説明

電動パワーステアリング装置

【課題】二重制御系統を備えた電動パワーステアリング装置において、サブマイクロコンピュータの実装を必要としない電動パワーステアリング装置を提供する。
【解決手段】制御装置5A,5Bを2系統有し、各制御装置5A,5Bは、相手系統の故障を推定する故障推定部56,66を備え、故障推定部56,66は、電動モータ1a,1bの出力値が目標指令値に収束する時間Teを監視し、この収束時間Teが基準時間γよりも長い場合に、他系の制御装置の故障を推定するものであり、他系の制御装置の故障を推定した正常側の制御装置は、正常側の制御装置の制御周期T0を短くしかつ制御ゲインK0を上げる制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリングホイールに加えられる操舵トルクに基づいて電動モータを制御することによって、操舵トルクに応じた操舵補助力を発生させる電動パワーステアリング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ステアリングホイール(操舵部材)に加えられる操舵トルクと車速とを検出し、その操舵トルク信号と速度信号とをEPSモータ制御回路へ送り、EPSモータ制御回路で、これらの信号から求められる操舵トルクと車速とに対応したモータ駆動電流を電動モータに流すようにした電動パワーステアリング装置が知られている。これにより、操舵トルク信号や速度信号に基づいて、適切な操舵補助制御を行うことができる。
【0003】
EPSモータ制御回路では、操舵トルク信号や速度信号に基づいて目標電流信号が生成され、目標電流信号と電動モータに流れている電流信号との偏差が演算される。EPSモータ制御回路は、この偏差に対するPI演算を行うことにより、指示電圧を生成し、この指示電圧に応じたデューティ比を有するPWM(Pulse Width Modulation)信号を生成する。このPWM信号が駆動インバータに供給されることにより、電動モータがPWM駆動される。
【0004】
従来の電動パワーステアリング装置では、電動モータ、駆動インバータ、PI制御回路を二系統設置し、一方が故障しても他方が正常であれば、電動パワーステアリング装置が異常なく動作するようにしたものがあった。
この従来例では、電動モータ、駆動インバータ、PI制御回路をそれぞれ二重制御系統で構成している。2つのPI制御回路はそれぞれマイクロコンピュータ(メインマイクロコンピュータ)を内蔵している。さらに電動パワーステアリング装置は、2つのメインマイクロコンピュータを監視するための1つのサブマイクロコンピュータを備える。
【0005】
各メインマイクロコンピュータは、平常時サブマイクロコンピュータからの指示により制御ゲインを半分にすることにより、電動モータを半分の電力で駆動するようにしている。すなわち電動モータは、両メインマイクロコンピュータからの半分ずつの駆動力を受けて、全体としてフル駆動される。
ここで、サブマイクロコンピュータが1つのメインマイクロコンピュータの故障を検知すると、他の正常なメインマイクロコンピュータに対して、その制御ゲインを2倍に上げるように指示する。このようにして、電動パワーステアリング装置そのものの信頼性を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8-93680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前述の二重制御系統を備えた電動パワーステアリング装置では、2つのメインマイクロコンピュータに加えて、サブマイクロコンピュータが必要である。このためマイクロコンピュータの数が増えて、部品点数の増加、コスト増に結びつく。また現状では3本のプログラムを必要とし、開発及びメンテナンス工数の増加につながる。
本発明は、かかる実情に鑑み、サブマイクロコンピュータの実装を必要とせずに、プログラムの容量も少なくて済む二重制御系統の電動パワーステアリング装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、操舵補助力を発生するための電動モータと、操舵トルクを検出する操舵トルク検出手段と、操舵トルク検出手段によって検出される操舵トルクに基づいて、電動モータを駆動制御するEPSモータ制御手段とを備え、EPSモータ制御手段は、独立して電動モータを駆動制御するコンピュータを含む制御装置を2系統有し、各制御装置は、電動モータの目標指令値を定める目標指令値設定部と、電動モータの出力を検出する出力検出部と、相手系統の故障を推定する故障推定部とを備え、制御装置は、所定の制御周期と所定の制御ゲインを設定して、電動モータの出力値が目標指令値に収束するようにフィードバック制御するものであり、故障推定部は、電動モータの出力値が目標指令値に収束する時間を監視し、この収束時間が基準時間よりも長い場合に、他系の制御装置の故障を推定するものであり、他系の制御装置の故障を推定した正常側の制御装置は、正常側の制御装置の制御周期を短くするか若しくは制御ゲインを上げる、又は制御周期を短くしかつ制御ゲインを上げる制御を行う電動パワーステアリング装置に係るものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、どちらか一方の制御装置が故障したと推定された場合、正常側の制御装置は、負荷比率が低下しないように、その制御周期を短くするか若しくは制御ゲインを上げるという単独制御モードに入る。正常側の制御装置に余裕がある状態では2系統駆動時と同等のモータアシストが実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態における電動パワーステアリング装置の概略構成図である。
【図2】EPSモータ制御部5内の各機能とそのつながりを示すブロック図である。
【図3】電動モータへの出力値が目標指令値に収束する収束時間Teを測定する収束判定処理を示すフローチャートである。
【図4】収束時間Teが基準時間よりも長い場合に他系の制御装置の故障を推定する手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明に係る電動パワーステアリング装置の一実施形態を示す全体構成図である。
電動パワーステアリング装置は、車両を操向するための操舵部材としてのステアリングホイール6を備えている。運転者から作用される操舵トルクは、このステアリングホイール6を介して入力軸7aと出力軸7bとを有するステアリングシャフト7に伝達される。入力軸7aの一端がステアリングホイール6に連結されている。
【0012】
入力軸7aと出力軸7bとは、トーションバーTBを介して同一軸上で相対回転可能に連結されている。出力軸7bの途中部は減速機構4に結合されている。トーションバーTBには、トーションバーTBの捩れ角を検出することにより操舵トルクを検出するトルクセンサ2が装着されている。トルクセンサ2は、検出した操舵トルクを、入力軸7a及び出力軸7b間に介装したトーションバーTBの捩れ角変位に変換し、この捩れ角変位をポテンショメータなどで検出するセンサである。このトルクセンサ2から出力されるトルク検出信号は、EPSモータ制御部5に入力される。
【0013】
なおトルクセンサ2のトルク検出信号の値は、ステアリングホイールが右方向(正転方向)に操舵される場合には零以上の値となり、ステアリングホイールに加えられる操舵トルクが大きいほど大きくなるように変化する。また、ステアリングホイールが左方向(逆転方向)に操舵される場合には負の値となり、ステアリングホイールに加えられる操舵トルクの絶対値が大きいほど、小さく(その絶対値が大きく)なるように変化する。
【0014】
出力軸7bから伝達される操舵力は、ユニバーサルジョイント8を介してロアシャフト9に伝達され、さらに、ユニバーサルジョイント10を介してピニオンシャフト11に伝達される。このピニオンシャフト11に伝達された操舵力はステアリングギヤ12を介してラック軸13に伝達され、図示しない転舵輪をターンさせる。ステアリングギヤ12は、ピニオンシャフトに連結されたピニオンとこのピニオンに噛合するラックとを有するラックアンドピニオン形式に構成され、ピニオンに伝達された回転運動をラック軸13で直進運動に変換するものである。
【0015】
転舵輪の回転速度は車速センサ3によって検出される。車速センサは、例えば転舵輪のホーイールの円周に一定角度ごとに取り付けられた磁性体の目印を磁気的に検出して回転速度を検出するものであり、この回転速度に基づいて車両の速度信号を出力する。速度信号はパルス信号であり、その周波数は車速が0であれば0、車速が大きくなるほど大きな値となる。
【0016】
減速機構4には、2台の電動モータ1a,1b(ブラシレスモータ)が取り付けられており、この電動モータ1a,1bの出力トルク和によって、減速機構4を介して操舵補助力が与えられる。
電動モータ1a,1bは、EPSモータ制御部5によって回転駆動される。EPSモータ制御部5には、トルクセンサ2で検出されたトルク検出信号とともに、車速センサ3で検出された速度信号が入力され、これらの入力信号に基づいて電動モータ駆動電流が算出され、電動モータ1a,1bにそれぞれ出力される。これにより、運転者の操舵操作に応じた操舵補助力を発生させるようになっている。
【0017】
図2は、EPSモータ制御部5内の各機能とそのつながりを示すブロック図である。この実施形態では、EPSモータ制御部5内の各回路51〜57,61〜67は、演算回路若しくは電力回路で構成されている。
