説明

電動パワーステアリング装置

【課題】ステアリングホイールの操舵をアシストする通常制御時に、電源リレーのショート故障を診断することの可能な電動パワーステアリング装置を提供する。
【解決手段】電源からインバータ回路を経由してモータに電力を供給する配線に設けられた電源リレーは、異常時に電源からインバータ回路への通電を遮断する。マイコンは、ステアリングホイールの操舵をアシストする通常制御時に、ステアリングホイールが操舵されていないとき(S4:NO)、電源リレーのショート故障を診断する。EPSは、ステアリングホイールの操舵がされていない時に電源リレーにより通電を遮断することで(S5)、ステアリングホイールの操舵のアシストに影響を与えることなく、電源リレーのショート故障を診断することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ステアリングホイールの操舵をモータの駆動力によってアシストする電動パワーステアリング装置(以下、「EPS」という)が知られている。
特許文献1に記載のEPSは、イグニッションスイッチがオンされた後、ステアリングホイールの操舵をアシストする通常制御を開始する前に、電源リレー、モータリレーおよびモータ駆動回路の故障の有無を診断する故障診断(イニシャルチェック)が行われる。
特許文献2に記載のEPSは、モータに電力を供給する回路に設けられた補助電源6から電源リレーを経由することなくモータへ電力を供給することで、通常制御中に電源リレー(特許文献2では「リレー4」)の溶着の有無を診断している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−182598号公報
【特許文献2】特開2009−248885号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1では、通常制御中に、電源リレーまたはモータリレーの故障診断を行うと、モータに電力を供給することができなくなり、ステアリングホイールの操舵をアシストすることが困難になるおそれがある。このため、通常制御中は、故障診断を行っていなかった。
一方、特許文献2では、電源リレーの故障診断を行うために補助電源および電源回路を増設しているので、EPSの体格が大型化すると共に、部品点数の増加し、製造コストが高くなるという問題がある。
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、ステアリングホイールの操舵をアシストする通常制御時に、電源遮断回路のショート故障を診断することの可能な電動パワーステアリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に係る発明によると、電動パワーステアリング装置は、モータ、モータ駆動回路、制御装置、電源遮断回路、状態検出手段、操舵検出手段および故障診断手段を備える。
モータは、ステアリングホイールの操舵をアシストする。モータ駆動回路は、電源から供給される電流をモータを駆動する駆動電流にしてモータに供給する。制御装置は、モータ駆動回路の動作を制御することで、モータを通電制御する。電源遮断回路は、電源からモータ駆動回路を経由してモータに電力を供給する配線に設けられ、異常時に電源からモータ駆動回路への通電、またはモータ駆動回路からモータへの通電を遮断する。
状態検出手段は、イグニッションスイッチがオンされた後、制御装置がモータ駆動回路の制御によりモータを通電制御する通常制御状態にあることを検出する。
操舵検出手段は、ステアリングホイールが操舵されているか否かを検出する。
故障診断手段は、状態検出手段により制御装置が通常制御状態にあることが検出され、かつ、操舵検出手段により検出されたステアリングホイールの操舵量が所定量以下である場合、電源遮断回路のショート故障を診断する。
これにより、故障診断手段は、通常制御時に、ステアリングホイールの操舵量が所定量以下の場合に限り、電源遮断回路の故障診断を実施する。このため、故障診断手段は、ステアリングホイールの操舵のアシストに影響を与えることなく、電源遮断回路のショート故障を診断することができる。したがって、異常時における電源遮断回路の動作の信頼性を高めることができる。
