説明

車両用操舵装置及び車両用操舵方法

【課題】周囲のリスクに対応した操舵反力を運転者が理解し易い車両用操舵装置を提供する。
【解決手段】運転者が受けるステアリングホイールからの操舵反力と車両操作機器の動作状態に基づいて車両操作機器に作用する運転者の操作力以外の外乱を補償しつつ、自車両周囲のリスク度合い及び操舵角に応じた操舵反力を操舵伝達系に付加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転者の操舵操作を支援する機能を有する車両用操舵装置及び車両用操舵方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車両用操舵装置としては、例えば特許文献1に記載の装置がある。このような装置は、車両周囲の状況を検出し、その時点における潜在的なリスク度合いを求めている。そして、そのリスク度合いに基づいて操舵補助トルクを制御する。すなわち、リスク度合いに応じた操舵反力分を操舵伝達系に付加することで、運転者の操舵操作を補助する。
このような車両用操舵装置にあっては、どの障害物を反力制御の対象としているかを運転者が容易に理解できるようにしながら、自車両周囲のリスクをステアリングホイールの操舵反力として確実に運転者に伝達することが望まれている。
【特許文献1】特開平10−211886号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
路面からの操舵反力に対し、リスク度合いに応じた操舵反力分を付加する補正を行うように、操舵反力の制御を行っている。
しかしながら、実際には、操舵伝達系の不感部分や、路面の片勾配や片勾配の変化、轍などの外乱の影響で、理想の操舵反力特性を得ることが出来ない場合が多い。
例えば、ステアリングホイール(車両操作機器)の特性は、切り始めの微小操作で操舵反力が急に立ち上がり、その後、操舵反力の増加勾配が緩やかになるというのが、操舵伝達系の通常の特性である。このように、この操舵反力の増加勾配(操舵反力の特性)は、ステアリングホイールを切り始めた微小操作時が最も大きく、また、その増加勾配は、操作量に応じて、ある最大反力に向かって徐々に小さくなるという特性となる。従って、運転者の運転に影響の無い範囲でのリスクに応じた反力分を付加しただけでは、リスクの増加傾向を、運転者が正確に感じ取ることができないおそれがある。つまり、操舵側と保舵側の反力差が通常状態で既に大きいことから、リスクに応じた反力分の付加を行っても、操舵量に対する操舵反力の感度に差が出にくい。このため、リスクの増加傾向を、運転者が正確に感じ難い。
【0004】
一方、片勾配や片勾配の変化、轍の存在する路面を走行している場合には、自車両周囲のリスクによらず、路面からの入力によって操舵反力が勝手に変化してしまう。このため、車速と操舵角に基づきフラットで理想的な路面におけるSAT相当(セルフアライニングトルク相当)の力を推定して操舵トルクを補正する構成では、確実なリスク伝達が困難である。つまり、運転者は路面変化による操舵反力変化なのか、周囲のリスクに対応する操舵反力なのか常に考えて運転しなくてはならない。このことは、運転者の負担が楽にならない場合があるということになる。
本発明は、上記のような点に着目したもので、周囲のリスクに対応した操舵反力を運転者が理解し易くすることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明は、運転者が受ける車両操作機器からの操舵反力と車両操作機器の動作状態に基づいて車両操作機器に作用する運転者の操作力以外の外乱を補償しつつ、自車両周囲のリスク度合い及び操舵角に応じた操舵反力を操舵伝達系に付加する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、SAT相当(セルフアライニングトルク相当)の操舵反力分を補償して、リスク度合いに応じた操舵反力を操舵伝達系に付加する。この結果、車両操作機器の操舵角に対する操舵反力特性が、リスク度合いに応じた操舵反力の特性と一致若しくは近づくようになる。
これによって、通常の操舵伝達系に存在している不感特性や路面変化が存在する場合であっても、走行中のリスクに対応した操舵反力を確実に運転者に伝達することができる。
また、リスク度合いに応じた操舵反力が、操舵角に応じた値となる。このため、例えば初期の操舵力は小さく、さらに車両操作機器を切り増せば切り増す程、操舵反力が増加して、運転者にとって、リスクへ接近している状態を理解し易い操舵反力の特性となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
(第1実施形態)
以下に、本発明の第1実施形態について図面を参照しつつ説明する。
図1は、本実施形態に係る運転操舵補助装置の概略構成図である。
符号3は、運転者が操舵するステアリングホイールである。そのステアリングホイール3に対しステアリングシャフト4の上端部が連結する。ステアリングシャフト4の下端部が、ラック・ピニオン機構12を介して、ラック軸2に連結する。ラック軸2は、軸を車幅方向に向けて配置する。そのラック軸2の左右端部は、それぞれタイロッドを介してナックル13R、13Lに連結する。左右のナックル13R、13Lは、それぞれ操向輪としての前輪1R、1Lを回転自在に支持する。以上によって、操舵伝達系を構成する。すなわち、ステアリングホイール3の回転が、ステアリングシャフト4及びラック軸2を介して左右の前輪1R、1Lに伝達して、左右の前輪1R、1Lが転舵する。上記ステアリングシャフト4、ラック・ピニオン機構、ラック軸2は、操舵トルクThを伝達する操舵伝達系を構成する。
【0008】
操舵トルクセンサ5を、上記ステアリングシャフト4に介装する。操舵トルクセンサ5は、操舵トルクThを検出する装置である。操舵トルクセンサ5は、例えば、ステアリングシャフト4のねじれ量から操舵トルクThを検出する。操舵トルクセンサ5は、検出した操舵トルクThをコントロールユニット8に出力する。
