電動パワーステアリング制御装置
【課題】車両状態又は操舵状態に応じて、操舵感を向上させることができる電動パワーステアリング制御装置を提供する。
【解決手段】操舵トルクτn、操舵速度ωnまたは車速に応じて、d軸のフィードバックゲインまたはd軸電圧を補正することによって、d軸の電流応答性を変化させ、ハンドルが動き過ぎることに対しては動きを抑制し、動き難いことに対しては動き易くする。
【解決手段】操舵トルクτn、操舵速度ωnまたは車速に応じて、d軸のフィードバックゲインまたはd軸電圧を補正することによって、d軸の電流応答性を変化させ、ハンドルが動き過ぎることに対しては動きを抑制し、動き難いことに対しては動き易くする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動パワーステアリング制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電動パワーステアリング装置(以下、EPS装置)に使用されるブラシレスモータをベクトル制御にて駆動する電動パワーステアリング制御装置(以下、EPS制御装置)が種々提案されている(例えば、特許文献1,2,3,4)。
【0003】
特許文献1では、操舵速度が速い時にd軸電流がモータの界磁を弱めるように電流指令値を補正するようにしたEPS制御装置が提案されている。また、特許文献2では、指令トルクが低い状態におけるモータ回転数を増加させるため、d軸電流をモータの界磁を弱めるように補正し、トルクが「0」から増加する場合に、d軸電流を「0」にするようにしたEPS制御装置が提案されている。
【0004】
さらに、特許文献3では、車速が大きく、操舵トルクが小さく、回転速度が低い場合に、コギングトルクの影響を低減するため、d軸電流指令値をモータの界磁が弱まるように補正するようにしたEPS制御装置が提案されている。さらにまた、特許文献4では、d軸に外乱オブザーバを設けて速度起電圧を補償したEPS制御装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3559258号公報
【特許文献2】特許第3624737号公報
【特許文献3】特開2007−216698号公報
【特許文献4】特開2009−22149号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記各EPS制御装置においは、EPS装置のブラシレスモータをベクトル制御にて駆動する際、要求トルクを出力するために、ベクトル制御のd軸電流は、0[A]にしてq軸電流を邪魔しないようにしたり、負に値にしてモータの界磁を弱め、速い操舵に対応できるようにしている。しかしながら、各EPS制御装置とも、d軸の電流指令値を補正するだけで、車両状態や操舵状態に応じて操舵するには不十分だった。
【0007】
本発明は上記問題点を解消するためになされたものであって、その目的は、車両状態又は操舵状態に応じて、操舵感を向上させることができる電動パワーステアリング制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、車両のハンドルによる操作に基づいて、そのハンドルにかかる操舵トルクを検出するトルクセンサと、ステアリング機構にアシストトルクを付与するモータと、前記トルクセンサが検出した操舵トルクに基づいて、前記モータをベクトル制御するためにq軸成分のq軸目標電流値と、d軸成分のd軸目標電流値を生成する目標電流値生成手段と、前記モータからq軸成分のq軸実電流値とd軸成分のd軸実電流値を検出する実電流値検出手段と、前記q軸目標電流値と前記q軸実電流値とに基づいて、q軸制御電圧を生成するq軸電流制御手段と、前記d軸目標電流値と前記d軸実電流値とに基づいて、d軸制御電圧を生成するd軸電流制御手段と、前記q軸制御電圧と前記d軸制御電圧に基づいて、前記モータに印加するための駆動電圧を生成する駆動手段とを有した電動パワーステアリング制御装置であって、前記車両の車両状態又は前記ハンドルの操舵状態に応じて、前記d軸成分の特性を可変させる補正手段を設け、ハンドルにかかる操舵トルクを制御する。
【0009】
請求項1に記載の発明によれば、車両状態又はハンドルの操舵状態に応じて、補正手段は、d軸成分の特性を可変させる。そして、モータのベクトル制御において、d軸成分を有効に制御することで、モータのアシストトルクを制御しハンドルの操舵感を向上させる。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の電動パワーステアリング制御装置において、前記補正手段は、前記車両の車両状態又は前記ハンドルの操舵状態に応じて、前記d軸電流制御手段の特性を可変させる。
【0011】
請求項2に記載の発明によれば、補正手段は、車両状態又は操舵状態に応じて、d軸電流制御手段の特性を可変させる。そして、モータのベクトル制御において、特性が可変されるd軸電流制御手段のd軸電流を有効に使うことで、モータのアシストトルクを制御しハンドルの操舵感を向上させる。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の電動パワーステアリング制御装置において、前記d軸電流制御手段の特性は、前記d軸目標電流値に対する前記d軸実電流値の周波数応答帯域であり、前記補正手段は、前記車両の車両状態又は前記ハンドルの操舵状態に応じて、前記周波数応答帯域を可変させるものである。
【0013】
請求項3に記載の発明によれば、補正手段は、車両状態又は操舵状態に応じて、d軸電流制御手段のd軸目標電流値に対するd軸実電流値の周波数応答帯域を可変させる。そして、モータのベクトル制御において、周波数応答帯域が可変されるd軸電流を有効に使うことで、モータのアシストトルクを制御しハンドルの操舵感を向上させる。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の電動パワーステアリング制御装置において、
前記d軸電流制御手段は、2自由度IP制御器又はPI制御器よりなり、前記制御器に含まれるd軸積分制御器の積分ゲイン及びd軸比例制御器の比例ゲインの少なくともいずれか一方が、前記補正手段にて前記車両の車両状態又は前記ハンドルの操舵状態に応じて可変されて、前記周波数応答帯域が可変される。
【0015】
請求項4に記載の発明によれば、補正手段は、車両状態又は操舵状態に応じて、制御器に含まれるd軸積分制御器の積分ゲイン及びd軸比例制御器の比例ゲインの少なくともいずれか一方を可変し、d軸電流制御手段の周波数応答帯域を可変させる。そして、モータのベクトル制御において、周波数応答帯域が可変されるd軸電流制御手段のd軸電流を有効に使うことで、モータのアシストトルクを制御しハンドルの操舵感を向上させる。
【0016】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の電動パワーステアリング制御装置において、前記補正手段は、ハンドルの操舵速度、操舵トルク、操舵角及び車速の少なくともいずれか1つに基づいて、前記d軸積分制御器の積分ゲインまたは前記d軸比例制御器の比例ゲインを設定する。
【0017】
請求項5に記載の発明によれば、d軸積分制御器の積分ゲイン及びd軸比例制御器の比例ゲインは、補正手段によってハンドルの操舵速度、操舵トルク、操舵角及び車速の少なくともいずれか1つに基づいて可変される。
【0018】
請求項6に記載の発明は、請求項4又は5に記載の電動パワーステアリング制御装置において、前記補正手段は、ハンドルの操舵速度が速いほど、前記周波数応答帯域が高くなるように、前記d軸積分制御器の積分ゲイン及び前記d軸比例制御器の比例ゲインを設定した。
【0019】
請求項6に記載の発明によれば、d軸積分制御器の積分ゲイン及びd軸比例制御器の比例ゲインは、補正手段によって、ハンドルの操舵速度が速いほど周波数応答帯域が高くなるように設定し、ハンドルの操舵感を操舵速度に応じて制御する。
【0020】
請求項7に記載の発明は、請求項4〜6のいずれか1項に記載の電動パワーステアリング制御装置において、前記補正手段は、ハンドルの操舵トルクが大きいほど、前記周波数応答帯域が高くなるように、前記d軸積分制御器の積分ゲイン及び前記d軸比例制御器の比例ゲインを設定した。
【0021】
請求項7に記載の発明によれば、d軸積分制御器の積分ゲイン及びd軸比例制御器の比例ゲインは、補正手段によって、ハンドルの操舵トルクが大きいほど周波数応答帯域が高くなるように設定し、ハンドルの操舵感を操舵トルクに応じて制御する。
【0022】
請求項8に記載の発明は、請求項4〜7のいずれか1項に記載の電動パワーステアリング制御装置において、前記補正手段は、ハンドルの操舵角が中立位置に近いほど、前記周波数応答帯域が低くなるように、前記d軸積分制御器の積分ゲイン及び前記d軸比例制御器の比例ゲインを設定した。
【0023】
請求項8に記載の発明によれば、d軸積分制御器の積分ゲイン及びd軸比例制御器の比例ゲインは、補正手段によって、ハンドルの操舵角が中立位置に近いほど周波数応答帯域が低くなるように設定し、ハンドルの操舵感を中立位置付近にハンドルが収まり易くする制御ができる。
【0024】
請求項9に記載の発明は、請求項1に記載の電動パワーステアリング制御装置において、前記補正手段は、前記車両の車両状態又は前記ハンドルの操舵状態に応じて、前記d軸成分の前記d軸制御電圧、前記d軸目標電流値及び前記d軸実電流値の少なくとも1つを可変させる。
【0025】
請求項9に記載の発明によれば、補正手段は、車両状態又は操舵状態に応じて、d軸制御電圧、d軸目標電流値及び前記d軸実電流値の少なくとも1つを可変させる。そして、モータのベクトル制御において、可変したd軸制御電圧、d軸目標電流値及びd軸実電流値の少なくとも1つを有効に使うことで、モータのアシストトルクを制御しハンドルの操舵感を向上させる。
【0026】
請求項10に記載の発明は、請求項1又は9に記載の電動パワーステアリング制御装置において、前記補正手段は、前記d軸目標電流値に対する前記d軸実電流値の周波数応答帯域の予め決められた周波数応答帯域のゲインを可変にする。
【0027】
請求項10に記載の発明によれば、補正手段は、d軸目標電流値に対するd軸実電流値の周波数応答帯域の予め決められた周波数応答帯域のゲインを可変にする。そして、モータのベクトル制御において、可変したd軸実電流値の周波数応答帯域の予め決められた周波数応答帯域のゲインを使うことで、モータのアシストトルクを制御しハンドルの操舵感を向上させる。
【0028】
請求項11に記載の発明は、請求項9又は10に記載の電動パワーステアリング制御装置において、前記補正手段は、前記モータの回転速度信号から予め決められた周波数応答帯域の回転速度信号をバンドパスフィルタにて検出し、予め決められた周波数応答帯域における回転速度信号に基づいて補正値を算出し、その補正値にて、前記d軸制御電圧又は前記d軸目標電流値を補正する。
【0029】
請求項11に記載の発明によれば、補正手段は、モータの回転速度信号の予め決められた周波数応答帯域における回転速度信号に基づいてd軸制御電圧又はd軸目標電流値を補正する。そして、モータのベクトル制御において、補正されたd軸制御電圧又はd軸目標電流値を使うことで、モータのアシストトルクを制御しハンドルの操舵感を向上させる。
【0030】
請求項12に記載の発明は、請求項9又は10に記載の電動パワーステアリング制御装置において、前記補正手段は、前記d軸実電流値から予め決められた周波数応答帯域の前記d軸実電流値をバンドパスフィルタにて検出し、その検出された前記d軸実電流値と前記d軸目標電流値とで、前記d軸電流制御手段においてd軸制御電圧を生成させる。
【0031】
請求項12に記載の発明によれば、補正手段は、d軸実電流値から予め決められた周波数応答帯域のd軸実電流値を検出し、そのd軸実電流値とd軸目標電流値とで、d軸電流制御部においてd軸制御電圧を生成させる。そして、モータのベクトル制御において、生成されたd軸制御電圧を使うことで、モータのアシストトルクを制御しハンドルの操舵感を向上させる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、アシストトルクを付与するモータのベクトル制御において、車両状態又は操舵状態に応じて、d軸成分を制御することによってモータのアシストトルクを制御し、操舵感を向上することができる電動パワーステアリング制御装置を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】第1実施形態の電動パワーステアリング装置の機構を示す機構図。
【図2】電動パワーステアリング制御装置の電気ブロック回路図。
【図3】d軸電流制御部の構成を示すブロック図。
【図4】q軸電流制御部の構成を示すブロック図。
【図5】d軸積分ゲインにおける電流応答性を示すボード線図。
【図6】d軸比例ゲインにおける電流応答性を示すボード線図。
【図7】d軸比例ゲイン演算器の構成を示す図。
【図8】d軸比例ゲインの補正を行うための操舵速度に対する第1補正係数値を導き出す特性曲線のデータを示す図。
【図9】d軸比例ゲインの補正を行うための操舵トルクに対する第2補正係数値を導き出す特性曲線のデータを示す図。
【図10】d軸積分ゲイン演算器の構成を示す図。
【図11】d軸積分ゲインの補正を行うための操舵速度に対する第1補正係数値を導き出す特性曲線のデータを示す図。
【図12】d軸積分ゲインの補正を行うための操舵トルクに対する第2補正係数値を導き出す特性曲線のデータを示す図。
【図13】第1実施形態のd軸電流制御部の別例を示すブロック回路。
【図14】第2実施形態の電動パワーステアリング制御装置の電気ブロック回路図。
【図15】操舵トルクと回転速度の周波数の関係を示す図。
【図16】d軸電流の電流応答を示すボード線図。
【図17】操舵トルクと回転速度の周波数の関係を示す図。
【図18】d軸電流の電流応答を示すボード線図。
【図19】第2実施形態の別例を説明するための電動パワーステアリング制御装置の電気ブロック回路図。
【図20】第3実施形態の電動パワーステアリング制御装置の電気ブロック回路図。
【図21】第4実施形態の電動パワーステアリング制御装置の電気ブロック回路図。
【図22】第5実施形態の電動パワーステアリング制御装置の電気ブロック回路図。
【発明を実施するための形態】
【0034】
(第1実施形態)
以下、本発明を具体化した第1実施形態について図面に従って説明する。
(電動パワーステアリング装置1)
図1に示すように、電動パワーステアリング装置(以下、EPS装置という)1のステアリング機構は、基端部にハンドル2を固定したステアリングシャフト3を有し、そのステアリングシャフト3の先端部は、自在継ぎ手4を介して、インターミディエイト5に連結されている。ステアリングシャフト3は、入力軸3aと出力軸3bからなり、円筒状の入力軸3a内に、出力軸3bの一部が貫挿されている。入力軸3aの基端部には、ハンドル2が固定され、出力軸3bの先端部には、自在継ぎ手4が連結されている。また、入力軸3aと出力軸3bの間には、トーションバー(図示せず)が設けられ、入力軸3aの回転に追従して出力軸3bを回転させるようになっている。
【0035】
そして、ハンドル操作に基づく、回転及び操舵トルクはラック7&ピニオン軸8に伝達され、ピニオン軸8の回転にてラック7が車幅方向に往復動する。これによって、ラック7の両端に連結したタイロッド9を介してタイヤ10の舵角が変更される。
【0036】
ステアリングシャフト3の入力軸3aには、ステアリングコラム11が装備されている。ステアリングコラム11には、3相ブラシレスモータ(以下、ブラシレスモータという))Mが設けられている。ブラシレスモータMは、本実施形態では、ロータコアに永久磁石を設け、ステータコアにU相巻線、V相巻線、W相巻線を巻回したブラシレスモータである。ブラシレスモータMは、減速ギヤ(図示せず)を介して入力軸3aに接続されている。ブラシレスモータMは、入力軸3aを回転制御してハンドル操作をする際に、ハンドル2に対して補助操舵力(以下、アシストトルクという)を付与する。
【0037】
また、ステアリングコラム11には、トルクセンサ14(図2参照)が設けられている。トルクセンサ14は、入力軸3aと出力軸3bとの間に設けた前記トーションバーのねじれ(ねじれ角)を検出する。ハンドル操作に基づいて入力軸3aが回転すると、出力軸3bとの間にずれが生じ、このずれがトーションバーのねじれとなってあらわれる。つまり、トーションバーも入力軸3aとともに回転する一方で、出力軸3bは、タイヤ10の路面抵抗等があることから、入力軸3aの回転に対して遅れが生じ、トーションバーにねじれが生じる。
