説明

操舵装置

【課題】装置コストを低減しつつ、信頼性の高いステアバイヤ方式操舵を行うこと。
【解決手段】操舵反力用モータの回転を制御するレゾルバおよび/または転舵用モータの回転を制御するレゾルバから相対舵角を取得し、直進状態判定部によって車両が直進状態にあると判定された場合に、基準値決定部が、取得された相対舵角の基準値を決定したうえで、絶対舵角算出部が、決定された基準値を始点として取得された相対舵角を積算することで絶対舵角を算出するように操舵装置を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵ハンドルに対して操舵反力を付与する操舵反力用モータと転舵輪を転舵する転舵用モータとを含んだステアバイワイヤ方式の操舵装置に関し、特に、装置コストを低減しつつ、信頼性の高いステアバイヤ方式操舵を行うことができる操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車などの車両の操舵方式として、操舵ハンドルと前輪などの転舵輪との機械的な結合を排除したステアバイワイヤ方式が提案されている(たとえば、特許文献1や特許文献2参照)。
【0003】
かかるステアバイワイヤ方式によれば、操舵ハンドルと転舵輪とを接続する動力伝達用シャフト等が不要となるので、操舵用部材の配置自由度が高まるほか、操舵ハンドルに入力された操舵角と実際の転舵角との比率を自由に設定することができる。
【0004】
ところで、ステアバイワイヤ方式では、操舵側の部材と転舵側の部材とが機械的に切り離されているので、操舵ハンドルに入力された操舵側舵角と、転舵輪を転舵する転舵側舵角とをそれぞれ個別に検出する必要がある。
【0005】
このため、操舵側には操舵側の絶対舵角を検出する絶対舵角センサを、転舵側には転舵側の絶対舵角を検出する絶対舵角センサをそれぞれ設け、操舵側の絶対舵角と転舵側の絶対舵角とを個別に検出することが一般的に行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−290136号公報
【特許文献2】特開2006−193083号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、絶対舵角センサは高価であるため、操舵側および転舵側にそれぞれ絶対舵角センサを設けると、操舵装置の装置コストがかさんでしまうという問題があった。また、絶対舵角センサの故障時に、ステアバイワイヤ方式の操舵を継続することができないという問題もあった。
【0008】
これらのことから、装置コストを低減しつつ、信頼性の高いステアバイヤ方式操舵を行うことができる操舵装置をいかにして実現するかが大きな課題となっている。
【0009】
本発明は、上述した従来技術による問題点を解消するためになされたものであって、装置コストを低減しつつ、信頼性の高いステアバイヤ方式操舵を行うことができる操舵装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、操舵ハンドルに対して操舵反力を付与する操舵反力用モータと転舵輪を転舵する転舵用モータとを含んだステアバイワイヤ方式の操舵装置であって、車両が直進状態にあるか否かを判定する直進状態判定手段と、前記操舵反力用モータの回転を制御するレゾルバおよび/または前記転舵用モータの回転を制御するレゾルバから相対舵角を取得する相対舵角取得手段と、前記直進状態判定手段によって車両が直進状態にあると判定された場合に、前記相対舵角取得手段によって取得された相対舵角の基準値を決定する基準値決定手段と、前記基準値決定手段によって決定された基準値を始点として前記相対舵角取得手段によって取得された相対舵角を積算することで絶対舵角を算出する絶対舵角算出手段とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、車両が直進状態にあるか否かを判定し、操舵反力用モータの回転を制御するレゾルバおよび/または転舵用モータの回転を制御するレゾルバから相対舵角を取得し、車両が直進状態にあると判定された場合に、取得された相対舵角の基準値を決定したうえで、決定された基準値を始点として取得された相対舵角を積算することで絶対舵角を算出することとしたので、直進状態時の相対舵角を基準値としたうえで、相対舵角を積算することで絶対舵角を算出することとしたので、絶対舵角センサを用いることなく高精度な絶対舵角を得ることができる。したがって、装置コストを低減しつつ、信頼性の高いステアバイヤ方式操舵を行うことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明に係る操舵手法の概要を示す図である。