また、操舵角センサ6を備える。操舵角センサ6は、運転者が操舵したステアリングホイール3の操舵角度θおよび操舵角速度dθ/dtを検出する。操舵角センサ6は、検出した操舵角及び操舵角速度をコントロールユニット8に出力する。
車輪速センサ9を備える。車輪速センサ9は、車輪回転数を検出して、コントロールユニット8に出力する。
【0009】
また、操舵アクチュエータ7を備える。操舵アクチュエータ7は、操舵伝達系に対して補助トルクを付加する装置である。図1では、ステアリングシャフト4に補助トルクを付加する場合を図示している。補助トルクをラック軸2に付加する構成でも良い。本実施形態では、操舵アクチュエータ7として電動モータを例示している。すなわち、コントロールユニット8からの指令値に相当する駆動電流によって、当該駆動電流に比例したトルクを発生する。すなわち、操舵伝達系に操舵補助力を付加する。
【0010】
また、車両は、前方カメラ10を備える。例えば、前方カメラ10は、フロントウィンドウ上に取り付けた小型のCCDカメラ、またはCMOSカメラ等で構成する。前方カメラ10は、車両前方の走行車線形状と自車両との相対位置を検出する走行位置検出センサを構成する。この前方カメラ10は、自車両前方を撮像する。そして、その撮像画像から、道路区画線等のレーンマーカを検出して走行車線を検出する。さらに、その走行車線に対する自車両のヨー角Φ、走行車線区分線からの横変位XL、XR、走行車線の曲率ρ等を算出する。そして、これらの算出情報をコントロールユニット8に出力する。
【0011】
またこの車両は、レーザレーダ11を備える。レーザレーダ11は、自車両の左右及び前方に存在する、障害物や隣接車線の車両あるいは対向車両までの車間距離、相対速度およびその存在方向(相対角度)を検出する。レーザレーダ11は、検出結果をコントロールユニット8に出力する。
コントロールユニット8は、アクチュエータ駆動電流Iを算出し、そのアクチュエータ駆動電流Iを指令値として操舵アクチュエータ7へ供給する。ステアリング操舵に応じたアクチュエータ駆動電流分は、操舵トルクThと、車輪回転数から算出する走行速度と操舵角速度とに応じて算出する。
【0012】
また、コントロールユニット8は、カメラ10及びレーザレーダ11からの情報に基づき、自車両の走行状態を推定する。そして、推定した走行状態をもとに、操舵トルクThや運転者への操舵反力を上記操舵補助力に対して付加する。これによって、運転者の適切運転操作を支援する。
コントロールユニット8の制御ブロックを図2に示す。
すなわち、コントロールユニット8は、操舵アシスト演算部81、操舵反力制御部82、フリクション補償演算部83、及び電流制御部84を備える。
【0013】
操舵アシスト演算部81は、図3に示すように、操舵アシスト演算部本体81Aと、アシスト補正部81Bとを備える。
操舵アシスト演算部本体81Aは、操舵トルクThに応じた操舵アシスト電流I1を算出する。すなわち、操舵アシスト演算部本体81Aは、各センサから入力した操舵トルクThと車速Vから、図3中に示す操舵アシストマップに従って操舵アシスト電流I1を算出する。操舵アシスト電流I1は補助トルクの指令値となる。
【0014】
なお図3では説明を簡単にするために、基本の操舵アシスト電流I1以外を省略している。通常の電動パワーステアリング装置と同様に、操舵アクチュエータ7の回転角速度をフィードバックして操舵伝達系のダンピングを良くして自車両の走行安定性を向上させる項や、回転角加速度をフィードバックして、操舵アクチュエータ7の慣性力を補償する項などを、基本の操舵アシスト電流I1に追加しても良い。
【0015】
アシスト補正部81Bは、操舵アシスト演算部本体81Aが算出した操舵アシスト電流I1を、下記式のように、操舵アシスト補正ゲインα(0≦α≦1)によって補正する。
I1 ← I1×α
そして、補正後の操舵アシスト電流I1を電流制御部84に出力する。操舵アシスト補正ゲインαは、後述の操舵反力制御部82で算出した値である。
【0016】
上記操舵アシスト補正ゲインαは、操舵反力制御を強く作用させる場合に「0」に近づけて、通常の操舵アシスト電流I1を小さく修正するためのゲインである。この操舵アシスト補正ゲインαと操舵反力ゲインkとを、それぞれ協調して修正する構成により、通常のパワーステアリング制御と走行中のリスクに対応した操舵反力制御を連続的に滑らかに切り替えることができる構成となる。
【0017】
ここで、通常の電動パワーステアリング装置としての操舵アシストを行う場合は、操舵アシスト補正ゲインαは「1」である。すなわち、通常の電動パワーステアリング装置として機能する。すなわち、リスクに対する操舵支援が作動しない場合には、電流制御部84は、操舵アシスト演算部81で算出した操舵アシスト電流I1を操舵アクチュエータ7へ印加し、通常の電動パワーステアリング装置として機能する。
【0018】
フリクション補償演算部83は、図4に示すような構成となっていて、下記式の基づき、フリクション補償電流Idを算出する。そして、そのフリクション補償電流Idを電流制御部84に出力する。
Id(s) =(1/Kt)・T^d(s)
=(1/Kt)・{L(s)/P(s))・ω(s)
−L(s)・(Th(s)+Kt・I(s))}
【0019】
次に、上記フリクション補償電流Idについて、図4を参照して説明する。
操舵伝達系の運動方程式をラプラス変換すると、下記(1)式のようになる。
ω(s)=P(s){Th(s)+Tm(s)+Td(s)} ・・・(1)
ただし、
P(s)=1/(Js・s +Ds) ・・・(2)
また、
Th :運転者による操舵トルク
Tm :操舵アクチュエータ7のモータ発生トルク
Td :フリクション、タイヤ入力を含む操舵伝達系への全ての外乱トルク
Js :ステアリング系(モータ含む)の慣性モーメント
Ds :ステアリング系(モータ含む)の粘性係数
ω :ステアリングシャフト4の回転角速度
である。
【0020】
また、モータ印加電流Iとモータ発生トルクTmとの関係は、下記(3)式のようになっている。
