説明

車両用操舵装置

【課題】転舵輪側からタイロッドに入力する高周波振動を新規な方法で推定して操作部材に伝達することができ、操舵感が向上する車両用操舵装置を提供する。
【解決手段】ラックハウジング18に加速度センサ30が取り付けられている。FFT処理部52Aは、加速度センサ30の出力信号を、時間領域信号から周波数領域信号に変換する。逆入力振動成分抽出部52Bは、FFT処理部52Aによって得られた周波数領域信号から、周波数fが所定範囲内(f≦f≦f(f>f))にあり、かつパワー密度ρが所定範囲内(ρ≦f≦ρ(ρ>ρ))にある信号を抽出する。IFFT処理部52Cは、逆入力振動成分抽出部52Bによって抽出された周波数領域信号を時間領域信号(逆入力振動推定値)に変換する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両用操舵装置に関する。車両用操舵装置の一例は、電動パワーステアリング装置である。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、電動パワーステアリング装置として、タイロッド推力センサによってタイロッド推力を検出し、検出されたタイロッド推力を用いて電動モータを制御するものが開示されている。
また、下記特許文献2には、ステアバイワイヤ方式の操舵装置において、転舵軸に振動センサを取り付け、振動センサによって検出される振動を加味して操舵ハンドルへ加えるべき反力を求めるようにしたものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭60−259570号公報
【特許文献2】特開平10−310075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この発明の目的は、転舵輪側からタイロッドに入力する高周波振動を新規な方法で推定して操作部材に伝達することができ、操舵感が向上する車両用操舵装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するための請求項1記載の発明は、転舵輪(4)にタイロッド(15)を介して転舵のための力を伝達する転舵軸(13)と、車体に取り付けられ、前記転舵軸を軸方向に往復移動可能に支持するハウジング(18)と、前記ハウジングまたは前記タイロッドに取り付けられた加速度センサ(30)と、前記加速度センサの出力信号に基づいて、前記転舵輪側から前記タイロッドに入力する逆入力振動を推定する逆入力振動推定手段(52)と、前記逆入力振動推定手段によって推定された逆入力振動を、車両の操向のために操作される操舵部材に伝達させる逆入力振動伝達手段(6)とを含み、前記逆入力振動推定手段は、前記加速度センサの出力信号を、時間領域信号から周波数領域信号に変換するFFT処理手段(52A)と、前記FFT処理手段によって得られる周波数領域信号から、周波数が所定範囲内にあり、かつパワー密度が所定範囲内にある周波数領域信号を抽出する抽出手段(52B)と、前記抽出手段によって抽出された周波数領域信号を時間領域信号に変換することにより、前記加速度センサの出力信号に含まれている逆入力振動成分を抽出するIFFT処理手段(52C)とを含む、車両用操舵装置である。なお、括弧内の英数字は、後述の実施形態における対応構成要素等を表すが、むろん、この発明の範囲は当該実施形態に限定されない。以下、この項において同じ。
【0006】
この発明では、加速度センサの出力信号に基づいて、転舵輪側からタイロッドに入力する逆入力振動が推定され、推定された逆入力振動が車両の操向のために操作される操舵部材に伝達される。これにより、運転者に路面状況を伝えることができるようになるので、操舵感が向上する。
加速度センサは、転舵軸を軸方向に往復移動可能に支持するハウジングまたはタイロッドに取り付けられている。加速度センサがハウジングに取り付けられている場合には、ハウジングはタイロッドに比べて動きが小さいため、加速度センサのハーネスが損傷しにくくなる。
【0007】
