,113は、図1の断面図では図示しない所定の回路パターンとして構成され、それぞれ内側絶縁層と外側絶縁層間に延在している。そして、インナービアホール101の銅めっき141と内側絶縁層121,122及びこの絶縁層間に充填した絶縁材131とが連続して接する部分の厚さ(図1のT1参照)は本実施形態の場合0.8mmとなっている。
【0022】
なお、絶縁層の厚さ方向、即ちインナービアホール101に沿った方向における内側絶縁層121,122と外側絶縁層123,124の熱膨張係数が異なっており、本実施形態では内側絶縁層121,122の熱膨張係数が16〜40ppm/℃であり、外側絶縁層123,124の熱膨張係数が45〜70ppm/℃となっている。即ち、内側絶縁層121,122に低熱膨張絶縁材を用い、外側絶縁層123,124に通常絶縁材を用いている。
【0023】
続いて、本実施形態にかかる金属コア多層プリント配線板1の製造方法について図2に基づいて説明する。なお、この金属コア多層プリント配線板1の製造方法においてはインナービアホール101に関連した部分を中心に説明する。また、図2中の各構成要素の符号については図示省略する。
【0024】
本実施形態にかかる金属コア多層プリント配線板1の製造を実施するにあたって、最初に400μm以上の圧延銅箔からなる金属コア111を用意する(図2(a)参照)。そして、金属コア111のインナービアホール101を形成すべき位置の周囲にインナービアホール101より大きな径の非導通下穴をドリル又はプレス打抜きにより形成する(図2(b)参照)。即ち、本実施形態の金属コア多層プリント配線板1を製造する際、金属コア111と内層導体112,113とが接続しないようになっているので、このようにインナービアホール101よりも大きな穴を開けて金属コア111とインナービアホール101の銅めっき141とを接続しないようにしている。
【0025】
次いで、金属コア111の表面を粗面化処理する(図2(c)参照)。この金属コア表面に粗面を形成する方法としては、プリント配線基板の製造方法で一般的に行われているように、金属コア表面に酸化物を形成する方法、この酸化物層の形状を維持して還元剤により金属銅に還元する方法(例えば、特許第3395854号公報参照)、又は無電解メッキ又は電解メッキにより粒径の粗い金属銅を形成する方法を用いる。
【0026】
次いで、金属コア111の両側に内側絶縁層121,122を形成するガラスエポキシ樹脂を積層する。金属コア111の表面は既に粗面化処理されているので、金属コア111の両側に内側絶縁層121,122をしっかりと積層することができる。ここで、内側絶縁層121,122は、本実施形態では上述した通り例えば厚さ200μm程度でインナービアホール101に沿った方向における熱膨張係数が16〜40ppm/℃であり、低熱膨張絶縁材が内側絶縁層に用いられている。
【0027】
次いで、この内側絶縁層121,122の外側に内層導体112,113を積層して加圧成型する。この内層導体112,113には例えば厚さ175μm程度の電解銅箔を使用する。
【0028】
この加圧成型により、内側絶縁層121,122のエポキシ樹脂のみがインナービアホール周囲の金属コア111の非導通穴に流れ込んで充填される(図2(d)参照)。なお、エポキシ樹脂は熱硬化性の樹脂なので、加圧プレスするときに樹脂が溶融して溶融状態での樹脂の流れで隙間が埋められる。
【0029】
次いで、インナービアホール101を形成する部分だけに貫通穴をドリル又はプレス抜きで開け(図2(e)参照)、上下の内層導体間の導通を得るためにこの貫通穴の内側に銅めっきを施す。(図2(f)参照)。
【0030】
次いで、内層導体112,113をエッチングして内層導体112,113に所望の回路パターンを形成する。(図2(g)参照)。内層導体112,113の回路パターンが形成された後に、上述の金属コア表面を粗面化処理したのと同様に内層導体表面の粗面化処理を行なう(図2(h)参照)。
【0031】
