パワーステアリング装置
【課題】 エンジンの始動後にパワーステアリング出力部に導かれる作動油の流量が不要に増加してしまうことを回避できるパワーステアリング装置を提供する。
【解決手段】 エンジン14によって駆動されるポンプ1からパワーステアリング出力部8に導かれる作動油の流量QPを調節するフローコントロールバルブ9と、車両に搭載される舵角センサ18によって検出される操舵角θに応じて流量QPを制御するコントローラ17とを備える車両のパワーステアリング装置において、コントローラ17は、エンジン14の始動時を判定する始動時判定手段と、エンジン14の始動後に操舵角θに応じて流量QPが増えることを規制する始動後流量規制手段と、車両の運転条件に応じてこの始動後流量規制手段による流量QPの規制を解除する始動後流量規制解除手段とを備えるものとした。
【解決手段】 エンジン14によって駆動されるポンプ1からパワーステアリング出力部8に導かれる作動油の流量QPを調節するフローコントロールバルブ9と、車両に搭載される舵角センサ18によって検出される操舵角θに応じて流量QPを制御するコントローラ17とを備える車両のパワーステアリング装置において、コントローラ17は、エンジン14の始動時を判定する始動時判定手段と、エンジン14の始動後に操舵角θに応じて流量QPが増えることを規制する始動後流量規制手段と、車両の運転条件に応じてこの始動後流量規制手段による流量QPの規制を解除する始動後流量規制解除手段とを備えるものとした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の運転条件に応じてパワーステアリング出力部に導かれる作動油の流量QPを調節するフローコントロールバルブを備えたパワーステアリング装置の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のパワーステアリング装置の一例として、特許文献1に開示されたものは、エンジンによって駆動され作動油を吐出するポンプと、このポンプからパワーステアリング出力部に導かれる作動油の流量QPを調節するフローコントロールバルブとを備える。
【0003】
フローコントロールバルブは、コントローラによって制御される電磁弁と、電磁弁の作動に応動して作動油の一部をタンク側に戻すスプールとを備え、このスプールを介してパワーステアリング出力部に供給される作動油の流量QPを調節する。
【0004】
コントローラは、舵角センサからの舵角信号と車速センサからの車速信号とを入力し、舵角信号から操舵角θと操舵角速度ωとを演算し、これら操舵角θ、操舵角速度ω、車速vに基づいて要求流量QMを推定し、フローコントロールバルブの作動を制御する。
【0005】
こうしてパワーステアリング出力部に供給される流量QPを要求流量QMに近づけるように調節することにより、無駄な作動油をパワーステアリング出力部に供給することが抑えられ、ポンプの駆動損失を低減するようになっている。
【0006】
また、コントローラは操舵トルクの検出値を用いることなく要求流量QMを推定する構成のため、操舵トルクを直接検出するトルクセンサが不要であり、制御システムのコストダウンがはかれる。
【特許文献1】特開2001−163233号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような従来のパワーステアリング装置にあっては、操舵トルクを直接検出することなく、舵角センサからの舵角信号に応じてパワーステアリング出力部に導かれる作動油の流量QPが制御される構成のため、エンジンの始動直後は運転者によってハンドルが切られるまでの間は停車中の操舵角θに応じて流量QPが制御されることになる。
【0008】
例えば運転者がハンドル操作して操舵角θを大きくしたままエンジンを停止した後、次にエンジンが始動される場合、運転者によってハンドルが切られなくても、停車中の操舵角θに応じて流量QPが増やされるため、ポンプの駆動負荷が不要に高まるばかりか、寒冷地等においては暖機時に車両の油圧配管から油撃音が生じる可能性があった。
【0009】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、エンジンの始動後にパワーステアリング出力部に導かれる作動油の流量が不要に増加してしまうことを回避できるパワーステアリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、エンジンによって駆動されるポンプからパワーステアリング出力部に導かれる作動油の流量QPを調節するフローコントロールバルブと、車両に搭載される舵角センサによって検出される操舵角θに応じて流量QPを制御するコントローラとを備える車両のパワーステアリング装置に適用する。
【0011】
そして、コントローラは、エンジンの始動時を判定する始動時判定手段と、エンジンの始動後に操舵角θに応じて流量QPが増えることを規制する始動後流量規制手段と、車両の運転条件に応じてこの始動後流量規制手段による流量QPの規制を解除する始動後流量規制解除手段とを備えたことを特徴とするものとした。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、コントローラがエンジンの始動時を判定すると、エンジンの始動後に操舵角θに応じて作動油の流量QPが増えることを規制する。これにより、運転者がハンドル操作して操舵角θを大きくしたままエンジンを停止した後、次にエンジンが始動される場合でも、停車中の操舵角θに応じて流量QPが不要に増加してしまうことを回避し、ポンプの駆動負荷を減らすとともに、寒冷地等において暖機時に車両の油圧配管から油撃音が生じることを防止できる。
【0013】
エンジンの始動後、例えば操舵時または車両の走行時等の運転条件を判定し、流量QPの規制を解除する。これにより、コントローラは操舵角θに応じてフローコントロールバルブの作動を制御し、パワーステアリング出力部に導かれる作動油の流量QPを調節する。こうしてパワーステアリング出力部に供給される作動油量を必要量に復帰し、適度な操舵アシスト力が得られるとともに、ポンプの駆動損失を低く抑えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0015】
図1に示すように、パワーステアリング装置は、車両に搭載されるエンジン14によって駆動されるポンプ1と、このポンプ1から吐出される作動油をタンクT側に還流しパワーステアリング出力部8に導かれる作動油の流量QPを調節するフローコントロールバルブ9とを備える。
【0016】
パワーステアリング出力部8は、図示しないハンドルの操舵角及び操舵トルクに応じて作動油の流路方向及び圧力を制御するステアリングバルブ15と、このステアリングバルブ15を介して制御された作動油圧力により操舵力を付与するパワーシリンダ16等によって構成される。ポンプ1から吐出される作動油は、ハンドル(ステアリングホイール)の操作によって切換わるステアリングバルブ15を介して導かれ、操舵に対応するいずれか一方のパワーシリンダ室に流入し、パワーシリンダ16に接続されたステアリングリンクに操舵アシスト力が付与される。
【0017】
このフローコントロールバルブ9は、ポンプ1から吐出される作動油を並列に分岐してパワーステアリング出力部8へと導く第一、第二供給通路5,6を備え、この第一供給通路5に電磁弁60が介装され、この第二供給通路6に回転数感応弁3が介装される。
【0018】
フローコントロールバルブ9は、この電磁弁60及び回転数感応弁3の前後差圧に応じて供給通路2の作動油をポンプ吸込み側に戻す流量調整弁4と、電磁弁60及び回転数感応弁3より下流側に連通するリリーフバルブ7とを備える。
【0019】
フローコントロールバルブ9は、そのケーシングとしてバルブボディ21とキャップ31とを備える。このバルブボディ21には流量調整弁4を構成するスプール11が摺動可能に挿入されるスプール孔26、ポンプ1の吐出側に連通するポンプポート22、ポンプ吸込み側に連通する戻りポート23、第一供給通路5を構成するバイパスポート24,25等が形成される。このキャップ31には、回転数感応弁3を構成する供給ポート34、第二供給通路6を構成する下流側室32、第一供給通路5を構成するバイパスポート33等が形成される。
【0020】
流量調整弁4は、スプール11の外周にスプール孔26に摺接するランド部10が形成され、スプール11がスプリング13に抗して図面左方向に移動するとランド部10の先端が戻りポート23に面してポンプポート22と戻りポート23を連通し、スプール11の摺動位置に応じてポンプポート22から戻りポート23へと戻される作動油の流量を調節するようになっている。スプール11の一端には上流側パイロット圧室20が画成され、この上流側パイロット圧室20は電磁弁60及び回転数感応弁3の上流側に連通している。スプール11の他端にはスプリング13が介装された下流側パイロット圧室27が画成され、この下流側パイロット圧室27は通孔28を介して電磁弁60及び回転数感応弁3の下流側に連通している。こうして流量調整弁4は、スプール11の両端に電磁弁60及び回転数感応弁3の前後差圧が導かれ、スプール11は電磁弁60及び回転数感応弁3の前後差圧とスプリング13のバネ力が釣り合う位置へと移動する。
