車両用操舵装置
【課題】三相ブラシレスモータの駆動回路内の1つのスイッチング素子が短絡故障した場合に、短絡故障が発生したスイッチング素子を特定することが可能となる車両用操舵装置を提供する。
【解決手段】短絡故障したFETがローサイドFETであると特定された場合には、運転者による操舵が行なわれたときに、三相の各相の相電圧最大値を検出し、検出された各相の相電圧最大値を比較することにより、短絡故障相を特定する。一方、短絡故障したFETがハイサイドFETであると特定された場合には、運転者による操舵が行なわれたときに、三相の各相の相電圧最小値を検出し、検出された各相の相電圧最小値を比較することにより、短絡故障相を特定する。
【解決手段】短絡故障したFETがローサイドFETであると特定された場合には、運転者による操舵が行なわれたときに、三相の各相の相電圧最大値を検出し、検出された各相の相電圧最大値を比較することにより、短絡故障相を特定する。一方、短絡故障したFETがハイサイドFETであると特定された場合には、運転者による操舵が行なわれたときに、三相の各相の相電圧最小値を検出し、検出された各相の相電圧最小値を比較することにより、短絡故障相を特定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、三相ブラシレスモータを駆動するためのモータ制御装置を備えた車両用操舵装置に関する。車両用操舵装置の一例は、電動パワーステアリング装置である。三相ブラシレスモータは、たとえば、電動パワーステアリング装置における操舵補助力の発生源として利用される。
【背景技術】
【0002】
電動パワーステアリング装置に使用されているブラシレスモータの駆動回路は、FET(Field Effect Transistor)などのスイッチング素子を含んでいる。スイッチング素子に故障が発生すると、ステアリングホイールを操作するときにブラシレスモータが負荷となり、操舵が重くなるおそれがある。このような問題に対処するために、ブラシレスモータと駆動回路との結線にリレーが挿入されている。たとえば、三相ブラシレスモータの場合には、二相のモータ結線にそれぞれリレーを挿入し、無制御時およびスイッチング素子の故障時には、それらのリレーをオフするようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-311633号公報
【特許文献2】特開2008-11683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この発明の目的は、三相ブラシレスモータの駆動回路内の1つのスイッチング素子が短絡故障した場合に、短絡故障が発生したスイッチング素子を特定することが可能となる車両用操舵装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の発明は、ロータおよび界磁コイルを有する三相ブラシレスモータ(18)によって車両の舵取り機構に駆動力を付与する車両用操舵装置であって、2個のスイッチング素子(31UH,31UL;31VH,31VL;31WH,31WL)が直列に接続された直列回路を三相の各相に対応して3組備え、電源(33)と接地(34)との間においてそれらの直列回路が並列接続されており、各スイッチング素子に回生ダイオード(32UH,32UL,32VH,32VL,32WH,32WL)が並列に接続されている駆動回路(30)と、前記複数のスイッチング素子のうちの1つのスイッチング素子が短絡故障したときに、全てのスイッチング素子をオフさせることにより、前記三相ブラシレスモータの駆動を停止させる停止制御手段(40,S4)と、前記停止制御手段によって前記三相ブラシレスモータの駆動が停止されている状態において、短絡故障したスイッチング素子がハイサイドのスイッチング素子であるか、ローサイドのスイッチング素子であるかを特定する第1特定手段(40,S13)と、前記第1特定手段によって、短絡故障したスイッチング素子がハイサイドのスイッチング素子であると特定された場合には、前記車両を操向させるための操舵部材(2)が操作されたときに、三相の各相の相電圧最小値を検出し、検出された各相の相電圧最小値を比較することにより、短絡故障したスイッチング素子が三相のうちのいずれの相のスイッチング素子であるかを特定する第2特定手段(40,S25)と、前記第1特定手段によって、短絡故障したスイッチング素子がローサイドのスイッチング素子であると特定された場合には、前記車両を操向させるための操舵部材が操作されたときに、三相の各相の相電圧最大値を検出し、検出された各相の相電圧最大値を比較することにより、短絡故障したスイッチング素子が三相のうちのいずれの相のスイッチング素子であるかを特定する第3特定手段(40,S25)とを含む、車両用操舵装置である。なお、括弧内の英数字は、後述の実施形態における対応構成要素等を表すが、むろん、この発明の範囲は当該実施形態に限定されない。以下、この項において同じ。
【0006】
この構成では、複数のスイッチング素子のうちの1つのスイッチング素子が短絡故障したときに、三相ブラシレスモータの駆動が停止される。そして、第1特定手段によって、短絡故障したスイッチング素子がハイサイドのスイッチング素子であるか、ローサイドのスイッチング素子であるかが特定される。
第1特定手段によって、短絡故障したスイッチング素子がハイサイドのスイッチング素子であると特定された場合には、第2特定手段によって、短絡故障したスイッチング素子が三相のうちのいずれの相のスイッチング素子であるかが特定される。具体的には、車両を操向させるための操舵部材が操作されたときに、三相の各相の相電圧最小値が検出され、検出された各相の相電圧最小値が比較されることにより、短絡故障したスイッチング素子が三相のうちのいずれの相のスイッチング素子であるかが特定される。これにより、短絡故障したスイッチング素子を特定することができる。
【0007】
第2特定手段は、例えば、検出された各相の相電圧最小値のうちの最も大きいものに対応する相を、短絡故障したスイッチング素子の相(短絡故障相)として特定するものであってもよい。
一方、第1特定手段によって、短絡故障したスイッチング素子がローサイドのスイッチング素子であると特定された場合には、第3特定手段によって、短絡故障したスイッチング素子が三相のうちのいずれの相のスイッチング素子であるかが特定される。具体的には、車両を操向させるための操舵部材が操作されたときに、三相の各相の相電圧最大値が検出され、検出された各相の相電圧最大値が比較されることにより、短絡故障したスイッチング素子が三相のうちのいずれの相のスイッチング素子であるかが特定される。これにより、短絡故障したスイッチング素子を特定することができる。
【0008】
第3特定手段は、例えば、検出された各相の相電圧最大値のうちの最も小さいものに対応する相を、短絡故障したスイッチング素子の相(短絡故障相)として特定するものであってもよい。
前記第1特定手段は、各相電圧のうちのいずれかの相電圧が、所定の第1の閾値以下であるという第1条件を満たしているか否かを判別し、前記第1条件を満たしている場合には短絡故障したスイッチング素子がローサイドのスイッチング素子であると判定する手段と、各相電圧のうちのいずれかの相電圧が、前記第1の閾値より大きい所定の第2の閾値以上であるという第2条件を満たしているか否かを判別し、前記第2条件を満たしている場合には短絡故障したスイッチング素子がハイサイドのスイッチング素子であると判定する手段とを含むものであってもよい。
【0009】
請求項2に記載の発明は、前記第2特定手段は、各相の相電圧最小値がそれぞれ検出されたときの3つのロータ回転角に基づいて、相電圧最小値の誤検出があったか否かを判定し、相電圧最小値の誤検出があったと判別した場合には、各相の相電圧最小値を再度検出するための処理を行なう最小値誤検出チェック手段(40,S23,S24)を含んでおり、前記第3特定手段は、各相の相電圧最大値がそれぞれ検出されたときの3つのロータ回転角に基づいて、相電圧最大値の誤検出があったか否かを判定し、相電圧最大値の誤検出があったと判別した場合には、各相の相電圧最大値を再度検出するための処理を行なう最大値誤検出チェック手段(40,S23,S24)を含んでいる、請求項1に記載の車両用操舵装置である。この構成によれば、短絡故障相の特定精度を向上させることができる。
【0010】
請求項3に記載の発明は、前記最小値誤検出チェック手段は、各相の相電圧最小値がそれぞれ検出されたときの3つのロータ回転角から2つを選択する全ての組合せの中に、その組合せ内の2つのロータ回転角の差の絶対値が所定値以内である組合せが存在する場合に、相電圧最小値の誤検出があったと判別するように構成されており、前記最大値誤検出チェック手段は、各相の相電圧最大値がそれぞれ検出されたときの3つのロータ回転角から2つを選択する全ての組み合わせの中に、その組合せ内の2つのロータ回転角の差の絶対値が所定値以内である組合せが存在する場合に、相電圧最大値の誤検出があったと判別するように構成されている、請求項2に記載の車両用操舵装置である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、この発明の一実施形態に係る車両用操舵装置としての電動パワーステアリング装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】図2は、モータ制御装置としてのECUの電気的構成を示すブロック図である。
【図3】図3は、制御部40の全体的な動作を示すフローチャートである。
【図4】図4は、ローサイドFETが短絡故障した場合に負荷電流が流れる閉回路を示す電気回路図である。
【図5】図5は、ハイサイドFETが短絡故障した場合に負荷電流が流れる閉回路を示す電気回路図である。
【図6】図6は、電動モータを回転させるべき方向と短絡故障が発生したFETとの組み合わせ毎に、その組合せに対応する「可能領域」、「不定領域」および「不可領域」を表すマップを示す模式図である。
【図7】図7は、全てのFET31が正常である場合に、全てのFET31がオフの状態で、ロータが正転方向に回転されたときの、ロータ回転角θに対する各相の誘起電圧波形VU,VV,VWの理論値を示すグラフである。
【図8A】図8Aは、V相のローサイドFET31VLが短絡故障した場合に、他の全てのFETがオフの状態で、ロータが正転方向に回転されたときの、ロータ回転角θに対する各相の誘起電圧波形VU’,VV’,VW’の理論値を示すグラフである。
【図8B】図8Bは、V相のハイサイドFET31VHが短絡故障した場合に、他の全てのFETがオフの状態で、ロータが正転方向に回転されているときの、ロータ回転角θに対する各相の誘起電圧波形VU’,VV’,VW’の理論値を示すグラフである。
【図9】図9は、図3のステップS5の異常時制御処理の詳細な手順を示すフローチャートである。
【図10】図10は、メモリの内容の一部を示す模式図である。
【図11】図11は、電動モータ18が120°矩形駆動方式によって正転方向に回転駆動される場合において、各FET31がオン状態にされるタイミングを説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下では、この発明の実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る車両用操舵装置としての電動パワーステアリング装置の概略構成を示す模式図である。
電動パワーステアリング装置1は、車両を操向するための操舵部材としてのステアリングホイール2と、このステアリングホイール2の回転に連動して転舵輪3を転舵する転舵機構4と、運転者の操舵を補助するための操舵補助機構5とを備えている。ステアリングホイール2と転舵機構4とは、ステアリングシャフト6および中間軸7を介して機械的に連結されている。
【0013】
ステアリングシャフト6は、ステアリングホイール2に連結された入力軸8と、中間軸7に連結された出力軸9とを含む。入力軸8と出力軸9とは、トーションバー10を介して相対回転可能に連結されている。
ステアリングシャフト6の周囲に配置されたトルクセンサ11は、入力軸8および出力軸9の相対回転変位量に基づいて、ステアリングホイール2に与えられた操舵トルクを検出する。トルクセンサ11によって検出される操舵トルクは、ECU(電子制御ユニット:Electronic Control Unit)12に入力される。また、ECU12には、車速センサ23によって検出される車速が入力される。
【0014】
転舵機構4は、ピニオン軸13と、転舵軸としてのラック軸14とを含むラックアンドピニオン機構からなる。ラック軸14の各端部には、タイロッド15およびナックルアーム(図示略)を介して転舵輪3が連結されている。ピニオン軸13は、中間軸7に連結されている。ピニオン軸13は、ステアリングホイール2の操舵に連動して回転するようになっている。ピニオン軸13の先端(図1では下端)には、ピニオン16が連結されている。
【0015】
ラック軸14は、自動車の左右方向(直進方向に直交する方向)に沿って直線状に延びている。ラック軸14の軸方向の中間部には、ピニオン16に噛み合うラック17が形成されている。このピニオン16およびラック17によって、ピニオン軸13の回転がラック軸14の軸方向移動に変換される。ラック軸14を軸方向に移動させることによって、転舵輪3を転舵することができる。
【0016】
ステアリングホイール2が操舵(回転)されると、この回転が、ステアリングシャフト6および中間軸7を介して、ピニオン軸13に伝達される。そして、ピニオン軸13の回転は、ピニオン16およびラック17によって、ラック軸14の軸方向移動に変換される。これにより、転舵輪3が転舵される。
操舵補助機構5は、操舵補助用の電動モータ18と、電動モータ18の出力トルクを転舵機構4に伝達するための減速機構19とを含む。電動モータ18は、この実施形態では、三相ブラシレスモータからなる。減速機構19は、ウォーム軸20と、このウォーム軸20と噛み合うウォームホイール21とを含むウォームギヤ機構からなる。減速機構19は、伝達機構ハウジングとしてのギヤハウジング22内に収容されている。
【0017】
ウォーム軸20は、電動モータ18によって回転駆動される。また、ウォームホイール21は、ステアリングシャフト6とは同方向に回転可能に連結されている。ウォームホイール21は、ウォーム軸20によって回転駆動される。
電動モータ18によってウォーム軸20が回転駆動されると、ウォームホイール21が回転駆動され、ステアリングシャフト6が回転する。そして、ステアリングシャフト6の回転は、中間軸7を介してピニオン軸13に伝達される。ピニオン軸13の回転は、ラック軸14の軸方向移動に変換される。これにより、転舵輪3が転舵される。すなわち、電動モータ18によってウォーム軸2を回転駆動することによって、転舵輪3が転舵されるようになっている。
【0018】
電動モータ18は、モータ制御装置としてのECU12によって制御される。ECU12は、トルクセンサ11によって検出される操舵トルク、車速センサ23によって検出される車速等に基づいて、電動モータ18を制御する。具体的には、ECU12では、操舵トルクと目標アシスト量との関係を車速ごとに記憶したマップを用いて目標アシスト量を決定し、電動モータ18の発生するアシスト力が目標アシスト量に近づくように制御する。
【0019】
図2は、モータ制御装置としてのECU12の電気的構成を示す概略図である。電動モータ18は、U相界磁コイル18U、V相界磁コイル18V、W相界磁コイル18Wを有するステータと、永久磁石が固定されたロータとを備えている。
ECU12は、電動モータ18の駆動電力を生成する駆動回路30と、駆動回路30を制御するための制御部40とを備えている。制御部40は、CPUとこのCPUの動作プログラム等を記憶したメモリ(ROM,RAM,不揮発性メモリ等)とを含むマイクロコンピュータで構成されている。
【0020】
駆動回路30は、三相ブリッジインバータ回路である。この駆動回路30では、電動モータ18のU相に対応した一対のFET(電界効果トランジスタ)31UH,31ULの直列回路と、V相に対応した一対のFET31VH,31VLの直列回路と、W相に対応した一対のFET31WH,31WLの直列回路とが、直流電源33と接地34との間に並列に接続されている。また、各FET31UH〜31WLには、それぞれ回生ダイオード32UH〜32WLが、接地34側から直流電源33側に順方向電流が流れるような向きで、並列に接続されている。
【0021】