前記逆入力振動伝達手段は、前記転舵軸に操舵補助力を与える電動モータ(21)と、前記逆入力振動推定手段によって推定された逆入力振動を用いて、前記電動モータの目標電流値を設定する目標電流値設定手段(51〜54)と、前記目標電流値設定手段によって設定された目標電流値に基づいて前記電動モータを制御する制御手段(55,56)とを含むものであってもよい。
【0008】
また、前記逆入力振動伝達手段は、前記操舵部材に操舵反力を与えるための反力モータと、前記逆入力振動推定値手段によって推定された逆入力振動を用いて、前記反力モータの目標電流値を設定する目標電流値設定手段と、前記目標電流値設定手段によって設定された目標電流値に基づいて前記反力モータを制御する制御手段を含むものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、この発明の一実施形態に係る電動パワーステアリング装置(車両用操舵装置の一例)の概略構成を示す模式図である。
【図2】図2は、ECUの電気的構成を概略的に示すブロック図である。
【図3】図3は、基本目標電流値の設定例を示す模式図である。
【図4】図4Aは加速度センサの出力信号を示す模式図であり、図4BはFFT処理部によって得られた周波数領域信号を示す模式図であり、図4Cは逆入力振動抽出部によって抽出された、逆入力振動成分に対応する周波数領域信号を示す模式図であり、図4Dは、IFFT処理部によって得られた、逆入力振動成分に対応する時間領域信号を示す模式図である。
【図5】図5は、実験により測定されたタイロッド加速度とラックハウジング加速度を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下では、この発明の実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、この発明の一実施形態に係る電動パワーステアリング装置(車両用操舵装置の一例)の概略構成を示す模式図である。
電動パワーステアリング装置1は、操舵部材としてのステアリングホイール2が連結されたステアリングシャフト3と、ステアリングホイール2の回転に連動して転舵輪4を転舵する転舵機構5と、運転者の操舵を補助するための操舵補助機構6とを備えている。
【0011】
ステアリングシャフト3は、直線状に延びている。ステアリングシャフト3は、第1の自在継手7を介して中間軸8に連結されている。中間軸8は、第2の自在継手9を介して転舵機構5(具体的には、後述するピニオン軸12)に連結されている。したがって、ステアリングホイール2は、ステアリングシャフト3、第1の自在継手7、中間軸8および第2の自在継手9を介して、転舵機構5に機械的に連結されている。
【0012】
ステアリングシャフト3は、ステアリングホイール2に連結された入力軸3aと、中間軸8に連結された出力軸3bとを含む。入力軸3aと出力軸3bとは、トーションバー10を介して同一軸線上で相対回転可能に連結されている。すなわち、ステアリングホイール2が回転されると、入力軸3aおよび出力軸3bは、互いに相対回転しつつ同一方向に回転するようになっている。
【0013】
ステアリングシャフト3の周囲には、トルクセンサ11が配置されている。トルクセンサ11は、入力軸3aおよび出力軸3bの相対回転変位量に基づいて、ステアリングホイール2に与えられた操舵トルクTを検出する。トルクセンサ11の出力信号は、ECU(電子制御ユニット:Electronic Control Unit)40に入力される。
転舵機構5は、ピニオン軸12と、転舵軸としてのラック軸13とを含む。ラック軸13は、車両の左右方向に沿って直線状に延びている。ラック軸13は、車体に固定されるラックハウジング18内に図示しない複数の軸受を介して軸方向に直線往復移動可能に支持されている。ラック軸13の各端部は、それぞれ、ラックハウジング18の対応する端部から突出している。ラック軸13の各端部は、それぞれ、ボールジョイント14を介して、タイロッド15の一方の端部と連結されている。各タイロッド15の他方の端部は、それぞれ、ナックルアーム16を介して、転舵輪4に連結されている。
【0014】