【0021】
回転数感応弁3は第二供給通路6の途中に介装される供給ポート34と、この供給ポート34の開口面積を変えるテーパロッド12とを備え、このテーパロッド12はスプール11の一端から突出し、テーパロッド12がスプール11とともに移動するのに伴って所定のストローク域にて供給ポート34の開口面積が次第に減少する。こうして流量調整弁4と回転数感応弁3は連携し、流量調整弁4の開度が増えるのにしたがって回転数感応弁3の開度が減るようになっている。
【0022】
ポンプ1の停止時に、フローコントロールバルブ9はスプリング13の付勢力によってスプール11がキャップ31の端面38に着座する。これにより、スプール11のランド部10によって戻りポート23が閉塞され、流量調整弁4が全閉するとともに、スプール11がキャップ31の端面38に着座して供給ポート34が閉塞され、回転数感応弁3が全閉する。
【0023】
電磁弁60は、バルブボディ21に挿入して取り付けられる円筒状のハウジング61と、このハウジング61側のシャフト穴59に摺動可能に挿入されるシャフト62を備える。ハウジング61にはポンプ1の吐出側に連通する上流室64と、シャフト62との間で可変絞り部を画成するバルブ穴66と、パワーステアリング出力部8に連通する下流室67が形成される。ポンプ1から吐出される作動油は、上流室64、バルブ穴66、下流室67を通ってパワーステアリング出力部8へと流れる。シャフト62はコイル69に生じる電磁力によりスプリング68に抗して開弁方向(図1において上方向)に駆動される。
【0024】
円柱状のシャフト62はその先端に円錐状の弁体部63が形成され、この弁体部63がバルブ穴66に挿入され、両者の間に可変オリフィス52がシャフト62の弁体部63とバルブ穴66の間に画成される環状の間隙として形成される。可変オリフィス52は、コイル69が非励磁状態のときにその開度が最少になり、励磁電流が大きくなるのにしたがってシャフト2が図1において上方向に変位して、可変オリフィス52の開口面積が次第に大きくなる。
【0025】
電磁弁60はコア77がハウジング61の段部78に着座した状態で、弁体部63がバルブ穴66からわずかに離れて第一供給通路5を全閉しない構造とする。これにより、可変オリフィス52は供給通路2に対して回転数感応弁3の上流側と下流側に接続し、スプール11がバルブボディ21やキャップ31に固着するバルブスティックが起きた場合にも、可変オリフィス52を流れる作動油が回転数感応弁3を迂回してパワーステアリング出力部8に供給される。この結果、パワーステアリング出力部8に操舵アシスト力が得られるとともに、ポンプ1の負荷が過大になることを回避し、フェイルセーフ機能を果たすことができる。
【0026】
エンジン14によってポンプ1が駆動され、ポンプポート22に加圧作動油が供給されると、作動油が流れる電磁弁60側のバルブ穴66及び回転数感応弁3に圧力損失が生じ、両パイロット圧室20,27に導かれる圧力差に応じてスプール11がスプリング13に抗して移動し、そのバランス位置にてポンプポート22と戻しポート23との開度が決まり、戻りポート23に還流される作動油の流量とパワーステアリング出力部8に供給される作動油の流量QPが調節される。
【0027】
以下、回転数感応弁3がポンプ1の回転数に応じてフローコントロールバルブ9の流量QPを調節する動作について説明する。
【0028】
ポンプ1が低速域で回転している状態では、流量調整弁4及び回転数感応弁3が閉弁しており、ポンプ1の回転数に比例した流量QPの作動油が電磁弁60側のバルブ穴66を通ってパワーステアリング出力部8に供給される。
【0029】
ポンプ1の回転数が中速域に達すると、流量調整弁4が開弁し、上流側パイロット圧室20に流入する作動油の一部がポンプ1の回転数増大に応じて戻りポート23に還流されるため、電磁弁60側のバルブ穴66と回転数感応弁3を介してパワーステアリング出力部8に供給される作動油の流量QPは略一定に保たれる。
【0030】
さらにポンプ1の回転数が増大すると、回転数感応弁3はテーパロッド12がスプール11とともに移動して供給ポート34の開口面積が次第に減少し、パワーステアリング出力部8に供給される作動油の流量QPは次第に減少する。
【0031】
このフローコントロールバルブ9の作動時、電磁弁60側のバルブ穴66を通過した作動油と、回転数感応弁3を通過した作動油が合流してパワーステアリング出力部8に供給される。
【0032】
さらに、コントローラ17がコイル69の励磁電流を制御して可変オリフィス52の開口面積が変化すると、両パイロット圧室20,27に導かれる圧力差に応じてスプール11がスプリング13に抗して移動し、そのバランス位置にてポンプポート22と戻しポート23との開度が決まり、パワーステアリング出力部8に供給される作動油の流量QPが調節される。
【0033】
こうしてフローコントロールバルブ9は、電磁弁60すなわち可変オリフィス52の開度と回転数感応弁3の開度に応じてスプール11を移動し、ポンプ1から吐出される作動油の一部を戻りポート23からタンクTに還流する。この作動油を戻しポート23からタンクTまたはポンプ1の吸い込み側に還流する流路は、バルブボディ21内に設けられるため、その圧力損失が小さく、ポンプ1側の駆動損失を低く抑えられ、エンジン14の燃料消費量の低減化がはかれる。
【0034】
コントローラ17は、舵角センサ18からの舵角信号と車速センサ19からの車速信号とが入力され、舵角信号から操舵角θと操舵角速度ωとを演算し、これら操舵角θ、操舵角速度ω、車速vに基づいて上記要求流量QMを推定し、コイル69の励磁電流を制御する。これにより、パワーステアリング出力部8に供給される作動油の流量QPが適度に調節される。
【0035】
これらの制御ブロック図の一例を示したものが図2である。コントローラ17には、操舵角θと流量QPとがリニアな特性になるように操舵角θとソレノイド電流指令値I1のテーブルが設定されている。さらに、操舵角速度ωと流量QPとがリニアな特性になるように操舵角速度ωとソレノイド電流指令値I2のテーブルが設定されている。ただし、ハンドルが中立あるいはその近傍にあるときには、操舵角θ及び操舵角速度ωが、ある設定値以上にならなければ、上記指令値I1及びI2のいずれもゼロを出力するようにしている。なお、ソレノイド電流指令値I1は操舵角θを基に演算して求め、ソレノイド電流指令値I2は操舵角速度ωを基に演算して求めるようにしてもよい。
【0036】
ソレノイド電流指令値I1に車速vに基づいたソレノイド電流指令値I3 を乗算してソレノイド電流指令値I5が出力される。このソレノイド電流指令値I5は、車速vが低速域では一例として1を出力し、高速域では一例として0.6を出力するとともに、その間の中速域では1から0.6まで車速vに応じて漸次減少する値を出力する。これにより、低速域ではソレノイド電流指令値I1がそのまま出力されるし、高速域ではソレノイド電流指令値I1が6割になる。また、中速域では、速度が上がればそれに反比例した値が出力されることになる。
【0037】
ソレノイド電流指令値I2に対して車速vに基づいたソレノイド電流指令値I4を限界値とし、ソレノイド電流指令値I2がソレノイド電流指令値I4を超えないように規制する。このように車速vによるソレノイド電流指令値I4をリミッタ値として利用し、ソレノイド電流指令値I6の傾きを一定に保つ。
【0038】
こうして得られたソレノイド電流指令値I5 またはI6のうち、大きな方の値を選択する。このように一方の値だけを選択することによって、流量QPのふれ幅を小さく抑えられる。ソレノイド電流指令値I5 またはI6のうち、小さい値ではなく、大きな値を選択することにより、制御応答性を高められる。
【0039】
上記のようにソレノイド電流指令値I5 またはI6のうち大きな値が求まったら、それにスタンバイソレノイド電流指令値I7を加算する。つまり、最終的なソレノイド電流指令値を(I5+I7)または(I6+I7)として出力し、ドライバーからコイル69に励磁電流を出力させる。
【0040】
このようにしてコントローラ17は、操舵角θ及び操舵角速度ωに対して流量QPがリニアな関係になるように制御し、操舵感覚と出力とを一致させるようになっている。
【0041】
ところで、停車中の操舵角θを大きい状態を保ったままエンジン14が始動される場合、操舵角θに応じて流量QPが増やされると、ポンプ1の駆動負荷が不要に高まるばかりか、寒冷地等において暖機時に供給通路2を構成する油圧配管から油撃音が生じる可能性があった。この油撃音は、駐車中に冷えて粘度が高くなった作動油が、エンジン14の始動後にポンプ1からフローコントロールバルブ9を経て大量にパワーステアリング出力部8に供給された場合に、油圧配管を大きく加振して生じる騒音である。
【0042】
本発明はこれに対処して、コントローラ17はエンジン14の始動時を判定する始動時判定手段と、エンジン14の始動後に操舵角θに応じてパワーステアリング出力部8に供給される作動油の流量QPが増えることを規制する始動後流量規制手段と、操舵時または車両の走行時等の運転条件に応じてこの始動後流量規制手段による流量QPの規制を解除する始動後流量規制解除手段とを備えるものとする。