以下において、各相の一対のFETのうち、電源側のものを「ハイサイドFET」または「上段FET」といい、接地34側のものを「ローサイドFET」または「下段FET」という場合がある。また、6つのFET31UH〜31WLを総称するときには、「FET31」ということにする。同様に、6つの回生ダイオード32UH〜32WLを総称するときには、「回生ダイオード32」ということにする。
【0022】
電動モータ18のU相界磁コイル18Uは、U相に対応した一対のFET31UH,31ULの間の接続点に接続されている。電動モータ18のV相界磁コイル18Vは、V相に対応した一対のFET31VH,31VLの間の接続点に接続されている。電動モータ18のW相界磁コイル18Wは、W相に対応した一対のFET31WH,31WLの間の接続点に接続されている。各相の界磁コイル18U,18V,18Wと駆動回路30とを接続するための各接続線には、各相の相電流IU,IV,IWを検出するための電流センサ51U,51V,51Wが設けられている。電動モータ18側には、ロータの回転角(電気角)を検出するためのレゾルバ等の回転角センサ52が設けられている。
【0023】
制御部40には、回転角センサ52によって検出されるロータ回転角(電気角)と、トルクセンサ11によって検出される操舵トルクと、車速センサ23によって検出される車速と、電流センサ51U,51V,51Wによって検出される各相の相電流IU,IV,IWと、図示しない相電圧検出回路によって検出される各相の相電圧VU,VV,VWが入力される。
【0024】
図3は、制御部40の全体的な動作を示すフローチャートである。
制御部40は、FET31に故障が発生しているか否かを監視する(ステップS1)。FET31に故障が発生していないときには(ステップS1:NO)、制御部40は、通常時制御処理を行なう(ステップS2)。つまり、制御部40は、各FET31を制御することにより、電動モータ18を180°通電正弦波駆動する。
【0025】
具体的には、制御部40は、たとえば、操舵トルクと目標アシスト量(電流目標値)との関係を車速毎に記憶したマップと、トルクセンサ11によって検出された操舵トルクと、車速センサ23によって検出された車速とに基づいて、目標アシスト量を決定する。そして、制御部40は、目標アシスト量と、電流センサ51U,51V,51Wによって検出される各相の相電流IU,IV,IWと、回転角センサ52によって検出されるロータ回転角(電気角)とに基づいて、電動モータ18の発生するアシスト力(トルク)が目標アシスト量に近づくように、各FET31をPWM(Pulse Width Modulation)制御する。
【0026】
通常時制御処理が行われているときに、電源オフ指令等の制御停止指令が入力されると(ステップS3:YES)、制御部40は通常時制御処理を終了する。
前記ステップS2の通常時制御処理が行なわれているときに、FET31に故障が発生すると(ステップS1:YES)、制御部40は、全てのFET31をオフにして電動モータ18の駆動を一旦停止させる(ステップS4)。そして、制御部40は、異常時制御処理を行なう(ステップS5)。異常時制御処理が行われているときにおいて、制御停止指令が入力されると(ステップS6:YES)、制御部40は異常時制御処理を終了する。
【0027】
異常時制御処理は、FET31のうちの1つに短絡故障が発生しているとき(短絡故障時)に短絡故障したFETを特定するための処理と、短絡故障時に制御可能領域を特定するための処理と、短絡故障時に制御可能領域においてモータを駆動制御するための処理等を含んでいる。制御可能領域とは、短絡故障時に、電動モータ18を回転させるべき方向において、電動モータ18を駆動することが可能なロータ回転角領域(電気角領域)をいう。
【0028】
異常時制御処理の全体的な動作を説明する前に、制御可能領域を特定するための処理について説明する。以下において、短絡故障した1つのFETを含む相を短絡故障相といい、短絡故障した1つのFETを含まない相を正常相という場合がある。6つのFET31UH〜31WLのうちの1つのFETが短絡故障した場合に、他のFETの全てがオフとなっている状態でロータが回転されたときには、ロータ回転角(電気角)によっては、短絡故障したFETと、正常なFETに並列接続された回生ダイオードとによって形成される閉回路に負荷電流が流れる。この実施形態では、制御部40は、2つの正常相のいずれにも負荷電流が流れない電気角領域を「可能領域」として特定し、2つの正常相のうちのいずれか一方にのみ負荷電流が流れる電気角領域を「不定領域」として特定し、2つの正常相の両方に負荷電流が流れる電気角領域を「不可領域」として特定する。
【0029】
この実施形態では、「可能領域」と「不定領域」とを合わせた領域が、短絡故障時に電動モータ18を駆動することが可能な制御可能領域として特定され、「不可領域」が短絡故障時に電動モータ18を駆動することが不可能な制御不能領域として特定されることになる。なお、「可能領域」のみを制御可能領域として特定し、「不定領域」と「不可領域」とを合わせた領域を制御不能領域として特定するようにしてもよい。
【0030】
図4に示すように、たとえば、V相のローサイドFET31VLが短絡故障した場合に、他のFETの全てがオフとなっている状態で、運転者による操舵によってロータが回転されたとする。そうすると、電動モータ18に誘起電圧が発生する。この誘起電圧により、ロータ回転角(電気角)によっては、符号61で示す第1の閉回路および符号62で示す第2の閉回路の一方または両方に矢印で示す方向に負荷電流が流れるようになる。
【0031】
第1の閉回路61は、短絡故障したV相のローサイドFET31VLと、正常相であるU相のローサイドFET31ULに並列接続された回生ダイオード32ULと、U相界磁コイル18Uと、V相界磁コイル18Vとを含んでいる。一方、第2の閉回路62は、短絡故障したV相のローサイドFET31VLと、正常相であるW相のローサイドFET31WLに並列接続された回生ダイオード32WLと、W相界磁コイル18Wと、V相界磁コイル18Vとを含んでいる。
【0032】
したがって、V相のローサイドFET31VLが短絡故障した場合には、「不可領域」、「可能領域」および「不定領域」は、次のようになる。すなわち、前記第1の閉回路61および前記第2の閉回路62の両方に負荷電流が流れる電気角領域が「不可領域」となる。一方、前記第1の閉回路61および前記第2の閉回路62のいずれにも負荷電流が流れない電気角領域が「可能領域」となる。そして、前記第1の閉回路61および前記第2の閉回路62のいずれか一方にのみ負荷電流が流れる電気角領域が「不定領域」となる。
【0033】
一方、図5に示すように、V相のハイサイドFET31VHが短絡故障した場合において、他のFETの全てがオフとなっている状態で、運転者による操舵操作によってロータが回転されたとする。そうすると、電動モータ18に誘起電圧が発生する。この誘起電圧により、ロータ回転角(電気角)によっては、符号63で示す第3の閉回路および符号64で示す第4の閉回路の一方または両方に矢印で示す方向に負荷電流が流れるようになる。
【0034】
第3の閉回路63は、短絡故障したV相のハイサイドFET31VHと、V相界磁コイル18Vと、U相界磁コイル18Uと、正常相であるU相のハイサイドFET31UHに並列接続された回生ダイオード32UHとを含んでいる。一方、第4の閉回路64は、短絡故障したV相のハイサイドFET31VHと、V相界磁コイル18Vと、W相界磁コイル18Wと、正常相であるW相のハイサイドFET31WHに並列接続された回生ダイオード32WHとを含んでいる。
【0035】
したがって、V相のハイサイドFET31VHが短絡故障した場合には、「不可領域」、「可能領域」および「不定領域」は、次のようになる。すなわち、前記第3の閉回路63および前記第4の閉回路64の両方に負荷電流が流れる電気角領域が「不可領域」となる。一方、前記第3の閉回路63および前記第4の閉回路64のいずれにも負荷電流が流れない電気角領域が「可能領域」となる。そして、前記第3の閉回路63および前記第4の閉回路64のいずれか一方にのみ負荷電流が流れる電気角領域が「不定領域」となる。
【0036】
図4に示すように、V相のローサイドFET31VLが短絡故障している場合において、U相界磁コイル18Uを含む第1の閉回路61に矢印で示す方向に負荷電流が流れるためには、短絡故障相であるV相の相電圧VVが正常相であるU相の相電圧VUより高い(大きい)ことが必要となる。また、この場合、駆動回路30から電動モータ18に向かって流れる電流の極性を正とすると、正常相であるU相の相電流IUの極性は正となる。同様に、W相界磁コイル18Wを含む第2の閉回路62に矢印で示す方向に負荷電流が流れるためには、短絡故障相であるV相の相電圧VVが正常相であるW相の相電圧VWより高いことが必要となる。また、この場合、正常相であるW相の相電流IWの極性は正となる。
【0037】
図5に示すように、V相のハイサイドFET31VHが短絡故障している場合において、U相界磁コイル18Uを含む第3の閉回路63に矢印で示す方向に負荷電流が流れるためには、短絡故障相であるV相の相電圧VVが正常相であるU相の相電圧VUより低い(小さい)ことが必要となる。また、この場合、正常相であるU相の相電流IUの極性は負となる。同様に、W相界磁コイル18Wを含む第4の閉回路64に矢印で示す方向に負荷電流が流れるためには、短絡故障相であるV相の相電圧VVが正常相であるW相の相電圧VWより低いことが必要となる。また、この場合、正常相であるW相の相電流IWの極性は負となる。
【0038】
以上のように、「可能領域」、「不定領域」および「不可領域」は、短絡故障したFETの位置によって異なる。また、電動モータ18が正転方向に回転される場合と逆転方向に回転される場合とでは、短絡故障したFETが同じであっても、各相の誘起電圧波形が異なるため、電動モータ18の回転方向によって、「可能領域」、「不定領域」および「不可領域」は異なる。
【0039】
この実施形態では、電動モータ18を回転させるべき方向(CW,CCW)と短絡故障が発生したFETとの組み合わせ毎に、その組合せに対応する「可能領域」、「不定領域」および「不可領域」を表すマップが予め作成されて、制御部40の不揮発性メモリに格納されている。
図6は、このようなマップの内容例を示している。図6において、CW(clockwise)およびCCW(counter clockwise)は、電動モータ18を回転させるべき回転方向を表しており、CWは正転方向を、CCWは逆転方向を表している。U,V,W、上段および下段は、短絡故障したFETの位置を表している。つまり、U,V,Wは、短絡故障相を表している。上段は、短絡故障したFETが上段FET(ハイサイドFET)であることを表し、下段は、短絡故障したFETが下段FET(ローサイドFET)であることを表している。このようなマップは、理論値または計測データに基づいて作成される。
【0040】
マップを、理論値に基づいて作成する場合について説明する。図7は、全てのFET31が正常である場合に、全てのFET31がオフの状態で、ロータが正転方向に回転されたときの、ロータ回転角θに対する各相の誘起電圧波形VU,VV,VWの理論値(シミュレーション値)を示している。この例では、U相の誘起電圧波形が正から負へと変化する点がロータ回転角(電気角)θの0°として設定されている。
【0041】
各相の誘起電圧の理論値VU,VV,VWは、振幅をEとすると、次式(1)で表される。
VU=E・sin(θ−π)
VV=E・sin(θ−π−(2/3)π)
VW=E・sin(θ−π+(2/3)π) …(1)
図8Aは、V相のローサイドFET31VLが短絡故障した場合に、他の全てのFETがオフの状態で、ロータが正転方向に回転されたときの、ロータ回転角θに対する各相の誘起電圧波形VU’,VV’,VW’の理論値(シミュレーション値)を示している。V相のローサイドFET31VLが短絡故障した場合の各相の誘起電圧VU’,VV’,VW’の理論値は、全てのFET31が正常である場合における各相の誘起電圧の理論値VU,VV,VWを用いて次式(2)で表される。
【0042】
VU’=VU−VV
VV’=0
VW’=VW−VV …(2)
図8Aに示されるような理論値に基づいて、短絡故障したFETがV相のローサイドFET31VLであり、電動モータ18を回転させるべき方向が正転方向である場合の制御可能領域が特定される。
【0043】
具体的には、正常相(U相,V相)の両方の誘起電圧VU’,VW’が、短絡故障相(V相)の誘起電圧VV’(図8Aの例では0)より大きくなる電気角領域(図4の第1および第2の閉回路61,62のいずれにも負荷電流が流れない電気角領域)が「可能領域」として特定される。この例では、「可能領域」は150°〜270°となる。
なお、この実施形態では、短絡故障しているFETがローサイドFETである場合には、2つの正常相をA,Bで表すと、「可能領域」のうち、一方の正常相Aの相電圧が他方の正常相Bの相電圧以上となる電気角領域が「可能領域(A)」として特定され、前記他方の正常相Bの相電圧が前記一方の正常相Aの相電圧より大きくなる電気角領域が「可能領域(B)」として特定される。上記の例では、「可能領域」のうち、U相の誘起電圧VU’がW相の誘起電圧VW’以上となる領域(この例では、210°〜270°)が「可能領域(U)」として特定され、W相の誘起電圧VW’がU相の誘起電圧VU’より大きくなる領域(この例では、150°〜210°)が「可能領域(W)」として特定される。
【0044】
また、正常相(U相,V相)の両方の誘起電圧VU’,VW’が、短絡故障相(V相)の誘起電圧VV’以下となる電気角領域(図4の第1および第2の閉回路61,62のいずれにも負荷電流が流れる電気角領域)が「不可領域」として特定される。この例では、「不可領域」は、330°〜90°となる。
そして、「可能領域」と「不可領域」の中間の電気角領域(図4の第1および第2の閉回路61,62のいずれか一方にのみ負荷電流が流れる電気角領域)が「不定領域」として特定される。この例では、「不定領域」は、90°〜150°および270°〜330°となる。
【0045】
なお、この実施形態では、短絡故障しているFETがローサイドFETである場合には、2つの正常相をA,B、故障相をCで表すと、「不定領域」のうち、一方の正常相Aの相電圧が故障相Cの相電圧より大きくなる電気角領域が「不定領域(A)」として特定され、他方の正常相Bの相電圧が故障相Cの相電圧より大きくなる電気角領域が「不定領域(B)」として特定される。上記の例では、「不定領域」のうち、U相の誘起電圧VU’が短絡故障相(V相)の誘起電圧VV’より大きくなる電気角領域(270°〜330°)が「不定領域(U)」として特定され、W相の誘起電圧VW’が短絡故障相(V相)の誘起電圧VV’より大きくなる電気角領域(90°〜150°)が「不定領域(W)」として特定される。
【0046】
図8Bは、V相のハイサイドFET31VHが短絡故障した場合に、他の全てのFETがオフの状態で、ロータが正転方向に回転されたときの、ロータ回転角θに対する各相の誘起電圧波形VU’,VV’,VW’の理論値(シミュレーション値)を示している。図8Bに示されるような理論値に基づいて、短絡故障したFETがV相のハイサイドFET31VHであり、電動モータ18を回転させるべき方向が正転方向である場合の制御可能領域が特定される。
【0047】
具体的には、正常相(U相,V相)の両方の誘起電圧VU’,VW’が、短絡故障相(V相)の誘起電圧VV’より小さくなる電気角領域(図5の第3および第4の閉回路63,64のいずれにも負荷電流が流れない電気角領域)が「可能領域」として特定される。この例では、「可能領域」は、330°〜90°となる。
なお、この実施形態では、短絡故障しているFETがハイサイドFETである場合には、2つの正常相をA,Bで表すと、「可能領域」のうち、一方の正常相Aの相電圧が他方の正常相Bの相電圧以下となる電気角領域が「可能領域(A)」として特定され、前記他方の正常相Bの相電圧が前記一方の正常相Aの相電圧より小さくなる電気角領域が「可能領域(B)」として特定される。上記の例では、「可能領域」のうち、U相の誘起電圧VU’がW相の誘起電圧VW’以下となる領域(この例では、30°〜90°)が「可能領域(U)」として特定され、W相の誘起電圧VW’がU相の誘起電圧VU’より小さくなる領域(この例では、330°〜30°)が「可能領域(W)」として特定される。
【0048】
