電動パワーステアリング装置
【課題】車輪回転速度に異常が発生した場合でも、セルフステアの発生や制御異常出力を確実に防止する電動パワーステアリング装置を提供する。
【解決手段】操舵トルク検出手段で検出した操舵トルクに基づいて第1のトルク指令値を演算する第1のトルク指令値演算手段31と、車輪回転速度に基づいて第2のトルク指令値を演算する第2のトルク指令値演算手段32と、前記操舵トルクの異常を検出したときに、第1のトルク指令値に代えて第2のトルク指令値をモータ制御手段に出力する異常時切換手段34と、前記車輪回転速度、正常時の前記操舵トルク及び前記モータ回転情報の少なくとも一つに基づいて前記車輪回転速度の異常を検出する車輪回転速度異常検出手段と、前記車輪回転速度の異常を検出した場合、前記異常時切換手段で前記第2のトルク指令値を選択するときに、当該第2のトルク指令値を制限する異常時指令値制限手段41とを備えている。
【解決手段】操舵トルク検出手段で検出した操舵トルクに基づいて第1のトルク指令値を演算する第1のトルク指令値演算手段31と、車輪回転速度に基づいて第2のトルク指令値を演算する第2のトルク指令値演算手段32と、前記操舵トルクの異常を検出したときに、第1のトルク指令値に代えて第2のトルク指令値をモータ制御手段に出力する異常時切換手段34と、前記車輪回転速度、正常時の前記操舵トルク及び前記モータ回転情報の少なくとも一つに基づいて前記車輪回転速度の異常を検出する車輪回転速度異常検出手段と、前記車輪回転速度の異常を検出した場合、前記異常時切換手段で前記第2のトルク指令値を選択するときに、当該第2のトルク指令値を制限する異常時指令値制限手段41とを備えている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも操舵トルクに基づいてトルク指令値を演算するトルク指令値演算手段と、ステアリング機構に与える操舵補助力を発生する電動モータと、前記トルク指令値に基づいて電動モータを制御するモータ制御手段とを備えた電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ステアリング装置として運転者がステアリングホイールを操舵する操舵トルクに応じて電動モータを駆動することによりステアリング機構に操舵補助力を与える電動パワーステアリング装置が普及している。
この種の電動パワーステアリング装置では、搭載対象車両が大型化することにより、電動パワーステアリング装置の高出力化が進み、モータトルクが増大すると共に大電流化が加速している。
このように、電動パワーステアリング装置の高出力化が進むと、電動パワーステアリング装置を停止させた状態での手動操舵時に必要な操舵トルクが大きくなって、操舵が困難となる状況となっている。
【0003】
従来、操舵トルクセンサ等の異常が発生した場合、電動パワーステアリング装置を停止させて安全を確保するようにしていたが、手動操舵に必要な操舵トルクが大きくなりすぎて操舵が困難となっているので、操舵トルクセンサ等の異常が発生した場合でも電動モータを駆動制御して操舵補助力の発生を継続することが望まれている。
このため、従来、操舵トルクセンサが故障した場合に、操舵トルク推定手段で車速信号と操舵角信号とに基づいて操舵トルクを推定し、推定した操舵トルクに基づいて電動機の駆動制御をするようにした電動パワーステアリング装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載の従来例にあっては、車速信号と操舵角信号とに基づいて操舵トルクを推定し、推定した操舵トルクに基づいて電動モータの駆動制御をするので、推定した操舵トルクで運転者の手放しなどの操舵状態を正しく認識することができず、ステアリングホイールが勝手に切込んでしまうなど運転者の意に反する操舵状態となり、運転者に違和感を与えてしまう。しかも、路面状況を考慮しないで操舵トルクを推定しているので、路面摩擦係数が低い等、トルク推定モデルで考慮されていてい状態に陥ると、正しく操舵トルクを推定できなくなるという未解決の課題がある。
【0005】
この未解決の課題を解決するために、車輪回転速度を用いて路面から実際に発生した路面反力すなわちセルフアライニングトルクを考慮することで適度な操舵補助力を発生し、セルフアライニングトルク推定とは別に車輪回転速度及びモータ回転角センサから得られたモータ角度よりセルフアライニングトルク計算することで、セルフアライニングトルク推定値とセルフアライニングトルク計算値との比較によりセルフアライニングトルクの誤推定を防ぎ、車輪回転速度より駆動輪スリップを推定することで駆動輪スリップ時におけるセルフステアを防ぎ、車速と前記モータ回転角センサから得られたモータ角速度に応じた制御出力制限を行うことにより、セルフステアや制御異常出力を確実に防ぎながら操舵補助制御を継続するようにした電動パワーステアリング装置が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3390333号公報
【特許文献2】特開2010−18268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献2に記載の従来例にあっては、テンパタイヤ等の異径タイヤ装着により左右の車輪回転速度に誤差が発生したり、左右輪の一方が例えば乾燥路でなる高摩擦係数路面で他方が凍結路や雪路等の低摩擦係数路面である所謂スプリットμ路等を走行することにより、外乱によって左右の車輪回転速度に誤差が発生したりするとセルフアライニングトルクを誤推定してしまい、セルフステアや制御異常出力を正確に防止することができないという未解決の課題がある。
そこで、本発明は、上記従来例の未解決の課題に着目してなされたものであり、車輪回転速度に異常が発生した場合でも、セルフステアの発生や制御異常出力を確実に防止することができる電動パワーステアリング装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に係る電動パワーステアリング装置は、ステアリング機構に入力される操舵トルクを検出する操舵トルク検出手段と、少なくとも前記操舵トルク検出手段で検出した操舵トルクに基づいて第1のトルク指令値を演算する第1のトルク指令値演算手段と、前記ステアリング機構に与える操舵補助トルクを発生する電動モータと、前記トルク指令値に基づいて前記電動モータを駆動制御するモータ制御手段とを備えた電動パワーステアリング装置であって、前記操舵トルク検出手段の異常を検出するトルク検出部異常検出手段と、車両の車輪回転速度を検出する車輪回転速度検出手段と、前記電動モータのモータ回転情報を検出するモータ回転情報検出手段と、前記車輪回転速度検出手段で検出した前記車輪回転速度に基づいて第2のトルク指令値を演算する第2のトルク指令値演算手段と、前記トルク検出部異常検出手段で前記トルク検出手段の異常を検出したときに、前記第1のトルク指令値演算手段に代えて、前記第2のトルク指令値演算手段を選択して前記モータ制御手段に第2のトルク指令値を出力する異常時切換手段と、前記車輪回転速度検出手段で検出した前記車輪回転速度、前記操舵トルク検出手段が正常であるときに検出した操舵トルク及び前記モータ回転情報検出手段で検出した前記モータ回転情報の少なくとも一つに基づいて前記車輪回転速度の異常を検出する車輪回転速度異常検出手段と、該車輪回転速度異常検出手段で前記車輪回転速度の異常を検出した場合、前記異常時切換手段で前記第2のトルク指令値を選択するときに、当該第2のトルク指令値を制限する異常時指令値制限手段とを備えたことを特徴としている。
【0009】
この請求項1に係る発明では、第2のトルク指令値演算手段で、車輪回転速度検出手段で検出した車輪回転速度に基づいてトルク指令値を演算し、操舵トルク検出手段の異常を検出したときに、異常時切換手段で第1のトルク指令値演算手段に代えて第2のトルク指令値演算手段を選択することにより、車輪回転速度に基づいて路面反力を考慮した正確なトルク検出値を求めることができる。また、アンチロックブレーキシステム等で使用されている車輪回転速度検出手段を利用することができ、部品点数を減少させることができる。
【0010】
しかも、車輪回転速度、正常時の操舵トルク、モータ回転情報の少なくとも一つに基づいて第2のトルク検出値の異常を検出した場合、異常時切換手段によって、第2のトルク指令値演算手段の第2のトルク指令値が選択されたときに、第2のトルク指令値を制限するので、第2のトルク指令値によるセルフステアの発生や制御異常出力を確実に防止する。
【0011】
また、請求項2に係る電動パワーステアリング装置は、請求項1に係る発明において、前記異常時指令値制限手段が、前記第2のトルク指令値の異常を検出した場合、前記第2のトルク指令値演算手段が選択されるときに、当該第2のトルク指令値の出力を停止させるように構成されていることを特徴としている。
この請求項2に係る発明では、第2のトルク指令値の異常を検出した場合、第1のトルク指令値演算手段が選択されるときに、第2の指令値の出力を停止させるので、セルフステアの発生や制御異常出力を確実に防止することができる。
【0012】
さらに、請求項3に係る電動パワーステアリング装置は、請求項1に係る発明において、前記異常時指令値制限手段が、前記車輪回転速度の異常を検出した場合、前記第2のトルク指令値演算手段が選択されるときに、前記第2のトルク指令値を前記車輪回転速度検出手段で検出した左右車輪回転速度差に基づいて制限するように構成されていることを特徴としている。
この請求項3に係る発明では、車輪回転速度の異常を検出した場合に、第2のトルク指令値を車輪回転速度検出手段で検出した左右車輪回転速度差に基づいて制限するので、左右車輪回転速度差に応じて第2のトルク指令値を制限することにより、セルフステアの発生も制御異常出力を確実に防止できる。
【0013】
また、請求項4に係る電動パワーステアリング装置は、請求項1に係る発明において、
前記異常時指令値制限手段が、前記車輪回転速度の異常を検出した場合、前記第2のトルク指令値演算手段が選択されるときに、当該異常を検出する前の第2のトルク指令値を第2のトルク指令値として設定するように構成されていることを特徴としている。
この請求項4に係る発明によると、車輪回転速度の異常を検出したときに、異常を検出する前の第2のトルク指令値を第2のトルク指令値として設定するので、異常が発生する前の第2のトルク指令値に基づいて操舵補助制御を継続することができ、セルフステアの発生や制御異常出力を確実に防止することができる。
【0014】
また、請求項5に係る電動パワーステアリング装置は、請求項1乃至4の何れか1つの発明において、前記第2のトルク指令値演算手段が、前記車輪回転速度に基づいて前記ステアリング機構に路面側から伝達されるセルフアライニングトルクを推定するセルフアライニングトルク推定手段を有し、該セルフアライニングトルク推定手段で推定したセルフアライニングトルクに基づいて前記第2のトルク指令値を演算する構成とされていることを特徴としている。
この請求項5に係る発明では、車輪回転速度に基づいてセルフアライニングトルクを推定するので、ステアリング機構の路面から伝達されるセルフアライニングトルクを正確に検出することができる。
【0015】
また、請求項6に係る電動パワーステアリング装置は、請求項1乃至4の何れか1つに係る発明において、前記第2のトルク指令値演算手段が、前記車輪回転速度に基づいて前記ステアリング機構に路面側から伝達されるセルフアライニングトルクを推定するセルフアライニングトルク推定手段と、該セルフアライニングトルク推定手段で推定したセルフアライニングトルクにゲインを乗算して前記第2のトルク指令値を演算するゲイン調整手段とを備えていることを特徴としている。
この第6に係る発明では、セルフアライニングトルク推定値にゲインを乗算して第2のトルク指令値を演算するので、車両の操舵状態や走行状態に応じてゲインを設定することにより、第2のトルク指令値を適正化することができる。
【0016】
さらにまた、請求項7に係る電動パワーステアリング装置は、請求項1乃至4の何れか1つに係る発明において、前記第2のトルク指令値演算手段が、前記車輪回転速度に基づいて前記ステアリング機構に路面側から伝達されるセルフアライニングトルクを推定するセルフアライニングトルク推定手段と、該セルフアライニングトルク推定手段で推定したセルフアライニングトルクにゲインを乗算して前記第2のトルク指令値を演算するゲイン調整手段と、該ゲイン調整手段で演算した第2のトルク指令値を前記車輪回転速度検出手段で検出した車輪回転速度に基づいて算出した車速及び車速検出手段で検出した車速の一方とモータ角速度演算手段で算出したモータ角速度との少なくとも一方に基づいて制限するトルク制限手段とを備えていることを特徴としている。
この請求項7に係る発明では、ゲイン調整後の第2のトルク指令値を車速及びモータ角速度の少なくとも一方に基づいて制限することにより、高車速領域や高モータ角速度領域での制御出力異常を抑制することができる。
【0017】
なおさらに、請求項8に係る電動パワーステアリング装置は、請求項6又は7に係る発明において、前記ゲイン調整手段が、モータ回転情報検出手段で検出したモータ回転情報と前記セルフアライニングトルク推定手段で推定したセルフアライニングトルクとに基づいて切増し状態、切り戻し状態及び保舵状態の何れの操舵状態であるかを判定し、操舵状態の判定結果に基づいて操舵状態感応ゲインを調整する操舵状態ゲイン調整手段を有することを特徴としている。
この請求項8に係る発明では、操舵状態に応じた最適な操舵状態感応ゲインを調整することができ、操舵状態に応じて最適な第2のトルク指令値を算出することができる。
【0018】
また、請求項9に係る電動パワーステアリング装置は、請求項6乃至8の何れか1つに係る発明において、前記ゲイン調整手段が、前記車輪回転速度検出手段で検出した車輪回転速度に基づいて算出した車速及び車速検出手段で検出した車速の一方に基づいて車速感応ゲインを調整する車速ゲイン調整手段を有することを特徴としている。
この請求項9に係る発明では、車速に応じて車速感応ゲインを調整することができるので、車両の操舵フィーリングを向上させることができる。
【0019】
さらに、請求項10に係る電動パワーステアリング装置は、請求項6乃至9の何れか1つに係る発明において、前記ゲイン調整手段が、モータ回転情報検出手段で検出したモータ回転情報と前記車輪回転速度検出手段で検出した車輪回転速度とに基づいて演算したセルフアライニングトルク演算値と前記セルフアライニングトルク推定手段で推定したセルフアライニングトルク推定値との偏差に基づいてセルフアライニングトルクゲインを調整するセルフアライニングトルクゲイン調整手段を有することを特徴としている。
【0020】
この請求項10に係る発明では、セルフアライニングトルク設定手段で、モータ回転情報と車輪回転速度とに基づいて算出したセルフアライニングトルク演算値とセルフアライニングトルク推定値との偏差に基づいてセルフアライニングトルクゲインを設定するので、車輪回転速度に基づいて算出されるセルフアライニングトルク推定値に誤差を生じた場合に、その誤差を抑制することができる。
【0021】
さらにまた、請求項11に係る電動パワーステアリング装置は、請求項6乃至10の何れか1つに係る発明において、前記ゲイン調整手段が、前記車輪回転速度検出手段で検出した車輪回転速度に基づいて駆動輪スリップ状態を推定し、推定した駆動輪スリップ状態に基づいて駆動輪スリップ感応ゲインを調整する駆動輪スリップゲイン調整手段を有することを特徴としている。
この請求項11に係る発明では、駆動輪スリップがセルフアライニングトルク推定値に影響を与える場合に、この駆動輪スリップの影響を抑制することができる。
【0022】
なおさらに、請求項12に係る電動パワーステアリング装置は、請求項5乃至11の何れか1つに係る発明において、前記セルフアライニングトルク推定手段が、前記車輪回転速度に基づいて車両横滑り角を推定する車両横滑り角推定手段を有し、該車両横滑り角推定手段で推定した車両横滑り角に基づいてセルフアライニングトルクを推定するように構成されていることを特徴としている。
この請求項12に係る発明では、車輪回転速度に基づいて車両の車両横滑り角を推定し、推定した車両横滑り角に基づいてセルフアライニングトルクを推定するので、車両の走行状態を加味してより正確なセルフアライニングトルクを推定することができる。
【0023】
さらに、請求項13に係る電動パワーステアリング装置は、請求項12に係る発明において、前記車両横滑り角推定手段が、前記車輪回転速度に基づいて車両横滑り角を推定し、推定した横滑り角を前記モータ回転情報に基づいて補正するように構成されていることを特徴としている。
この請求項13に係る発明では、車両の車輪回転速度に基づいて車両の横滑り角を推定し、推定した横滑り角をモータ回転情報に基づいて補正するので、車両の操舵状況に基づいてより正確な横滑り角を推定することができる。
【0024】
さらにまた、請求項14に係る電動パワーステアリング装置は、請求項5乃至11の何れか1つに係る発明において、前記セルフアライニングトルク推定手段が、前記車輪回転速度と前記モータ回転情報とに基づいてセルフアライニングトルクを推定するように構成されていることを特徴としている。
この請求項14に係る発明では、車両の左右の車輪回転速度とモータ回転情報とに基づいてセルフアライニングトルクを推定するので、車両の操舵状況に応じたより正確なセルフアライニングトルクを推定することができる。
【0025】
なおさらに、請求項15に係る電動パワーステアリング装置は、請求項1乃至14の何か1つに係る発明において、前記異常時切換手段が、前記第1のトルク指令値演算手段に代えて前記第2のトルク指令値演算手段を選択する場合に、前記第1のトルク指令値から前記第2のトルク指令値に徐々に変化させることを特徴としている。
この請求項15に係る発明では、第1のトルク指令値から第2のトルク指令値への切換え時にトルク指令値を徐々に変化させるので、電動モータで発生させる操舵補助力の急変を防止して、安定した操舵補助状態を継続することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、第2のトルク指令値演算手段で、車輪回転速度に基づいてトルク指令値を演算するので、操舵トルク検出手段の異常を検出したときに、路面状況を考慮した正確なトルク検出値を求めることができ、操舵トルク検出手段の故障後も操舵補助制御を運転者に違和感を与えることなく継続することができ、しかも車輪回転速度に異常が発生した場合に、第2のトルク指令値を制限するので、セルフステアの発生や制御異常出力を確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る電動パワーステアリング装置の概略構成を示す図である。
【図2】本発明に係るコントローラの具体例を示すブロック図である。
【図3】コントローラを構成するセルフアライニングトルク推定部の具体的構成を示すブロック図である。
【図4】横滑り角算出マップを示す特性線図である。
【図5】セルフアライニングトルク初期推定値算出マップを示す特性線図である。
【図6】実際のセルフアライニングトルクに対するセルフアライニングトルク初期推定値のヒステリシス特性を示す特性線図である。
【図7】操舵状態ゲイン設定部の具体的構成を示すブロック図である。
【図8】操舵状態ゲイン設定部に適用する操舵状態感応ゲイン算出マップを示す特性線図である。
【図9】車速感応ゲイン設定部に適用する車速感応ゲイン算出マップを示す特性線図である。
【図10】セルフアライニングトルクゲイン計算部の具体的構成を示すブロック図である。
【図11】図10のセルフアライニングトルクゲイン計算部に適用するセルフアライニングトルクゲイン算出マップを示す特性線図である。
【図12】駆動輪スリップゲイン設定部の具体的構成を示すブロック図である。
【図13】駆動輪スリップゲイン設定部に適用する駆動輪スリップゲイン算出マップを示す特性線図である。
【図14】制御出力制限値計算部の具体的構成を示すブロック図である。
【図15】図15の車輪回転速度異常検出部で実行する車輪回転速度異常検出処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図16】図15の車輪回転速度制限値演算部で実行する車輪回転速度制限値演算処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図17】図16で使用する車輪回転速度制限値算出マップを示す特性線図である。
【図18】図15の車速制限値演算部で使用する車速制限値算出マップを示す特性線図である。
【図19】図15のモータ角速度制限値演算部で使用するモータ角速度制限値算出用マップを示す特性線図である。
【図20】図2のトルクセンサ異常検出部で実行するトルクセンサ異常検出処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図21】マイクロコンピュータで実行する操舵補助制御処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図22】本発明の第2の実施形態を示すコントローラの具体例を示すブロック図である。
【図23】図22の制御出力制限値計算部の具体的構成を示すブロック図である。
【図24】図23の車輪回転速度制限値演算部で実行する車輪回転速度制限値演算処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図25】図24で使用する車輪回転速度制限値算出マップを示す特性線図である。
【図26】本発明の第3の実施形態におけるセルフアライニングトルク推定部で実行するセルフアライニングトルク選択処理手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明に一実施形態を示す概略構成図であって、図中、SMはステアリング機構である。このステアリング機構SMは、ステアリングホイール1に運転者から作用される操舵力が伝達される入力軸2aとこの入力軸2aに図示しないトーションバーを介して連結された出力軸2bとを有するステアリングシャフト2を備えている。このステアリングシャフト2は、ステアリングコラム3に回転自在に内装され、入力軸2aの一端がステアリングホイール1に連結され、他端は図示しないトーションバーに連結されている。
【0029】
そして、出力軸2bに伝達された操舵力は、2つのヨーク4a,4bとこれらを連結する十字連結部4cとで構成されるユニバーサルジョイント4を介して中間シャフト5に伝達され、さらに、2つのヨーク6a,6bとこれらを連結する十字連結部6cとで構成されるユニバーサルジョイント6を介してピニオンシャフト7に伝達される。このピニオンシャフト7に伝達された操舵力はステアリングギヤ機構8で車両幅方向の直進運動に変換されて左右のタイロッド9に伝達され、これらタイロッド9によって転舵輪WL,WRを転舵させる。
ステアリングシャフト2の出力軸2bには、操舵補助力を出力軸2bに伝達する操舵補助機構10が連結されている。この操舵補助機構10は、出力軸2bに連結した減速機構11と、この減速機構11に連結された操舵補助力を発生する電動機としての例えばブラシレスモータで構成される電動モータ12とを備えている。
【0030】
また、減速機構11のステアリングホイール1側に連接されたハウジング13内に操舵トルク検出手段としての操舵トルクセンサ14が配設されている。この操舵トルクセンサ14は、ステアリングホイール1に付与されて入力軸2aに伝達された操舵トルクを検出するもので、例えば、操舵トルクを入力軸2a及び出力軸2b間に介挿した図示しないトーションバーの捩れ角変位に変換し、この捩れ角変位を非接触の磁気センサで検出するように構成されている。
【0031】
そして、操舵トルクセンサ14から出力される操舵トルク検出値Tは、図2に示すように、コントローラ15に入力される。このコントローラ15には、操舵トルクセンサ14からのトルク検出値Tの他に車速センサ16で検出した車速Vs、電動モータ12に流れるモータ電流Iu〜Iw及びレゾルバ、エンコーダ等で構成されるモータ回転角センサ17で検出した電動モータ12の回転角θ及び車輪回転速度センサ18L,18Rで検出した車両の左右の車輪回転速度VwL及びVwRも入力される。
【0032】
コントローラ15では操舵トルクセンサ14が正常である状態では、入力されるトルク検出値T及び車速検出値Vsに応じた操舵補助力を電動モータ12で発生させる電流指令値としての第1の操舵補助トルク指令値Iref1を算出し、算出した操舵補助トルク指令値Iref1に対して回転角θに基づいて算出するモータ角速度ω及びモータ角加速度αに基づいて各種補償処理を行ってから電動モータ12を駆動制御する。また、操舵トルクセンサ14が異常であるときには、左右の従動輪の車輪回転速度VwL及VwRに基づいて第2の操舵補助トルク指令値Iref2を算出し、この第2の操舵補助トルク指令値Iref2に基づいて電動モータ12を駆動制御する。
【0033】
すなわち、コントローラ15は、図2に示すように、モータ回転角センサ17で検出したモータ角度θに基づいてモータ角速度ω及びモータ角加速度αを演算するモータ回転情報演算部20と、操舵補助トルク指令値Irefを演算する操舵補助トルク指令値演算部21と、この操舵補助トルク指令値演算部21で演算したトルク指令値Irefを補償する指令補償値Icomを算出するトルク指令値補償部22と、操舵補助トルク指令値演算部21で演算した操舵補助トルク指令値Irefとトルク指令値補償部22で算出した指令補償値Icomとを加算して補償後操舵補助トルク指令値Iref′を算出する加算器23と、この加算器23から出力される補償後操舵補助トルク指令値Iref′に基づいてモータ電流を生成して電動モータ12を駆動制御するモータ駆動回路24とで構成されている。
【0034】
回転情報演算部20は、モータ回転角センサ17で検出されるモータ回転角検出信号に基づいてモータ角度θを演算するモータ角度信号センサ200と、このモータ角度信号センサ200で演算されるモータ角度θを微分してモータ角速度ωを算出するモータ角速度演算部201と、このモータ角速度演算部201で算出されたモータ角速度ωを微分してモータ角加速度αを算出するモータ角加速度演算部202とを備えている。
【0035】
操舵補助トルク指令値演算部21は、操舵トルクセンサ14から入力される操舵トルクTと車速センサ16から入力される車速Vsとに基づいて第1の操舵補助トルク指令値Iref1を演算する第1の操舵補助トルク指令値演算部31と、左右の車輪回転速度を検出する車輪回転速度センサ18から入力される車輪回転速度VwL及びVwRに基づいて第2の操舵補助トルク指令値Iref2を演算する第2の操舵補助トルク指令値演算部32と、操舵トルクセンサ14の異常を検出するトルクセンサ異常検出部33と、該トルクセンサ異常検出部33から出力される異常検出信号に基づいて前記第1の操舵補助トルク指令値演算部31及び第2の操舵補助トルク指令値演算部32の何れかを選択する異常時切換手段としての指令値選択部34と、指令値選択部34で選択した指令値の急激な変化を抑制するレートリミッタ35とを備えている。