また、EPSは、補助電源などの設置による体格の大型化、または、部品点数の増加を招くことなく、通常制御時に電源遮断回路のショート故障を診断することができる。
ここで、「操舵量」とは、操舵によるステアリングホイールの基準位置に対する回転角度(°)または移動量(m)をいう。
また、「ステアリングホイールの操舵量が所定量以下の場合」とは、ステアリングホイールの操作がされていない場合に加え、例えばステアリングホイールが遊び部分程度に動作する場合を含むものとする。
【0006】
請求項2に係る発明によると、故障診断手段は、電源遮断回路により通電を遮断し、電源遮断回路とモータとを接続する配線の電圧を監視することで、電源遮断回路のショート故障を診断する。
故障診断手段は、ステアリングホイールの操舵量が所定量以下の場合に限り、電源遮断回路により通電を遮断するので、通常制御時に電源遮断回路の故障診断を行うことができる。
【0007】
請求項3に係る発明によると、操舵検出手段は、ステアリングホイールに接続するステアリングシャフトのトルクを検出するトルクセンサの出力の変化及びモータの角速度を検出する角速度検出手段の少なくともいずれか一方によりステアリングホイールの操舵量を検出する。
これにより、操舵検出手段は、ステアリングホイールの操舵量が所定量以下であるか否かを正確に検出することができる。
【0008】
請求項4に係る発明によると、電動パワーステアリング装置は、モータ、第1、第2モータ駆動回路、制御装置、第1、第2電源遮断回路、状態検出手段および故障診断手段を備える。
モータは、ステアリングホイールの操舵をアシストする。
第1、第2モータ駆動回路は、電源から供給される電流をモータを駆動する駆動電流にしてモータに供給する。
制御装置は、第1、第2モータ駆動回路の動作を制御することで、モータを通電制御する。
第1電源遮断回路は、電源から第1モータ駆動回路を経由してモータに電力を供給する配線に設けられ、異常時に電源から第1モータ駆動回路への通電、または第1モータ駆動回路からモータへの通電を遮断する。
第2電源遮断回路は、電源から第2モータ駆動回路を経由してモータに電力を供給する配線に設けられ、異常時に電源から第2モータ駆動回路への通電、または第2モータ駆動回路からモータへの通電を遮断する。
状態検出手段は、イグニッションスイッチがオンされた後、制御装置が第1モータ駆動回路および第2モータ駆動回路の制御によりモータを通電制御する通常制御状態にあることを検出する。
故障診断手段は、状態検出手段により制御装置が通常制御状態にあることが検出されたとき、第1電源遮断回路および第2電源遮断回路のショート故障を交互に診断する。
制御装置は、故障診断手段により第1電源遮断回路の故障診断が行われている際、故障診断が行われていない第2モータ駆動回路によりモータを通電制御し、第2電源遮断回路の故障診断が行われている際、故障診断が行われていない第1モータ駆動回路によりモータを通電制御する。
これにより、故障診断手段は、通常制御時に、ステアリングホイールの操舵のアシストに影響を与えることなく、電源遮断回路のショート故障を診断することができる。
なお、EPSの備えるモータ駆動回路および電源遮断回路は2系統に限られることなく、EPSは、2系統以上のモータ駆動回路および電源遮断回路を備えていてもよい。
【0009】
請求項5に係る発明によると、制御装置は、第1電源遮断回路の故障診断が行われている際、故障診断が行われていない第2モータ駆動回路からモータへ供給する電流量を増加する。また、制御装置は、第2電源遮断回路の故障診断が行われている際、故障診断が行われていない第1モータ駆動回路からモータへ供給する電流量を増加する。
これにより、モータは、故障診断が行われていない第1または第2モータ駆動回路から供給される電流量の増加により、ステアリングホイールの操舵を確実にアシストすることができる。
【0010】
請求項6に係る発明によると、故障診断手段は、所定時間毎に故障診断を行う。
これにより、故障診断手段の演算負荷を少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1実施形態によるEPSの構成図。
【図2】本発明の第1実施形態によるEPSの回路図。
【図3】本発明の第1実施形態によるEPSの故障診断のフローチャート。