各ボールジョイント14は、それぞれ、筒状のベローズ17内に収容されている。各ベローズ17は、それぞれ、ラックハウジング18の端部からタイロッド15まで延びている。各ベローズ17の一端部および他端部は、それぞれ、ラックハウジング18の端部およびタイロッド15に取り付けられている。
ピニオン軸12は、第2の自在継手9を介して中間軸8に連結されている。ピニオン軸12の先端部には、ピニオン12aが連結されている。ラック軸13の軸方向の中間部には、ピニオン12aに噛み合うラック13aが形成されている。このラック13aとピニオン12aとからからなるラックアンドピニオン機構によって、ステアリングギヤが構成されている。このステアリングギヤによって、ピニオン軸12の回転がラック軸13の軸方向移動に変換される。ラック軸13を軸方向に移動させることによって、転舵輪4を転舵することができる。
【0015】
ステアリングホイール2が操舵(回転)されると、この回転が、ステアリングシャフト3および中間軸8を介して、ピニオン軸12に伝達される。そして、ピニオン軸12の回転は、ステアリングギヤ12a,13aによって、ラック軸13の軸方向移動に変換される。これにより、転舵輪4が転舵される。
操舵補助機構6は、操舵補助用の電動モータ21と、電動モータ21の出力トルクを転舵機構5に伝達するための減速機構22とを含む。減速機構22は、ウォーム軸23と、このウォーム軸23に噛み合うウォームホイール24とを含むウォームギヤ機構からなる。ウォーム軸23は電動モータ21によって回転駆動される。また、ウォームホイール24は、ステアリングシャフト3とは同方向に回転可能に連結されている。
【0016】
電動モータ21によってウォーム軸23が回転駆動されると、ウォームホイール24が回転駆動され、ステアリングシャフト3が回転する。そして、ステアリングシャフト3の回転は、中間軸8を介してピニオン軸12に伝達される。ピニオン軸12の回転は、ラック軸13の軸方向移動に変換される。これにより、転舵輪4が転舵される。すなわち、電動モータ21によって、ウォーム軸23を回転駆動することによって、転舵輪4が転舵されるようになっている。
【0017】
ラックハウジング18の外面には、加速度センサ30が取り付けられている。加速度センサ30のハーネス31は、ECU40に接続されている。加速度センサ30は、ラックハウジング18の加速度(ラックハウジング加速度α)を検出する。加速度センサ30は、タイロッド15に転舵輪4側から入力される振動(以下、「逆入力振動」という)を推定するために設けられている。
【0018】
ECU40には、加速度センサ30の出力信号が入力される。また、ECU40には、車速センサ26の出力信号も入力される。ECU40は、トルクセンサ11の出力信号に基づいて演算される操舵トルクT、車速センサ26によって検出される車速V、加速度センサ30の出力信号に基づいて推定される逆入力振動等に基づいて、電動モータ21を制御する。
【0019】
図2は、ECUの電気的構成を概略的に示すブロック図である。
ECU40は、電動モータ21を制御するためのマイクロコンピュータ(モータ制御用マイクロコンピュータ)41と、マイクロコンピュータ41によって制御され、電動モータ21に電力を供給する駆動回路(インバータ回路)42と、電動モータ21に流れるモータ電流(実電流値)Iを検出する電流検出回路43とを含んでいる。
【0020】
マイクロコンピュータ41は、CPUおよびメモリ(ROM,RAMなど)を備えており、所定のプログラムを実行することにより、複数の機能処理部として機能するようになっている。この複数の機能処理部には、基本目標電流値設定部51と、逆入力振動推定部52と、目標電流補正値設定部53と、補正値加算部54と、偏差演算部55と、PI制御部56と、PWM制御部57とが含まれる。
【0021】