Tm = Kt・I ・・・(3)
但し、Ktはモータトルク定数である。
従って、外乱トルクTdは、下記(4)式で求めることが出来る。
Td(s) =(1/P(s))・ω(s) −{Th(s)+Kt・I(s)}
・・・(4)
【0021】
但し、このままでは微分項に発生するノイズによって適切な外乱推定が行われない場合がある。したがって、外乱除去の周波数帯をωcとして、下記式のような、ローパスフィルタL(s)を設定する。
L(s)=ωc/(s +ωc)
そして、このローパスフィルタL(s)を上記(4)式に適用すると、フリクション、タイヤ入力を含む操舵伝達系への全ての外乱トルクTdの推定値T^dは、下記(5)式のように記載出来る。
T^d(s) =(L(s)/P(s))・ω(s)
−L(s)・{Th(s)+Kt・I(s)}
・・・(5)
【0022】
そして、外乱トルクTdの推定値T^dを、上述の(3)式に適用することで、フリクション補償電流Idは、上述のように、下記(6)式で表すことが可能となる。
Id(s) =(1/Kt)・T^d(s)
=(1/Kt)・{L(s)/P(s))・ω(s)
−L(s)・(Th(s)+Kt・I(s))}
・・・(6)
【0023】
次に、電流制御部84は、下記式のように、操舵アシスト電流I1に、後述の操舵アシスト電流I1を加算すると共に、フリクション補償電流Idを減じた値を、操舵アクチュエータ駆動電流Iとして算出する。そして、操舵アクチュエータ駆動電流Iを、操舵アクチュエータ7に印加することにより、車両周囲リスクに応じた操舵反力特性を実現する。 ここで、操舵アシスト電流I1が操舵反力の指令値となる。
I = I1 +I2 −Id ・・・(7)
但し、操舵アシスト電流I1は、補正ゲインαで補正した値である。補正前の操舵アシスト電流I1で、操舵アクチュエータ駆動電流Iを記載すると、下記式となる。
I = α・I1 +I2 −Id
【0024】
次に、操舵反力制御部82を、図5を参照しつつ説明する。
操舵反力制御部82は、図5に示すように、リスク演算部82a、目標操舵角演算部82b、及び反力制御演算部82cを備える。
ここで、上述のレーザレーダ11が、自車両の左右前方に存在する障害物、例えば隣接車線の車両あるいは対向車両までの車間距離、相対速度およびその存在方向(相対角度)を検出する。検出情報はリスク演算部82aに出力する。
また、前方カメラ10が、前方道路風景を画像として取り込む。前方カメラ10による検知領域は、水平方向に±45度程度であり、この検知領域内の前方道路風景から、自車両周囲の障害物状況を検出する。検出情報はリスク演算部82aに出力する。
【0025】
そして、リスク演算部82aは、レーザレーダ11、車速センサ9、及び前方カメラ10から入力した信号に基づいて、自車両の周囲に存在する障害物までの前後方向相対距離D、および相対速度Vrを算出する。そして、障害物までの前後方向相対距離D、および相対速度Vrに基づき、自車両における、左右方向のリスクポテンシャルRPを算出する。リスクポテンシャルRPは、自車両周囲のリスク度合いの指標である。
【0026】
具体的には、自車両右方向に関するリスクポテンシャルRPr、及び自車両左方向に関するリスクポテンシャルRPlをそれぞれ個別に算出する。このとき、自車両と障害物(他車両を含む。以下、同様)との前後方向車間距離D、前後方向相対速度Vr、および自車両に対する障害物の存在方向を使用する。
ここで、障害物の存在方向は、自車両正面を基準とした、自車両の進行方向に対する障害物の左右方向の相対角度βを用いる。
【0027】
リスクポテンシャルRPは、例えば、下記(8)式のように、障害物までの前後方向に関する余裕時間TTCを使用して算出する。
RP = sin|β|/TTC ・・・(8)
ここで、余裕時間TTCは下記式で表す。
TTC =D/Vr
この余裕時間TTCは、その符合に応じて、障害物や他車両に対し自車両が接近傾向か離脱傾向かを判断することができる。自車両が他車両や障害物に対して接近傾向である場合は、正の値となる。
【0028】
そして、周囲車両などに対する前後方向の余裕時間TTCが小さいほど、上記リスクポテンシャルRPは大きな値となる。また、相対角度β=90度のようなより併走状態に近いほど、上記リスクポテンシャルRPは大きい値となる。
そして、自車両の周囲に存在する、検出した他車両や障害物などの全ての対象物に対して、リスクポテンシャルRPを個別に算出する。
次に、右方向の領域に存在する他車両や障害物に対する各リスクポテンシャルRPの最大値または総和を右方向リスクポテンシャルRPrとする。同様に、左方向の領域に存在する他車両や障害物に対する各リスクポテンシャルRPの最大値または総和を左方向リスクポテンシャルRPlとする。ここで、相対角度βについて右方向を正と設定すると、相対角度βが正値と負値とによって、各リスクポテンシャルRPについて、右方向か左方向かの区別は可能である。
【0029】
続いて、算出した右方向リスクポテンシャルRPr、および左方向リスクポテンシャルRPlに基づいて、操舵反力ゲインkを算出する。
図6の右側に、リスクポテンシャルRPに対する操舵反力ゲインkの特性の一例を示す。
操舵反力ゲインkは、リスクポテンシャルRPの関数として設定し、図6に示すように、リスクポテンシャルRPが大きくなるほど増加するように設定しておく。また、車速が高くなるほど、操舵角に対する車両運動(ヨー角速度、横加速度)のゲインは高くなる。これに基づき、リスクポテンシャルRPに対する操舵反力ゲインkの値を、車速が高いほど大きい値となるように設定する。但し、リスクポテンシャルRPが所定値以下の場合には、操舵反力ゲインkを一定値とする。
【0030】
また、図6に左側に示すように、リスクポテンシャルRPの増加率が高い程、操舵反力ゲインkが高くなるように補正する。
例えば、操舵反力ゲインkは次のように表すことが出来る。
k = K1・f(V)・RP + K2・f(V)・dRP/dt
K1及びK2は、定数である。f(V)は車速Vに比例した関数である。