【図4】本発明の第2実施形態によるEPSの故障診断のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の複数の実施形態を図面に基づいて説明する。
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態によるEPSを図1〜図3に基づいて説明する。
図1は、EPS1の全体構成を示す。ステアリングホイール2に接続されたステアリングシャフト3に、操舵トルクを検出するためのトルクセンサ4が取り付けられている。ステアリングシャフト3の先端にはピニオンギヤ5が設けられ、そのピニオンギヤ5はラック軸6に噛み合っている。ラック軸6の両端には、タイロッド等を介して一対の車輪7が回転可能に連結されている。ステアリングシャフト3の回転運動は、ピニオンギヤ5によってラック軸6の直線運動に変換される。ラック軸6の直線運動の変位に応じた角度で車輪7が操舵される。
EPS1は、モータ8、減速ギヤ9、およびモータ8を駆動制御するECU10を備える。モータ8は、三相ブラシレスモータであり、ステアリングホイール2の操舵をアシストするためのアシストトルクを発生する。このトルクは、減速ギヤ9を経由してステアリングシャフト3に伝達される。
【0013】
ECU10の回路構成を図2に示す。ECU10は、パワー部20と制御部40とから構成される。ECU10は、モータ8の駆動を制御する。
ECU10のパワー部20は、第1コンデンサ21、チョークコイル22および複数のパワーモジュール等を備えている。
【0014】
パワー部20には、ECU10の外部に設けられる電源11から電力が供給される。パワー部20の備える第1コンデンサ21およびチョークコイル22は、フィルタ回路を構成し、電源11を共有する他の装置からECU10に伝わるノイズを低減するとともに、ECU10から電源11を共有する他の装置へ伝わるノイズを低減する。また、チョークコイル22は、電源11と電源リレー27,29との間に直列接続され、電圧変動を減衰する。
【0015】
パワー部20は、2個のパワーモジュールを備えている。電源リレー29、30、インバータ回路23を構成するスイッチング素子31〜36、モータリレー25およびシャント抵抗37等を樹脂等の封止体で覆うことで、一方のパワーモジュールは構成される。
電源リレー29、30は、電界効果トランジスタの一種であるMOSFETである。電源リレー29、30は、スイッチング素子31〜36とチョークコイル22との間に設けられ、異常時にスイッチング素子31〜36を経由してモータ8へ流れる電流を遮断可能である。
【0016】
スイッチング素子31〜36は、電源リレー29、30と同様にMOSFETである。スイッチング素子31〜36は、ゲート電圧により、ソース−ドレイン間がオンオフ制御される。
電源側の3個のスイッチング素子31〜33は、ドレインが電源側に接続され、ソースがスイッチング素子31〜33のそれぞれに対応するグランド側の3個のスイッチング素子34〜36のドレインに接続されている。グランド側の3個のスイッチング素子34〜36のソースは、シャント抵抗37を経由してグランドに接続されている。スイッチング素子31〜33と、それに対応するスイッチング素子34〜36との接続点は、それぞれモータ8の三相コイルに接続されている。
【0017】
モータリレー25は、電源リレー29、30と同様にMOSFETである。モータリレー25は、上記接続点とモータ8の三相コイルとの間に設けられ、異常時にインバータ回路23からモータ8に流れる電流を遮断可能である。
電源リレー29、30およびモータリレー25は、特許請求の範囲に記載の「電源遮断回路」または「第1電源遮断回路」に相当する。
【0018】
シャント抵抗37は、スイッチング素子34〜36とグランドとの間に接続されている。シャント抵抗37に印加される電圧または電流を検出することにより、モータ8に流れる駆動電流を検出可能である。
第2コンデンサ38は、スイッチング素子31〜33の電源側の配線とグランド側の配線とに接続されている。つまり、第2コンデンサ38は、スイッチング素子31〜36と並列接続されている。第2コンデンサ38は、電荷を蓄えることでスイッチング素子31〜36への電力供給を補助し、また、電流の切り替えにより生じるリップル電流を吸収する。
【0019】