【0038】
トルクセンサ14は、このねじれ角を検出して、ハンドル2にかかるトルク、即ち、ステアリングシャフト3の入力軸3aにかかるトルク(操舵トルクτn)を検出する。そして、トルクセンサ14が検出した操舵トルクτnに基づいて、ハンドル操作をする際のアシストトルクが算出され、ブラシレスモータMを駆動制御するようになっている。
【0039】
また、ステアリングコラム11には、ハンドル2の操舵角検出センサ15(図2参照)及び操舵速度・操舵角算出器16(図2参照)が設けられている。操舵角検出センサ15は、入力軸3aとともに回転し周方向に等ピッチに貫通孔を形成した円板状のエンコードと、回転するエンコーダの貫通孔の通過を検出する発光素子と受光素子からなる第1及び第2ホトセンサを備えている。第1及び第2ホトセンサは、入力軸3aの回転とともに回転するエンコーダの貫通孔を検出してそれぞれ第1及び第2パルス信号を出力する。また、第1及び第2ホトセンサは、第1パルス信号と第2パルス信号が互いに90度位相がずれて出力されるように相対配置されている。
【0040】
操舵速度・操舵角算出器16は、第1及び第2ホトセンサの第1及び第2パルス信号を検出することによって、入力軸3aの回転方向を検出する。また、操舵速度・操舵角算出器16は、第1ホトセンサ(又は第2ホトセンサ)第1パルス信号(又は第2パルス信号)の単位時間当たりのパルスをカウントすることによって、入力軸3aの回転速度、即ちハンドル2の操舵速度ωnを検出する。さらに、操舵速度・操舵角算出器16は、入力軸3aの回転方向に基づいて、第1ホトセンサ(又は第2ホトセンサ)の第1パルス信号(又は第2パルス信号)のパルス数を加減算することによって、入力軸3aの回動位置、即ちハンドル2の操舵角が検出される。
【0041】
つまり、操舵速度・操舵角算出器16は、操舵角検出センサ15の第1及び第2パルス信号に基づいて、ハンドル2のその時々の、操舵方向、操舵角及び操舵速度ωnを検出する。
【0042】
(電動パワーステアリング制御装置20)
次に、上記のように構成したEPS装置1を制御する電動パワーステアリング制御装置(以下、EPS制御装置という)20を図2の電気ブロック回路に従って説明する。
【0043】
図2に示すEPS制御装置20は、ブラシレスモータMを電流ベクトル制御するための制御装置である。EPS制御装置20は、制御回路21、インバータ回路22、目標電流値生成回路23を有している。制御回路21は、ブラシレスモータMの各相に駆動電圧Vu,Vv,Vwを印加させるためのオン・オフ信号を生成しインバータ回路22に出力する。インバータ回路22は、制御回路21からのオン・オフ信号に基づいてブラシレスモータMのU相巻線、V相巻線、W相巻線に駆動電圧Vu,Vv,Vwをそれぞれ印加してステータに回転磁界を生成する。
【0044】
目標電流値生成回路23は、トルクセンサ14が検出した操舵トルクτnを入力する。目標電流値生成回路23は、入力した操舵トルクτnに基づいて、ブラシレスモータMを電流ベクトル制御するためのd軸目標電流値Id*及びq軸目標電流値Iq*を生成する。なお、本実施形態では、目標電流値生成回路23は、効率向上のためにd軸目標電流値Id*を「0」にして出力している。目標電流値生成回路23は、d軸目標電流値Id*及びq軸目標電流値Iq*を制御回路21に出力する。
【0045】
制御回路21は、電流ベクトル制御を行うために、図2に示すように、位置演算部31、3相−2相電流変換部32、d軸電流制御部34、q軸電流制御部35、2相−3相電圧変換部36、PWM生成部37、ゲイン選択部38を備えている。
【0046】
位置演算部31は、ブラシレスモータMのロータの回転位置を検出するレゾルバ等よりなる回転センサ24と接続されている。位置演算部31は、回転センサ24から位置信号を入力し、その時々のブラシレスモータM(ロータ)の電気角を演算するとともに電気角速度を演算する。そして、位置演算部31は、その演算結果を2相−3相電流変換部32に出力する。
【0047】
3相−2相電流変換部32は、第1及び第2電流検出器25,26と接続され、第1及び第2電流検出器25,26からその時々のU相電流IUとV相電流IVの検出信号を入力する。3相−2相電流変換部32は、位置演算部31が検出したロータの電気角によって、第1及び第2電流検出器25,26が検出したU相電流IUとV相電流IVの検出信号を、d−q座標系に変換してd軸実電流値Id及びq軸実電流値Iqを算出する。そして、3相−2相電流変換部32は、算出したd軸実電流値Idをd軸電流制御部34に出力する。また、3相−2相電流変換部32は、算出したq軸実電流値Iqをq軸電流制御部35に出力する。
【0048】
d軸電流制御部34は、目標電流値生成回路23から出力されるd軸目標電流値Id*(=0)を入力する。そして、d軸電流制御部34は、d軸目標電流値Id*とd軸実電流値Idに基づいて、d軸目標電流値Id*の電流をブラシレスモータMに流すために、ブラシレスモータMに印加する駆動電圧の電圧値であるd軸制御電圧Vd*を算出する。この算出されたd軸制御電圧Vd*は、2相−3相電圧変換部36に出力される。
【0049】
d軸電流制御部34は、本実施形態では、d軸目標電流値Id*とd軸実電流値Idとを用いて2由度IP制御する2自由度IP制御器で構成されている。d軸電流制御部34は、図3に示すように、第1及び第2d軸減算器41、42、d軸比例制御器43、d軸積分制御器44を備えている。
【0050】
第1d軸減算器41は、d軸目標電流値Id*からd軸実電流値Idを減算し、その差分値(=Id*−Id)をd軸積分制御器44に出力する。d軸比例制御器43は、d軸実電流値Idを比例処理して第2d軸減算器42に出力する。d軸積分制御器44は、差分値(=Id*−Id)を積分処理して第2d軸減算器42に出力する。第2d軸減算器42は、d軸積分制御器44からの出力値からd軸比例制御器43からの出力値を減算し、その減算値をd軸制御電圧Vd*として2相−3相電圧変換部36に出力する。
【0051】
なお、図3において、d軸比例制御器43の「Fpd」はd軸比例ゲイン(単位:ボルト/アンペア)であり、d軸積分制御器44の「Fid」はd軸積分ゲイン(単位は:(ボルト/アンペア)/s)である。また、d軸積分制御器44の「s」はラプラス演算子である。
【0052】
ちなみに、図3に示す2自由度IP制御器からなるd軸電流制御部34は、d軸フィードバックゲイン(d軸比例ゲインFpd及びd軸積分ゲインFid)を変更することによって、図5、図6に示すように、電流応答性が変化する。
【0053】
図5に示すように、d軸比例ゲインFpdを一定にして、d軸積分ゲインFidを小さくすれば、それに相対してd軸目標電流値Id*に対する周波数応答帯域の幅が低くなり(カットオフ周波数が低くなり)、d軸目標電流値Id*に対するd軸実電流値Idの電流応答性が低くなる。反対に、d軸積分ゲインFidを大きくすれば、それに相対してd軸目標電流値Id*に対する周波数応答帯域の幅が高くなり(ゲイン交差周波数が高くなり)、d軸目標電流値Id*に対するd軸実電流値Idの電流応答性が高くなる。
【0054】
一方、図6に示すように、d軸積分ゲインFidを一定にして、d軸比例ゲインFpdを小さくすれば、それに相対してd軸目標電流値Id*に対する周波数応答帯域の幅が高くなり(カットオフ周波数が高くなり)、d軸目標電流値Id*に対するd軸実電流値Idの電流応答性が高くなる。反対に、d軸比例ゲインFpdを大きくすれば、それに相対してd軸目標電流値Id*に対する周波数応答帯域の幅が低くなり(カットオフ周波数が低くなり)、d軸目標電流値Id*に対するd軸実電流値Idの電流応答性が低くなる。
【0055】
本実施形態では、その時々でd軸電流制御部34のd軸比例ゲインFpd及びd軸積分ゲインFidを変更することで、d軸電流制御部34は、d軸目標電流値Id*に対するd軸実電流値Idの電流応答性を変更するようにしている。
【0056】
q軸電流制御部35は、目標電流値生成回路23から出力されるq軸目標電流値Iq*を入力する。そして、q軸電流制御部35は、q軸目標電流値Iq*とq軸実電流値Iqに基づいて、q軸目標電流値Iq*の電流をブラシレスモータMに流すために、ブラシレスモータMに印加する駆動電圧の電圧値であるq軸制御電圧Vq*を算出する。この算出されたq軸制御電圧Vq*は、2相−3相電圧変換部36に出力される。
【0057】
q軸電流制御部35は、本実施形態では、q軸目標電流値Iq*とq軸実電流値Iqとを用いて2由度IP制御する2自由度IP制御器で構成されている。q軸電流制御部35は、図4に示すように、第1及び第2q軸減算器51、52、q軸比例制御器53、q軸積分制御器54を備えている。
【0058】
第1q軸減算器51は、q軸目標電流値Iq*からq軸実電流値Iqを減算し、その差分値(=Iq*−Iq)をq軸積分制御器54に出力する。q軸比例制御器53は、q軸実電流値Iqを比例処理して第2q軸減算器52に出力する。q軸積分制御器54は、差分値(=Iq*−Iq)を積分処理して第2q軸減算器52に出力する。第2q軸減算器52は、q軸積分制御器54からの出力値からq軸比例制御器53からの出力値を減算し、その減算値をq軸制御電圧Vq*として2相−3相電圧変換部36に出力する。
【0059】
なお、図4において、q軸比例制御器53の「Fpq」はq軸比例ゲイン(単位:(ボルト/アンペア)であり、q軸積分制御器54の「Fiq」はq軸積分ゲイン(単位:(ボルト/アンペア)/s)である。また、q軸積分制御器54の「s」はラプラス演算子である。
【0060】
ちなみに、図4に示すq軸電流制御部35は、q軸フィードバックゲイン(q軸比例ゲインFpq及びq軸積分ゲインFiq)を予め定めた固定値に設定し、q軸目標電流値Iq*に対するq軸実電流値Iqの電流応答性を一定にしている。
【0061】
2相−3相電圧変換部36は、d軸電流制御部34からd軸制御電圧Vd*が入力されるとともに、q軸電流制御部35からq軸制御電圧Vq*が入力される。また、2相−3相電圧変換部36は、位置演算部31が算出したその時々のブラシレスモータM(ロータ)の電気角を入力する。
【0062】
2相−3相電圧変換部36は、位置演算部31が算出したロータの電気角を用いて、d軸制御電圧Vd*及びq軸制御電圧Vq*をブラシレスモータMのU相巻線、V相巻線、W相巻線に印加するための駆動電圧値に変換する。2相−3相電圧変換部36は、変換したU相巻線、V相巻線、W相巻線に印加するための駆動電圧値をPWM生成部37に出力する。
【0063】
PWM生成部37は、2相−3相電圧変換部36にて変換したU相巻線、V相巻線、W相巻線に印加する駆動電圧値に基づいて各相のPWM信号Su,Sv,Swを生成し、その生成したPWM信号Su,Sv,Swをインバータ回路22にオン・オフ信号として出力する。
【0064】
インバータ回路22は、制御回路21(PWM生成部37)からのPWM信号Su,Sv,Swに基づいてブラシレスモータMのU相巻線、V相巻線、W相巻線にパルス幅変調した駆動電圧Vu,Vv,Vwをそれぞれ印加する。これによって、ブラシレスモータMには、q軸目標電流値Iq*及びd軸目標電流値Id*に応じた電流が給電される。つまり、ブラシレスモータMは、ハンドル2の操作に必要なアシストトルクをステアリングシャフト3の入力軸3aに対して付与することができる。
【0065】
制御回路21は、前記したd軸電流制御部34のd軸比例ゲインFpd及びd軸積分ゲインFidを、車両状態やハンドル2の操舵状態に応じて変更するためのゲイン選択部38を備えている。
【0066】
ちなみに、前記したように、図5に示すように、d軸比例ゲインFpdを一定にして、d軸積分ゲインFidを小さくすれば、それに相対してd軸目標電流値Id*に対する周波数応答帯域の幅が低くなることから、d軸目標電流値Id*(=0)に対するd軸実電流値Idの電流応答性は低くなる。反対に、d軸積分ゲインFidを大きくすれば、それに相対してd軸目標電流値Id*に対する周波数応答帯域の幅が高くなることから、d軸目標電流値Id*(=0)に対するd軸実電流値Idの電流応答性は高くなる。
【0067】
また、図6に示すように、d軸積分ゲインFidを一定にして、d軸比例ゲインFpdを小さくすれば、それに相対してd軸目標電流値Id*に対する周波数応答帯域の幅が高くなることから、d軸目標電流値Id*(=0)に対するd軸実電流値Idの電流応答性が高くなる。反対に、d軸比例ゲインFpdを大きくすれば、それに相対してd軸目標電流値Id*に対する周波数応答帯域の幅が低くなることから、d軸目標電流値Id*(=0)に対するd軸実電流値Idの電流応答性は低くなる。
【0068】
ゲイン選択部38は、これを前提にd軸フィードバックゲイン(d軸比例ゲインFpd及びd軸積分ゲインFid)を決定し、d軸電流制御部34における周波数応答帯域の幅を可変させて、d軸目標電流値Id*(=0)に対するd軸実電流値Idの電流応答性を制御させるようにしている。
【0069】
ゲイン選択部38は、d軸比例ゲイン演算器38aとd軸積分ゲイン演算器38bとを有している。
d軸比例ゲイン演算器38aは、図7に示すように、基準値生成部61、第1補正部62、第2補正部63、乗算部64を有している。
【0070】
基準値生成部61は、基礎となる基準ゲイン値fpを生成し乗算部64に出力する。そして、基準値生成部61が生成した基準ゲイン値fpは、第1補正部62及び第2補正部63で導き出された第1補正係数値α1及び第2補正係数値α2を使って補正されて、d軸比例ゲインFpdが生成される。
【0071】
第1補正部62は、操舵速度・操舵角算出器16から操舵速度ωnを入力して、その操舵速度ωnの絶対値に対する第1補正係数値α1を算出する。第1補正部62は、第1補正テーブルTBa1を有している。第1補正テーブルTBa1は、操舵速度ωnの絶対値に対する第1補正係数値α1を求めるテーブルであって、例えば、RAM、SRAM,ROM等のメモリからなる。
【0072】
第1補正テーブルTBa1には、d軸比例ゲインFpdの補正を行うための特性曲線が格納されている。特性曲線は、各操舵速度ωnの絶対値に対して、例えば、「0」〜「1.0」の範囲で特定される第1補正係数値α1をそれぞれ導き出す補正カーブのデータである。図8に特性曲線L1の一例を示す。
【0073】
ちなみに、図8の特性曲線L1から明らかなように、操舵速度ωnが遅くなるほど、第1補正係数値α1は大きくなるが、第1補正係数値α1が「1」を超えることがない内容に設定されている。そして、第1補正部62は、第1補正テーブルTBa1にて、その時の操舵速度ωnに対する第1補正係数値α1を求めると、その第1補正係数値α1を乗算部64に出力する。
【0074】
第2補正部63は、トルクセンサ14から操舵トルクτnを入力して、その操舵トルクτnの絶対値に対する第2補正係数値α2を算出する。第2補正部63は、第2補正テーブルTBa2を有している。第2補正テーブルTBa2は、操舵トルクτnの絶対値に対する第2補正係数値α2を求めるテーブルであって、例えば、RAM、SRAM,ROM等のメモリからなる。
【0075】
第2補正テーブルTBa2には、d軸比例ゲインFpdの補正を行うための第1補正テーブルTBa1とは異なる特性曲線が格納される。特性曲線は、各操舵トルクτnの絶対値に対して、例えば、「0」〜「1.0」の範囲で特定される第2補正係数値α2をそれぞれ導き出す補正カーブのデータである。図9に特性曲線L2の一例を示す。
【0076】
ちなみに、図9の特性曲線L2から明らかなように、操舵トルクτnが小さくなるほど、第2補正係数値α2は大きくなるが、第2補正係数値α2が「1」を超えることがない内容に設定されている。そして、第2補正部63は、第2補正テーブルTBa2にて、その時の操舵トルクτnに対する第2補正係数値α2を求めると、その第2補正係数値α2を乗算部64に出力する。
【0077】
乗算部64は、第1補正係数値α1及び第2補正係数値α2を基準ゲイン値fpに乗算することによって、d軸比例ゲインFpd(=α1・α2・fp)を導き出し、d軸電流制御部34に出力する。つまり、本実施形態では、d軸比例ゲインFpdは、その時々の操舵速度ωnと操舵トルクτnによって補正されるようになっている。
【0078】
詳述すると、操舵速度ωnが速い(操舵トルクτnが大きい)ほど、第1補正係数値α1(第2補正係数値α2)が小さくなる。即ち、d軸比例ゲインFpdは小さくなり、図6に示すように、d軸目標電流値Id*に対する周波数応答帯域の幅が高くなることから、d軸目標電流値Id*(=0)に対するd軸実電流値Idの電流応答性が高くなる。