次いで、外側絶縁層123,124を形成するガラスエポキシ樹脂と外層導体114,115とを内層導体112,113の両側に積層して加圧成型する(図2(i)参照)。ここで、内層導体112,113の表面を粗面化処理しているので、内層導体112,113の両側に外側絶縁層123,124をしっかりと積層することができる。この加圧成型の際、インナービアホール101の内部に外側絶縁層123,124のエポキシ樹脂が一部流れ込んで、インナービアホール101の内部がエポキシ樹脂で充填される。また、内層導体112,113と外層絶縁層123,124との間に形成された空間にもエポキシ樹脂が同様に流れ込んでこの空間がエポキシ樹脂で充填される。なお、外側絶縁層123,124は、上述した通り例えば厚さ200μm程度で厚さ方向(インナービアホールに沿った方向)における熱膨張係数は45〜70ppm/℃であり、本実施形態では通常絶縁材が外側絶縁層123,124に用いられている。
【0032】
外側絶縁層123,124及び外層導体114,115のプレス成形が終わった後、スルーホールの成形位置に穴を開け(図2(j)参照)、スルーホールの内側に銅めっきを施す(図2(k)参照)。
【0033】
次いで、エッチングを施して外層導体に所望の回路パターンを形成し(図2(l)参照)、金属コア多層プリント配線板の製造を終了する。
【0034】
即ち、このような金属コア多層プリント配線板の製造方法を実施することで、本実施形態の場合、上下の内側絶縁層112,113とこの内側絶縁層112,113から流れ出た絶縁材とが一体化してインナービアホール101の銅めっき141と連続して接する部分の厚さが0.8mm(0.6mm以上)となった金属コア多層プリント配線板1が出来上がる。
【0035】
このような構成を有する金属コア多層プリント配線板1、即ち、内側絶縁層121,122の熱膨張係数が16〜40ppm/℃であり、かつ外側絶縁層123,124の熱膨張係数が45〜70ppm/℃であり、かつ内側絶縁層121,122及びこの内側絶縁層121,122から流れ出た絶縁材131が一体化してインナービアホール101の銅めっき141と連続して接する部分の厚さT1が0.6mm以上となった金属コア多層プリント配線板1は、以下の実施例における評価試験結果から明らかなように、内側絶縁層と外側絶縁層の双方に低熱膨張係数を有する高価な絶縁材を用いなくても熱サイクルに対するインナービアホール101の破断防止効果を高めることができる。即ち、低コストで信頼性の高い金属コア多層プリント配線板とすることが可能となる。
【0036】
これは、本実施形態にかかる金属コア多層プリント配線板1が、内側絶縁層121,122にのみ熱膨張係数の低い絶縁材を用いた構成を有することで、内側絶縁層121,122及びこの内側絶縁層121,122から流れ出た絶縁材131が一体化してインナービアホール101の銅めっき141と連続して接する部分の熱サイクルに伴って発生する熱応力に起因する歪エネルギーを十分低下させることができるためと思われる。これによって、銅めっき141がこれと接するエポキシ樹脂との関係で温度変化に伴う膨張や縮みにより歪を受けても、熱サイクル数の増加によりその歪が余り蓄積することがなく、インナービアホール101の銅めっき141の疲労破断を生じ難くすることができる。
【0037】
なお、以上説明した金属コア多層プリント配線板の変形例として、図3に示す変形例が考えられる。なお、図3において上述の実施形態と同等の構成については対応する符号を付して詳細な説明を省略する。この変形例にかかる金属コア多層プリント配線板2は、上述した実施形態のように内側絶縁層121,122に低熱膨張係数を有する絶縁材を用いかつ外側絶縁層123,124に通常の熱膨張係数を有する絶縁材を用いる代わりに、内側絶縁層221,222に例えば熱膨張係数が45〜70ppm/℃である通常絶縁材を用い、外側絶縁層223,224に低熱膨張係数を有する絶縁材を用いている。また、本変形例では金属コア211には上述の実施形態とは異なり厚さ200μmと厚さの薄い圧延銅箔を用いている。これによって、絶縁材231の部分の厚さも上述の実施形態よりも薄くなり、結果的にインナービアホール201の銅めっき241と内側絶縁層221,222及びこの絶縁層間に充填した絶縁材231とが連続して接する部分の厚さ(図3のT2参照)は0.6mmとなっている。なお、その他の構成、即ち内層導体212,213、外層導体214,215、銅めっき241については、上述の実施形態と同様である。