他方のパワーモジュールの有する他方のインバータ回路24には、チョークコイル22から分岐する配線から電力が供給される。
他方のパワーモジュールは、上述の一方のパワーモジュールと同様の構成のため、説明を省略する。なお、他方のパワーモジュールの備える電源リレー27、28およびモータリレー26は、特許請求の範囲に記載の「電源遮断回路」または「第2電源遮断回路」に相当する。
【0020】
制御部40は、カスタムIC41、回転角センサ42、マイコン43およびプリドライバ44、45等から構成されている。
カスタムIC41は、レギュレータ46、回転角センサ信号増幅部47および検出電圧増幅部48等を含む半導体集積回路である。
レギュレータ46は、電源11から供給される電力を安定化する安定化回路である。レギュレータ46は、制御部40の各部へ供給される電力の安定化を行う。制御部40の電源回路に設けられたイグニッションスイッチ12がオンされると、電源からレギュレータ46を経由してマイコン43等へ電力が供給される。このため、マイコン43は、安定した所定の電圧(例えば5V)で動作する。
【0021】
回転角センサ信号増幅部47には、回転角センサ42からの信号が入力される。回転角センサ42は、モータ8のシャフトに設けられた磁石の磁界内に設けられ、周囲の磁界の変化を検出し、その検出値をモータ8の回転角度に関する信号として回転角センサ信号増幅部47に伝送する。回転角センサ信号増幅部47は、回転角センサ42から伝送されたモータ8の回転角度に関する信号を増幅し、マイコン43へ出力する。
マイコン43は、回転角センサ42から伝送された信号に基づき、モータの角速度を検出可能である。マイコン43及び回転角センサ42は、特許請求の範囲に記載の「角速度検出手段」に相当する。
検出電圧増幅部48は、シャント抵抗37の両端電圧を検出し、その検出した検出値を増幅し、マイコン43へ出力する。
【0022】
マイコン43は、演算手段としてのCPU、記憶手段としてのROMおよびRAM等を有する小型のコンピュータである。マイコン43は、ROMに格納された各種プログラムに従い、CPUによって種々の処理が実行される。マイコンは、特許請求の範囲に記載の「制御装置」「状態検出手段」または「故障診断手段」として機能する。
【0023】
マイコン43には、回転角センサ信号増幅部47からモータ8の回転角度に関する信号、検出電圧増幅部48からシャント抵抗37の両端電圧、トルクセンサ4から操舵トルク信号、およびCANから車速情報等が入力される。マイコン43は、これらの信号が入力されると、モータ8の回転角度に基づきプリドライバ44、45を介してインバータ回路23、24を制御する。
また、マイコン43は、検出電圧増幅部48から入力されるシャント抵抗37の両端電圧に基づき、モータ8へ供給する電流を正弦波に近づけるようインバータ回路23、24を制御する。
【0024】
本実施形態では、ECU10は、2系統のモータ駆動回路を備えている。マイコン43は、一方のプリドライバ44により一方のインバータ回路23を制御するのと同様に、他方のプリドライバ45により他方のインバータ回路24を制御する。一方のプリドライバ44および一方のインバータ回路23は、特許請求の範囲に記載の「モータ駆動回路」または「第1モータ駆動回路」に相当する。他方のプリドライバ45および他方のインバータ回路24は、特許請求の範囲に記載の「モータ駆動回路」または「第2モータ駆動回路」に相当する。
【0025】
マイコン43は、回転角センサ42、トルクセンサ4、シャント抵抗37、CANからの車速情報等に基づき、車速に応じてステアリング2の操舵をアシストするように、プリドライバ44、45を介してPWM制御により作り出されたパルス信号を生成する。このパルス信号は、2系統のインバータ回路23、24のスイッチング素子のオンオフの切り替え動作を制御する。これにより、モータ8には、位相の異なる正弦波の駆動電流が供給され、モータのステータコイルに回転磁界が生じる。この回転磁界によりモータ8は回転力を発生し、運転者のステアリング2による操舵がアシストされる。
【0026】
次に、本実施形態によるEPS1が実行する故障診断について、図3のフローチャートを参照して説明する。
処理は、車両のイグニッションスイッチ12がオンされることで開始される。