また、正常相(U相,V相)の両方の誘起電圧VU’,VW’が、短絡故障相(V相)の誘起電圧VV’以上となる電気角領域(図5の第3および第4の閉回路63,64のいずれにも負荷電流が流れる電気角領域)が「不可領域」として特定される。この例では、「不可領域」は、150°〜270°となる。
そして、「可能領域」と「不可領域」の中間の電気角領域(図5の第3および第4の閉回路63,64のいずれか一方にのみ負荷電流が流れる電気角領域)が「不定領域」として特定される。この例では、「不定領域」は、90°〜150°および270°〜330°となる。
【0049】
なお、この実施形態では、短絡故障しているFETがハイサイドFETである場合には、2つの正常相をA,B、故障相をCで表すと、「不定領域」のうち、一方の正常相Aの相電圧が故障相Cの相電圧より小さくなる電気角領域が「不定領域(A)」として特定され、他方の正常相Bの相電圧が故障相Cの相電圧より小さくなる電気角領域が「不定領域(B)」として特定される。上記の例では、「不定領域」のうち、U相の誘起電圧VU’が短絡故障相(V相)の誘起電圧VV’より小さくなる電気角領域(90°〜150°)が「不定領域(U)」として求められ、W相の誘起電圧VW’が短絡故障相(V相)の誘起電圧VV’より小さくなる電気角領域(270°〜330°)が「不定領域(W)」として求められる。
【0050】
同様にして、電動モータ18を回転させるべき方向が正転方向であり、短絡故障したFETがU相のローサイドFET31ULである場合の各領域、電動モータ18を回転させるべき方向が正転方向であり、短絡故障したFETがU相のハイサイドFETUHである場合の各領域、電動モータ18を回転させるべき方向が正転方向であり、短絡故障したFETがW相のローサイドFETWLである場合の各領域および電動モータ18を回転させるべき方向が正転方向であり、短絡故障したFETがW相のローサイドFETWLである場合の各領域が求められる。このようにして求められた各領域に基づいて、電動モータ18を回転させるべき方向が正転方向(CW)である場合のマップが予め作成される。また、同様な方法により、電動モータ18を回転させるべき方向が逆転方向(CCW)である場合のマップが予め作成される。これにより、図6に示すようなマップが得られる。
【0051】
図9は、図3のステップS5の異常時制御処理の詳細な手順を示すフローチャートである。図9の処理は、所定の演算周期毎に繰り返し行なわれる。
異常時制御処理では、モード番号を記憶するための変数M(以下、「モード番号M」という)と、後述するピーク検出処理(ステップS18参照)において参照されるフラグFとが用いられる。電源オン時の初期設定において、モード番号Mは1に設定されており、フラグFはリセットされている。
【0052】
異常時制御処理では、制御部40は、電動モータ18を回転させるべき方向を決定する(ステップS11)。電動モータ18を回転させるべき回転方向は、たとえば、トルクセンサ11の出力信号に基づいて決定される。具体的には、トルクセンサ11の出力信号が右方向の操舵トルクを表しているか、左方向の操舵トルクを表しているかに基づいて、電動モータ18を回転すべき方向が決定される。つまり、トルクセンサ11の出力信号が右方向の操舵トルクを表している場合には、右方向の操舵を補助するトルクを発生させるための回転方向が電動モータ18を回転させるべき回転方向として決定される。一方、トルクセンサ11の出力信号が左方向の操舵トルクを表している場合には、左方向の操舵を補助するトルクを発生させるための回転方向が電動モータ18を回転させるべき回転方向として決定される。
【0053】
次に、制御部40は、モード番号Mを判定する(ステップS12)。モード番号Mの初期値は1であるので、今回の演算周期が異常時制御処理が開始された後の最初の演算周期である場合には、制御部40はモード番号Mが1であると判定する。したがって、制御部40は、ステップS13に移行して、故障段特定処理を行なう。故障段特定処理においては、制御部40は、FETに短絡故障が発生しているか否かを判定するとともに、短絡故障が発生している場合には短絡故障したFETがハイサイドFETであるかローサイドFETであるかを特定する。
【0054】
具体的には、制御部40は、各相の相電圧VU,VV,VWを取得する。そして、いずれかの相電圧が所定のグランドレベルVG(第1の閾値;たとえば0.5[V])以下であるという第1条件を満たしているか否か、およびいずれかの相電圧が所定の電源レベルVB(第2の閾値;たとえば5.0[V])以上であるという第2条件を満たしているか否かを調べる。第1条件を満たしている場合には、制御部40は、いずれかの相のローサイドFETが短絡故障であると判定する。第2条件を満たしている場合には、制御部40は、いずれかの相のハイサイドFETが短絡故障であると判定する。第1条件および第2条件のいずれをも満たしていない場合には、制御部40は、短絡故障が発生していないと判別する。
【0055】
故障段特定処理によって、短絡故障が発生しているFETがハイサイドFETであるかローサイドFETであるかを特定できた場合には(ステップS14:YES)、制御部40は、モード番号Mを2に更新する(ステップS15)。そして、今回の演算周期での処理を終了する。故障段特定処理によって短絡故障が発生しているFETがハイサイドFETであるかローサイドFETであるかを特定できなかった場合には(ステップS14:NO)、制御部40は、今回の演算周期での処理を終了する。この場合には、モード番号Mは1のままであるので、次回の演算周期においても、ステップS11の処理が行われた後に、ステップS13の故障段特定処理が行われることになる。
【0056】
ステップS12において、モード番号Mが2であると判定された場合には、制御部40は、ステップS16に移行して、運転者による操舵が開始されたか否かを判定する。つまり、制御部40は、運転者によるステアリングホイール2の操作が開始されたか否かを判別する。具体的には、制御部40は、回転角センサ52によって検出されるロータ回転角が変化したときに、運転者による操舵が開始されたと判別する。
【0057】
運転者による操舵が開始されたと判別されたときには(ステップS16:YES)、制御部40は、モード番号Mを3に更新する(ステップS17)。そして、今回の演算周期での処理を終了する。運転者による操舵が開始されていないと判別されたときには(ステップS16:NO)、制御部40は、今回の演算周期での処理を終了する。この場合には、モード番号Mは2のままであるので、次回の演算周期においても、ステップS11の処理が行われた後に、操舵が開始されたか否かが判別されることになる。
【0058】
ステップS12において、モード番号Mが3であると判定された場合には、制御部40は、ステップS18に移行して、ピーク検出処理を行なう。ピーク検出処理は、後述するステップS25において、短絡故障したFETの相(短絡故障相)を特定するために行われる処理である。
短絡故障相を特定する方法の考え方について説明する。運転者による操舵が開始された後に、各相の相電圧(誘起電圧)を監視する。電動モータ18のロータが電気角で360°以上回転した後、相電圧の変化が最小であった相が短絡故障相である。これは、短絡故障相においては、誘起電圧の発生量が少ないからである。
【0059】
短絡故障したFETがローサイドFETである場合には、短絡故障相の相電圧は、接地電位に近い値に保持される。したがって、ロータが電気角で360°以上回転した場合、短絡故障相の相電圧最大値は、正常相の相電圧最大値より小さな値となる。そこで、制御部40は、ロータが電気角で360°以上回転した場合において、各相の相電圧最大値を比較し、相電圧最大値が最も小さい相を短絡故障相として特定する。
【0060】
一方、短絡故障したFETがハイサイドFETである場合には、短絡故障相の相電圧は、電源電圧に近い値に保持される。したがって、ロータが電気角で360°以上回転した場合、短絡故障相の相電圧最小値は、正常相の相電圧最小値より大きな値となる。そこで、制御部40は、ロータが電気角で360°以上回転した場合において、各相の相電圧最小値を比較し、相電圧最小値が最も大きい相を短絡故障相として特定する。
【0061】
ステップS18のピーク検出処理では、短絡故障したFETがローサイドFETであると特定されている場合には、各相の相電圧最大値を検出するための処理が行なわれる。一方、短絡故障がしたFETがハイサイドFETであると特定されている場合には、ピーク検出処理では、各相の相電圧最小値を検出するための処理が行なわれる。
制御部40のメモリには、図10に示すように、U相のピーク値候補VUPを記憶するエリアe1と、エリアe1に記憶されたU相のピーク値候補VUPが検出されたときのロータ回転角θUを記憶するエリアe2と、V相のピーク値候補VVPを記憶するエリアe3と、エリアe3に記憶されたV相のピーク値候補VVPが検出されたときのロータ回転角θVを記憶するエリアe4と、W相のピーク値候補VWPを記憶するエリアe5と、エリアe5に記憶されたW相のピーク値候補VWPが検出されたときのロータ回転角θWを記憶するエリアe6とが設けられている。
【0062】
なお、各ピーク値候補VUP,VVP,VWPは、短絡故障したFETがローサイドFETであると特定されている場合には対応する相電圧最大値候補となり、短絡故障したFETがハイサイドFETであると特定されている場合には対応する相電圧最小値候補となる。以下の説明においては、短絡故障したFETがローサイドFETであると特定されている場合について説明する。
【0063】
図9に戻り、ステップS18においては、制御部40は、まず、回転角センサ52によって検出されるロータ回転角(電気角)を取得するとともに、各相の相電圧VU,VV,VWを取得する。そして、フラグFがリセット(F=0)されているか否かを判別する。フラグFは初期状態ではリセットされている。後述するように、フラグFは、ピーク検出処理が実行された後にセット(F=1)される(ステップS20参照)。そして、後述するように、ピーク検出処理が開始されてからロータが360°以上回転されたと判定されたときに、リセット(F=0)される(ステップS22参照)。
【0064】
フラグFがリセットされている場合には、制御部40は、ピーク検出処理の開始時点であると判別し、今回取得したU相の相電圧VUを、U相の最大値候補VUPとしてメモリのエリアe1に記憶する。また、制御部40は、今回取得したV相の相電圧VVを、V相の最大値候補VVPとしてメモリのエリアe3に記憶する。また、制御部40は、今回取得したW相の相電圧VWを、W相の最大値候補VWPとしてメモリのエリアe5に記憶する。また、制御部40は、メモリのエリアe2,e4およびe6に、今回取得したロータ回転角を、U相、V相およびW相の最大値候補検出時のロータ回転角θU,θV,θWとしてそれぞれ記憶する。
【0065】
一方、フラグFがセット(F=1)されている場合には、制御部40は、ピーク検出処理が開始されてから、2回目以降のピーク検出処理であると判別する。この場合には、制御部40は、今回取得した各相の相電圧VU,VV,VWと、メモリのエリアe1,e3,e5に記憶されている対応する相の最大値候補VUP,VVP,VWPとに基づいて、次のような処理を行なう。
【0066】
制御部40は、今回取得したU相の相電圧VUと、メモリのエリアe1に記憶されているU相の最大値候補VUPとを比較する。今回取得したU相の相電圧VUがU相の最大値候補VUPより大きい場合には、制御部40は、今回取得したU相の相電圧VUをU相の最大値候補VUPとしてメモリのエリアe1に記憶するとともに、今回取得したロータ回転角をU相最大値候補検出時のロータ回転角θUとしてメモリのエリアe2に記憶する。つまり、制御部40は、エリアe1内のU相の最大値候補VUPおよびエリアe2内のロータ回転角θUを更新する。一方、今回取得したU相の相電圧VUが、エリアe1に記憶されているU相の最大値候補VUP以下である場合には、制御部40は、エリアe1内のU相の最大値候補VUPおよびエリアe2内のロータ回転角θUを更新しない。
【0067】
同様に、制御部40は、今回取得したV相の相電圧VVと、メモリのエリアe3に記憶されているV相の最大値候補VVPとを比較する。今回取得したV相の相電圧VVが、V相の最大値候補VVPより大きい場合には、制御部40は、今回取得したV相の相電圧VVをV相の最大値候補VVPとしてメモリのエリアe3に記憶するとともに、今回取得したロータ回転角をV相最大値候補検出時のロータ回転角θVとしてメモリのエリアe4に記憶する。つまり、制御部40は、エリアe3内のV相の最大値候補VVPおよびエリアe4内のロータ回転角θVを更新する。一方、今回取得したV相の相電圧VVが、エリアe3に記憶されているV相の最大値候補VVP以下である場合には、制御部40は、エリアe3内のV相の最大値候補VVPおよびエリアe4内のロータ回転角θVを更新しない。
【0068】
同様に、制御部40は、今回取得したW相の相電圧VWと、メモリのエリアe5に記憶されているW相の最大値候補VWPとを比較する。今回取得したW相の相電圧VWが、W相の最大値候補VWPより大きい場合には、制御部40は、今回取得したW相の相電圧VWをW相の最大値候補VWPとしてメモリのエリアe5に記憶するとともに、今回取得したロータ回転角をW相最大値候補検出時のロータ回転角θWとしてメモリのエリアe6に記憶する。つまり、制御部40は、エリアe5内のW相の最大値候補VWPおよびエリアe6内のロータ回転角θWを更新する。一方、今回取得したW相の相電圧VWが、エリアe5に記憶されているW相の最大値候補VWP以下である場合には、制御部40は、エリアe5内のW相の最大値候補VWPおよびエリアe6内のロータ回転角θWを更新しない。
【0069】
なお、短絡故障したFETがハイサイドFETである場合には、メモリのエリアe1には、U相電圧の最小値候補が記憶される。この場合には、今回取得したU相の相電圧VUが、メモリのエリアe1に記憶されているU相の最小値候補より小さい場合にのみ、メモリのエリアe1内のU相の最小値候補およびメモリのエリアe2内のロータ回転角が更新される。他の相(V相およびW相)についても、同様である。
【0070】
以上のようなピーク検出処理が行われると、制御部40は、ステップS19に移行する。ステップS19では、制御部40は、ピーク検出処理が開始されてから、電動モータ18のロータが電気角で360°以上回転したか否かを判別する。たとえば、制御部40は、ステップS18で取得されるロータ回転角の今回値と前回値との差をロータ角変位量とすると、ピーク検出処理が開始されてから現在までのロータ角変位量の累積値を演算し、ロータ角変位量の累積値の絶対値が360°以上であるか否かを判別することにより、ロータが電気角で360°以上回転したか否かを判別する。
【0071】
ピーク検出処理が開始されてから、ロータが電気角で360°以上回転していないと判別された場合には(ステップS19:NO)、フラグFをセット(F=1)する(ステップS20)。そして、今回の演算周期での処理を終了する。この場合には、モード番号Mは3のままであるので、次回の演算周期においても、ステップS11の処理が行われた後に、ステップS18のピーク検出処理が行なわれることになる。
【0072】
一方、ステップS19において、ピーク検出処理が開始されてから、ロータが電気角で360°以上回転したと判別された場合には(ステップS19:YES)、制御部40は、モード番号Mを4に更新するとともに(ステップS21)、フラグFをリセット(F=0)する(ステップS22)。そして、今回の演算周期での処理を終了する。
ステップS12において、モード番号Mが4であると判定された場合には、制御部40は、ステップS23に移行して、ピーク値の誤検出があったか否かを判別する。各相の誘起電圧の位相は互いに120°ずれているので、各相の相電圧がピーク値(最大値または最小値)であるときのロータ回転角は互いに異なるはずである。そこで、エリアe2、e4およびe6にそれぞれ記憶されている3つのロータ回転角から2つを選択する全ての組合せ(θU,θV),(θV,θW),(θW,θU)の中に、それらの差の絶対値が所定角度(例えば1°)以内のものが存在するか否かを判定する。制御部40は、前記全ての組合せの中にそれらの差の絶対値が前記所定角度以内のものが存在する場合にはピーク値の誤検出があったと判別し、前記全ての組合せの中にそれらの差の絶対値が所定角度以内のものが存在しない場合にはピーク値の誤検出がなかったと判別する。