【0079】
反対に、操舵速度ωnが遅い(操舵トルクτnが小さい)ほど、第1補正係数値α1(第2補正係数値α2)が大きくなる。即ち、d軸比例ゲインFpdは大きくなり、図6に示すように、d軸目標電流値Id*に対する周波数応答帯域の幅が低くなることから、d軸目標電流値Id*(=0)に対するd軸実電流値Idの電流応答性が低くなる。
【0080】
d軸積分ゲイン演算器38bは、図10に示すように、基準値生成部66、第1補正部67、第2補正部68、乗算部69を有している。
基準値生成部66は、基礎となる基準ゲイン値fiを生成し乗算部69に出力する。そして、基準値生成部66が生成した基準ゲイン値fiは、第1補正部67及び第2補正部68で導き出された第1補正係数値β1及び第2補正係数値β2を使って補正されて、d軸積分ゲインFidが生成される。
【0081】
第1補正部67は、操舵速度・操舵角算出器16からの操舵速度ωnを入力して、その操舵速度ωnの絶対値に対する第1補正係数値β1を算出する。第1補正部67は、第1補正テーブルTBb1を有している。第1補正テーブルTBb1は、操舵速度ωnの絶対値に対する第1補正係数値β1を求めるテーブルであって、例えば、RAM、SRAM,ROM等のメモリからなる。
【0082】
第1補正テーブルTBb1には、d軸積分ゲインFidの補正を行うための特性曲線が格納されている。特性曲線は、各操舵速度ωnの絶対値に対して、例えば、「0」〜「1.0」の範囲で特定される第1補正係数値β1をそれぞれ導き出す補正カーブのデータである。図11に特性曲線L3の一例を示す。
【0083】
ちなみに、図11の特性曲線L3から明らかなように、操舵速度ωnが速くなるほど、第1補正係数値β1は大きくなるが、第1補正係数値β1が「1」を超えることがない内容に設定されている。そして、第1補正部67は、第1補正テーブルTBb1を用いて、その時の操舵速度ωnに対する第1補正係数値β1を求めると、その第1補正係数値β1を乗算部69に出力する。
【0084】
第2補正部68は、トルクセンサ14から操舵トルクτnを入力して、その操舵トルクτnの絶対値に対する第2補正係数値β2を算出する。第2補正部68は、第2補正テーブルTBb2を有している。第2補正テーブルTBb2は、操舵トルクτnの絶対値に対する第2補正係数値β2を求めるテーブルであって、例えば、RAM、SRAM,ROM等のメモリからなる。
【0085】
第2補正テーブルTBb2には、d軸積分ゲインFidの補正を行うための第1補正テーブルTBb1とは異なる特性曲線が格納される。特性曲線は、各操舵トルクτnの絶対値に対して、例えば、「0」〜「1.0」の範囲で特定される第2補正係数値β2をそれぞれ導き出す補正カーブのデータである。図12に特性曲線L4の一例を示す。
【0086】
ちなみに、図12の特性曲線L4から明らかなように、操舵トルクτnが大きくなるほど、第2補正係数値β2は大きくなるが、第2補正係数値β2が「1」を超えることがない内容に設定されている。そして、第2補正部68は、第2補正テーブルTBb2にて、その時の操舵トルクτnに対する第2補正係数値β2を求めると、その第2補正係数値β2を乗算部69に出力する。
【0087】
乗算部69は、第1補正係数値β1及び第2補正係数値β2を基準ゲイン値fiに乗算することによって、d軸積分ゲインFid(=β1・β2・fi)を導き出し、d軸電流制御部34に出力する。つまり、本実施形態では、d軸積分ゲインFidは、その時々の操舵速度ωnと操舵トルクτnによって補正されるようになっている。
【0088】
詳述すると、操舵速度ωnが速い(操舵トルクτnが大きい)ほど、第1補正係数値β1(第2補正係数値β2)が大きくなる。即ち、d軸積分ゲインFidは大きくなり、図5に示すように、d軸目標電流値Id*に対する周波数応答帯域の幅が高くなることから、d軸目標電流値Id*に対するd軸実電流値Idの電流応答性が高くなる。
【0089】
モータMが回転する際に回生電流は電流応答性が高い場合には影響がないが、d軸の電流応答が低くなると回生電流の影響が大きくなり回生制動という回転数に応じたダンピング効果を発生させる。つまり、d軸実電流値Idの電流応答性が高くなると、d軸実電流値Idの変動は小さく、回生電流の影響は小さいので、ハンドル2を動き易くすることができる。
【0090】
反対に、操舵速度ωnが遅い(操舵トルクτnが小さい)ほど、第1補正係数値β1(第2補正係数値β2)が小さくなる。即ち、d軸積分ゲインFidは小さくなり、図5に示すように、d軸目標電流値Id*に対する周波数応答帯域の幅が低くなることから、d軸目標電流値Id*(=0)に対するd軸実電流値Idの電流応答性が低くなる。
【0091】
つまり、d軸実電流値Idの電流応答性を低くすると、d軸実電流値Idの変動が大きく、回生電流の影響を受けてダンピング効果が高くなり、ハンドル2の安定性、すなわち、ハンドル2に落ち着きが出て、ハンドル2を動き難くすることができる。
【0092】
次に、上記のように構成したEPS制御装置20の作用について説明する。
今、ハンドル2を一方向に回動操作すると、トルクセンサ14からそのハンドル2の操作に基づく操舵トルクτnが検出される。そして、トルクセンサ14は、その検出した操舵トルクτnを目標電流値生成回路23及び制御回路21(ゲイン選択部38)に出力する。
【0093】
この時、あわせて、操舵速度・操舵角算出器16が操舵角検出センサ15から検出信号に基づいて操舵速度ωnを算出し、その操舵速度ωnが操舵速度・操舵角算出器16から制御回路21(ゲイン選択部38)に出力される。
【0094】
目標電流値生成回路23は、操舵トルクτnに基づいて、d軸目標電流値Id*(=0)及びq軸目標電流値Iq*を生成する。目標電流値生成回路23は、d軸目標電流値Id*を制御回路21のd軸電流制御部34に出力するとともに、q軸目標電流値Iq*を制御回路21のq軸電流制御部35に出力する。
【0095】
q軸電流制御部35は、新たに入力されたq軸目標電流値Iq*とその時のq軸実電流値Iqとでq軸制御電圧Vq*を生成し2相−3相電圧変換部36に出力する。
一方、d軸電流制御部34は、d軸目標電流値Id*(=0)とその時のd軸実電流値Idとでd軸制御電圧Vd*を生成し2相−3相電圧変換部36に出力する。
【0096】
この時、d軸電流制御部34は、ゲイン選択部38からd軸比例制御器43のためのd軸比例ゲインFpd及びd軸積分制御器44のためのd軸積分ゲインFidを入力する。
ゲイン選択部38は、トルクセンサ14からの操舵トルクτn及び操舵速度・操舵角算出器16からの操舵速度ωnに基づいて、d軸比例ゲインFpd及びd軸積分ゲインFidを導き出す。d軸比例ゲインFpdは、ゲイン選択部38のd軸比例ゲイン演算器38aにて導き出され、d軸電流制御部34に出力される。また、d軸積分ゲインFidは、ゲイン選択部38のd軸積分ゲイン演算器38bにて、導き出されd軸電流制御部34に出力される。
【0097】
この時、d軸比例ゲイン演算器38aは、「0」〜「1」の間の値を示すd軸比例ゲインFpdにおいて、操舵トルクτn(操舵速度ωnも同様)が大きくなるほど小さくなるd軸比例ゲインFpdを出力する。一方、d軸積分ゲイン演算器38bは、「0」〜「1」の間の値を示すd軸積分ゲインFidにおいて、操舵トルクτn(操舵速度ωnも同様)が大きくなるほど大きくなるd軸積分ゲインFidを出力する。
【0098】
従って、d軸電流制御部34は、操舵トルクτn及び操舵速度ωnが共に大きいほど、d軸比例ゲインFpdが最も小さくなるとともに、d軸積分ゲインFidが最も大きくなる。その結果、図5、図6に示すように、操舵トルクτn及び操舵速度ωnがともに大きいほど、d軸目標電流値Id*に対するd軸実電流値Idの電流応答性を最も高くすることができる。
【0099】
これによって、d軸実電流値Idの変動は小さくなり、回生電流の影響は小さくなるので、ハンドル2を動き易くすることができる。
ちなみに、操舵速度ωnが一定の時、d軸電流制御部34は、操舵トルクτnが大きいほど、d軸比例ゲインFpdが小さくなるとともに、d軸積分ゲインFidが大きくなることから、図5、図6から明らかなように、操舵トルクτnが大きいほど、d軸目標電流値Id*に対するd軸実電流値Idの電流応答性を高くすることができる。
【0100】
これによって、d軸実電流値Idの変動は小さくなり、回生電流の影響は小さくなるので、ハンドル2を動き易くすることができる。
また、例えば、路面抵抗、車速の変化等により、操舵トルクτnが大きくなると、d軸比例ゲインFpdが小さくなるとともに、d軸積分ゲインFidが大きくなる。その結果、d軸電流制御部34は、d軸目標電流値Id*に対するd軸実電流値Idの電流応答性を高くすることができる。これによって、d軸実電流値Idの変動は小さくなり、回生電流の影響は小さくなるので、ハンドル2を動き易くすることができる。
【0101】
反対に、車速が速く操舵トルクτnが小さい場合、d軸比例ゲインFpdが大きくなるとともに、d軸積分ゲインFidが小さくなることから、d軸電流制御部34は、d軸目標電流値Id*に対するd軸実電流値Idの電流応答性を低くすることができる。
【0102】
これによって、d軸実電流値Idの変動が大きくなり、回生電流の影響を受けてダンピング効果が高くなり、ハンドル2の安定性、つまり、ハンドル2に落ち着きが出て、ハンドル2を動き難くすることができる。
【0103】
また、ハンドル2を速く操作して操舵速度ωnが大きくなると、d軸比例ゲインFpdが小さくなるとともに、d軸積分ゲインFidが大きくなる。その結果、d軸電流制御部34は、d軸目標電流値Id*に対するd軸実電流値Idの電流応答性を高くすることができる。これによって、d軸実電流値Idの変動は小さくなり、回生電流の影響は小さくなるので、ハンドル2を動き易くすることができる。
【0104】
次に、上記のように構成したEPS制御装置20の効果を以下に記載する。
(1)上記実施形態によれば、制御回路21にゲイン選択部38を設けた。そして、ゲイン選択部38によって、d軸電流制御部34のd軸比例ゲインFpd及びd軸積分ゲインFidを、操舵トルクτnの変動に応じて変更させるようにした。そして、d軸電流制御部34において、操舵トルクτnの変動に応じて、d軸目標電流値Id*に対する周波数応答帯域の幅を可変させるようにした。
【0105】
従って、d軸電流制御部34は、操舵トルクτnが大きいほど、d軸実電流値Idの電流応答性を高くすることができる。その結果、d軸実電流値Idの変動は小さくなり、回生電流の影響が小さくなることから、ハンドル2を動き易くすることができる。
【0106】
逆に、車速が速く操舵トルクτnが小さい場合、d軸電流制御部34は、d軸実電流値Idの電流応答性を低くした。その結果、d軸実電流値Idの変動は大きくなり、回生電流の影響を受けてダンピング効果が高くなり、ハンドル2の安定性、つまり、ハンドル2に落ち着きが出て、ハンドル2を動き難くすることができる。
【0107】
(2)上記実施形態によれば、ゲイン選択部38によって、d軸電流制御部34のd軸比例ゲインFpd及びd軸積分ゲインFidを、操舵速度ωnの変動に応じて変更させるようにした。そして、d軸電流制御部34において、操舵速度ωnの変動に応じて、d軸目標電流値Id*に対する周波数応答帯域の幅を可変させるようにした。
【0108】
従って、d軸電流制御部34は、操舵速度ωnが大きいほど、d軸実電流値Idの電流応答性を高くすることができる。その結果、d軸実電流値Idの変動は小さくなり、回生電流の影響が小さくなることから、ハンドル2を動き易くすることができる。
【0109】
(3)上記実施形態によれば、トルク軸成分であるq軸成分を制御するq軸電流制御部35のq軸比例ゲインFpq及びq軸積分ゲインFiqは、操舵速度ωn及び操舵トルクτnの変動に関係なく、常に一定であってq軸の電流応答を変更させないようにした。
【0110】
従って、ハンドル2の操舵に対するトルクの応答を確保することができる。
尚、上記第1実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記第1実施形態では、ゲイン選択部38は、操舵トルクτn及び操舵速度ωnに基づいて、d軸フィードバックゲイン(d軸比例ゲインFpd及びd軸積分ゲインFid)を求めた。これを、操舵トルクτn及び操舵速度ωnのいずれか一方を用いて、d軸フィードバックゲインを求めて界磁軸成分であるd軸成分の応答性を制御するように実施してもよい。
【0111】
勿論、操舵トルクτn及び操舵速度ωnに基づいて、d軸比例ゲインFpd及びd軸積分ゲインFidのいずれか一方だけを求めてその一方だけを使って、d軸成分の応答性を制御するように実施してもよい。
【0112】
・上記第1実施形態では、ゲイン選択部38は、操舵トルクτn及び操舵速度ωnに基づいて、d軸フィードバックゲインを求めた。これを、その時々の車速を新たに加えて、操舵トルクτn、操舵速度ωn及び車速に基づいて、d軸比例ゲインFpd及びd軸積分ゲインFidのいずれか一方を求めて実施してもよい。
【0113】
この場合、車速が速い場合に、車両状態を安定にするために、d軸の電流応答を低くしてハンドル2を動きにくくすることができる。しかも、速い車速でも、操舵トルクτnが大きい場合などは、ドライバが意図して操舵していると判断することができ、d軸の電流応答を高くしてハンドルを動き易くすることもできる。
【0114】
・上記第1実施形態では、d軸電流制御部34を2自由度IP制御器で構成した。これを、図13に示すように、PI制御器で構成されるd軸電流制御部70を用いて実施してもよい。
【0115】
d軸電流制御部70は、図13に示すように、d軸減算器71、d軸比例制御器72、d軸積分制御器73、d軸加算器74、ゲイン調整器75を備えている。
d軸減算器71は、d軸目標電流値Id*からd軸実電流値Idを減算し、その差分値(=Id*−Id)をd軸比例制御器72及びd軸積分制御器73に出力する。d軸比例制御器72は、その差分値を比例処理してd軸加算器74に出力する。d軸積分制御器73は、同じく差分値を積分処理してd軸加算器74に出力する。d軸加算器74は、d軸積分制御器73からの出力値とd軸比例制御器72からの出力値とを加算し、その加算値をゲイン調整器75を介してd軸制御電圧Vd*として2相−3相電圧変換部36に出力する。
【0116】
そして、図13において、d軸比例制御器72の「Kpd」はd軸比例ゲインであり、d軸積分制御器73の「Kid」はd軸積分ゲインである。また、d軸積分制御器73の「s」はラプラス演算子である。
【0117】
そして、このPI制御器からなるd軸電流制御部70においても、d軸比例ゲインKpd及びd軸積分ゲインKidを変更することによって電流応答性を変更することができる。
このPI制御の場合、d軸比例ゲインKpdとd軸積分ゲインKidの一方を変更した場合には、2自由度IP制御器と相違して、図5または図6に示すような、フラットなゲインの応答は得ることができない。そこで、PI制御の場合、図5または図6に示すように、フラットな領域を維持したまま応答性を変えるには、d軸比例ゲインKpd及びd軸積分ゲインKidを一律に変更する必要がある。そのため、d軸加算器74は、d軸積分制御器73からの出力値とd軸比例制御器72からの出力値とをd軸加算器74にて加算後、その加算値をゲインGが0<G≦1となるゲイン調整器75を介してゲイン調整してd軸制御電圧Vd*として2相−3相電圧変換部36に出力している。
【0118】
(第2実施形態)
次に、EPS制御装置20の第2実施形態について図14に従って説明する。
第2実施形態では、第1実施形態の主要部が基本的に同じなので、説明の便宜上、第1実施形態と共通部分についは符号を同じにしてその詳細は省略し、相違する点のみ詳細に説明する。
【0119】
図14において、回転センサ24には、バンドパスフィルタ81が接続されている。バンドパスフィルタ81は、回転センサ24から回転速度信号を入力し、その時々のブラシレスモータMの回転速度信号の周波数において、予め決められた周波数帯域B1の周波数について通過させる。
【0120】
予め決められた周波数帯域B1とは、図15に示す、操舵トルクτnのゲインに対するブラシレスモータMの回転速度信号の周波数において、何らかの要因(路面外乱やメカ・車両の共振特性等によって発生)で不要な振動が重畳して操舵トルクτnのゲインが大きくなっていて、動き易くなっている部分の周波数帯域(中心周波数f1を中心に一定の幅)をいう。
【0121】