【0043】
コントローラ17はエンジン14の始動時を判定すると、エンジン14の始動後に操舵角θに応じてパワーステアリング出力部8に供給される作動油の流量QPが増えることを規制する。これにより、運転者がハンドル操作して操舵角θを大きくしたままエンジン14を停止した後、次にエンジン14が始動される場合でも、停車中の操舵角θに応じて流量QPが増加してしまうことを回避し、ポンプ1の駆動負荷を減らすとともに、寒冷地等において暖機時に車両の油圧配管から油撃音が生じることを防止できる。
【0044】
エンジン14の始動後、操舵時または車両の走行時等の運転条件を判定し、流量QPの規制を解除する。これにより、コントローラ17は操舵角θに応じてフローコントロールバルブ9の作動を制御し、パワーステアリング出力部8に導かれる作動油の流量QPを調節する。こうしてパワーステアリング出力部8に供給される作動油量を必要量に復帰し、適度な操舵アシスト力が得られるとともに、ポンプ1の駆動損失を低く抑えられる。
【0045】
図2に示すように、コントローラ17は、エンジン14の始動時を判定する始動時判定手段として、車両のイグニッションスイッチ40の信号を入力し、このイグニッションスイッチ40の信号がOFFからONに切換わることを検出してこれをエンジン14の始動時であると判定する。
【0046】
イグニッションスイッチ40は、車両に設けられるキースイッチの一つであり、運転者によってエンジン14の運転時にONにされ、エンジン14の停止時にOFFにされる。
【0047】
なお、エンジン14の始動時を判定する始動時判定手段として、スタータスイッチの信号を用いてもよい。スタータスイッチは車両に設けられるキースイッチの一つであり、運転者によるエンジン14のクランキング時にONにされる。
【0048】
操舵時に流量QPの規制を解除する始動後流量規制解除手段として、車両の操舵時を判定し、この操舵時に前記始動後流量規制手段による流量QPの規制を解除する構成とする。
【0049】
具体的に、コントローラ17は、舵角センサ18の舵角信号から求められる操舵角θを微分して算出される操舵角速度ωを入力し、この操舵角速度ωをしきい値と比較し、操舵角速度ωがしきい値より低い場合に非操舵時と判定して流量QPの規制を継続する一方、操舵角速度ωがしきい値以上に上昇した場合に操舵時と判定して流量QPの規制を解除する。このしきい値は例えば0〜50deg/sの範囲で任意に設定する。
【0050】
車両の走行時に流量QPの規制を解除する始動後流量規制解除手段として、車両の走行時を判定し、この走行時に前記始動後流量規制手段による流量QPの規制を解除する構成とする。
【0051】
具体的に、コントローラ17は、車速センサ19からの車速信号から求められる車速vを入力し、この車速vをしきい値(例えば0Km/h)と比較し、車速vがしきい値より低い場合に停車時と判定して流量QPの規制を継続する一方、車速vがしきい値以上に上昇した場合に走行時と判定して流量QPの規制を解除する。
【0052】
図3のフローチャートは上記した流量QPを制御するルーチンを示しており、コントローラ17において実行される。
【0053】
これについて説明すると、まずステップ1にて、イグニッションスイッチ40の信号がOFFからONに切換わるエンジン14の始動時か否かを判定する。ここで、エンジン14の始動時と判定された場合、ステップ2に進み、始動時検出フラグFをF=1としてセットし、続くステップ3にて、各制御変数を初期化する。
【0054】
続くステップ4にて、舵角センサ18と車速センサ19との検出信号を入力する。続くステップ5にて、舵角センサ18の舵角信号から求められる操舵角θを微分して算出される操舵角速度ωを演算する。
【0055】
ステップ6にて、車速vがしきい値より低い停車時か否かを判定する。ステップ7にて、操舵角速度ωがしきい値より低い非操舵時か否かを判定する。ステップ8にて、始動時検出フラグFがセットされているか否かを判定する。
【0056】
ここで、車両の停車時であり、非操舵時であり、かつ始動時検出フラグFがセットされていると判定された場合、ステップ9に進む。このステップ9にて、エンジン14の始動後に操舵角θに応じてパワーステアリング出力部8に供給される作動油の流量QPが増えることを規制する。
【0057】
一方、車両の走行時であるか、操舵時であると判定された場合、ステップ10にて始動時検出フラグFをF=0としてクリアした後、ステップ11に進む。また、ステップ8にて、始動時検出フラグFがクリアされていると判定された場合も、ステップ10を経てステップ11に進む。このステップ11にて、流量QPの規制を解除し、操舵角θ、操舵角速度ω、車速vに基づいてパワーステアリング出力部8に供給される作動油の流量QPを制御する。
【0058】
つまり、エンジンの始動後、車両が走行するか、操舵が行われるまでの間は、ステップ9に進んで、操舵角θに応じてパワーステアリング出力部8に供給される作動油の流量QPが増えることを規制する一方、一旦車両が走行するか、操舵が行われると、ステップ11に進んで、流量QPの規制を解除するようになっている。
【0059】
なお、上記制御ルーチンでは、このステップ11にて、作動油の流量QPを制御する構成としたが、これに限らず、ステップ11にて、流量QPの規制を解除する指令のみを出力し、操舵角θ、操舵角速度ω、車速vに基づいてパワーステアリング出力部8に供給される作動油の流量QPを制御することを別の制御ルーチンで行う構成として、流量QPの制御応答性を高めるようにしても良い。
【0060】
本実施の形態では、始動後流量規制手段として、流量QPの目標値を一定のリミッタ値以下に抑える構成とする。流量QPの最大値をmaxQに対し、このリミッタ値を例えばmaxQ/2に設定する。
【0061】
図4は操舵角θに応じてパワーステアリング出力部8に供給される作動油の流量QPが変化する様子を示す特性図である。
【0062】
通常の運転時、流量QPは操舵角θが0degから大きくなるのに応じてスタンバイ流量から最大流量maxQに達するまで漸次増加し、操舵角θがこれ以上大きくなっても最大流量maxQに保たれる。
【0063】
一方、エンジン14の始動後の規制時、流量QPは操舵角θが0degから大きくなるのに応じてスタンバイ流量からリミッタ値maxQ/2に達するまで漸次増加し、操舵角θがこれ以上大きくなってもリミッタ値maxQ/2に保たれる。
【0064】
これにより、例えば操舵角θが30degを超えた状態でエンジン14が始動された場合、流量QPはリミッタ値maxQ/2に規制され、ポンプ1の駆動負荷を減らすとともに、寒冷地等において暖機時に油圧配管から油撃音が生じることを防止できる。この状態でハンドル操作が行われると、この規制が解除され、流量QPはリミッタ値maxQ/2から最大流量maxQに復帰し、パワーステアリング出力部8の操舵アシスト力が十分に確保される。
【0065】
流量QPの規制時であっても、流量QPがリミッタ値maxQ/2より小さい範囲では、通常の制御時と同じ流量QPが得られるので、ハンドル操作が行われてこの規制が解除されたときに、流量QPは変化せず、流量QPが通常の特性に復帰する応答遅れがない。
【0066】
次に図5に示す他の実施の形態は、始動後流量規制手段として、流量QPの目標値を一定のゲイン値dを乗算して減らす構成とする。操舵角θと車速vに基づいたソレノイド電流指令値I5に対して掛け合わせた時このソレノイド電流指令値I5より小さくなるようなゲイン値dを乗算してソレノイド電流指令値I9を出力し、このソレノイド電流指令値I9にスタンバイソレノイド電流指令値I7を加算し、エンジン14の始動後の規制時に最終的なソレノイド電流指令値を(I7+I9)として出力する。
【0067】
図6は操舵角θに応じてパワーステアリング出力部8に供給される作動油の流量QPが変化する様子を示す特性図である。これはゲイン値dを一例として0.5に設定している。
【0068】
この場合、エンジン14の始動後の規制時、流量QPは操舵角θが0degから30degまで大きくなるのに応じてスタンバイ流量からゲイン規制を受けた流量に達するまで漸次増加し、操舵角θがこれ以上大きくなってもゲイン規制を受けた流量に保たれる。
【0069】
これにより、エンジン14の始動後の規制時の流量QPは、通常運転時の流量QPに比べて操舵角θによらず減少され、ポンプ1の駆動負荷を減らすとともに、寒冷地等において暖機時に油圧配管から油撃音が生じることを防止できる。
【0070】
次に図7に示す他の実施の形態は、始動後流量規制手段として、流量QPの目標値を一定値に減らす構成とする。エンジン14の始動後の規制時に最終的なソレノイド電流指令値をIconstとして出力する。
【0071】
図8は操舵角θに応じてパワーステアリング出力部8に供給される作動油の流量QPが変化する様子を示す特性図である。これは流量QPの最大値をmaxQに対し、このIconstを例えばmaxQ/2相当に設定している。
【0072】
この場合、エンジン14の始動後の規制時、流量QPは操舵角θによらず規制を受けたmaxQ/2相当になり、寒冷地等において暖機時に油圧配管から油撃音が生じることを防止できる。
【0073】