基本目標電流値設定部51は、トルクセンサ11によって検出される操舵トルクTと車速センサ26によって検出される車速Vとに基づいて、基本目標電流値Ioを設定する。検出操舵トルクTに対する基本目標電流値Ioの設定例は、図3に示されている。検出操舵トルクTは、例えば右方向への操舵のためのトルクが正の値にとられ、左方向への操舵のためのトルクが負の値にとられている。また、基本目標電流値Ioは、電動モータ21から右方向操舵のための操舵補助力を発生させるべきときには正の値とされ、電動モータ21から左方向操舵のための操舵補助力を発生させるべきときには負の値とされる。基本目標電流値Ioは、検出操舵トルクTの正の値に対しては正をとり、検出操舵トルクTの負の値に対しては負をとる。検出操舵トルクTが−T1〜T1(たとえば、T1=0.4N・m)の範囲(トルク不感帯)の微小な値のときには、基本目標電流値Ioは零とされる。また、基本目標電流値Ioは、車速センサ26によって検出される車速Vが大きいほど、その絶対値が小さくなるように設定されるようになっている。これにより、低速走行時には大きな操舵補助力を発生させることができ、高速走行時には操舵補助力を小さくすることができる。
【0022】
逆入力振動推定部52は、加速度センサ30によって検出されるラックハウジング加速度αに基づいて、タイロッド15に入力される逆入力振動を推定するものである。タイロッド15に入力される逆入力振動は、10[Hz]〜100[Hz]程度の高い周波数を有している。
ラック軸13は軸受(図示略)を介してラックハウジング18に支持されているため、ラック軸13に連結されたタイロッド15に加えられた軸方向荷重は、軸受を介してラックハウジング18にも伝達される。したがって、ラックハウジング18に取り付けられた加速度センサ30の出力信号には、タイロッド15に加えられた軸方向荷重に応じた加速度が現われると考えられる。
【0023】
そこで、本発明者は、次のような実験を行った。つまり、ラックハウジング18とタイロッド15のそれぞれに、特性が同じ加速度センサを取り付けた。そして、タイロッド15に、正弦波状の軸方向荷重を印加し、各加速度センサの出力信号からラックハウジング加速度とタイロッド加速度を検出した。この実験結果を図5に示す。
図5から、タイロッド15に印加された軸方向荷重に応じた加速度(タイロッド加速度)が、ラックハウジング18に取り付けられた加速度センサの出力信号(ラックハウジング加速度)に現れていることがわかる。また、図5から、ラックハウジング加速度は、静的領域(0[Hz]に近い低周波数領域)においてはタイロッド加速度との相関性は低いが、高周波数領域のような動的な領域においてはタイロッド加速度との相関性が高いことがわかる。このように、ラックハウジング加速度は、高周波数領域においてはタイロッド加速度との相関性が高いので、転舵輪側4側からタイロッド15に入力される逆入力振動を、ラックハウジング加速度に基づいて推定することが可能である。
【0024】
タイロッド15に入力される逆入力振動のほとんどは、タイロッド15からステアリングホイール2までの動力伝達経路において摩擦等によって消滅するため、ステアリングホイール2に伝達されない。したがって、路面状況が運転者に伝達されず、操舵感が良くないという問題がある。この実施形態では、タイロッド15に入力される逆入力振動を、ステアリングホイール2に伝達できるようになっている。
【0025】
図2に戻り、逆入力振動推定部52は、FFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)処理部52Aと、逆入力振動成分抽出部52Bと、IFFT(Inverse Fast Fourier Transform:逆高速フーリエ変換)処理部52Cとを含んでいる。図4Aは加速度センサ30の出力信号を示す模式図である。図4BはFFT処理部52Aによって得られた周波数領域信号を示す模式図である。図4Cは逆入力振動抽出部52Bによって抽出された、逆入力振動成分に対応する周波数領域信号を示す模式図である。図4Dは、IFFT処理部52Cによって得られた、逆入力振動成分に対応する時間領域信号を示す模式図である。
【0026】
FFT処理部52Aは、図4Aに示すような加速度センサ30の出力信号を、時間領域信号から周波数領域信号に変換する。これにより、図4Bに示すような周波数領域信号が得られる。
逆入力振動成分抽出部52Bは、FFT処理部52Aによって得られた周波数領域信号から、周波数fが所定範囲内(f≦f≦f(f>f))にあり、かつパワー密度ρが所定範囲内(ρ≦f≦ρ(ρ>ρ))にある信号(図4Bに斜線で示す領域内の信号)を抽出する。これにより、図4Cに示すような逆入力振動成分に対応した周波数領域信号が抽出される。