【0073】
ピーク値の誤検出があったと判別された場合には(ステップS23:YES)、制御部40は、モード番号Mを3に更新する(ステップS24)。そして、今回の演算周期での処理を終了する。この場合には、次回の演算周期において、ステップS11の処理が行われた後に、ステップS18のピーク検出処理が行われることになる。ただし、この場合には、フラグFがリセット(F=0)されているので(ステップS22参照)、制御部40は、ピーク検出処理を最初からやり直すことになる。
【0074】
前記ステップS23において、ピーク値の誤検出がなかったと判別された場合には(ステップS23:NO)、制御部40は、故障相特定処理を行なう(ステップS25)。具体的には、制御部40は、メモリのエリアe1、e3およびe5に記憶されている最大値候補VUP,VVP,VWPのうちの最も小さいものに対応する相を、短絡故障相として特定する。なお、短絡故障したFETがハイサイドFETである場合には、制御部40は、メモリのエリアe1、e3およびe5に記憶されている最小値候補のうちの最も大きいものに対応する相を、短絡故障相として特定する。このようにして、短絡故障相が特定されると、短絡故障した1つのFETの位置が特定されることになる。
【0075】
故障相特定処理が終了すると、制御部40はモード番号Mを5に更新する(ステップS26)。そして、今回の演算周期での処理を終了する。
ステップS12において、モード番号Mが5であると判定されると、制御部40は、領域特定処理を行なう(ステップS27)。具体的には、制御部40は、回転角センサ52によって検出されるロータ回転角(電気角)を取得する。そして、制御部40は、今回の演算周期においてステップS11で決定した電動モータ18を回転させるべき方向(CWまたはCCW)と、短絡故障した1つのFETの位置と、図6に示すマップとから、電動モータ18を回転させるべき方向および短絡故障した1つのFETの位置に対応した各領域(「可能領域」、「不定領域」および「不可領域」)を特定する。そして、制御部40は、今回取得したロータ回転角(現在のロータ回転角)が、「可能領域」、「不定領域」および「不可領域」のいずれの領域に属するかを判別する。
【0076】
次に、制御部40は、故障時用モータ制御処理を行なった後(ステップS28)、今回の演算周期での処理を終了する。故障時用モータ制御処理においては、制御部40は、現在のロータ回転角が属している領域(「可能領域」、「不定領域」および「不可領域」)に応じて、駆動回路30を制御する。
現在のロータ回転角が「不可領域」に属している場合には、制御部40は、全てのFET32をオフ状態にする。つまり、この場合には、電動モータ18は駆動されない。
【0077】
一方、現在のロータ回転角が「可能領域」に属している場合または「不定領域」に属している場合には、制御部40は、駆動回路30を制御することにより、電動モータ18を駆動する。具体的には、制御部40は、例えば120°矩形駆動方式によって、電動モータ18を駆動する。
以下、現在の電気角が「可能領域」または「不定領域」に属している場合に、120°矩形駆動方式によって、電動モータ18を駆動する場合について説明する。
【0078】
図11は、電動モータ18が120°矩形駆動方式によって正転方向に回転駆動される場合において、各FET31がオン状態にされるタイミングを説明するための説明図である。図11には、全てのFET31が正常である場合に電動モータ18を180°通電正弦波駆動させたときのロータ回転角θに対する各相の誘起電圧波形VU,VV,VWが示されているとともに、全てのFET31が正常である場合において電動モータ18を120°矩形駆動方式によって正転方向に回転駆動するときのロータ回転角θに対する各FET31のオン・オフパターン(通電パターン)が示されている。
【0079】
120°矩形駆動方式では、ロータが電気角で60°回転する毎に、オンされるFETの組合せが切り替えられる。通電パターンには、60°毎の各電気角領域において、オンされるFETが示されている。各電気角領域の上段にはオンされるハイサイドFETの相(U,V,W)が示されており、各電気角領域の下段にはオンされるローサイドFETの相が示されている。
【0080】
この通電パターンによれば、全てのFET31が正常である場合に120°矩形駆動方式で電動モータ18を正転方向に駆動する場合、60°毎の各電気角領域とオンされるFET31との関係は、次のようになる。
330°〜 30°:V相のハイサイドFET31VH,W相のローサイドFET31WL
30°〜 90°:V相のハイサイドFET31VH,U相のローサイドFET31UL
90°〜150°:W相のハイサイドFET31WH,U相のローサイドFET31UL
150°〜210°:W相のハイサイドFET31WH,V相のローサイドFET31VL
210°〜270°:U相のハイサイドFET31UH,V相のローサイドFET31VL
270°〜330°:U相のハイサイドFET31UH,W相のローサイドFET31WL
6個のFET31のうちの1つに短絡故障が発生した場合には、制御部40は、現在の電気角が「可能領域」または「不定領域」にあるときには、前記通電パターンにおいて現在の電気角に対してオンされるべき2つのFETをオンさせる。たとえば、短絡故障したFETがV相のローサイドFET31VLである場合には、電動モータ18を回転させるべき回転方向が正転方向であるとすると、「可能領域」、「不定領域」および「不可領域」は、次のようになる。
【0081】
「可能領域(U)」:210°〜270°
「可能領域(W)」:150°〜210°
「不定領域(U)」:270°〜330°
「不定領域(W)」:90°〜150°
「不可領域」:330°〜90°
したがって、現在の電気角が「不可領域」である330°〜90°の電気角領域に属しているときには、制御部40は短絡故障したFET以外のFETの全てをオフ状態とする。この場合には、電動モータ18は駆動されない。
【0082】
現在の電気角が「不定領域(W)」である90°〜150°の電気角領域に属しているときには、制御部40は、図11の通電パターンに従って、W相のハイサイドFET31WHとU相のローサイドFET31ULとをオンさせる。この場合には、図2または図3を参照して、電源33からW相のハイサイドFET31WHを通過した電流は、電動モータ18(界磁コイル18W,18U,18V)を経由した後、U相のローサイドFET31ULおよびV相のローサイドFET(故障FET)31VLを介して接地34へと流れる。これにより、電動モータ18が駆動され、アシスト力が発生する。
【0083】
現在の電気角が「可能領域(W)」である150°〜210の電気角領域に属しているときには、制御部40は、図11の通電パターンに従って、W相のハイサイドFET31WHとV相のローサイドFET(故障FET)31VLとをオンさせる。この場合には、電源33からW相のハイサイドFET31WHを通過した電流は、電動モータ18(界磁コイル18W,18V)を経由した後、V相のローサイドFET(故障FET)31VLを介して接地34へと流れる。これにより、電動モータ18が駆動され、アシスト力が発生する。
【0084】
現在の電気角が「可能領域(U)」である210°〜270°の電気角領域に属しているときには、制御部40は、図11の通電パターンに従って、U相のハイサイドFET31UHとV相のローサイドFET(故障FET)31VLとをオンさせる。この場合には、電源33からU相のハイサイドFET31UHを通過した電流は、電動モータ18(界磁コイル18U,18V)を経由した後、V相のローサイドFET(故障FET)31VLを介して接地34へと流れる。これにより、電動モータ18が駆動され、アシスト力が発生する。
【0085】
現在の電気角が「不定領域(U)」である270°〜330°の電気角領域に属しているときには、制御部40は、図11の通電パターンに従って、U相のハイサイドFET31UHとW相のローサイドFET31WLをオンさせる。この場合には、電源33からU相のハイサイドFET31UHを通過した電流は、電動モータ18(界磁コイル18U,18W,18V)を経由した後、W相のローサイドFET31WLおよびV相のローサイドFET(故障FET)31VLを介して接地34へと流れる。
【0086】
一方、短絡故障したFETがV相のハイサイドFET31VHである場合には、電動モータ18を回転させるべき方向が正転方向であるとすると、「可能領域」、「不定領域」および「不可領域」は、次のようになる。
「可能領域(W)」:330°〜30°
「可能領域(U)」:30°〜90°
「不定領域(U)」:90°〜150°
「不定領域(W)」:270°〜330°
「不可領域」:150°〜270°
したがって、現在の電気角が「可能領域(W)」である330°〜30°の電気角領域に属しているときには、制御部40は、図11の通電パターンに従って、V相のハイサイドFET(故障FET)31VHとW相のローサイドFET31WLとをオンさせる。この場合には、図2または図4を参照して、電源33からV相のハイサイドFET(故障FET)31VHを通過した電流は、電動モータ18(界磁コイル18V,18W)を経由した後、W相のローサイドFET31WLを介して接地34へと流れる。
【0087】
現在の電気角が「可能領域(U)」である30°〜90°の電気角領域に属しているときには、制御部40は、図11の通電パターンに従って、V相のハイサイドFET(故障FET)31VHとU相のローサイドFET31ULとをオンさせる。この場合には、電源33からV相のハイサイドFET(故障FET)31VHを通過した電流は、電動モータ18(界磁コイル18V,18U)を経由した後、W相のローサイドFET31ULを介して接地34へと流れる。
【0088】
現在の電気角が「不定領域(U)」である90°〜150°の電気角領域に属しているときには、制御部40は、図11の通電パターンに従って、W相のハイサイドFET31WHとU相のローサイドFET31ULとをオンさせる。この場合には、電源33からW相のハイサイドFET31WHを通過した電流は、電動モータ18(界磁コイル18W,18Uを経由した後、U相のローサイドFET31Uを介して接地34へと流れるとともに、電源33からV相のハイサイドFET(故障FET)31VHを通過した電流は、電動モータ18(界磁コイル18V,18U)を経由した後、U相のローサイドFET31Uを介して接地34へと流れる。
【0089】
現在の電気角が「不可領域」である150°〜270°の電気角領域に属しているときには、制御部40は短絡故障したFET以外のFETの全てをオフ状態とする。
現在の電気角が「不定領域(W)」である270°〜330°の電気角領域に属しているときには、制御部40は、図11の通電パターンに従って、U相のハイサイドFET31UHとW相のローサイドFET31WLとをオンさせる。この場合には、電源33からU相のハイサイドFET31UHを通過した電流は、電動モータ18(界磁コイル18U,18W)を経由した後、W相のローサイドFET31WLを介して接地34へと流れるとともに、電源33からV相のハイサイドFET(故障FET)31VHを通過した電流は、電動モータ18(界磁コイル18V,18W)を経由した後、W相のローサイドFET31WLを介して接地34へと流れる。
【0090】
なお、電動モータ18を回転させるべき方向が逆転方向である場合には、次のようにして電動モータ18を駆動制御すればよい。つまり、現在の電気角が「不可領域」に属しているときには、制御部40は、短絡故障したFET以外の全てのFET31をオフ状態とする。一方、現在の電気角が「可能領域」または「不定領域」に属しているときには、制御部40は、全てのFETが正常である場合に120°矩形駆動方式によって電動モータ18が逆転方向に回転駆動されるときに現在の電気角に対してオンされるべき2つのFETをオンさせる。
【0091】
上記実施形態によれば、駆動回路30内の6つのFET31のうち、1つのFETが短絡故障した場合に、短絡故障したFETを特定することが可能となる。
上記実施形態によれば、運転者がステアリングホイール2を操作することにより電動モータ18から発生される誘起電圧を利用して、短絡故障相を特定することができる。このため、短絡故障相を特定するために、電動モータ18に強制的に電流を流す必要がなくなる。また、運転者の操舵によってロータが電気角でほぼ360°回転すれば、短絡故障相を特定できるので、比較的短時間の間に短絡故障したFETを特定することが可能となる。
【0092】
また、上記実施の形態によれば、各相の相電圧のピーク値がそれぞれ検出されたときロータ回転角に基づいてピーク値の誤検出があったか否かを判定し、ピーク値の誤検出があった場合には、ピーク値検出処理を最初からやり直すようにしているので、短絡故障相の特定精度を向上させることができる。
また、上記実施形態によれば、駆動回路30内の6つのFET31のうち、1つのFETに短絡故障が発生した場合において、電動モータ18を回転させるべき方向に応じて、電動モータ18を駆動させることが可能な電気角領域(ロータ回転角領域)を、制御可能領域として特定できるようになる。これにより、現在の電気角が制御可能領域に属しているか否かを判定でき、現在の電気角が制御可能領域に属しているときに、電動モータ18を駆動させることができるようになる。この結果、1つのFETが゛短絡故障した場合にも、電動モータ18による操舵のアシストが可能となる。
【0093】
なお、この発明は、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0094】
2…ステアリングホイール、18…電動モータ、30…駆動回路、31…FET、32…回生ダイオード、33…電源、34…接地、40…制御部
【技術分野】
【0001】
この発明は、三相ブラシレスモータを駆動するためのモータ制御装置を備えた車両用操舵装置に関する。車両用操舵装置の一例は、電動パワーステアリング装置である。三相ブラシレスモータは、たとえば、電動パワーステアリング装置における操舵補助力の発生源として利用される。
【背景技術】
【0002】
電動パワーステアリング装置に使用されているブラシレスモータの駆動回路は、FET(Field Effect Transistor)などのスイッチング素子を含んでいる。スイッチング素子に故障が発生すると、ステアリングホイールを操作するときにブラシレスモータが負荷となり、操舵が重くなるおそれがある。このような問題に対処するために、ブラシレスモータと駆動回路との結線にリレーが挿入されている。たとえば、三相ブラシレスモータの場合には、二相のモータ結線にそれぞれリレーを挿入し、無制御時およびスイッチング素子の故障時には、それらのリレーをオフするようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-311633号公報
【特許文献2】特開2008-11683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この発明の目的は、三相ブラシレスモータの駆動回路内の1つのスイッチング素子が短絡故障した場合に、短絡故障が発生したスイッチング素子を特定することが可能となる車両用操舵装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の発明は、ロータおよび界磁コイルを有する三相ブラシレスモータ(18)によって車両の舵取り機構に駆動力を付与する車両用操舵装置であって、2個のスイッチング素子(31UH,31UL;31VH,31VL;31WH,31WL)が直列に接続された直列回路を三相の各相に対応して3組備え、電源(33)と接地(34)との間においてそれらの直列回路が並列接続されており、各スイッチング素子に回生ダイオード(32UH,32UL,32VH,32VL,32WH,32WL)が並列に接続されている駆動回路(30)と、前記複数のスイッチング素子のうちの1つのスイッチング素子が短絡故障したときに、全てのスイッチング素子をオフさせることにより、前記三相ブラシレスモータの駆動を停止させる停止制御手段(40,S4)と、前記停止制御手段によって前記三相ブラシレスモータの駆動が停止されている状態において、短絡故障したスイッチング素子がハイサイドのスイッチング素子であるか、ローサイドのスイッチング素子であるかを特定する第1特定手段(40,S13)と、前記第1特定手段によって、短絡故障したスイッチング素子がハイサイドのスイッチング素子であると特定された場合には、前記車両を操向させるための操舵部材(2)が操作されたときに、三相の各相の相電圧最小値を検出し、検出された各相の相電圧最小値を比較することにより、短絡故障したスイッチング素子が三相のうちのいずれの相のスイッチング素子であるかを特定する第2特定手段(40,S25)と、前記第1特定手段によって、短絡故障したスイッチング素子がローサイドのスイッチング素子であると特定された場合には、前記車両を操向させるための操舵部材が操作されたときに、三相の各相の相電圧最大値を検出し、検出された各相の相電圧最大値を比較することにより、短絡故障したスイッチング素子が三相のうちのいずれの相のスイッチング素子であるかを特定する第3特定手段(40,S25)とを含む、車両用操舵装置である。なお、括弧内の英数字は、後述の実施形態における対応構成要素等を表すが、むろん、この発明の範囲は当該実施形態に限定されない。以下、この項において同じ。