この路面外乱やメカ・車両の共振特性等からくる不要な振動は、ブラシレスモータMがトルクを発生するにあたって、逆起電力という外乱となり、q軸電流及びd軸電流を乱す振動であって、ブラシレスモータMの回転速度信号にあらわれる。
【0122】
そこで、バンドパスフィルタ81において、回転速度振動成分、すなわち、回転速度信号から特定の(不要な振動成分が属する周波数帯域B1)周波数成分を抽出している。
バンドパスフィルタ81で抽出された特定の(不要な振動成分が属する周波数帯域B1)周波数成分の回転速度信号は、補正定数設定回路82に出力される。補正定数設定回路82は、バンドパスフィルタ81で抽出された回転速度信号の振動成分と補正定数を乗算して補正電圧Veを生成する。補正電圧Veは、図15に実線で示すように、操舵トルクτnのゲインを回転速度信号の周波数に相対して低下させてブラシレスモータMが動き難くなるようにするために、d軸制御電圧Vd*を補正するための電圧である。
【0123】
ブラシレスモータMは回転速度に比例して逆起電力が発生することから、抽出された回転速度成分は逆起電力の振動成分となり、その振動成分をもって、補正定数設定回路82は、補正電圧Veを生成する。
【0124】
そして、補正定数設定回路82は、予め設定した補正定数とその時の振動成分とを乗算して補正電圧Veを生成する。つまり、補正定数設定回路82は、図16のボード線図において、実線で示すように、中心周波数f1を中心に一定の幅、即ち、予め決められた周波数帯域B1のゲインを下げて、ゲインを一様にして、3相ブラシレスモータMが動き難くするための補正電圧Veを生成する。
【0125】
なお、予め決められた周波数帯域B1における、回転速度信号(周波数)に対する補正定数は、予め試験又は実験等によって求められ、図示しないメモリに記憶されている。
補正定数設定回路82にて生成された補正電圧Veは、d軸電流制御部34と2相−3相電圧変換部36との間に設けた減算器83に出力される。減算器83は、d軸電流制御部34からのd軸制御電圧Vd*と補正定数設定回路82からの補正電圧Veを入力する。
【0126】
そして、減算器83は、d軸制御電圧Vd*から補正電圧Veを減算し、その減算値(=Vd*−Ve)を補正d軸制御電圧Vd**として2相−3相電流変換部32に出力する。
【0127】
従って、補正d軸制御電圧Vd**が2相−3相電流変換部32に入力されることによって、図16のボード線図の実線で示すように、中心周波数f1を中心に一定の幅、即ち、予め決められた周波数帯域B1のゲインが下げられる。その結果、ブラシレスモータMが、周波数帯域B1で安定になり、操舵トルクのゲインが下がり、不快な振動が減り、操舵感が向上する。
【0128】
次に、上記のように構成したEPS制御装置20の作用について説明する。
今、ハンドル2を一方向に回動操作され、目標電流値生成回路23にて目標電流値生成回路23は、d軸目標電流値Id*及びq軸目標電流値Iq*が算出されるとともに、ゲイン選択部38にてd軸比例ゲインFpd及びd軸積分ゲインFidが算出される。これによって、ブラシレスモータMは、d軸目標電流値Id*及びq軸目標電流値Iq*、並びに、d軸比例ゲインFpd及びd軸積分ゲインFidによって駆動制御されている。
【0129】
そして、バンドパスフィルタ81が予め決められた周波数帯域B1の回転速度信号を抽出し、補正定数設定回路82に出力される。補正定数設定回路82は、バンドパスフィルタ81にて抽出された回転速度信号の振動成分(不要な振動成分)と補正定数を乗算して補正電圧Veを生成し、減算回路83に出力する。
【0130】
そして、減算器83は、d軸制御電圧Vd*から補正電圧Veを減算した補正d軸制御電圧Vd**(=Vd*−Ve)を2相−3相電流変換部32に出力する。
従って、予め決められた周波数帯域B1中で回転しているブラシレスモータMは、d軸制御電圧Vd*から補正電圧Veを減算した補正d軸制御電圧Vd**で制御されるため、不要な振動が除去される。
【0131】
つまり、ブラシレスモータMの回転速度に相対してブラシレスモータMの特性も変化させることができ、ハンドル2の操舵感を向上させることができる。
次に、上記のように構成した第2実施形態の効果を以下に記載する。
【0132】
(1)上記実施形態によれば、第1実施形態の効果に加えて、ブラシレスモータMの回転速度が予め決められた周波数帯域B1において、何らかの要因(路面外乱やメカ・車両の共振特性等によって発生)で不要な振動が重畳してゲインが変動して、ブラシレスモータMの動き易さが変動しても、これを補償することができる。
【0133】
尚、上記第2実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記第2実施形態では、予め決められた周波数帯域B1において、ブラシレスモータMが動き易くなっていてこれを補償する場合について説明した。これを、図17に破線で示すように、何らかの要因(路面外乱やメカ・車両の共振特性等によって発生)で操舵トルクτnのゲインが小さくなり動き難くなっている予め決められた周波数帯域B2(中心周波数f2を中心に一定の幅)があってこれを、動き易く補償する場合にも応用してもよい。
【0134】
この場合、d軸電流制御部34と2相−3相電圧変換部36との間に設けた減算器83に代えて加算器とする。そして、その加算器に、補正定数設定回路82で生成した補正電圧Veを出力する。そして、加算器は、補正電圧Veをd軸電流制御部34からのd軸制御電圧Vd*に加算し、その加算値を補正d軸制御電圧Vd**(=Vd*−Ve)を2相−3相電流変換部32に出力する。
【0135】
これによって、図18のボード線図の実線で示すように、中心周波数f2を中心に一定の幅、即ち、予め決められた周波数帯域B2のゲインを上げられる。その結果、ブラシレスモータMが、周波数帯域B2でダンピングが減り、周波数帯域B2の操舵トルクのゲインが上がり操舵感が向上する。
【0136】
・上記第2実施形態では、予め決められた周波数帯域B1が1つであったが、複数あってよい。この場合、予め決められた周波数帯域B1の数だけ、バンドパスフィルタの数が必要となる。
【0137】
勿論、ブラシレスモータMが動き易くなる予め決められた周波数帯域B1とブラシレスモータMが動き難くなる予め決められた周波数帯域B2の両方が存在する場合にも応用してもよい。この場合には、減算器83と加算器の両方が必要となる。
【0138】
・上記第2実施形態では、d軸制御電圧Vd*を補正し、その補正した補正d軸制御電圧Vd**を2相−3相電流変換部32に出力して、予め決められた周波数帯域B1でのブラシレスモータMの動きを補償した。これを、d軸目標電流値Id*を補正するようにして、実施してもよい。
【0139】
この場合、図19に示すように、目標電流値生成回路23とd軸電流制御部34との間に、減算器84を設ける。一方、補正定数設定回路82は、同補正定数設定回路82で生成した補正電圧Veに基づいて、予め決められた周波数帯域B1において、操舵トルクτnのゲインが図15、図16に実線で示すようになるように、d軸目標電流値Id*を補正するための補正電流値Ieを生成する。そして、この補正電流値Ieを減算器84に出力する。減算器84は、d軸目標電流値Id*から補正電流値Ieを減算し、その減算値(=Id*−Ie)を補正d軸目標電流値Id**としてd軸電流制御部34に出力する。
【0140】
なお、図17、図18に示す予め決められた周波数帯域B2の場合には、減算器84に代えて加算器となる。
(第3実施形態)
次に、EPS制御装置20の第3実施形態について図20に従って説明する。
【0141】
第3実施形態では、第1実施形態の主要部が基本的に同じなので、説明の便宜上、第1実施形態と共通部分については符号を同じにしてその詳細は省略し、相違する点のみ詳細に説明する。
【0142】
第2実施形態は、ブラシレスモータMが予め決められた周波数帯域B1又は予め決められた周波数帯域B2において、何らかの要因(路面外乱やメカ・車両の共振特性等によって発生)で不要な振動が重畳して操舵トルクτnのゲインが変動し、動きが変動して回転するのを補償すべく、d軸制御電圧Vd*又はd軸目標電流値Id*を補正するものであった。
【0143】
本実施形態では、図15に破線で示すような、何らかの要因(路面外乱やメカ・車両の共振特性等によって発生)で不要な振動が重畳して操舵トルクτnのゲインが変動するのを、3相−2相電流変換部32からのd軸実電流値Idにて制御する。そして、d軸実電流値Idを制御することによって、操舵トルクτnのゲインを図15、図16に実線で示すようになるように補償するようにしている。
【0144】
図20において、3相−2相電流変換部32とd軸電流制御部34の間に、バンドパスフィルタ85が設けられている。バンドパスフィルタ85は、3相−2相電流変換部32からのd軸実電流値Idを入力し、その時々のブラシレスモータMのd軸実電流値Idの周波数において、予め決められた周波数帯域B1の周波数について通過させる。そして、バンドパスフィルタ85を通過した予め決められた周波数帯域B1の周波数のd軸実電流値Idがd軸電流制御部34に出力される。
【0145】
d軸電流制御部34は、予め決められた周波数帯域B1の周波数のd軸実電流値Idとd軸目標電流値Id*とで、d軸制御電圧Vd*を生成し2相−3相電圧変換部36に出力する。この時、d軸電流制御部34で生成したd軸制御電圧Vd*は、第2実施形態おいて、2相−3相電流変換部32に出力される補正d軸制御電圧Vd**(=Vd*−Ve)に相当する電圧である。
【0146】
従って、図16のボード線図の実線で示すように、予め決められた周波数帯域B1の操舵トルクτnのゲインが制御される。その結果、図15の操舵トルクτnのゲインに対するブラシレスモータMの回転速度信号の周波数において、実線で示すように予め決められた周波数帯域B1の操舵トルクτnのゲインが制御され、ブラシレスモータMを予め決められた周波数帯域B1での動きを制御することができる。
【0147】
次に、上記のように構成したEPS制御装置20の作用について説明する。
今、ハンドル2を一方向に回動操作され、目標電流値生成回路23にて目標電流値生成回路23は、d軸目標電流値Id*及びq軸目標電流値Iq*が算出されるとともに、ゲイン選択部38にてd軸フィードバックゲインが算出される。これによって、ブラシレスモータMは、d軸目標電流値Id*、q軸目標電流値Iq*、及び、d軸フィードバックゲインによって駆動制御されている。
【0148】
3相−2相電流変換部32のd軸実電流値Idの周波数が予め決められた周波数帯域B1に入ると、d軸実電流値Idは、予め決められた周波数帯域B1での操舵トルクτnのゲインを下げるために、バンドパスフィルタ85を介してd軸電流制御部34に入力される。
【0149】
従って、予め決められた周波数帯域B1中で回転しているブラシレスモータMは、q軸目標電流値Iq*とバンドパスフィルタ85を介して出力されるd軸実電流値Idとで生成されるd軸制御電圧Vd*によって、操舵トルクτnのゲインが下げられて不要な振動が除去される。
【0150】
つまり、ブラシレスモータMの回転速度に相対してブラシレスモータMの特性も相対して変化させることができ、ハンドル2の操舵感を向上させることができる。
次に、上記のように構成した第3実施形態の効果を以下に記載する。
【0151】
(1)上記実施形態によれば、第1実施形態の効果に加えて、ブラシレスモータMの回転速度が、予め決められた周波数帯域B1において、何らかの要因(路面外乱やメカ・車両の共振特性等によって発生)で不要な振動が重畳して操舵トルクτnのゲインが変動してブラシレスモータMの動き易さが変動しても、これを補償することができる。
【0152】
なお、図17、図18に示す予め決められた周波数帯域B2の場合には、予め決められた周波数帯域B2での操舵トルクτnのゲインを上げるためのバンドパスフィルタ85を設け、バンドパスフィルタ85を介してd軸実電流値をd軸電流制御部34に出力することになる。
【0153】
(第4実施形態)
次に、EPS制御装置20の第4実施形態について図21に従って説明する。
第4実施形態では、上記した第2実施形態の主要部が基本的に同じなので、説明の便宜上、第2実施形態と共通部分についは符号を同じにしてその詳細は省略し、相違する点のみ詳細に説明する。
【0154】
図21に示すように、第4実施形態のEPS制御装置20は、図14に示す第2実施形態のEPS制御装置20のゲイン選択部38を省略した構成である。従って、d軸電流制御部34に設けたd軸比例制御器43のd軸比例ゲインFpd及びd軸積分制御器44のd軸積分ゲインFidは固定値である。
【0155】
つまり、d軸比例ゲインFpd及びd軸積分ゲインFidを、操舵速度ωnや操舵トルクτnが変動しても変更させないで、d軸目標電流値Id*に対するd軸実電流値Idの電流応答性を一定にした。
【0156】
従って、第4実施形態によれば、ブラシレスモータMの回転速度が図15に示す予め決められた周波数帯域B1(図17の予め決められた周波数帯域B2も同様)において、何らかの要因(路面外乱やメカ・車両の共振特性等によって発生)で不要な振動が重畳してゲインが変動して、ブラシレスモータMの動き易さが変動しても、第2実施形態と同様に、これを補償することができる。
【0157】
勿論、図19に示すEPS制御装置20のゲイン選択部38を省略して実施してもよい。
(第5実施形態)
次に、EPS制御装置20の第5実施形態について図22に従って説明する。
【0158】
第5実施形態では、上記した第3実施形態の主要部が基本的に同じなので、説明の便宜上、第3実施形態と共通部分についは符号を同じにしてその詳細は省略し、相違する点のみ詳細に説明する。
【0159】
図22に示すように、第5実施形態のEPS制御装置20は、図20に示す第3実施形態のEPS制御装置20のゲイン選択部38を省略した構成である。従って、d軸電流制御部34に設けたd軸比例制御器43のd軸比例ゲインFpd及びd軸積分制御器44のd軸積分ゲインFidは固定値である。
【0160】
つまり、d軸比例ゲインFpd及びd軸積分ゲインFidを、操舵速度ωnや操舵トルクτnが変動しても変更させないで、d軸目標電流値Id*に対するd軸実電流値Idの電流応答性を一定にした。
【0161】
従って、第5実施形態によれば、ブラシレスモータMの回転速度が図16に示すように予め決められた周波数帯域B1(図17の予め決められた周波数帯域B2も同様)において、何らかの要因(路面外乱やメカ・車両の共振特性等によって発生)で不要な振動が重畳してゲインが変動して、ブラシレスモータMの動き易さが変動しても、第2実施形態と同様に、これを補償することができる。
【0162】
尚、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記第2〜5実施形態では、バンドパスフィルタ81,85を設けたが、バンドパスフィルタに変えて、ノッチフィルタにしたり、ローパスフィルタとハイパスフィルタを組み合わせたりして実施してもよい。
【0163】
・上記各実施形態では、目標電流値生成回路23が生成するd軸目標電流値Id*を「0」としたが、これに限定されるものではない。例えば、操舵速度ωnに応じてd軸目標電流値Id*を適宜変更してもよい。
【符号の説明】
【0164】
1…電動パワーステアリング装置(EPS装置)、2…ハンドル、3…ステアリングシャフト、3a…入力軸ロータ、3b…出力軸、4…自在継ぎ手、5…インターミディエイト、6…回転軸、7…ラック、8…ピニオン軸、9…タイロッド、10…タイヤ、11…ステアリングコラム、14…トルクセンサ、15…操舵角検出センサ、16…操舵速度・操舵角算出器、20…電動パワーステアリング制御装置(EPS制御装置)、21…制御回路、22…インバータ回路、23…目標電流値生成回路(目標電流値生成手段)、24…回転センサ、25…第1電流検出器、26…第2電流検出器、31…位置演算部(実電流値検出手段)、32…3相−2相電流変換部(実電流値検出手段)、34…d軸電流制御部(d軸電流制御手段)、35…q軸電流制御部(q軸電流制御手段)、36…2相−3相電圧変換部(駆動手段)、37…PWM生成部(駆動手段)、38…ゲイン選択部(補正手段)、38a…d軸比例ゲイン演算器、38b…d軸積分ゲイン演算器、41…第1d軸減算器、42…第2d軸減算器、43…d軸比例制御器、44…d軸積分制御器、51…第1q軸減算器、52…第2q軸減算器、53…q軸比例制御器、54…q軸積分制御器、61…基準値生成部、62…第1補正部、63…第2補正部、64…乗算部、66…基準値生成部、67…第1補正部、68…第2補正部、69…乗算部、70…d軸電流制御部、71…d軸減算器、72…d軸比例制御器、73…d軸積分制御器、74…q軸加算器、81,85…バンドパスフィルタ(補正手段)、82…補正定数設定回路(補正手段)、83,84…減算器(補正手段)、M…3相ブラシレスモータ、α1,β1…第1補正係数値、α2,β2…第2補正係数値、ωn…操舵速度、τn…操舵トルク、fp,fi…基準ゲイン値、Id…d軸実電流値、Iq…q軸実電流値、Iu…U相電流、Iv…V相電流、Su,Sv,Sw…PWM信号、Vu,Vv,Vw…駆動電圧、Fpd…d軸比例ゲイン、Fpq…q軸比例ゲイン、Fid…d軸積分ゲイン、Fiq…q軸積分ゲイン、Id*…d軸目標電流値、Ie…補正電流値、Id**…補正d軸目標電流値、Iq*…q軸目標電流値、Vd*…d軸制御電圧、Ve…補正電圧、Vd**…補正d軸制御電圧、Vq*…q軸制御電圧、TBa1,TBb1…第1補正テーブル、TBa2,TBb2…第2補正テーブル、N…中立位置、B1,B2…周波数帯域、f1,f2…中心周波数。