【0027】
は、FFT処理部52Aによって得られた周波数領域信号のうち、逆入力振動成分より周波数が低い周波数領域信号を排除するために設定された閾値であり、例えば10[Hz]に設定される。fは、FFT処理部52Aによって得られた周波数領域信号からノイズを除去するために設定された閾値であり、例えば100[Hz]に設定される。
ρは、FFT処理部52Aによって得られた周波数領域信号からノイズを除去するために設定された閾値であり、例えば10−4[V/Hz]に設定される。ρは、FFT処理部52Aによって得られた周波数領域信号のうち、逆入力振動成分よりパワー密度が大きい周波数領域信号を排除するために設定された閾値であり、例えば1[V/Hz]に設定される。
【0028】
IFFT処理部52Cは、逆入力振動成分抽出部52Bによって抽出された周波数領域信号を時間領域信号に変換する。これにより、図4Dに示すような逆入力振動成分に対応した時間領域信号が得られる。この逆入力振動成分に対応した時間領域信号が、タイロッド15に入力された逆入力振動の推定値となる。
IFFT処理部52Cによって求められた逆入力振動推定値は、その振動の方向が右方向操舵に対応するタイロッド15の軸方向である場合には正をとり、その振動の方向が左方向操舵に対応するタイロッド15の軸方向である場合には負をとるものとする。
【0029】
目標電流補正値設定部53は、逆入力振動推定部52によって求められた逆入力振動推定値に基づいて、目標電流補正値Icを設定する。目標電流補正値Icは、逆入力振動推定値が正の値であれば正の値とされ、逆入力振動推定値が負の値であれば負の値とされ、逆入力振動推定値の絶対値が大きいほどその絶対値が大きくなるように設定される。
目標電流補正値設定部53は、例えば、逆入力振動推定値に予め設定された乗算係数(>0)を乗算することにより、目標電流補正値Icを演算する。目標電流補正値設定部53は、逆入力振動推定値と目標電流補正値Icとの関係をあらかじめ記憶したマップに基づいて、目標電流補正値Icを設定するものであってもよい。
【0030】
補正値加算部54は、基本目標電流値設定部51によって設定された基本目標電流値Ioに、目標電流補正値設定部53によって設定された目標電流補正値Icを加算することにより、目標電流値Iを演算する。偏差演算部55は、補正値加算部54によって得られた目標電流値Iと電流検出回路43によって検出された実電流値Iとの偏差(電流偏差ΔI=I−I)を演算する。
【0031】
PI制御部56は、偏差演算部55によって演算された電流偏差ΔIに対するPI演算を行うことにより、電動モータ21に流れる電流Iを目標電流値Iに導くための駆動指令値を生成する。PWM制御部57は、前記駆動指令値に対応するデューティ比のPWM制御信号を生成して、駆動回路42に供給する。これにより、駆動指令値に対応した電力が電動モータ21に供給されることになる。
【0032】
基本目標電流値設定部51、逆入力振動推定部52、目標電流補正値設定部53および補正値加算部54は、目標電流値Iを設定するための目標電流値設定手段を構成している。偏差演算部55およびPI制御部56は、電流フィードバック制御手段を構成している。この電流フィードバック制御手段の働きによって、電動モータ21に流れるモータ電流Iが、目標電流設定手段51〜54によって設定される目標電流値Iに近づくように制御される。
【0033】
上記実施形態によれば、タイロッド15に入力された逆入力振動を推定するための加速度センサ30は、タイロッド15に比べて動きの小さいラックハウジング18に取り付けられている。このため、加速度センサ30をタイロッド15に取り付けた場合に比べて、加速度センサ30のハーネスの動きが小さくなる。これにより、加速度センサ30のハーネスが損傷しにくくなる。
【0034】