【0006】
この構成では、複数のスイッチング素子のうちの1つのスイッチング素子が短絡故障したときに、三相ブラシレスモータの駆動が停止される。そして、第1特定手段によって、短絡故障したスイッチング素子がハイサイドのスイッチング素子であるか、ローサイドのスイッチング素子であるかが特定される。
第1特定手段によって、短絡故障したスイッチング素子がハイサイドのスイッチング素子であると特定された場合には、第2特定手段によって、短絡故障したスイッチング素子が三相のうちのいずれの相のスイッチング素子であるかが特定される。具体的には、車両を操向させるための操舵部材が操作されたときに、三相の各相の相電圧最小値が検出され、検出された各相の相電圧最小値が比較されることにより、短絡故障したスイッチング素子が三相のうちのいずれの相のスイッチング素子であるかが特定される。これにより、短絡故障したスイッチング素子を特定することができる。
【0007】
第2特定手段は、例えば、検出された各相の相電圧最小値のうちの最も大きいものに対応する相を、短絡故障したスイッチング素子の相(短絡故障相)として特定するものであってもよい。
一方、第1特定手段によって、短絡故障したスイッチング素子がローサイドのスイッチング素子であると特定された場合には、第3特定手段によって、短絡故障したスイッチング素子が三相のうちのいずれの相のスイッチング素子であるかが特定される。具体的には、車両を操向させるための操舵部材が操作されたときに、三相の各相の相電圧最大値が検出され、検出された各相の相電圧最大値が比較されることにより、短絡故障したスイッチング素子が三相のうちのいずれの相のスイッチング素子であるかが特定される。これにより、短絡故障したスイッチング素子を特定することができる。
【0008】
第3特定手段は、例えば、検出された各相の相電圧最大値のうちの最も小さいものに対応する相を、短絡故障したスイッチング素子の相(短絡故障相)として特定するものであってもよい。
前記第1特定手段は、各相電圧のうちのいずれかの相電圧が、所定の第1の閾値以下であるという第1条件を満たしているか否かを判別し、前記第1条件を満たしている場合には短絡故障したスイッチング素子がローサイドのスイッチング素子であると判定する手段と、各相電圧のうちのいずれかの相電圧が、前記第1の閾値より大きい所定の第2の閾値以上であるという第2条件を満たしているか否かを判別し、前記第2条件を満たしている場合には短絡故障したスイッチング素子がハイサイドのスイッチング素子であると判定する手段とを含むものであってもよい。
【0009】
請求項2に記載の発明は、前記第2特定手段は、各相の相電圧最小値がそれぞれ検出されたときの3つのロータ回転角に基づいて、相電圧最小値の誤検出があったか否かを判定し、相電圧最小値の誤検出があったと判別した場合には、各相の相電圧最小値を再度検出するための処理を行なう最小値誤検出チェック手段(40,S23,S24)を含んでおり、前記第3特定手段は、各相の相電圧最大値がそれぞれ検出されたときの3つのロータ回転角に基づいて、相電圧最大値の誤検出があったか否かを判定し、相電圧最大値の誤検出があったと判別した場合には、各相の相電圧最大値を再度検出するための処理を行なう最大値誤検出チェック手段(40,S23,S24)を含んでいる、請求項1に記載の車両用操舵装置である。この構成によれば、短絡故障相の特定精度を向上させることができる。
【0010】
請求項3に記載の発明は、前記最小値誤検出チェック手段は、各相の相電圧最小値がそれぞれ検出されたときの3つのロータ回転角から2つを選択する全ての組合せの中に、その組合せ内の2つのロータ回転角の差の絶対値が所定値以内である組合せが存在する場合に、相電圧最小値の誤検出があったと判別するように構成されており、前記最大値誤検出チェック手段は、各相の相電圧最大値がそれぞれ検出されたときの3つのロータ回転角から2つを選択する全ての組み合わせの中に、その組合せ内の2つのロータ回転角の差の絶対値が所定値以内である組合せが存在する場合に、相電圧最大値の誤検出があったと判別するように構成されている、請求項2に記載の車両用操舵装置である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、この発明の一実施形態に係る車両用操舵装置としての電動パワーステアリング装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】図2は、モータ制御装置としてのECUの電気的構成を示すブロック図である。
【図3】図3は、制御部40の全体的な動作を示すフローチャートである。
【図4】図4は、ローサイドFETが短絡故障した場合に負荷電流が流れる閉回路を示す電気回路図である。
【図5】図5は、ハイサイドFETが短絡故障した場合に負荷電流が流れる閉回路を示す電気回路図である。
【図6】図6は、電動モータを回転させるべき方向と短絡故障が発生したFETとの組み合わせ毎に、その組合せに対応する「可能領域」、「不定領域」および「不可領域」を表すマップを示す模式図である。
【図7】図7は、全てのFET31が正常である場合に、全てのFET31がオフの状態で、ロータが正転方向に回転されたときの、ロータ回転角θに対する各相の誘起電圧波形VU,VV,VWの理論値を示すグラフである。
【図8A】図8Aは、V相のローサイドFET31VLが短絡故障した場合に、他の全てのFETがオフの状態で、ロータが正転方向に回転されたときの、ロータ回転角θに対する各相の誘起電圧波形VU’,VV’,VW’の理論値を示すグラフである。
【図8B】図8Bは、V相のハイサイドFET31VHが短絡故障した場合に、他の全てのFETがオフの状態で、ロータが正転方向に回転されているときの、ロータ回転角θに対する各相の誘起電圧波形VU’,VV’,VW’の理論値を示すグラフである。
【図9】図9は、図3のステップS5の異常時制御処理の詳細な手順を示すフローチャートである。
【図10】図10は、メモリの内容の一部を示す模式図である。
【図11】図11は、電動モータ18が120°矩形駆動方式によって正転方向に回転駆動される場合において、各FET31がオン状態にされるタイミングを説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下では、この発明の実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る車両用操舵装置としての電動パワーステアリング装置の概略構成を示す模式図である。
電動パワーステアリング装置1は、車両を操向するための操舵部材としてのステアリングホイール2と、このステアリングホイール2の回転に連動して転舵輪3を転舵する転舵機構4と、運転者の操舵を補助するための操舵補助機構5とを備えている。ステアリングホイール2と転舵機構4とは、ステアリングシャフト6および中間軸7を介して機械的に連結されている。
【0013】
ステアリングシャフト6は、ステアリングホイール2に連結された入力軸8と、中間軸7に連結された出力軸9とを含む。入力軸8と出力軸9とは、トーションバー10を介して相対回転可能に連結されている。
ステアリングシャフト6の周囲に配置されたトルクセンサ11は、入力軸8および出力軸9の相対回転変位量に基づいて、ステアリングホイール2に与えられた操舵トルクを検出する。トルクセンサ11によって検出される操舵トルクは、ECU(電子制御ユニット:Electronic Control Unit)12に入力される。また、ECU12には、車速センサ23によって検出される車速が入力される。
【0014】
転舵機構4は、ピニオン軸13と、転舵軸としてのラック軸14とを含むラックアンドピニオン機構からなる。ラック軸14の各端部には、タイロッド15およびナックルアーム(図示略)を介して転舵輪3が連結されている。ピニオン軸13は、中間軸7に連結されている。ピニオン軸13は、ステアリングホイール2の操舵に連動して回転するようになっている。ピニオン軸13の先端(図1では下端)には、ピニオン16が連結されている。
【0015】
ラック軸14は、自動車の左右方向(直進方向に直交する方向)に沿って直線状に延びている。ラック軸14の軸方向の中間部には、ピニオン16に噛み合うラック17が形成されている。このピニオン16およびラック17によって、ピニオン軸13の回転がラック軸14の軸方向移動に変換される。ラック軸14を軸方向に移動させることによって、転舵輪3を転舵することができる。
【0016】
ステアリングホイール2が操舵(回転)されると、この回転が、ステアリングシャフト6および中間軸7を介して、ピニオン軸13に伝達される。そして、ピニオン軸13の回転は、ピニオン16およびラック17によって、ラック軸14の軸方向移動に変換される。これにより、転舵輪3が転舵される。
操舵補助機構5は、操舵補助用の電動モータ18と、電動モータ18の出力トルクを転舵機構4に伝達するための減速機構19とを含む。電動モータ18は、この実施形態では、三相ブラシレスモータからなる。減速機構19は、ウォーム軸20と、このウォーム軸20と噛み合うウォームホイール21とを含むウォームギヤ機構からなる。減速機構19は、伝達機構ハウジングとしてのギヤハウジング22内に収容されている。
【0017】
ウォーム軸20は、電動モータ18によって回転駆動される。また、ウォームホイール21は、ステアリングシャフト6とは同方向に回転可能に連結されている。ウォームホイール21は、ウォーム軸20によって回転駆動される。
電動モータ18によってウォーム軸20が回転駆動されると、ウォームホイール21が回転駆動され、ステアリングシャフト6が回転する。そして、ステアリングシャフト6の回転は、中間軸7を介してピニオン軸13に伝達される。ピニオン軸13の回転は、ラック軸14の軸方向移動に変換される。これにより、転舵輪3が転舵される。すなわち、電動モータ18によってウォーム軸2を回転駆動することによって、転舵輪3が転舵されるようになっている。
【0018】
電動モータ18は、モータ制御装置としてのECU12によって制御される。ECU12は、トルクセンサ11によって検出される操舵トルク、車速センサ23によって検出される車速等に基づいて、電動モータ18を制御する。具体的には、ECU12では、操舵トルクと目標アシスト量との関係を車速ごとに記憶したマップを用いて目標アシスト量を決定し、電動モータ18の発生するアシスト力が目標アシスト量に近づくように制御する。
【0019】
図2は、モータ制御装置としてのECU12の電気的構成を示す概略図である。電動モータ18は、U相界磁コイル18U、V相界磁コイル18V、W相界磁コイル18Wを有するステータと、永久磁石が固定されたロータとを備えている。
ECU12は、電動モータ18の駆動電力を生成する駆動回路30と、駆動回路30を制御するための制御部40とを備えている。制御部40は、CPUとこのCPUの動作プログラム等を記憶したメモリ(ROM,RAM,不揮発性メモリ等)とを含むマイクロコンピュータで構成されている。
【0020】
駆動回路30は、三相ブリッジインバータ回路である。この駆動回路30では、電動モータ18のU相に対応した一対のFET(電界効果トランジスタ)31UH,31ULの直列回路と、V相に対応した一対のFET31VH,31VLの直列回路と、W相に対応した一対のFET31WH,31WLの直列回路とが、直流電源33と接地34との間に並列に接続されている。また、各FET31UH〜31WLには、それぞれ回生ダイオード32UH〜32WLが、接地34側から直流電源33側に順方向電流が流れるような向きで、並列に接続されている。
【0021】
以下において、各相の一対のFETのうち、電源側のものを「ハイサイドFET」または「上段FET」といい、接地34側のものを「ローサイドFET」または「下段FET」という場合がある。また、6つのFET31UH〜31WLを総称するときには、「FET31」ということにする。同様に、6つの回生ダイオード32UH〜32WLを総称するときには、「回生ダイオード32」ということにする。
【0022】
電動モータ18のU相界磁コイル18Uは、U相に対応した一対のFET31UH,31ULの間の接続点に接続されている。電動モータ18のV相界磁コイル18Vは、V相に対応した一対のFET31VH,31VLの間の接続点に接続されている。電動モータ18のW相界磁コイル18Wは、W相に対応した一対のFET31WH,31WLの間の接続点に接続されている。各相の界磁コイル18U,18V,18Wと駆動回路30とを接続するための各接続線には、各相の相電流IU,IV,IWを検出するための電流センサ51U,51V,51Wが設けられている。電動モータ18側には、ロータの回転角(電気角)を検出するためのレゾルバ等の回転角センサ52が設けられている。
【0023】
制御部40には、回転角センサ52によって検出されるロータ回転角(電気角)と、トルクセンサ11によって検出される操舵トルクと、車速センサ23によって検出される車速と、電流センサ51U,51V,51Wによって検出される各相の相電流IU,IV,IWと、図示しない相電圧検出回路によって検出される各相の相電圧VU,VV,VWが入力される。
【0024】
図3は、制御部40の全体的な動作を示すフローチャートである。
制御部40は、FET31に故障が発生しているか否かを監視する(ステップS1)。FET31に故障が発生していないときには(ステップS1:NO)、制御部40は、通常時制御処理を行なう(ステップS2)。つまり、制御部40は、各FET31を制御することにより、電動モータ18を180°通電正弦波駆動する。
【0025】
具体的には、制御部40は、たとえば、操舵トルクと目標アシスト量(電流目標値)との関係を車速毎に記憶したマップと、トルクセンサ11によって検出された操舵トルクと、車速センサ23によって検出された車速とに基づいて、目標アシスト量を決定する。そして、制御部40は、目標アシスト量と、電流センサ51U,51V,51Wによって検出される各相の相電流IU,IV,IWと、回転角センサ52によって検出されるロータ回転角(電気角)とに基づいて、電動モータ18の発生するアシスト力(トルク)が目標アシスト量に近づくように、各FET31をPWM(Pulse Width Modulation)制御する。
【0026】
通常時制御処理が行われているときに、電源オフ指令等の制御停止指令が入力されると(ステップS3:YES)、制御部40は通常時制御処理を終了する。
前記ステップS2の通常時制御処理が行なわれているときに、FET31に故障が発生すると(ステップS1:YES)、制御部40は、全てのFET31をオフにして電動モータ18の駆動を一旦停止させる(ステップS4)。そして、制御部40は、異常時制御処理を行なう(ステップS5)。異常時制御処理が行われているときにおいて、制御停止指令が入力されると(ステップS6:YES)、制御部40は異常時制御処理を終了する。
【0027】
異常時制御処理は、FET31のうちの1つに短絡故障が発生しているとき(短絡故障時)に短絡故障したFETを特定するための処理と、短絡故障時に制御可能領域を特定するための処理と、短絡故障時に制御可能領域においてモータを駆動制御するための処理等を含んでいる。制御可能領域とは、短絡故障時に、電動モータ18を回転させるべき方向において、電動モータ18を駆動することが可能なロータ回転角領域(電気角領域)をいう。
【0028】