ステップS1(以後、「ステップ」を省略し、単にSと表記する)では、イニシャルチェックが実行される。イニシャルチェックでは、電源リレー27〜30、スイッチング素子31〜36、シャント抵抗37およびモータリレー25、26などの故障検出が行われる。
イニシャルチェックが終了すると、マイコン43は、プリドライバ44、45を通じて2系統のインバータ回路23、24のスイッチング素子31〜36を制御し、モータ8の通電制御を開始する(S2)。このとき、マイコン43は、CPUの処理状態がイニシャルチェックを終了し、モータ8を通電制御する通常制御状態に遷移したことを検出する。
【0027】
マイコン43が通電制御を開始してから予め設定された所定時間を経過すると(S3:YES)、故障診断処理が開始される。
故障診断処理では、まずS4で、ステアリングホイール2が操舵されているか否かを検出する。ステアリングホイール2の操舵は、トルクセンサ4によって検出されるステアリングシャフト3のトルクの変化、または回転角センサ42によって検出されるモータ8の角速度に基づいて検出することが可能である。また、トルクセンサ4および回転角センサ42の両方の信号に基づいて検出することも可能である。
故障診断処理は、ステアリングホイール2の操舵がされていることが検出されているときは、その実行を待つ(S4:YES)。
一方、故障診断処理は、ステアリングホイール2の操舵がされていないことが検出されると、故障診断を実行する(S4:NO)。
ここで、故障診断処理の判断として、例えばステアリングホイール2の遊び程度の動作は「ステアリングホイール2の操舵がされていないこと」に含まれるものとすることが可能である。
【0028】
S5で、マイコン43は、電源リレー29、30に対して通電を遮断するための信号を出力し、電源リレー側のスイッチング素子31〜33と電源リレー29、30とを接続する配線13の電圧を監視する。この配線13の電圧が低下すれば、電源リレー29、30は通電を遮断する動作を正常に行っており、電源リレー29、30の溶着によるショート故障は生じていない(S6:YES)。このとき、処理は、電源リレー29、30を「正常」と判定する(S7)。そして、マイコン43は、電源リレー29、30が通電を行うための信号を出力し、インバータ回路23の配線13の電圧が上昇したことを確認する(S8)。
【0029】
一方、S5で、マイコン43から電源リレー29、30に対して通電を遮断するための信号を出力し、インバータ回路23の配線13の電圧が低下しなければ、電源リレー29、30の溶着によるショート故障が生じている可能性がある(S6:NO)。このとき、処理は、電源リレー29、30を「異常」と判定する(S9)。そして、警告灯を点灯するなどの処理を行い、運転者に注意喚起する。そして、マイコン43は、電源リレー29、30が通電を行うための信号を出力し、インバータ回路23の配線13の電圧を確認する(S8)。
故障診断処理は、マイコン43がモータ8を通常制御している間、S3〜S8またはS9までの処理を継続して実行する。
なお、電源リレー27〜30の故障診断は、一方のインバータ回路23の電源リレー29、30の故障診断と、他方のインバータ回路24の電源リレー27、28の故障診断とを同時に行うことが可能である。また、電源リレー27〜30の故障診断は、一方のインバータ回路23の電源リレー29、30の故障診断と、他方のインバータ回路24の電源リレー27、28の故障診断とを交互に行ってもよい。
【0030】
本実施形態では、マイコン43がモータ8を通常制御する通常制御状態にあり、かつ、ステアリングホイール2が操舵されていないとき、電源リレー27〜30の故障診断処理を実行する。したがって、EPS1は、ステアリングホイール2の操舵のアシストに影響を与えることなく、電源リレー27〜30により通電を遮断し、電源リレー27〜30のショート故障を診断することが可能である。このため、イニシャルチェックに加え、通常制御時にも電源リレー27〜30のショート故障を診断することで、異常時における電源リレー27〜30の動作の信頼性を高めることができる。
本実施形態では、通常制御時において所定時間ごとに電源リレー27〜30の故障診断を実施することで、マイコン43の演算負荷を少なくすることができる。