ここで、操舵反力ゲインkは、右方向及び左方向リスクポテンシャルRPr、RPlのいずれか大きい値の方に基づいて出力しても良い。すなわち、左右のリスクポテンシャルそれぞれに対応した操舵反力ゲインkrおよびklを出力し、操舵反力の特性をリスクの方向に応じて独立に設定できる構成とすると、運転者にとって、よりリスクを正確に把握できる構成とすることができる。
そして、リスク演算部82aは、算出した操舵反力ゲインk(またはkrとkl)を反力制御演算部82cに出力する。
【0031】
次に、目標操舵角演算部82bについて説明する。
上述の前方カメラ10は、上記の検知領域内の前方道路風景から、車両前方の走行車線形状と自車両との相対位置を検出する走行位置検出センサの機能を有している。すなわち、この前方カメラ10は、自車両前方の撮像画像から、道路区画線等のレーンマーカを検出して走行車線を検出する。また、その走行車線に対する自車両のヨー角Φ、走行車線中央からの横変位Yなどの車両走行状態、および、走行車線の曲率ρなどの走行車線形状を算出する。前方カメラ10は、算出した検出信号は目標操舵角演算部82bに出力する。
【0032】
そして、目標操舵角演算部82bは、自車両が走行車線中央位置に近づくような走行をするために必要な目標操舵角θrを算出して、その目標操舵角θrを反力制御演算部82cに出力する。上記必要な目標操舵角θrは、前方カメラ10から入力した車両走行状態、走行車線形状各センサ、及び車速センサ9から入力した自車速Vに基づき算出する。
または簡便に車線中央からの自車両の横変位量に基づき、横変位量が大きいほど上記目標操舵角θrが大きくなるマップに基づき、当該上記目標操舵角θrを算出しても良い。この場合、車速Vが高くなるほど上記目標操舵角θrが高くなるように補正しても良い。
【0033】
そして、反力制御演算部82cは、リスクに対する操舵反力制御電流I2を算出して、操舵アシスト演算部81に出力する。
すなわち、まず、下記式のように、上記目標操舵角演算部82bで算出した目標操舵角θrと、操舵角センサ66から入力した操舵角θとの偏差Δθを算出する。
Δθ = θr−θ ・・・(9)
次に、下記式のように、偏差Δθに対し、リスク演算部82aで算出した操舵反力ゲインkを乗じた値を操舵反力制御電流I2とする。そして、操舵反力制御電流I2を操舵アシスト演算部81に出力する。
I2 = k・Δθ ・・・(10)
【0034】
また、反力制御演算部82cは、補正ゲインαを算出して、操舵アシスト演算部81に出力する。補正ゲインαは、操舵アシスト電流I1を調整して、任意の操舵反力を実現するためのゲインである。
補正ゲインαは、下記式で表す値である。この式から分かるように、操舵反力ゲインkが大きくなるにつれて、補正ゲインαは小さくなる。
α=(1/f(Th)){(p/k)−1}
ここで、
k:操舵反力ゲインk
p:操舵反力ゲインkの最大値
Th:操舵トルク
である。
【0035】
次に、補正ゲインαについて説明する。
操舵反力ゲインkは、運転者の操作状況によらず、操舵伝達系および自車両の安定性から上限が決まる。その上限値が、操舵反力ゲインkの最大値pとなる。
操舵伝達系回りの力の釣り合いを考えると、下記式のように記載出来る。
Kt・p・Δθ +(α・f(Th)+1)・Th =0 ・・・(11)
ただし、f(Th)は、検出した操舵トルクThから操舵アシスト電流I1を算出するためのゲインである。
【0036】
実際に求めたい運転者に伝達される操舵反力を算出するための操舵反力ゲインkは、下記式となる。
k =(1/Kt)・(Th/Δθ) ・・・(12)
従って、(30)、(31)式から、補正ゲインαは、下記式で算出する。
α=(1/f(Th)){(p/k)−1} ・・・(13)
ここで、操舵反力ゲインkの最大値がpであることと、補正ゲインαは通常の電動パワーステアリング装置としての操舵アシストを行う場合は1であることから、
1≧ α ≧0 とする。
【0037】
次に、以上説明した操舵反力制御を行うコントロールユニット8の処理について、図7を参照して説明する。図7は、リスクポテンシャルRPの算出と操舵反力制御の処理手順を示すフローチャートである。このコントロールユニット8の処理は、所定サンプリング周期、例えば30msec毎に連続的に行われる。
まず、レーザレーダ11、車速センサ9および前方カメラ10によって検出した、自車速Vおよび障害物状況といった走行状態を読み込む(ステップS110参照)。
【0038】
ここで、障害物状況についての情報は、自車両周囲に存在する障害物までの前後方向の相対距離D、相対速度Vrおよび相対角度β等である。
次に、操舵トルクセンサ55、舵角センサ10によって検出した操舵トルクThおよび、操舵角θを読み込む(ステップS120参照)。
次に、図3中のような操舵アシストマップを用いて通常のパワーステアリングシステムとしての操舵アシスト電流I1を算出する(ステップS130参照)。
【0039】
次に、外乱として入力する外乱トルクTdの推定を行う。そして、その外乱トルク推定値T^dをキャンセルするのに必要なフリクション補償電流Idを算出する(ステップS140)。
この外乱トルクTdを算出する際に、制御入力と運転者操作力によって駆動されるモデルP(s)を使用する。そして、(5)式、(6)式、(7)式を用いて、操舵角速度ωを、そのモデルP(s)の逆特性に通したときに求めることができる制御入力及び操作入力の合計の推定値と、実際の制御入力及び操作入力の合計値との差から、外乱トルクTdの推定を行う。
【0040】
次に、(8)式を用いて車両左右方向のリスクポテンシャルRPrおよびRPlを算出する(ステップS150)。
次に、操舵反力制御を行うために、図6を用いて操舵反力ゲインkを算出する(ステップS160)。
次に、前方車線の状態と自車両の運転状態とに基づいて、自車両が走行車線中央に向かって誘導されるような目標操舵角θrを算出する(ステップS170)。
【0041】