異常時制御処理の全体的な動作を説明する前に、制御可能領域を特定するための処理について説明する。以下において、短絡故障した1つのFETを含む相を短絡故障相といい、短絡故障した1つのFETを含まない相を正常相という場合がある。6つのFET31UH〜31WLのうちの1つのFETが短絡故障した場合に、他のFETの全てがオフとなっている状態でロータが回転されたときには、ロータ回転角(電気角)によっては、短絡故障したFETと、正常なFETに並列接続された回生ダイオードとによって形成される閉回路に負荷電流が流れる。この実施形態では、制御部40は、2つの正常相のいずれにも負荷電流が流れない電気角領域を「可能領域」として特定し、2つの正常相のうちのいずれか一方にのみ負荷電流が流れる電気角領域を「不定領域」として特定し、2つの正常相の両方に負荷電流が流れる電気角領域を「不可領域」として特定する。
【0029】
この実施形態では、「可能領域」と「不定領域」とを合わせた領域が、短絡故障時に電動モータ18を駆動することが可能な制御可能領域として特定され、「不可領域」が短絡故障時に電動モータ18を駆動することが不可能な制御不能領域として特定されることになる。なお、「可能領域」のみを制御可能領域として特定し、「不定領域」と「不可領域」とを合わせた領域を制御不能領域として特定するようにしてもよい。
【0030】
図4に示すように、たとえば、V相のローサイドFET31VLが短絡故障した場合に、他のFETの全てがオフとなっている状態で、運転者による操舵によってロータが回転されたとする。そうすると、電動モータ18に誘起電圧が発生する。この誘起電圧により、ロータ回転角(電気角)によっては、符号61で示す第1の閉回路および符号62で示す第2の閉回路の一方または両方に矢印で示す方向に負荷電流が流れるようになる。
【0031】
第1の閉回路61は、短絡故障したV相のローサイドFET31VLと、正常相であるU相のローサイドFET31ULに並列接続された回生ダイオード32ULと、U相界磁コイル18Uと、V相界磁コイル18Vとを含んでいる。一方、第2の閉回路62は、短絡故障したV相のローサイドFET31VLと、正常相であるW相のローサイドFET31WLに並列接続された回生ダイオード32WLと、W相界磁コイル18Wと、V相界磁コイル18Vとを含んでいる。
【0032】
したがって、V相のローサイドFET31VLが短絡故障した場合には、「不可領域」、「可能領域」および「不定領域」は、次のようになる。すなわち、前記第1の閉回路61および前記第2の閉回路62の両方に負荷電流が流れる電気角領域が「不可領域」となる。一方、前記第1の閉回路61および前記第2の閉回路62のいずれにも負荷電流が流れない電気角領域が「可能領域」となる。そして、前記第1の閉回路61および前記第2の閉回路62のいずれか一方にのみ負荷電流が流れる電気角領域が「不定領域」となる。
【0033】
一方、図5に示すように、V相のハイサイドFET31VHが短絡故障した場合において、他のFETの全てがオフとなっている状態で、運転者による操舵操作によってロータが回転されたとする。そうすると、電動モータ18に誘起電圧が発生する。この誘起電圧により、ロータ回転角(電気角)によっては、符号63で示す第3の閉回路および符号64で示す第4の閉回路の一方または両方に矢印で示す方向に負荷電流が流れるようになる。
【0034】
第3の閉回路63は、短絡故障したV相のハイサイドFET31VHと、V相界磁コイル18Vと、U相界磁コイル18Uと、正常相であるU相のハイサイドFET31UHに並列接続された回生ダイオード32UHとを含んでいる。一方、第4の閉回路64は、短絡故障したV相のハイサイドFET31VHと、V相界磁コイル18Vと、W相界磁コイル18Wと、正常相であるW相のハイサイドFET31WHに並列接続された回生ダイオード32WHとを含んでいる。
【0035】
したがって、V相のハイサイドFET31VHが短絡故障した場合には、「不可領域」、「可能領域」および「不定領域」は、次のようになる。すなわち、前記第3の閉回路63および前記第4の閉回路64の両方に負荷電流が流れる電気角領域が「不可領域」となる。一方、前記第3の閉回路63および前記第4の閉回路64のいずれにも負荷電流が流れない電気角領域が「可能領域」となる。そして、前記第3の閉回路63および前記第4の閉回路64のいずれか一方にのみ負荷電流が流れる電気角領域が「不定領域」となる。
【0036】
図4に示すように、V相のローサイドFET31VLが短絡故障している場合において、U相界磁コイル18Uを含む第1の閉回路61に矢印で示す方向に負荷電流が流れるためには、短絡故障相であるV相の相電圧VVが正常相であるU相の相電圧VUより高い(大きい)ことが必要となる。また、この場合、駆動回路30から電動モータ18に向かって流れる電流の極性を正とすると、正常相であるU相の相電流IUの極性は正となる。同様に、W相界磁コイル18Wを含む第2の閉回路62に矢印で示す方向に負荷電流が流れるためには、短絡故障相であるV相の相電圧VVが正常相であるW相の相電圧VWより高いことが必要となる。また、この場合、正常相であるW相の相電流IWの極性は正となる。
【0037】
図5に示すように、V相のハイサイドFET31VHが短絡故障している場合において、U相界磁コイル18Uを含む第3の閉回路63に矢印で示す方向に負荷電流が流れるためには、短絡故障相であるV相の相電圧VVが正常相であるU相の相電圧VUより低い(小さい)ことが必要となる。また、この場合、正常相であるU相の相電流IUの極性は負となる。同様に、W相界磁コイル18Wを含む第4の閉回路64に矢印で示す方向に負荷電流が流れるためには、短絡故障相であるV相の相電圧VVが正常相であるW相の相電圧VWより低いことが必要となる。また、この場合、正常相であるW相の相電流IWの極性は負となる。
【0038】
以上のように、「可能領域」、「不定領域」および「不可領域」は、短絡故障したFETの位置によって異なる。また、電動モータ18が正転方向に回転される場合と逆転方向に回転される場合とでは、短絡故障したFETが同じであっても、各相の誘起電圧波形が異なるため、電動モータ18の回転方向によって、「可能領域」、「不定領域」および「不可領域」は異なる。
【0039】
この実施形態では、電動モータ18を回転させるべき方向(CW,CCW)と短絡故障が発生したFETとの組み合わせ毎に、その組合せに対応する「可能領域」、「不定領域」および「不可領域」を表すマップが予め作成されて、制御部40の不揮発性メモリに格納されている。
図6は、このようなマップの内容例を示している。図6において、CW(clockwise)およびCCW(counter clockwise)は、電動モータ18を回転させるべき回転方向を表しており、CWは正転方向を、CCWは逆転方向を表している。U,V,W、上段および下段は、短絡故障したFETの位置を表している。つまり、U,V,Wは、短絡故障相を表している。上段は、短絡故障したFETが上段FET(ハイサイドFET)であることを表し、下段は、短絡故障したFETが下段FET(ローサイドFET)であることを表している。このようなマップは、理論値または計測データに基づいて作成される。
【0040】
マップを、理論値に基づいて作成する場合について説明する。図7は、全てのFET31が正常である場合に、全てのFET31がオフの状態で、ロータが正転方向に回転されたときの、ロータ回転角θに対する各相の誘起電圧波形VU,VV,VWの理論値(シミュレーション値)を示している。この例では、U相の誘起電圧波形が正から負へと変化する点がロータ回転角(電気角)θの0°として設定されている。
【0041】
各相の誘起電圧の理論値VU,VV,VWは、振幅をEとすると、次式(1)で表される。
VU=E・sin(θ−π)
VV=E・sin(θ−π−(2/3)π)
VW=E・sin(θ−π+(2/3)π) …(1)
図8Aは、V相のローサイドFET31VLが短絡故障した場合に、他の全てのFETがオフの状態で、ロータが正転方向に回転されたときの、ロータ回転角θに対する各相の誘起電圧波形VU’,VV’,VW’の理論値(シミュレーション値)を示している。V相のローサイドFET31VLが短絡故障した場合の各相の誘起電圧VU’,VV’,VW’の理論値は、全てのFET31が正常である場合における各相の誘起電圧の理論値VU,VV,VWを用いて次式(2)で表される。
【0042】
VU’=VU−VV
VV’=0
VW’=VW−VV …(2)
図8Aに示されるような理論値に基づいて、短絡故障したFETがV相のローサイドFET31VLであり、電動モータ18を回転させるべき方向が正転方向である場合の制御可能領域が特定される。
【0043】
具体的には、正常相(U相,V相)の両方の誘起電圧VU’,VW’が、短絡故障相(V相)の誘起電圧VV’(図8Aの例では0)より大きくなる電気角領域(図4の第1および第2の閉回路61,62のいずれにも負荷電流が流れない電気角領域)が「可能領域」として特定される。この例では、「可能領域」は150°〜270°となる。
なお、この実施形態では、短絡故障しているFETがローサイドFETである場合には、2つの正常相をA,Bで表すと、「可能領域」のうち、一方の正常相Aの相電圧が他方の正常相Bの相電圧以上となる電気角領域が「可能領域(A)」として特定され、前記他方の正常相Bの相電圧が前記一方の正常相Aの相電圧より大きくなる電気角領域が「可能領域(B)」として特定される。上記の例では、「可能領域」のうち、U相の誘起電圧VU’がW相の誘起電圧VW’以上となる領域(この例では、210°〜270°)が「可能領域(U)」として特定され、W相の誘起電圧VW’がU相の誘起電圧VU’より大きくなる領域(この例では、150°〜210°)が「可能領域(W)」として特定される。
【0044】
また、正常相(U相,V相)の両方の誘起電圧VU’,VW’が、短絡故障相(V相)の誘起電圧VV’以下となる電気角領域(図4の第1および第2の閉回路61,62のいずれにも負荷電流が流れる電気角領域)が「不可領域」として特定される。この例では、「不可領域」は、330°〜90°となる。
そして、「可能領域」と「不可領域」の中間の電気角領域(図4の第1および第2の閉回路61,62のいずれか一方にのみ負荷電流が流れる電気角領域)が「不定領域」として特定される。この例では、「不定領域」は、90°〜150°および270°〜330°となる。
【0045】
なお、この実施形態では、短絡故障しているFETがローサイドFETである場合には、2つの正常相をA,B、故障相をCで表すと、「不定領域」のうち、一方の正常相Aの相電圧が故障相Cの相電圧より大きくなる電気角領域が「不定領域(A)」として特定され、他方の正常相Bの相電圧が故障相Cの相電圧より大きくなる電気角領域が「不定領域(B)」として特定される。上記の例では、「不定領域」のうち、U相の誘起電圧VU’が短絡故障相(V相)の誘起電圧VV’より大きくなる電気角領域(270°〜330°)が「不定領域(U)」として特定され、W相の誘起電圧VW’が短絡故障相(V相)の誘起電圧VV’より大きくなる電気角領域(90°〜150°)が「不定領域(W)」として特定される。
【0046】
図8Bは、V相のハイサイドFET31VHが短絡故障した場合に、他の全てのFETがオフの状態で、ロータが正転方向に回転されたときの、ロータ回転角θに対する各相の誘起電圧波形VU’,VV’,VW’の理論値(シミュレーション値)を示している。図8Bに示されるような理論値に基づいて、短絡故障したFETがV相のハイサイドFET31VHであり、電動モータ18を回転させるべき方向が正転方向である場合の制御可能領域が特定される。
【0047】
具体的には、正常相(U相,V相)の両方の誘起電圧VU’,VW’が、短絡故障相(V相)の誘起電圧VV’より小さくなる電気角領域(図5の第3および第4の閉回路63,64のいずれにも負荷電流が流れない電気角領域)が「可能領域」として特定される。この例では、「可能領域」は、330°〜90°となる。
なお、この実施形態では、短絡故障しているFETがハイサイドFETである場合には、2つの正常相をA,Bで表すと、「可能領域」のうち、一方の正常相Aの相電圧が他方の正常相Bの相電圧以下となる電気角領域が「可能領域(A)」として特定され、前記他方の正常相Bの相電圧が前記一方の正常相Aの相電圧より小さくなる電気角領域が「可能領域(B)」として特定される。上記の例では、「可能領域」のうち、U相の誘起電圧VU’がW相の誘起電圧VW’以下となる領域(この例では、30°〜90°)が「可能領域(U)」として特定され、W相の誘起電圧VW’がU相の誘起電圧VU’より小さくなる領域(この例では、330°〜30°)が「可能領域(W)」として特定される。
【0048】
また、正常相(U相,V相)の両方の誘起電圧VU’,VW’が、短絡故障相(V相)の誘起電圧VV’以上となる電気角領域(図5の第3および第4の閉回路63,64のいずれにも負荷電流が流れる電気角領域)が「不可領域」として特定される。この例では、「不可領域」は、150°〜270°となる。
そして、「可能領域」と「不可領域」の中間の電気角領域(図5の第3および第4の閉回路63,64のいずれか一方にのみ負荷電流が流れる電気角領域)が「不定領域」として特定される。この例では、「不定領域」は、90°〜150°および270°〜330°となる。
【0049】
なお、この実施形態では、短絡故障しているFETがハイサイドFETである場合には、2つの正常相をA,B、故障相をCで表すと、「不定領域」のうち、一方の正常相Aの相電圧が故障相Cの相電圧より小さくなる電気角領域が「不定領域(A)」として特定され、他方の正常相Bの相電圧が故障相Cの相電圧より小さくなる電気角領域が「不定領域(B)」として特定される。上記の例では、「不定領域」のうち、U相の誘起電圧VU’が短絡故障相(V相)の誘起電圧VV’より小さくなる電気角領域(90°〜150°)が「不定領域(U)」として求められ、W相の誘起電圧VW’が短絡故障相(V相)の誘起電圧VV’より小さくなる電気角領域(270°〜330°)が「不定領域(W)」として求められる。
【0050】
同様にして、電動モータ18を回転させるべき方向が正転方向であり、短絡故障したFETがU相のローサイドFET31ULである場合の各領域、電動モータ18を回転させるべき方向が正転方向であり、短絡故障したFETがU相のハイサイドFETUHである場合の各領域、電動モータ18を回転させるべき方向が正転方向であり、短絡故障したFETがW相のローサイドFETWLである場合の各領域および電動モータ18を回転させるべき方向が正転方向であり、短絡故障したFETがW相のローサイドFETWLである場合の各領域が求められる。このようにして求められた各領域に基づいて、電動モータ18を回転させるべき方向が正転方向(CW)である場合のマップが予め作成される。また、同様な方法により、電動モータ18を回転させるべき方向が逆転方向(CCW)である場合のマップが予め作成される。これにより、図6に示すようなマップが得られる。
【0051】
図9は、図3のステップS5の異常時制御処理の詳細な手順を示すフローチャートである。図9の処理は、所定の演算周期毎に繰り返し行なわれる。
異常時制御処理では、モード番号を記憶するための変数M(以下、「モード番号M」という)と、後述するピーク検出処理(ステップS18参照)において参照されるフラグFとが用いられる。電源オン時の初期設定において、モード番号Mは1に設定されており、フラグFはリセットされている。
【0052】
異常時制御処理では、制御部40は、電動モータ18を回転させるべき方向を決定する(ステップS11)。電動モータ18を回転させるべき回転方向は、たとえば、トルクセンサ11の出力信号に基づいて決定される。具体的には、トルクセンサ11の出力信号が右方向の操舵トルクを表しているか、左方向の操舵トルクを表しているかに基づいて、電動モータ18を回転すべき方向が決定される。つまり、トルクセンサ11の出力信号が右方向の操舵トルクを表している場合には、右方向の操舵を補助するトルクを発生させるための回転方向が電動モータ18を回転させるべき回転方向として決定される。一方、トルクセンサ11の出力信号が左方向の操舵トルクを表している場合には、左方向の操舵を補助するトルクを発生させるための回転方向が電動モータ18を回転させるべき回転方向として決定される。
【0053】
次に、制御部40は、モード番号Mを判定する(ステップS12)。モード番号Mの初期値は1であるので、今回の演算周期が異常時制御処理が開始された後の最初の演算周期である場合には、制御部40はモード番号Mが1であると判定する。したがって、制御部40は、ステップS13に移行して、故障段特定処理を行なう。故障段特定処理においては、制御部40は、FETに短絡故障が発生しているか否かを判定するとともに、短絡故障が発生している場合には短絡故障したFETがハイサイドFETであるかローサイドFETであるかを特定する。