【図2】図2は、本実施例に係る操舵装置の構成を示すブロック図である。
【図3】図3は、絶対舵角算出処理を説明するための図である。
【図4】図4は、直進状態判定条件の一例を示す図である。
【図5】図5は、操舵装置が実行する処理手順を示すフローチャートである。
【図6】図6は、モータレゾルバあるいは絶対舵角センサの組合せ変形例を示す図である。
【図7】図7は、絶対舵角センサのセンサ値を監視する場合の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に添付図面を参照して、本発明に係る操舵装置の実施例を詳細に説明する。なお、以下では、本発明に係る操舵手法の概要について図1を用いて説明した後に、本発明に係る操舵手法を適用した操舵装置の実施例について説明することとする。
【0014】
まず、本発明に係る操舵手法の概要について図1を用いて説明する。図1は、本発明に係る操舵手法の概要を示す図である。同図に示すように、ステアバイワイヤ方式の操舵システムでは、操舵ハンドル1aを含む操舵側のユニットと、転舵輪1bを含む転舵側のユニットとを機械的に切り離すクラッチ1cを備えていることが通常である。
【0015】
具体的には、クラッチ1cが切れた状態では、操舵側のユニットと転舵側のユニットとは機械的に切り離され、それぞれ独立して動作するステアバイワイヤ状態となる。一方、クラッチ1cが接続された状態では、操舵側のユニットと転舵側のユニットとが機械的に接続されるので、通常のパワーステアリング状態として動作することができる。なお、かかるパワーステアリング状態は、ステアバイワイヤ状態のバックアップとしての役割を果たす。
【0016】
以下では、クラッチ1cが切れた状態、すなわち、操舵装置がステアバイワイヤ状態で動作する場合について説明する。操舵側には、操舵ハンドル1aに対して反力をかけるための操舵側モータ2が設けられており、転舵側には、転舵輪1bを作動させるための転舵側モータ3が設けられている。
【0017】
ここで、従来は、操舵ハンドル1aに入力された操舵側舵角を検出するために、操舵側には操舵側絶対舵角センサが設けられており、転舵側には転舵側絶対舵角センサが設けられていた。しかし、これらの絶対舵角センサは高価であるため、ステアバイワイヤ方式の操舵装置の装置コストを押し上げる要因となっていた。
【0018】
このため、本発明に係る操舵手法では、絶対舵角センサを設ける代わりに、モータ(操舵側モータ2あるいは転舵側モータ3)の回転制御に用いられるレゾルバ(以下、「モータレゾルバ」と記載する)を利用して絶対舵角を算出することとした。
【0019】
ここで、モータレゾルバは、複相モータの回転制御に用いられるため、高精度な舵角検出が可能である。しかし、検出される舵角は、相対角度であるため、かかる舵角をそのままステアバイワイヤ方式の操舵に用いることはできない。
【0020】
たとえば、4相モータの場合、モータレゾルバは、モータの軸が1回転(360度)する間に、4つの相に対してそれぞれ90度にわたる制御を行う。この場合、モータレゾルバから取得することができる舵角は、0度〜90度の範囲となる。
【0021】
そこで、本発明に係る操舵手法では、モータレゾルバから相対舵角を取得したうえで(同図の(A)参照)、車両の直進状態を検知して相対舵角の基準値を決定することとした(同図の(B)参照)。
【0022】
そして、決定した基準値に基づいて絶対舵角を算出することとした(同図の(C)参照)。具体的には、同図の(B)で決定した基準値を基準として、モータレゾルバから取得した相対舵角を積算することによって絶対舵角を算出する。
【0023】
なお、図1では、操舵側モータ2のモータレゾルバを用いて操舵側の絶対舵角を算出し、転舵側の絶対舵角については、転舵側絶対舵角センサで取得する場合について示している。
【0024】
しかしながら、これに限らず、転舵側についても転舵側絶対舵角センサを省いたうえで、転舵側モータ3のモータレゾルバを用いて転舵側の絶対舵角を算出することとしてもよい。このようにすることで、高価な絶対舵角センサを用いることなくステアバイワイヤ方式の操舵を行うことができる。
【0025】
また、絶対舵角センサとモータレゾルバによる絶対舵角算出とを併用することとしてもよい。このようにすることで、絶対舵角センサの故障の有無を監視することができるとともに、絶対舵角センサが故障した場合には、モータレゾルバに基づく絶対舵角を用いてステアバイワイヤ方式の操舵を継続することが可能となる。なお、この点の詳細については、図6等を用いて後述することとする。
【0026】