【0036】
第1の操舵補助トルク指令値演算部31は、操舵トルクT及び車速Vsをもとに図2中に示す操舵補助トルク指令値算出マップを参照して電流指令値でなる操舵補助トルク指令値Irefbを算出するトルク指令値算出部311と、このトルク指令値算出部311から出力される操舵補助トルク指令値Irefbの位相補償を行って位相補償値Irefb′を算出する位相補償部312と、操舵トルクセンサ14から入力される操舵トルクTに基づいてステアリング中立付近の制御の応答性を高め、滑らかでスムーズな操舵を実現するように、操舵トルクTを微分演算処理してアシスト特性不感帯での安定性確保、静摩擦の補償を行うセンタ応答性改善指令値Irを算出するセンタ応答性改善部313と、位相補償部312の位相補償出力とセンタ応答性改善部313のセンタ応答性改善指令値Irとを加算して第1の操舵補助トルク指令値Iref1を算出する加算器314とを備えている。
ここで、トルク指令値算出部311で参照する操舵補助トルク指令値算出マップは、図2中に示すように、横軸に操舵トルクTをとり、縦軸に操舵補助トルク指令値Irefbをとると共に、車速Vsをパラメータとした放物線状の曲線で表される特性線図で構成されている。
【0037】
第2のトルク指令値演算部32は、ステアリング機構に路面から伝達されるセルフアライニングトルクを推定するセルフアライニングトルク推定手段としてのセルフアライニングトルク推定部32Aと、このセルフアライニングトルク推定部32Aで推定したセルフアライニングトルクSATにゲインを乗算して第2の操舵補助トルク指令値Iref2を算出するゲイン調整手段としてのゲイン調整部32Bと、ゲイン調整部32Bでゲイン調整されたセルフアライニングトルクを制限する異常時指令値制限手段としてのトルク制限部32Cとで構成されている。
【0038】
セルフアライニングトルク推定部32Aは、図3に示すように、左右の車輪回転速度VwL及びVwRに基づいて車両横滑り角βを推定する横滑り角推定部321と、モータ角度θが入力されて角度変化量Δθを算出する角度変化量演算部322と、この角度変化量演算部322で演算された角度変化量Δθが入力される滑り角補正ゲインKslpが設定された増幅器323と、この増幅器323で算出した滑り角補正値Aslpを横滑り角推定部321で推定した横滑り角βに加算してタイヤ捩じり量による補正を行なう加算器324と、この加算器324の加算出力に基づいてセルフアライニングトルク初期推定値を演算するセルフアライニングトルク演算部325と、このセルフアライニングトルク演算部325で演算したセルフアライニングトルク初期推定値SATiのヒステリシス特性を補正するためにモータ角速度ωを増幅してヒステリシス補正値Ahysを算出する増幅器326と、この増幅器326で算出したヒステリシス補正値Ahysをセルフアライニングトルク初期推定値SATiに加算する加算器327と、この加算器327の加算出力からノイズを除去するローパスフィルタ328と、車輪回転速度センサ18L及び18Rから入力される車輪回転速度VwL及びVwRを加算する加算器329と、車輪回転速度VwL及びVwRの加算値の1/2を算出して車速相当値Vs′を算出する平均値算出部330と、この平均値算出部330で算出した車速相当値Vs′に基づいてローパスフィルタ328から出力されるノイズ除去されたセルフアライニングトルク初期推定値SATi′の位相補正を行ってセルフアライニングトルク推定値SATを算出する位相補正部331とを備えている。
ここで、車両横滑り角推定部321は、駆動輪となる後輪の車輪回転速度センサ18RL及び18RRで検出された車輪回転速度VwRL及びVwRRに基づいて下記(1)式の演算を行って、車速に応じた左右の車輪回転速度差ΔVwRを算出する。
ΔVwR=(VwRL−VwRR)/{(VwRL+VwRR)/2} ………(1)
【0039】
次いで、算出した車輪回転速度差ΔVwをもとに図4に示す車両横滑り角算出マップを参照して車両横滑り角βを推定する。車両横滑り角算出マップは、図4に示すように、横軸に車輪回転速度差ΔVwRをとり、縦軸に車両横滑り角βをとった実車の測定値から求められる特性線図で表され、車輪回転速度差ΔVwがゼロ近傍であるときには、比較的緩やかな勾配となり、これより車輪回転速度差ΔVwが大きくなると比較的急峻な勾配となる特性曲線Lが設定されている。
【0040】
一方、セルフアライニングトルク演算部325では、車両横滑り角βをもとに図5に示すセルフアライニングトルク初期推定値算出マップを参照してセルフアライニングトルク初期推定値SATiを算出する。このセルフアライニングトルク初期推定値算出マップは、図5に示すように、横軸に車両横滑り角βをとり、縦軸にセルフアライニングトルク初期推定値SATiをとった実車の測定値から求められる特性線図で表され、車速相当値Vs′をパラメータとして車速相当値Vs′が大きな値となるに応じて傾斜角が大きくなる線形区間Lsとこの線形区間Lsの両端から延長する飽和区間Laとでなる特性線が設定されている。
【0041】
このセルフアライニングトルク演算部325で算出するセルフアライニングトルク初期推定値SATiと、実際に車両に生じるセルフアライニングトルクSATとの関係は、図6で破線図示のように、比較的大きなヒステリシス特性を有することになる。このため、モータ角速度ωに基づいてヒステリシス補正値Ahysを算出し、このヒステリシス補正値Ahysをセルフアライニングトルク初期推定値SATiに加算することにより、ヒステリシス特性がモータ角速度すなわち舵角速度に応じて補正されることにより、図6で実線図示のようにヒステリシス特性の幅を狭くしてより正確なセルフアライニングトルク初期推定値SATiを算出することができる。
【0042】
また、位相補正部331は、平均値算出部330から出力される車速相当値Vs′に基づいてローパスフィルタ326から出力されるノイズ除去されたセルフアライニングトルク推定値SAT′の位相を補正するものであり、定常ゲイン=1の一時遅れフィルタ(1/T1s+1)で構成されている。ここで、sはラプラス演算子、T1は時定数であって、この時定数T1は車速相当値Vs′に応じて設定される。
【0043】
一方、ゲイン調整部32Bは、操舵状態ゲイン調整部36、車速ゲイン調整部37、セルフアライニングトルクゲイン調整部38、及び駆動輪スリップゲイン調整部39を有する。
操舵状態ゲイン調整部36は、セルフアライニングトルク推定部32Aから出力されるセルフアライニングトルク推定値SAT及びモータ角速度演算部201で算出されたモータ角速度ωが入力されて、これらに基づいて切増し状態、切戻し状態及び保舵状態の何れの操舵状態かを検出し、検出した操舵状態に応じた操舵状態ゲインK0を設定する操舵状態ゲイン設定部36Aと、この操舵状態ゲイン設定部36Aで設定された操舵状態ゲインK0をセルフアライニングトルク推定部32Aから出力されるセルフアライニングトルク推定値SATに乗算してゲイン倍指令値Iref21を出力するゲイン乗算部36Bとで構成されている。
【0044】
ここで、操舵状態ゲイン設定部36Aの具体的構成は、図7に示すように、セルフアライニングトルク推定値SATとモータ角速度ωとが入力されて、切増し状態、切戻し状態及び保舵状態を判定する操舵状態判定部361と、この操舵状態判定部361の判定結果とモータ角速度ωとに基づいて操舵状態ゲインK0を算出する操舵状態ゲイン算出部362とを有する。
【0045】
操舵状態判定部361は、セルフアライニングトルク推定値SATの符号とモータ角速度ωの符号が一致するときに切増し状態であると判定し、セルフアライニングトルク推定値SATの符号とモータ角速度ωの符号が不一致であるときに切戻し状態であると判定し、モータ角速度ωの絶対値|ω|が設定値ωt以下であるときには保舵状態であると判定する。
【0046】
操舵状態ゲイン算出部362は、入力される操舵状態及びモータ角速度ωに基づいて図8に示す操舵状態ゲイン算出マップを参照して操舵状態ゲインK0を算出する。操舵ゲイン算出マップは、図8に示すように、操舵状態が保舵状態であるときには、モータ角速度ωの値にかかわらず所定ゲインK0hを維持するように特性線Lhが設定され、操舵状態が切増し状態であるときには、モータ角速度ωが零から所定値ω1迄の間で所定ゲインK0hより大きいな値の所定ゲインK0iを維持し、モータ角速度ωが所定値ω1を超えるとモータ角速度ωの増加に伴ってゲインが比較的大きな勾配で増加するように特性線Liが設定され、操舵状態が切戻し状態であるときには、モータ角速度ωが零から所定値ω1迄の間で所定ゲインK0hより小さな値の所定ゲインK0dを維持し、モータ角速度ωが所定値ω1を超えるとモータ角速度ωの増加に伴ってゲインが比較的小さな勾配で減少するように特性線Ldが設定されている。
【0047】
また、車速ゲイン調整部37は、車速感応ゲインK1を算出する車速感応ゲイン算出部37Aと、この車速感応ゲイン算出部37Aで算出された車速感応ゲインK1を操舵状態ゲイン調整部36から出力されるゲイン倍指令値Iref21に車速感応ゲインK1を乗算してゲイン倍指令値Iref22を出力するゲイン乗算部37Bとで構成されている。
車速ゲイン算出部37Aは、入力される車速Vsに基づいて図9に示す車速感応ゲイン算出マップを参照して車速感応ゲインK1を算出する。ここで、車速感応ゲイン算出マップは、図9に示すように、車速Vsが零から所定値Vs1迄の間では所定値Kvを維持し、車速Vsが所定値Vs1を超えると、車速Vsの増加に応じて比較的大きな勾配でゲインが減少し、車速Vsが所定値Vs1より大きい所定値Vs2を超えると、車速Vsの増加に応じて比較的小さな勾配でゲインが減少するように特性線Lvが設定されている。
【0048】
セルフアライニングトルクゲイン調整部38は、セルフアライニングトルク演算値SAToを算出して補正ゲインK2を設定するセルフアライニングトルクゲイン計算部38Aと、このセルフアライニングトルクゲイン計算部38Aで設定されたセルフアライニングトルクゲインK2をゲイン倍指令値Iref22に乗算するゲイン乗算部38Bとで構成されている。
【0049】
セルフアライニングトルクゲイン計算部38Aは、図10に示すように、4輪車輪回転速度センサ18から入力される4輪の車輪回転速度VwFL〜VwRRとモータ角度θとに基づいて車両モデルを用いてセルフアライニングトルク演算値SAToを算出するセルフアライニングトルク演算部381と、前述したセルフアライニングトルク推定部32で推定したセルフアライニングトルク推定値SATからセルフアライニングトルク演算部381で算出したセルフアライニングトルク演算値SAToを減算する減算器382と、この減算器382の減算出力を絶対値化してセルフアライニングトルク偏差ΔSAT(=|SAT−SATo|)を算出する絶対値演算部383と、この絶対値演算部383で算出したセルフアライニングトルク偏差ΔSATに基づいて図11に示すセルフアライニングトルクゲイン算出マップを参照してセルフアライニングトルクゲインK2を算出するゲイン算出部384とを備えている。
【0050】
ここで、セルフアライニングトルク演算部381は、4輪の車輪回転速度VwFL〜VwRRの平均値を車速Vsとして算出すると共に、モータ角度θを推定操舵角θとして、車両諸元定数を下記(2)式で表される車両モデルとなる車両横方向の運動方程式(状態方程式)に代入し、下記(3)式で表されるセルフアライニングトルク演算値算出式(出力式)を用いることで、セルフアライニングトルク演算値SAToを算出する。
【0051】
【数1】
【0052】
車両諸元定数
m:車両質量
I:車両慣性モーメント
lf:車両重心点と前軸間の距離
lr:車両重心点と後軸間の距離
Kf:前輪タイヤのコーナリングパワー
Kr:後輪タイヤのコーナリングパワー
V:車速
N:オーバーオール舵角比
θ:推定操舵角
δf:実舵角(δf=θ/N)
β:車両重心点の横滑り角
γ:ヨーレート
ε:トレール
【0053】
【数2】
【0054】
また、ゲイン算出部384では、絶対値演算部383から出力されるセルフアライニングトルク偏差の絶対値|ΔSAT|をもとに図11に示すセルフアライニングトルクゲイン算出マップを参照してセルフアライニングトルクゲインK2を算出する。
ここで、セルフアライニングトルクゲイン算出マップは、図11に示すように、セルフアライニングトルク偏差の絶対値|ΔSAT|が0から設定値ΔSAT1迄の間ではセルフアライニングトルク偏差の絶対値|ΔSAT|の増加に応じて比較的緩やかな勾配でセルフアライニングトルクゲインK2が減少し、セルフアライニングトルク偏差の絶対値|ΔSAT|が設定値ΔSAT1を超えて設定値ΔSAT2に達するまでの間は比較的急な勾配でセルフアライニングトルクゲインK2が減少し、設定値SAT2を超えると、セルフアライニングトルク偏差の絶対値|ΔSAT|の増加に応じて比較的緩やかな勾配でセルフアライニングトルクゲインK2が減少するように特性線Lsが設定されている。
【0055】
駆動輪スリップゲイン調整部39は、車輪回転速度センサ18で検出された車輪回転速度VwL及びVwRに基づいて駆動輪スリップゲインK3を設定する駆動輪スリップ推定部39Aと、この駆動輪スリップ推定部39Aで設定された駆動輪スリップゲインK3をゲイン倍指令値Iref23に乗算するゲイン乗算部39Bとで構成されている。
駆動輪スリップ推定部39Aは、図12に示すように、車輪回転速度センサ18で検出された前輪の左右車輪回転速度VwFL及びVwFRと後輪の左右車輪回転速度VwRL及びVwRRが入力され、前輪の左右車輪回転速度VwFL及びVwFRを加算する加算部391と、この加算部391の加算出力に2分の1を乗算して前輪平均値VwFを算出する乗算器392と、後輪の左右車輪回転速度VwRL及びVwRRを加算する加算部393と、この加算部393の加算出力に2分の1を乗算して後輪平均値VwRを算出する乗算器394と、乗算器392から出力される前輪平均値VwFから乗算器394から出力される後輪平均値VwRを減算して駆動輪車輪回転速度偏差ΔVwを算出する減算部395と、この減算部395から出力される駆動輪車輪回転速度偏差ΔVwを絶対値化する絶対値回路396と、この絶対値回路396から出力される駆動輪車輪回転速度偏差の絶対値|ΔVw|に基づいて駆動輪スリップ感応ゲインK4を算出するゲイン算出部397とを備えている。
【0056】
ここで、ゲイン算出部397は、入力される駆動輪車輪回転速度偏差ΔVwの絶対値|ΔVw|に基づいて図13に示す駆動輪スリップ感応ゲイン算出マップを参照して駆動輪スリップ感応ゲインK3を算出する。この駆動輪スリップ感応ゲイン算出マップは、図13に示すように、駆動輪車輪回転速度偏差ΔVwの絶対値|ΔVw|が0から増加するに応じて駆動輪スリップゲインK3が徐々に減少するように折れ線状の特性線Lwが設定されている。
【0057】
また、トルク制限部32Cは、制御出力制限値計算部40と、この制御出力制限値計算部40で計算された出力制限値Limでゲイン倍指令値Iref24を制限して第2の操舵補助トルク指令値Iref2を出力するリミッタ部41とを備えている。
制御出力制限値計算部40は、車速Vs、操舵トルクT、モータ角速度ω及び4輪車輪回転速度VwFL〜VwRRが入力され、図14に示すように、車輪回転速度異常検出部40a、車輪回転速度制限値演算部40b、車速制限値演算部40c及びモータ角速度制限値演算部40dを備えている。
【0058】
車輪回転速度異常検出部40aは、車速Vs、操舵トルクT、モータ角速度ω及び4輪車輪回転速度VwFL,VwFR,VwRL,VwRRに基づいて4輪車輪回転速度センサ18の異常を検出し、異常を検出したときに、“0”の異常制限値Limaを設定する。すなわち、車輪回転速度異常検出部40aでは、図15に示す車輪回転速度異常検出処理を実行する。この車輪回転速度異常検出処理は、先ず、ステップS1で、後述するトルクセンサ異常検出処理で、操舵トルクセンサ14の異常を表すトルクセンサ異常検出フラグFlgが“1”にセットされているか否かを判定し、トルクセンサ異常検出フラグFlgが“1”にセットされているときには、車輪回転速度異常検出処理の信頼性が低いものと判断してそのまま処理を終了する。
【0059】
一方、トルクセンサ異常検出フラグFlgが“0”にリセットされているときには、ステップS2に移行して、車速Vsが車両直進状態を判定可能な速度に設定された閾値Vssを超えているか否かを判定し、Vs≦Vssであるときには異常判定ができないものと判断してステップS3に移行して、異常判定フラグFlgaを車輪回転速度異常無しを表す“0”に設定するとともに、車輪回転速度制限値Limaをゲイン倍トルク指令値Iref24を制限していな最大値Limamaxに設定し、これを制限値選択部40eに出力してから異常判定処理を終了し、Vs>Vssであるときには、直進状態の判定可能と判断してステップS4に移行する。
【0060】
このステップS4では、操舵トルクTの絶対値が車両直進状態を判断可能な閾値Ts未満であるか否かを判定し、T≧Tsであるときには操舵トルクTが大きく操舵状態又は保舵状態であり、異常判定ができないものと判断して前記ステップS3に移行し、T<Tsであるときには、車両が直進走行状態である可能性が高いものと判断してステップS5に移行する。
このステップS5では、モータ角速度ωの絶対値が車両直進走行を判断可能な閾値ωs未満であるか否かを判定し、ω≧ωsであるときには異常判定ができないものと判断して前記ステップS2に移行し、ω<ωsであるときには、車両が直進走行状態であると判断してステップS6に移行する。
【0061】
このステップS6では、各車輪回転速度VwFL〜VwRRの内の前後における左右の回転速度差ΔVwF及びΔVwRの絶対値が予め設定した閾値ΔVwsを超えているか否かを判定し、ΔVwF≦ΔVws且つΔVwR≦ΔVwsであるときには、車輪回転速度VwFL〜VwRRが正常であると判断して前記ステップS3に移行し、ΔVwF>ΔVws又はΔVwR>ΔVwsであるときには4輪のうちの1つにテンパタイヤ等の異径タイヤが装着されているか又は車輪回転速度センサ自体が異常となっており、車輪回転速度VwFL〜VwRRの何れか1つが異常であるものと判断してステップS7に移行する。
【0062】
このステップS7では、異常判定フラグFlgaを車輪回転速度の異常を表す“1”に設定するとともに、車輪回転速度制限値Limaを“0”に設定し、これを制限値選択部40eに出力してから車輪回転速度異常検出処理を終了する。
この図15の処理において、ステップS2、ステップS4〜ステップS6の処理が車輪回転速度異常検出手段に対応し、ステップS7の処理と制限値選択部40e及びリミッタ部41が異常時指令値制限手段に対応している。
【0063】
また、車輪回転速度制限値演算部40bは、例えば後輪駆動車を対象として、モータ角速度ω及び車輪回転速度VwFL〜VwRRに基づいて、左右の一方が雪路、凍結路等の低摩擦係数路面で、他方が乾燥路等の高摩擦係数路面である所謂スプリットμ路を走行する場合のように外乱による車輪回転速度の異常を検出するものであり、図16に示す車輪回転速度制限値演算処理を実行する。
【0064】
この車輪回転速度制限値演算処理は、図16に示すように、所定時間(例えば1msec)毎のタイマ割込処理として実行され、先ず、ステップS11で、モータ角速度ωの絶対値がステアリングホイール1が操舵されている状態を判断可能な閾値ωs2未満であるか否かを判定し、|ω|≧ωs2であるときには、ステアリングホイール1が操舵されている状態であり、車輪回転速度の異常判定ができず車輪回転速度VwFL〜VwRRが正常であるものと判断してステップS12に移行する。
このステップS12では、車輪回転速度制限値Limwを最大値Limwmaxに設定してからステップS13に移行して、設定された車輪回転速度制限値Limwを制限値選択部40eに出力してからタイマ割込処理を終了して所定のメインプログラムに復帰する。
【0065】
また、前記ステップS11の判定結果が、モータ角速度ωの絶対値が閾値ωs2未満であるときにはステップS14に移行して、従動輪である前輪側の左右車輪回転速度差ΔVwFが保舵状態を判断する閾値ΔVwFs2未満であるか否かを判定し、|ΔVwF|≧ΔVwFs2であるときには、ステアリングホイール1が内外輪回転速度差を有する保舵状態であると判断してステップS15に移行する。
【0066】
このステップS15では、駆動輪となる後輪側の左右車輪回転速度差ΔVwRの絶対値が外乱による異常を判断する閾値ΔVwRs2未満であるか否かを判定し、|ΔVwR|≧ΔVwR2であるときには、後輪側についても左右車輪回転速度差ΔVwRの絶対値が大きく内外輪回転速度差を有する保舵状態であると判断し、各車輪回転速度VwFL〜VwRRが正常であると判断して前記ステップS12に移行する。
【0067】
また、ステップS15の判定結果が、後輪側の左右車輪回転速度差ΔVwRの絶対値が閾値ΔVwRs2未満であるときには、後輪側の車輪回転速度VwRL及びVwRRの何れかが例えば前述したスプリットμ路を走行した場合のように外乱によって車輪回転速度が変化しているものと判断してステップS16に移行する。
このステップS16では、後輪側の左右車輪回転速度差ΔVwRと閾値ΔVwRs2又は、前輪側の左右車輪回転速度差ΔVwFと閾値ΔVwFs2との偏差ΔVwの絶対値に基づいて図17に示す車輪回転速度制限値算出マップを参照して車輪回転速度制限値Linwを算出してから前記ステップS13に移行する。
【0068】
ここで、車輪回転速度制限値算出マップは、図17に示すように、横軸に左右車輪回転速度差ΔVwの絶対値をとり、縦軸に車輪回転速度制限値Limwをとった特性線図で構成され、左右車輪回転速度差ΔVwの絶対値が“0”から所定値ΔVw1までの間は車輪回転速度制限値Limwが制御出力を制限しない最大値Limwmaxを維持し、左右車輪回転速度差ΔVwの絶対値が所定値ΔVw1を超えると左右車輪回転速度差ΔVmの絶対値が増加するに応じて車輪回転速度制限値Limwが最大値Limwmaxから徐々に減少して最終的に車輪回転速度制限値Limwが“0”となる折れ線状の特性線Lwが設定されている。
【0069】
また、前記ステップS14の判定結果が、従動輪となる前輪側の左右車輪回転速度差ΔVwFの絶対値が閾値ΔVwFs2未満であるときには、直進走行状態であると判断してステップS17に移行する。
このステップS17では、後輪側の左右車輪回転速度差ΔVwRの絶対値が外乱による異常を判断する閾値ΔVwRs2を超えているか否かを判定し、左右車輪回転速度差ΔVwFの絶対値が閾値ΔVwRs2未満であるときには、外乱による車輪回転速度の変化がない正常状態であると判断して前記ステップS12に移行する。
【0070】
また、ステップS17の判定結果が、駆動輪となる後輪側の左右車輪回転速度差ΔVwRの絶対値が閾値ΔVwRs2を超えているときには、後輪側の車輪回転速度VwRL及びVwRRの少なくとも一方に外乱の影響があるものと判断して前記ステップS16に移行する。
この図16の処理において、ステップS11、S14、S15及びS17の処理が車輪回転速度異常検出手段に対応し、ステップS16の処理と制限値選択部40e及びリミッタ部41とが異常時指令値制限手段に対応している。
【0071】
車速制限値演算部40cは、車速Vsに基づいて図18に示す車速制限値算出マップを参照して車速制限値Limvを算出する。
ここで、車速制限値算出マップは、図18に示すように、車速Vsが零から所定値Vs3に達するまでの間は最大制限値Limmaxを維持し、車速Vsが所定値Vs3を超えると車速Vsの増加に応じて徐々に車速制限値Limvが減少し、さらに車速Vsが所定値Vs4を超えるとより大きな減少量で減少する折れ線状の特性線Lv1が設定されている。
【0072】
また、モータ角速度制限値演算部40dは、モータ角速度ωに基づいて図19に示すモータ角速度制限値算出マップを参照してモータ角速度制限値Limmを算出する。
ここで、モータ角速度制限値算出マップは、図19に示すように、モータ角速度ωが零から運転者の操舵又は路面反力によって発生する設定角速度ω2に達する迄の間は最大制限値Limmaxを維持し、モータ角速度ωが設定角速度ω2を超えると、モータ角速度ωの増加に伴って比較的大きな勾配でモータ角速度制限値Limmが減少する特性線Lωが設定されている。
【0073】
さらに、制限値選択部40eは、異常制限値Limaが入力されているときにはこの異常制限値Limaを制御出力制限値Limとしてリミッタ部41に出力し、異常制限値Limaが入力されていないときには、車輪回転速度制限値Limw、車速制限値Limv及びモータ角速度制限値Limmを比較して何れか小さい値を制御出力制限値Limとしてリミッタ部41に出力する。
【0074】
また、トルクセンサ異常検出部33は、操舵トルクセンサ14で検出した操舵トルクTが入力され、この操舵トルクTに基づいて図20に示すトルクセンサ異常検出処理を実行する。このトルクセンサ異常検出処理は、例えば所定時間(例えば1msec)毎のタイマ割込処理として実行され、先ず、ステップS21で、操舵トルクセンサ14で検出した操舵トルクTを読込み、次いでステップS22に移行して、ステップS21で読込んだ操舵トルクTが操舵トルクセンサ異常検出条件を満足するか否かを判定する。この操舵トルクセンサ異常検出条件としては、車両の走行時に所定時間以上変化しない状態が継続した場合、操舵トルクTが予め設定した天絡による異常設定値を超えた状態が所定時間以上継続した場合、操舵トルクTが予め設定した地絡による異常閾値未満の状態を所定時間以上継続した場合等が挙げられる。
【0075】
そして、ステップS22の判定結果が、トルクセンサ異常検出条件を満足していない場合すなわち操舵トルクセンサ14が正常である場合には、ステップS23に移行して、トルクセンサ異常検出フラグFlgを“0”にリセットしてからタイマ割込処理を終了して所定のメインプログラムに復帰する。
一方、ステップS22の判定結果が、トルクセンサ異常検出条件を満足している場合すなわち操舵トルクセンサ14が異常である場合には、ステップS24に移行して、トルクセンサ異常検出フラグFlgを“1”にセットしてからタイマ割込処理を終了して所定のメインプログラムに復帰する。
【0076】
さらに、指令値選択部34は、トルクセンサ異常検出部33で設定されるトルクセンサ異常検出フラグFlgが“0”にリセットされているときに、前述した第1のトルク指令値演算部31で演算した第1の操舵補助トルク指令値Iref1を選択し、トルクセンサ異常検出フラグFlgが“1”にセットされているときに、前述した第2のトルク指令値演算部32で演算した第2の操舵補助トルク指令値Iref2を選択し、選択した第1のトルク指令値Iref1又は第2のトルク指令値Iref2をトルク指令値Irefとし、このトルク指令値Irefをレートリミッタ35に供給して、このレートリミッタ35でトルク指令値Irefの急激な変化を抑制してから後述する加算器46に出力する。