【0054】
具体的には、制御部40は、各相の相電圧VU,VV,VWを取得する。そして、いずれかの相電圧が所定のグランドレベルVG(第1の閾値;たとえば0.5[V])以下であるという第1条件を満たしているか否か、およびいずれかの相電圧が所定の電源レベルVB(第2の閾値;たとえば5.0[V])以上であるという第2条件を満たしているか否かを調べる。第1条件を満たしている場合には、制御部40は、いずれかの相のローサイドFETが短絡故障であると判定する。第2条件を満たしている場合には、制御部40は、いずれかの相のハイサイドFETが短絡故障であると判定する。第1条件および第2条件のいずれをも満たしていない場合には、制御部40は、短絡故障が発生していないと判別する。
【0055】
故障段特定処理によって、短絡故障が発生しているFETがハイサイドFETであるかローサイドFETであるかを特定できた場合には(ステップS14:YES)、制御部40は、モード番号Mを2に更新する(ステップS15)。そして、今回の演算周期での処理を終了する。故障段特定処理によって短絡故障が発生しているFETがハイサイドFETであるかローサイドFETであるかを特定できなかった場合には(ステップS14:NO)、制御部40は、今回の演算周期での処理を終了する。この場合には、モード番号Mは1のままであるので、次回の演算周期においても、ステップS11の処理が行われた後に、ステップS13の故障段特定処理が行われることになる。
【0056】
ステップS12において、モード番号Mが2であると判定された場合には、制御部40は、ステップS16に移行して、運転者による操舵が開始されたか否かを判定する。つまり、制御部40は、運転者によるステアリングホイール2の操作が開始されたか否かを判別する。具体的には、制御部40は、回転角センサ52によって検出されるロータ回転角が変化したときに、運転者による操舵が開始されたと判別する。
【0057】
運転者による操舵が開始されたと判別されたときには(ステップS16:YES)、制御部40は、モード番号Mを3に更新する(ステップS17)。そして、今回の演算周期での処理を終了する。運転者による操舵が開始されていないと判別されたときには(ステップS16:NO)、制御部40は、今回の演算周期での処理を終了する。この場合には、モード番号Mは2のままであるので、次回の演算周期においても、ステップS11の処理が行われた後に、操舵が開始されたか否かが判別されることになる。
【0058】
ステップS12において、モード番号Mが3であると判定された場合には、制御部40は、ステップS18に移行して、ピーク検出処理を行なう。ピーク検出処理は、後述するステップS25において、短絡故障したFETの相(短絡故障相)を特定するために行われる処理である。
短絡故障相を特定する方法の考え方について説明する。運転者による操舵が開始された後に、各相の相電圧(誘起電圧)を監視する。電動モータ18のロータが電気角で360°以上回転した後、相電圧の変化が最小であった相が短絡故障相である。これは、短絡故障相においては、誘起電圧の発生量が少ないからである。
【0059】
短絡故障したFETがローサイドFETである場合には、短絡故障相の相電圧は、接地電位に近い値に保持される。したがって、ロータが電気角で360°以上回転した場合、短絡故障相の相電圧最大値は、正常相の相電圧最大値より小さな値となる。そこで、制御部40は、ロータが電気角で360°以上回転した場合において、各相の相電圧最大値を比較し、相電圧最大値が最も小さい相を短絡故障相として特定する。
【0060】
一方、短絡故障したFETがハイサイドFETである場合には、短絡故障相の相電圧は、電源電圧に近い値に保持される。したがって、ロータが電気角で360°以上回転した場合、短絡故障相の相電圧最小値は、正常相の相電圧最小値より大きな値となる。そこで、制御部40は、ロータが電気角で360°以上回転した場合において、各相の相電圧最小値を比較し、相電圧最小値が最も大きい相を短絡故障相として特定する。
【0061】
ステップS18のピーク検出処理では、短絡故障したFETがローサイドFETであると特定されている場合には、各相の相電圧最大値を検出するための処理が行なわれる。一方、短絡故障がしたFETがハイサイドFETであると特定されている場合には、ピーク検出処理では、各相の相電圧最小値を検出するための処理が行なわれる。
制御部40のメモリには、図10に示すように、U相のピーク値候補VUPを記憶するエリアe1と、エリアe1に記憶されたU相のピーク値候補VUPが検出されたときのロータ回転角θUを記憶するエリアe2と、V相のピーク値候補VVPを記憶するエリアe3と、エリアe3に記憶されたV相のピーク値候補VVPが検出されたときのロータ回転角θVを記憶するエリアe4と、W相のピーク値候補VWPを記憶するエリアe5と、エリアe5に記憶されたW相のピーク値候補VWPが検出されたときのロータ回転角θWを記憶するエリアe6とが設けられている。
【0062】
なお、各ピーク値候補VUP,VVP,VWPは、短絡故障したFETがローサイドFETであると特定されている場合には対応する相電圧最大値候補となり、短絡故障したFETがハイサイドFETであると特定されている場合には対応する相電圧最小値候補となる。以下の説明においては、短絡故障したFETがローサイドFETであると特定されている場合について説明する。
【0063】
図9に戻り、ステップS18においては、制御部40は、まず、回転角センサ52によって検出されるロータ回転角(電気角)を取得するとともに、各相の相電圧VU,VV,VWを取得する。そして、フラグFがリセット(F=0)されているか否かを判別する。フラグFは初期状態ではリセットされている。後述するように、フラグFは、ピーク検出処理が実行された後にセット(F=1)される(ステップS20参照)。そして、後述するように、ピーク検出処理が開始されてからロータが360°以上回転されたと判定されたときに、リセット(F=0)される(ステップS22参照)。
【0064】
フラグFがリセットされている場合には、制御部40は、ピーク検出処理の開始時点であると判別し、今回取得したU相の相電圧VUを、U相の最大値候補VUPとしてメモリのエリアe1に記憶する。また、制御部40は、今回取得したV相の相電圧VVを、V相の最大値候補VVPとしてメモリのエリアe3に記憶する。また、制御部40は、今回取得したW相の相電圧VWを、W相の最大値候補VWPとしてメモリのエリアe5に記憶する。また、制御部40は、メモリのエリアe2,e4およびe6に、今回取得したロータ回転角を、U相、V相およびW相の最大値候補検出時のロータ回転角θU,θV,θWとしてそれぞれ記憶する。
【0065】
一方、フラグFがセット(F=1)されている場合には、制御部40は、ピーク検出処理が開始されてから、2回目以降のピーク検出処理であると判別する。この場合には、制御部40は、今回取得した各相の相電圧VU,VV,VWと、メモリのエリアe1,e3,e5に記憶されている対応する相の最大値候補VUP,VVP,VWPとに基づいて、次のような処理を行なう。
【0066】
制御部40は、今回取得したU相の相電圧VUと、メモリのエリアe1に記憶されているU相の最大値候補VUPとを比較する。今回取得したU相の相電圧VUがU相の最大値候補VUPより大きい場合には、制御部40は、今回取得したU相の相電圧VUをU相の最大値候補VUPとしてメモリのエリアe1に記憶するとともに、今回取得したロータ回転角をU相最大値候補検出時のロータ回転角θUとしてメモリのエリアe2に記憶する。つまり、制御部40は、エリアe1内のU相の最大値候補VUPおよびエリアe2内のロータ回転角θUを更新する。一方、今回取得したU相の相電圧VUが、エリアe1に記憶されているU相の最大値候補VUP以下である場合には、制御部40は、エリアe1内のU相の最大値候補VUPおよびエリアe2内のロータ回転角θUを更新しない。
【0067】
同様に、制御部40は、今回取得したV相の相電圧VVと、メモリのエリアe3に記憶されているV相の最大値候補VVPとを比較する。今回取得したV相の相電圧VVが、V相の最大値候補VVPより大きい場合には、制御部40は、今回取得したV相の相電圧VVをV相の最大値候補VVPとしてメモリのエリアe3に記憶するとともに、今回取得したロータ回転角をV相最大値候補検出時のロータ回転角θVとしてメモリのエリアe4に記憶する。つまり、制御部40は、エリアe3内のV相の最大値候補VVPおよびエリアe4内のロータ回転角θVを更新する。一方、今回取得したV相の相電圧VVが、エリアe3に記憶されているV相の最大値候補VVP以下である場合には、制御部40は、エリアe3内のV相の最大値候補VVPおよびエリアe4内のロータ回転角θVを更新しない。
【0068】
同様に、制御部40は、今回取得したW相の相電圧VWと、メモリのエリアe5に記憶されているW相の最大値候補VWPとを比較する。今回取得したW相の相電圧VWが、W相の最大値候補VWPより大きい場合には、制御部40は、今回取得したW相の相電圧VWをW相の最大値候補VWPとしてメモリのエリアe5に記憶するとともに、今回取得したロータ回転角をW相最大値候補検出時のロータ回転角θWとしてメモリのエリアe6に記憶する。つまり、制御部40は、エリアe5内のW相の最大値候補VWPおよびエリアe6内のロータ回転角θWを更新する。一方、今回取得したW相の相電圧VWが、エリアe5に記憶されているW相の最大値候補VWP以下である場合には、制御部40は、エリアe5内のW相の最大値候補VWPおよびエリアe6内のロータ回転角θWを更新しない。
【0069】
なお、短絡故障したFETがハイサイドFETである場合には、メモリのエリアe1には、U相電圧の最小値候補が記憶される。この場合には、今回取得したU相の相電圧VUが、メモリのエリアe1に記憶されているU相の最小値候補より小さい場合にのみ、メモリのエリアe1内のU相の最小値候補およびメモリのエリアe2内のロータ回転角が更新される。他の相(V相およびW相)についても、同様である。
【0070】
以上のようなピーク検出処理が行われると、制御部40は、ステップS19に移行する。ステップS19では、制御部40は、ピーク検出処理が開始されてから、電動モータ18のロータが電気角で360°以上回転したか否かを判別する。たとえば、制御部40は、ステップS18で取得されるロータ回転角の今回値と前回値との差をロータ角変位量とすると、ピーク検出処理が開始されてから現在までのロータ角変位量の累積値を演算し、ロータ角変位量の累積値の絶対値が360°以上であるか否かを判別することにより、ロータが電気角で360°以上回転したか否かを判別する。
【0071】
ピーク検出処理が開始されてから、ロータが電気角で360°以上回転していないと判別された場合には(ステップS19:NO)、フラグFをセット(F=1)する(ステップS20)。そして、今回の演算周期での処理を終了する。この場合には、モード番号Mは3のままであるので、次回の演算周期においても、ステップS11の処理が行われた後に、ステップS18のピーク検出処理が行なわれることになる。
【0072】
一方、ステップS19において、ピーク検出処理が開始されてから、ロータが電気角で360°以上回転したと判別された場合には(ステップS19:YES)、制御部40は、モード番号Mを4に更新するとともに(ステップS21)、フラグFをリセット(F=0)する(ステップS22)。そして、今回の演算周期での処理を終了する。
ステップS12において、モード番号Mが4であると判定された場合には、制御部40は、ステップS23に移行して、ピーク値の誤検出があったか否かを判別する。各相の誘起電圧の位相は互いに120°ずれているので、各相の相電圧がピーク値(最大値または最小値)であるときのロータ回転角は互いに異なるはずである。そこで、エリアe2、e4およびe6にそれぞれ記憶されている3つのロータ回転角から2つを選択する全ての組合せ(θU,θV),(θV,θW),(θW,θU)の中に、それらの差の絶対値が所定角度(例えば1°)以内のものが存在するか否かを判定する。制御部40は、前記全ての組合せの中にそれらの差の絶対値が前記所定角度以内のものが存在する場合にはピーク値の誤検出があったと判別し、前記全ての組合せの中にそれらの差の絶対値が所定角度以内のものが存在しない場合にはピーク値の誤検出がなかったと判別する。
【0073】
ピーク値の誤検出があったと判別された場合には(ステップS23:YES)、制御部40は、モード番号Mを3に更新する(ステップS24)。そして、今回の演算周期での処理を終了する。この場合には、次回の演算周期において、ステップS11の処理が行われた後に、ステップS18のピーク検出処理が行われることになる。ただし、この場合には、フラグFがリセット(F=0)されているので(ステップS22参照)、制御部40は、ピーク検出処理を最初からやり直すことになる。
【0074】
前記ステップS23において、ピーク値の誤検出がなかったと判別された場合には(ステップS23:NO)、制御部40は、故障相特定処理を行なう(ステップS25)。具体的には、制御部40は、メモリのエリアe1、e3およびe5に記憶されている最大値候補VUP,VVP,VWPのうちの最も小さいものに対応する相を、短絡故障相として特定する。なお、短絡故障したFETがハイサイドFETである場合には、制御部40は、メモリのエリアe1、e3およびe5に記憶されている最小値候補のうちの最も大きいものに対応する相を、短絡故障相として特定する。このようにして、短絡故障相が特定されると、短絡故障した1つのFETの位置が特定されることになる。
【0075】
故障相特定処理が終了すると、制御部40はモード番号Mを5に更新する(ステップS26)。そして、今回の演算周期での処理を終了する。
ステップS12において、モード番号Mが5であると判定されると、制御部40は、領域特定処理を行なう(ステップS27)。具体的には、制御部40は、回転角センサ52によって検出されるロータ回転角(電気角)を取得する。そして、制御部40は、今回の演算周期においてステップS11で決定した電動モータ18を回転させるべき方向(CWまたはCCW)と、短絡故障した1つのFETの位置と、図6に示すマップとから、電動モータ18を回転させるべき方向および短絡故障した1つのFETの位置に対応した各領域(「可能領域」、「不定領域」および「不可領域」)を特定する。そして、制御部40は、今回取得したロータ回転角(現在のロータ回転角)が、「可能領域」、「不定領域」および「不可領域」のいずれの領域に属するかを判別する。
【0076】
次に、制御部40は、故障時用モータ制御処理を行なった後(ステップS28)、今回の演算周期での処理を終了する。故障時用モータ制御処理においては、制御部40は、現在のロータ回転角が属している領域(「可能領域」、「不定領域」および「不可領域」)に応じて、駆動回路30を制御する。
現在のロータ回転角が「不可領域」に属している場合には、制御部40は、全てのFET32をオフ状態にする。つまり、この場合には、電動モータ18は駆動されない。
【0077】
一方、現在のロータ回転角が「可能領域」に属している場合または「不定領域」に属している場合には、制御部40は、駆動回路30を制御することにより、電動モータ18を駆動する。具体的には、制御部40は、例えば120°矩形駆動方式によって、電動モータ18を駆動する。
以下、現在の電気角が「可能領域」または「不定領域」に属している場合に、120°矩形駆動方式によって、電動モータ18を駆動する場合について説明する。
【0078】
図11は、電動モータ18が120°矩形駆動方式によって正転方向に回転駆動される場合において、各FET31がオン状態にされるタイミングを説明するための説明図である。図11には、全てのFET31が正常である場合に電動モータ18を180°通電正弦波駆動させたときのロータ回転角θに対する各相の誘起電圧波形VU,VV,VWが示されているとともに、全てのFET31が正常である場合において電動モータ18を120°矩形駆動方式によって正転方向に回転駆動するときのロータ回転角θに対する各FET31のオン・オフパターン(通電パターン)が示されている。
【0079】
120°矩形駆動方式では、ロータが電気角で60°回転する毎に、オンされるFETの組合せが切り替えられる。通電パターンには、60°毎の各電気角領域において、オンされるFETが示されている。各電気角領域の上段にはオンされるハイサイドFETの相(U,V,W)が示されており、各電気角領域の下段にはオンされるローサイドFETの相が示されている。