EPSモータ制御部5は、各電動モータ1a,1bを独立して駆動制御する2系統の制御装置5A,5Bによって構成される。制御装置5A,5Bは、それぞれ独立したコンピュータによって駆動される。
【0018】
制御装置5Aは、トルクセンサ2のトルク検出信号及び車速センサ3の速度信号を入力として、電動モータ1aの目標モータ電流を定める目標指令値設定部51と、PI制御を行うPI制御回路52と、電動モータ1aを駆動するための電力信号を出力するインバータ駆動回路53とを備える。
さらに、制御装置5Aは、目標指令値の信号波形収束時間を計測する信号波形収束時間計測部54と、相手系統の故障を推定する他方故障推定部55と、PI制御回路52の制御周期、制御ゲインを設定する制御周期・制御ゲイン設定部56と、電動モータ1aに流れる出力電流を検出する出力検出部57とを備えている。
【0019】
一方、他の系統に係る制御装置5Bは、トルクセンサ2のトルク検出信号及び車速センサ3の速度信号を入力として、電動モータ1bの目標モータ電流を定める目標指令値設定部61と、PI制御を行うPI制御回路62と、電動モータ1aを駆動するための電力信号を出力するインバータ駆動回路63とを備える。
さらに、制御装置5Bは、目標指令値の信号波形収束時間を計測する信号波形収束時間計測部64と、相手系統の故障を推定する他方故障推定部65と、PI制御回路62の制御周期、制御ゲインを設定する制御周期・制御ゲイン設定部66と、電動モータ1bに流れる出力電流を検出する出力検出部67とを備えている。
【0020】
制御装置5Aも制御装置5Bも同一構成であるので、以下、制御装置5Aの構成及び動作を主として説明する。
目標指令値設定部51には、トルクセンサ2のトルク検出信号の電圧値(トルク信号電圧値という)Thと、電圧値に変換された車速センサ3の速度値(車速値という)Vが入力される。
【0021】
目標指令値設定部51は、内蔵メモリに記憶しているマップを利用して、トルク信号電圧値Thと車速値Vに応じた目標指令値を算出し出力する。なお目標指令値の単位は、出力検出部57が検出した電動モータ1aに流れる電流値と比較演算をするので、電値流に換算しておく。
目標指令値は、電動モータ1aに流れる電流値との差ΔIがとられ、この差がPI制御回路52に入力される。PI制御回路52は、この差ΔIをゼロにするように電動モータ1aに流れる出力電流値をフィードバック比例演算・微分演算をするものである。
【0022】
PI制御回路52にて比例演算・微分演算された結果出力される出力電流値は、インバータ駆動回路53に入力され、ここで出力電流値に相当するデューティ比を有するPWM信号が生成され、電動モータ1aに供給される。
PI制御回路52は、電動モータ1a,1bの互いの負荷比率が等しくなるように、所定の制御周期ごとに、かつ所定の制御ゲインによりPI制御演算を行っている。ここで「負荷比率」とは各電動モータ1a,1bから減速機構4を通してステアリング系に入力されるパワーの比率をいう。
【0023】
この「所定の制御周期」は、もし制御装置5Aのみで電動モータ1aを駆動し、制御装置5Bで電動モータ1bを駆動しない場合(これを「単独制御モード」という)の制御装置5Aの制御周期をT0とすれば、その2倍(周波数に換算して0.5倍)の周期2T0に設定される。またこの「所定の制御ゲイン」は、単独制御モードの制御装置5AのPI制御のゲインをK0とすれば、その半分のゲインK0/2に設定される。
【0024】
制御装置5BのPI制御回路62も同様に、電動モータ1a,1bの互いの負荷比率が等しくなるように、所定の制御周期ごとに、かつ所定の制御ゲインによりPI制御演算を行っている。「所定の制御周期」は、もし制御装置5Bのみで電動モータ1bを駆動し、制御装置5Aで電動モータ1aを駆動しない場合(これを「単独制御モード」という)の制御装置5Bの制御周期をT0とすれば、その2倍の周期2T0に設定される。またこの「所定の制御ゲイン」は、単独制御モードの制御装置5BのPI制御のゲインをK0とすれば、その半分のゲインK0/2に設定される。
【0025】
したがって、制御装置5A及び制御装置5Bの両方で電動モータ1a,1bを駆動する場合(これを「通常制御モード」という)、制御装置5Aの制御周期と制御装置5Bの制御周期とをあわせて、T0の制御周期で制御が行われることになる。すなわち一方の制御周期内に他方が割り込んでくるから、見かけ上、制御周期が半分に(2T0→T0)なるのである。
【0026】
また通常制御モードでは、制御装置5Aの制御ゲインと制御装置5Bの制御ゲインとをあわせて、2倍の(K0/2→K0)制御ゲインで制御が行われることになる。