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動パワーステアリング制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電動パワーステアリング装置(以下、EPS装置)に使用されるブラシレスモータをベクトル制御にて駆動する電動パワーステアリング制御装置(以下、EPS制御装置)が種々提案されている(例えば、特許文献1,2,3,4)。
【0003】
特許文献1では、操舵速度が速い時にd軸電流がモータの界磁を弱めるように電流指令値を補正するようにしたEPS制御装置が提案されている。また、特許文献2では、指令トルクが低い状態におけるモータ回転数を増加させるため、d軸電流をモータの界磁を弱めるように補正し、トルクが「0」から増加する場合に、d軸電流を「0」にするようにしたEPS制御装置が提案されている。
【0004】
さらに、特許文献3では、車速が大きく、操舵トルクが小さく、回転速度が低い場合に、コギングトルクの影響を低減するため、d軸電流指令値をモータの界磁が弱まるように補正するようにしたEPS制御装置が提案されている。さらにまた、特許文献4では、d軸に外乱オブザーバを設けて速度起電圧を補償したEPS制御装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3559258号公報
【特許文献2】特許第3624737号公報
【特許文献3】特開2007−216698号公報
【特許文献4】特開2009−22149号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記各EPS制御装置においは、EPS装置のブラシレスモータをベクトル制御にて駆動する際、要求トルクを出力するために、ベクトル制御のd軸電流は、0[A]にしてq軸電流を邪魔しないようにしたり、負に値にしてモータの界磁を弱め、速い操舵に対応できるようにしている。しかしながら、各EPS制御装置とも、d軸の電流指令値を補正するだけで、車両状態や操舵状態に応じて操舵するには不十分だった。
【0007】
本発明は上記問題点を解消するためになされたものであって、その目的は、車両状態又は操舵状態に応じて、操舵感を向上させることができる電動パワーステアリング制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、車両のハンドルによる操作に基づいて、そのハンドルにかかる操舵トルクを検出するトルクセンサと、ステアリング機構にアシストトルクを付与するモータと、前記トルクセンサが検出した操舵トルクに基づいて、前記モータをベクトル制御するためにq軸成分のq軸目標電流値と、d軸成分のd軸目標電流値を生成する目標電流値生成手段と、前記モータからq軸成分のq軸実電流値とd軸成分のd軸実電流値を検出する実電流値検出手段と、前記q軸目標電流値と前記q軸実電流値とに基づいて、q軸制御電圧を生成するq軸電流制御手段と、前記d軸目標電流値と前記d軸実電流値とに基づいて、d軸制御電圧を生成するd軸電流制御手段と、前記q軸制御電圧と前記d軸制御電圧に基づいて、前記モータに印加するための駆動電圧を生成する駆動手段とを有した電動パワーステアリング制御装置であって、前記車両の車両状態又は前記ハンドルの操舵状態に応じて、前記d軸成分の特性を可変させる補正手段を設け、ハンドルにかかる操舵トルクを制御する。
【0009】
請求項1に記載の発明によれば、車両状態又はハンドルの操舵状態に応じて、補正手段は、d軸成分の特性を可変させる。そして、モータのベクトル制御において、d軸成分を有効に制御することで、モータのアシストトルクを制御しハンドルの操舵感を向上させる。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の電動パワーステアリング制御装置において、前記補正手段は、前記車両の車両状態又は前記ハンドルの操舵状態に応じて、前記d軸電流制御手段の特性を可変させる。
【0011】
請求項2に記載の発明によれば、補正手段は、車両状態又は操舵状態に応じて、d軸電流制御手段の特性を可変させる。そして、モータのベクトル制御において、特性が可変されるd軸電流制御手段のd軸電流を有効に使うことで、モータのアシストトルクを制御しハンドルの操舵感を向上させる。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の電動パワーステアリング制御装置において、前記d軸電流制御手段の特性は、前記d軸目標電流値に対する前記d軸実電流値の周波数応答帯域であり、前記補正手段は、前記車両の車両状態又は前記ハンドルの操舵状態に応じて、前記周波数応答帯域を可変させるものである。
【0013】
請求項3に記載の発明によれば、補正手段は、車両状態又は操舵状態に応じて、d軸電流制御手段のd軸目標電流値に対するd軸実電流値の周波数応答帯域を可変させる。そして、モータのベクトル制御において、周波数応答帯域が可変されるd軸電流を有効に使うことで、モータのアシストトルクを制御しハンドルの操舵感を向上させる。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の電動パワーステアリング制御装置において、
前記d軸電流制御手段は、2自由度IP制御器又はPI制御器よりなり、前記制御器に含まれるd軸積分制御器の積分ゲイン及びd軸比例制御器の比例ゲインの少なくともいずれか一方が、前記補正手段にて前記車両の車両状態又は前記ハンドルの操舵状態に応じて可変されて、前記周波数応答帯域が可変される。
【0015】
請求項4に記載の発明によれば、補正手段は、車両状態又は操舵状態に応じて、制御器に含まれるd軸積分制御器の積分ゲイン及びd軸比例制御器の比例ゲインの少なくともいずれか一方を可変し、d軸電流制御手段の周波数応答帯域を可変させる。そして、モータのベクトル制御において、周波数応答帯域が可変されるd軸電流制御手段のd軸電流を有効に使うことで、モータのアシストトルクを制御しハンドルの操舵感を向上させる。
【0016】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の電動パワーステアリング制御装置において、前記補正手段は、ハンドルの操舵速度、操舵トルク、操舵角及び車速の少なくともいずれか1つに基づいて、前記d軸積分制御器の積分ゲインまたは前記d軸比例制御器の比例ゲインを設定する。
【0017】
請求項5に記載の発明によれば、d軸積分制御器の積分ゲイン及びd軸比例制御器の比例ゲインは、補正手段によってハンドルの操舵速度、操舵トルク、操舵角及び車速の少なくともいずれか1つに基づいて可変される。
【0018】
請求項6に記載の発明は、請求項4又は5に記載の電動パワーステアリング制御装置において、前記補正手段は、ハンドルの操舵速度が速いほど、前記周波数応答帯域が高くなるように、前記d軸積分制御器の積分ゲイン及び前記d軸比例制御器の比例ゲインを設定した。
【0019】
請求項6に記載の発明によれば、d軸積分制御器の積分ゲイン及びd軸比例制御器の比例ゲインは、補正手段によって、ハンドルの操舵速度が速いほど周波数応答帯域が高くなるように設定し、ハンドルの操舵感を操舵速度に応じて制御する。
【0020】
請求項7に記載の発明は、請求項4〜6のいずれか1項に記載の電動パワーステアリング制御装置において、前記補正手段は、ハンドルの操舵トルクが大きいほど、前記周波数応答帯域が高くなるように、前記d軸積分制御器の積分ゲイン及び前記d軸比例制御器の比例ゲインを設定した。
【0021】
請求項7に記載の発明によれば、d軸積分制御器の積分ゲイン及びd軸比例制御器の比例ゲインは、補正手段によって、ハンドルの操舵トルクが大きいほど周波数応答帯域が高くなるように設定し、ハンドルの操舵感を操舵トルクに応じて制御する。
【0022】
請求項8に記載の発明は、請求項4〜7のいずれか1項に記載の電動パワーステアリング制御装置において、前記補正手段は、ハンドルの操舵角が中立位置に近いほど、前記周波数応答帯域が低くなるように、前記d軸積分制御器の積分ゲイン及び前記d軸比例制御器の比例ゲインを設定した。
【0023】
請求項8に記載の発明によれば、d軸積分制御器の積分ゲイン及びd軸比例制御器の比例ゲインは、補正手段によって、ハンドルの操舵角が中立位置に近いほど周波数応答帯域が低くなるように設定し、ハンドルの操舵感を中立位置付近にハンドルが収まり易くする制御ができる。
【0024】
請求項9に記載の発明は、請求項1に記載の電動パワーステアリング制御装置において、前記補正手段は、前記車両の車両状態又は前記ハンドルの操舵状態に応じて、前記d軸成分の前記d軸制御電圧、前記d軸目標電流値及び前記d軸実電流値の少なくとも1つを可変させる。
【0025】
請求項9に記載の発明によれば、補正手段は、車両状態又は操舵状態に応じて、d軸制御電圧、d軸目標電流値及び前記d軸実電流値の少なくとも1つを可変させる。そして、モータのベクトル制御において、可変したd軸制御電圧、d軸目標電流値及びd軸実電流値の少なくとも1つを有効に使うことで、モータのアシストトルクを制御しハンドルの操舵感を向上させる。
【0026】
請求項10に記載の発明は、請求項1又は9に記載の電動パワーステアリング制御装置において、前記補正手段は、前記d軸目標電流値に対する前記d軸実電流値の周波数応答帯域の予め決められた周波数応答帯域のゲインを可変にする。
【0027】
請求項10に記載の発明によれば、補正手段は、d軸目標電流値に対するd軸実電流値の周波数応答帯域の予め決められた周波数応答帯域のゲインを可変にする。そして、モータのベクトル制御において、可変したd軸実電流値の周波数応答帯域の予め決められた周波数応答帯域のゲインを使うことで、モータのアシストトルクを制御しハンドルの操舵感を向上させる。
【0028】
請求項11に記載の発明は、請求項9又は10に記載の電動パワーステアリング制御装置において、前記補正手段は、前記モータの回転速度信号から予め決められた周波数応答帯域の回転速度信号をバンドパスフィルタにて検出し、予め決められた周波数応答帯域における回転速度信号に基づいて補正値を算出し、その補正値にて、前記d軸制御電圧又は前記d軸目標電流値を補正する。
【0029】
請求項11に記載の発明によれば、補正手段は、モータの回転速度信号の予め決められた周波数応答帯域における回転速度信号に基づいてd軸制御電圧又はd軸目標電流値を補正する。そして、モータのベクトル制御において、補正されたd軸制御電圧又はd軸目標電流値を使うことで、モータのアシストトルクを制御しハンドルの操舵感を向上させる。
【0030】
請求項12に記載の発明は、請求項9又は10に記載の電動パワーステアリング制御装置において、前記補正手段は、前記d軸実電流値から予め決められた周波数応答帯域の前記d軸実電流値をバンドパスフィルタにて検出し、その検出された前記d軸実電流値と前記d軸目標電流値とで、前記d軸電流制御手段においてd軸制御電圧を生成させる。
【0031】
請求項12に記載の発明によれば、補正手段は、d軸実電流値から予め決められた周波数応答帯域のd軸実電流値を検出し、そのd軸実電流値とd軸目標電流値とで、d軸電流制御部においてd軸制御電圧を生成させる。そして、モータのベクトル制御において、生成されたd軸制御電圧を使うことで、モータのアシストトルクを制御しハンドルの操舵感を向上させる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、アシストトルクを付与するモータのベクトル制御において、車両状態又は操舵状態に応じて、d軸成分を制御することによってモータのアシストトルクを制御し、操舵感を向上することができる電動パワーステアリング制御装置を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】第1実施形態の電動パワーステアリング装置の機構を示す機構図。
【図2】電動パワーステアリング制御装置の電気ブロック回路図。
【図3】d軸電流制御部の構成を示すブロック図。
【図4】q軸電流制御部の構成を示すブロック図。
【図5】d軸積分ゲインにおける電流応答性を示すボード線図。
【図6】d軸比例ゲインにおける電流応答性を示すボード線図。
【図7】d軸比例ゲイン演算器の構成を示す図。
【図8】d軸比例ゲインの補正を行うための操舵速度に対する第1補正係数値を導き出す特性曲線のデータを示す図。
【図9】d軸比例ゲインの補正を行うための操舵トルクに対する第2補正係数値を導き出す特性曲線のデータを示す図。
【図10】d軸積分ゲイン演算器の構成を示す図。
【図11】d軸積分ゲインの補正を行うための操舵速度に対する第1補正係数値を導き出す特性曲線のデータを示す図。
【図12】d軸積分ゲインの補正を行うための操舵トルクに対する第2補正係数値を導き出す特性曲線のデータを示す図。
【図13】第1実施形態のd軸電流制御部の別例を示すブロック回路。
【図14】第2実施形態の電動パワーステアリング制御装置の電気ブロック回路図。
【図15】操舵トルクと回転速度の周波数の関係を示す図。
【図16】d軸電流の電流応答を示すボード線図。
【図17】操舵トルクと回転速度の周波数の関係を示す図。
【図18】d軸電流の電流応答を示すボード線図。
【図19】第2実施形態の別例を説明するための電動パワーステアリング制御装置の電気ブロック回路図。
【図20】第3実施形態の電動パワーステアリング制御装置の電気ブロック回路図。
【図21】第4実施形態の電動パワーステアリング制御装置の電気ブロック回路図。
【図22】第5実施形態の電動パワーステアリング制御装置の電気ブロック回路図。
【発明を実施するための形態】
【0034】
(第1実施形態)
以下、本発明を具体化した第1実施形態について図面に従って説明する。
(電動パワーステアリング装置1)
図1に示すように、電動パワーステアリング装置(以下、EPS装置という)1のステアリング機構は、基端部にハンドル2を固定したステアリングシャフト3を有し、そのステアリングシャフト3の先端部は、自在継ぎ手4を介して、インターミディエイト5に連結されている。ステアリングシャフト3は、入力軸3aと出力軸3bからなり、円筒状の入力軸3a内に、出力軸3bの一部が貫挿されている。入力軸3aの基端部には、ハンドル2が固定され、出力軸3bの先端部には、自在継ぎ手4が連結されている。また、入力軸3aと出力軸3bの間には、トーションバー(図示せず)が設けられ、入力軸3aの回転に追従して出力軸3bを回転させるようになっている。
【0035】
そして、ハンドル操作に基づく、回転及び操舵トルクはラック7&ピニオン軸8に伝達され、ピニオン軸8の回転にてラック7が車幅方向に往復動する。これによって、ラック7の両端に連結したタイロッド9を介してタイヤ10の舵角が変更される。
【0036】
ステアリングシャフト3の入力軸3aには、ステアリングコラム11が装備されている。ステアリングコラム11には、3相ブラシレスモータ(以下、ブラシレスモータという))Mが設けられている。ブラシレスモータMは、本実施形態では、ロータコアに永久磁石を設け、ステータコアにU相巻線、V相巻線、W相巻線を巻回したブラシレスモータである。ブラシレスモータMは、減速ギヤ(図示せず)を介して入力軸3aに接続されている。ブラシレスモータMは、入力軸3aを回転制御してハンドル操作をする際に、ハンドル2に対して補助操舵力(以下、アシストトルクという)を付与する。
【0037】