次に、目標操舵角θrと実操舵角θとの偏差Δθに、操舵反力ゲインkを乗じて操舵反力制御電流I2を算出する(ステップS180)。同時に(13)式を用いて、操舵アシスト補正ゲインαを算出する。
次に、算出した操舵アシスト電流I1、操舵反力制御電流I2、および操舵アシスト補正ゲインαから(7)式を用いてアクチュエータ駆動電流を算出する(ステップS190)。
そして算出したアクチュエータ駆動電流Iを操舵アクチュエータ7に出力する。
【0042】
(作用)
ここで、操舵反力制御電流I2により、自車両周囲の潜在的なリスクが高いほど、小さな偏差Δθでも強めの操舵反力を発生して運転者へステアリングホイール3の操作を通じて自車両のリスク状態を伝達する。また、偏差Δθが大きくなるほど、大きな力で車線中央へ車両を戻すような操舵制御が行われる。このことは、運転者に対し、レーンキープの支援となる。
前述のフリクション補償演算部83で算出したフリクション補償電流Idにより、操舵伝達系のフリクションとともに路面反力であるSATをもステアリングホイール3に伝わらないように操舵アクチュエータ7を駆動制御する。
【0043】
このため、運転者が感じる操舵反力は、目標操舵角演算部82bが算出する目標操舵角θrと実際の舵角θとの偏差、つまり操舵角θに応じた力だけとなっている。
このように、リスク演算部82aでは操舵反力を周囲リスクだけから算出せず、運転者が操作を行った結果である実際の操作量と推奨の操作量との差に応じた反力が発生するようにしている。このため、自分の操作量に応じて操舵反力が立ち上がる。この結果、運転者にとって、今行っている操作が適切なものか、あるいは適切でない場合にどれぐらい適切でないかを正確に判断することができるものになっている。
【0044】
図8(a)は、操舵角−操舵トルク特性を示す図である。これに図8(b)のように、リスクに応じた操舵反力分を操舵伝達系に付加しても、大きなヒステリシスの影響が支配的であるため、運転者の操舵量に対する操舵反力の感度は余り変わらない。
これに対し、本実施形態では、図9に示すような、リスクがある場合には、操舵角−操舵トルク特性となる。すなわち、操舵に応じて操舵反力ゲインkに応じた量だけ操舵トルクが増大するようになって、上述ように運転者にリスクを伝達し易くなる。
【0045】
ここで、反力制御演算部82cは、目標操舵角θrと操舵角θとの偏差Δθに操舵反力ゲインkを乗じて得た操舵反力制御電流I2を算出して、電流制御部84に出力する。しかし、電流制御部84において、操舵アシスト電流I1と操舵反力制御電流I2を合成して操舵アクチュエータ駆動電流を算出するため、操舵反力制御電流I2の一部を操舵アシスト電流I1が打ち消してしまう。このことは、リスク演算部82aで算出した操舵反力特性が運転者の操舵反力に正しく反映されないことに繋がる。
【0046】
また、操舵アシスト電流I1に打ち勝つだけの操舵反力制御電流I2を出力するような大きい操舵反力ゲインkをリスク演算部82aで算出した場合、運転者の意図によって操舵トルクThが急に小さくなる。このことは、操舵トルクThが検出出来なくなった場合に、ステアリングホイール3が目標操舵角θrに向かって急激に制御されてしまうことに繋がる。そして、操舵反力ゲインkの大きさによってはステアリングホイール3が振動してしまう場合がある。
【0047】
このような事に鑑みて、補正ゲインαで操舵アシスト電流I1を調整して、任意の操舵反力を実現することを可能としている。
ここで、ステアリングホイール3が車両操作機器を構成する。カメラ10及びレーザレーダ11が周囲認識手段を構成する。前輪1R、1Lが操向輪を構成する。
操舵反力制御電流I2が、リスク算出手段が算出する操舵反力に対応する。操舵アシスト電流I1がアシストトルクに対応する。
【0048】
リスク演算部82aがリスク算出手段を構成する。反力制御演算部82cが反力特性調整手段を構成する。
電流制御部84及びフリクション補償演算部83が反力特性制御手段を構成する。
フリクション補償演算部83がフリクション補償手段を構成する。目標操舵角演算部82bが目標操舵角算出手段を構成する。
リスクポテンシャルRP、RPr、RPlがリスク度合いを構成する。操舵反力ゲインkが、操舵反力の特性を決定するゲインを構成する。
【0049】
(本実施形態の効果)
(1)リスク算出手段が、自車両周囲のリスク度合いを算出する。反力特性調整手段が、リスク度合い及び車両操作機器の操舵角に応じた、操舵反力の特性を算出する。そして、反力特性制御手段が、操舵角に対する操舵反力特性を、上記反力特性調整手段が算出した操舵反力の特性と一致若しくは近づくように制御する。
リスク度合いに応じた操舵反力が、操舵角に応じた値となる。このため、例えば初期の操舵力が小さく、車両操作機器を切り増せば切り増す程、操舵反力が増加して、運転者にとって、リスクへ接近している状態を理解し易い操舵反力特性となる。
【0050】
(2)フリクション補償手段が、運転者が受ける車両操作機器からの操舵反力と操作機器の動作状態に基づいて車両操作機器に作用する運転者の操作力以外の外乱を補償する。そして、反力特性制御手段は、このフリクション補償手段で外乱分を補償しつつ、反力特性調整手段が算出した、リスク度合いに応じた操舵反力を操舵伝達系に付加する。
すなわち、SAT相当(セルフアライニングトルク相当)の操舵反力分を補償して、リスク度合いに応じた操舵反力を操舵伝達系に付加する。この結果、車両操作機器の操舵角に対する操舵反力特性が、リスク度合いに応じた操舵反力の特性と一致若しくは近づくようになる。
【0051】
これによって、通常の操舵伝達系に存在している不感特性や路面変化が存在する場合であっても、走行中のリスクに対応した操舵反力を確実に運転者に伝達することができる。
また、リスク度合いに応じた操舵反力が、操舵角に応じた値となる。このため、例えば初期の操舵力が小さく、車両操作機器を切り増せば切り増す程、操舵反力が増加して、運転者にとって、リスクへ接近している状態を理解し易い操舵反力特性となる。
【0052】