【0031】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態によるEPSの故障診断を図4のフローチャートに基づいて説明する。第2実施形態において、上述した第1実施形態と実質的に同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
なお、第2実施形態では、一方のパワーモジュールの備える電源リレー29、30およびインバータ回路23を、第1電源リレー29、30および第1インバータ回路23と称する。また、他方のパワーモジュールの備える電源リレー27、28およびインバータ回路24を、第2電源リレー27、28および第2インバータ回路24と称する。
【0032】
S1〜S3までは、第1実施形態と同様である。マイコン43がモータ8の通電制御を開始してから所定時間が経過すると(S3:YES)、故障診断処理が開始される。
故障診断処理では、まずS10で、マイコン43は、第1電源リレー29、30に対して通電を遮断するための信号を出力し、第1電源リレー側のスイッチング素子31〜33と第1電源リレー29、30とを接続する第1インバータ回路23の配線13の電圧を監視する。
このとき、マイコン43は、第2インバータ回路24からモータ8へ供給する電流量を増加する。これにより、第1インバータ回路23からモータ8への通電が停止しているとき、モータ8のアシストトルクが減少することを抑制することができる。
【0033】
第1インバータ回路23の配線13の電圧が低下すれば、第1電源リレー29、30は通電を遮断する動作を正常に行っており、第1電源リレー29、30の溶着によるショート故障は生じていない(S11:YES)。このとき、処理は、第1電源リレー29、30を「正常」と判定する(S12)。そして、マイコン43は、第1電源リレー29、30が通電を行うための信号を出力し、第1インバータ回路23の配線13の電圧が上昇したことを確認する。(S13)。
【0034】
一方、S11で、マイコン43から第1電源リレー29、30に対して通電を遮断するための信号を出力し、第1インバータ回路23の配線13の電圧が低下しなければ、第1電源リレー29、30の溶着によるショート故障が生じている可能性がある(S11:NO)。このとき、処理は、第1電源リレー29、30を「異常」と判定する(S18)。そして、警告灯を点灯するなどの処理を行い、運転者に注意喚起する。続いて、マイコン43は、第1電源リレー29、30が通電を行うための信号を出力し、第1インバータ回路23の配線13の電圧を確認する。(S13)。
【0035】
第1電源リレー29、30が通電し、第1インバータ回路23の配線13の電圧が正常であることが確認されると、マイコン43は、第2電源リレー27、28に対して通電を遮断するための信号を出力する。そして、第2電源リレー側のスイッチング素子と第2電源リレー27、28とを接続する第2インバータ回路24の配線の電圧を監視する。
このとき、マイコン43は、第1インバータ回路23からモータ8へ供給する電流量を増加する。これにより、第2インバータ回路24からモータ8への通電が停止しているとき、モータ8のアシストトルクが減少することを抑制することができる。
第2インバータ回路24の配線の電圧が低下すれば、第2電源リレー27、28は通電を遮断する動作を正常に行っており、第2電源リレー27、28の溶着によるショート故障は生じていない(S15:YES)。このとき、処理は、第2電源リレー27、28を「正常」と判定する(S16)。そして、マイコン43は、第2電源リレー27、28が通電を行うための信号を出力し、第2インバータ回路24の配線の電圧が上昇したことを確認する。(S17)。
【0036】
一方、S15で、マイコン43から第2電源リレー27、28に対して通電を遮断するための信号を出力し、第2インバータ回路24の配線の電圧が低下しなければ、第2電源リレー27、28の溶着によるショート故障が生じている可能性がある(S15:NO)。このとき、処理は、第2電源リレー27、28を「異常」と判定する(S19)。そして、警告灯を点灯するなどの処理を行い、運転者に注意喚起する。続いて、マイコン43は、第2電源リレー27、28が通電を行うための信号を出力し、第2インバータ回路24の配線の電圧を確認する。(S17)。
故障診断処理は、マイコン43がモータ8を通常制御している間、S3及びS10〜S19までの処理を継続して実行する。
【0037】