【0038】
この変形例にかかる金属コア多層プリント配線板2がこのような構成を有することでも、本発明に係る作用、即ち熱サイクルに対するインナービアホール201の破断防止効果を高めることが可能なことが以下の実施例における評価試験結果から明らかになった。
【実施例】
【0039】
以下、本発明の有用性を評価する評価試験を行なったので、この試験内容と試験結果について説明する。評価試験では、使用する金属コア多層プリント配線板として上下の内側絶縁層とこの絶縁層から流れ出た絶縁材とが一体化してインナービアホールの銅めっきと連続して接する部分の厚さが0.8mm(具体的には、金属コアの厚さが400μm、上下の内側絶縁層の厚さが各200μm)のもの(以下、これを「実施例1」とする)と、上下の内側絶縁層とこの絶縁層から流れ出た絶縁材とが一体化してインナービアホールの銅めっきと連続して接する部分の厚さが0.6mm(具体的には、金属コアの厚さが200μm、上下の内側絶縁層の厚さが各200μm)のもの(以下、これを「実施例2」とする)についての評価試験を行った。
【0040】
なお、実施例1及び実施例2の双方とも、インナービアホールの銅めっきについては、厚さ25μmの硫酸銅めっきを使用し、インナービアホールの穴径としては、銅めっき後の内径0.3mmとし、内層導体として175μmの厚さの電解銅箔を用い、外層導体として18μmの厚さの電解銅箔を用いた。
【0041】
そして、金属コアの厚さが400μmで内層絶縁材全体の厚さが0.8mmである実施例1においては、厚さ方向(インナービアホールに沿った方向)の熱膨張係数が16〜40ppm/℃の低熱膨張絶縁材を内側絶縁層に用いかつ厚さ方向の熱膨張係数が45〜70ppm/℃である通常絶縁材を外側絶縁層に用いた金属コア多層プリント配線板を本実施例1−Aとした。
【0042】
また、厚さ方向の熱膨張係数が45〜70ppm/℃である通常絶縁材を内側絶縁層に用いかつ厚さ方向の熱膨張係数が16〜40ppm/℃の低熱膨張絶縁材を外側絶縁層に用いた金属コア多層プリント配線板を本実施例1−Bとした。
【0043】
また、厚さ方向の熱膨張係数が16〜40ppm/℃の低熱膨張絶縁材を内側絶縁層及び外側絶縁層の双方に用いた金属コア多層プリント配線板を本比較例1−Cとした。
【0044】
また、厚さ方向の熱膨張係数が45〜70ppm/℃である通常絶縁材を内側絶縁層及び外側絶縁層の双方に用いた金属コア多層プリント配線板を本比較例1−Dとした。
【0045】
また、金属コアの厚さが200μmで内層絶縁材全体の厚さが0.6mmである実施例2においては、厚さ方向(インナービアホールに沿った方向)の熱膨張係数が16〜40ppm/℃の低熱膨張絶縁材を内側絶縁層に用いかつ厚さ方向の熱膨張係数が45〜70ppm/℃である通常絶縁材を外側絶縁層に用いた金属コア多層プリント配線板を本実施例2−Aとした。
【0046】
また、厚さ方向の熱膨張係数が45〜70ppm/℃である通常絶縁材を内側絶縁層に用いかつ厚さ方向の熱膨張係数が16〜40ppm/℃の低熱膨張絶縁材を外側絶縁層に用いた金属コア多層プリント配線板を本実施例2−Bとした。
【0047】
また、厚さ方向の熱膨張係数が16〜40ppm/℃の低熱膨張絶縁材を内側絶縁層及び外側絶縁層の双方に用いた金属コア多層プリント配線板を本比較例2−Cとした。
【0048】
また、厚さ方向の熱膨張係数が45〜70ppm/℃である通常絶縁材を内側絶縁層及び外側絶縁層の双方に用いた金属コア多層プリント配線板を本比較例2−Dとした。
【0049】
そして、実施例1の本実施例1−A,1−B及び本比較例1−C,1−Dについて3000回の熱サイクルを加えた評価試験を行なうと共に、実施例2の本実施例2−A,2−B及び本比較例2−C,2−Dについても3000回の熱サイクルを加えた評価試験を行なった。