結局、EPSモータ制御部5を1つの電動モータを独立して駆動制御する1系統の制御装置によって構成されているとみなせば、制御周期T0かつ制御ゲインK0で制御が行われているのと同じことになる。
【0027】
次に、制御装置5A,5Bの信号波形収束時間計測部54,64によって行われる、電動モータ1aに流れる電流が目標指令値に収束する収束時間Teを測定する収束判定処理を、フローチャート(図3)を用いて説明する。なお信号波形収束時間計測部54も信号波形収束時間計測部64も収束判定処理は同一手順であるので、以下、信号波形収束時間計測部54の動作を主として説明する。
【0028】
まず収束時間Teを測定中であることを示す測定フラグを0にし(ステップS1)、測定フラグの状態を判定する(ステップS2)。最初は測定フラグ=0であるから、ステップS3に移り、出力検出部57が検出した電動モータ1aに流れる電流値(トルクに換算するので以下「トルク出力値」という)が、前回の制御周期で測定したトルク出力値からどれだけ変化しているかを調べる。もしトルク出力値の変化分が閾値αを超えるなら、トルク出力値の変化が大きく、信号波形収束時間は長いとみなして、測定フラグを1に変更し(ステップS4)、内蔵のタイマをスタートさせる(ステップS5)。そしてトルク出力値の変化分を「偏差D」として、メモリ54aに格納する(ステップS6)。
【0029】
ステップS3でトルク出力値の変化分が閾値α以下ならばトルク出力値の変化は小さいとみなして、ステップS2に戻り、ステップS2→S3を繰り返す。このように閾値αは、トルク出力値が安定しているかどうかを見るための閾値である。
ステップS6で偏差Dをメモリ54aに格納すると、ステップS2に戻り、測定フラグの状態を判定する。今度は測定フラグ=1になっているから、ステップS7に移り、偏差Dを閾値βと比較する。閾値βは変化していたトルク出力値が収束してきたかどうかを判定するための閾値である。β<αが成り立つ。
【0030】
ステップS7で偏差Dがβより大きければ、偏差Dはまだ収束に達していないとみなして、ステップS11に行きトルク出力値の変化分である「偏差D」を再度測定し、メモリ54aに上書きして、ステップS2に戻る。
ステップS7で偏差Dが閾値β以内に収まってきたと判定されれば、信号波形収束時間の測定を停止し、測定フラグを0とし(ステップS8)、タイマをストップし(ステップS9)、ストップした時点のタイマの値を読み込み、これを「収束時間Te」として(ステップS10)、メモリ54aに格納する。
【0031】
以上のように、前回の制御周期で測定したトルク出力値からの変化分が閾値αを超えた時点でタイマをスタートさせて、同変化分が閾値β(β<α)以下になるまでの収束時間Teを測定することができる。
次に、制御装置5A,5Bの他方故障推定部55,65によって行われる、収束時間Teが基準時間よりも長い場合に他系の制御装置の故障を推定する手順を、フローチャート(図4)を用いて説明する。なお他方故障推定部55も他方故障推定部65も故障判定処理は同一手順であるので、以下、他方故障推定部55の動作を主として説明する。
【0032】
他方故障推定部55は、測定フラグが1になっているかどうかを確認する(ステップT1)。測定フラグが1になっていれば、収束時間Teを新たに測定中なので故障判定処理は行わない。測定フラグが0になっていれば、すでに測定された収束時間Teがメモリ54aに格納されているので、その収束時間Teを取得し、収束時間Teが閾値γを超えているかどうかを判定する(ステップT2)。閾値γを超えていれば、他方の制御装置5Bのコンピュータが故障し、PI制御回路62が正常に機能していないと判断する。つまり閾値γは他方の制御装置5Bのコンピュータが正常に動作していれば、トルク出力値が通常収束する時間に設定される。
【0033】
ステップT2で、収束時間Teが閾値γを超えていれば、トルク出力値の収束に時間がかかっているので、他方の制御装置5Bのコンピュータの動作に異常があると推定する(ステップT3)。このときは、制御装置5Aのみで電動モータ1aを制御する単独制御モードに切り替える。すなわち、制御周期・制御ゲイン設定部56に命令を出して、PI制御回路52の制御周期、制御ゲインを再度設定する。設定内容は、電動モータ1a負荷比率を上げるように、制御周期を短くし(ステップT4)、かつ制御ゲインを上げる(ステップT5)という制御を行う。
【0034】
例えば、制御装置5Aの制御周期2T0をその半分の”T0”にし、かつ制御ゲインK0/2をその2倍の”K0”にする。すなわち、通常制御モードから、単独制御モードに移行するのである。これによって、EPSモータ制御部5を1つの電動モータ1aを独立して1系統の制御装置5Aによって1つの電動モータを、制御周期T0かつ制御ゲインK0で制御しているのと同じ構成になる。
【0035】