第2実施形態では、マイコン43がモータ8を通常制御する通常制御状態にあるとき、第1電源リレー29、30の故障診断と、第2電源リレー27、28の故障診断とを交互に実行する。したがって、EPSは、ステアリングホイール2の操舵のアシストに影響を与えることなく、第1及び第2電源リレー27〜30により通電を遮断し、第1及び第2電源リレー27〜30のショート故障を診断することができる。
本実施形態では、第1電源リレー29、30の故障診断が行われている際、第2インバータ回路24からモータ8へ供給する電流量を増加する。また、第2電源リレー27、28の故障診断が行われている際、第1インバータ回路23からモータ8へ供給する電流量を増加する。これにより、モータ8は、故障診断が行われていない第1インバータ回路23または第2インバータ回路24からモータ8への通電により、モータ8のアシストトルクの低下を抑制し、ステアリングホイール2の操舵を確実にアシストすることができる。
【0038】
(他の実施形態)
上述した第1実施形態では、S4においてステアリングホイール2の操舵がされていないことが検出された場合に故障診断を実行した。これに対し、他の実施形態では、トルクセンサ4や回転角センサ42によってステアリングホイール2の操舵量を検出し、その検出された操舵量が所定量以下の場合、例えば、ステアリングホイール2の遊び部分程度の操舵の場合は、故障診断を実施してもよい。
上述した複数の実施形態では、2系統のインバータ回路23、24を備えるEPSについて説明した。これに対し、他の実施形態では、1系統または3系統以上のインバータ回路を備えるEPSに第1実施形態の故障診断処理を適用してもよい。また、3系統以上のインバータ回路を備えるEPSに第2実施形態の故障診断処理を適用してもよい。
上述した複数の実施形態では、通常制御時に電源リレー27〜30のショート故障診断を行った。これに対し、他の実施形態では、通常制御時にモータリレー25、26のショート故障診断を行ってもよい。この場合、マイコン43は、モータリレー25、26に対して通電を遮断するための信号を出力し、モータリレー25、26とモータ8とを接続する配線の電圧を監視する。この配線の電圧が低下すれば、モータリレー25、26の溶着によるショート故障は生じていない。一方、電圧が低下しなければ、モータリレー25、26の溶着によるショート故障が生じている可能性がある。
このように、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、上記複数の実施形態を組み合わせることに加え、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の形態で実施することができる。
【符号の説明】
【0039】
1 ・・・電動パワーステアリング装置(EPS)
2 ・・・ステアリングホイール
4 ・・・トルクセンサ
8 ・・・モータ
11・・・電源
12・・・イグニッションスイッチ
23・・・第1インバータ回路(モータ駆動回路、第1モータ駆動回路)
24・・・第2インバータ回路(モータ駆動回路、第2モータ駆動回路)
29、30・・・第1電源リレー(電源遮断回路、第1電源遮断回路)
27、28・・・第2電源リレー(電源遮断回路、第2電源遮断回路)
25・・・モータリレー(電源遮断回路、第1電源遮断回路)
26・・・モータリレー(電源遮断回路、第2電源遮断回路)
43・・・マイコン(制御装置、状態検出手段、操舵検出手段、故障診断手段)
42・・・回転角センサ(角速度検出手段)
44・・・プリドライバ(モータ駆動回路、第1モータ駆動回路)
45・・・プリドライバ(モータ駆動回路、第2モータ駆動回路)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングホイールの操舵をアシストするモータと、
電源から供給される電流をモータを駆動する駆動電流にして前記モータに供給するモータ駆動回路と、
前記モータ駆動回路の動作を制御することで、前記モータを通電制御する制御装置と、
前記電源から前記モータ駆動回路を経由して前記モータに駆動電流が供給される配線に設けられ、異常時に前記電源から前記モータ駆動回路への通電、または前記モータ駆動回路から前記モータへの通電を遮断する電源遮断回路と、