【0077】
指令値補償部22は、回転情報演算部20のモータ角速度演算部201で演算されたモータ角速度ωに基づいてヨーレートの収斂性を補償する収斂性補償部43と、回転情報演算部20のモータ角加速度演算部202で演算されたモータ角加速度αに基づいて電動モータ12の慣性により発生するトルク相当分を補償して慣性感又は制御応答性の悪化を防止する慣性補償部44とを少なくとも有する。
ここで、収斂性補償部43は、モータ角速度演算部201で算出されたモータ角速度ωが入力され、車両のヨーの収斂性を改善するためにステアリングホイール1が振れ回る動作に対して、ブレーキをかけるように、モータ角速度ωに収斂性制御ゲインKcを乗じて収斂性補償値Icを算出する。
【0078】
そして、慣性補償部44で算出された慣性補償値Iiと収斂性補償部43で算出された収斂性補償値Icとが加算器45で加算されて指令補償値Icomが算出され、この指令補償値Icomが加算器23で前述した操舵補助トルク指令値演算部21から出力される操舵補助トルク指令値Irefに加算されて補償後操舵補助トルク指令値Iref′が算出され、この補償後操舵補助トルク指令値Iref′がモータ駆動回路24へ出力される。
【0079】
次に、上記第1の実施形態の動作を説明する。
今、操舵トルクセンサ14が正常状態であるものとすると、操舵補助トルク指令値演算部21に設けられたトルクセンサ異常検出部33において操舵トルクセンサ14で検出した操舵トルクTがトルクセンサ異常検出条件を満足しないことにより、トルクセンサ異常検出フラグFlgが“0”にリセットされ、このトルクセンサ異常検出フラグFlgが指令値選択部34に出力される。このため、指令値選択部34で第1の操舵補助トルク指令値演算部31が選択されて、この第1の操舵補助トルク指令値演算部31から出力される第1の操舵補助トルク指令値Iref1がレートリミッタ35で変化量が制限されて操舵補助トルク指令値Irefとして加算器23に出力される。
【0080】
このとき、車両がステアリングホイール1を直進走行状態の中立位置として停車しているものとする。この状態でステアリングホイール1が操舵されていない場合には、操舵トルクセンサ14で検出される操舵トルクTが“0”であり、車速Vsも“0”であるので、第1の操舵補助トルク指令値演算部31のトルク指令値算出部311で操舵トルクT及び車速Vsをもとに操舵補助トルク指令値算出マップを参照したときに操舵補助トルク指令値Irefbが“0”となり、第1の操舵補助トルク指令値Iref1も“0”となる。
【0081】
このとき、電動モータ12も停止しているため、モータ回転情報演算部20のモータ角速度演算部201で演算されるモータ角速度ω及びモータ角加速度演算部202で演算されるモータ角加速度αが共に“0”であるので、収斂性補償部43で算出される収斂性補償値Ic及び慣性補償部44で算出される慣性補償値Iiも“0”となるため、指令補償値Icomも“0”となり、加算器23から出力される補償後操舵補助トルク指令値Iref′も“0”となる。
【0082】
このため、モータ駆動回路24から出力されるモータ駆動電流も“0”を継続して電動モータ12が停止状態を継続する。
この車両の停車状態で、ステアリングホイール1を操舵して所謂据え切りを行うと、これに応じて操舵トルクセンサ14で検出される操舵トルクTが比較的大きな値となることにより、第1の操舵補助トルク指令値演算部31で算出される操舵補助トルク指令値Iref1が操舵トルクTに応じて急増する。
【0083】
この状態でも電動モータ12が停止しているので、モータ角速度ω及びモータ角加速度αも“0”を継続し、指令値補償部22の収斂性補償部43で算出される収斂性補償値Ic及び慣性補償部44で算出される慣性補償値Iiも“0”を維持し、指令補償値Icomも“0”となる。
このため、加算器23から操舵補助トルク指令値Irefがそのまま補償後操舵補助トルク指令値Iref′としてモータ駆動回路24に出力される。
したがって、モータ駆動回路24から補償後操舵補助トルク指令値Iref′に応じたモータ駆動電流Iref″が電動モータ12に出力されて、この電動モータ12が回転駆動され、操舵トルクTに応じた操舵補助力を発生する。
【0084】
この電動モータ12で発生された操舵補助力は、減速機構11を介してステアリングホイール1からの操舵力が伝達されたステアリングシャフト2に伝達されることにより、操舵力及び操舵補助力がステアリングギヤ機構8で車幅方向の直線運動に変換されてタイロッド9を介して左右の転舵輪WL,WRが転舵されて、軽い操舵トルクで転舵輪WL,WRを転舵することができる。
【0085】
そして、電動モータ12が駆動制御されることにより、回転情報演算部20のモータ角速度演算部201で演算されるモータ角速度ω及びモータ角加速度演算部202で演算されるモータ角加速度αが増加する。これにより、指令値補償部22で収斂性補償値Ic及び慣性補償値Iiが算出され、これらが加算されて指令補償値Icomが算出され、これが加算器46に供給されることにより、操舵補助トルク指令値Irefに指令補償値Icomが加算されて補償後操舵補助トルク指令値Iref′が算出される。このように、指令値補償部22で指令値補償処理が行われると共に、第1の操舵補助トルク指令値演算部31のセンタ応答性改善部313で、操舵トルクTを微分演算処理してアシスト特性不感帯での安定性確保、静摩擦の補償を行い、位相補償部312で第1の操舵補助トルク指令値Iref1に対して位相補償を行う。
【0086】
また、車両を発進させた場合には、車速センサ16で検出する車速Vsの増加に応じて、第1の操舵補助トルク指令値演算部31におけるトルク指令値算出部311で算出される操舵補助トルク指令値Irefbが減少することにより、車両の走行状態に応じた最適な操舵補助トルク指令値Iref1が設定されて、車両の走行状態に応じた最適な操舵補助制御が行われる。
【0087】
この最適な操舵補助制御が行われている最中に、制御出力制限値計算部40の車輪回転速度異常検出部40aで4輪車輪回転速度センサ18の異常検出を行っている。この車輪回転速度異常検出部40aでは、車速Vsが閾値Vss以上であり、操舵トルクTの絶対値が閾値Ts未満であり、モータ角速度ωの絶対値が閾値ωs未満である車両の直進走行条件が成立したときに、各車輪回転速度VwFL〜VwRRの左右の回転速度差ΔVwF及びΔVwRの絶対値が閾値ΔVwFs及びΔVwRsを超えているか否かを判定し、|ΔVwF|<ΔVwFs及び|ΔVwR|<ΔVwRsであるとき、すなわち各車輪回転速度VwFL〜VwRRがVwFL≒VwFR≒VwRL≒VwRRであるときには、各車輪回転速度VwFL〜VwRRが正常であると判断して車輪回転速度異常フラグFlgwを“0”にリセットする。
【0088】
一方、この回転速度差ΔVwF(又はΔVwR)の絶対値が閾値ΔVwFs(又はΔVwRs)を超えている場合には、左右の車輪の一方にテンパタイヤ等の異径タイヤが装着されていて回転速度差を生じているか、車輪回転速度センサ自体が異常となっており、検出された車輪回転速度VwFL〜VwRRに信頼性がないものと判断して車輪回転速度異常フラグFlgwを“1”にセットする。
しかしながら、車輪回転速度異常フラグFlgwが“1”にセットされた場合でも、操舵トルクセンサ14が正常である場合には、車輪回転速度VwFL〜VwRRを使用してセルフアライニングトルク推定値SATを演算する第2の操舵補助トルク指令値演算部32が選択されることはないので、最適な操舵補助制御が継続される。
【0089】
ところが、車両の走行中に、操舵トルクセンサ14が異常状態となって、トルクセンサ異常検出部33で、操舵トルクTが操舵トルクセンサ異常検出条件を満足する状態となると、このトルクセンサ異常検出部33でトルクセンサ異常検出フラグFlgが“1”にセットされる。このため、指令値選択部34で上述した第1の操舵補助トルク指令値演算部31に代えて第2の操舵補助トルク指令値演算部32が選択される。
このとき、制御出力制限値計算部40の車輪回転速度異常検出部40aで、4輪車輪回転速度センサ18から出力される車輪回転速度VwFL〜VwRRが正常であることが検出されているときには、この車輪回転速度異常検出部40aから出力される車輪回転速度異常制限値Limaが制御出力を制限しない最大値Limamaxに設定される。
【0090】
また、第2の操舵補助トルク指令値演算部32では、左右の車輪WL及びWRの車輪回転速度VwL及びVwRを車輪回転速度センサ18L及び18Rで検出し、検出した車輪回転速度VwL及びVwRがセルフアライニングトルク推定部32Aに供給される。このため、セルフアライニングトルク推定部32Aの平均値算出部324で車速相当値Vs′が算出されるとともに、セルフアライニングトルク初期推定部321で、前輪左右の車輪回転速度VwFL及びVwFRに基づいて前記(1)式の演算を行なって車輪回転速度差ΔVwFを算出し、算出した車輪回転速度差ΔVwFをもとに図4のセルフアライニングトルク算出マップを参照してセルフアライニングトルク初期推定値SATiを推定する。
【0091】
そして、推定したセルフアライニングトルク初期推定値SATiに対してローパスフィルタ328でローパスフィルタ処理されることにより、ノイズが除去されたセルフアライニングトルク初期推定値SATi′が得られ、このセルフアライニングトルク初期推定値SATi′に位相補正部331で車速相当値Vs′によって位相補正を行なうことにより、セルフアライニングトルク推定値を演算し、さらにゲインKを乗算して第2の操舵補助トルク指令値Iref2を算出する。
この車両の走行中で、直進走行状態にあるときには、前記(1)式で算出される車輪回転速度差ΔVwFが“0”であることからセルフアライニングトルク初期推定値SATiも“0”となって、電動モータ12は停止状態を維持する。
【0092】
この直進走行状態からステアリングホイール1を操舵して旋回走行状態に移行すると、その旋回走行状態の旋回半径に応じて左右の車輪回転速度VwFL及びVwFRに差を生じる。このため、車輪回転速度差ΔVwFは、車速Vsが低い状態では、分子となる左右の車輪回転速度VwL及びVwRの差が極めて小さいことから比較的小さな値となって、セルフアライニングトルク初期推定部321で図4のセルフアライニングトルク初期推定値算出マップを参照して算出されるセルフアライニングトルク初期推定値SATiが比較的小さい値となる。このセルフアライニングトルク初期推定値SATiがローパスフィルタ328でローパス処理され、位相補正部331で車速相当値Vs′による位相補正が行なわれることにより、車両走行時にステアリングギヤ機構8のラック軸に路面から入力されるセルフアライニングトルクSATを正確に推定することができる。
【0093】
そして、この推定されたセルフアライニングトルク推定値SATをゲイン調整部32Bでゲイン調整処理を行うとともに、トルク制限部32Cでトルク制限処理を行うことにより、セルフアライニングトルクSATを考慮した第2の操舵補助トルク指令値Iref2を算出し、これが指令値選択部34を介し、レートリミッタ35を介して加算器23に供給されるので、この加算器23で指令補償値Icomを加算した補償後操舵補助トルク指令値Iref′をモータ駆動回路24に供給することにより、このモータ駆動回路24でセルフアライニングトルクSATを考慮した操舵補助力を発生させ、操舵補助制御を継続することができる。
【0094】
また、車両の車速Vsが速い場合には、左右の車輪回転速度VwFL及びVwFRの差が大きな値となることから、前記(1)式で算出される車輪回転速度差ΔVwFが大きな値となり、これに応じて、セルフアライニングトルク初期推定部321で図4の横滑り角算出マップを参照して算出される横滑り角βが大きな値となり、図5のセルフアライニングトルク初期推定値算出マップを参照して算出されるセルフアライニングトルク初期推定値SATiも比較的大きい値となる。このセルフアライニングトルク初期推定値SATiがローパスフィルタ328でローパス処理され、位相補正部331で車速相当値Vs′による位相補正が行なわれることにより、車両走行時にステアリングギヤ機構8のラック軸に路面から入力されるセルフアライニングトルクSATを正確に推定することができる。
【0095】
そして、この推定されたセルフアライニングトルク推定値SATをゲイン調整部32Bでゲイン調整するとともに、トルク制限部32Cでトルク制限することにより、セルフアライニングトルクSATを考慮した第2の操舵補助トルク指令値Iref2を算出し、これが指令値選択部34を介し、レートリミッタ35を介して加算器23に供給される。したがって、モータ駆動回路24で、セルフアライニングトルクSATを考慮した操舵補助力を発生させ、操舵補助制御を継続することができる。
【0096】
このように上記第1の実施形態によると、操舵トルクセンサ14が異常状態となったときに、セルフアライニングトルク推定部32Aで路面からの反力を推定して、反力に応じて必要な第2の操舵補助トルク指令値Iref2を算出し、この第2の操舵補助トルク指令値Iref2に基づいて電動モータ12を駆動制御するので、電動モータ12で路面からの反力に応じた操舵補助力を発生することができ、操舵トルクセンサ14が異常となった後も操舵に必要な操舵補助制御を継続することができる。したがって、路面からの反力を考慮しているので、路面摩擦係数が低い降雨路、凍結路、積雪路等を走行する場合でも、操舵角φの変化に応じて最適な操舵補助力を発生させることができる。
また、他のアンチロックブレーキシステムに使用される車輪回転速度センサ18RL及び18RRを使用してセルフアライニングトルク初期推定値SATiを算出するので、部品点数の増加を抑制して、コストを低減することができる。
【0097】
ところで、操舵トルクセンサ14が正常な状態で、直進走行状態となっているときに、前述した制御出力制限値計算部40における車輪回転速度異常検出部40aで、テンパタイヤなどの異径タイヤを装着したり、4輪車輪回転速度センサ18を構成する各センサの少なくとも1つに異常が発生したりした場合には、4輪車輪回転速度センサ18から出力される車輪回転速度VwFL〜VwRRの少なくとも1つが異常値となる。このため、第2の操舵補助トルク指令値演算部32で、これら車輪回転速度VwFL〜VwRRを使用してセルフアライニングトルク推定値SATを算出し、算出したセルフアライニングトルク推定値SATをゲイン調整部32Bでゲイン調整して算出される第2の操舵補助トルク指令値Iref2の信頼性も低下する。
【0098】
このため、制御出力制限値計算部40における車輪回転速度異常検出部40aで、車輪回転速度センサ18の異常を検出したときに、車輪回転速度異常制限値Limwが“0”に設定される。したがって、制限値選択部40eで“0”の車輪回転速度異常制限値Limwが選択されて制限値Limとしてリミッタ部41に供給されることにより、このリミッタ部41で、第2の操舵補助トルク指令値Iref2が“0”に制限される。このため、モータ駆動回路24には、それまでの電動モータ12の駆動状態に応じたトルク指令値補償部22からの指令補償値Icomのみが供給され、電動モータ12の回転速度が低下し、これに応じて指令補償値Icomも減少するので、やがて電動モータ12の駆動が停止され、操舵補助制御が停止される。
【0099】
このように、制御出力制限値計算部40の車輪回転速度異常検出部40aで、操舵トルクセンサ14が正常な状態にあるときに、車両が直進走行状態となる毎に4輪車輪回転速度センサ18で検出される車輪回転速度VwFL〜VwRRの異常を検出するので、この車輪回転速度VwFL〜VwRRの異常が検出されている状態で、トルクセンサ異常検出部33で、操舵トルクセンサ14の異常を検出したときには、車輪回転速度VwFL〜VwRRに基づいて算出される第2の操舵補助トルク指令値Iref2が“0”に制限されることにより、電動モータ12の駆動が停止されて、操舵補助制御が停止される。
このため、異常となった車輪回転速度に基づいて第2の操舵補助トルク指令値Iref2が算出されることによる、セルフステアリングの発生や制御異常出力を確実に防止することができる。
【0100】
また、4輪車輪回転速度センサ18が正常な状態であっても、前述したスプリットμ路を走行する状態となったり、アンチロックブレーキシステムが作動して車輪回転速度が制限された状態となったりすることにより、外乱によって車輪回転速度VwFL〜VwRRが一時的に変化した場合にも、第2の操舵補助トルク指令値Iref2に影響を与えることになる。
【0101】
この場合には、制御出力制限値計算部40における車輪回転速度制限値演算部40bで、図16に示す車輪回転速度制限処理を常時実行している。このとき、直進走行状態である場合及び定常円旋回状態である場合には、モータ角速度ωの絶対値が閾値ωs2未満となる。このため、図16の車輪回転速度制限処理において、ステップS11からステップS14に移行し、従動輪となる前輪側の左右車輪回転速度差ΔVwFの絶対値が閾値ΔVwFs2未満であるか否かを判定する。
【0102】
ここで、前輪側の左右車輪回転速度差ΔVwFの絶対値が閾値ΔVwFs2以上であるときには、保舵状態で定常円旋回をしているものと判断してステップS15に移行して、後輪側の左右車輪回転速度差ΔVwRが閾値ΔVwRs2以上であるときには、前輪側及び後輪側がともに閾値以上の左右車輪回転速度差を生じており、定常円旋回を行っている保舵状態であって、各車輪回転速度VwFL〜VwRRが正常であると判断してステップS12に移行する。このため、車輪回転速度制限値Limwとして制御出力を制限しない最大値Limwmaxを設定し、この車輪回転速度制限値Limwを制限値選択部40eに出力する。したがって、車輪回転速度制限値Limwによってゲイン倍指令値Iref24が制限されることはなく、リミッタ部41からゲイン倍指令値iref24がそのまま第2の操舵補助トルク指令値Iref2として出力される。
【0103】
ところが、前輪側の左右車輪回転速度差ΔVwFの絶対値が閾値ΔVwFs2以上であって、後輪側の左右車輪回転速度差ΔVwRの絶対値が閾値ΔVwRs2未満である状態では、従動輪となる前輪側では内外輪差を有する保舵状態を表し、駆動輪となる後輪側では直進走行状態を表すことになるので、例えば後輪側の内輪側となる車輪が低摩擦係数路面を走行し、外輪側となる車輪が高摩擦係数路面を走行して、低摩擦係数路面を走行する内輪側駆動輪に車輪スリップを生じて該当する車輪の車輪回転速度VwRL又はVwRRが変化しているものと判断することができる。
【0104】
したがって、ステップS15からステップS16に移行して、後輪の左右車輪回転速度差ΔVwRの絶対値と閾値ΔVwR2との偏差ΔVwの絶対値に基づいて図17の車輪回転速度制限値算出マップを参照して車輪回転速度制限値Limwを算出する。このとき、後輪の左右車輪回転速度差ΔVwRの絶対値が閾値ΔVwRs2に近い値であって所定値ΔVw1未満であるときには車輪回転速度制限値Limwがゲイン倍指令値Iref24を制限しない最大値Limwmaxに設定される。しかしながら、後輪の左右車輪回転速度差ΔVwRの絶対値と閾値ΔVwRs2との偏差ΔVwの絶対値が所定値ΔVw1を超えると、そのときの偏差ΔVwの絶対値に応じて最大値Limwmaxより小さい車輪回転速度制限値Limwが算出される。この車輪回転速度制限値Limwが制限値選択部40eに供給される。この制限値選択部40eでは、車輪回転速度制限値Limwが車速制限値Limvより小さいときに、この車輪回転速度制限値Limwが制限値Limとして選択されて、リミッタ部41に供給される。
【0105】
したがって、リミッタ部41から車輪回転速度制限値Limwによってゲイン倍指令値Iref24を制限した第2の操舵補助トルク指令値Iref2が出力される。これによって、外乱による車輪回転速度の変化の影響を軽減して、セルフステアリングや制御異常出力を確実に防止することができる。
また、従動輪となる前輪側の左右車輪回転速度差ΔVwFが閾値ΔVwFs2より小さく、直進走行状態と判断された状態で、駆動輪となる後輪側の左右車輪回転速度差ΔVwRの絶対値が閾値ΔVwRs3以下であるときには、車輪回転速度VwFL〜VwRRが正常であると判断される。
【0106】
一方、従動輪となる前輪側の左右車輪回転速度差ΔVwFが閾値ΔVwFs2より地いたく、直進走行状態と判断された状態で、駆動輪となる後輪側の左右車輪回転速度差ΔVwRの絶対値が閾値ΔVwRs3を超えている場合には、後輪の旋回内輪側(又は外輪側)の車輪が低摩擦係数路面を走行し、外輪側(又は内輪側)の車輪が高摩擦係数路面を走行することにより、低摩擦係数路面側の車輪で車輪スリップが生じて該当する車輪回転速度が増加しているものと判断してステップS16に移行する。
このため、後輪側の左右車輪回転速度差ΔVwRの絶対値と閾値ΔVwRs3との偏差ΔVwの絶対値に基づいて図17の車輪回転速度制限値算出マップを参照して車輪回転速度制限値Limwを算出し、算出した車輪回転速度制限値Limwを制限値選択部40eに出力する。
【0107】
したがって、車輪回転速度制限値Limwが一番小さい値であるときに、この車輪回転速度制限値Limwが選択されて、出力制限値Limとしてリミッタ部41に出力される。これによって、リミッタ部41からゲイン倍指令値Iref24が車輪回転速度制限値Limwによって制限された値が第2の操舵補助トルク指令値Iref2として出力され、指令値選択部34を介してモータ駆動回路24に出力される。このため、外乱によって車輪回転速度に異常が生じても、電動モータ12が車輪回転速度制限値Limwで制限された第2の操舵補助トルク指令値Iref2で回転駆動されて、セルフステア及び制御異常出力を確実に防止しながら操舵補助制御を継続することができる。
【0108】
なお、上記第1の実施形態においては、コントローラ15をハードウェアで構成する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、コントローラ15として、マイクロコンピュータを適用して、回転情報演算部20、操舵補助トルク指令値演算部21、指令値補償部22の機能を全てソフトウェアで処理することもできる。この場合の処理としては、マイクロコンピュータで図21に示す操舵補助制御処理を実行するようにすればよい。
【0109】
ここで、操舵補助制御処理は、図21に示すように、所定時間(例えば1msec)毎にタイマ割込処理として実行され、先ず、ステップS31で、操舵トルクセンサ14、車速センサ16、回転角センサ17、車輪回転速度センサ18等の各種センサの検出値を読込み、次いでステップS32に移行して、前述した図16に示す車輪回転速度センサ異常検出処理を実行し、次いでステップS33に移行して、前述した図20に示すトルクセンサ異常検出処理で設定されたトルクセンサ異常検出フラグFlgを読込み、このトルクセンサ異常検出フラグFlgが“1”にセットされているか否かを判定する。
【0110】
トルクセンサ異常検出フラグFlgが“0”にリセットされている場合には、ステップS34に移行して、トルクセンサ異常検出フラグFlgが“1”にセットされているときにはす45に移行する。
ステップS34では、操舵トルクTをもとに前述した操舵補助トルク指令値算出マップを参照して操舵補助トルク指令値Irefbを算出してからステップS35に移行する。
【0111】
このステップS35では、算出した操舵補助トルク指令値Irefbに対して位相補償処理を行って位相補償後操舵補助トルク指令値Irefb′を算出し、次いでステップS36に移行して、操舵トルクTを微分してセンタ応答性改善指令値Irを算出し、次いでステップS37に移行して、位相補償後操舵補助トルク指令値Irefb′にセンタ応答性改善指令値Irを加算して第1の操舵補助トルク指令値Iref1(=Irefb′+Ir)を算出し、これを操舵補助トルク指令値Iref1としてRAM等の記憶装置のトルク指令値記憶領域に更新記憶してからステップS38に移行する。
【0112】
このステップS38では、モータ角度θを微分してモータ角速度ωを算出し、次いでステップS39に移行して、モータ角速度ωを微分してモータ角加速度αを算出し、次いでステップS40に移行して、収斂性補償部43と同様にモータ角速度ωに車速Vsに応じて設定された補償係数Kcを乗算して収斂性補償値Icを算出してからステップS41に移行する。
【0113】
このステップS41では、慣性補償部44と同様に、モータ角加速度αに基づいて慣性補償値Iiを算出し、次いでステップS42に移行して、RAM等の記憶装置のトルク指令値記憶領域に記憶された操舵補助トルク指令値IrefにステップS40及びS41で算出した収斂性補償値Ic及び慣性補償値Iiを加算して補償後操舵補助トルク指令値Iref′を算出してからステップS43に移行する。
このステップS43では、算出した補償後操舵補助トルク指令値Iref′に対して最大値制限処理を行なって制限後操舵補助トルク指令値Iref″を算出し、次いでステップS44に移行して、算出した制限後操舵補助トルク指令値Iref″をモータ駆動回路24に出力して、電動モータ12を駆動する。
【0114】
一方、前記ステップS23の判定結果が、センサ異常検出フラグFlgが“1”にセットされているときには、操舵トルクセンサ14が異常であると判断してステップS45に移行して、図16の車輪回転速度異常検出処理で設定された車輪回転速度異常フラグFlgwを読込み、この車輪回転速度異常フラグFlgwが“1”であるときには、4輪車輪回転速度センサ18が異常であると判断してステップS46に移行し、操舵補助制御を停止させてから操舵補助制御処理を終了する。
【0115】
また、前記ステップS45の判定結果が、車輪回転速度異常フラグFlgwが“0”にリセットされているときには、4輪車輪回転速度センサ18が正常であると判断してステップS47に移行し、従動輪となる前輪の車輪回転速度VwFL及びVwFRに基づいて前記(1)式の車輪回転速度差ΔVwFを算出する。そして、算出した車輪回転速度差ΔVwFに基づいて図4に示す横滑り角算出マップを参照して、車両の横滑り角βを算出し、算出した横滑り角βに基づいて図5に示すセルフアライニングトルク算出マップを参照して、セルフアライニングトルク初期推定値SATiを算出し、このセルフアライニングトルク初期推定値SATiをローパスフィルタ処理及び位相補正処理してセルフアライニングトルク推定値SATを算出する。
【0116】
次いで、ステップS48に移行して、算出したセルフアライニングトルク推定値SATとモータ角速度ωとに基づいて切増し状態、切戻し状態及び保舵状態の何れの操舵状態であるかを判定し、判定された操舵状態に応じて図8の操舵状態感応ゲイン算出マップを参照して操舵状態ゲインK0を算出する。