(3)操舵アクチュエータは、車両操作機器の操舵による操舵トルクに応じた補助トルクを操舵伝達系に付加する。反力特性制御手段は、リスクが無い若しくはリスク度合いが所定値未満の場合には、反力特性調整手段が算出する操舵反力を固定若しくは所定値以下に抑える。
これによって、自車両周囲のリスクが検出されないか小さい場合は、車両操作機器の操舵角に対する操舵反力の特性を一定値に固定しておく。
これによって、車両周囲のリスクが小さい場合で運転者が車線変更などの積極的な操作をした場合には、通常のパワーステアリング装置の反力特性が得られる。これによって、運転者に不要なインフォメーションを与えて操舵違和感を与えることを極力防止することができる。
【0053】
(4)仮想走行軌跡は、自車両が走行中の車線の中央側に向かう走行軌跡である。そして、 走行中の車線の中央付近にむかって理想的な走行軌跡を描くような目標操舵角と実操舵角の偏差に応じて操舵反力を算出する。
自車両周囲にリスクが発生していて運転者の自由な操舵が拘束されているような場合に、運転者が車両操作機器の操舵をほんの少し緩めるだけで、車両が走行中の車線中央に向かって直ちに誘導される。これによって、レーンキープへの支援が行われる。
この場合には、走行区分線をリスクと認識して、確実に周囲のリスクから遠ざかるような自車両の走行軌跡を得ることができる。この結果、車両操作機器の操舵力の大きさだけでなく、車両操作機器の動きと車両挙動の両者からリスクの小さい方向を直感的に理解することができるようになる。
【0054】
(5)反力特性調整手段は、操舵反力の特性を決定するゲインを、車速が高いほど大きい値に変更する。
すなわち、車両操作機器の操舵角に対する操舵反力特性を設定するゲインを車速に応じて、車速が高いほど大きい値に設定する。これによって、車速が高く、車両操作機器の操作量から車両挙動のゲインが高い場合には、しっかりとした操舵反力を与えて車両挙動を抑える。逆に、低速で素早い車両操作機器の操作が必要な低速時には、小さめの操舵反力特性とする。これによって、運転しやすい車両特性を保った状態で、周囲のリスクを運転者に伝達することが可能となる。
また、操舵反力を発生している場合にも車速に変化に応じて操舵反力の特性を決定するゲインを、修正変更することで、車速に応じて車両挙動が不安定とならない操舵反力特性を常に維持することができる。
【0055】
(6)リスク算出手段は、自車両に対し左側領域と右側領域のリスク度合いを個別に算出する。そして、反力特性調整手段は、左側領域と右側領域の操舵反力の特性を個別に算出する。
これによって、左右のリスクに応じて、より適切にリスクを感知させることが可能となる。
(7)反力特性調整手段が算出した操舵反力に応じて、上記補助トルクを減少補正する。
これによって、リスクに応じた反力を伝達する際に、リスク度合いに応じて補助トルクを減少することで、よりリスクに応じた反力を運転者が伝達することが出来る。
また、操舵アシスト補正ゲインαと操舵反力ゲインkとを、それぞれ協調して修正する構成とすることで、通常のパワーステアリング制御と、走行中のリスクに対応した操舵反力制御とを連続的に滑らかに切り替えることができる構成となる。
【0056】
(8)反力特性調整手段は、操舵反力の特性を決定するゲインを、リスク度合いの変化に応じて補正し、リスク度合いが大きくなる方向に変化する場合には、上記ゲインを増加させる。
周囲リスクが大きく増加傾向となるような場合には、操舵反力特性を修正するようにしたため、周囲リスクが大きく増加傾向となり運転者がリスクに気づいていないと考えられるような場合には、操舵反力を通じてリスクを伝達することができるようになる。
【0057】
(変形例)
(1)上記実施形態実施例においては、前方カメラ10と車両前方へ向けた方レーザレーダ11による例を示した。車両側方や後方へ向けたカメラ10やレーザレーダ11などによる周囲認識装置を用いても良い。この場合には、リスク伝達をより確実に行うことが可能となる。
(2)必ずしも補正ゲインαを上記のように厳密に求めなくてもリスクに対応した操舵反力特性とすることは可能である。例えば補正ゲインαを0.5〜0の間で補正し、リスク演算部82aで算出したリスクポテンシャルRPの大きさが運転者に伝達できるようにしても良い。
【0058】
(3)上記実施形態では、車線逸脱を考慮して、自車両が走行中の車線の中央側に向かう走行軌跡を仮想走行軌跡としている。
自車両の走行前方の障害物などを考慮にいれて、周囲認識手段の検出結果に基づき、走行車線内の領域について障害物位置を除去した走行可能な領域を求めて、その走行可能な領域を走行するための、つまりリスクから離れた位置を走行するような自車両の仮想走行軌跡を設定する。例えば、その走行可能な領域の車幅方向中央側を走行する軌跡に設定する。そしてその仮想走行軌跡を描くようにするための目標操舵角を算出するようにしても良い。
【0059】
すなわち、目標操舵角算出手段が、リスクから離れる方向の位置を走行するような自車両の仮想走行軌跡を描くようにするための目標操舵角θrを算出する。そして、反力特性調整手段は、上記目標操舵角θrと実操舵角θとの偏差、及び上記リスク度合いkに応じて、操舵反力を算出する。
この場合には、障害物を回避するように操舵支援を行うこととなる。
【0060】
(4)反力特性調整手段は、操舵反力の特性を決定するゲインkを、上記目標操舵角と実操舵角との偏差に応じて増加するように補正しても良い。
すなわち、操舵反力特性を決定するゲインkは、上記目標操舵角と実操舵角の偏差に応じて上記操舵反力特性を決定するゲインも増加するように設定する。これによって、リスクの高い方向に車両操作機器を操作すればするほど操舵反力ゲインkが増加し、ある舵角以上で急激に操舵反力が立ち上がる特性とすることが出来る。例えば対向車のように相対速度が極めて大きくリスクが極めて高いと判断される場合には、瞬時に周囲リスクを運転者に伝達することが可能となる。
【0061】
(5)フリクション補償手段は、自車両に対する右方向及び左方向のリスク度合いに応じて、リスク度合いが高い方向に操舵された場合にだけ補償を行うようにしても良い。