イグニッションスイッチがオンされた後、前記制御装置が前記モータ駆動回路の制御により前記モータを通電制御する通常制御状態にあることを検出する状態検出手段と、
前記ステアリングホイールの操舵量を検出する操舵検出手段と、
前記状態検出手段により前記制御装置が前記通常制御状態にあることが検出され、かつ、前記操舵検出手段により検出された前記ステアリングホイールの操舵量が所定量以下である場合、前記電源遮断回路のショート故障を診断する故障診断手段と、を備えることを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項2】
前記故障診断手段は、前記電源遮断回路により通電を遮断し、前記電源遮断回路と前記モータとを接続する配線の電圧を監視することで、前記電源遮断回路のショート故障を診断することを特徴とする請求項1に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項3】
前記操舵検出手段は、前記ステアリングホイールに接続するステアリングシャフトのトルクを検出するトルクセンサの出力の変化及び前記モータの角速度を検出する角速度検出手段の少なくともいずれか一方により前記ステアリングホイールの操舵量を検出することを特徴とする請求項1または2に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項4】
ステアリングホイールの操舵をアシストするモータと、
電源から供給される電流をモータを駆動する駆動電流にして前記モータに供給する第1モータ駆動回路および第2モータ駆動回路と、
前記第1モータ駆動回路および前記第2モータ駆動回路の動作を制御することで、前記モータを通電制御する制御装置と、
前記電源から前記第1モータ駆動回路を経由して前記モータに駆動電流が供給される配線に設けられ、異常時に前記電源から前記第1モータ駆動回路への通電、または前記第1モータ駆動回路から前記モータへの通電を遮断する第1電源遮断回路と、
前記電源から前記第2モータ駆動回路を経由して前記モータに駆動電流が供給される配線に設けられ、異常時に前記電源から前記第2モータ駆動回路への通電、または前記第2モータ駆動回路から前記モータへの通電を遮断する第2電源遮断回路と、
イグニッションスイッチがオンされた後、前記制御装置が前記第1モータ駆動回路および前記第2モータ駆動回路の制御により前記モータを通電制御する通常制御状態にあることを検出する状態検出手段と、
前記状態検出手段により前記制御装置が前記通常制御状態にあることが検出されたとき、前記第1電源遮断回路および前記第2電源遮断回路のショート故障を交互に診断する故障診断手段と、を備え、
前記制御装置は、
前記故障診断手段により前記第1電源遮断回路の故障診断が行われている際、故障診断が行われていない前記第2モータ駆動回路により前記モータを通電制御し、
前記第2電源遮断回路の故障診断が行われている際、故障診断が行われていない前記第1モータ駆動回路により前記モータを通電制御することを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項5】
前記制御装置は、
前記第1電源遮断回路の故障診断が行われている際、故障診断が行われていない前記第2モータ駆動回路から前記モータへ供給する電流量を増加し、
前記第2電源遮断回路の故障診断が行われている際、故障診断が行われていない前記第1モータ駆動回路から前記モータへ供給する電流量を増加することを特徴とする請求項4に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項6】
前記故障診断手段は、所定時間毎に故障診断を行うことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の電動パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−79027(P2013−79027A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−220826(P2011−220826)
【出願日】平成23年10月5日(2011.10.5)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】