次に図9に示す他の実施の形態は、エンジン14の始動後の規制時に最終的なソレノイド電流指令値をスタンバイソレノイド電流指令値I7として出力する。
【0074】
この場合、図10に示すように、エンジン14の始動後の規制時、流量QPは操舵角θによらずスタンバイ流量になり、ポンプ1の駆動負荷を減らすとともに、寒冷地等において暖機時に油圧配管から油撃音が生じることを防止できる。
【0075】
次に図11〜図14にそれぞれ示す他の実施の形態を説明する。これら各実施の形態に共通する構成は、操舵角θを基にしてソレノイド電流指令値I11と、操舵角速度ωを基にしてソレノイド電流指令値I12とを求め、それら両者を加算する。この加算値(I11+I12)に、車速vに基づいて設定されたソレノイド電流指令値I13 を乗算する。ただし、上記車速vに基づいたソレノイド電流指令値I13は、車速が低速域では1を出力し、高速域ではゼロを出力するとともに、その間の中速域では1からゼロまでの小数点以下の値を出力する。
【0076】
したがって、上記加算値(I11+I12)に車速vに基づいたソレノイド電流指令値I13を乗算すれば、低速域では(I11+I12)がそのまま出力されるし、高速域では(I11+I12)がゼロになる。また、中速域では、速度が上がればそれに反比例した値が出力されることになる。
【0077】
上記のように(I11+I12)×I13 が求まったら、さらにそれにスタンバイソレノイド電流指令値I14を加算する。つまり、{(I11+I12)×I13}+I14をソレノイド電流指令値として、ドライバーに出力する。
【0078】
図11に示す実施の形態は、始動後流量規制手段として、流量QPの目標値を一定のリミッタ値以下に抑える構成とする。流量QPの最大値をmaxQに対し、このリミッタ値を例えばmaxQ/2相当に設定する。
【0079】
図12に示す実施の形態は、始動後流量規制手段として、流量QPの目標値を一定のゲイン値dを乗算して減らす構成とする。操舵角θと操舵角速度ωと車速vに基づいたソレノイド電流指令値I11に対してゲイン値dを乗算してソレノイド電流指令値I16を出力し、このソレノイド電流指令値I16にスタンバイソレノイド電流指令値I14を加算し、エンジン14の始動後の規制時に最終的なソレノイド電流指令値を(I16+I14)として出力する。
【0080】
図13に示す実施の形態は、始動後流量規制手段として、流量QPの目標値を一定値に減らす構成とする。エンジン14の始動後の規制時に最終的なソレノイド電流指令値をIconstとして出力する。
【0081】
図14に示す実施の形態は、エンジン14の始動後の規制時に最終的なソレノイド電流指令値をスタンバイソレノイド電流指令値I14として出力する。
【0082】
他の実施の形態として、コントローラ17はエンジン14の始動後の経過時間Tを計測し、経過時間Tがタイマー値T0(例えば数10秒)に達するまでの間は操舵角θに応じてパワーステアリング出力部8に供給される作動油の流量QPが増えることを規制する一方、経過時間Tがタイマー値T0以上経過すると、流量QPの規制を解除するようにしても良い。
【0083】
図15のフローチャートは上記した流量QPを制御するルーチンを示しており、コントローラ17において実行される。
【0084】
これについて説明すると、まずステップ21にて、イグニッションスイッチ40の信号がOFFからONに切換わるエンジン14の始動時か否かを判定する。ここで、エンジン14の始動時と判定された場合、ステップ22に進み、始動時検出フラグFをF=1としてセットし、ステップ23に進み、経過時間TをT=0とクリアし、続くステップ24にて、各制御変数を初期化する。
【0085】
続くステップ25にて、始動後の経過時間Tを計測し、ステップ26にてこの経過時間Tがタイマー値T0を経過するか否かを判定する。
【0086】
ここで、経過時間Tがタイマー値T0を経過していないと判定された場合、ステップ27にて始動時検出フラグFがセットされていることを確認して、ステップ28に進む。このステップ28にて、エンジン14の始動後に操舵角θに応じてパワーステアリング出力部8に供給される作動油の流量QPが増えることを規制する。
【0087】
一方、経過時間Tがタイマー値T0を経過したことが判定された場合、ステップ29にて始動時検出フラグFをF=0としてクリアした後、ステップ30に進む。また、ステップ27にて、始動時検出フラグFがクリアされていると判定された場合も、ステップ29を経てステップ30に進む。このステップ30にて、流量QPの規制を解除し、操舵角θ、操舵角速度ω、車速vに基づいてパワーステアリング出力部8に供給される作動油の流量QPを制御する。
【0088】
つまり、エンジンの始動後、タイマー値T0を経過するまでの間、車両の走行や操舵が行われることに関係なく、操舵角θに応じてパワーステアリング出力部8に供給される作動油の流量QPが増えることを規制する一方、タイマー値T0を経過すると、流量QPの規制を解除するようになっている。
【0089】
これにより、エンジン14の始動後、操舵角θが大きい運転状態でも、流量QPが規制され、ポンプ1の駆動負荷を減らすとともに、寒冷地等において暖機時に油圧配管から油撃音が生じることを防止できる。この運転状態でタイマー値T0を経過すると、流量QPの規制が解除され、流量QPが増大するが、この間にポンプ1が例えば数10秒作動することにより作動油の温度が上昇しており、油圧配管から油撃音が生じることを防止できる。
【0090】
本発明は上記の実施の形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明は車両の運転条件に応じてパワーステアリング出力部に導かれる作動油の流量QPを調節するフローコントロールバルブを備えたパワーステアリング装置に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明の実施の形態を示すパワーステアリング装置のシステム図。
【図2】同じくコントローラの構成を示すブロック図。
【図3】同じくコントローラの制御内容を示すフローチャート。
【図4】同じく操舵角と流量QPの関係を示す特性図。
【図5】他の実施の形態を示すコントローラの構成を示すブロック図。
【図6】同じく操舵角と流量QPの関係を示す特性図。
【図7】他の実施の形態を示すコントローラの構成を示すブロック図。
【図8】同じく操舵角と流量QPの関係を示す特性図。
【図9】他の実施の形態を示すコントローラの構成を示すブロック図。
【図10】同じく操舵角と流量QPの関係を示す特性図。
【図11】他の実施の形態を示すコントローラの構成を示すブロック図。
【図12】他の実施の形態を示すコントローラの構成を示すブロック図。
【図13】他の実施の形態を示すコントローラの構成を示すブロック図。
【図14】他の実施の形態を示すコントローラの構成を示すブロック図。
【図15】他の実施の形態を示すコントローラの制御内容を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0093】
1 ポンプ
2 供給通路
3 回転数感応弁
4 流量調整弁
8 パワーステアリング出力部
9 フローコントロールバルブ
14 エンジン
15 ステアリングバルブ
16 パワーシリンダ
17 コントローラ
18 舵角センサ
60 電磁弁
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の運転条件に応じてパワーステアリング出力部に導かれる作動油の流量QPを調節するフローコントロールバルブを備えたパワーステアリング装置の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のパワーステアリング装置の一例として、特許文献1に開示されたものは、エンジンによって駆動され作動油を吐出するポンプと、このポンプからパワーステアリング出力部に導かれる作動油の流量QPを調節するフローコントロールバルブとを備える。
【0003】
フローコントロールバルブは、コントローラによって制御される電磁弁と、電磁弁の作動に応動して作動油の一部をタンク側に戻すスプールとを備え、このスプールを介してパワーステアリング出力部に供給される作動油の流量QPを調節する。
【0004】
コントローラは、舵角センサからの舵角信号と車速センサからの車速信号とを入力し、舵角信号から操舵角θと操舵角速度ωとを演算し、これら操舵角θ、操舵角速度ω、車速vに基づいて要求流量QMを推定し、フローコントロールバルブの作動を制御する。
【0005】
こうしてパワーステアリング出力部に供給される流量QPを要求流量QMに近づけるように調節することにより、無駄な作動油をパワーステアリング出力部に供給することが抑えられ、ポンプの駆動損失を低減するようになっている。
【0006】
また、コントローラは操舵トルクの検出値を用いることなく要求流量QMを推定する構成のため、操舵トルクを直接検出するトルクセンサが不要であり、制御システムのコストダウンがはかれる。