また、ステアリングコラム11には、トルクセンサ14(図2参照)が設けられている。トルクセンサ14は、入力軸3aと出力軸3bとの間に設けた前記トーションバーのねじれ(ねじれ角)を検出する。ハンドル操作に基づいて入力軸3aが回転すると、出力軸3bとの間にずれが生じ、このずれがトーションバーのねじれとなってあらわれる。つまり、トーションバーも入力軸3aとともに回転する一方で、出力軸3bは、タイヤ10の路面抵抗等があることから、入力軸3aの回転に対して遅れが生じ、トーションバーにねじれが生じる。
【0038】
トルクセンサ14は、このねじれ角を検出して、ハンドル2にかかるトルク、即ち、ステアリングシャフト3の入力軸3aにかかるトルク(操舵トルクτn)を検出する。そして、トルクセンサ14が検出した操舵トルクτnに基づいて、ハンドル操作をする際のアシストトルクが算出され、ブラシレスモータMを駆動制御するようになっている。
【0039】
また、ステアリングコラム11には、ハンドル2の操舵角検出センサ15(図2参照)及び操舵速度・操舵角算出器16(図2参照)が設けられている。操舵角検出センサ15は、入力軸3aとともに回転し周方向に等ピッチに貫通孔を形成した円板状のエンコードと、回転するエンコーダの貫通孔の通過を検出する発光素子と受光素子からなる第1及び第2ホトセンサを備えている。第1及び第2ホトセンサは、入力軸3aの回転とともに回転するエンコーダの貫通孔を検出してそれぞれ第1及び第2パルス信号を出力する。また、第1及び第2ホトセンサは、第1パルス信号と第2パルス信号が互いに90度位相がずれて出力されるように相対配置されている。
【0040】
操舵速度・操舵角算出器16は、第1及び第2ホトセンサの第1及び第2パルス信号を検出することによって、入力軸3aの回転方向を検出する。また、操舵速度・操舵角算出器16は、第1ホトセンサ(又は第2ホトセンサ)第1パルス信号(又は第2パルス信号)の単位時間当たりのパルスをカウントすることによって、入力軸3aの回転速度、即ちハンドル2の操舵速度ωnを検出する。さらに、操舵速度・操舵角算出器16は、入力軸3aの回転方向に基づいて、第1ホトセンサ(又は第2ホトセンサ)の第1パルス信号(又は第2パルス信号)のパルス数を加減算することによって、入力軸3aの回動位置、即ちハンドル2の操舵角が検出される。
【0041】
つまり、操舵速度・操舵角算出器16は、操舵角検出センサ15の第1及び第2パルス信号に基づいて、ハンドル2のその時々の、操舵方向、操舵角及び操舵速度ωnを検出する。
【0042】
(電動パワーステアリング制御装置20)
次に、上記のように構成したEPS装置1を制御する電動パワーステアリング制御装置(以下、EPS制御装置という)20を図2の電気ブロック回路に従って説明する。
【0043】
図2に示すEPS制御装置20は、ブラシレスモータMを電流ベクトル制御するための制御装置である。EPS制御装置20は、制御回路21、インバータ回路22、目標電流値生成回路23を有している。制御回路21は、ブラシレスモータMの各相に駆動電圧Vu,Vv,Vwを印加させるためのオン・オフ信号を生成しインバータ回路22に出力する。インバータ回路22は、制御回路21からのオン・オフ信号に基づいてブラシレスモータMのU相巻線、V相巻線、W相巻線に駆動電圧Vu,Vv,Vwをそれぞれ印加してステータに回転磁界を生成する。
【0044】
目標電流値生成回路23は、トルクセンサ14が検出した操舵トルクτnを入力する。目標電流値生成回路23は、入力した操舵トルクτnに基づいて、ブラシレスモータMを電流ベクトル制御するためのd軸目標電流値Id*及びq軸目標電流値Iq*を生成する。なお、本実施形態では、目標電流値生成回路23は、効率向上のためにd軸目標電流値Id*を「0」にして出力している。目標電流値生成回路23は、d軸目標電流値Id*及びq軸目標電流値Iq*を制御回路21に出力する。
【0045】
制御回路21は、電流ベクトル制御を行うために、図2に示すように、位置演算部31、3相−2相電流変換部32、d軸電流制御部34、q軸電流制御部35、2相−3相電圧変換部36、PWM生成部37、ゲイン選択部38を備えている。
【0046】
位置演算部31は、ブラシレスモータMのロータの回転位置を検出するレゾルバ等よりなる回転センサ24と接続されている。位置演算部31は、回転センサ24から位置信号を入力し、その時々のブラシレスモータM(ロータ)の電気角を演算するとともに電気角速度を演算する。そして、位置演算部31は、その演算結果を2相−3相電流変換部32に出力する。
【0047】
3相−2相電流変換部32は、第1及び第2電流検出器25,26と接続され、第1及び第2電流検出器25,26からその時々のU相電流IUとV相電流IVの検出信号を入力する。3相−2相電流変換部32は、位置演算部31が検出したロータの電気角によって、第1及び第2電流検出器25,26が検出したU相電流IUとV相電流IVの検出信号を、d−q座標系に変換してd軸実電流値Id及びq軸実電流値Iqを算出する。そして、3相−2相電流変換部32は、算出したd軸実電流値Idをd軸電流制御部34に出力する。また、3相−2相電流変換部32は、算出したq軸実電流値Iqをq軸電流制御部35に出力する。
【0048】
d軸電流制御部34は、目標電流値生成回路23から出力されるd軸目標電流値Id*(=0)を入力する。そして、d軸電流制御部34は、d軸目標電流値Id*とd軸実電流値Idに基づいて、d軸目標電流値Id*の電流をブラシレスモータMに流すために、ブラシレスモータMに印加する駆動電圧の電圧値であるd軸制御電圧Vd*を算出する。この算出されたd軸制御電圧Vd*は、2相−3相電圧変換部36に出力される。
【0049】
d軸電流制御部34は、本実施形態では、d軸目標電流値Id*とd軸実電流値Idとを用いて2由度IP制御する2自由度IP制御器で構成されている。d軸電流制御部34は、図3に示すように、第1及び第2d軸減算器41、42、d軸比例制御器43、d軸積分制御器44を備えている。
【0050】
第1d軸減算器41は、d軸目標電流値Id*からd軸実電流値Idを減算し、その差分値(=Id*−Id)をd軸積分制御器44に出力する。d軸比例制御器43は、d軸実電流値Idを比例処理して第2d軸減算器42に出力する。d軸積分制御器44は、差分値(=Id*−Id)を積分処理して第2d軸減算器42に出力する。第2d軸減算器42は、d軸積分制御器44からの出力値からd軸比例制御器43からの出力値を減算し、その減算値をd軸制御電圧Vd*として2相−3相電圧変換部36に出力する。
【0051】
なお、図3において、d軸比例制御器43の「Fpd」はd軸比例ゲイン(単位:ボルト/アンペア)であり、d軸積分制御器44の「Fid」はd軸積分ゲイン(単位は:(ボルト/アンペア)/s)である。また、d軸積分制御器44の「s」はラプラス演算子である。
【0052】
ちなみに、図3に示す2自由度IP制御器からなるd軸電流制御部34は、d軸フィードバックゲイン(d軸比例ゲインFpd及びd軸積分ゲインFid)を変更することによって、図5、図6に示すように、電流応答性が変化する。
【0053】
図5に示すように、d軸比例ゲインFpdを一定にして、d軸積分ゲインFidを小さくすれば、それに相対してd軸目標電流値Id*に対する周波数応答帯域の幅が低くなり(カットオフ周波数が低くなり)、d軸目標電流値Id*に対するd軸実電流値Idの電流応答性が低くなる。反対に、d軸積分ゲインFidを大きくすれば、それに相対してd軸目標電流値Id*に対する周波数応答帯域の幅が高くなり(ゲイン交差周波数が高くなり)、d軸目標電流値Id*に対するd軸実電流値Idの電流応答性が高くなる。
【0054】
一方、図6に示すように、d軸積分ゲインFidを一定にして、d軸比例ゲインFpdを小さくすれば、それに相対してd軸目標電流値Id*に対する周波数応答帯域の幅が高くなり(カットオフ周波数が高くなり)、d軸目標電流値Id*に対するd軸実電流値Idの電流応答性が高くなる。反対に、d軸比例ゲインFpdを大きくすれば、それに相対してd軸目標電流値Id*に対する周波数応答帯域の幅が低くなり(カットオフ周波数が低くなり)、d軸目標電流値Id*に対するd軸実電流値Idの電流応答性が低くなる。
【0055】
本実施形態では、その時々でd軸電流制御部34のd軸比例ゲインFpd及びd軸積分ゲインFidを変更することで、d軸電流制御部34は、d軸目標電流値Id*に対するd軸実電流値Idの電流応答性を変更するようにしている。
【0056】
q軸電流制御部35は、目標電流値生成回路23から出力されるq軸目標電流値Iq*を入力する。そして、q軸電流制御部35は、q軸目標電流値Iq*とq軸実電流値Iqに基づいて、q軸目標電流値Iq*の電流をブラシレスモータMに流すために、ブラシレスモータMに印加する駆動電圧の電圧値であるq軸制御電圧Vq*を算出する。この算出されたq軸制御電圧Vq*は、2相−3相電圧変換部36に出力される。
【0057】
q軸電流制御部35は、本実施形態では、q軸目標電流値Iq*とq軸実電流値Iqとを用いて2由度IP制御する2自由度IP制御器で構成されている。q軸電流制御部35は、図4に示すように、第1及び第2q軸減算器51、52、q軸比例制御器53、q軸積分制御器54を備えている。
【0058】
第1q軸減算器51は、q軸目標電流値Iq*からq軸実電流値Iqを減算し、その差分値(=Iq*−Iq)をq軸積分制御器54に出力する。q軸比例制御器53は、q軸実電流値Iqを比例処理して第2q軸減算器52に出力する。q軸積分制御器54は、差分値(=Iq*−Iq)を積分処理して第2q軸減算器52に出力する。第2q軸減算器52は、q軸積分制御器54からの出力値からq軸比例制御器53からの出力値を減算し、その減算値をq軸制御電圧Vq*として2相−3相電圧変換部36に出力する。
【0059】
なお、図4において、q軸比例制御器53の「Fpq」はq軸比例ゲイン(単位:(ボルト/アンペア)であり、q軸積分制御器54の「Fiq」はq軸積分ゲイン(単位:(ボルト/アンペア)/s)である。また、q軸積分制御器54の「s」はラプラス演算子である。
【0060】
ちなみに、図4に示すq軸電流制御部35は、q軸フィードバックゲイン(q軸比例ゲインFpq及びq軸積分ゲインFiq)を予め定めた固定値に設定し、q軸目標電流値Iq*に対するq軸実電流値Iqの電流応答性を一定にしている。
【0061】
2相−3相電圧変換部36は、d軸電流制御部34からd軸制御電圧Vd*が入力されるとともに、q軸電流制御部35からq軸制御電圧Vq*が入力される。また、2相−3相電圧変換部36は、位置演算部31が算出したその時々のブラシレスモータM(ロータ)の電気角を入力する。
【0062】
2相−3相電圧変換部36は、位置演算部31が算出したロータの電気角を用いて、d軸制御電圧Vd*及びq軸制御電圧Vq*をブラシレスモータMのU相巻線、V相巻線、W相巻線に印加するための駆動電圧値に変換する。2相−3相電圧変換部36は、変換したU相巻線、V相巻線、W相巻線に印加するための駆動電圧値をPWM生成部37に出力する。
【0063】
PWM生成部37は、2相−3相電圧変換部36にて変換したU相巻線、V相巻線、W相巻線に印加する駆動電圧値に基づいて各相のPWM信号Su,Sv,Swを生成し、その生成したPWM信号Su,Sv,Swをインバータ回路22にオン・オフ信号として出力する。
【0064】
インバータ回路22は、制御回路21(PWM生成部37)からのPWM信号Su,Sv,Swに基づいてブラシレスモータMのU相巻線、V相巻線、W相巻線にパルス幅変調した駆動電圧Vu,Vv,Vwをそれぞれ印加する。これによって、ブラシレスモータMには、q軸目標電流値Iq*及びd軸目標電流値Id*に応じた電流が給電される。つまり、ブラシレスモータMは、ハンドル2の操作に必要なアシストトルクをステアリングシャフト3の入力軸3aに対して付与することができる。
【0065】
制御回路21は、前記したd軸電流制御部34のd軸比例ゲインFpd及びd軸積分ゲインFidを、車両状態やハンドル2の操舵状態に応じて変更するためのゲイン選択部38を備えている。
【0066】
ちなみに、前記したように、図5に示すように、d軸比例ゲインFpdを一定にして、d軸積分ゲインFidを小さくすれば、それに相対してd軸目標電流値Id*に対する周波数応答帯域の幅が低くなることから、d軸目標電流値Id*(=0)に対するd軸実電流値Idの電流応答性は低くなる。反対に、d軸積分ゲインFidを大きくすれば、それに相対してd軸目標電流値Id*に対する周波数応答帯域の幅が高くなることから、d軸目標電流値Id*(=0)に対するd軸実電流値Idの電流応答性は高くなる。
【0067】
また、図6に示すように、d軸積分ゲインFidを一定にして、d軸比例ゲインFpdを小さくすれば、それに相対してd軸目標電流値Id*に対する周波数応答帯域の幅が高くなることから、d軸目標電流値Id*(=0)に対するd軸実電流値Idの電流応答性が高くなる。反対に、d軸比例ゲインFpdを大きくすれば、それに相対してd軸目標電流値Id*に対する周波数応答帯域の幅が低くなることから、d軸目標電流値Id*(=0)に対するd軸実電流値Idの電流応答性は低くなる。
【0068】
ゲイン選択部38は、これを前提にd軸フィードバックゲイン(d軸比例ゲインFpd及びd軸積分ゲインFid)を決定し、d軸電流制御部34における周波数応答帯域の幅を可変させて、d軸目標電流値Id*(=0)に対するd軸実電流値Idの電流応答性を制御させるようにしている。
【0069】
ゲイン選択部38は、d軸比例ゲイン演算器38aとd軸積分ゲイン演算器38bとを有している。
d軸比例ゲイン演算器38aは、図7に示すように、基準値生成部61、第1補正部62、第2補正部63、乗算部64を有している。
【0070】
基準値生成部61は、基礎となる基準ゲイン値fpを生成し乗算部64に出力する。そして、基準値生成部61が生成した基準ゲイン値fpは、第1補正部62及び第2補正部63で導き出された第1補正係数値α1及び第2補正係数値α2を使って補正されて、d軸比例ゲインFpdが生成される。
【0071】
第1補正部62は、操舵速度・操舵角算出器16から操舵速度ωnを入力して、その操舵速度ωnの絶対値に対する第1補正係数値α1を算出する。第1補正部62は、第1補正テーブルTBa1を有している。第1補正テーブルTBa1は、操舵速度ωnの絶対値に対する第1補正係数値α1を求めるテーブルであって、例えば、RAM、SRAM,ROM等のメモリからなる。
【0072】
第1補正テーブルTBa1には、d軸比例ゲインFpdの補正を行うための特性曲線が格納されている。特性曲線は、各操舵速度ωnの絶対値に対して、例えば、「0」〜「1.0」の範囲で特定される第1補正係数値α1をそれぞれ導き出す補正カーブのデータである。図8に特性曲線L1の一例を示す。
【0073】
ちなみに、図8の特性曲線L1から明らかなように、操舵速度ωnが遅くなるほど、第1補正係数値α1は大きくなるが、第1補正係数値α1が「1」を超えることがない内容に設定されている。そして、第1補正部62は、第1補正テーブルTBa1にて、その時の操舵速度ωnに対する第1補正係数値α1を求めると、その第1補正係数値α1を乗算部64に出力する。
【0074】
第2補正部63は、トルクセンサ14から操舵トルクτnを入力して、その操舵トルクτnの絶対値に対する第2補正係数値α2を算出する。第2補正部63は、第2補正テーブルTBa2を有している。第2補正テーブルTBa2は、操舵トルクτnの絶対値に対する第2補正係数値α2を求めるテーブルであって、例えば、RAM、SRAM,ROM等のメモリからなる。
【0075】
第2補正テーブルTBa2には、d軸比例ゲインFpdの補正を行うための第1補正テーブルTBa1とは異なる特性曲線が格納される。特性曲線は、各操舵トルクτnの絶対値に対して、例えば、「0」〜「1.0」の範囲で特定される第2補正係数値α2をそれぞれ導き出す補正カーブのデータである。図9に特性曲線L2の一例を示す。
【0076】
ちなみに、図9の特性曲線L2から明らかなように、操舵トルクτnが小さくなるほど、第2補正係数値α2は大きくなるが、第2補正係数値α2が「1」を超えることがない内容に設定されている。そして、第2補正部63は、第2補正テーブルTBa2にて、その時の操舵トルクτnに対する第2補正係数値α2を求めると、その第2補正係数値α2を乗算部64に出力する。
【0077】
乗算部64は、第1補正係数値α1及び第2補正係数値α2を基準ゲイン値fpに乗算することによって、d軸比例ゲインFpd(=α1・α2・fp)を導き出し、d軸電流制御部34に出力する。つまり、本実施形態では、d軸比例ゲインFpdは、その時々の操舵速度ωnと操舵トルクτnによって補正されるようになっている。
【0078】