次いで、ステップS49に移行して、算出した操舵状態ゲインK0を前記ステップS39で算出したセルフアライニングトルク推定値SATに乗算してゲイン倍指令値Iref21(=SAT*K0)を算出する。
【0117】
次いで、ステップS50に移行して、4輪車輪回転速度VwFL〜VwRRの平均値又は車速Vsに基づいて図9に示す車速感応ゲイン算出マップを参照して車速感応ゲインK1を算出し、次いでステップS51に移行して、算出した車速感応ゲインK1をゲイン倍指令値Iref21に乗算してゲイン倍指令値Iref22(=Iref21*K1)を算出する。
【0118】
次いで、ステップS52に移行して、4輪の車輪回転速度VwFL〜VwRRとモータ角度θとに基づいて車両モデルを利用して前述した(2)及び(3)式の演算を行ってセルフアライニングトルク演算値SAToを算出し、算出したセルフアライニングトルク演算値SAToと前記ステップS47で算出したセルフアライニングトルク推定値SATとの偏差ΔSATを算出し、算出した偏差ΔSATの絶対値|ΔSAT|に基づいて図11に示すセルフアライニングトルクゲイン算出マップを参照してセルフアライニングトルクゲインK2を算出する。
【0119】
次いで、ステップS53に移行して、算出したセルフアライニングトルクゲインK2をゲイン倍指令値Iref22に乗算してゲイン倍指令値Iref23(=Iref22*K2)を算出する。
次いで、ステップS54に移行して、4輪の車輪回転速度VwFL〜VwRRに基づいて前述した駆動輪スリップ率ΔVwを算出し、その絶対値|ΔVw|に基づいて図13の駆動輪スリップゲイン算出マップを参照して駆動輪スリップゲインK3を算出する。
【0120】
次いで、ステップS55に移行して、算出した駆動輪スリップゲインK3をゲイン倍指令値Iref23に乗算してゲイン倍指令値Iref24(=Iref23*K3)を算出する。
次いで、ステップS56に移行して、車速Vsに基づいて図18に示す車速制限値算出マップを参照して車速制限値Limvを算出し、次いでステップS57に移行して、モータ角速度ωに基づいて図19に示すモータ角速度制限値算出マップを参照してモータ角速度制限値Limmを算出する。
【0121】
次いで、ステップS58に移行して、4輪車輪回転速度VwFL〜VwRRとモータ角度θとに基づいて前述した図16に示す車輪回転速度制限値算出処理を行って車輪回転速度制限値Limwを算出する。
次いで、ステップS59に移行して、車速制限値Limv、モータ角速度制限値Limm及び車輪回転速度制限値Limwの最小値を出力制限値Limとして決定し、次いでステップS60に移行して、決定された出力制限値Limでゲイン倍指令値Iref24を制限して第2の操舵補助トルク指令値Iref2を算出し、算出した第2の操舵補助トルク指令値Iref2を操舵補助トルク指令値Irefとして所定の指令値記憶領域に更新記憶してから前記ステップS38に移行する。
【0122】
この図21の処理において、ステップS34の処理が異常時切換手段に対応し、ステップS34〜S37の処理が第1のトルク指令値演算手段に対応し、ステップS47〜S60の処理が第2のトルク指令値演算手段に対応し、このうちS38〜S44の処理がモータ制御部に対応し、ステップS48〜S55の処理がゲイン調整手段に対応し、ステップS45,S46及びS58〜S60の処理が異常時指令値制限手段に対応している。
【0123】
このように、マイクロコンピュータで、図21の操舵補助制御処理を実行することにより、前述した第1の実施形態と同様に操舵トルクセンサ14が正常であるときには図21の操舵補助制御処理におけるステップS34〜S37の処理を実行して、第1の操舵補助トルク指令値Iref1を算出する。また、操舵トルクセンサ14が異常であるときには、4輪車輪回転速度センサ18が正常であるときには、ステップS47〜S59の処理を実行して第2の操舵補助トルク指令値Iref2を算出することにより、車輪回転速度VwFL〜VwRRに基づいてステアリングギヤ機構8のラック軸に入力される路面からの反力でなるセルフアライニングトルクSATを推定し、推定したセルフアライニングトルクSATにゲイン調整を行うとともにトルク制限を行って第2の操舵補助トルク指令値Iref2を算出する。
【0124】
このため、操舵トルクセンサ14が正常である場合には第1の操舵補助トルク指令値Iref1に基づいて電動モータ12が駆動制御されて、正確な操舵補助制御を行い、操舵トルクセンサ14に異常が発生した場合には、車輪回転速度センサ18が正常である場合には、車輪回転速度VwFL及びVwFRに基づいてセルフアライニングトルクSATを推定し、推定したセルフアライニングトルクSATに対してゲイン調整及びトルク制限を行って第2の操舵補助トルク指令値Iref2を算出する。
【0125】
このため、操舵トルクセンサ14が正常な状態から異常な状態となった場合にも、第2の操舵補助トルク指令値Iref2に基づいて路面反力を考慮した最適な操舵補助制御を継続することができる。
また、操舵トルクセンサ14が異常な状態となった場合に、車輪回転速度センサ18が異常であるときには操舵補助制御を停止する。
さらに、アンチロックブレーキシステムが作動した場合にも、4輪の車輪回転速度VwFL〜VwRRに影響を与える。
【0126】
この場合には、図16の車輪回転速度異常検出処理で、前輪側の左右車輪回転速度差ΔVwFの絶対値が閾値ΔVwFs2未満であるか否かの状態と、後輪側の左右車輪回転速度差ΔVwRの絶対値が閾値ΔVwRs2未満であるか否かの状態とが一致した場合に、各車輪回転速度VwFL〜VwRRが正常であると判断し、両者の状態が不一致である場合に、アンチロックブレーキシステムの作動による車輪回転速度が変化して外乱による車輪回転速度変化が生じているものと判断することができ、この外乱による車輪回転速度変化が生じている場合に、アンチロックブレーキシステムの制動指令値を読込むことにより、制動状態にある車輪を特定することができ、この車輪を含む前輪又は後輪の車輪回転速度差の絶対値と閾値との偏差の絶対値に基づいて図17に示す車輪回転速度制限値算出マップを参照して車輪回転速度制限値Limwを算出するようにすればよい。
【0127】
なお、上記第1の実施形態においては、後輪駆動車を対象とした場合について説明したが、これに限定されるものではなく、前輪駆動車や4輪駆動車にも本発明を適用することができる。ここで、前輪駆動車に本発明を適用する場合には、前輪を駆動輪とし、後輪を従動輪として扱えば良く、4輪駆動車に本発明を適用する場合には、図16の処理で、前輪側の左右車輪回転速度差ΔVwFの絶対値が閾値ΔVwFs2未満であるか否かの状態と、後輪側の左右車輪回転速度差ΔVwRの絶対値が閾値ΔVwRs2未満であるか否かの状態とが一致したときに車輪回転速度VwFL〜VwRRが正常であると判断し、両者の状態が不一致であるときに、前輪側の車輪回転速度VwFL又はVwFR若しくは後輪側の車輪回転速度VwRL又はVwRRが外乱による異常であると判断することができる。
【0128】
また、上記第1の実施形態においては、車速制限値演算部40cで車速制限値Limvを演算する際に、車速センサ16で検出した車速Vsを用いる場合について説明したが、これに限定されるものではなく、車輪回転速度センサ18で検出した車輪回転速度VwFL〜VwRRに基づいて演算した車速を適用することもできる。
【0129】
次に、本発明の第2の実施形態を図22〜図24について説明する。
この第2の実施形態では、トルク制限部32Cの制御出力制限値計算部40における車輪回転速度制限値演算部40bにモータ角度信号センサ200で検出したモータ角度θも供給するようにし、このモータ角度θを使用して車輪回転速度制限値を演算するようにしたものである。
すなわち、第2の実施形態では、図22に示すように、制御出力制限値計算部40にモータ角度θが供給され、このモータ角度θが図23に示すように、車輪回転速度制限値演算部40bに入力されている。
【0130】
そして、車輪回転速度制限値演算部40bでは、前述した第1の実施形態と同様に、モータ角速度ωに基づいて図16に示す車輪回転速度制限値演算処理を実行するとともに、図24に示す車輪回転速度制限値演算処理を実行する。
図24の車輪回転速度制限値演算処理は、所定時間(例えば1msec)毎のタイマ割込処理として実行され、先ず、ステップS71で、モータ角度θ(n)及び4輪の車輪回転角度VwFL〜VwRRを読込んで、これらをRAM等のメモリに個別に形成した所定のm段数のシフトレジスタの初段に書込み、次いでステップS72に移行して、シフトレジスタに格納されているモータ角度θ(n)〜θ(n-m-1)読込み、モータ角度が変化していないか否かを判定する。この判定は、モータ角度θ(n)〜θ(n-m-1)の最大値から最小値を減算した変動幅θwが予め設定したモータ角度が殆ど変化していないと判断可能な閾値θws以下であるか否かを判定する。
【0131】
このステップS72の判定結果が、モータ角度変化が生じているものであるときには、そのままタイマ割込処理を終了して、所定のメインプログラムに復帰し、モータ角度変化が生じていないときにはステップS73に移行する。
このステップS73では、前輪側の左右車輪回転速度差ΔVwF(n)〜ΔVwF(n-m-1)が略一定値であるか否かを判定する。この場合の判定も、左右車輪回転速度差ΔVwF(n)〜ΔVwF(n-m-1)の最大値から最小値を減算した変動幅Wfが左右車輪回転速度差ΔVwFを一定と見做せる閾値Wfs以下であるか否かを判定することにより行う。
【0132】
このステップS73の判定結果が、前輪の左右車輪回転速度差ΔVwFが一定であるときには、ステップS74に移行して、後輪側の左右車輪回転速度差ΔVwR(n)〜ΔVwR(n-m-1) が変動しているか否かを判定し、後輪側の左右車輪回転速度差ΔVwR(n)〜ΔVwR(n-m-1)が変動しているときには後輪側の車輪回転速度VwRL又はVwRRに異常があるものと半端してステップS75に移行する。
【0133】
このステップS75では、後輪側の左右車輪回転速度差ΔVwR(n)〜ΔVwR(n-m-1)の最大値から最小値を減算した変動幅Wに基づいて図25に示す車輪回転速度制限値算出マップを参照して車輪回転速度制限値Limw2を算出する。次いで、ステップS76に移行して、算出した車輪回転速度制限値Limw2と図16で算出した車輪回転速度制限値Limwとの何れか小さい値を車輪回転速度制限値Limwとして決定し、制限値選択部40eに出力してからタイマ割込処理を終了して所定のメインプログラムに復帰する。
【0134】
また、前記ステップS74の判定結果が、後輪側の左右車輪回転速度差ΔVwRが変動していないときには、各車輪回転速度VwFL〜VwRRが正常であると判断してステップS77に移行し、車輪回転速度制限値Limw2として制御出力すなわちゲイン倍指令値Iref24を制限しない最大値Limw2maxを設定してから前記ステップS76に移行する。
【0135】
さらに、前記ステップS73の判定結果が、前輪側の左右車輪回転速度差ΔVwFが略一定ではなく変動している場合には、ステップS78に移行して、後輪側の左右車輪回転速度差ΔVwR(n)〜ΔVwR(n-m-1)が略一定であるか否かを判定し、後輪側の左右車輪回転速度差ΔVwRが変動している場合には、各車輪回転速度VwFL〜VwRRが正常であると判断して前記ステップS77に移行し、後輪側の左右車輪回転速度差ΔVwRが略一定であるときには、前輪側の車輪回転速度VwFL又はVwFRが異常であると判断してステップS79に移行する。
【0136】
このステップS79では、前輪側の左右車輪回転速度差ΔVwF(n)〜ΔVwF(n-m-1)の最大値から最小値を減算した変動幅Wに基づいて図25に示す車輪回転速度制限値算出マップを参照して車輪回転速度制限値Limw2を算出してから前記ステップS76に移行する。
このように、上記第2の実施形態によると、前述した第1の実施形態の作用効果に加えて、モータ角度θに基づいて車輪回転速度VwFL〜VwRRの異常を検出するので、より精度良く車輪回転速度VwFL〜VwRRの異常を検出することができる。
【0137】
なお、上記第2の実施形態においては、モータ角度θとしてモータ角度信号センサ200で検出したモータ角度を使用する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、モータ角速度センサを設けて、このモータ角速度センサで検出したモータ角速度ωを積分してモータ角度θを算出したり、電動モータ12のモータ逆起電圧を検出して、検出したモータ逆起電圧に基づいてモータ角速度を算出し、算出したモータ角速度を積分してモータ角度θを算出したりするようにしてもよい。
また、上記第2の実施形態では、制御出力制限値計算部40にモータ角度θが入力されているので、このモータ角度θの単位時間当たりのモータ角度変化量Δθを算出し、このモータ角度変化量Δθを前述した図15及び図16の演算処理でモータ角速度ωに代えて使用するようにしてもよい。
【0138】
次に、本発明の第3の実施形態を図26について説明する。
この第3の実施形態では、4輪車輪回転速度とモータ角度とに基づいてセルフアライニングトルク推定値SATの推定精度を向上させるようにしたものである。
すなわち、第3の実施形態では、システム構成としては前述した第2の実施形態と同様の構成を有するが、セルフアライニングトルク推定部32Aで図26に示すセルフアライニングトルク推定値選択処理を行うようにしている。
【0139】
このセルフアライニングトルク推定値選択処理は、所定時間(例えば10msec)毎のタイマ割込処理として実行され、先ず、ステップS81で、位相補正部331から出力されるセルフアライニングトルク推定値SAT(n)及びモータ角度信号センサ200で検出したモータ角度θ(n)を読込み、次いでステップS82に移行して、セルフアライニングトルク推定値SATが急変しているか否かを判定する。この判定は、今回読込んだセルフアライニングトルク推定値SAT(n)から前回処理時に読込んだセルフアライニングトルク推定値SAT(n-1)を減算してセルフアライニングトルク変化量ΔSATを求め、求めたセルフアライニングトルク変化量ΔSATの絶対値が予め設定されたセルフアライニングトルク推定値SATの急変を判断する閾値ΔSATsを超えているか否かを判定する。
このステップS82の判定結果が、|ΔSAT|≦ΔSATsであるときには、セルフアライニングトルク推定値SAT(n)が急変していないものと判断してステップS83に移行し、位相補正部331から出力されるセルフアライニングトルク推定値SAT(n)をそのままセルフアライニングトルク推定値SATとしてゲイン調整部32Bに出力する。
【0140】
一方、ステップS82の判定結果が、|ΔSAT|>ΔSATsであるときには、セルフアライニングトルク推定値SAT(n)が急変したものと判断してステップS84に移行して、ステップS81で読込んだモータ角度θ(n)から前回の処理時に読込んだモータ角度θ(n-1)を減算してモータ角度変化量Δθを算出し、算出したモータ角度変化量Δθが予め設定した閾値Δθsを超えているか否かを判定する。
【0141】
このステップS84の判定結果が、|Δθ|≦Δθsであるときには、モータ角度変化量Δθが小さく車輪回転速度VwFL〜VwRRの異常によるセルフアライニングトルク推定値SATの急変ではないものと判断して前記ステップS83に移行し、|Δθ|>Δθsであるときには、セルフアライニングトルク推定値SATが急変し、且つモータ角度変化量Δθも大きく、車輪回転速度VwFL〜VwRRの何れかに異常が発生しているものと判断して、ステップS85に移行する。
【0142】
このステップS85では、位相補正部331から出力されたセルフアライニングトルク推定値SAT(n)に代えて前回処理時のセルフアライニングトルク推定値SAT(n-1)をセルフアライニングトルク推定値SATとしてゲイン調整部32Bに出力する。
この第3の実施形態によると、セルフアライニングトルク推定部32Aの位相補正部331から出力されるセルフアライニングトルク推定値SATが急変したときに、この間のモータ角度変化量Δθの絶対値が閾値Δθs小さい場合には、車輪回転速度VwFL〜VwRRに異常が発生していないものと判断して位相補正部331から出力されるセルフアライニングトルク推定値SATをそのままゲイン調整部32Bに出力して、セルフアライニングトルク推定値SATによる第2の操舵補助トルク指令値Iref2の算出を継続する。
【0143】
しかしながら、セルフアライニングトルク推定部32Aの位相補正部331から出力されるセルフアライニングトルク推定値SATが急変したときに、この間のモータ角度変化量Δθの絶対値が閾値Δθsより大きい場合には、車輪回転速度VwFL〜VwRRの何れかに異常が発生しているものと判断して、位相補正部331から出力されるセルフアライニングトルク推定値SAT(n)に代えて前回処理時に読込んだセルフアライニングトルク推定値SAT(n-1)をゲイン調整部32Bに出力することにより、電動モータ12の回転速度が車輪回転速度VwFL〜VwRRの何れかに異常が発生したことによる影響を受けないように制御することができる。
【0144】
このため、セルフアライニングトルク推定部32Aによるセルフアライニングトルク推定値SATの誤推定によって制御異常となることを確実に防止することができ、セルフアライニングトルク推定精度を向上させることができる。
なお、上記第3の実施形態においても、モータ角度θは、レゾルバ等のモータ角度センサで検出されたモータ角度θを用いる場合に限らず、モータ角速度又はモータ逆起電圧から算出されるモータ角速度を積分した値を用いるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0145】
SM…ステアリング機構、1…ステアリングホイール、2…ステアリングシャフト、2a…入力軸、2b…出力軸、3…ステアリングコラム、4,6…ユニバーサルジョイント、5…中間シャフト、8…ステアリングギヤ機構、9…タイロッド、WL,WR…転舵輪、10…操舵補助機構、11…減速機構、12…電動モータ、14…操舵トルクセンサ、15…コントローラ、16…車速センサ、17…回転角センサ、18、18RL,18RR…車輪回転速度センサ、20…回転情報演算部、201…モータ角速度演算部、212…モータ角加速度演算部、21…操舵補助トルク指令値演算部、22…指令値補償部、23…電流制限部、24…モータ駆動回路、31…第1の操舵補助トルク指令値演算部、311…トルク指令値算出部、312…位相補償部、313…センタ応答性改善部、314…加算器、32…第2の操舵補助トルク指令値演算部、32A…セルフアライニングトルク推定部、32B…ゲイン調整部、32C…トルク制限部、321…車両横滑り角推定部、322…角度変化量算出部、323…増幅器、324…加算器、325…セルフアライニングトルク演算部、326…増幅器、327…加算器、328…ローバスフィルタ、329…加算器、330…平均値算出部、331…位相補正部、33…トルクセンサ異常検出部、34…指令値選択部、36…操舵状態ゲイン調整部、37…車速感応ゲイン調整部、38…セルフアライニングトルクゲイン調整部、38A…セルフアライニングトルクゲイン設定部、38B…ゲイン乗算部、39…駆動輪スリップゲイン調整部、40…制御出力制限値計算部、40a…車輪回転速度異常検出部、40b…車輪回転速度制御値演算部、40c…車速制限値演算部、40d…モータ角速度制限値演算部、40e…制限値選択部、41…リミッタ部、43…収斂性補償部、44…慣性補償部、45,46…加算器
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも操舵トルクに基づいてトルク指令値を演算するトルク指令値演算手段と、ステアリング機構に与える操舵補助力を発生する電動モータと、前記トルク指令値に基づいて電動モータを制御するモータ制御手段とを備えた電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ステアリング装置として運転者がステアリングホイールを操舵する操舵トルクに応じて電動モータを駆動することによりステアリング機構に操舵補助力を与える電動パワーステアリング装置が普及している。
この種の電動パワーステアリング装置では、搭載対象車両が大型化することにより、電動パワーステアリング装置の高出力化が進み、モータトルクが増大すると共に大電流化が加速している。
このように、電動パワーステアリング装置の高出力化が進むと、電動パワーステアリング装置を停止させた状態での手動操舵時に必要な操舵トルクが大きくなって、操舵が困難となる状況となっている。
【0003】
従来、操舵トルクセンサ等の異常が発生した場合、電動パワーステアリング装置を停止させて安全を確保するようにしていたが、手動操舵に必要な操舵トルクが大きくなりすぎて操舵が困難となっているので、操舵トルクセンサ等の異常が発生した場合でも電動モータを駆動制御して操舵補助力の発生を継続することが望まれている。
このため、従来、操舵トルクセンサが故障した場合に、操舵トルク推定手段で車速信号と操舵角信号とに基づいて操舵トルクを推定し、推定した操舵トルクに基づいて電動機の駆動制御をするようにした電動パワーステアリング装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載の従来例にあっては、車速信号と操舵角信号とに基づいて操舵トルクを推定し、推定した操舵トルクに基づいて電動モータの駆動制御をするので、推定した操舵トルクで運転者の手放しなどの操舵状態を正しく認識することができず、ステアリングホイールが勝手に切込んでしまうなど運転者の意に反する操舵状態となり、運転者に違和感を与えてしまう。しかも、路面状況を考慮しないで操舵トルクを推定しているので、路面摩擦係数が低い等、トルク推定モデルで考慮されていてい状態に陥ると、正しく操舵トルクを推定できなくなるという未解決の課題がある。
【0005】
この未解決の課題を解決するために、車輪回転速度を用いて路面から実際に発生した路面反力すなわちセルフアライニングトルクを考慮することで適度な操舵補助力を発生し、セルフアライニングトルク推定とは別に車輪回転速度及びモータ回転角センサから得られたモータ角度よりセルフアライニングトルク計算することで、セルフアライニングトルク推定値とセルフアライニングトルク計算値との比較によりセルフアライニングトルクの誤推定を防ぎ、車輪回転速度より駆動輪スリップを推定することで駆動輪スリップ時におけるセルフステアを防ぎ、車速と前記モータ回転角センサから得られたモータ角速度に応じた制御出力制限を行うことにより、セルフステアや制御異常出力を確実に防ぎながら操舵補助制御を継続するようにした電動パワーステアリング装置が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3390333号公報
【特許文献2】特開2010−18268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献2に記載の従来例にあっては、テンパタイヤ等の異径タイヤ装着により左右の車輪回転速度に誤差が発生したり、左右輪の一方が例えば乾燥路でなる高摩擦係数路面で他方が凍結路や雪路等の低摩擦係数路面である所謂スプリットμ路等を走行することにより、外乱によって左右の車輪回転速度に誤差が発生したりするとセルフアライニングトルクを誤推定してしまい、セルフステアや制御異常出力を正確に防止することができないという未解決の課題がある。
そこで、本発明は、上記従来例の未解決の課題に着目してなされたものであり、車輪回転速度に異常が発生した場合でも、セルフステアの発生や制御異常出力を確実に防止することができる電動パワーステアリング装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に係る電動パワーステアリング装置は、ステアリング機構に入力される操舵トルクを検出する操舵トルク検出手段と、少なくとも前記操舵トルク検出手段で検出した操舵トルクに基づいて第1のトルク指令値を演算する第1のトルク指令値演算手段と、前記ステアリング機構に与える操舵補助トルクを発生する電動モータと、前記トルク指令値に基づいて前記電動モータを駆動制御するモータ制御手段とを備えた電動パワーステアリング装置であって、前記操舵トルク検出手段の異常を検出するトルク検出部異常検出手段と、車両の車輪回転速度を検出する車輪回転速度検出手段と、前記電動モータのモータ回転情報を検出するモータ回転情報検出手段と、前記車輪回転速度検出手段で検出した前記車輪回転速度に基づいて第2のトルク指令値を演算する第2のトルク指令値演算手段と、前記トルク検出部異常検出手段で前記トルク検出手段の異常を検出したときに、前記第1のトルク指令値演算手段に代えて、前記第2のトルク指令値演算手段を選択して前記モータ制御手段に第2のトルク指令値を出力する異常時切換手段と、前記車輪回転速度検出手段で検出した前記車輪回転速度、前記操舵トルク検出手段が正常であるときに検出した操舵トルク及び前記モータ回転情報検出手段で検出した前記モータ回転情報の少なくとも一つに基づいて前記車輪回転速度の異常を検出する車輪回転速度異常検出手段と、該車輪回転速度異常検出手段で前記車輪回転速度の異常を検出した場合、前記異常時切換手段で前記第2のトルク指令値を選択するときに、当該第2のトルク指令値を制限する異常時指令値制限手段とを備えたことを特徴としている。
【0009】
この請求項1に係る発明では、第2のトルク指令値演算手段で、車輪回転速度検出手段で検出した車輪回転速度に基づいてトルク指令値を演算し、操舵トルク検出手段の異常を検出したときに、異常時切換手段で第1のトルク指令値演算手段に代えて第2のトルク指令値演算手段を選択することにより、車輪回転速度に基づいて路面反力を考慮した正確なトルク検出値を求めることができる。また、アンチロックブレーキシステム等で使用されている車輪回転速度検出手段を利用することができ、部品点数を減少させることができる。
【0010】
しかも、車輪回転速度、正常時の操舵トルク、モータ回転情報の少なくとも一つに基づいて第2のトルク検出値の異常を検出した場合、異常時切換手段によって、第2のトルク指令値演算手段の第2のトルク指令値が選択されたときに、第2のトルク指令値を制限するので、第2のトルク指令値によるセルフステアの発生や制御異常出力を確実に防止する。
【0011】
また、請求項2に係る電動パワーステアリング装置は、請求項1に係る発明において、前記異常時指令値制限手段が、前記第2のトルク指令値の異常を検出した場合、前記第2のトルク指令値演算手段が選択されるときに、当該第2のトルク指令値の出力を停止させるように構成されていることを特徴としている。
この請求項2に係る発明では、第2のトルク指令値の異常を検出した場合、第1のトルク指令値演算手段が選択されるときに、第2の指令値の出力を停止させるので、セルフステアの発生や制御異常出力を確実に防止することができる。