【0050】
この評価試験は、信頼性試験条件として−40℃〜120℃の冷熱衝撃試験を行った。そして、判定基準としては、スルーホール導通抵抗値の変動率が10%以下のものを合格とし、スルーホール導通抵抗値の変動率が10%を超えるものを不合格とした。なお、導通抵抗値の変化率は、試験前の値と試験後変動値の比を表している。
【0051】
この評価試験結果を図4及び図5に示す。図4は、実施例1の本実施例1−A,1−B及び本比較例1−C,1−Dについての評価試験結果を示す特性図であり、図5は、実施例2の本実施例2−A,2−B及び本比較例2−C,2−Dについての評価試験結果を示す図である。
【0052】
実施例1に関しては、図4に示す評価試験結果から明らかなように、内側絶縁材と外側絶縁材の両方に通常絶縁材を使用した本比較例1−Dの場合、熱サイクルが700サイクル程度でスルーホール導通抵抗値の変動率が10%を超えてしまい不合格品となったのに対し、低熱膨張絶縁材を内側絶縁層に用いかつ通常絶縁材を外側絶縁層に用いた本実施例1−Aと、この逆に通常絶縁材を内側絶縁層に用いかつ低熱膨張絶縁材を外側絶縁層に用いた本実施例1−Bは共に熱サイクルが3000サイクルに達してもスルーホール導通抵抗値の変動率が10%を超えず合格品となった。
【0053】
これによって、本実施例1−A及び本実施例1−Bは、内側絶縁材と外側絶縁材の両方に低熱膨張絶縁材を用いたコストの高い本比較例1−Cと熱サイクル評価試験に関して殆ど変わらない優れた特性を有することが分かった。
【0054】
同様に実施例2に関しても、図5に示す評価試験結果から明らかなように、内側絶縁材と外側絶縁材の両方に通常絶縁材を使用した本比較例2−Dの場合、熱サイクルが1300サイクル程度でスルーホール導通抵抗値の変動率が10%を超えてしまい不合格品となったのに対し、低熱膨張絶縁材を内側絶縁層に用いかつ通常絶縁材を外側絶縁層に用いた本実施例2−Aと、この逆に通常絶縁材を内側絶縁層に用いかつ低熱膨張絶縁材を外側絶縁層に用いた本実施例2−Bは共に熱サイクルが3000サイクルに達しても、スルーホール導通抵抗値の変動率が10%を超えず合格品となった。
【0055】
これによって、本実施例2−A及び本実施例2−Bは、内側絶縁材と外側絶縁材の両方に低熱膨張絶縁材を用いたコストの高い本比較例2−Cと熱サイクル評価試験に関して殆ど変わらない優れた特性を有することが分かった。
【0056】
以上説明した本発明にかかる金属コア多層プリント配線板は、プリント配線板の導体層として、内部に金属コアを有すると共に、金属コアの両側に内側絶縁層を介して内層導体をそれぞれ少なくとも1枚ずつ有し、かつ内層導体の両側に外側絶縁層を介して外層導体をそれぞれ1枚ずつ有することで金属コアを含む導体層が少なくとも5層構造をなす金属コア多層プリント配線板であって、金属コア多層プリント配線板の内層導体間の電気的接続を図るためのインナービアホールが金属コア多層プリント配線板内部に形成され、かつ金属コアが前記インナービアホールの銅めっきと接続しておらず、かつインナービアホールに沿った方向における内側絶縁層と外側絶縁層の熱膨張係数が異なっている金属コア多層プリント配線板であれば、本発明特有の作用効果、即ち、内側絶縁層と外側絶縁層の双方に低熱膨張係数を有する高価な絶縁材を用いなくても熱サイクルに対するインナービアホールの破断防止効果を高めることができるという作用効果を発揮し得る。その結果、低コストで信頼性の高い金属コア多層プリント配線板とすることができる。
【0057】
しかしながら、上述した実施例から明らかなように、好ましくは、金属コア多層プリント配線板の内側絶縁層と外側絶縁層のうち、何れか一方の絶縁層の熱膨張係数が16〜40ppm/℃であり、かつ何れか他方の絶縁層の熱膨張係数が45〜70ppm/℃であるのが良い。
【0058】