以下では、かかる操舵手法を適用した操舵装置についての実施例を詳細に説明する。なお、以下では、操舵側モータ2の回転制御を行うモータレゾルバを用いて操舵側の絶対舵角を算出する場合について説明することとする。
【実施例】
【0027】
図2は、本実施例に係る操舵装置10の構成を示すブロック図である。同図に示すように、操舵装置10は、車両センサ11と、モータレゾルバ12と、バックアップ機構13と、制御部14と、記憶部15とを備えている。
【0028】
また、制御部14は、起動時処理部14aと、直進状態判定部14bと、基準値決定部14cと、絶対舵角算出部14dと、ステアバイワイヤ処理部14eと、終了時処理部14fとをさらに備えている。そして、記憶部15は、基準値15aと、終了時相対舵角15bとを記憶する。
【0029】
車両センサ11は、車速センサ、ヨーレートセンサ、横G(ジー)センサといった車両運動検知用のセンサであり、取得した各センサ値を制御部14の直進状態判定部14bに渡す。なお、各センサ値は、直進状態判定部14bが、車両が直進状態にあるか否かを判定する際に用いられる。また、車両センサ11にGPS(Global Positioning System)センサや、加速度センサを含めることとしてもよい。
【0030】
モータレゾルバ12は、図1に示した操舵側モータ2の回転制御用のレゾルバであり、検知した相対舵角を制御部14へ渡す処理を行う。なお、本実施例では、操舵側モータ2のレゾルバをモータレゾルバ12として用いる場合について説明するが、転舵側モータ3のレゾルバをモータレゾルバ12として用いることとしてもよい。
【0031】
バックアップ機構13は、図1に示した操舵側のユニットと、転舵側のユニットとを機械的に接続するための機構であり、たとえば、図1に示したクラッチ1cを含む。この場合、クラッチ1cを接続する制御を行うことでバックアップ機構13が作動し、クラッチを切る制御を行うことでバックアップ機構13が休止することになる。
【0032】
制御部14は、モータレゾルバ12から相対舵角を受け取るとともに、車両の直進状態を検知した場合に、相対舵角の基準値を決定し、決定した基準値について相対舵角を積算することで絶対舵角を算出する処理を行う処理部である。また、制御部14は、操舵装置10の起動時処理および終了時処理を行う処理部でもある。
【0033】
起動時処理部14aは、操舵装置10の起動時に作動する処理部であり、モータレゾルバ12から受け取った相対舵角と、記憶部15から読み出した終了時相対舵角15bとを対比する。そして、直進状態判定を行ってあらたな基準値15aを決定するか、記憶部15の基準値15aをそのまま使用するか、を決定する処理を行う。
【0034】
具体的には、この起動時処理部14aは、モータレゾルバか12から受け取った起動時の相対舵角と、終了時相対舵角15bとの差分が所定値未満である場合には、記憶部15に記憶された基準値15aを使用して絶対舵角算出を行うように絶対舵角算出部14dへ指示する。一方、かかる差分が所定値以上である場合には、直進状態判定を行うように直進状態判定部14bに対して指示する。
【0035】
なお、終了時相対舵角15bとの差分が所定値以上である場合とは、操舵装置10の終了後に、操舵ハンドル1aが操作されたり、外部的要因で転舵輪1bの舵角が変更されたりした場合を指す。このような場合、終了時の基準値15aを用いると、操舵側舵角と転舵側舵角とが相対的にずれてしまうので、あらたに基準値15aを決定する処理を行う必要がある。
【0036】
直進状態判定部14bは、車両センサ11から受け取った車速、ヨーレート、横G等に基づいて車両が直進状態にあるか否かを判定する処理部である。また、直進状態判定部14bは、車両が直進状態にあると判定した場合には、その旨を基準値決定部14cに対して通知する。
【0037】
なお、同図では、起動時処理部14aからの指示に基づいて直進状態判定部14bが作動する場合を例示しているが、直進状態判定部14bが直進状態を判定するタイミングについては起動時以外の任意のタイミングとしてもよい。また、直進状態判定部14bが用いる直進状態判定条件については、図4を用いて後述することとする。
【0038】
基準値決定部14cは、直進状態判定部14bから車両が直進状態である旨の通知を受けたタイミングにおけるモータレゾルバ12からの相対舵角を、基準値15aとして記憶部15へ記憶させる処理を行う処理部である。なお、基準値15aには、モータレゾルバ12からの相対舵角と、かかる相対舵角に対応する転舵側絶対舵角とが含まれるものとする。
【0039】