以上に説明してきたように、収束時間Teが閾値γを超えていれば、他方の制御装置5Bのコンピュータの動作に異常があると推定している。
ところで、自己の制御装置5Aに異常があり、他方の制御装置5Bのコンピュータの動作が正常であることも考えられる。このときは、自己の制御装置5Aは、収束判定(図3)や故障推定(図4)の動作を行うことができないが、制御装置5Bの他方故障推定部65が同一手順を用いて収束判定(図3)や故障推定(図4)を行っている。したがって、収束時間Teが閾値γを超えていれば、制御装置5Bは、制御装置5Aのコンピュータの動作に異常があると推定して、電動モータ1bの負荷比率を上げるように、制御装置5Bの制御周期を短くするか若しくは制御ゲインを上げるという制御、又は制御周期を短くしかつ制御ゲインを上げるという制御を行う。
【0036】
このように、制御装置5Aは、収束時間Teが閾値γを超えていれば他方の制御装置5Bのコンピュータの動作に異常があると推定し、制御装置5Bは、収束時間Teが閾値γを超えていれば制御装置5Aのコンピュータの動作に異常があると推定する。すなわち、他方の制御装置5B又は制御装置5Aの故障を、自己の制御装置5A又は制御装置5Bの判断によってのみ推定するのが本発明の特徴である。このため、[背景技術]の欄に説明したような「サブマイクロコンピュータ」の存在を必要としない、2つのメインコンピュータのみによる二重制御系統の電動パワーステアリング装置を実現することができる。
【0037】
以上で、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の実施は、の形態に限定されるものではない。例えば、実施形態においては、図4で他方の故障が推定された場合に、制御周期を短くし(ステップT4)、かつ制御ゲインを上げる(ステップT5)という制御を両方行ったが、制御周期を短くする制御若しくは制御ゲインを上げるという制御の一方のみを行うようにしてもよい。この場合でも、電動モータ1a若しくは1bの負荷比率を向上させることができる。その他、本発明の範囲内で種々の変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0038】
1a,1b…電動モータ、2…トルクセンサ、3…車速センサ、5…EPSモータ制御回路、5A…制御装置、5B…制御装置、6…ステアリングホイール、51,61…目標指令値設定部、52,62…PI制御回路、53,63…インバータ駆動回路、54,64…信号波形収束時間計測部、55,65…他方故障推定部、56,66…制御周期・制御ゲイン設定部、57,67…出力検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操舵補助力を発生するための電動モータと、操舵トルクを検出する操舵トルク検出手段と、前記操舵トルク検出手段によって検出される操舵トルクに基づいて、前記電動モータを駆動制御するEPSモータ制御手段とを備え、前記EPSモータ制御手段は、
独立して前記電動モータを駆動制御するコンピュータを含む制御装置を2系統有し、前記各制御装置は、前記電動モータの目標指令値を定める目標指令値設定部と、前記電動モータの出力を検出する出力検出部と、相手系統の故障を推定する故障推定部とを備え、
前記制御装置は、所定の制御周期と所定の制御ゲインを設定して、前記電動モータの出力値が前記目標指令値に収束するようにフィードバック制御するものであり、
前記故障推定部は、前記電動モータの出力値が目標指令値に収束する時間を監視し、この収束時間が基準時間よりも長い場合に、他系の制御装置の故障を推定するものであり、
前記他系の制御装置の故障を推定した正常側の制御装置は、正常側の制御装置の制御周期を短くするか若しくは制御ゲインを上げる、又は制御周期を短くしかつ制御ゲインを上げる制御を行う、電動パワーステアリング装置。
【請求項2】
前記正常側の制御装置は、他系の制御装置の故障を推定した場合、正常側の制御装置の制御周期を1/2倍にし、かつ制御ゲインを2倍にする、請求項1に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項3】
前記電動モータは前記2系統の制御装置によりそれぞれ駆動される2台の電動モータにより構成される、請求項1又は請求項2に記載の電動パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−86718(P2013−86718A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−230806(P2011−230806)
【出願日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】