【特許文献1】特開2001−163233号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような従来のパワーステアリング装置にあっては、操舵トルクを直接検出することなく、舵角センサからの舵角信号に応じてパワーステアリング出力部に導かれる作動油の流量QPが制御される構成のため、エンジンの始動直後は運転者によってハンドルが切られるまでの間は停車中の操舵角θに応じて流量QPが制御されることになる。
【0008】
例えば運転者がハンドル操作して操舵角θを大きくしたままエンジンを停止した後、次にエンジンが始動される場合、運転者によってハンドルが切られなくても、停車中の操舵角θに応じて流量QPが増やされるため、ポンプの駆動負荷が不要に高まるばかりか、寒冷地等においては暖機時に車両の油圧配管から油撃音が生じる可能性があった。
【0009】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、エンジンの始動後にパワーステアリング出力部に導かれる作動油の流量が不要に増加してしまうことを回避できるパワーステアリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、エンジンによって駆動されるポンプからパワーステアリング出力部に導かれる作動油の流量QPを調節するフローコントロールバルブと、車両に搭載される舵角センサによって検出される操舵角θに応じて流量QPを制御するコントローラとを備える車両のパワーステアリング装置に適用する。
【0011】
そして、コントローラは、エンジンの始動時を判定する始動時判定手段と、エンジンの始動後に操舵角θに応じて流量QPが増えることを規制する始動後流量規制手段と、車両の運転条件に応じてこの始動後流量規制手段による流量QPの規制を解除する始動後流量規制解除手段とを備えたことを特徴とするものとした。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、コントローラがエンジンの始動時を判定すると、エンジンの始動後に操舵角θに応じて作動油の流量QPが増えることを規制する。これにより、運転者がハンドル操作して操舵角θを大きくしたままエンジンを停止した後、次にエンジンが始動される場合でも、停車中の操舵角θに応じて流量QPが不要に増加してしまうことを回避し、ポンプの駆動負荷を減らすとともに、寒冷地等において暖機時に車両の油圧配管から油撃音が生じることを防止できる。
【0013】
エンジンの始動後、例えば操舵時または車両の走行時等の運転条件を判定し、流量QPの規制を解除する。これにより、コントローラは操舵角θに応じてフローコントロールバルブの作動を制御し、パワーステアリング出力部に導かれる作動油の流量QPを調節する。こうしてパワーステアリング出力部に供給される作動油量を必要量に復帰し、適度な操舵アシスト力が得られるとともに、ポンプの駆動損失を低く抑えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0015】
図1に示すように、パワーステアリング装置は、車両に搭載されるエンジン14によって駆動されるポンプ1と、このポンプ1から吐出される作動油をタンクT側に還流しパワーステアリング出力部8に導かれる作動油の流量QPを調節するフローコントロールバルブ9とを備える。
【0016】
パワーステアリング出力部8は、図示しないハンドルの操舵角及び操舵トルクに応じて作動油の流路方向及び圧力を制御するステアリングバルブ15と、このステアリングバルブ15を介して制御された作動油圧力により操舵力を付与するパワーシリンダ16等によって構成される。ポンプ1から吐出される作動油は、ハンドル(ステアリングホイール)の操作によって切換わるステアリングバルブ15を介して導かれ、操舵に対応するいずれか一方のパワーシリンダ室に流入し、パワーシリンダ16に接続されたステアリングリンクに操舵アシスト力が付与される。
【0017】
このフローコントロールバルブ9は、ポンプ1から吐出される作動油を並列に分岐してパワーステアリング出力部8へと導く第一、第二供給通路5,6を備え、この第一供給通路5に電磁弁60が介装され、この第二供給通路6に回転数感応弁3が介装される。
【0018】
フローコントロールバルブ9は、この電磁弁60及び回転数感応弁3の前後差圧に応じて供給通路2の作動油をポンプ吸込み側に戻す流量調整弁4と、電磁弁60及び回転数感応弁3より下流側に連通するリリーフバルブ7とを備える。
【0019】
フローコントロールバルブ9は、そのケーシングとしてバルブボディ21とキャップ31とを備える。このバルブボディ21には流量調整弁4を構成するスプール11が摺動可能に挿入されるスプール孔26、ポンプ1の吐出側に連通するポンプポート22、ポンプ吸込み側に連通する戻りポート23、第一供給通路5を構成するバイパスポート24,25等が形成される。このキャップ31には、回転数感応弁3を構成する供給ポート34、第二供給通路6を構成する下流側室32、第一供給通路5を構成するバイパスポート33等が形成される。
【0020】
流量調整弁4は、スプール11の外周にスプール孔26に摺接するランド部10が形成され、スプール11がスプリング13に抗して図面左方向に移動するとランド部10の先端が戻りポート23に面してポンプポート22と戻りポート23を連通し、スプール11の摺動位置に応じてポンプポート22から戻りポート23へと戻される作動油の流量を調節するようになっている。スプール11の一端には上流側パイロット圧室20が画成され、この上流側パイロット圧室20は電磁弁60及び回転数感応弁3の上流側に連通している。スプール11の他端にはスプリング13が介装された下流側パイロット圧室27が画成され、この下流側パイロット圧室27は通孔28を介して電磁弁60及び回転数感応弁3の下流側に連通している。こうして流量調整弁4は、スプール11の両端に電磁弁60及び回転数感応弁3の前後差圧が導かれ、スプール11は電磁弁60及び回転数感応弁3の前後差圧とスプリング13のバネ力が釣り合う位置へと移動する。
【0021】
回転数感応弁3は第二供給通路6の途中に介装される供給ポート34と、この供給ポート34の開口面積を変えるテーパロッド12とを備え、このテーパロッド12はスプール11の一端から突出し、テーパロッド12がスプール11とともに移動するのに伴って所定のストローク域にて供給ポート34の開口面積が次第に減少する。こうして流量調整弁4と回転数感応弁3は連携し、流量調整弁4の開度が増えるのにしたがって回転数感応弁3の開度が減るようになっている。
【0022】
ポンプ1の停止時に、フローコントロールバルブ9はスプリング13の付勢力によってスプール11がキャップ31の端面38に着座する。これにより、スプール11のランド部10によって戻りポート23が閉塞され、流量調整弁4が全閉するとともに、スプール11がキャップ31の端面38に着座して供給ポート34が閉塞され、回転数感応弁3が全閉する。
【0023】
電磁弁60は、バルブボディ21に挿入して取り付けられる円筒状のハウジング61と、このハウジング61側のシャフト穴59に摺動可能に挿入されるシャフト62を備える。ハウジング61にはポンプ1の吐出側に連通する上流室64と、シャフト62との間で可変絞り部を画成するバルブ穴66と、パワーステアリング出力部8に連通する下流室67が形成される。ポンプ1から吐出される作動油は、上流室64、バルブ穴66、下流室67を通ってパワーステアリング出力部8へと流れる。シャフト62はコイル69に生じる電磁力によりスプリング68に抗して開弁方向(図1において上方向)に駆動される。
【0024】
円柱状のシャフト62はその先端に円錐状の弁体部63が形成され、この弁体部63がバルブ穴66に挿入され、両者の間に可変オリフィス52がシャフト62の弁体部63とバルブ穴66の間に画成される環状の間隙として形成される。可変オリフィス52は、コイル69が非励磁状態のときにその開度が最少になり、励磁電流が大きくなるのにしたがってシャフト2が図1において上方向に変位して、可変オリフィス52の開口面積が次第に大きくなる。
【0025】
電磁弁60はコア77がハウジング61の段部78に着座した状態で、弁体部63がバルブ穴66からわずかに離れて第一供給通路5を全閉しない構造とする。これにより、可変オリフィス52は供給通路2に対して回転数感応弁3の上流側と下流側に接続し、スプール11がバルブボディ21やキャップ31に固着するバルブスティックが起きた場合にも、可変オリフィス52を流れる作動油が回転数感応弁3を迂回してパワーステアリング出力部8に供給される。この結果、パワーステアリング出力部8に操舵アシスト力が得られるとともに、ポンプ1の負荷が過大になることを回避し、フェイルセーフ機能を果たすことができる。
【0026】
エンジン14によってポンプ1が駆動され、ポンプポート22に加圧作動油が供給されると、作動油が流れる電磁弁60側のバルブ穴66及び回転数感応弁3に圧力損失が生じ、両パイロット圧室20,27に導かれる圧力差に応じてスプール11がスプリング13に抗して移動し、そのバランス位置にてポンプポート22と戻しポート23との開度が決まり、戻りポート23に還流される作動油の流量とパワーステアリング出力部8に供給される作動油の流量QPが調節される。
【0027】
以下、回転数感応弁3がポンプ1の回転数に応じてフローコントロールバルブ9の流量QPを調節する動作について説明する。