絶対舵角算出部14dは、記憶部15から読み出した基準値15aを基準として、モータレゾルバ12からの相対舵角を積算することで、絶対舵角を算出する処理を行う処理部である。また、絶対舵角算出部14dは、算出した絶対舵角をステアバイワイヤ処理部14eへ随時通知する処理を併せて行う。なお、絶対舵角算出部14dが行う絶対舵角算出処理の詳細については、図3を用いて後述する。
【0040】
ステアバイワイヤ処理部14eは、絶対舵角算出部14dから受け取った絶対舵角に基づいてステアバイワイヤ方式の操舵を行う処理部である。なお、このステアバイワイヤ処理部14eは、ステアバイワイヤ方式の操舵を開始した場合には、バックアップ機構13を切り離す処理を併せて行う。
【0041】
終了時処理部14fは、操舵装置10が終了指示を受け付けた場合、たとえば、イグニッションスイッチがオフとなった場合に、操舵側舵角と転舵側舵角との一致処理を行う処理部である。また、この終了時処理部14fは、かかる一致処理の後に、モータレゾルバ12からの相対舵角を終了時相対舵角15bとして記憶部15へ記憶させる処理を併せて行う。
【0042】
そして、終了時処理部14fは、操舵側舵角と転舵側舵角との一致処理、終了時相対舵角15bの記憶処理につづき、バックアップ機構13を接続する処理を行う。なお、バックアップ機構13の接続処理については、起動時処理部14aが行うこととしてもよい。
【0043】
記憶部15は、ハードディスクドライブや不揮発性メモリといった記憶デバイスで構成される記憶部であり、基準値15aと、終了時相対舵角15bとを記憶する。なお、基準値15aおよび終了時相対舵角15bについては既に説明したので、ここでの説明を省略する。
【0044】
次に、絶対舵角算出部14dが行う絶対舵角算出処理の詳細な内容について図3を用いて説明する。図3は、絶対舵角算出処理を説明するための図である。なお、同図の(A)には、モータレゾルバ12による検出角(相対舵角)を、同図の(B)には、相対舵角の積算に用いられるカウンタを、同図の(C)には、算出された絶対舵角を、それぞれ示している。
【0045】
図3の(A)に示したように、モータレゾルバ12による検出角(相対舵角)は、点A4で最大値をとると、点A1で0の値をとる。そして、点A2に向けて線形的に変化して点A2で再び最大値をとり、点A5で再び0の値をとる。たとえば、モータが4相モータである場合には、検出角(相対舵角)は、0度〜90度の範囲で、線形的に増減する。
【0046】
ここで、図3の(A)に示したように、点A3が基準値検出位置である場合には、図3の(B)に示したように、点A1〜点A2までの区間におけるカウンタを「0」とする。そして、点A5を含む区間のカウンタについては「+1」、点A4を含む区間のカウンタについては「−1」とする。なお、カウンタは、正方向については「+1」、「+2」のように、負方向については「−1」、「−2」のように変化するものとする。
【0047】
このようにすることで、図3の(C)に示した絶対舵角が算出される。すなわち、点A3に対応する点C3の絶対舵角を0としたうえで、「相対舵角の最大値×カウンタ値」を加算して図3の(A)に示した各線分(たとえば、線分A1A2)をつなぎあわせることで、絶対舵角を算出することができる。
【0048】
たとえば、図3の(C)に示した点C1は、図3の(A)に示した点A1および点A4に、図3の(C)に示した点C2は、図3の(A)に示した点A2および点A5に、それぞれ対応している。
【0049】
次に、直進状態判定部14bが使用する直進状態判定条件の例について図4を用いて説明する。図4は、直進状態判定条件の一例を示す図である。以下では、同図に示したA〜Dを用いて各条件を、条件A、条件Bのように記載することとする。
【0050】
条件Aは、車速が所定の閾値よりも大きいという条件である。このように、車速に対する条件を設けるのは、車速が小さい場合、直進状態と非直線状態とが入れ替わりやすく、直進状態を正確に検出しにくいためである。
【0051】
条件Bは、ヨーレートが所定の閾値よりも小さいという条件であり、条件Cは、横G(ジー)が所定の閾値よりも小さいという条件である。また、条件Dは、舵角変化量が所定の閾値よりも小さいという条件である。なお、条件Dでは、モータレゾルバ12から取得した相対舵角あるいは、絶対舵角算出部14dによって算出された絶対舵角を所定の閾値と対比する。
【0052】
このように、直進状態判定部14bは、条件A〜条件Dをすべて満たした場合に、車両が直進状態にあると判定することができる。なお、条件Aを満たしたうえで、条件B〜条件Dのうちいずれか一つ、あるいは、いずれか二つを満たした場合に、車両が直進状態にあると判定することとしてもよい。
【0053】