また、このように加速度センサ30をラックハウジング18に取り付けても、加速度センサ30の出力信号に基づいてタイロッド15に入力された逆入力振動を推定することができる。そして、推定された逆入力振動を用いて、電動モータ21の目標電流値Iを設定しているので、タイロッド15に入力された逆入力振動がステアリングホイール2に伝達されるようになる。これにより、運転者に路面状況を伝えることができるようになるので、操舵感が向上する。
【0035】
以上、この発明の一実施形態について説明したが、この発明はさらに他の形態で実施することもできる。たとえば、前述の実施形態では、加速度センサ30はラックハウジング18に取り付けられているが、加速度センサ30をタイロッド15に取り付けてもよい。
また、この発明は、ステアリングホイール等の操舵部材と転舵輪との間の機械的な連結が断たれた、いわゆるステアバイワイヤ方式の車両用操舵装置であって、操舵部材に操舵反力を付与する反力モータを備えたものにも適用することができる。この場合には、逆入力振動推定部52によって推定された逆入力振動を用いて反力モータの目標電流値が設定され、反力モータに流れる電流が目標電流値に近づくように反力モータが制御される。これにより、逆入力振動推定部52によって推定された逆入力振動が反力モータを介して操舵部材に伝達されるから、操舵感を向上させることができる。
【0036】
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0037】
4…転舵輪、5…転舵機構、13…ラック軸、15…タイロッド、18…ラックハウジング、21…電動モータ、30…加速度センサ、40…ECU、41…マイクロコンピュータ、51…基本目標電流値設定手段、52…逆入力振動推定部、52A…FFT処理部、52B…逆入力振動抽出部、52C…IFFT処理部、53…目標電流補正値設定部、54…補正値加算部、55…偏差演算部、56…PI制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転舵輪にタイロッドを介して転舵のための力を伝達する転舵軸と、
車体に取り付けられ、前記転舵軸を軸方向に往復移動可能に支持するハウジングと、
前記ハウジングまたは前記タイロッドに取り付けられた加速度センサと、
前記加速度センサの出力信号に基づいて、前記転舵輪側から前記タイロッドに入力する逆入力振動を推定する逆入力振動推定手段と、
前記逆入力振動推定手段によって推定された逆入力振動を、車両の操向のために操作される操舵部材に伝達させる逆入力振動伝達手段とを含み、
前記逆入力振動推定手段は、
前記加速度センサの出力信号を、時間領域信号から周波数領域信号に変換するFFT処理手段と
前記FFT処理手段によって得られる周波数領域信号から、周波数が所定範囲内にあり、かつパワー密度が所定範囲内にある周波数領域信号を抽出する抽出手段と、
前記抽出手段によって抽出された周波数領域信号を時間領域信号に変換することにより、前記加速度センサの出力信号に含まれている逆入力振動成分を抽出するIFFT処理手段とを含む、車両用操舵装置。
【請求項2】
前記逆入力振動伝達手段は、
前記転舵軸に操舵補助力を与える電動モータと、
前記逆入力振動推定手段によって推定された逆入力振動を用いて、前記電動モータの目標電流値を設定する目標電流値設定手段と、
前記目標電流値設定手段によって設定された目標電流値に基づいて前記電動モータを制御する制御手段とを含む、請求項1に記載の車両用操舵装置。
【請求項3】
前記逆入力振動伝達手段は、
前記操舵部材に操舵反力を与えるための反力モータと、
前記逆入力振動推定値手段によって推定された逆入力振動を用いて、前記反力モータの目標電流値を設定する目標電流値設定手段と、
前記目標電流値設定手段によって設定された目標電流値に基づいて前記反力モータを制御する制御手段を含む、請求項1に記載の車両用操舵装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−112071(P2013−112071A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−258114(P2011−258114)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】