【0012】
さらに、請求項3に係る電動パワーステアリング装置は、請求項1に係る発明において、前記異常時指令値制限手段が、前記車輪回転速度の異常を検出した場合、前記第2のトルク指令値演算手段が選択されるときに、前記第2のトルク指令値を前記車輪回転速度検出手段で検出した左右車輪回転速度差に基づいて制限するように構成されていることを特徴としている。
この請求項3に係る発明では、車輪回転速度の異常を検出した場合に、第2のトルク指令値を車輪回転速度検出手段で検出した左右車輪回転速度差に基づいて制限するので、左右車輪回転速度差に応じて第2のトルク指令値を制限することにより、セルフステアの発生も制御異常出力を確実に防止できる。
【0013】
また、請求項4に係る電動パワーステアリング装置は、請求項1に係る発明において、
前記異常時指令値制限手段が、前記車輪回転速度の異常を検出した場合、前記第2のトルク指令値演算手段が選択されるときに、当該異常を検出する前の第2のトルク指令値を第2のトルク指令値として設定するように構成されていることを特徴としている。
この請求項4に係る発明によると、車輪回転速度の異常を検出したときに、異常を検出する前の第2のトルク指令値を第2のトルク指令値として設定するので、異常が発生する前の第2のトルク指令値に基づいて操舵補助制御を継続することができ、セルフステアの発生や制御異常出力を確実に防止することができる。
【0014】
また、請求項5に係る電動パワーステアリング装置は、請求項1乃至4の何れか1つの発明において、前記第2のトルク指令値演算手段が、前記車輪回転速度に基づいて前記ステアリング機構に路面側から伝達されるセルフアライニングトルクを推定するセルフアライニングトルク推定手段を有し、該セルフアライニングトルク推定手段で推定したセルフアライニングトルクに基づいて前記第2のトルク指令値を演算する構成とされていることを特徴としている。
この請求項5に係る発明では、車輪回転速度に基づいてセルフアライニングトルクを推定するので、ステアリング機構の路面から伝達されるセルフアライニングトルクを正確に検出することができる。
【0015】
また、請求項6に係る電動パワーステアリング装置は、請求項1乃至4の何れか1つに係る発明において、前記第2のトルク指令値演算手段が、前記車輪回転速度に基づいて前記ステアリング機構に路面側から伝達されるセルフアライニングトルクを推定するセルフアライニングトルク推定手段と、該セルフアライニングトルク推定手段で推定したセルフアライニングトルクにゲインを乗算して前記第2のトルク指令値を演算するゲイン調整手段とを備えていることを特徴としている。
この第6に係る発明では、セルフアライニングトルク推定値にゲインを乗算して第2のトルク指令値を演算するので、車両の操舵状態や走行状態に応じてゲインを設定することにより、第2のトルク指令値を適正化することができる。
【0016】
さらにまた、請求項7に係る電動パワーステアリング装置は、請求項1乃至4の何れか1つに係る発明において、前記第2のトルク指令値演算手段が、前記車輪回転速度に基づいて前記ステアリング機構に路面側から伝達されるセルフアライニングトルクを推定するセルフアライニングトルク推定手段と、該セルフアライニングトルク推定手段で推定したセルフアライニングトルクにゲインを乗算して前記第2のトルク指令値を演算するゲイン調整手段と、該ゲイン調整手段で演算した第2のトルク指令値を前記車輪回転速度検出手段で検出した車輪回転速度に基づいて算出した車速及び車速検出手段で検出した車速の一方とモータ角速度演算手段で算出したモータ角速度との少なくとも一方に基づいて制限するトルク制限手段とを備えていることを特徴としている。
この請求項7に係る発明では、ゲイン調整後の第2のトルク指令値を車速及びモータ角速度の少なくとも一方に基づいて制限することにより、高車速領域や高モータ角速度領域での制御出力異常を抑制することができる。
【0017】
なおさらに、請求項8に係る電動パワーステアリング装置は、請求項6又は7に係る発明において、前記ゲイン調整手段が、モータ回転情報検出手段で検出したモータ回転情報と前記セルフアライニングトルク推定手段で推定したセルフアライニングトルクとに基づいて切増し状態、切り戻し状態及び保舵状態の何れの操舵状態であるかを判定し、操舵状態の判定結果に基づいて操舵状態感応ゲインを調整する操舵状態ゲイン調整手段を有することを特徴としている。
この請求項8に係る発明では、操舵状態に応じた最適な操舵状態感応ゲインを調整することができ、操舵状態に応じて最適な第2のトルク指令値を算出することができる。
【0018】
また、請求項9に係る電動パワーステアリング装置は、請求項6乃至8の何れか1つに係る発明において、前記ゲイン調整手段が、前記車輪回転速度検出手段で検出した車輪回転速度に基づいて算出した車速及び車速検出手段で検出した車速の一方に基づいて車速感応ゲインを調整する車速ゲイン調整手段を有することを特徴としている。
この請求項9に係る発明では、車速に応じて車速感応ゲインを調整することができるので、車両の操舵フィーリングを向上させることができる。
【0019】
さらに、請求項10に係る電動パワーステアリング装置は、請求項6乃至9の何れか1つに係る発明において、前記ゲイン調整手段が、モータ回転情報検出手段で検出したモータ回転情報と前記車輪回転速度検出手段で検出した車輪回転速度とに基づいて演算したセルフアライニングトルク演算値と前記セルフアライニングトルク推定手段で推定したセルフアライニングトルク推定値との偏差に基づいてセルフアライニングトルクゲインを調整するセルフアライニングトルクゲイン調整手段を有することを特徴としている。
【0020】
この請求項10に係る発明では、セルフアライニングトルク設定手段で、モータ回転情報と車輪回転速度とに基づいて算出したセルフアライニングトルク演算値とセルフアライニングトルク推定値との偏差に基づいてセルフアライニングトルクゲインを設定するので、車輪回転速度に基づいて算出されるセルフアライニングトルク推定値に誤差を生じた場合に、その誤差を抑制することができる。
【0021】
さらにまた、請求項11に係る電動パワーステアリング装置は、請求項6乃至10の何れか1つに係る発明において、前記ゲイン調整手段が、前記車輪回転速度検出手段で検出した車輪回転速度に基づいて駆動輪スリップ状態を推定し、推定した駆動輪スリップ状態に基づいて駆動輪スリップ感応ゲインを調整する駆動輪スリップゲイン調整手段を有することを特徴としている。
この請求項11に係る発明では、駆動輪スリップがセルフアライニングトルク推定値に影響を与える場合に、この駆動輪スリップの影響を抑制することができる。
【0022】
なおさらに、請求項12に係る電動パワーステアリング装置は、請求項5乃至11の何れか1つに係る発明において、前記セルフアライニングトルク推定手段が、前記車輪回転速度に基づいて車両横滑り角を推定する車両横滑り角推定手段を有し、該車両横滑り角推定手段で推定した車両横滑り角に基づいてセルフアライニングトルクを推定するように構成されていることを特徴としている。
この請求項12に係る発明では、車輪回転速度に基づいて車両の車両横滑り角を推定し、推定した車両横滑り角に基づいてセルフアライニングトルクを推定するので、車両の走行状態を加味してより正確なセルフアライニングトルクを推定することができる。
【0023】
さらに、請求項13に係る電動パワーステアリング装置は、請求項12に係る発明において、前記車両横滑り角推定手段が、前記車輪回転速度に基づいて車両横滑り角を推定し、推定した横滑り角を前記モータ回転情報に基づいて補正するように構成されていることを特徴としている。
この請求項13に係る発明では、車両の車輪回転速度に基づいて車両の横滑り角を推定し、推定した横滑り角をモータ回転情報に基づいて補正するので、車両の操舵状況に基づいてより正確な横滑り角を推定することができる。
【0024】
さらにまた、請求項14に係る電動パワーステアリング装置は、請求項5乃至11の何れか1つに係る発明において、前記セルフアライニングトルク推定手段が、前記車輪回転速度と前記モータ回転情報とに基づいてセルフアライニングトルクを推定するように構成されていることを特徴としている。
この請求項14に係る発明では、車両の左右の車輪回転速度とモータ回転情報とに基づいてセルフアライニングトルクを推定するので、車両の操舵状況に応じたより正確なセルフアライニングトルクを推定することができる。
【0025】
なおさらに、請求項15に係る電動パワーステアリング装置は、請求項1乃至14の何か1つに係る発明において、前記異常時切換手段が、前記第1のトルク指令値演算手段に代えて前記第2のトルク指令値演算手段を選択する場合に、前記第1のトルク指令値から前記第2のトルク指令値に徐々に変化させることを特徴としている。
この請求項15に係る発明では、第1のトルク指令値から第2のトルク指令値への切換え時にトルク指令値を徐々に変化させるので、電動モータで発生させる操舵補助力の急変を防止して、安定した操舵補助状態を継続することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、第2のトルク指令値演算手段で、車輪回転速度に基づいてトルク指令値を演算するので、操舵トルク検出手段の異常を検出したときに、路面状況を考慮した正確なトルク検出値を求めることができ、操舵トルク検出手段の故障後も操舵補助制御を運転者に違和感を与えることなく継続することができ、しかも車輪回転速度に異常が発生した場合に、第2のトルク指令値を制限するので、セルフステアの発生や制御異常出力を確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る電動パワーステアリング装置の概略構成を示す図である。
【図2】本発明に係るコントローラの具体例を示すブロック図である。
【図3】コントローラを構成するセルフアライニングトルク推定部の具体的構成を示すブロック図である。
【図4】横滑り角算出マップを示す特性線図である。
【図5】セルフアライニングトルク初期推定値算出マップを示す特性線図である。
【図6】実際のセルフアライニングトルクに対するセルフアライニングトルク初期推定値のヒステリシス特性を示す特性線図である。
【図7】操舵状態ゲイン設定部の具体的構成を示すブロック図である。
【図8】操舵状態ゲイン設定部に適用する操舵状態感応ゲイン算出マップを示す特性線図である。
【図9】車速感応ゲイン設定部に適用する車速感応ゲイン算出マップを示す特性線図である。
【図10】セルフアライニングトルクゲイン計算部の具体的構成を示すブロック図である。
【図11】図10のセルフアライニングトルクゲイン計算部に適用するセルフアライニングトルクゲイン算出マップを示す特性線図である。
【図12】駆動輪スリップゲイン設定部の具体的構成を示すブロック図である。
【図13】駆動輪スリップゲイン設定部に適用する駆動輪スリップゲイン算出マップを示す特性線図である。
【図14】制御出力制限値計算部の具体的構成を示すブロック図である。
【図15】図15の車輪回転速度異常検出部で実行する車輪回転速度異常検出処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図16】図15の車輪回転速度制限値演算部で実行する車輪回転速度制限値演算処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図17】図16で使用する車輪回転速度制限値算出マップを示す特性線図である。
【図18】図15の車速制限値演算部で使用する車速制限値算出マップを示す特性線図である。
【図19】図15のモータ角速度制限値演算部で使用するモータ角速度制限値算出用マップを示す特性線図である。
【図20】図2のトルクセンサ異常検出部で実行するトルクセンサ異常検出処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図21】マイクロコンピュータで実行する操舵補助制御処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図22】本発明の第2の実施形態を示すコントローラの具体例を示すブロック図である。
【図23】図22の制御出力制限値計算部の具体的構成を示すブロック図である。
【図24】図23の車輪回転速度制限値演算部で実行する車輪回転速度制限値演算処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図25】図24で使用する車輪回転速度制限値算出マップを示す特性線図である。
【図26】本発明の第3の実施形態におけるセルフアライニングトルク推定部で実行するセルフアライニングトルク選択処理手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明に一実施形態を示す概略構成図であって、図中、SMはステアリング機構である。このステアリング機構SMは、ステアリングホイール1に運転者から作用される操舵力が伝達される入力軸2aとこの入力軸2aに図示しないトーションバーを介して連結された出力軸2bとを有するステアリングシャフト2を備えている。このステアリングシャフト2は、ステアリングコラム3に回転自在に内装され、入力軸2aの一端がステアリングホイール1に連結され、他端は図示しないトーションバーに連結されている。
【0029】
そして、出力軸2bに伝達された操舵力は、2つのヨーク4a,4bとこれらを連結する十字連結部4cとで構成されるユニバーサルジョイント4を介して中間シャフト5に伝達され、さらに、2つのヨーク6a,6bとこれらを連結する十字連結部6cとで構成されるユニバーサルジョイント6を介してピニオンシャフト7に伝達される。このピニオンシャフト7に伝達された操舵力はステアリングギヤ機構8で車両幅方向の直進運動に変換されて左右のタイロッド9に伝達され、これらタイロッド9によって転舵輪WL,WRを転舵させる。
ステアリングシャフト2の出力軸2bには、操舵補助力を出力軸2bに伝達する操舵補助機構10が連結されている。この操舵補助機構10は、出力軸2bに連結した減速機構11と、この減速機構11に連結された操舵補助力を発生する電動機としての例えばブラシレスモータで構成される電動モータ12とを備えている。
【0030】
また、減速機構11のステアリングホイール1側に連接されたハウジング13内に操舵トルク検出手段としての操舵トルクセンサ14が配設されている。この操舵トルクセンサ14は、ステアリングホイール1に付与されて入力軸2aに伝達された操舵トルクを検出するもので、例えば、操舵トルクを入力軸2a及び出力軸2b間に介挿した図示しないトーションバーの捩れ角変位に変換し、この捩れ角変位を非接触の磁気センサで検出するように構成されている。
【0031】
そして、操舵トルクセンサ14から出力される操舵トルク検出値Tは、図2に示すように、コントローラ15に入力される。このコントローラ15には、操舵トルクセンサ14からのトルク検出値Tの他に車速センサ16で検出した車速Vs、電動モータ12に流れるモータ電流Iu〜Iw及びレゾルバ、エンコーダ等で構成されるモータ回転角センサ17で検出した電動モータ12の回転角θ及び車輪回転速度センサ18L,18Rで検出した車両の左右の車輪回転速度VwL及びVwRも入力される。
【0032】
コントローラ15では操舵トルクセンサ14が正常である状態では、入力されるトルク検出値T及び車速検出値Vsに応じた操舵補助力を電動モータ12で発生させる電流指令値としての第1の操舵補助トルク指令値Iref1を算出し、算出した操舵補助トルク指令値Iref1に対して回転角θに基づいて算出するモータ角速度ω及びモータ角加速度αに基づいて各種補償処理を行ってから電動モータ12を駆動制御する。また、操舵トルクセンサ14が異常であるときには、左右の従動輪の車輪回転速度VwL及VwRに基づいて第2の操舵補助トルク指令値Iref2を算出し、この第2の操舵補助トルク指令値Iref2に基づいて電動モータ12を駆動制御する。
【0033】
すなわち、コントローラ15は、図2に示すように、モータ回転角センサ17で検出したモータ角度θに基づいてモータ角速度ω及びモータ角加速度αを演算するモータ回転情報演算部20と、操舵補助トルク指令値Irefを演算する操舵補助トルク指令値演算部21と、この操舵補助トルク指令値演算部21で演算したトルク指令値Irefを補償する指令補償値Icomを算出するトルク指令値補償部22と、操舵補助トルク指令値演算部21で演算した操舵補助トルク指令値Irefとトルク指令値補償部22で算出した指令補償値Icomとを加算して補償後操舵補助トルク指令値Iref′を算出する加算器23と、この加算器23から出力される補償後操舵補助トルク指令値Iref′に基づいてモータ電流を生成して電動モータ12を駆動制御するモータ駆動回路24とで構成されている。
【0034】
回転情報演算部20は、モータ回転角センサ17で検出されるモータ回転角検出信号に基づいてモータ角度θを演算するモータ角度信号センサ200と、このモータ角度信号センサ200で演算されるモータ角度θを微分してモータ角速度ωを算出するモータ角速度演算部201と、このモータ角速度演算部201で算出されたモータ角速度ωを微分してモータ角加速度αを算出するモータ角加速度演算部202とを備えている。
【0035】
操舵補助トルク指令値演算部21は、操舵トルクセンサ14から入力される操舵トルクTと車速センサ16から入力される車速Vsとに基づいて第1の操舵補助トルク指令値Iref1を演算する第1の操舵補助トルク指令値演算部31と、左右の車輪回転速度を検出する車輪回転速度センサ18から入力される車輪回転速度VwL及びVwRに基づいて第2の操舵補助トルク指令値Iref2を演算する第2の操舵補助トルク指令値演算部32と、操舵トルクセンサ14の異常を検出するトルクセンサ異常検出部33と、該トルクセンサ異常検出部33から出力される異常検出信号に基づいて前記第1の操舵補助トルク指令値演算部31及び第2の操舵補助トルク指令値演算部32の何れかを選択する異常時切換手段としての指令値選択部34と、指令値選択部34で選択した指令値の急激な変化を抑制するレートリミッタ35とを備えている。
【0036】
第1の操舵補助トルク指令値演算部31は、操舵トルクT及び車速Vsをもとに図2中に示す操舵補助トルク指令値算出マップを参照して電流指令値でなる操舵補助トルク指令値Irefbを算出するトルク指令値算出部311と、このトルク指令値算出部311から出力される操舵補助トルク指令値Irefbの位相補償を行って位相補償値Irefb′を算出する位相補償部312と、操舵トルクセンサ14から入力される操舵トルクTに基づいてステアリング中立付近の制御の応答性を高め、滑らかでスムーズな操舵を実現するように、操舵トルクTを微分演算処理してアシスト特性不感帯での安定性確保、静摩擦の補償を行うセンタ応答性改善指令値Irを算出するセンタ応答性改善部313と、位相補償部312の位相補償出力とセンタ応答性改善部313のセンタ応答性改善指令値Irとを加算して第1の操舵補助トルク指令値Iref1を算出する加算器314とを備えている。
ここで、トルク指令値算出部311で参照する操舵補助トルク指令値算出マップは、図2中に示すように、横軸に操舵トルクTをとり、縦軸に操舵補助トルク指令値Irefbをとると共に、車速Vsをパラメータとした放物線状の曲線で表される特性線図で構成されている。
【0037】
第2のトルク指令値演算部32は、ステアリング機構に路面から伝達されるセルフアライニングトルクを推定するセルフアライニングトルク推定手段としてのセルフアライニングトルク推定部32Aと、このセルフアライニングトルク推定部32Aで推定したセルフアライニングトルクSATにゲインを乗算して第2の操舵補助トルク指令値Iref2を算出するゲイン調整手段としてのゲイン調整部32Bと、ゲイン調整部32Bでゲイン調整されたセルフアライニングトルクを制限する異常時指令値制限手段としてのトルク制限部32Cとで構成されている。
【0038】
セルフアライニングトルク推定部32Aは、図3に示すように、左右の車輪回転速度VwL及びVwRに基づいて車両横滑り角βを推定する横滑り角推定部321と、モータ角度θが入力されて角度変化量Δθを算出する角度変化量演算部322と、この角度変化量演算部322で演算された角度変化量Δθが入力される滑り角補正ゲインKslpが設定された増幅器323と、この増幅器323で算出した滑り角補正値Aslpを横滑り角推定部321で推定した横滑り角βに加算してタイヤ捩じり量による補正を行なう加算器324と、この加算器324の加算出力に基づいてセルフアライニングトルク初期推定値を演算するセルフアライニングトルク演算部325と、このセルフアライニングトルク演算部325で演算したセルフアライニングトルク初期推定値SATiのヒステリシス特性を補正するためにモータ角速度ωを増幅してヒステリシス補正値Ahysを算出する増幅器326と、この増幅器326で算出したヒステリシス補正値Ahysをセルフアライニングトルク初期推定値SATiに加算する加算器327と、この加算器327の加算出力からノイズを除去するローパスフィルタ328と、車輪回転速度センサ18L及び18Rから入力される車輪回転速度VwL及びVwRを加算する加算器329と、車輪回転速度VwL及びVwRの加算値の1/2を算出して車速相当値Vs′を算出する平均値算出部330と、この平均値算出部330で算出した車速相当値Vs′に基づいてローパスフィルタ328から出力されるノイズ除去されたセルフアライニングトルク初期推定値SATi′の位相補正を行ってセルフアライニングトルク推定値SATを算出する位相補正部331とを備えている。
ここで、車両横滑り角推定部321は、駆動輪となる後輪の車輪回転速度センサ18RL及び18RRで検出された車輪回転速度VwRL及びVwRRに基づいて下記(1)式の演算を行って、車速に応じた左右の車輪回転速度差ΔVwRを算出する。
ΔVwR=(VwRL−VwRR)/{(VwRL+VwRR)/2} ………(1)
【0039】
次いで、算出した車輪回転速度差ΔVwをもとに図4に示す車両横滑り角算出マップを参照して車両横滑り角βを推定する。車両横滑り角算出マップは、図4に示すように、横軸に車輪回転速度差ΔVwRをとり、縦軸に車両横滑り角βをとった実車の測定値から求められる特性線図で表され、車輪回転速度差ΔVwがゼロ近傍であるときには、比較的緩やかな勾配となり、これより車輪回転速度差ΔVwが大きくなると比較的急峻な勾配となる特性曲線Lが設定されている。
【0040】
一方、セルフアライニングトルク演算部325では、車両横滑り角βをもとに図5に示すセルフアライニングトルク初期推定値算出マップを参照してセルフアライニングトルク初期推定値SATiを算出する。このセルフアライニングトルク初期推定値算出マップは、図5に示すように、横軸に車両横滑り角βをとり、縦軸にセルフアライニングトルク初期推定値SATiをとった実車の測定値から求められる特性線図で表され、車速相当値Vs′をパラメータとして車速相当値Vs′が大きな値となるに応じて傾斜角が大きくなる線形区間Lsとこの線形区間Lsの両端から延長する飽和区間Laとでなる特性線が設定されている。
【0041】
このセルフアライニングトルク演算部325で算出するセルフアライニングトルク初期推定値SATiと、実際に車両に生じるセルフアライニングトルクSATとの関係は、図6で破線図示のように、比較的大きなヒステリシス特性を有することになる。このため、モータ角速度ωに基づいてヒステリシス補正値Ahysを算出し、このヒステリシス補正値Ahysをセルフアライニングトルク初期推定値SATiに加算することにより、ヒステリシス特性がモータ角速度すなわち舵角速度に応じて補正されることにより、図6で実線図示のようにヒステリシス特性の幅を狭くしてより正確なセルフアライニングトルク初期推定値SATiを算出することができる。
【0042】
また、位相補正部331は、平均値算出部330から出力される車速相当値Vs′に基づいてローパスフィルタ326から出力されるノイズ除去されたセルフアライニングトルク推定値SAT′の位相を補正するものであり、定常ゲイン=1の一時遅れフィルタ(1/T1s+1)で構成されている。ここで、sはラプラス演算子、T1は時定数であって、この時定数T1は車速相当値Vs′に応じて設定される。
【0043】
一方、ゲイン調整部32Bは、操舵状態ゲイン調整部36、車速ゲイン調整部37、セルフアライニングトルクゲイン調整部38、及び駆動輪スリップゲイン調整部39を有する。
操舵状態ゲイン調整部36は、セルフアライニングトルク推定部32Aから出力されるセルフアライニングトルク推定値SAT及びモータ角速度演算部201で算出されたモータ角速度ωが入力されて、これらに基づいて切増し状態、切戻し状態及び保舵状態の何れの操舵状態かを検出し、検出した操舵状態に応じた操舵状態ゲインK0を設定する操舵状態ゲイン設定部36Aと、この操舵状態ゲイン設定部36Aで設定された操舵状態ゲインK0をセルフアライニングトルク推定部32Aから出力されるセルフアライニングトルク推定値SATに乗算してゲイン倍指令値Iref21を出力するゲイン乗算部36Bとで構成されている。
【0044】
ここで、操舵状態ゲイン設定部36Aの具体的構成は、図7に示すように、セルフアライニングトルク推定値SATとモータ角速度ωとが入力されて、切増し状態、切戻し状態及び保舵状態を判定する操舵状態判定部361と、この操舵状態判定部361の判定結果とモータ角速度ωとに基づいて操舵状態ゲインK0を算出する操舵状態ゲイン算出部362とを有する。
【0045】
操舵状態判定部361は、セルフアライニングトルク推定値SATの符号とモータ角速度ωの符号が一致するときに切増し状態であると判定し、セルフアライニングトルク推定値SATの符号とモータ角速度ωの符号が不一致であるときに切戻し状態であると判定し、モータ角速度ωの絶対値|ω|が設定値ωt以下であるときには保舵状態であると判定する。
【0046】
操舵状態ゲイン算出部362は、入力される操舵状態及びモータ角速度ωに基づいて図8に示す操舵状態ゲイン算出マップを参照して操舵状態ゲインK0を算出する。操舵ゲイン算出マップは、図8に示すように、操舵状態が保舵状態であるときには、モータ角速度ωの値にかかわらず所定ゲインK0hを維持するように特性線Lhが設定され、操舵状態が切増し状態であるときには、モータ角速度ωが零から所定値ω1迄の間で所定ゲインK0hより大きいな値の所定ゲインK0iを維持し、モータ角速度ωが所定値ω1を超えるとモータ角速度ωの増加に伴ってゲインが比較的大きな勾配で増加するように特性線Liが設定され、操舵状態が切戻し状態であるときには、モータ角速度ωが零から所定値ω1迄の間で所定ゲインK0hより小さな値の所定ゲインK0dを維持し、モータ角速度ωが所定値ω1を超えるとモータ角速度ωの増加に伴ってゲインが比較的小さな勾配で減少するように特性線Ldが設定されている。
【0047】