また、上記した各条件の成立判定においては、所定の経過時間にわたって各条件を満たした場合に各条件が成立したと判定することとしてもよいし、瞬間的に各条件を満たした場合に各条件が成立したと判定することとしてもよい。
【0054】
次に、操舵装置10が実行する処理手順について図5を用いて説明する。図5は、操舵装置10が実行する処理手順を示すフローチャートである。同図に示すように、起動時処理部14aは、終了時相対舵角15bと起動時相対舵角との差分を算出し(ステップS101)、算出した差分が所定の閾値よりも小さいか否かを判定する(ステップS102)。
【0055】
そして、差分が所定の閾値よりも小さい場合には(ステップS102,Yes)、記憶部15に記憶された基準値15a、すなわち、操舵装置10の終了時に記憶された基準値15aを使用する(ステップS103)。
【0056】
一方、ステップS102の判定条件を満たさなかった場合には(ステップS102,No)、直進状態判定部14bは、直進条件が成立したか否かを判定する(ステップS104)。
【0057】
そして、直進条件が成立した場合には(ステップS104,Yes)、基準値決定部14cが基準値15aを決定する(ステップS105)。なお、ステップS104の判定条件を満たさなかった場合には(ステップS104,No)、ステップS104の処理を繰り返す。
【0058】
つづいて、絶対舵角算出部14dは、基準値15aに基づき、モータレゾルバ12からの相対舵角を積算して絶対舵角を算出する(ステップS106)。そして、ステアバイワイヤ処理部14eはバックアップ機構13を切断するとともに(ステップS107)、ステアバイワイヤ操舵を開始する(ステップS108)。
【0059】
そして、終了時処理部14fは、終了要求があるか否かを判定し(ステップS109)、終了要求があった場合には(ステップS109,Yes)、操舵側舵角と転舵側舵角との一致処理を行ったうえで(ステップS110)、終了時舵角(終了時相対舵角15b)および基準値15aを記憶部15へ記憶させる(ステップS111)。
【0060】
つづいて、終了時処理部14fは、バックアップ機構13を接続したうえで(ステップS112)、処理を終了する。なお、ステップS109の判定条件を満たさなかった場合には(ステップS109,No)、ステップS109の処理を繰り返すことになる。
【0061】
ところで、これまでは、操舵側の絶対舵角センサを廃したうえで、操舵側モータ2のモータレゾルバから取得した相対舵角に基づいて操舵側絶対舵角を算出する場合について説明してきたが、転舵側モータ3のモータレゾルバを活用することとしてもよい。また、絶対舵角センサによる絶対舵角取得と、モータレゾルバによる絶対舵角算出とを併存させることとしてもよい。
【0062】
そこで、以下では、これらの変形例について説明することとする。図6は、モータレゾルバあるいは絶対舵角センサの組合せ変形例を示す図である。たとえば、図6の(A)に示したように、転舵側絶対舵角センサを廃したうえで、転舵側モータ3のモータレゾルバを用いて転舵側絶対舵角を算出することとしてもよい。このように、転舵側絶対舵角センサを廃することで、操舵装置10の装置コストをさらに下げることができる。
【0063】
また、図6の(B)に示したように、図6の(A)に加えて、操舵側絶対舵角センサおよび転舵側絶対舵角センサをそれぞれ設け、絶対舵角センサによる絶対舵角算出と、モータレゾルバによる絶対舵角算出とを併存させることとしてもよい。
【0064】
このようにすることで、絶対舵角センサによって取得された絶対舵角を、モータレゾルバに基づいて算出した絶対舵角で監視することが可能となる。たとえば、絶対舵角センサによって取得された絶対舵角と、モータレゾルバに基づいて算出した絶対舵角との差分が所定の閾値を上回った場合に、絶対舵角センサを故障とみなし、モータレゾルバに基づいて算出した絶対舵角を用いてステアバイワイヤ操舵を継続することができる。
【0065】
次に、図6の(B)に示した構成において操舵装置10が実行する処理手順について図7を用いて説明する。図7は、絶対舵角センサのセンサ値を監視する場合の処理手順を示すフローチャートである。同図に示すように、通常時は、絶対舵角センサからの絶対舵角を使用する(ステップS201)。
【0066】
そして、モータレゾルバに基づく絶対舵角を算出し(ステップS202)、モータレゾルバに基づく絶対舵角を用いてセンサ出力を監視する(ステップS203)。つづいて、センサ値が異常である場合には(ステップS204,Yes)、モータレゾルバに基づく絶対舵角を、絶対舵角センサからの絶対舵角の代わりに使用する(ステップS205)。