内側絶縁層にかかる低熱膨張係数を有する絶縁材を用い、外側絶縁層にかかる通常の熱膨張係数を有する絶縁材を用いても、その逆に内側絶縁層にかかる通常の熱膨張係数を有する絶縁材を用い、外側絶縁層にかかる低熱膨張係数を有する絶縁材を用いても、上述した実施例から明らかなように、内側絶縁層と外側絶縁層の双方に低熱膨張係数を有する絶縁材を用いた高価な金属コア多層プリント配線板と同等の熱サイクルに対するインナービアホールの破断防止効果を確保することができる。
【0059】
また、好ましくは、金属コア多層プリント配線板の絶縁層及び当該絶縁層から流れ出た絶縁材が一体となってインナービアホールの銅めっきと連続して接する部分の厚さが0.6mm以上であるのが良い。
【0060】
インナービアホールの銅めっきと連続して接する絶縁材の厚さがこのように厚いと、熱サイクルに対するインナービアホールの破断が生じ易くなるが、本発明によると、低コストでこのような破断を生じ難くすることができ、内側絶縁層と外側絶縁層の双方に低熱膨張係数を有する絶縁材を用いた高コストの金属コア多層プリント配線板を必要としなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の一実施形態にかかる金属コア多層プリント配線板をスルーホールの中心軸線に沿って配線板厚さ方向に切断した断面図である。
【図2】図1に示した金属コア多層プリント配線板の製造プロセスの工程図である。
【図3】図1に示した金属コア多層プリント配線板の変形例を示す図1に対応する断面図である。
【図4】実施例1に関する本発明の評価試験において本実施例と比較例を比較した評価試験結果を示す特性図である。
【図5】実施例2に関する本発明の評価試験において本実施例と比較例を比較した評価試験結果を示す特性図である。
【符号の説明】
【0062】
1,2 金属コア多層プリント配線板
111 金属コア
112,113 内層導体
114,115 外層導体
121,122 内側絶縁層
123,124 外側絶縁層
101 インナービアホール
131,132 絶縁材
141 銅めっき
201 インナービアホール
211 金属コア
212,213 内層導体
214,215 外層導体
221,222 内側絶縁層
223,224 外側絶縁層
231 絶縁材
241 銅めっき

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プリント配線板の導体層として、内部に金属コアを有すると共に、前記金属コアの両側に内側絶縁層を介して内層導体をそれぞれ少なくとも1枚ずつ有し、かつ前記内層導体の両側に外側絶縁層を介して外層導体をそれぞれ1枚ずつ有することで前記金属コアを含む導体層が少なくとも5層構造をなす金属コア多層プリント配線板において、
前記金属コア多層プリント配線板の内層導体間の電気的接続を図るためのインナービアホールが当該金属コア多層プリント配線板内部に形成され、かつ
前記金属コアが前記インナービアホールの銅めっきと接続しておらず、かつ
前記インナービアホールに沿った方向における前記内側絶縁層と外側絶縁層の熱膨張係数が異なっていることを特徴とする金属コア多層プリント配線板。
【請求項2】
前記内側絶縁層と前記外側絶縁層のうち、何れか一方の絶縁層の熱膨張係数が16〜40ppm/℃であり、かつ何れか他方の絶縁層の熱膨張係数が45〜70ppm/℃であることを特徴とする、請求項1に記載の金属コア多層プリント配線板。
【請求項3】
前記内側絶縁層及び少なくとも当該内側絶縁層から流れ出た絶縁材が一体となって前記インナービアホールの銅めっきと連続して接する部分の厚さが0.6mm以上であることを特徴とする、請求項1に記載の金属コア多層プリント配線板。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−198867(P2008−198867A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−33956(P2007−33956)
【出願日】平成19年2月14日(2007.2.14)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】