詳述すると、操舵速度ωnが速い(操舵トルクτnが大きい)ほど、第1補正係数値α1(第2補正係数値α2)が小さくなる。即ち、d軸比例ゲインFpdは小さくなり、図6に示すように、d軸目標電流値Id*に対する周波数応答帯域の幅が高くなることから、d軸目標電流値Id*(=0)に対するd軸実電流値Idの電流応答性が高くなる。
【0079】
反対に、操舵速度ωnが遅い(操舵トルクτnが小さい)ほど、第1補正係数値α1(第2補正係数値α2)が大きくなる。即ち、d軸比例ゲインFpdは大きくなり、図6に示すように、d軸目標電流値Id*に対する周波数応答帯域の幅が低くなることから、d軸目標電流値Id*(=0)に対するd軸実電流値Idの電流応答性が低くなる。
【0080】
d軸積分ゲイン演算器38bは、図10に示すように、基準値生成部66、第1補正部67、第2補正部68、乗算部69を有している。
基準値生成部66は、基礎となる基準ゲイン値fiを生成し乗算部69に出力する。そして、基準値生成部66が生成した基準ゲイン値fiは、第1補正部67及び第2補正部68で導き出された第1補正係数値β1及び第2補正係数値β2を使って補正されて、d軸積分ゲインFidが生成される。
【0081】
第1補正部67は、操舵速度・操舵角算出器16からの操舵速度ωnを入力して、その操舵速度ωnの絶対値に対する第1補正係数値β1を算出する。第1補正部67は、第1補正テーブルTBb1を有している。第1補正テーブルTBb1は、操舵速度ωnの絶対値に対する第1補正係数値β1を求めるテーブルであって、例えば、RAM、SRAM,ROM等のメモリからなる。
【0082】
第1補正テーブルTBb1には、d軸積分ゲインFidの補正を行うための特性曲線が格納されている。特性曲線は、各操舵速度ωnの絶対値に対して、例えば、「0」〜「1.0」の範囲で特定される第1補正係数値β1をそれぞれ導き出す補正カーブのデータである。図11に特性曲線L3の一例を示す。
【0083】
ちなみに、図11の特性曲線L3から明らかなように、操舵速度ωnが速くなるほど、第1補正係数値β1は大きくなるが、第1補正係数値β1が「1」を超えることがない内容に設定されている。そして、第1補正部67は、第1補正テーブルTBb1を用いて、その時の操舵速度ωnに対する第1補正係数値β1を求めると、その第1補正係数値β1を乗算部69に出力する。
【0084】
第2補正部68は、トルクセンサ14から操舵トルクτnを入力して、その操舵トルクτnの絶対値に対する第2補正係数値β2を算出する。第2補正部68は、第2補正テーブルTBb2を有している。第2補正テーブルTBb2は、操舵トルクτnの絶対値に対する第2補正係数値β2を求めるテーブルであって、例えば、RAM、SRAM,ROM等のメモリからなる。
【0085】
第2補正テーブルTBb2には、d軸積分ゲインFidの補正を行うための第1補正テーブルTBb1とは異なる特性曲線が格納される。特性曲線は、各操舵トルクτnの絶対値に対して、例えば、「0」〜「1.0」の範囲で特定される第2補正係数値β2をそれぞれ導き出す補正カーブのデータである。図12に特性曲線L4の一例を示す。
【0086】
ちなみに、図12の特性曲線L4から明らかなように、操舵トルクτnが大きくなるほど、第2補正係数値β2は大きくなるが、第2補正係数値β2が「1」を超えることがない内容に設定されている。そして、第2補正部68は、第2補正テーブルTBb2にて、その時の操舵トルクτnに対する第2補正係数値β2を求めると、その第2補正係数値β2を乗算部69に出力する。
【0087】
乗算部69は、第1補正係数値β1及び第2補正係数値β2を基準ゲイン値fiに乗算することによって、d軸積分ゲインFid(=β1・β2・fi)を導き出し、d軸電流制御部34に出力する。つまり、本実施形態では、d軸積分ゲインFidは、その時々の操舵速度ωnと操舵トルクτnによって補正されるようになっている。
【0088】
詳述すると、操舵速度ωnが速い(操舵トルクτnが大きい)ほど、第1補正係数値β1(第2補正係数値β2)が大きくなる。即ち、d軸積分ゲインFidは大きくなり、図5に示すように、d軸目標電流値Id*に対する周波数応答帯域の幅が高くなることから、d軸目標電流値Id*に対するd軸実電流値Idの電流応答性が高くなる。
【0089】
モータMが回転する際に回生電流は電流応答性が高い場合には影響がないが、d軸の電流応答が低くなると回生電流の影響が大きくなり回生制動という回転数に応じたダンピング効果を発生させる。つまり、d軸実電流値Idの電流応答性が高くなると、d軸実電流値Idの変動は小さく、回生電流の影響は小さいので、ハンドル2を動き易くすることができる。
【0090】
反対に、操舵速度ωnが遅い(操舵トルクτnが小さい)ほど、第1補正係数値β1(第2補正係数値β2)が小さくなる。即ち、d軸積分ゲインFidは小さくなり、図5に示すように、d軸目標電流値Id*に対する周波数応答帯域の幅が低くなることから、d軸目標電流値Id*(=0)に対するd軸実電流値Idの電流応答性が低くなる。
【0091】
つまり、d軸実電流値Idの電流応答性を低くすると、d軸実電流値Idの変動が大きく、回生電流の影響を受けてダンピング効果が高くなり、ハンドル2の安定性、すなわち、ハンドル2に落ち着きが出て、ハンドル2を動き難くすることができる。
【0092】
次に、上記のように構成したEPS制御装置20の作用について説明する。
今、ハンドル2を一方向に回動操作すると、トルクセンサ14からそのハンドル2の操作に基づく操舵トルクτnが検出される。そして、トルクセンサ14は、その検出した操舵トルクτnを目標電流値生成回路23及び制御回路21(ゲイン選択部38)に出力する。
【0093】
この時、あわせて、操舵速度・操舵角算出器16が操舵角検出センサ15から検出信号に基づいて操舵速度ωnを算出し、その操舵速度ωnが操舵速度・操舵角算出器16から制御回路21(ゲイン選択部38)に出力される。
【0094】
目標電流値生成回路23は、操舵トルクτnに基づいて、d軸目標電流値Id*(=0)及びq軸目標電流値Iq*を生成する。目標電流値生成回路23は、d軸目標電流値Id*を制御回路21のd軸電流制御部34に出力するとともに、q軸目標電流値Iq*を制御回路21のq軸電流制御部35に出力する。
【0095】
q軸電流制御部35は、新たに入力されたq軸目標電流値Iq*とその時のq軸実電流値Iqとでq軸制御電圧Vq*を生成し2相−3相電圧変換部36に出力する。
一方、d軸電流制御部34は、d軸目標電流値Id*(=0)とその時のd軸実電流値Idとでd軸制御電圧Vd*を生成し2相−3相電圧変換部36に出力する。
【0096】
この時、d軸電流制御部34は、ゲイン選択部38からd軸比例制御器43のためのd軸比例ゲインFpd及びd軸積分制御器44のためのd軸積分ゲインFidを入力する。
ゲイン選択部38は、トルクセンサ14からの操舵トルクτn及び操舵速度・操舵角算出器16からの操舵速度ωnに基づいて、d軸比例ゲインFpd及びd軸積分ゲインFidを導き出す。d軸比例ゲインFpdは、ゲイン選択部38のd軸比例ゲイン演算器38aにて導き出され、d軸電流制御部34に出力される。また、d軸積分ゲインFidは、ゲイン選択部38のd軸積分ゲイン演算器38bにて、導き出されd軸電流制御部34に出力される。
【0097】
この時、d軸比例ゲイン演算器38aは、「0」〜「1」の間の値を示すd軸比例ゲインFpdにおいて、操舵トルクτn(操舵速度ωnも同様)が大きくなるほど小さくなるd軸比例ゲインFpdを出力する。一方、d軸積分ゲイン演算器38bは、「0」〜「1」の間の値を示すd軸積分ゲインFidにおいて、操舵トルクτn(操舵速度ωnも同様)が大きくなるほど大きくなるd軸積分ゲインFidを出力する。
【0098】
従って、d軸電流制御部34は、操舵トルクτn及び操舵速度ωnが共に大きいほど、d軸比例ゲインFpdが最も小さくなるとともに、d軸積分ゲインFidが最も大きくなる。その結果、図5、図6に示すように、操舵トルクτn及び操舵速度ωnがともに大きいほど、d軸目標電流値Id*に対するd軸実電流値Idの電流応答性を最も高くすることができる。
【0099】
これによって、d軸実電流値Idの変動は小さくなり、回生電流の影響は小さくなるので、ハンドル2を動き易くすることができる。
ちなみに、操舵速度ωnが一定の時、d軸電流制御部34は、操舵トルクτnが大きいほど、d軸比例ゲインFpdが小さくなるとともに、d軸積分ゲインFidが大きくなることから、図5、図6から明らかなように、操舵トルクτnが大きいほど、d軸目標電流値Id*に対するd軸実電流値Idの電流応答性を高くすることができる。
【0100】
これによって、d軸実電流値Idの変動は小さくなり、回生電流の影響は小さくなるので、ハンドル2を動き易くすることができる。
また、例えば、路面抵抗、車速の変化等により、操舵トルクτnが大きくなると、d軸比例ゲインFpdが小さくなるとともに、d軸積分ゲインFidが大きくなる。その結果、d軸電流制御部34は、d軸目標電流値Id*に対するd軸実電流値Idの電流応答性を高くすることができる。これによって、d軸実電流値Idの変動は小さくなり、回生電流の影響は小さくなるので、ハンドル2を動き易くすることができる。
【0101】
反対に、車速が速く操舵トルクτnが小さい場合、d軸比例ゲインFpdが大きくなるとともに、d軸積分ゲインFidが小さくなることから、d軸電流制御部34は、d軸目標電流値Id*に対するd軸実電流値Idの電流応答性を低くすることができる。
【0102】
これによって、d軸実電流値Idの変動が大きくなり、回生電流の影響を受けてダンピング効果が高くなり、ハンドル2の安定性、つまり、ハンドル2に落ち着きが出て、ハンドル2を動き難くすることができる。
【0103】
また、ハンドル2を速く操作して操舵速度ωnが大きくなると、d軸比例ゲインFpdが小さくなるとともに、d軸積分ゲインFidが大きくなる。その結果、d軸電流制御部34は、d軸目標電流値Id*に対するd軸実電流値Idの電流応答性を高くすることができる。これによって、d軸実電流値Idの変動は小さくなり、回生電流の影響は小さくなるので、ハンドル2を動き易くすることができる。
【0104】
次に、上記のように構成したEPS制御装置20の効果を以下に記載する。
(1)上記実施形態によれば、制御回路21にゲイン選択部38を設けた。そして、ゲイン選択部38によって、d軸電流制御部34のd軸比例ゲインFpd及びd軸積分ゲインFidを、操舵トルクτnの変動に応じて変更させるようにした。そして、d軸電流制御部34において、操舵トルクτnの変動に応じて、d軸目標電流値Id*に対する周波数応答帯域の幅を可変させるようにした。
【0105】
従って、d軸電流制御部34は、操舵トルクτnが大きいほど、d軸実電流値Idの電流応答性を高くすることができる。その結果、d軸実電流値Idの変動は小さくなり、回生電流の影響が小さくなることから、ハンドル2を動き易くすることができる。
【0106】
逆に、車速が速く操舵トルクτnが小さい場合、d軸電流制御部34は、d軸実電流値Idの電流応答性を低くした。その結果、d軸実電流値Idの変動は大きくなり、回生電流の影響を受けてダンピング効果が高くなり、ハンドル2の安定性、つまり、ハンドル2に落ち着きが出て、ハンドル2を動き難くすることができる。
【0107】
(2)上記実施形態によれば、ゲイン選択部38によって、d軸電流制御部34のd軸比例ゲインFpd及びd軸積分ゲインFidを、操舵速度ωnの変動に応じて変更させるようにした。そして、d軸電流制御部34において、操舵速度ωnの変動に応じて、d軸目標電流値Id*に対する周波数応答帯域の幅を可変させるようにした。
【0108】
従って、d軸電流制御部34は、操舵速度ωnが大きいほど、d軸実電流値Idの電流応答性を高くすることができる。その結果、d軸実電流値Idの変動は小さくなり、回生電流の影響が小さくなることから、ハンドル2を動き易くすることができる。
【0109】
(3)上記実施形態によれば、トルク軸成分であるq軸成分を制御するq軸電流制御部35のq軸比例ゲインFpq及びq軸積分ゲインFiqは、操舵速度ωn及び操舵トルクτnの変動に関係なく、常に一定であってq軸の電流応答を変更させないようにした。
【0110】
従って、ハンドル2の操舵に対するトルクの応答を確保することができる。
尚、上記第1実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記第1実施形態では、ゲイン選択部38は、操舵トルクτn及び操舵速度ωnに基づいて、d軸フィードバックゲイン(d軸比例ゲインFpd及びd軸積分ゲインFid)を求めた。これを、操舵トルクτn及び操舵速度ωnのいずれか一方を用いて、d軸フィードバックゲインを求めて界磁軸成分であるd軸成分の応答性を制御するように実施してもよい。
【0111】
勿論、操舵トルクτn及び操舵速度ωnに基づいて、d軸比例ゲインFpd及びd軸積分ゲインFidのいずれか一方だけを求めてその一方だけを使って、d軸成分の応答性を制御するように実施してもよい。
【0112】
・上記第1実施形態では、ゲイン選択部38は、操舵トルクτn及び操舵速度ωnに基づいて、d軸フィードバックゲインを求めた。これを、その時々の車速を新たに加えて、操舵トルクτn、操舵速度ωn及び車速に基づいて、d軸比例ゲインFpd及びd軸積分ゲインFidのいずれか一方を求めて実施してもよい。
【0113】
この場合、車速が速い場合に、車両状態を安定にするために、d軸の電流応答を低くしてハンドル2を動きにくくすることができる。しかも、速い車速でも、操舵トルクτnが大きい場合などは、ドライバが意図して操舵していると判断することができ、d軸の電流応答を高くしてハンドルを動き易くすることもできる。
【0114】
・上記第1実施形態では、d軸電流制御部34を2自由度IP制御器で構成した。これを、図13に示すように、PI制御器で構成されるd軸電流制御部70を用いて実施してもよい。
【0115】
d軸電流制御部70は、図13に示すように、d軸減算器71、d軸比例制御器72、d軸積分制御器73、d軸加算器74、ゲイン調整器75を備えている。
d軸減算器71は、d軸目標電流値Id*からd軸実電流値Idを減算し、その差分値(=Id*−Id)をd軸比例制御器72及びd軸積分制御器73に出力する。d軸比例制御器72は、その差分値を比例処理してd軸加算器74に出力する。d軸積分制御器73は、同じく差分値を積分処理してd軸加算器74に出力する。d軸加算器74は、d軸積分制御器73からの出力値とd軸比例制御器72からの出力値とを加算し、その加算値をゲイン調整器75を介してd軸制御電圧Vd*として2相−3相電圧変換部36に出力する。
【0116】
そして、図13において、d軸比例制御器72の「Kpd」はd軸比例ゲインであり、d軸積分制御器73の「Kid」はd軸積分ゲインである。また、d軸積分制御器73の「s」はラプラス演算子である。
【0117】
そして、このPI制御器からなるd軸電流制御部70においても、d軸比例ゲインKpd及びd軸積分ゲインKidを変更することによって電流応答性を変更することができる。
このPI制御の場合、d軸比例ゲインKpdとd軸積分ゲインKidの一方を変更した場合には、2自由度IP制御器と相違して、図5または図6に示すような、フラットなゲインの応答は得ることができない。そこで、PI制御の場合、図5または図6に示すように、フラットな領域を維持したまま応答性を変えるには、d軸比例ゲインKpd及びd軸積分ゲインKidを一律に変更する必要がある。そのため、d軸加算器74は、d軸積分制御器73からの出力値とd軸比例制御器72からの出力値とをd軸加算器74にて加算後、その加算値をゲインGが0<G≦1となるゲイン調整器75を介してゲイン調整してd軸制御電圧Vd*として2相−3相電圧変換部36に出力している。
【0118】
(第2実施形態)
次に、EPS制御装置20の第2実施形態について図14に従って説明する。
第2実施形態では、第1実施形態の主要部が基本的に同じなので、説明の便宜上、第1実施形態と共通部分についは符号を同じにしてその詳細は省略し、相違する点のみ詳細に説明する。
【0119】
図14において、回転センサ24には、バンドパスフィルタ81が接続されている。バンドパスフィルタ81は、回転センサ24から回転速度信号を入力し、その時々のブラシレスモータMの回転速度信号の周波数において、予め決められた周波数帯域B1の周波数について通過させる。
【0120】