また、車速ゲイン調整部37は、車速感応ゲインK1を算出する車速感応ゲイン算出部37Aと、この車速感応ゲイン算出部37Aで算出された車速感応ゲインK1を操舵状態ゲイン調整部36から出力されるゲイン倍指令値Iref21に車速感応ゲインK1を乗算してゲイン倍指令値Iref22を出力するゲイン乗算部37Bとで構成されている。
車速ゲイン算出部37Aは、入力される車速Vsに基づいて図9に示す車速感応ゲイン算出マップを参照して車速感応ゲインK1を算出する。ここで、車速感応ゲイン算出マップは、図9に示すように、車速Vsが零から所定値Vs1迄の間では所定値Kvを維持し、車速Vsが所定値Vs1を超えると、車速Vsの増加に応じて比較的大きな勾配でゲインが減少し、車速Vsが所定値Vs1より大きい所定値Vs2を超えると、車速Vsの増加に応じて比較的小さな勾配でゲインが減少するように特性線Lvが設定されている。
【0048】
セルフアライニングトルクゲイン調整部38は、セルフアライニングトルク演算値SAToを算出して補正ゲインK2を設定するセルフアライニングトルクゲイン計算部38Aと、このセルフアライニングトルクゲイン計算部38Aで設定されたセルフアライニングトルクゲインK2をゲイン倍指令値Iref22に乗算するゲイン乗算部38Bとで構成されている。
【0049】
セルフアライニングトルクゲイン計算部38Aは、図10に示すように、4輪車輪回転速度センサ18から入力される4輪の車輪回転速度VwFL〜VwRRとモータ角度θとに基づいて車両モデルを用いてセルフアライニングトルク演算値SAToを算出するセルフアライニングトルク演算部381と、前述したセルフアライニングトルク推定部32で推定したセルフアライニングトルク推定値SATからセルフアライニングトルク演算部381で算出したセルフアライニングトルク演算値SAToを減算する減算器382と、この減算器382の減算出力を絶対値化してセルフアライニングトルク偏差ΔSAT(=|SAT−SATo|)を算出する絶対値演算部383と、この絶対値演算部383で算出したセルフアライニングトルク偏差ΔSATに基づいて図11に示すセルフアライニングトルクゲイン算出マップを参照してセルフアライニングトルクゲインK2を算出するゲイン算出部384とを備えている。
【0050】
ここで、セルフアライニングトルク演算部381は、4輪の車輪回転速度VwFL〜VwRRの平均値を車速Vsとして算出すると共に、モータ角度θを推定操舵角θとして、車両諸元定数を下記(2)式で表される車両モデルとなる車両横方向の運動方程式(状態方程式)に代入し、下記(3)式で表されるセルフアライニングトルク演算値算出式(出力式)を用いることで、セルフアライニングトルク演算値SAToを算出する。
【0051】
【数1】
【0052】
車両諸元定数
m:車両質量
I:車両慣性モーメント
lf:車両重心点と前軸間の距離
lr:車両重心点と後軸間の距離
Kf:前輪タイヤのコーナリングパワー
Kr:後輪タイヤのコーナリングパワー
V:車速
N:オーバーオール舵角比
θ:推定操舵角
δf:実舵角(δf=θ/N)
β:車両重心点の横滑り角
γ:ヨーレート
ε:トレール
【0053】
【数2】
【0054】
また、ゲイン算出部384では、絶対値演算部383から出力されるセルフアライニングトルク偏差の絶対値|ΔSAT|をもとに図11に示すセルフアライニングトルクゲイン算出マップを参照してセルフアライニングトルクゲインK2を算出する。
ここで、セルフアライニングトルクゲイン算出マップは、図11に示すように、セルフアライニングトルク偏差の絶対値|ΔSAT|が0から設定値ΔSAT1迄の間ではセルフアライニングトルク偏差の絶対値|ΔSAT|の増加に応じて比較的緩やかな勾配でセルフアライニングトルクゲインK2が減少し、セルフアライニングトルク偏差の絶対値|ΔSAT|が設定値ΔSAT1を超えて設定値ΔSAT2に達するまでの間は比較的急な勾配でセルフアライニングトルクゲインK2が減少し、設定値SAT2を超えると、セルフアライニングトルク偏差の絶対値|ΔSAT|の増加に応じて比較的緩やかな勾配でセルフアライニングトルクゲインK2が減少するように特性線Lsが設定されている。
【0055】
駆動輪スリップゲイン調整部39は、車輪回転速度センサ18で検出された車輪回転速度VwL及びVwRに基づいて駆動輪スリップゲインK3を設定する駆動輪スリップ推定部39Aと、この駆動輪スリップ推定部39Aで設定された駆動輪スリップゲインK3をゲイン倍指令値Iref23に乗算するゲイン乗算部39Bとで構成されている。
駆動輪スリップ推定部39Aは、図12に示すように、車輪回転速度センサ18で検出された前輪の左右車輪回転速度VwFL及びVwFRと後輪の左右車輪回転速度VwRL及びVwRRが入力され、前輪の左右車輪回転速度VwFL及びVwFRを加算する加算部391と、この加算部391の加算出力に2分の1を乗算して前輪平均値VwFを算出する乗算器392と、後輪の左右車輪回転速度VwRL及びVwRRを加算する加算部393と、この加算部393の加算出力に2分の1を乗算して後輪平均値VwRを算出する乗算器394と、乗算器392から出力される前輪平均値VwFから乗算器394から出力される後輪平均値VwRを減算して駆動輪車輪回転速度偏差ΔVwを算出する減算部395と、この減算部395から出力される駆動輪車輪回転速度偏差ΔVwを絶対値化する絶対値回路396と、この絶対値回路396から出力される駆動輪車輪回転速度偏差の絶対値|ΔVw|に基づいて駆動輪スリップ感応ゲインK4を算出するゲイン算出部397とを備えている。
【0056】
ここで、ゲイン算出部397は、入力される駆動輪車輪回転速度偏差ΔVwの絶対値|ΔVw|に基づいて図13に示す駆動輪スリップ感応ゲイン算出マップを参照して駆動輪スリップ感応ゲインK3を算出する。この駆動輪スリップ感応ゲイン算出マップは、図13に示すように、駆動輪車輪回転速度偏差ΔVwの絶対値|ΔVw|が0から増加するに応じて駆動輪スリップゲインK3が徐々に減少するように折れ線状の特性線Lwが設定されている。
【0057】
また、トルク制限部32Cは、制御出力制限値計算部40と、この制御出力制限値計算部40で計算された出力制限値Limでゲイン倍指令値Iref24を制限して第2の操舵補助トルク指令値Iref2を出力するリミッタ部41とを備えている。
制御出力制限値計算部40は、車速Vs、操舵トルクT、モータ角速度ω及び4輪車輪回転速度VwFL〜VwRRが入力され、図14に示すように、車輪回転速度異常検出部40a、車輪回転速度制限値演算部40b、車速制限値演算部40c及びモータ角速度制限値演算部40dを備えている。
【0058】
車輪回転速度異常検出部40aは、車速Vs、操舵トルクT、モータ角速度ω及び4輪車輪回転速度VwFL,VwFR,VwRL,VwRRに基づいて4輪車輪回転速度センサ18の異常を検出し、異常を検出したときに、“0”の異常制限値Limaを設定する。すなわち、車輪回転速度異常検出部40aでは、図15に示す車輪回転速度異常検出処理を実行する。この車輪回転速度異常検出処理は、先ず、ステップS1で、後述するトルクセンサ異常検出処理で、操舵トルクセンサ14の異常を表すトルクセンサ異常検出フラグFlgが“1”にセットされているか否かを判定し、トルクセンサ異常検出フラグFlgが“1”にセットされているときには、車輪回転速度異常検出処理の信頼性が低いものと判断してそのまま処理を終了する。
【0059】
一方、トルクセンサ異常検出フラグFlgが“0”にリセットされているときには、ステップS2に移行して、車速Vsが車両直進状態を判定可能な速度に設定された閾値Vssを超えているか否かを判定し、Vs≦Vssであるときには異常判定ができないものと判断してステップS3に移行して、異常判定フラグFlgaを車輪回転速度異常無しを表す“0”に設定するとともに、車輪回転速度制限値Limaをゲイン倍トルク指令値Iref24を制限していな最大値Limamaxに設定し、これを制限値選択部40eに出力してから異常判定処理を終了し、Vs>Vssであるときには、直進状態の判定可能と判断してステップS4に移行する。
【0060】
このステップS4では、操舵トルクTの絶対値が車両直進状態を判断可能な閾値Ts未満であるか否かを判定し、T≧Tsであるときには操舵トルクTが大きく操舵状態又は保舵状態であり、異常判定ができないものと判断して前記ステップS3に移行し、T<Tsであるときには、車両が直進走行状態である可能性が高いものと判断してステップS5に移行する。
このステップS5では、モータ角速度ωの絶対値が車両直進走行を判断可能な閾値ωs未満であるか否かを判定し、ω≧ωsであるときには異常判定ができないものと判断して前記ステップS2に移行し、ω<ωsであるときには、車両が直進走行状態であると判断してステップS6に移行する。
【0061】
このステップS6では、各車輪回転速度VwFL〜VwRRの内の前後における左右の回転速度差ΔVwF及びΔVwRの絶対値が予め設定した閾値ΔVwsを超えているか否かを判定し、ΔVwF≦ΔVws且つΔVwR≦ΔVwsであるときには、車輪回転速度VwFL〜VwRRが正常であると判断して前記ステップS3に移行し、ΔVwF>ΔVws又はΔVwR>ΔVwsであるときには4輪のうちの1つにテンパタイヤ等の異径タイヤが装着されているか又は車輪回転速度センサ自体が異常となっており、車輪回転速度VwFL〜VwRRの何れか1つが異常であるものと判断してステップS7に移行する。
【0062】
このステップS7では、異常判定フラグFlgaを車輪回転速度の異常を表す“1”に設定するとともに、車輪回転速度制限値Limaを“0”に設定し、これを制限値選択部40eに出力してから車輪回転速度異常検出処理を終了する。
この図15の処理において、ステップS2、ステップS4〜ステップS6の処理が車輪回転速度異常検出手段に対応し、ステップS7の処理と制限値選択部40e及びリミッタ部41が異常時指令値制限手段に対応している。
【0063】
また、車輪回転速度制限値演算部40bは、例えば後輪駆動車を対象として、モータ角速度ω及び車輪回転速度VwFL〜VwRRに基づいて、左右の一方が雪路、凍結路等の低摩擦係数路面で、他方が乾燥路等の高摩擦係数路面である所謂スプリットμ路を走行する場合のように外乱による車輪回転速度の異常を検出するものであり、図16に示す車輪回転速度制限値演算処理を実行する。
【0064】
この車輪回転速度制限値演算処理は、図16に示すように、所定時間(例えば1msec)毎のタイマ割込処理として実行され、先ず、ステップS11で、モータ角速度ωの絶対値がステアリングホイール1が操舵されている状態を判断可能な閾値ωs2未満であるか否かを判定し、|ω|≧ωs2であるときには、ステアリングホイール1が操舵されている状態であり、車輪回転速度の異常判定ができず車輪回転速度VwFL〜VwRRが正常であるものと判断してステップS12に移行する。
このステップS12では、車輪回転速度制限値Limwを最大値Limwmaxに設定してからステップS13に移行して、設定された車輪回転速度制限値Limwを制限値選択部40eに出力してからタイマ割込処理を終了して所定のメインプログラムに復帰する。
【0065】
また、前記ステップS11の判定結果が、モータ角速度ωの絶対値が閾値ωs2未満であるときにはステップS14に移行して、従動輪である前輪側の左右車輪回転速度差ΔVwFが保舵状態を判断する閾値ΔVwFs2未満であるか否かを判定し、|ΔVwF|≧ΔVwFs2であるときには、ステアリングホイール1が内外輪回転速度差を有する保舵状態であると判断してステップS15に移行する。
【0066】
このステップS15では、駆動輪となる後輪側の左右車輪回転速度差ΔVwRの絶対値が外乱による異常を判断する閾値ΔVwRs2未満であるか否かを判定し、|ΔVwR|≧ΔVwR2であるときには、後輪側についても左右車輪回転速度差ΔVwRの絶対値が大きく内外輪回転速度差を有する保舵状態であると判断し、各車輪回転速度VwFL〜VwRRが正常であると判断して前記ステップS12に移行する。
【0067】
また、ステップS15の判定結果が、後輪側の左右車輪回転速度差ΔVwRの絶対値が閾値ΔVwRs2未満であるときには、後輪側の車輪回転速度VwRL及びVwRRの何れかが例えば前述したスプリットμ路を走行した場合のように外乱によって車輪回転速度が変化しているものと判断してステップS16に移行する。
このステップS16では、後輪側の左右車輪回転速度差ΔVwRと閾値ΔVwRs2又は、前輪側の左右車輪回転速度差ΔVwFと閾値ΔVwFs2との偏差ΔVwの絶対値に基づいて図17に示す車輪回転速度制限値算出マップを参照して車輪回転速度制限値Linwを算出してから前記ステップS13に移行する。
【0068】
ここで、車輪回転速度制限値算出マップは、図17に示すように、横軸に左右車輪回転速度差ΔVwの絶対値をとり、縦軸に車輪回転速度制限値Limwをとった特性線図で構成され、左右車輪回転速度差ΔVwの絶対値が“0”から所定値ΔVw1までの間は車輪回転速度制限値Limwが制御出力を制限しない最大値Limwmaxを維持し、左右車輪回転速度差ΔVwの絶対値が所定値ΔVw1を超えると左右車輪回転速度差ΔVmの絶対値が増加するに応じて車輪回転速度制限値Limwが最大値Limwmaxから徐々に減少して最終的に車輪回転速度制限値Limwが“0”となる折れ線状の特性線Lwが設定されている。
【0069】
また、前記ステップS14の判定結果が、従動輪となる前輪側の左右車輪回転速度差ΔVwFの絶対値が閾値ΔVwFs2未満であるときには、直進走行状態であると判断してステップS17に移行する。
このステップS17では、後輪側の左右車輪回転速度差ΔVwRの絶対値が外乱による異常を判断する閾値ΔVwRs2を超えているか否かを判定し、左右車輪回転速度差ΔVwFの絶対値が閾値ΔVwRs2未満であるときには、外乱による車輪回転速度の変化がない正常状態であると判断して前記ステップS12に移行する。
【0070】
また、ステップS17の判定結果が、駆動輪となる後輪側の左右車輪回転速度差ΔVwRの絶対値が閾値ΔVwRs2を超えているときには、後輪側の車輪回転速度VwRL及びVwRRの少なくとも一方に外乱の影響があるものと判断して前記ステップS16に移行する。
この図16の処理において、ステップS11、S14、S15及びS17の処理が車輪回転速度異常検出手段に対応し、ステップS16の処理と制限値選択部40e及びリミッタ部41とが異常時指令値制限手段に対応している。
【0071】
車速制限値演算部40cは、車速Vsに基づいて図18に示す車速制限値算出マップを参照して車速制限値Limvを算出する。
ここで、車速制限値算出マップは、図18に示すように、車速Vsが零から所定値Vs3に達するまでの間は最大制限値Limmaxを維持し、車速Vsが所定値Vs3を超えると車速Vsの増加に応じて徐々に車速制限値Limvが減少し、さらに車速Vsが所定値Vs4を超えるとより大きな減少量で減少する折れ線状の特性線Lv1が設定されている。
【0072】
また、モータ角速度制限値演算部40dは、モータ角速度ωに基づいて図19に示すモータ角速度制限値算出マップを参照してモータ角速度制限値Limmを算出する。
ここで、モータ角速度制限値算出マップは、図19に示すように、モータ角速度ωが零から運転者の操舵又は路面反力によって発生する設定角速度ω2に達する迄の間は最大制限値Limmaxを維持し、モータ角速度ωが設定角速度ω2を超えると、モータ角速度ωの増加に伴って比較的大きな勾配でモータ角速度制限値Limmが減少する特性線Lωが設定されている。
【0073】
さらに、制限値選択部40eは、異常制限値Limaが入力されているときにはこの異常制限値Limaを制御出力制限値Limとしてリミッタ部41に出力し、異常制限値Limaが入力されていないときには、車輪回転速度制限値Limw、車速制限値Limv及びモータ角速度制限値Limmを比較して何れか小さい値を制御出力制限値Limとしてリミッタ部41に出力する。
【0074】
また、トルクセンサ異常検出部33は、操舵トルクセンサ14で検出した操舵トルクTが入力され、この操舵トルクTに基づいて図20に示すトルクセンサ異常検出処理を実行する。このトルクセンサ異常検出処理は、例えば所定時間(例えば1msec)毎のタイマ割込処理として実行され、先ず、ステップS21で、操舵トルクセンサ14で検出した操舵トルクTを読込み、次いでステップS22に移行して、ステップS21で読込んだ操舵トルクTが操舵トルクセンサ異常検出条件を満足するか否かを判定する。この操舵トルクセンサ異常検出条件としては、車両の走行時に所定時間以上変化しない状態が継続した場合、操舵トルクTが予め設定した天絡による異常設定値を超えた状態が所定時間以上継続した場合、操舵トルクTが予め設定した地絡による異常閾値未満の状態を所定時間以上継続した場合等が挙げられる。
【0075】
そして、ステップS22の判定結果が、トルクセンサ異常検出条件を満足していない場合すなわち操舵トルクセンサ14が正常である場合には、ステップS23に移行して、トルクセンサ異常検出フラグFlgを“0”にリセットしてからタイマ割込処理を終了して所定のメインプログラムに復帰する。
一方、ステップS22の判定結果が、トルクセンサ異常検出条件を満足している場合すなわち操舵トルクセンサ14が異常である場合には、ステップS24に移行して、トルクセンサ異常検出フラグFlgを“1”にセットしてからタイマ割込処理を終了して所定のメインプログラムに復帰する。
【0076】
さらに、指令値選択部34は、トルクセンサ異常検出部33で設定されるトルクセンサ異常検出フラグFlgが“0”にリセットされているときに、前述した第1のトルク指令値演算部31で演算した第1の操舵補助トルク指令値Iref1を選択し、トルクセンサ異常検出フラグFlgが“1”にセットされているときに、前述した第2のトルク指令値演算部32で演算した第2の操舵補助トルク指令値Iref2を選択し、選択した第1のトルク指令値Iref1又は第2のトルク指令値Iref2をトルク指令値Irefとし、このトルク指令値Irefをレートリミッタ35に供給して、このレートリミッタ35でトルク指令値Irefの急激な変化を抑制してから後述する加算器46に出力する。
【0077】
指令値補償部22は、回転情報演算部20のモータ角速度演算部201で演算されたモータ角速度ωに基づいてヨーレートの収斂性を補償する収斂性補償部43と、回転情報演算部20のモータ角加速度演算部202で演算されたモータ角加速度αに基づいて電動モータ12の慣性により発生するトルク相当分を補償して慣性感又は制御応答性の悪化を防止する慣性補償部44とを少なくとも有する。
ここで、収斂性補償部43は、モータ角速度演算部201で算出されたモータ角速度ωが入力され、車両のヨーの収斂性を改善するためにステアリングホイール1が振れ回る動作に対して、ブレーキをかけるように、モータ角速度ωに収斂性制御ゲインKcを乗じて収斂性補償値Icを算出する。
【0078】
そして、慣性補償部44で算出された慣性補償値Iiと収斂性補償部43で算出された収斂性補償値Icとが加算器45で加算されて指令補償値Icomが算出され、この指令補償値Icomが加算器23で前述した操舵補助トルク指令値演算部21から出力される操舵補助トルク指令値Irefに加算されて補償後操舵補助トルク指令値Iref′が算出され、この補償後操舵補助トルク指令値Iref′がモータ駆動回路24へ出力される。
【0079】
次に、上記第1の実施形態の動作を説明する。
今、操舵トルクセンサ14が正常状態であるものとすると、操舵補助トルク指令値演算部21に設けられたトルクセンサ異常検出部33において操舵トルクセンサ14で検出した操舵トルクTがトルクセンサ異常検出条件を満足しないことにより、トルクセンサ異常検出フラグFlgが“0”にリセットされ、このトルクセンサ異常検出フラグFlgが指令値選択部34に出力される。このため、指令値選択部34で第1の操舵補助トルク指令値演算部31が選択されて、この第1の操舵補助トルク指令値演算部31から出力される第1の操舵補助トルク指令値Iref1がレートリミッタ35で変化量が制限されて操舵補助トルク指令値Irefとして加算器23に出力される。
【0080】
このとき、車両がステアリングホイール1を直進走行状態の中立位置として停車しているものとする。この状態でステアリングホイール1が操舵されていない場合には、操舵トルクセンサ14で検出される操舵トルクTが“0”であり、車速Vsも“0”であるので、第1の操舵補助トルク指令値演算部31のトルク指令値算出部311で操舵トルクT及び車速Vsをもとに操舵補助トルク指令値算出マップを参照したときに操舵補助トルク指令値Irefbが“0”となり、第1の操舵補助トルク指令値Iref1も“0”となる。
【0081】
このとき、電動モータ12も停止しているため、モータ回転情報演算部20のモータ角速度演算部201で演算されるモータ角速度ω及びモータ角加速度演算部202で演算されるモータ角加速度αが共に“0”であるので、収斂性補償部43で算出される収斂性補償値Ic及び慣性補償部44で算出される慣性補償値Iiも“0”となるため、指令補償値Icomも“0”となり、加算器23から出力される補償後操舵補助トルク指令値Iref′も“0”となる。
【0082】
このため、モータ駆動回路24から出力されるモータ駆動電流も“0”を継続して電動モータ12が停止状態を継続する。
この車両の停車状態で、ステアリングホイール1を操舵して所謂据え切りを行うと、これに応じて操舵トルクセンサ14で検出される操舵トルクTが比較的大きな値となることにより、第1の操舵補助トルク指令値演算部31で算出される操舵補助トルク指令値Iref1が操舵トルクTに応じて急増する。
【0083】
この状態でも電動モータ12が停止しているので、モータ角速度ω及びモータ角加速度αも“0”を継続し、指令値補償部22の収斂性補償部43で算出される収斂性補償値Ic及び慣性補償部44で算出される慣性補償値Iiも“0”を維持し、指令補償値Icomも“0”となる。
このため、加算器23から操舵補助トルク指令値Irefがそのまま補償後操舵補助トルク指令値Iref′としてモータ駆動回路24に出力される。
したがって、モータ駆動回路24から補償後操舵補助トルク指令値Iref′に応じたモータ駆動電流Iref″が電動モータ12に出力されて、この電動モータ12が回転駆動され、操舵トルクTに応じた操舵補助力を発生する。
【0084】
この電動モータ12で発生された操舵補助力は、減速機構11を介してステアリングホイール1からの操舵力が伝達されたステアリングシャフト2に伝達されることにより、操舵力及び操舵補助力がステアリングギヤ機構8で車幅方向の直線運動に変換されてタイロッド9を介して左右の転舵輪WL,WRが転舵されて、軽い操舵トルクで転舵輪WL,WRを転舵することができる。
【0085】
そして、電動モータ12が駆動制御されることにより、回転情報演算部20のモータ角速度演算部201で演算されるモータ角速度ω及びモータ角加速度演算部202で演算されるモータ角加速度αが増加する。これにより、指令値補償部22で収斂性補償値Ic及び慣性補償値Iiが算出され、これらが加算されて指令補償値Icomが算出され、これが加算器46に供給されることにより、操舵補助トルク指令値Irefに指令補償値Icomが加算されて補償後操舵補助トルク指令値Iref′が算出される。このように、指令値補償部22で指令値補償処理が行われると共に、第1の操舵補助トルク指令値演算部31のセンタ応答性改善部313で、操舵トルクTを微分演算処理してアシスト特性不感帯での安定性確保、静摩擦の補償を行い、位相補償部312で第1の操舵補助トルク指令値Iref1に対して位相補償を行う。
【0086】
また、車両を発進させた場合には、車速センサ16で検出する車速Vsの増加に応じて、第1の操舵補助トルク指令値演算部31におけるトルク指令値算出部311で算出される操舵補助トルク指令値Irefbが減少することにより、車両の走行状態に応じた最適な操舵補助トルク指令値Iref1が設定されて、車両の走行状態に応じた最適な操舵補助制御が行われる。
【0087】
この最適な操舵補助制御が行われている最中に、制御出力制限値計算部40の車輪回転速度異常検出部40aで4輪車輪回転速度センサ18の異常検出を行っている。この車輪回転速度異常検出部40aでは、車速Vsが閾値Vss以上であり、操舵トルクTの絶対値が閾値Ts未満であり、モータ角速度ωの絶対値が閾値ωs未満である車両の直進走行条件が成立したときに、各車輪回転速度VwFL〜VwRRの左右の回転速度差ΔVwF及びΔVwRの絶対値が閾値ΔVwFs及びΔVwRsを超えているか否かを判定し、|ΔVwF|<ΔVwFs及び|ΔVwR|<ΔVwRsであるとき、すなわち各車輪回転速度VwFL〜VwRRがVwFL≒VwFR≒VwRL≒VwRRであるときには、各車輪回転速度VwFL〜VwRRが正常であると判断して車輪回転速度異常フラグFlgwを“0”にリセットする。
【0088】
一方、この回転速度差ΔVwF(又はΔVwR)の絶対値が閾値ΔVwFs(又はΔVwRs)を超えている場合には、左右の車輪の一方にテンパタイヤ等の異径タイヤが装着されていて回転速度差を生じているか、車輪回転速度センサ自体が異常となっており、検出された車輪回転速度VwFL〜VwRRに信頼性がないものと判断して車輪回転速度異常フラグFlgwを“1”にセットする。
しかしながら、車輪回転速度異常フラグFlgwが“1”にセットされた場合でも、操舵トルクセンサ14が正常である場合には、車輪回転速度VwFL〜VwRRを使用してセルフアライニングトルク推定値SATを演算する第2の操舵補助トルク指令値演算部32が選択されることはないので、最適な操舵補助制御が継続される。
【0089】
ところが、車両の走行中に、操舵トルクセンサ14が異常状態となって、トルクセンサ異常検出部33で、操舵トルクTが操舵トルクセンサ異常検出条件を満足する状態となると、このトルクセンサ異常検出部33でトルクセンサ異常検出フラグFlgが“1”にセットされる。このため、指令値選択部34で上述した第1の操舵補助トルク指令値演算部31に代えて第2の操舵補助トルク指令値演算部32が選択される。
このとき、制御出力制限値計算部40の車輪回転速度異常検出部40aで、4輪車輪回転速度センサ18から出力される車輪回転速度VwFL〜VwRRが正常であることが検出されているときには、この車輪回転速度異常検出部40aから出力される車輪回転速度異常制限値Limaが制御出力を制限しない最大値Limamaxに設定される。
【0090】
また、第2の操舵補助トルク指令値演算部32では、左右の車輪WL及びWRの車輪回転速度VwL及びVwRを車輪回転速度センサ18L及び18Rで検出し、検出した車輪回転速度VwL及びVwRがセルフアライニングトルク推定部32Aに供給される。このため、セルフアライニングトルク推定部32Aの平均値算出部324で車速相当値Vs′が算出されるとともに、セルフアライニングトルク初期推定部321で、前輪左右の車輪回転速度VwFL及びVwFRに基づいて前記(1)式の演算を行なって車輪回転速度差ΔVwFを算出し、算出した車輪回転速度差ΔVwFをもとに図4のセルフアライニングトルク算出マップを参照してセルフアライニングトルク初期推定値SATiを推定する。