すなわち、フリクション補償演算部は、右方向のリスクポテンシャルRPrと左方向のリスクポテンシャルRPlとを比較して、リスクの大きい方向を判定し、リスクが大きい方に操舵がされている場合にだけ、フリクション補償電流Idを電流制御部84に出力するようにしても良い。
【0062】
又は、操舵方向のリスク度合いがゼロ若しくは所定値以下の場合には、フリクション補償電流Idを電流制御部84に出力しないようにしても良い。
周囲リスクの発生しないような方向やリスクが小さい方向へ操舵しても、フリクション補償が行われないため、通常の操舵特性が得られるため、運転者の操舵違和感を抑えることができる。
(6)上記実施形態では、操舵角θに応じた値として偏差Δθ(=θr−θ)を使用している。上述の(10)式において、偏差Δθの代わりに操舵角θを使用しても良い。
【0063】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、上記第1実施形態と同様な装置などについては同一の符号を付して説明する。
本実施形態の基本構成は、上記第1実施形態と同様である。
図11に、本第2実施形態のコントロールユニット8での処理を示す。
図11から分かるように、ステップS110〜S140、およびS150〜S190については上記第1実施形態と同様である。
【0064】
すなわち、ステップS110〜S140において、自車速Vおよび障害物状況(自車両周囲に存在する障害物までの前後方向の相対距離D、相対速度Vrおよび相対角度β等)といった走行状態と、操舵トルクThおよび、操舵角θを読み込む。そして、図3に示すような操舵アシストマップを用いて通常のパワーステアリングシステムとしての操舵アシスト電流I1を算出する。また、(5)式、(6)式、(7)式を用いて外乱として入力されたトルクTdの推定を行う。さらに、推定した外乱トルクT^dをキャンセルするのに必要なフリクション制御電流Idを算出する。
【0065】
次いで、ステップS145において、ステップS120で読み込んだ操舵トルクの大小を判定する。なお、操舵速度が一定若しくは保舵時には、操舵トルクと操舵反力が略等しい。
そして、所定値以上の操舵トルクが発生し、運転者が既にステアリングホイール操作を行っていると判定した場合は、前回算出した値からの更新を行わない。すなわち、ステップS150における車両左右方向のリスクポテンシャルRPrおよびRPlの算出処理を遣らない。
【0066】
一方、ステップS145において、操舵トルクが所定値以下で、運転者がリスクが増加する方向へ積極的にステアリングホイール操作を行っていないと判断した場合は、ステップS150に移行して、車両左右方向のリスクポテンシャルRPrおよびRPlを更新し、次に運転者がリスク増加方向への操舵をした場合の操舵反力の付加を行う。
次いでステップS160〜S190において、車両左右方向のリスクポテンシャルRPrおよびRPlに応じた操舵反力ゲインと、自車両が走行車線中央に向かって誘導されるような目標操舵角θrと、目標操舵角θrと実操舵角θとの偏差Δθに、ステップS160で算出した操舵反力ゲインを乗じて操舵反力制御電流I2を算出する。さらに、操舵アシスト電流I1、操舵反力制御電流I2、フリクション補償電流Idとから、(7)式を用いてアクチュエータ駆動電流を算出する。
【0067】
(作用)
運転者がステアリングホイール操作を行っている場合には、車両周囲環境によるリスクポテンシャルが変動した場合であっても、操舵反力特特性の変動を抑制する。このため、運転者にとって自然な操舵反力特性を得ることが出来る。
また、大きなリスクが発生した状態から操舵反力特性が変動し、反力が小さくなる側へ操舵反力が変化した場合には、リスクの絶対値がまだ小さくなっていないにも関わらず運転者はリスクが減ったと勘違いしてさらに操舵してしまう可能性がある。しかし、本実施形態では、ステアリングホイール角に対する操舵反力特性を一定に保つことができるため、このような運転者の勘違いを少なくする。
図11に、本実施形態のタイムチャート例を示す。
実線が本第2実施形態の場合の遷移図である。リスクポテンシャルRPが変動しても操舵反力を発生している状態で、操舵反力ゲインkは一定の値となる。
【0068】
(本実施形態の効果)
(1)上記反力特性調整手段は、上記操舵反力の特性を決定するゲインを、操舵反力が発生していない間に修正変更し、操舵反力が発生している場合は固定値とする。
リスクが発生した状態での操舵の場合には、一定の操舵反力ゲインkとすることにより、運転操作以外の原因で操舵反力が勝手に変化しないように出来る。この結果、運転者がリスクを理解した状態で操舵反力が変化するような操舵違和感を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明に基づく実施形態に係る装置の概略構成図である。
【図2】本発明に基づく実施形態に係るコントロールユニットを示すブロック図である。
【図3】本発明に基づく実施形態に係る操舵アシスト演算部を示すブロック図である。
【図4】本発明に基づく実施形態に係るフリクション補償演算部を示すブロック図である。
【図5】本発明に基づく実施形態に係る操舵反力制御部を示すブロック図である。
【図6】本発明に基づく実施形態に係るリスクポテンシャルRP−操舵反力ゲインkの特性例を示す図である。
【図7】本発明に基づく第1実施形態に係るコントロールユニットの処理を説明する図である。
【図8】通常のEPS装置の舵角−操舵トルク特性を示す図である。
【図9】本発明に基づく実施形態に係る操舵反力の特性を示す図である。
【図10】本発明に基づく第2実施形態に係るコントロールユニットの処理を説明する図である。
【図11】本発明に基づく第2実施形態に係るタイムチャート例を示す図である。
【符号の説明】
【0070】
1R、1L 前輪(操向輪)
3 ステアリングホイール(車両操作機器)
7 操舵アクチュエータ
8 コントロールユニット
10 カメラ
10 前方カメラ(周囲認識手段)
11 レーザレーダ(周囲認識手段)
81 操舵アシスト演算部