【0080】
この通電パターンによれば、全てのFET31が正常である場合に120°矩形駆動方式で電動モータ18を正転方向に駆動する場合、60°毎の各電気角領域とオンされるFET31との関係は、次のようになる。
330°〜 30°:V相のハイサイドFET31VH,W相のローサイドFET31WL
30°〜 90°:V相のハイサイドFET31VH,U相のローサイドFET31UL
90°〜150°:W相のハイサイドFET31WH,U相のローサイドFET31UL
150°〜210°:W相のハイサイドFET31WH,V相のローサイドFET31VL
210°〜270°:U相のハイサイドFET31UH,V相のローサイドFET31VL
270°〜330°:U相のハイサイドFET31UH,W相のローサイドFET31WL
6個のFET31のうちの1つに短絡故障が発生した場合には、制御部40は、現在の電気角が「可能領域」または「不定領域」にあるときには、前記通電パターンにおいて現在の電気角に対してオンされるべき2つのFETをオンさせる。たとえば、短絡故障したFETがV相のローサイドFET31VLである場合には、電動モータ18を回転させるべき回転方向が正転方向であるとすると、「可能領域」、「不定領域」および「不可領域」は、次のようになる。
【0081】
「可能領域(U)」:210°〜270°
「可能領域(W)」:150°〜210°
「不定領域(U)」:270°〜330°
「不定領域(W)」:90°〜150°
「不可領域」:330°〜90°
したがって、現在の電気角が「不可領域」である330°〜90°の電気角領域に属しているときには、制御部40は短絡故障したFET以外のFETの全てをオフ状態とする。この場合には、電動モータ18は駆動されない。
【0082】
現在の電気角が「不定領域(W)」である90°〜150°の電気角領域に属しているときには、制御部40は、図11の通電パターンに従って、W相のハイサイドFET31WHとU相のローサイドFET31ULとをオンさせる。この場合には、図2または図3を参照して、電源33からW相のハイサイドFET31WHを通過した電流は、電動モータ18(界磁コイル18W,18U,18V)を経由した後、U相のローサイドFET31ULおよびV相のローサイドFET(故障FET)31VLを介して接地34へと流れる。これにより、電動モータ18が駆動され、アシスト力が発生する。
【0083】
現在の電気角が「可能領域(W)」である150°〜210の電気角領域に属しているときには、制御部40は、図11の通電パターンに従って、W相のハイサイドFET31WHとV相のローサイドFET(故障FET)31VLとをオンさせる。この場合には、電源33からW相のハイサイドFET31WHを通過した電流は、電動モータ18(界磁コイル18W,18V)を経由した後、V相のローサイドFET(故障FET)31VLを介して接地34へと流れる。これにより、電動モータ18が駆動され、アシスト力が発生する。
【0084】
現在の電気角が「可能領域(U)」である210°〜270°の電気角領域に属しているときには、制御部40は、図11の通電パターンに従って、U相のハイサイドFET31UHとV相のローサイドFET(故障FET)31VLとをオンさせる。この場合には、電源33からU相のハイサイドFET31UHを通過した電流は、電動モータ18(界磁コイル18U,18V)を経由した後、V相のローサイドFET(故障FET)31VLを介して接地34へと流れる。これにより、電動モータ18が駆動され、アシスト力が発生する。
【0085】
現在の電気角が「不定領域(U)」である270°〜330°の電気角領域に属しているときには、制御部40は、図11の通電パターンに従って、U相のハイサイドFET31UHとW相のローサイドFET31WLをオンさせる。この場合には、電源33からU相のハイサイドFET31UHを通過した電流は、電動モータ18(界磁コイル18U,18W,18V)を経由した後、W相のローサイドFET31WLおよびV相のローサイドFET(故障FET)31VLを介して接地34へと流れる。
【0086】
一方、短絡故障したFETがV相のハイサイドFET31VHである場合には、電動モータ18を回転させるべき方向が正転方向であるとすると、「可能領域」、「不定領域」および「不可領域」は、次のようになる。
「可能領域(W)」:330°〜30°
「可能領域(U)」:30°〜90°
「不定領域(U)」:90°〜150°
「不定領域(W)」:270°〜330°
「不可領域」:150°〜270°
したがって、現在の電気角が「可能領域(W)」である330°〜30°の電気角領域に属しているときには、制御部40は、図11の通電パターンに従って、V相のハイサイドFET(故障FET)31VHとW相のローサイドFET31WLとをオンさせる。この場合には、図2または図4を参照して、電源33からV相のハイサイドFET(故障FET)31VHを通過した電流は、電動モータ18(界磁コイル18V,18W)を経由した後、W相のローサイドFET31WLを介して接地34へと流れる。
【0087】
現在の電気角が「可能領域(U)」である30°〜90°の電気角領域に属しているときには、制御部40は、図11の通電パターンに従って、V相のハイサイドFET(故障FET)31VHとU相のローサイドFET31ULとをオンさせる。この場合には、電源33からV相のハイサイドFET(故障FET)31VHを通過した電流は、電動モータ18(界磁コイル18V,18U)を経由した後、W相のローサイドFET31ULを介して接地34へと流れる。
【0088】
現在の電気角が「不定領域(U)」である90°〜150°の電気角領域に属しているときには、制御部40は、図11の通電パターンに従って、W相のハイサイドFET31WHとU相のローサイドFET31ULとをオンさせる。この場合には、電源33からW相のハイサイドFET31WHを通過した電流は、電動モータ18(界磁コイル18W,18Uを経由した後、U相のローサイドFET31Uを介して接地34へと流れるとともに、電源33からV相のハイサイドFET(故障FET)31VHを通過した電流は、電動モータ18(界磁コイル18V,18U)を経由した後、U相のローサイドFET31Uを介して接地34へと流れる。
【0089】
現在の電気角が「不可領域」である150°〜270°の電気角領域に属しているときには、制御部40は短絡故障したFET以外のFETの全てをオフ状態とする。
現在の電気角が「不定領域(W)」である270°〜330°の電気角領域に属しているときには、制御部40は、図11の通電パターンに従って、U相のハイサイドFET31UHとW相のローサイドFET31WLとをオンさせる。この場合には、電源33からU相のハイサイドFET31UHを通過した電流は、電動モータ18(界磁コイル18U,18W)を経由した後、W相のローサイドFET31WLを介して接地34へと流れるとともに、電源33からV相のハイサイドFET(故障FET)31VHを通過した電流は、電動モータ18(界磁コイル18V,18W)を経由した後、W相のローサイドFET31WLを介して接地34へと流れる。
【0090】
なお、電動モータ18を回転させるべき方向が逆転方向である場合には、次のようにして電動モータ18を駆動制御すればよい。つまり、現在の電気角が「不可領域」に属しているときには、制御部40は、短絡故障したFET以外の全てのFET31をオフ状態とする。一方、現在の電気角が「可能領域」または「不定領域」に属しているときには、制御部40は、全てのFETが正常である場合に120°矩形駆動方式によって電動モータ18が逆転方向に回転駆動されるときに現在の電気角に対してオンされるべき2つのFETをオンさせる。
【0091】
上記実施形態によれば、駆動回路30内の6つのFET31のうち、1つのFETが短絡故障した場合に、短絡故障したFETを特定することが可能となる。
上記実施形態によれば、運転者がステアリングホイール2を操作することにより電動モータ18から発生される誘起電圧を利用して、短絡故障相を特定することができる。このため、短絡故障相を特定するために、電動モータ18に強制的に電流を流す必要がなくなる。また、運転者の操舵によってロータが電気角でほぼ360°回転すれば、短絡故障相を特定できるので、比較的短時間の間に短絡故障したFETを特定することが可能となる。
【0092】
また、上記実施の形態によれば、各相の相電圧のピーク値がそれぞれ検出されたときロータ回転角に基づいてピーク値の誤検出があったか否かを判定し、ピーク値の誤検出があった場合には、ピーク値検出処理を最初からやり直すようにしているので、短絡故障相の特定精度を向上させることができる。
また、上記実施形態によれば、駆動回路30内の6つのFET31のうち、1つのFETに短絡故障が発生した場合において、電動モータ18を回転させるべき方向に応じて、電動モータ18を駆動させることが可能な電気角領域(ロータ回転角領域)を、制御可能領域として特定できるようになる。これにより、現在の電気角が制御可能領域に属しているか否かを判定でき、現在の電気角が制御可能領域に属しているときに、電動モータ18を駆動させることができるようになる。この結果、1つのFETが゛短絡故障した場合にも、電動モータ18による操舵のアシストが可能となる。
【0093】
なお、この発明は、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0094】
2…ステアリングホイール、18…電動モータ、30…駆動回路、31…FET、32…回生ダイオード、33…電源、34…接地、40…制御部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータおよび界磁コイルを有する三相ブラシレスモータによって車両の舵取り機構に駆動力を付与する車両用操舵装置であって、
2個のスイッチング素子が直列に接続された直列回路を三相の各相に対応して3組備え、電源と接地との間においてそれらの直列回路が並列接続されており、各スイッチング素子に回生ダイオードが並列に接続されている駆動回路と、
前記複数のスイッチング素子のうちの1つのスイッチング素子が短絡故障したときに、全てのスイッチング素子をオフさせることにより、前記三相ブラシレスモータの駆動を停止させる停止制御手段と、
前記停止制御手段によって前記三相ブラシレスモータの駆動が停止されている状態において、短絡故障したスイッチング素子がハイサイドのスイッチング素子であるか、ローサイドのスイッチング素子であるかを特定する第1特定手段と、
前記第1特定手段によって、短絡故障したスイッチング素子がハイサイドのスイッチング素子であると特定された場合には、前記車両を操向させるための操舵部材が操作されたときに、三相の各相の相電圧最小値をそれぞれ検出し、検出された各相の相電圧最小値を比較することにより、短絡故障したスイッチング素子が三相のうちのいずれの相のスイッチング素子であるかを特定する第2特定手段と、
前記第1特定手段によって、短絡故障したスイッチング素子がローサイドのスイッチング素子であると特定された場合には、前記車両を操向させるための操舵部材が操作されたときに、三相の各相の相電圧最大値を検出し、検出された各相の相電圧最大値を比較することにより、短絡故障したスイッチング素子が三相のうちのいずれの相のスイッチング素子であるかを特定する第3特定手段とを含む、車両用操舵装置。
【請求項2】
前記第2特定手段は、各相の相電圧最小値がそれぞれ検出されたときの3つのロータ回転角に基づいて、相電圧最小値の誤検出があったか否かを判定し、相電圧最小値の誤検出があったと判別した場合には、各相の相電圧最小値を再度検出するための処理を行なう最小値誤検出チェック手段を含んでおり、
前記第3特定手段は、各相の相電圧最大値がそれぞれ検出されたときの3つのロータ回転角に基づいて、相電圧最大値の誤検出があったか否かを判定し、相電圧最大値の誤検出があったと判別した場合には、各相の相電圧最大値を再度検出するための処理を行なう最大値誤検出チェック手段を含んでいる、請求項1に記載の車両用操舵装置。
【請求項3】
前記最小値誤検出チェック手段は、各相の相電圧最小値がそれぞれ検出されたときの3つのロータ回転角から2つを選択する全ての組合せの中に、その組合せ内の2つのロータ回転角の差の絶対値が所定値以内である組合せが存在する場合に、相電圧最小値の誤検出があったと判別するように構成されており、
前記最大値誤検出チェック手段は、各相の相電圧最大値がそれぞれ検出されたときの3つのロータ回転角から2つを選択する全ての組み合わせの中に、その組合せ内の2つのロータ回転角の差の絶対値が所定値以内である組合せが存在する場合に、相電圧最大値の誤検出があったと判別するように構成されている、請求項2に記載の車両用操舵装置。
【請求項1】
ロータおよび界磁コイルを有する三相ブラシレスモータによって車両の舵取り機構に駆動力を付与する車両用操舵装置であって、
2個のスイッチング素子が直列に接続された直列回路を三相の各相に対応して3組備え、電源と接地との間においてそれらの直列回路が並列接続されており、各スイッチング素子に回生ダイオードが並列に接続されている駆動回路と、
前記複数のスイッチング素子のうちの1つのスイッチング素子が短絡故障したときに、全てのスイッチング素子をオフさせることにより、前記三相ブラシレスモータの駆動を停止させる停止制御手段と、
前記停止制御手段によって前記三相ブラシレスモータの駆動が停止されている状態において、短絡故障したスイッチング素子がハイサイドのスイッチング素子であるか、ローサイドのスイッチング素子であるかを特定する第1特定手段と、
前記第1特定手段によって、短絡故障したスイッチング素子がハイサイドのスイッチング素子であると特定された場合には、前記車両を操向させるための操舵部材が操作されたときに、三相の各相の相電圧最小値をそれぞれ検出し、検出された各相の相電圧最小値を比較することにより、短絡故障したスイッチング素子が三相のうちのいずれの相のスイッチング素子であるかを特定する第2特定手段と、
前記第1特定手段によって、短絡故障したスイッチング素子がローサイドのスイッチング素子であると特定された場合には、前記車両を操向させるための操舵部材が操作されたときに、三相の各相の相電圧最大値を検出し、検出された各相の相電圧最大値を比較することにより、短絡故障したスイッチング素子が三相のうちのいずれの相のスイッチング素子であるかを特定する第3特定手段とを含む、車両用操舵装置。
【請求項2】
前記第2特定手段は、各相の相電圧最小値がそれぞれ検出されたときの3つのロータ回転角に基づいて、相電圧最小値の誤検出があったか否かを判定し、相電圧最小値の誤検出があったと判別した場合には、各相の相電圧最小値を再度検出するための処理を行なう最小値誤検出チェック手段を含んでおり、
前記第3特定手段は、各相の相電圧最大値がそれぞれ検出されたときの3つのロータ回転角に基づいて、相電圧最大値の誤検出があったか否かを判定し、相電圧最大値の誤検出があったと判別した場合には、各相の相電圧最大値を再度検出するための処理を行なう最大値誤検出チェック手段を含んでいる、請求項1に記載の車両用操舵装置。
【請求項3】
前記最小値誤検出チェック手段は、各相の相電圧最小値がそれぞれ検出されたときの3つのロータ回転角から2つを選択する全ての組合せの中に、その組合せ内の2つのロータ回転角の差の絶対値が所定値以内である組合せが存在する場合に、相電圧最小値の誤検出があったと判別するように構成されており、
前記最大値誤検出チェック手段は、各相の相電圧最大値がそれぞれ検出されたときの3つのロータ回転角から2つを選択する全ての組み合わせの中に、その組合せ内の2つのロータ回転角の差の絶対値が所定値以内である組合せが存在する場合に、相電圧最大値の誤検出があったと判別するように構成されている、請求項2に記載の車両用操舵装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−13297(P2013−13297A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−145990(P2011−145990)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】
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