【0091】
そして、推定したセルフアライニングトルク初期推定値SATiに対してローパスフィルタ328でローパスフィルタ処理されることにより、ノイズが除去されたセルフアライニングトルク初期推定値SATi′が得られ、このセルフアライニングトルク初期推定値SATi′に位相補正部331で車速相当値Vs′によって位相補正を行なうことにより、セルフアライニングトルク推定値を演算し、さらにゲインKを乗算して第2の操舵補助トルク指令値Iref2を算出する。
この車両の走行中で、直進走行状態にあるときには、前記(1)式で算出される車輪回転速度差ΔVwFが“0”であることからセルフアライニングトルク初期推定値SATiも“0”となって、電動モータ12は停止状態を維持する。
【0092】
この直進走行状態からステアリングホイール1を操舵して旋回走行状態に移行すると、その旋回走行状態の旋回半径に応じて左右の車輪回転速度VwFL及びVwFRに差を生じる。このため、車輪回転速度差ΔVwFは、車速Vsが低い状態では、分子となる左右の車輪回転速度VwL及びVwRの差が極めて小さいことから比較的小さな値となって、セルフアライニングトルク初期推定部321で図4のセルフアライニングトルク初期推定値算出マップを参照して算出されるセルフアライニングトルク初期推定値SATiが比較的小さい値となる。このセルフアライニングトルク初期推定値SATiがローパスフィルタ328でローパス処理され、位相補正部331で車速相当値Vs′による位相補正が行なわれることにより、車両走行時にステアリングギヤ機構8のラック軸に路面から入力されるセルフアライニングトルクSATを正確に推定することができる。
【0093】
そして、この推定されたセルフアライニングトルク推定値SATをゲイン調整部32Bでゲイン調整処理を行うとともに、トルク制限部32Cでトルク制限処理を行うことにより、セルフアライニングトルクSATを考慮した第2の操舵補助トルク指令値Iref2を算出し、これが指令値選択部34を介し、レートリミッタ35を介して加算器23に供給されるので、この加算器23で指令補償値Icomを加算した補償後操舵補助トルク指令値Iref′をモータ駆動回路24に供給することにより、このモータ駆動回路24でセルフアライニングトルクSATを考慮した操舵補助力を発生させ、操舵補助制御を継続することができる。
【0094】
また、車両の車速Vsが速い場合には、左右の車輪回転速度VwFL及びVwFRの差が大きな値となることから、前記(1)式で算出される車輪回転速度差ΔVwFが大きな値となり、これに応じて、セルフアライニングトルク初期推定部321で図4の横滑り角算出マップを参照して算出される横滑り角βが大きな値となり、図5のセルフアライニングトルク初期推定値算出マップを参照して算出されるセルフアライニングトルク初期推定値SATiも比較的大きい値となる。このセルフアライニングトルク初期推定値SATiがローパスフィルタ328でローパス処理され、位相補正部331で車速相当値Vs′による位相補正が行なわれることにより、車両走行時にステアリングギヤ機構8のラック軸に路面から入力されるセルフアライニングトルクSATを正確に推定することができる。
【0095】
そして、この推定されたセルフアライニングトルク推定値SATをゲイン調整部32Bでゲイン調整するとともに、トルク制限部32Cでトルク制限することにより、セルフアライニングトルクSATを考慮した第2の操舵補助トルク指令値Iref2を算出し、これが指令値選択部34を介し、レートリミッタ35を介して加算器23に供給される。したがって、モータ駆動回路24で、セルフアライニングトルクSATを考慮した操舵補助力を発生させ、操舵補助制御を継続することができる。
【0096】
このように上記第1の実施形態によると、操舵トルクセンサ14が異常状態となったときに、セルフアライニングトルク推定部32Aで路面からの反力を推定して、反力に応じて必要な第2の操舵補助トルク指令値Iref2を算出し、この第2の操舵補助トルク指令値Iref2に基づいて電動モータ12を駆動制御するので、電動モータ12で路面からの反力に応じた操舵補助力を発生することができ、操舵トルクセンサ14が異常となった後も操舵に必要な操舵補助制御を継続することができる。したがって、路面からの反力を考慮しているので、路面摩擦係数が低い降雨路、凍結路、積雪路等を走行する場合でも、操舵角φの変化に応じて最適な操舵補助力を発生させることができる。
また、他のアンチロックブレーキシステムに使用される車輪回転速度センサ18RL及び18RRを使用してセルフアライニングトルク初期推定値SATiを算出するので、部品点数の増加を抑制して、コストを低減することができる。
【0097】
ところで、操舵トルクセンサ14が正常な状態で、直進走行状態となっているときに、前述した制御出力制限値計算部40における車輪回転速度異常検出部40aで、テンパタイヤなどの異径タイヤを装着したり、4輪車輪回転速度センサ18を構成する各センサの少なくとも1つに異常が発生したりした場合には、4輪車輪回転速度センサ18から出力される車輪回転速度VwFL〜VwRRの少なくとも1つが異常値となる。このため、第2の操舵補助トルク指令値演算部32で、これら車輪回転速度VwFL〜VwRRを使用してセルフアライニングトルク推定値SATを算出し、算出したセルフアライニングトルク推定値SATをゲイン調整部32Bでゲイン調整して算出される第2の操舵補助トルク指令値Iref2の信頼性も低下する。
【0098】
このため、制御出力制限値計算部40における車輪回転速度異常検出部40aで、車輪回転速度センサ18の異常を検出したときに、車輪回転速度異常制限値Limwが“0”に設定される。したがって、制限値選択部40eで“0”の車輪回転速度異常制限値Limwが選択されて制限値Limとしてリミッタ部41に供給されることにより、このリミッタ部41で、第2の操舵補助トルク指令値Iref2が“0”に制限される。このため、モータ駆動回路24には、それまでの電動モータ12の駆動状態に応じたトルク指令値補償部22からの指令補償値Icomのみが供給され、電動モータ12の回転速度が低下し、これに応じて指令補償値Icomも減少するので、やがて電動モータ12の駆動が停止され、操舵補助制御が停止される。
【0099】
このように、制御出力制限値計算部40の車輪回転速度異常検出部40aで、操舵トルクセンサ14が正常な状態にあるときに、車両が直進走行状態となる毎に4輪車輪回転速度センサ18で検出される車輪回転速度VwFL〜VwRRの異常を検出するので、この車輪回転速度VwFL〜VwRRの異常が検出されている状態で、トルクセンサ異常検出部33で、操舵トルクセンサ14の異常を検出したときには、車輪回転速度VwFL〜VwRRに基づいて算出される第2の操舵補助トルク指令値Iref2が“0”に制限されることにより、電動モータ12の駆動が停止されて、操舵補助制御が停止される。
このため、異常となった車輪回転速度に基づいて第2の操舵補助トルク指令値Iref2が算出されることによる、セルフステアリングの発生や制御異常出力を確実に防止することができる。
【0100】
また、4輪車輪回転速度センサ18が正常な状態であっても、前述したスプリットμ路を走行する状態となったり、アンチロックブレーキシステムが作動して車輪回転速度が制限された状態となったりすることにより、外乱によって車輪回転速度VwFL〜VwRRが一時的に変化した場合にも、第2の操舵補助トルク指令値Iref2に影響を与えることになる。
【0101】
この場合には、制御出力制限値計算部40における車輪回転速度制限値演算部40bで、図16に示す車輪回転速度制限処理を常時実行している。このとき、直進走行状態である場合及び定常円旋回状態である場合には、モータ角速度ωの絶対値が閾値ωs2未満となる。このため、図16の車輪回転速度制限処理において、ステップS11からステップS14に移行し、従動輪となる前輪側の左右車輪回転速度差ΔVwFの絶対値が閾値ΔVwFs2未満であるか否かを判定する。
【0102】
ここで、前輪側の左右車輪回転速度差ΔVwFの絶対値が閾値ΔVwFs2以上であるときには、保舵状態で定常円旋回をしているものと判断してステップS15に移行して、後輪側の左右車輪回転速度差ΔVwRが閾値ΔVwRs2以上であるときには、前輪側及び後輪側がともに閾値以上の左右車輪回転速度差を生じており、定常円旋回を行っている保舵状態であって、各車輪回転速度VwFL〜VwRRが正常であると判断してステップS12に移行する。このため、車輪回転速度制限値Limwとして制御出力を制限しない最大値Limwmaxを設定し、この車輪回転速度制限値Limwを制限値選択部40eに出力する。したがって、車輪回転速度制限値Limwによってゲイン倍指令値Iref24が制限されることはなく、リミッタ部41からゲイン倍指令値iref24がそのまま第2の操舵補助トルク指令値Iref2として出力される。
【0103】
ところが、前輪側の左右車輪回転速度差ΔVwFの絶対値が閾値ΔVwFs2以上であって、後輪側の左右車輪回転速度差ΔVwRの絶対値が閾値ΔVwRs2未満である状態では、従動輪となる前輪側では内外輪差を有する保舵状態を表し、駆動輪となる後輪側では直進走行状態を表すことになるので、例えば後輪側の内輪側となる車輪が低摩擦係数路面を走行し、外輪側となる車輪が高摩擦係数路面を走行して、低摩擦係数路面を走行する内輪側駆動輪に車輪スリップを生じて該当する車輪の車輪回転速度VwRL又はVwRRが変化しているものと判断することができる。
【0104】
したがって、ステップS15からステップS16に移行して、後輪の左右車輪回転速度差ΔVwRの絶対値と閾値ΔVwR2との偏差ΔVwの絶対値に基づいて図17の車輪回転速度制限値算出マップを参照して車輪回転速度制限値Limwを算出する。このとき、後輪の左右車輪回転速度差ΔVwRの絶対値が閾値ΔVwRs2に近い値であって所定値ΔVw1未満であるときには車輪回転速度制限値Limwがゲイン倍指令値Iref24を制限しない最大値Limwmaxに設定される。しかしながら、後輪の左右車輪回転速度差ΔVwRの絶対値と閾値ΔVwRs2との偏差ΔVwの絶対値が所定値ΔVw1を超えると、そのときの偏差ΔVwの絶対値に応じて最大値Limwmaxより小さい車輪回転速度制限値Limwが算出される。この車輪回転速度制限値Limwが制限値選択部40eに供給される。この制限値選択部40eでは、車輪回転速度制限値Limwが車速制限値Limvより小さいときに、この車輪回転速度制限値Limwが制限値Limとして選択されて、リミッタ部41に供給される。
【0105】
したがって、リミッタ部41から車輪回転速度制限値Limwによってゲイン倍指令値Iref24を制限した第2の操舵補助トルク指令値Iref2が出力される。これによって、外乱による車輪回転速度の変化の影響を軽減して、セルフステアリングや制御異常出力を確実に防止することができる。
また、従動輪となる前輪側の左右車輪回転速度差ΔVwFが閾値ΔVwFs2より小さく、直進走行状態と判断された状態で、駆動輪となる後輪側の左右車輪回転速度差ΔVwRの絶対値が閾値ΔVwRs3以下であるときには、車輪回転速度VwFL〜VwRRが正常であると判断される。
【0106】
一方、従動輪となる前輪側の左右車輪回転速度差ΔVwFが閾値ΔVwFs2より地いたく、直進走行状態と判断された状態で、駆動輪となる後輪側の左右車輪回転速度差ΔVwRの絶対値が閾値ΔVwRs3を超えている場合には、後輪の旋回内輪側(又は外輪側)の車輪が低摩擦係数路面を走行し、外輪側(又は内輪側)の車輪が高摩擦係数路面を走行することにより、低摩擦係数路面側の車輪で車輪スリップが生じて該当する車輪回転速度が増加しているものと判断してステップS16に移行する。
このため、後輪側の左右車輪回転速度差ΔVwRの絶対値と閾値ΔVwRs3との偏差ΔVwの絶対値に基づいて図17の車輪回転速度制限値算出マップを参照して車輪回転速度制限値Limwを算出し、算出した車輪回転速度制限値Limwを制限値選択部40eに出力する。
【0107】
したがって、車輪回転速度制限値Limwが一番小さい値であるときに、この車輪回転速度制限値Limwが選択されて、出力制限値Limとしてリミッタ部41に出力される。これによって、リミッタ部41からゲイン倍指令値Iref24が車輪回転速度制限値Limwによって制限された値が第2の操舵補助トルク指令値Iref2として出力され、指令値選択部34を介してモータ駆動回路24に出力される。このため、外乱によって車輪回転速度に異常が生じても、電動モータ12が車輪回転速度制限値Limwで制限された第2の操舵補助トルク指令値Iref2で回転駆動されて、セルフステア及び制御異常出力を確実に防止しながら操舵補助制御を継続することができる。
【0108】
なお、上記第1の実施形態においては、コントローラ15をハードウェアで構成する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、コントローラ15として、マイクロコンピュータを適用して、回転情報演算部20、操舵補助トルク指令値演算部21、指令値補償部22の機能を全てソフトウェアで処理することもできる。この場合の処理としては、マイクロコンピュータで図21に示す操舵補助制御処理を実行するようにすればよい。
【0109】
ここで、操舵補助制御処理は、図21に示すように、所定時間(例えば1msec)毎にタイマ割込処理として実行され、先ず、ステップS31で、操舵トルクセンサ14、車速センサ16、回転角センサ17、車輪回転速度センサ18等の各種センサの検出値を読込み、次いでステップS32に移行して、前述した図16に示す車輪回転速度センサ異常検出処理を実行し、次いでステップS33に移行して、前述した図20に示すトルクセンサ異常検出処理で設定されたトルクセンサ異常検出フラグFlgを読込み、このトルクセンサ異常検出フラグFlgが“1”にセットされているか否かを判定する。
【0110】
トルクセンサ異常検出フラグFlgが“0”にリセットされている場合には、ステップS34に移行して、トルクセンサ異常検出フラグFlgが“1”にセットされているときにはす45に移行する。
ステップS34では、操舵トルクTをもとに前述した操舵補助トルク指令値算出マップを参照して操舵補助トルク指令値Irefbを算出してからステップS35に移行する。
【0111】
このステップS35では、算出した操舵補助トルク指令値Irefbに対して位相補償処理を行って位相補償後操舵補助トルク指令値Irefb′を算出し、次いでステップS36に移行して、操舵トルクTを微分してセンタ応答性改善指令値Irを算出し、次いでステップS37に移行して、位相補償後操舵補助トルク指令値Irefb′にセンタ応答性改善指令値Irを加算して第1の操舵補助トルク指令値Iref1(=Irefb′+Ir)を算出し、これを操舵補助トルク指令値Iref1としてRAM等の記憶装置のトルク指令値記憶領域に更新記憶してからステップS38に移行する。
【0112】
このステップS38では、モータ角度θを微分してモータ角速度ωを算出し、次いでステップS39に移行して、モータ角速度ωを微分してモータ角加速度αを算出し、次いでステップS40に移行して、収斂性補償部43と同様にモータ角速度ωに車速Vsに応じて設定された補償係数Kcを乗算して収斂性補償値Icを算出してからステップS41に移行する。
【0113】
このステップS41では、慣性補償部44と同様に、モータ角加速度αに基づいて慣性補償値Iiを算出し、次いでステップS42に移行して、RAM等の記憶装置のトルク指令値記憶領域に記憶された操舵補助トルク指令値IrefにステップS40及びS41で算出した収斂性補償値Ic及び慣性補償値Iiを加算して補償後操舵補助トルク指令値Iref′を算出してからステップS43に移行する。
このステップS43では、算出した補償後操舵補助トルク指令値Iref′に対して最大値制限処理を行なって制限後操舵補助トルク指令値Iref″を算出し、次いでステップS44に移行して、算出した制限後操舵補助トルク指令値Iref″をモータ駆動回路24に出力して、電動モータ12を駆動する。
【0114】
一方、前記ステップS23の判定結果が、センサ異常検出フラグFlgが“1”にセットされているときには、操舵トルクセンサ14が異常であると判断してステップS45に移行して、図16の車輪回転速度異常検出処理で設定された車輪回転速度異常フラグFlgwを読込み、この車輪回転速度異常フラグFlgwが“1”であるときには、4輪車輪回転速度センサ18が異常であると判断してステップS46に移行し、操舵補助制御を停止させてから操舵補助制御処理を終了する。
【0115】
また、前記ステップS45の判定結果が、車輪回転速度異常フラグFlgwが“0”にリセットされているときには、4輪車輪回転速度センサ18が正常であると判断してステップS47に移行し、従動輪となる前輪の車輪回転速度VwFL及びVwFRに基づいて前記(1)式の車輪回転速度差ΔVwFを算出する。そして、算出した車輪回転速度差ΔVwFに基づいて図4に示す横滑り角算出マップを参照して、車両の横滑り角βを算出し、算出した横滑り角βに基づいて図5に示すセルフアライニングトルク算出マップを参照して、セルフアライニングトルク初期推定値SATiを算出し、このセルフアライニングトルク初期推定値SATiをローパスフィルタ処理及び位相補正処理してセルフアライニングトルク推定値SATを算出する。
【0116】
次いで、ステップS48に移行して、算出したセルフアライニングトルク推定値SATとモータ角速度ωとに基づいて切増し状態、切戻し状態及び保舵状態の何れの操舵状態であるかを判定し、判定された操舵状態に応じて図8の操舵状態感応ゲイン算出マップを参照して操舵状態ゲインK0を算出する。
次いで、ステップS49に移行して、算出した操舵状態ゲインK0を前記ステップS39で算出したセルフアライニングトルク推定値SATに乗算してゲイン倍指令値Iref21(=SAT*K0)を算出する。
【0117】
次いで、ステップS50に移行して、4輪車輪回転速度VwFL〜VwRRの平均値又は車速Vsに基づいて図9に示す車速感応ゲイン算出マップを参照して車速感応ゲインK1を算出し、次いでステップS51に移行して、算出した車速感応ゲインK1をゲイン倍指令値Iref21に乗算してゲイン倍指令値Iref22(=Iref21*K1)を算出する。
【0118】
次いで、ステップS52に移行して、4輪の車輪回転速度VwFL〜VwRRとモータ角度θとに基づいて車両モデルを利用して前述した(2)及び(3)式の演算を行ってセルフアライニングトルク演算値SAToを算出し、算出したセルフアライニングトルク演算値SAToと前記ステップS47で算出したセルフアライニングトルク推定値SATとの偏差ΔSATを算出し、算出した偏差ΔSATの絶対値|ΔSAT|に基づいて図11に示すセルフアライニングトルクゲイン算出マップを参照してセルフアライニングトルクゲインK2を算出する。
【0119】
次いで、ステップS53に移行して、算出したセルフアライニングトルクゲインK2をゲイン倍指令値Iref22に乗算してゲイン倍指令値Iref23(=Iref22*K2)を算出する。
次いで、ステップS54に移行して、4輪の車輪回転速度VwFL〜VwRRに基づいて前述した駆動輪スリップ率ΔVwを算出し、その絶対値|ΔVw|に基づいて図13の駆動輪スリップゲイン算出マップを参照して駆動輪スリップゲインK3を算出する。
【0120】
次いで、ステップS55に移行して、算出した駆動輪スリップゲインK3をゲイン倍指令値Iref23に乗算してゲイン倍指令値Iref24(=Iref23*K3)を算出する。
次いで、ステップS56に移行して、車速Vsに基づいて図18に示す車速制限値算出マップを参照して車速制限値Limvを算出し、次いでステップS57に移行して、モータ角速度ωに基づいて図19に示すモータ角速度制限値算出マップを参照してモータ角速度制限値Limmを算出する。
【0121】
次いで、ステップS58に移行して、4輪車輪回転速度VwFL〜VwRRとモータ角度θとに基づいて前述した図16に示す車輪回転速度制限値算出処理を行って車輪回転速度制限値Limwを算出する。
次いで、ステップS59に移行して、車速制限値Limv、モータ角速度制限値Limm及び車輪回転速度制限値Limwの最小値を出力制限値Limとして決定し、次いでステップS60に移行して、決定された出力制限値Limでゲイン倍指令値Iref24を制限して第2の操舵補助トルク指令値Iref2を算出し、算出した第2の操舵補助トルク指令値Iref2を操舵補助トルク指令値Irefとして所定の指令値記憶領域に更新記憶してから前記ステップS38に移行する。
【0122】
この図21の処理において、ステップS34の処理が異常時切換手段に対応し、ステップS34〜S37の処理が第1のトルク指令値演算手段に対応し、ステップS47〜S60の処理が第2のトルク指令値演算手段に対応し、このうちS38〜S44の処理がモータ制御部に対応し、ステップS48〜S55の処理がゲイン調整手段に対応し、ステップS45,S46及びS58〜S60の処理が異常時指令値制限手段に対応している。
【0123】
このように、マイクロコンピュータで、図21の操舵補助制御処理を実行することにより、前述した第1の実施形態と同様に操舵トルクセンサ14が正常であるときには図21の操舵補助制御処理におけるステップS34〜S37の処理を実行して、第1の操舵補助トルク指令値Iref1を算出する。また、操舵トルクセンサ14が異常であるときには、4輪車輪回転速度センサ18が正常であるときには、ステップS47〜S59の処理を実行して第2の操舵補助トルク指令値Iref2を算出することにより、車輪回転速度VwFL〜VwRRに基づいてステアリングギヤ機構8のラック軸に入力される路面からの反力でなるセルフアライニングトルクSATを推定し、推定したセルフアライニングトルクSATにゲイン調整を行うとともにトルク制限を行って第2の操舵補助トルク指令値Iref2を算出する。
【0124】
このため、操舵トルクセンサ14が正常である場合には第1の操舵補助トルク指令値Iref1に基づいて電動モータ12が駆動制御されて、正確な操舵補助制御を行い、操舵トルクセンサ14に異常が発生した場合には、車輪回転速度センサ18が正常である場合には、車輪回転速度VwFL及びVwFRに基づいてセルフアライニングトルクSATを推定し、推定したセルフアライニングトルクSATに対してゲイン調整及びトルク制限を行って第2の操舵補助トルク指令値Iref2を算出する。
【0125】
このため、操舵トルクセンサ14が正常な状態から異常な状態となった場合にも、第2の操舵補助トルク指令値Iref2に基づいて路面反力を考慮した最適な操舵補助制御を継続することができる。
また、操舵トルクセンサ14が異常な状態となった場合に、車輪回転速度センサ18が異常であるときには操舵補助制御を停止する。
さらに、アンチロックブレーキシステムが作動した場合にも、4輪の車輪回転速度VwFL〜VwRRに影響を与える。
【0126】
この場合には、図16の車輪回転速度異常検出処理で、前輪側の左右車輪回転速度差ΔVwFの絶対値が閾値ΔVwFs2未満であるか否かの状態と、後輪側の左右車輪回転速度差ΔVwRの絶対値が閾値ΔVwRs2未満であるか否かの状態とが一致した場合に、各車輪回転速度VwFL〜VwRRが正常であると判断し、両者の状態が不一致である場合に、アンチロックブレーキシステムの作動による車輪回転速度が変化して外乱による車輪回転速度変化が生じているものと判断することができ、この外乱による車輪回転速度変化が生じている場合に、アンチロックブレーキシステムの制動指令値を読込むことにより、制動状態にある車輪を特定することができ、この車輪を含む前輪又は後輪の車輪回転速度差の絶対値と閾値との偏差の絶対値に基づいて図17に示す車輪回転速度制限値算出マップを参照して車輪回転速度制限値Limwを算出するようにすればよい。
【0127】
なお、上記第1の実施形態においては、後輪駆動車を対象とした場合について説明したが、これに限定されるものではなく、前輪駆動車や4輪駆動車にも本発明を適用することができる。ここで、前輪駆動車に本発明を適用する場合には、前輪を駆動輪とし、後輪を従動輪として扱えば良く、4輪駆動車に本発明を適用する場合には、図16の処理で、前輪側の左右車輪回転速度差ΔVwFの絶対値が閾値ΔVwFs2未満であるか否かの状態と、後輪側の左右車輪回転速度差ΔVwRの絶対値が閾値ΔVwRs2未満であるか否かの状態とが一致したときに車輪回転速度VwFL〜VwRRが正常であると判断し、両者の状態が不一致であるときに、前輪側の車輪回転速度VwFL又はVwFR若しくは後輪側の車輪回転速度VwRL又はVwRRが外乱による異常であると判断することができる。
【0128】
また、上記第1の実施形態においては、車速制限値演算部40cで車速制限値Limvを演算する際に、車速センサ16で検出した車速Vsを用いる場合について説明したが、これに限定されるものではなく、車輪回転速度センサ18で検出した車輪回転速度VwFL〜VwRRに基づいて演算した車速を適用することもできる。
【0129】
次に、本発明の第2の実施形態を図22〜図24について説明する。
この第2の実施形態では、トルク制限部32Cの制御出力制限値計算部40における車輪回転速度制限値演算部40bにモータ角度信号センサ200で検出したモータ角度θも供給するようにし、このモータ角度θを使用して車輪回転速度制限値を演算するようにしたものである。
すなわち、第2の実施形態では、図22に示すように、制御出力制限値計算部40にモータ角度θが供給され、このモータ角度θが図23に示すように、車輪回転速度制限値演算部40bに入力されている。
【0130】
そして、車輪回転速度制限値演算部40bでは、前述した第1の実施形態と同様に、モータ角速度ωに基づいて図16に示す車輪回転速度制限値演算処理を実行するとともに、図24に示す車輪回転速度制限値演算処理を実行する。
図24の車輪回転速度制限値演算処理は、所定時間(例えば1msec)毎のタイマ割込処理として実行され、先ず、ステップS71で、モータ角度θ(n)及び4輪の車輪回転角度VwFL〜VwRRを読込んで、これらをRAM等のメモリに個別に形成した所定のm段数のシフトレジスタの初段に書込み、次いでステップS72に移行して、シフトレジスタに格納されているモータ角度θ(n)〜θ(n-m-1)読込み、モータ角度が変化していないか否かを判定する。この判定は、モータ角度θ(n)〜θ(n-m-1)の最大値から最小値を減算した変動幅θwが予め設定したモータ角度が殆ど変化していないと判断可能な閾値θws以下であるか否かを判定する。
【0131】
このステップS72の判定結果が、モータ角度変化が生じているものであるときには、そのままタイマ割込処理を終了して、所定のメインプログラムに復帰し、モータ角度変化が生じていないときにはステップS73に移行する。