【0028】
ポンプ1が低速域で回転している状態では、流量調整弁4及び回転数感応弁3が閉弁しており、ポンプ1の回転数に比例した流量QPの作動油が電磁弁60側のバルブ穴66を通ってパワーステアリング出力部8に供給される。
【0029】
ポンプ1の回転数が中速域に達すると、流量調整弁4が開弁し、上流側パイロット圧室20に流入する作動油の一部がポンプ1の回転数増大に応じて戻りポート23に還流されるため、電磁弁60側のバルブ穴66と回転数感応弁3を介してパワーステアリング出力部8に供給される作動油の流量QPは略一定に保たれる。
【0030】
さらにポンプ1の回転数が増大すると、回転数感応弁3はテーパロッド12がスプール11とともに移動して供給ポート34の開口面積が次第に減少し、パワーステアリング出力部8に供給される作動油の流量QPは次第に減少する。
【0031】
このフローコントロールバルブ9の作動時、電磁弁60側のバルブ穴66を通過した作動油と、回転数感応弁3を通過した作動油が合流してパワーステアリング出力部8に供給される。
【0032】
さらに、コントローラ17がコイル69の励磁電流を制御して可変オリフィス52の開口面積が変化すると、両パイロット圧室20,27に導かれる圧力差に応じてスプール11がスプリング13に抗して移動し、そのバランス位置にてポンプポート22と戻しポート23との開度が決まり、パワーステアリング出力部8に供給される作動油の流量QPが調節される。
【0033】
こうしてフローコントロールバルブ9は、電磁弁60すなわち可変オリフィス52の開度と回転数感応弁3の開度に応じてスプール11を移動し、ポンプ1から吐出される作動油の一部を戻りポート23からタンクTに還流する。この作動油を戻しポート23からタンクTまたはポンプ1の吸い込み側に還流する流路は、バルブボディ21内に設けられるため、その圧力損失が小さく、ポンプ1側の駆動損失を低く抑えられ、エンジン14の燃料消費量の低減化がはかれる。
【0034】
コントローラ17は、舵角センサ18からの舵角信号と車速センサ19からの車速信号とが入力され、舵角信号から操舵角θと操舵角速度ωとを演算し、これら操舵角θ、操舵角速度ω、車速vに基づいて上記要求流量QMを推定し、コイル69の励磁電流を制御する。これにより、パワーステアリング出力部8に供給される作動油の流量QPが適度に調節される。
【0035】
これらの制御ブロック図の一例を示したものが図2である。コントローラ17には、操舵角θと流量QPとがリニアな特性になるように操舵角θとソレノイド電流指令値I1のテーブルが設定されている。さらに、操舵角速度ωと流量QPとがリニアな特性になるように操舵角速度ωとソレノイド電流指令値I2のテーブルが設定されている。ただし、ハンドルが中立あるいはその近傍にあるときには、操舵角θ及び操舵角速度ωが、ある設定値以上にならなければ、上記指令値I1及びI2のいずれもゼロを出力するようにしている。なお、ソレノイド電流指令値I1は操舵角θを基に演算して求め、ソレノイド電流指令値I2は操舵角速度ωを基に演算して求めるようにしてもよい。
【0036】
ソレノイド電流指令値I1に車速vに基づいたソレノイド電流指令値I3 を乗算してソレノイド電流指令値I5が出力される。このソレノイド電流指令値I5は、車速vが低速域では一例として1を出力し、高速域では一例として0.6を出力するとともに、その間の中速域では1から0.6まで車速vに応じて漸次減少する値を出力する。これにより、低速域ではソレノイド電流指令値I1がそのまま出力されるし、高速域ではソレノイド電流指令値I1が6割になる。また、中速域では、速度が上がればそれに反比例した値が出力されることになる。
【0037】
ソレノイド電流指令値I2に対して車速vに基づいたソレノイド電流指令値I4を限界値とし、ソレノイド電流指令値I2がソレノイド電流指令値I4を超えないように規制する。このように車速vによるソレノイド電流指令値I4をリミッタ値として利用し、ソレノイド電流指令値I6の傾きを一定に保つ。
【0038】
こうして得られたソレノイド電流指令値I5 またはI6のうち、大きな方の値を選択する。このように一方の値だけを選択することによって、流量QPのふれ幅を小さく抑えられる。ソレノイド電流指令値I5 またはI6のうち、小さい値ではなく、大きな値を選択することにより、制御応答性を高められる。
【0039】
上記のようにソレノイド電流指令値I5 またはI6のうち大きな値が求まったら、それにスタンバイソレノイド電流指令値I7を加算する。つまり、最終的なソレノイド電流指令値を(I5+I7)または(I6+I7)として出力し、ドライバーからコイル69に励磁電流を出力させる。
【0040】
このようにしてコントローラ17は、操舵角θ及び操舵角速度ωに対して流量QPがリニアな関係になるように制御し、操舵感覚と出力とを一致させるようになっている。
【0041】
ところで、停車中の操舵角θを大きい状態を保ったままエンジン14が始動される場合、操舵角θに応じて流量QPが増やされると、ポンプ1の駆動負荷が不要に高まるばかりか、寒冷地等において暖機時に供給通路2を構成する油圧配管から油撃音が生じる可能性があった。この油撃音は、駐車中に冷えて粘度が高くなった作動油が、エンジン14の始動後にポンプ1からフローコントロールバルブ9を経て大量にパワーステアリング出力部8に供給された場合に、油圧配管を大きく加振して生じる騒音である。
【0042】
本発明はこれに対処して、コントローラ17はエンジン14の始動時を判定する始動時判定手段と、エンジン14の始動後に操舵角θに応じてパワーステアリング出力部8に供給される作動油の流量QPが増えることを規制する始動後流量規制手段と、操舵時または車両の走行時等の運転条件に応じてこの始動後流量規制手段による流量QPの規制を解除する始動後流量規制解除手段とを備えるものとする。
【0043】
コントローラ17はエンジン14の始動時を判定すると、エンジン14の始動後に操舵角θに応じてパワーステアリング出力部8に供給される作動油の流量QPが増えることを規制する。これにより、運転者がハンドル操作して操舵角θを大きくしたままエンジン14を停止した後、次にエンジン14が始動される場合でも、停車中の操舵角θに応じて流量QPが増加してしまうことを回避し、ポンプ1の駆動負荷を減らすとともに、寒冷地等において暖機時に車両の油圧配管から油撃音が生じることを防止できる。
【0044】
エンジン14の始動後、操舵時または車両の走行時等の運転条件を判定し、流量QPの規制を解除する。これにより、コントローラ17は操舵角θに応じてフローコントロールバルブ9の作動を制御し、パワーステアリング出力部8に導かれる作動油の流量QPを調節する。こうしてパワーステアリング出力部8に供給される作動油量を必要量に復帰し、適度な操舵アシスト力が得られるとともに、ポンプ1の駆動損失を低く抑えられる。
【0045】
図2に示すように、コントローラ17は、エンジン14の始動時を判定する始動時判定手段として、車両のイグニッションスイッチ40の信号を入力し、このイグニッションスイッチ40の信号がOFFからONに切換わることを検出してこれをエンジン14の始動時であると判定する。
【0046】
イグニッションスイッチ40は、車両に設けられるキースイッチの一つであり、運転者によってエンジン14の運転時にONにされ、エンジン14の停止時にOFFにされる。
【0047】
なお、エンジン14の始動時を判定する始動時判定手段として、スタータスイッチの信号を用いてもよい。スタータスイッチは車両に設けられるキースイッチの一つであり、運転者によるエンジン14のクランキング時にONにされる。
【0048】
操舵時に流量QPの規制を解除する始動後流量規制解除手段として、車両の操舵時を判定し、この操舵時に前記始動後流量規制手段による流量QPの規制を解除する構成とする。
【0049】
具体的に、コントローラ17は、舵角センサ18の舵角信号から求められる操舵角θを微分して算出される操舵角速度ωを入力し、この操舵角速度ωをしきい値と比較し、操舵角速度ωがしきい値より低い場合に非操舵時と判定して流量QPの規制を継続する一方、操舵角速度ωがしきい値以上に上昇した場合に操舵時と判定して流量QPの規制を解除する。このしきい値は例えば0〜50deg/sの範囲で任意に設定する。
【0050】
車両の走行時に流量QPの規制を解除する始動後流量規制解除手段として、車両の走行時を判定し、この走行時に前記始動後流量規制手段による流量QPの規制を解除する構成とする。
【0051】
具体的に、コントローラ17は、車速センサ19からの車速信号から求められる車速vを入力し、この車速vをしきい値(例えば0Km/h)と比較し、車速vがしきい値より低い場合に停車時と判定して流量QPの規制を継続する一方、車速vがしきい値以上に上昇した場合に走行時と判定して流量QPの規制を解除する。
【0052】
図3のフローチャートは上記した流量QPを制御するルーチンを示しており、コントローラ17において実行される。
【0053】
これについて説明すると、まずステップ1にて、イグニッションスイッチ40の信号がOFFからONに切換わるエンジン14の始動時か否かを判定する。ここで、エンジン14の始動時と判定された場合、ステップ2に進み、始動時検出フラグFをF=1としてセットし、続くステップ3にて、各制御変数を初期化する。