【0067】
そして、絶対舵角センサの異常について報知処理を行ったうえで(ステップS206)、処理を終了する。なお、ステップS204の判定条件を満たさなかった場合には(ステップS204,No)、ステップS202以降の処理を繰り返す。
【0068】
上述してきたように、本実施例では、操舵反力用モータの回転を制御するレゾルバおよび/または転舵用モータの回転を制御するレゾルバから相対舵角を取得し、直進状態判定部によって車両が直進状態にあると判定された場合に、基準値決定部が、取得された相対舵角の基準値を決定したうえで、絶対舵角算出部が、決定された基準値を始点として取得された相対舵角を積算することで絶対舵角を算出するように操舵装置を構成した。したがって、装置コストを低減しつつ、信頼性の高いステアバイヤ方式操舵を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
以上のように、本発明に係る操舵装置は、ステアバイワイヤ方式の操舵を低コストで行いたい場合に有用であり、特に、操舵側絶対舵角あるいは転舵側絶対舵角を高精度に検出して信頼性の高い操舵を行いたい場合に適している。
【符号の説明】
【0070】
1a 操舵ハンドル
1b 転舵輪
1c クラッチ
2 操舵側モータ
3 転舵側モータ
10 操舵装置
11 車両センサ
12 モータレゾルバ
13 バックアップ機構
14 制御部
14a 起動時処理部
14b 直進状態判定部
14c 基準値決定部
14d 絶対舵角算出部
14e ステアバイワイヤ処理部
14f 終了時処理部
15 記憶部
15a 基準値
15b 終了時相対舵角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操舵ハンドルに対して操舵反力を付与する操舵反力用モータと転舵輪を転舵する転舵用モータとを含んだステアバイワイヤ方式の操舵装置であって、
車両が直進状態にあるか否かを判定する直進状態判定手段と、
前記操舵反力用モータの回転を制御するレゾルバおよび/または前記転舵用モータの回転を制御するレゾルバから相対舵角を取得する相対舵角取得手段と、
前記直進状態判定手段によって車両が直進状態にあると判定された場合に、前記相対舵角取得手段によって取得された相対舵角の基準値を決定する基準値決定手段と、
前記基準値決定手段によって決定された基準値を始点として前記相対舵角取得手段によって取得された相対舵角を積算することで絶対舵角を算出する絶対舵角算出手段と
を備えたことを特徴とする操舵装置。
【請求項2】
前記絶対舵角算出手段によって絶対舵角が算出される以前は、操舵側と転舵側とを機械的に連結するバックアップ機構を有効とし、前記絶対舵角算出手段によって絶対舵角が算出された後は、前記バックアップ機構を無効とするバックアップ制御手段
をさらに備えたことを特徴とする請求項1に記載の操舵装置。
【請求項3】
前記操舵装置が動作を終了する際の前記相対舵角および前記基準値を記憶する記憶手段
をさらに備え、
前記絶対舵角算出手段は、
前記操舵装置が起動した際に、前記相対舵角取得手段によって取得された相対舵角と前記記憶手段に記憶された前記相対舵角との差分が所定値未満である場合には、前記基準値決定手段によって決定される基準値の代わりに前記記憶手段に記憶された基準値を前記始点として用いたうえで、前記絶対舵角を算出することを特徴とする請求項1または2に記載の操舵装置。
【請求項4】
前記バックアップ制御手段は、
前記絶対舵角算出手段が前記記憶手段に記憶された基準値を前記始点として用いた場合には、前記バックアップ機構を無効とすることを特徴とする請求項3に記載の操舵装置。
【請求項5】
前記操舵装置が動作を終了する際に、前記操舵反力用モータまたは前記転舵用モータを作動させることで操舵側の前記絶対舵角と転舵側の前記絶対舵角との比率を所定の値に一致させる舵角一致手段
をさらに備え、
前記バックアップ制御手段は、
前記舵角一致手段によって前記比率が前記所定の値に一致させられた後に、前記バックアップ機構を有効とすることを特徴とする請求項2、3または4に記載の操舵装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−963(P2011−963A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−145711(P2009−145711)
【出願日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【出願人】(000237592)富士通テン株式会社 (3,383)
【Fターム(参考)】