このステップS73では、前輪側の左右車輪回転速度差ΔVwF(n)〜ΔVwF(n-m-1)が略一定値であるか否かを判定する。この場合の判定も、左右車輪回転速度差ΔVwF(n)〜ΔVwF(n-m-1)の最大値から最小値を減算した変動幅Wfが左右車輪回転速度差ΔVwFを一定と見做せる閾値Wfs以下であるか否かを判定することにより行う。
【0132】
このステップS73の判定結果が、前輪の左右車輪回転速度差ΔVwFが一定であるときには、ステップS74に移行して、後輪側の左右車輪回転速度差ΔVwR(n)〜ΔVwR(n-m-1) が変動しているか否かを判定し、後輪側の左右車輪回転速度差ΔVwR(n)〜ΔVwR(n-m-1)が変動しているときには後輪側の車輪回転速度VwRL又はVwRRに異常があるものと半端してステップS75に移行する。
【0133】
このステップS75では、後輪側の左右車輪回転速度差ΔVwR(n)〜ΔVwR(n-m-1)の最大値から最小値を減算した変動幅Wに基づいて図25に示す車輪回転速度制限値算出マップを参照して車輪回転速度制限値Limw2を算出する。次いで、ステップS76に移行して、算出した車輪回転速度制限値Limw2と図16で算出した車輪回転速度制限値Limwとの何れか小さい値を車輪回転速度制限値Limwとして決定し、制限値選択部40eに出力してからタイマ割込処理を終了して所定のメインプログラムに復帰する。
【0134】
また、前記ステップS74の判定結果が、後輪側の左右車輪回転速度差ΔVwRが変動していないときには、各車輪回転速度VwFL〜VwRRが正常であると判断してステップS77に移行し、車輪回転速度制限値Limw2として制御出力すなわちゲイン倍指令値Iref24を制限しない最大値Limw2maxを設定してから前記ステップS76に移行する。
【0135】
さらに、前記ステップS73の判定結果が、前輪側の左右車輪回転速度差ΔVwFが略一定ではなく変動している場合には、ステップS78に移行して、後輪側の左右車輪回転速度差ΔVwR(n)〜ΔVwR(n-m-1)が略一定であるか否かを判定し、後輪側の左右車輪回転速度差ΔVwRが変動している場合には、各車輪回転速度VwFL〜VwRRが正常であると判断して前記ステップS77に移行し、後輪側の左右車輪回転速度差ΔVwRが略一定であるときには、前輪側の車輪回転速度VwFL又はVwFRが異常であると判断してステップS79に移行する。
【0136】
このステップS79では、前輪側の左右車輪回転速度差ΔVwF(n)〜ΔVwF(n-m-1)の最大値から最小値を減算した変動幅Wに基づいて図25に示す車輪回転速度制限値算出マップを参照して車輪回転速度制限値Limw2を算出してから前記ステップS76に移行する。
このように、上記第2の実施形態によると、前述した第1の実施形態の作用効果に加えて、モータ角度θに基づいて車輪回転速度VwFL〜VwRRの異常を検出するので、より精度良く車輪回転速度VwFL〜VwRRの異常を検出することができる。
【0137】
なお、上記第2の実施形態においては、モータ角度θとしてモータ角度信号センサ200で検出したモータ角度を使用する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、モータ角速度センサを設けて、このモータ角速度センサで検出したモータ角速度ωを積分してモータ角度θを算出したり、電動モータ12のモータ逆起電圧を検出して、検出したモータ逆起電圧に基づいてモータ角速度を算出し、算出したモータ角速度を積分してモータ角度θを算出したりするようにしてもよい。
また、上記第2の実施形態では、制御出力制限値計算部40にモータ角度θが入力されているので、このモータ角度θの単位時間当たりのモータ角度変化量Δθを算出し、このモータ角度変化量Δθを前述した図15及び図16の演算処理でモータ角速度ωに代えて使用するようにしてもよい。
【0138】
次に、本発明の第3の実施形態を図26について説明する。
この第3の実施形態では、4輪車輪回転速度とモータ角度とに基づいてセルフアライニングトルク推定値SATの推定精度を向上させるようにしたものである。
すなわち、第3の実施形態では、システム構成としては前述した第2の実施形態と同様の構成を有するが、セルフアライニングトルク推定部32Aで図26に示すセルフアライニングトルク推定値選択処理を行うようにしている。
【0139】
このセルフアライニングトルク推定値選択処理は、所定時間(例えば10msec)毎のタイマ割込処理として実行され、先ず、ステップS81で、位相補正部331から出力されるセルフアライニングトルク推定値SAT(n)及びモータ角度信号センサ200で検出したモータ角度θ(n)を読込み、次いでステップS82に移行して、セルフアライニングトルク推定値SATが急変しているか否かを判定する。この判定は、今回読込んだセルフアライニングトルク推定値SAT(n)から前回処理時に読込んだセルフアライニングトルク推定値SAT(n-1)を減算してセルフアライニングトルク変化量ΔSATを求め、求めたセルフアライニングトルク変化量ΔSATの絶対値が予め設定されたセルフアライニングトルク推定値SATの急変を判断する閾値ΔSATsを超えているか否かを判定する。
このステップS82の判定結果が、|ΔSAT|≦ΔSATsであるときには、セルフアライニングトルク推定値SAT(n)が急変していないものと判断してステップS83に移行し、位相補正部331から出力されるセルフアライニングトルク推定値SAT(n)をそのままセルフアライニングトルク推定値SATとしてゲイン調整部32Bに出力する。
【0140】
一方、ステップS82の判定結果が、|ΔSAT|>ΔSATsであるときには、セルフアライニングトルク推定値SAT(n)が急変したものと判断してステップS84に移行して、ステップS81で読込んだモータ角度θ(n)から前回の処理時に読込んだモータ角度θ(n-1)を減算してモータ角度変化量Δθを算出し、算出したモータ角度変化量Δθが予め設定した閾値Δθsを超えているか否かを判定する。
【0141】
このステップS84の判定結果が、|Δθ|≦Δθsであるときには、モータ角度変化量Δθが小さく車輪回転速度VwFL〜VwRRの異常によるセルフアライニングトルク推定値SATの急変ではないものと判断して前記ステップS83に移行し、|Δθ|>Δθsであるときには、セルフアライニングトルク推定値SATが急変し、且つモータ角度変化量Δθも大きく、車輪回転速度VwFL〜VwRRの何れかに異常が発生しているものと判断して、ステップS85に移行する。
【0142】
このステップS85では、位相補正部331から出力されたセルフアライニングトルク推定値SAT(n)に代えて前回処理時のセルフアライニングトルク推定値SAT(n-1)をセルフアライニングトルク推定値SATとしてゲイン調整部32Bに出力する。
この第3の実施形態によると、セルフアライニングトルク推定部32Aの位相補正部331から出力されるセルフアライニングトルク推定値SATが急変したときに、この間のモータ角度変化量Δθの絶対値が閾値Δθs小さい場合には、車輪回転速度VwFL〜VwRRに異常が発生していないものと判断して位相補正部331から出力されるセルフアライニングトルク推定値SATをそのままゲイン調整部32Bに出力して、セルフアライニングトルク推定値SATによる第2の操舵補助トルク指令値Iref2の算出を継続する。
【0143】
しかしながら、セルフアライニングトルク推定部32Aの位相補正部331から出力されるセルフアライニングトルク推定値SATが急変したときに、この間のモータ角度変化量Δθの絶対値が閾値Δθsより大きい場合には、車輪回転速度VwFL〜VwRRの何れかに異常が発生しているものと判断して、位相補正部331から出力されるセルフアライニングトルク推定値SAT(n)に代えて前回処理時に読込んだセルフアライニングトルク推定値SAT(n-1)をゲイン調整部32Bに出力することにより、電動モータ12の回転速度が車輪回転速度VwFL〜VwRRの何れかに異常が発生したことによる影響を受けないように制御することができる。
【0144】
このため、セルフアライニングトルク推定部32Aによるセルフアライニングトルク推定値SATの誤推定によって制御異常となることを確実に防止することができ、セルフアライニングトルク推定精度を向上させることができる。
なお、上記第3の実施形態においても、モータ角度θは、レゾルバ等のモータ角度センサで検出されたモータ角度θを用いる場合に限らず、モータ角速度又はモータ逆起電圧から算出されるモータ角速度を積分した値を用いるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0145】
SM…ステアリング機構、1…ステアリングホイール、2…ステアリングシャフト、2a…入力軸、2b…出力軸、3…ステアリングコラム、4,6…ユニバーサルジョイント、5…中間シャフト、8…ステアリングギヤ機構、9…タイロッド、WL,WR…転舵輪、10…操舵補助機構、11…減速機構、12…電動モータ、14…操舵トルクセンサ、15…コントローラ、16…車速センサ、17…回転角センサ、18、18RL,18RR…車輪回転速度センサ、20…回転情報演算部、201…モータ角速度演算部、212…モータ角加速度演算部、21…操舵補助トルク指令値演算部、22…指令値補償部、23…電流制限部、24…モータ駆動回路、31…第1の操舵補助トルク指令値演算部、311…トルク指令値算出部、312…位相補償部、313…センタ応答性改善部、314…加算器、32…第2の操舵補助トルク指令値演算部、32A…セルフアライニングトルク推定部、32B…ゲイン調整部、32C…トルク制限部、321…車両横滑り角推定部、322…角度変化量算出部、323…増幅器、324…加算器、325…セルフアライニングトルク演算部、326…増幅器、327…加算器、328…ローバスフィルタ、329…加算器、330…平均値算出部、331…位相補正部、33…トルクセンサ異常検出部、34…指令値選択部、36…操舵状態ゲイン調整部、37…車速感応ゲイン調整部、38…セルフアライニングトルクゲイン調整部、38A…セルフアライニングトルクゲイン設定部、38B…ゲイン乗算部、39…駆動輪スリップゲイン調整部、40…制御出力制限値計算部、40a…車輪回転速度異常検出部、40b…車輪回転速度制御値演算部、40c…車速制限値演算部、40d…モータ角速度制限値演算部、40e…制限値選択部、41…リミッタ部、43…収斂性補償部、44…慣性補償部、45,46…加算器
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリング機構に入力される操舵トルクを検出する操舵トルク検出手段と、少なくとも前記操舵トルク検出手段で検出した操舵トルクに基づいて第1のトルク指令値を演算する第1のトルク指令値演算手段と、前記ステアリング機構に与える操舵補助トルクを発生する電動モータと、前記トルク指令値に基づいて前記電動モータを駆動制御するモータ制御手段とを備えた電動パワーステアリング装置であって、
前記操舵トルク検出手段の異常を検出するトルク検出部異常検出手段と、
車両の車輪回転速度を検出する車輪回転速度検出手段と、
前記電動モータのモータ回転情報を検出するモータ回転情報検出手段と、
前記車輪回転速度検出手段で検出した前記車輪回転速度に基づいて第2のトルク指令値を演算する第2のトルク指令値演算手段と、
前記トルク検出部異常検出手段で前記トルク検出手段の異常を検出したときに、前記第1のトルク指令値演算手段に代えて、前記第2のトルク指令値演算手段を選択して前記モータ制御手段に第2のトルク指令値を出力する異常時切換手段と、
前記車輪回転速度検出手段で検出した前記車輪回転速度、前記操舵トルク検出手段が正常であるときに検出した操舵トルク及び前記モータ回転情報検出手段で検出した前記モータ回転情報の少なくとも一つに基づいて前記車輪回転速度の異常を検出する車輪回転速度異常検出手段と、
該車輪回転速度異常検出手段で前記車輪回転速度の異常を検出した場合、前記異常時切換手段で前記第2のトルク指令値を選択するときに、当該第2のトルク指令値を制限する異常時指令値制限手段と
を備えたことを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項2】
前記異常時指令値制限手段は、前記車輪回転速度の異常を検出した場合、前記第2のトルク指令値演算手段が選択されるときに、当該第2のトルク指令値の出力を停止させるように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項3】
前記異常時指令値制限手段は、前記車輪回転速度の異常を検出した場合、前記第2のトルク指令値演算手段が選択されるときに、前記第2のトルク指令値を前記車輪回転速度検出手段で検出した左右車輪回転速度差に基づいて制限するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項4】
前記異常時指令値制限手段は、前記車輪回転速度の異常を検出した場合、前記第2のトルク指令値演算手段が選択されるときに、当該異常を検出する前の第2のトルク指令値を第2のトルク指令値として設定するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項5】
前記第2のトルク指令値演算手段は、前記車輪回転速度に基づいて前記ステアリング機構に路面側から伝達されるセルフアライニングトルクを推定するセルフアライニングトルク推定手段を有し、該セルフアライニングトルク推定手段で推定したセルフアライニングトルクに基づいて前記第2のトルク指令値を演算する構成とされていることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項6】
前記第2のトルク指令値演算手段は、前記車輪回転速度に基づいて前記ステアリング機構に路面側から伝達されるセルフアライニングトルクを推定するセルフアライニングトルク推定手段と、該セルフアライニングトルク推定手段で推定したセルフアライニングトルクにゲインを乗算して前記第2のトルク指令値を演算するゲイン調整手段とを備えていることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項7】
前記第2のトルク指令値演算手段は、前記車輪回転速度に基づいて前記ステアリング機構に路面側から伝達されるセルフアライニングトルクを推定するセルフアライニングトルク推定手段と、該セルフアライニングトルク推定手段で推定したセルフアライニングトルクにゲインを乗算して前記第2のトルク指令値を演算するゲイン調整手段と、該ゲイン調整手段で演算した第2のトルク指令値を前記車輪回転速度検出手段で検出した車輪回転速度に基づいて算出した車速及び車速検出手段で検出した車速の一方とモータ角速度演算手段で算出したモータ角速度との少なくとも一方に基づいて制限するトルク制限手段とを備えていることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項8】
前記ゲイン調整手段は、モータ回転情報検出手段で検出したモータ回転情報と前記セルフアライニングトルク推定手段で推定したセルフアライニングトルクとに基づいて切増し状態、切り戻し状態及び保舵状態の何れの操舵状態であるかを判定し、操舵状態の判定結果に基づいて操舵状態感応ゲインを調整する操舵状態ゲイン調整手段を有することを特徴とする請求項6又は7に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項9】
前記ゲイン調整手段は、前記車輪回転速度検出手段で検出した車輪回転速度に基づいて算出した車速及び車速検出手段で検出した車速の一方に基づいて車速感応ゲインを調整する車速ゲイン調整手段を有することを特徴とする請求項6乃至8の何れか1項に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項10】
前記ゲイン調整手段は、モータ回転情報検出手段で検出したモータ回転情報と前記車輪回転速度検出手段で検出した車輪回転速度とに基づいて演算したセルフアライニングトルク演算値と前記セルフアライニングトルク推定手段で推定したセルフアライニングトルク推定値との偏差に基づいてセルフアライニングトルクゲインを調整するセルフアライニングトルクゲイン調整手段を有することを特徴とする請求項6乃至9の何れか1項に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項11】
前記ゲイン調整手段は、前記車輪回転速度検出手段で検出した車輪回転速度に基づいて駆動輪スリップ状態を推定し、推定した駆動輪スリップ状態に基づいて駆動輪スリップ感応ゲインを調整する駆動輪スリップゲイン調整手段を有することを特徴とする請求項6乃至10の何れか1項に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項12】
前記セルフアライニングトルク推定手段は、前記車輪回転速度に基づいて車両横滑り角を推定する車両横滑り角推定手段を有し、該車両横滑り角推定手段で推定した車両横滑り角に基づいてセルフアライニングトルクを推定するように構成されていることを特徴とする請求項5乃至11の何れか1項に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項13】
前記車両横滑り角推定手段は、前記車輪回転速度に基づいて車両横滑り角を推定し、推定した横滑り角をモータ回転情報検出手段で検出したモータ回転情報に基づいて補正するように構成されていることを特徴とする請求項12に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項14】
前記セルフアライニングトルク推定手段は、前記車輪回転速度とモータ回転情報検出手段で検出したモータ回転情報とに基づいてセルフアライニングトルクを推定するように構成されていることを特徴とする請求項5乃至11の何れか1項に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項15】
前記異常時切換手段は、前記第1のトルク指令値演算手段に代えて前記第2のトルク指令値演算手段を選択する場合に、前記第1のトルク指令値から前記第2のトルク指令値に徐々に変化させることを特徴とする請求項1乃至14の何れか1項に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項1】
ステアリング機構に入力される操舵トルクを検出する操舵トルク検出手段と、少なくとも前記操舵トルク検出手段で検出した操舵トルクに基づいて第1のトルク指令値を演算する第1のトルク指令値演算手段と、前記ステアリング機構に与える操舵補助トルクを発生する電動モータと、前記トルク指令値に基づいて前記電動モータを駆動制御するモータ制御手段とを備えた電動パワーステアリング装置であって、
前記操舵トルク検出手段の異常を検出するトルク検出部異常検出手段と、
車両の車輪回転速度を検出する車輪回転速度検出手段と、
前記電動モータのモータ回転情報を検出するモータ回転情報検出手段と、
前記車輪回転速度検出手段で検出した前記車輪回転速度に基づいて第2のトルク指令値を演算する第2のトルク指令値演算手段と、
前記トルク検出部異常検出手段で前記トルク検出手段の異常を検出したときに、前記第1のトルク指令値演算手段に代えて、前記第2のトルク指令値演算手段を選択して前記モータ制御手段に第2のトルク指令値を出力する異常時切換手段と、
前記車輪回転速度検出手段で検出した前記車輪回転速度、前記操舵トルク検出手段が正常であるときに検出した操舵トルク及び前記モータ回転情報検出手段で検出した前記モータ回転情報の少なくとも一つに基づいて前記車輪回転速度の異常を検出する車輪回転速度異常検出手段と、
該車輪回転速度異常検出手段で前記車輪回転速度の異常を検出した場合、前記異常時切換手段で前記第2のトルク指令値を選択するときに、当該第2のトルク指令値を制限する異常時指令値制限手段と
を備えたことを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項2】
前記異常時指令値制限手段は、前記車輪回転速度の異常を検出した場合、前記第2のトルク指令値演算手段が選択されるときに、当該第2のトルク指令値の出力を停止させるように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項3】
前記異常時指令値制限手段は、前記車輪回転速度の異常を検出した場合、前記第2のトルク指令値演算手段が選択されるときに、前記第2のトルク指令値を前記車輪回転速度検出手段で検出した左右車輪回転速度差に基づいて制限するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項4】
前記異常時指令値制限手段は、前記車輪回転速度の異常を検出した場合、前記第2のトルク指令値演算手段が選択されるときに、当該異常を検出する前の第2のトルク指令値を第2のトルク指令値として設定するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項5】
前記第2のトルク指令値演算手段は、前記車輪回転速度に基づいて前記ステアリング機構に路面側から伝達されるセルフアライニングトルクを推定するセルフアライニングトルク推定手段を有し、該セルフアライニングトルク推定手段で推定したセルフアライニングトルクに基づいて前記第2のトルク指令値を演算する構成とされていることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項6】
前記第2のトルク指令値演算手段は、前記車輪回転速度に基づいて前記ステアリング機構に路面側から伝達されるセルフアライニングトルクを推定するセルフアライニングトルク推定手段と、該セルフアライニングトルク推定手段で推定したセルフアライニングトルクにゲインを乗算して前記第2のトルク指令値を演算するゲイン調整手段とを備えていることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項7】
前記第2のトルク指令値演算手段は、前記車輪回転速度に基づいて前記ステアリング機構に路面側から伝達されるセルフアライニングトルクを推定するセルフアライニングトルク推定手段と、該セルフアライニングトルク推定手段で推定したセルフアライニングトルクにゲインを乗算して前記第2のトルク指令値を演算するゲイン調整手段と、該ゲイン調整手段で演算した第2のトルク指令値を前記車輪回転速度検出手段で検出した車輪回転速度に基づいて算出した車速及び車速検出手段で検出した車速の一方とモータ角速度演算手段で算出したモータ角速度との少なくとも一方に基づいて制限するトルク制限手段とを備えていることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項8】
前記ゲイン調整手段は、モータ回転情報検出手段で検出したモータ回転情報と前記セルフアライニングトルク推定手段で推定したセルフアライニングトルクとに基づいて切増し状態、切り戻し状態及び保舵状態の何れの操舵状態であるかを判定し、操舵状態の判定結果に基づいて操舵状態感応ゲインを調整する操舵状態ゲイン調整手段を有することを特徴とする請求項6又は7に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項9】
前記ゲイン調整手段は、前記車輪回転速度検出手段で検出した車輪回転速度に基づいて算出した車速及び車速検出手段で検出した車速の一方に基づいて車速感応ゲインを調整する車速ゲイン調整手段を有することを特徴とする請求項6乃至8の何れか1項に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項10】
前記ゲイン調整手段は、モータ回転情報検出手段で検出したモータ回転情報と前記車輪回転速度検出手段で検出した車輪回転速度とに基づいて演算したセルフアライニングトルク演算値と前記セルフアライニングトルク推定手段で推定したセルフアライニングトルク推定値との偏差に基づいてセルフアライニングトルクゲインを調整するセルフアライニングトルクゲイン調整手段を有することを特徴とする請求項6乃至9の何れか1項に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項11】
前記ゲイン調整手段は、前記車輪回転速度検出手段で検出した車輪回転速度に基づいて駆動輪スリップ状態を推定し、推定した駆動輪スリップ状態に基づいて駆動輪スリップ感応ゲインを調整する駆動輪スリップゲイン調整手段を有することを特徴とする請求項6乃至10の何れか1項に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項12】
前記セルフアライニングトルク推定手段は、前記車輪回転速度に基づいて車両横滑り角を推定する車両横滑り角推定手段を有し、該車両横滑り角推定手段で推定した車両横滑り角に基づいてセルフアライニングトルクを推定するように構成されていることを特徴とする請求項5乃至11の何れか1項に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項13】
前記車両横滑り角推定手段は、前記車輪回転速度に基づいて車両横滑り角を推定し、推定した横滑り角をモータ回転情報検出手段で検出したモータ回転情報に基づいて補正するように構成されていることを特徴とする請求項12に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項14】
前記セルフアライニングトルク推定手段は、前記車輪回転速度とモータ回転情報検出手段で検出したモータ回転情報とに基づいてセルフアライニングトルクを推定するように構成されていることを特徴とする請求項5乃至11の何れか1項に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項15】
前記異常時切換手段は、前記第1のトルク指令値演算手段に代えて前記第2のトルク指令値演算手段を選択する場合に、前記第1のトルク指令値から前記第2のトルク指令値に徐々に変化させることを特徴とする請求項1乃至14の何れか1項に記載の電動パワーステアリング装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【公開番号】特開2012−106678(P2012−106678A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−258238(P2010−258238)
【出願日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】
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