【0054】
続くステップ4にて、舵角センサ18と車速センサ19との検出信号を入力する。続くステップ5にて、舵角センサ18の舵角信号から求められる操舵角θを微分して算出される操舵角速度ωを演算する。
【0055】
ステップ6にて、車速vがしきい値より低い停車時か否かを判定する。ステップ7にて、操舵角速度ωがしきい値より低い非操舵時か否かを判定する。ステップ8にて、始動時検出フラグFがセットされているか否かを判定する。
【0056】
ここで、車両の停車時であり、非操舵時であり、かつ始動時検出フラグFがセットされていると判定された場合、ステップ9に進む。このステップ9にて、エンジン14の始動後に操舵角θに応じてパワーステアリング出力部8に供給される作動油の流量QPが増えることを規制する。
【0057】
一方、車両の走行時であるか、操舵時であると判定された場合、ステップ10にて始動時検出フラグFをF=0としてクリアした後、ステップ11に進む。また、ステップ8にて、始動時検出フラグFがクリアされていると判定された場合も、ステップ10を経てステップ11に進む。このステップ11にて、流量QPの規制を解除し、操舵角θ、操舵角速度ω、車速vに基づいてパワーステアリング出力部8に供給される作動油の流量QPを制御する。
【0058】
つまり、エンジンの始動後、車両が走行するか、操舵が行われるまでの間は、ステップ9に進んで、操舵角θに応じてパワーステアリング出力部8に供給される作動油の流量QPが増えることを規制する一方、一旦車両が走行するか、操舵が行われると、ステップ11に進んで、流量QPの規制を解除するようになっている。
【0059】
なお、上記制御ルーチンでは、このステップ11にて、作動油の流量QPを制御する構成としたが、これに限らず、ステップ11にて、流量QPの規制を解除する指令のみを出力し、操舵角θ、操舵角速度ω、車速vに基づいてパワーステアリング出力部8に供給される作動油の流量QPを制御することを別の制御ルーチンで行う構成として、流量QPの制御応答性を高めるようにしても良い。
【0060】
本実施の形態では、始動後流量規制手段として、流量QPの目標値を一定のリミッタ値以下に抑える構成とする。流量QPの最大値をmaxQに対し、このリミッタ値を例えばmaxQ/2に設定する。
【0061】
図4は操舵角θに応じてパワーステアリング出力部8に供給される作動油の流量QPが変化する様子を示す特性図である。
【0062】
通常の運転時、流量QPは操舵角θが0degから大きくなるのに応じてスタンバイ流量から最大流量maxQに達するまで漸次増加し、操舵角θがこれ以上大きくなっても最大流量maxQに保たれる。
【0063】
一方、エンジン14の始動後の規制時、流量QPは操舵角θが0degから大きくなるのに応じてスタンバイ流量からリミッタ値maxQ/2に達するまで漸次増加し、操舵角θがこれ以上大きくなってもリミッタ値maxQ/2に保たれる。
【0064】
これにより、例えば操舵角θが30degを超えた状態でエンジン14が始動された場合、流量QPはリミッタ値maxQ/2に規制され、ポンプ1の駆動負荷を減らすとともに、寒冷地等において暖機時に油圧配管から油撃音が生じることを防止できる。この状態でハンドル操作が行われると、この規制が解除され、流量QPはリミッタ値maxQ/2から最大流量maxQに復帰し、パワーステアリング出力部8の操舵アシスト力が十分に確保される。
【0065】
流量QPの規制時であっても、流量QPがリミッタ値maxQ/2より小さい範囲では、通常の制御時と同じ流量QPが得られるので、ハンドル操作が行われてこの規制が解除されたときに、流量QPは変化せず、流量QPが通常の特性に復帰する応答遅れがない。
【0066】
次に図5に示す他の実施の形態は、始動後流量規制手段として、流量QPの目標値を一定のゲイン値dを乗算して減らす構成とする。操舵角θと車速vに基づいたソレノイド電流指令値I5に対して掛け合わせた時このソレノイド電流指令値I5より小さくなるようなゲイン値dを乗算してソレノイド電流指令値I9を出力し、このソレノイド電流指令値I9にスタンバイソレノイド電流指令値I7を加算し、エンジン14の始動後の規制時に最終的なソレノイド電流指令値を(I7+I9)として出力する。
【0067】
図6は操舵角θに応じてパワーステアリング出力部8に供給される作動油の流量QPが変化する様子を示す特性図である。これはゲイン値dを一例として0.5に設定している。
【0068】
この場合、エンジン14の始動後の規制時、流量QPは操舵角θが0degから30degまで大きくなるのに応じてスタンバイ流量からゲイン規制を受けた流量に達するまで漸次増加し、操舵角θがこれ以上大きくなってもゲイン規制を受けた流量に保たれる。
【0069】
これにより、エンジン14の始動後の規制時の流量QPは、通常運転時の流量QPに比べて操舵角θによらず減少され、ポンプ1の駆動負荷を減らすとともに、寒冷地等において暖機時に油圧配管から油撃音が生じることを防止できる。
【0070】
次に図7に示す他の実施の形態は、始動後流量規制手段として、流量QPの目標値を一定値に減らす構成とする。エンジン14の始動後の規制時に最終的なソレノイド電流指令値をIconstとして出力する。
【0071】
図8は操舵角θに応じてパワーステアリング出力部8に供給される作動油の流量QPが変化する様子を示す特性図である。これは流量QPの最大値をmaxQに対し、このIconstを例えばmaxQ/2相当に設定している。
【0072】
この場合、エンジン14の始動後の規制時、流量QPは操舵角θによらず規制を受けたmaxQ/2相当になり、寒冷地等において暖機時に油圧配管から油撃音が生じることを防止できる。
【0073】
次に図9に示す他の実施の形態は、エンジン14の始動後の規制時に最終的なソレノイド電流指令値をスタンバイソレノイド電流指令値I7として出力する。
【0074】
この場合、図10に示すように、エンジン14の始動後の規制時、流量QPは操舵角θによらずスタンバイ流量になり、ポンプ1の駆動負荷を減らすとともに、寒冷地等において暖機時に油圧配管から油撃音が生じることを防止できる。
【0075】
次に図11〜図14にそれぞれ示す他の実施の形態を説明する。これら各実施の形態に共通する構成は、操舵角θを基にしてソレノイド電流指令値I11と、操舵角速度ωを基にしてソレノイド電流指令値I12とを求め、それら両者を加算する。この加算値(I11+I12)に、車速vに基づいて設定されたソレノイド電流指令値I13 を乗算する。ただし、上記車速vに基づいたソレノイド電流指令値I13は、車速が低速域では1を出力し、高速域ではゼロを出力するとともに、その間の中速域では1からゼロまでの小数点以下の値を出力する。
【0076】
したがって、上記加算値(I11+I12)に車速vに基づいたソレノイド電流指令値I13を乗算すれば、低速域では(I11+I12)がそのまま出力されるし、高速域では(I11+I12)がゼロになる。また、中速域では、速度が上がればそれに反比例した値が出力されることになる。
【0077】
上記のように(I11+I12)×I13 が求まったら、さらにそれにスタンバイソレノイド電流指令値I14を加算する。つまり、{(I11+I12)×I13}+I14をソレノイド電流指令値として、ドライバーに出力する。
【0078】
図11に示す実施の形態は、始動後流量規制手段として、流量QPの目標値を一定のリミッタ値以下に抑える構成とする。流量QPの最大値をmaxQに対し、このリミッタ値を例えばmaxQ/2相当に設定する。
【0079】
図12に示す実施の形態は、始動後流量規制手段として、流量QPの目標値を一定のゲイン値dを乗算して減らす構成とする。操舵角θと操舵角速度ωと車速vに基づいたソレノイド電流指令値I11に対してゲイン値dを乗算してソレノイド電流指令値I16を出力し、このソレノイド電流指令値I16にスタンバイソレノイド電流指令値I14を加算し、エンジン14の始動後の規制時に最終的なソレノイド電流指令値を(I16+I14)として出力する。
【0080】
図13に示す実施の形態は、始動後流量規制手段として、流量QPの目標値を一定値に減らす構成とする。エンジン14の始動後の規制時に最終的なソレノイド電流指令値をIconstとして出力する。
【0081】
図14に示す実施の形態は、エンジン14の始動後の規制時に最終的なソレノイド電流指令値をスタンバイソレノイド電流指令値I14として出力する。
【0082】
他の実施の形態として、コントローラ17はエンジン14の始動後の経過時間Tを計測し、経過時間Tがタイマー値T0(例えば数10秒)に達するまでの間は操舵角θに応じてパワーステアリング出力部8に供給される作動油の流量QPが増えることを規制する一方、経過時間Tがタイマー値T0以上経過すると、流量QPの規制を解除するようにしても良い。
【0083】
図15のフローチャートは上記した流量QPを制御するルーチンを示しており、コントローラ17において実行される。
【0084】