81A 操舵アシスト演算部本体
81B アシスト補正部
82 操舵反力制御部
82a リスク演算部(リスク算出手段)
82b 目標操舵角演算部(目標操舵角算出手段)
82c 反力制御演算部(反力特性調整手段)
83 フリクション補償演算部(フリクション補償手段)
84 電流制御部
I アクチュエータ駆動電流
I1 操舵アシスト電流
I2 操舵反力制御電流
Id フリクション補償電流
k 操舵反力ゲイン
RP リスクポテンシャル
Td 外乱トルク
T^d 外乱トルク推定値
Th 操舵トルク
V 車速
α 操舵アシスト補正ゲイン
β 相対角度
θ 操舵角
θr 目標操舵角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者が操舵する車両操作機器を備え、その運転者の操舵に応じて操向輪が転舵する車両用操舵装置において、
自車両の走行状態および車両周囲の走行環境を検出する周囲認識手段と、周囲認識手段の検出結果に基づいて自車両周囲のリスク度合いを算出するリスク算出手段と、
リスク算出手段が算出するリスク度合い及び車両操作機器の操舵角に応じた、操舵反力の特性を算出する反力特性調整手段と、
上記車両操作機器の操舵角に対する操舵反力特性が、上記反力特性調整手段が算出した操舵反力の特性と一致若しくは近づくように制御する反力特性制御手段と、
車両操作機器に作用する運転者の操作力以外の外乱を補償するフリクション補償手段と
を備えることを特徴とする車両用操舵装置。
【請求項2】
フリクション補償手段は、自車両に対する右方向及び左方向のリスク度合いに応じて、リスク度合いが高い方向に操舵された場合にだけ補償を行うことを特徴とする請求項1に記載した車両用操舵装置。
【請求項3】
車両操作機器の操舵による操舵トルクに応じた補助トルクを操舵伝達系に付加する操舵アクチュエータを備え、
反力特性制御手段は、リスク算出手段が算出するリスク度合いに基づきリスクが無い若しくはリスク度合いが所定値未満の場合には、反力特性調整手段が算出する操舵反力を固定若しくは所定値以下に抑えることを特徴とする請求項1〜請求項2のいずれか1項に記載した車両用操舵装置。
【請求項4】
周囲認識手段の検出結果に基づき、リスクから離れる方向の位置を走行するような自車両の仮想走行軌跡を描くようにするための目標操舵角を算出する目標操舵角算出手段を備え、
上記反力特性調整手段は、上記目標操舵角と実操舵角との偏差、及び上記リスク度合いに応じて、上記操舵反力を算出することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載した車両用操舵装置。
【請求項5】
周囲認識手段の検出結果に基づき、自車両が走行中の車線の中央側に向かって走行するような自車両の仮想走行軌跡を描くようにするための目標操舵角を算出する目標操舵角算出手段を備え、
上記反力特性調整手段は、上記目標操舵角と実操舵角との偏差、及び上記リスク度合いに応じて、上記操舵反力を算出することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載した車両用操舵装置。
【請求項6】
上記反力特性調整手段は、操舵反力の特性を決定するゲインを、上記目標操舵角と実操舵角との偏差に応じて増加することを特徴とする請求項4又は請求項5に記載した車両用操舵装置。
【請求項7】
上記反力特性調整手段は、操舵反力の特性を決定するゲインを、車速が高いほど大きい値に変更することを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載した車両用操舵装置。
【請求項8】
上記反力特性調整手段は、操舵反力の特性を決定するゲインを、リスク度合いの変化に応じて補正し、リスク度合いが大きくなる方向に変化する場合には、上記ゲインを増加させることを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載した車両用操舵装置。
【請求項9】
上記反力特性調整手段は、上記操舵反力の特性を決定するゲインを、操舵反力が発生していない間に変更し、操舵反力が発生している場合は変更しないことを特徴とする請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載した車両用操舵装置。
【請求項10】
リスク算出手段は、自車両に対し左側領域と右側領域のリスク度合いを個別に算出し、
反力特性調整手段は、左側領域と右側領域の操舵反力の特性を個別に算出することを特徴とする請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載した車両用操舵装置。
【請求項11】
車両操作機器の操舵による操舵トルクに応じて補助トルクを操舵伝達系に付加する操舵アクチュエータを備え、
反力特性調整手段が算出した操舵反力に応じて上記補助トルクを減少補正することを特徴とする請求項1〜請求項10のいずれか1項に記載した車両用操舵装置。
【請求項12】
運転者が操舵する車両操作機器を備え、その運転者の操舵に応じて操向輪が転舵する車両用操舵方法において、
運転者が受ける車両操作機器からの操舵反力と操作機器の動作状態に基づいて車両操作機器に作用する運転者の操作力以外の外乱を補償しつつ、自車両周囲のリスク度合い及び車両操作機器の操舵角に応じた操舵反力を操舵伝達系に付加することで、車両操作機器の操舵角に対する操舵反力特性を、上記反力特性調整手段が算出した操舵反力の特性と一致若しくは近づくようにすることを特徴とする車両用操舵方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−30505(P2010−30505A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−196435(P2008−196435)
【出願日】平成20年7月30日(2008.7.30)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】