これについて説明すると、まずステップ21にて、イグニッションスイッチ40の信号がOFFからONに切換わるエンジン14の始動時か否かを判定する。ここで、エンジン14の始動時と判定された場合、ステップ22に進み、始動時検出フラグFをF=1としてセットし、ステップ23に進み、経過時間TをT=0とクリアし、続くステップ24にて、各制御変数を初期化する。
【0085】
続くステップ25にて、始動後の経過時間Tを計測し、ステップ26にてこの経過時間Tがタイマー値T0を経過するか否かを判定する。
【0086】
ここで、経過時間Tがタイマー値T0を経過していないと判定された場合、ステップ27にて始動時検出フラグFがセットされていることを確認して、ステップ28に進む。このステップ28にて、エンジン14の始動後に操舵角θに応じてパワーステアリング出力部8に供給される作動油の流量QPが増えることを規制する。
【0087】
一方、経過時間Tがタイマー値T0を経過したことが判定された場合、ステップ29にて始動時検出フラグFをF=0としてクリアした後、ステップ30に進む。また、ステップ27にて、始動時検出フラグFがクリアされていると判定された場合も、ステップ29を経てステップ30に進む。このステップ30にて、流量QPの規制を解除し、操舵角θ、操舵角速度ω、車速vに基づいてパワーステアリング出力部8に供給される作動油の流量QPを制御する。
【0088】
つまり、エンジンの始動後、タイマー値T0を経過するまでの間、車両の走行や操舵が行われることに関係なく、操舵角θに応じてパワーステアリング出力部8に供給される作動油の流量QPが増えることを規制する一方、タイマー値T0を経過すると、流量QPの規制を解除するようになっている。
【0089】
これにより、エンジン14の始動後、操舵角θが大きい運転状態でも、流量QPが規制され、ポンプ1の駆動負荷を減らすとともに、寒冷地等において暖機時に油圧配管から油撃音が生じることを防止できる。この運転状態でタイマー値T0を経過すると、流量QPの規制が解除され、流量QPが増大するが、この間にポンプ1が例えば数10秒作動することにより作動油の温度が上昇しており、油圧配管から油撃音が生じることを防止できる。
【0090】
本発明は上記の実施の形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明は車両の運転条件に応じてパワーステアリング出力部に導かれる作動油の流量QPを調節するフローコントロールバルブを備えたパワーステアリング装置に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明の実施の形態を示すパワーステアリング装置のシステム図。
【図2】同じくコントローラの構成を示すブロック図。
【図3】同じくコントローラの制御内容を示すフローチャート。
【図4】同じく操舵角と流量QPの関係を示す特性図。
【図5】他の実施の形態を示すコントローラの構成を示すブロック図。
【図6】同じく操舵角と流量QPの関係を示す特性図。
【図7】他の実施の形態を示すコントローラの構成を示すブロック図。
【図8】同じく操舵角と流量QPの関係を示す特性図。
【図9】他の実施の形態を示すコントローラの構成を示すブロック図。
【図10】同じく操舵角と流量QPの関係を示す特性図。
【図11】他の実施の形態を示すコントローラの構成を示すブロック図。
【図12】他の実施の形態を示すコントローラの構成を示すブロック図。
【図13】他の実施の形態を示すコントローラの構成を示すブロック図。
【図14】他の実施の形態を示すコントローラの構成を示すブロック図。
【図15】他の実施の形態を示すコントローラの制御内容を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0093】
1 ポンプ
2 供給通路
3 回転数感応弁
4 流量調整弁
8 パワーステアリング出力部
9 フローコントロールバルブ
14 エンジン
15 ステアリングバルブ
16 パワーシリンダ
17 コントローラ
18 舵角センサ
60 電磁弁
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンによって駆動されるポンプからパワーステアリング出力部に導かれる作動油の流量QPを調節するフローコントロールバルブと、
車両に搭載される舵角センサによって検出される操舵角θに応じて流量QPを制御するコントローラとを備える車両のパワーステアリング装置において、
前記コントローラは、前記エンジンの始動時を判定する始動時判定手段と、
前記エンジンの始動後に操舵角θに応じて流量QPが増えることを規制する始動後流量規制手段と、
前記車両の運転条件に応じてこの始動後流量規制手段による流量QPの規制を解除する始動後流量規制解除手段とを備えたことを特徴とするパワーステアリング装置。
【請求項2】
前記始動後流量規制解除手段は、車両の操舵時を判定し、この操舵時に前記始動後流量規制手段による流量QPの規制を解除する構成としたことを特徴とする請求項1に記載のパワーステアリング装置。
【請求項3】
前記始動後流量規制解除手段は、車両の走行時を判定し、この走行時に前記始動後流量規制手段による流量QPの規制を解除する構成としたことを特徴とする請求項1または2に記載のパワーステアリング装置。
【請求項4】
前記始動後流量規制解除手段は、エンジンの始動後の経過時間Tを計測し、この経過時間Tがタイマー値T0を経過したことを判定して前記始動後流量規制手段による流量QPの規制を解除する構成としたことを特徴とする請求項1から3のいずれか一つに記載のパワーステアリング装置。
【請求項5】
前記始動後流量規制手段として、流量QPの目標値を一定のリミッタ値以下に抑える構成としたことを特徴とする請求項1から4のいずれか一つに記載のパワーステアリング装置。
【請求項6】
前記始動後流量規制手段として、流量QPの目標値を一定のゲイン値を乗算して減らす構成としたことを特徴とする請求項1から4のいずれか一つに記載のパワーステアリング装置。
【請求項7】
前記始動後流量規制手段として、流量QPの目標値を一定値にする構成としたことを特徴とする請求項1から4のいずれか一つに記載のパワーステアリング装置。
【請求項8】
前記始動後流量規制手段として、流量QPの目標値をスタンバイ流量にする構成としたことを特徴とする請求項7に記載のパワーステアリング装置。
【請求項1】
エンジンによって駆動されるポンプからパワーステアリング出力部に導かれる作動油の流量QPを調節するフローコントロールバルブと、
車両に搭載される舵角センサによって検出される操舵角θに応じて流量QPを制御するコントローラとを備える車両のパワーステアリング装置において、
前記コントローラは、前記エンジンの始動時を判定する始動時判定手段と、
前記エンジンの始動後に操舵角θに応じて流量QPが増えることを規制する始動後流量規制手段と、
前記車両の運転条件に応じてこの始動後流量規制手段による流量QPの規制を解除する始動後流量規制解除手段とを備えたことを特徴とするパワーステアリング装置。
【請求項2】
前記始動後流量規制解除手段は、車両の操舵時を判定し、この操舵時に前記始動後流量規制手段による流量QPの規制を解除する構成としたことを特徴とする請求項1に記載のパワーステアリング装置。
【請求項3】
前記始動後流量規制解除手段は、車両の走行時を判定し、この走行時に前記始動後流量規制手段による流量QPの規制を解除する構成としたことを特徴とする請求項1または2に記載のパワーステアリング装置。
【請求項4】
前記始動後流量規制解除手段は、エンジンの始動後の経過時間Tを計測し、この経過時間Tがタイマー値T0を経過したことを判定して前記始動後流量規制手段による流量QPの規制を解除する構成としたことを特徴とする請求項1から3のいずれか一つに記載のパワーステアリング装置。
【請求項5】
前記始動後流量規制手段として、流量QPの目標値を一定のリミッタ値以下に抑える構成としたことを特徴とする請求項1から4のいずれか一つに記載のパワーステアリング装置。
【請求項6】
前記始動後流量規制手段として、流量QPの目標値を一定のゲイン値を乗算して減らす構成としたことを特徴とする請求項1から4のいずれか一つに記載のパワーステアリング装置。
【請求項7】
前記始動後流量規制手段として、流量QPの目標値を一定値にする構成としたことを特徴とする請求項1から4のいずれか一つに記載のパワーステアリング装置。
【請求項8】
前記始動後流量規制手段として、流量QPの目標値をスタンバイ流量にする構成としたことを特徴とする請求項7に記載のパワーステアリング装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2006−15934(P2006−15934A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−197597(P2004−197597)
【出願日】平成16年7月5日(2004.7.5)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年7月5日(2004.7.5)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】
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