予め決められた周波数帯域B1とは、図15に示す、操舵トルクτnのゲインに対するブラシレスモータMの回転速度信号の周波数において、何らかの要因(路面外乱やメカ・車両の共振特性等によって発生)で不要な振動が重畳して操舵トルクτnのゲインが大きくなっていて、動き易くなっている部分の周波数帯域(中心周波数f1を中心に一定の幅)をいう。
【0121】
この路面外乱やメカ・車両の共振特性等からくる不要な振動は、ブラシレスモータMがトルクを発生するにあたって、逆起電力という外乱となり、q軸電流及びd軸電流を乱す振動であって、ブラシレスモータMの回転速度信号にあらわれる。
【0122】
そこで、バンドパスフィルタ81において、回転速度振動成分、すなわち、回転速度信号から特定の(不要な振動成分が属する周波数帯域B1)周波数成分を抽出している。
バンドパスフィルタ81で抽出された特定の(不要な振動成分が属する周波数帯域B1)周波数成分の回転速度信号は、補正定数設定回路82に出力される。補正定数設定回路82は、バンドパスフィルタ81で抽出された回転速度信号の振動成分と補正定数を乗算して補正電圧Veを生成する。補正電圧Veは、図15に実線で示すように、操舵トルクτnのゲインを回転速度信号の周波数に相対して低下させてブラシレスモータMが動き難くなるようにするために、d軸制御電圧Vd*を補正するための電圧である。
【0123】
ブラシレスモータMは回転速度に比例して逆起電力が発生することから、抽出された回転速度成分は逆起電力の振動成分となり、その振動成分をもって、補正定数設定回路82は、補正電圧Veを生成する。
【0124】
そして、補正定数設定回路82は、予め設定した補正定数とその時の振動成分とを乗算して補正電圧Veを生成する。つまり、補正定数設定回路82は、図16のボード線図において、実線で示すように、中心周波数f1を中心に一定の幅、即ち、予め決められた周波数帯域B1のゲインを下げて、ゲインを一様にして、3相ブラシレスモータMが動き難くするための補正電圧Veを生成する。
【0125】
なお、予め決められた周波数帯域B1における、回転速度信号(周波数)に対する補正定数は、予め試験又は実験等によって求められ、図示しないメモリに記憶されている。
補正定数設定回路82にて生成された補正電圧Veは、d軸電流制御部34と2相−3相電圧変換部36との間に設けた減算器83に出力される。減算器83は、d軸電流制御部34からのd軸制御電圧Vd*と補正定数設定回路82からの補正電圧Veを入力する。
【0126】
そして、減算器83は、d軸制御電圧Vd*から補正電圧Veを減算し、その減算値(=Vd*−Ve)を補正d軸制御電圧Vd**として2相−3相電流変換部32に出力する。
【0127】
従って、補正d軸制御電圧Vd**が2相−3相電流変換部32に入力されることによって、図16のボード線図の実線で示すように、中心周波数f1を中心に一定の幅、即ち、予め決められた周波数帯域B1のゲインが下げられる。その結果、ブラシレスモータMが、周波数帯域B1で安定になり、操舵トルクのゲインが下がり、不快な振動が減り、操舵感が向上する。
【0128】
次に、上記のように構成したEPS制御装置20の作用について説明する。
今、ハンドル2を一方向に回動操作され、目標電流値生成回路23にて目標電流値生成回路23は、d軸目標電流値Id*及びq軸目標電流値Iq*が算出されるとともに、ゲイン選択部38にてd軸比例ゲインFpd及びd軸積分ゲインFidが算出される。これによって、ブラシレスモータMは、d軸目標電流値Id*及びq軸目標電流値Iq*、並びに、d軸比例ゲインFpd及びd軸積分ゲインFidによって駆動制御されている。
【0129】
そして、バンドパスフィルタ81が予め決められた周波数帯域B1の回転速度信号を抽出し、補正定数設定回路82に出力される。補正定数設定回路82は、バンドパスフィルタ81にて抽出された回転速度信号の振動成分(不要な振動成分)と補正定数を乗算して補正電圧Veを生成し、減算回路83に出力する。
【0130】
そして、減算器83は、d軸制御電圧Vd*から補正電圧Veを減算した補正d軸制御電圧Vd**(=Vd*−Ve)を2相−3相電流変換部32に出力する。
従って、予め決められた周波数帯域B1中で回転しているブラシレスモータMは、d軸制御電圧Vd*から補正電圧Veを減算した補正d軸制御電圧Vd**で制御されるため、不要な振動が除去される。
【0131】
つまり、ブラシレスモータMの回転速度に相対してブラシレスモータMの特性も変化させることができ、ハンドル2の操舵感を向上させることができる。
次に、上記のように構成した第2実施形態の効果を以下に記載する。
【0132】
(1)上記実施形態によれば、第1実施形態の効果に加えて、ブラシレスモータMの回転速度が予め決められた周波数帯域B1において、何らかの要因(路面外乱やメカ・車両の共振特性等によって発生)で不要な振動が重畳してゲインが変動して、ブラシレスモータMの動き易さが変動しても、これを補償することができる。
【0133】
尚、上記第2実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記第2実施形態では、予め決められた周波数帯域B1において、ブラシレスモータMが動き易くなっていてこれを補償する場合について説明した。これを、図17に破線で示すように、何らかの要因(路面外乱やメカ・車両の共振特性等によって発生)で操舵トルクτnのゲインが小さくなり動き難くなっている予め決められた周波数帯域B2(中心周波数f2を中心に一定の幅)があってこれを、動き易く補償する場合にも応用してもよい。
【0134】
この場合、d軸電流制御部34と2相−3相電圧変換部36との間に設けた減算器83に代えて加算器とする。そして、その加算器に、補正定数設定回路82で生成した補正電圧Veを出力する。そして、加算器は、補正電圧Veをd軸電流制御部34からのd軸制御電圧Vd*に加算し、その加算値を補正d軸制御電圧Vd**(=Vd*−Ve)を2相−3相電流変換部32に出力する。
【0135】
これによって、図18のボード線図の実線で示すように、中心周波数f2を中心に一定の幅、即ち、予め決められた周波数帯域B2のゲインを上げられる。その結果、ブラシレスモータMが、周波数帯域B2でダンピングが減り、周波数帯域B2の操舵トルクのゲインが上がり操舵感が向上する。
【0136】
・上記第2実施形態では、予め決められた周波数帯域B1が1つであったが、複数あってよい。この場合、予め決められた周波数帯域B1の数だけ、バンドパスフィルタの数が必要となる。
【0137】
勿論、ブラシレスモータMが動き易くなる予め決められた周波数帯域B1とブラシレスモータMが動き難くなる予め決められた周波数帯域B2の両方が存在する場合にも応用してもよい。この場合には、減算器83と加算器の両方が必要となる。
【0138】
・上記第2実施形態では、d軸制御電圧Vd*を補正し、その補正した補正d軸制御電圧Vd**を2相−3相電流変換部32に出力して、予め決められた周波数帯域B1でのブラシレスモータMの動きを補償した。これを、d軸目標電流値Id*を補正するようにして、実施してもよい。
【0139】
この場合、図19に示すように、目標電流値生成回路23とd軸電流制御部34との間に、減算器84を設ける。一方、補正定数設定回路82は、同補正定数設定回路82で生成した補正電圧Veに基づいて、予め決められた周波数帯域B1において、操舵トルクτnのゲインが図15、図16に実線で示すようになるように、d軸目標電流値Id*を補正するための補正電流値Ieを生成する。そして、この補正電流値Ieを減算器84に出力する。減算器84は、d軸目標電流値Id*から補正電流値Ieを減算し、その減算値(=Id*−Ie)を補正d軸目標電流値Id**としてd軸電流制御部34に出力する。
【0140】
なお、図17、図18に示す予め決められた周波数帯域B2の場合には、減算器84に代えて加算器となる。
(第3実施形態)
次に、EPS制御装置20の第3実施形態について図20に従って説明する。
【0141】
第3実施形態では、第1実施形態の主要部が基本的に同じなので、説明の便宜上、第1実施形態と共通部分については符号を同じにしてその詳細は省略し、相違する点のみ詳細に説明する。
【0142】
第2実施形態は、ブラシレスモータMが予め決められた周波数帯域B1又は予め決められた周波数帯域B2において、何らかの要因(路面外乱やメカ・車両の共振特性等によって発生)で不要な振動が重畳して操舵トルクτnのゲインが変動し、動きが変動して回転するのを補償すべく、d軸制御電圧Vd*又はd軸目標電流値Id*を補正するものであった。
【0143】
本実施形態では、図15に破線で示すような、何らかの要因(路面外乱やメカ・車両の共振特性等によって発生)で不要な振動が重畳して操舵トルクτnのゲインが変動するのを、3相−2相電流変換部32からのd軸実電流値Idにて制御する。そして、d軸実電流値Idを制御することによって、操舵トルクτnのゲインを図15、図16に実線で示すようになるように補償するようにしている。
【0144】
図20において、3相−2相電流変換部32とd軸電流制御部34の間に、バンドパスフィルタ85が設けられている。バンドパスフィルタ85は、3相−2相電流変換部32からのd軸実電流値Idを入力し、その時々のブラシレスモータMのd軸実電流値Idの周波数において、予め決められた周波数帯域B1の周波数について通過させる。そして、バンドパスフィルタ85を通過した予め決められた周波数帯域B1の周波数のd軸実電流値Idがd軸電流制御部34に出力される。
【0145】
d軸電流制御部34は、予め決められた周波数帯域B1の周波数のd軸実電流値Idとd軸目標電流値Id*とで、d軸制御電圧Vd*を生成し2相−3相電圧変換部36に出力する。この時、d軸電流制御部34で生成したd軸制御電圧Vd*は、第2実施形態おいて、2相−3相電流変換部32に出力される補正d軸制御電圧Vd**(=Vd*−Ve)に相当する電圧である。
【0146】
従って、図16のボード線図の実線で示すように、予め決められた周波数帯域B1の操舵トルクτnのゲインが制御される。その結果、図15の操舵トルクτnのゲインに対するブラシレスモータMの回転速度信号の周波数において、実線で示すように予め決められた周波数帯域B1の操舵トルクτnのゲインが制御され、ブラシレスモータMを予め決められた周波数帯域B1での動きを制御することができる。
【0147】
次に、上記のように構成したEPS制御装置20の作用について説明する。
今、ハンドル2を一方向に回動操作され、目標電流値生成回路23にて目標電流値生成回路23は、d軸目標電流値Id*及びq軸目標電流値Iq*が算出されるとともに、ゲイン選択部38にてd軸フィードバックゲインが算出される。これによって、ブラシレスモータMは、d軸目標電流値Id*、q軸目標電流値Iq*、及び、d軸フィードバックゲインによって駆動制御されている。
【0148】
3相−2相電流変換部32のd軸実電流値Idの周波数が予め決められた周波数帯域B1に入ると、d軸実電流値Idは、予め決められた周波数帯域B1での操舵トルクτnのゲインを下げるために、バンドパスフィルタ85を介してd軸電流制御部34に入力される。
【0149】
従って、予め決められた周波数帯域B1中で回転しているブラシレスモータMは、q軸目標電流値Iq*とバンドパスフィルタ85を介して出力されるd軸実電流値Idとで生成されるd軸制御電圧Vd*によって、操舵トルクτnのゲインが下げられて不要な振動が除去される。
【0150】
つまり、ブラシレスモータMの回転速度に相対してブラシレスモータMの特性も相対して変化させることができ、ハンドル2の操舵感を向上させることができる。
次に、上記のように構成した第3実施形態の効果を以下に記載する。
【0151】
(1)上記実施形態によれば、第1実施形態の効果に加えて、ブラシレスモータMの回転速度が、予め決められた周波数帯域B1において、何らかの要因(路面外乱やメカ・車両の共振特性等によって発生)で不要な振動が重畳して操舵トルクτnのゲインが変動してブラシレスモータMの動き易さが変動しても、これを補償することができる。
【0152】
なお、図17、図18に示す予め決められた周波数帯域B2の場合には、予め決められた周波数帯域B2での操舵トルクτnのゲインを上げるためのバンドパスフィルタ85を設け、バンドパスフィルタ85を介してd軸実電流値をd軸電流制御部34に出力することになる。
【0153】
(第4実施形態)
次に、EPS制御装置20の第4実施形態について図21に従って説明する。
第4実施形態では、上記した第2実施形態の主要部が基本的に同じなので、説明の便宜上、第2実施形態と共通部分についは符号を同じにしてその詳細は省略し、相違する点のみ詳細に説明する。
【0154】
図21に示すように、第4実施形態のEPS制御装置20は、図14に示す第2実施形態のEPS制御装置20のゲイン選択部38を省略した構成である。従って、d軸電流制御部34に設けたd軸比例制御器43のd軸比例ゲインFpd及びd軸積分制御器44のd軸積分ゲインFidは固定値である。
【0155】
つまり、d軸比例ゲインFpd及びd軸積分ゲインFidを、操舵速度ωnや操舵トルクτnが変動しても変更させないで、d軸目標電流値Id*に対するd軸実電流値Idの電流応答性を一定にした。
【0156】
従って、第4実施形態によれば、ブラシレスモータMの回転速度が図15に示す予め決められた周波数帯域B1(図17の予め決められた周波数帯域B2も同様)において、何らかの要因(路面外乱やメカ・車両の共振特性等によって発生)で不要な振動が重畳してゲインが変動して、ブラシレスモータMの動き易さが変動しても、第2実施形態と同様に、これを補償することができる。
【0157】
勿論、図19に示すEPS制御装置20のゲイン選択部38を省略して実施してもよい。
(第5実施形態)
次に、EPS制御装置20の第5実施形態について図22に従って説明する。
【0158】
第5実施形態では、上記した第3実施形態の主要部が基本的に同じなので、説明の便宜上、第3実施形態と共通部分についは符号を同じにしてその詳細は省略し、相違する点のみ詳細に説明する。
【0159】
図22に示すように、第5実施形態のEPS制御装置20は、図20に示す第3実施形態のEPS制御装置20のゲイン選択部38を省略した構成である。従って、d軸電流制御部34に設けたd軸比例制御器43のd軸比例ゲインFpd及びd軸積分制御器44のd軸積分ゲインFidは固定値である。
【0160】
つまり、d軸比例ゲインFpd及びd軸積分ゲインFidを、操舵速度ωnや操舵トルクτnが変動しても変更させないで、d軸目標電流値Id*に対するd軸実電流値Idの電流応答性を一定にした。
【0161】
従って、第5実施形態によれば、ブラシレスモータMの回転速度が図16に示すように予め決められた周波数帯域B1(図17の予め決められた周波数帯域B2も同様)において、何らかの要因(路面外乱やメカ・車両の共振特性等によって発生)で不要な振動が重畳してゲインが変動して、ブラシレスモータMの動き易さが変動しても、第2実施形態と同様に、これを補償することができる。
【0162】
尚、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記第2〜5実施形態では、バンドパスフィルタ81,85を設けたが、バンドパスフィルタに変えて、ノッチフィルタにしたり、ローパスフィルタとハイパスフィルタを組み合わせたりして実施してもよい。
【0163】
・上記各実施形態では、目標電流値生成回路23が生成するd軸目標電流値Id*を「0」としたが、これに限定されるものではない。例えば、操舵速度ωnに応じてd軸目標電流値Id*を適宜変更してもよい。
【符号の説明】
【0164】
1…電動パワーステアリング装置(EPS装置)、2…ハンドル、3…ステアリングシャフト、3a…入力軸ロータ、3b…出力軸、4…自在継ぎ手、5…インターミディエイト、6…回転軸、7…ラック、8…ピニオン軸、9…タイロッド、10…タイヤ、11…ステアリングコラム、14…トルクセンサ、15…操舵角検出センサ、16…操舵速度・操舵角算出器、20…電動パワーステアリング制御装置(EPS制御装置)、21…制御回路、22…インバータ回路、23…目標電流値生成回路(目標電流値生成手段)、24…回転センサ、25…第1電流検出器、26…第2電流検出器、31…位置演算部(実電流値検出手段)、32…3相−2相電流変換部(実電流値検出手段)、34…d軸電流制御部(d軸電流制御手段)、35…q軸電流制御部(q軸電流制御手段)、36…2相−3相電圧変換部(駆動手段)、37…PWM生成部(駆動手段)、38…ゲイン選択部(補正手段)、38a…d軸比例ゲイン演算器、38b…d軸積分ゲイン演算器、41…第1d軸減算器、42…第2d軸減算器、43…d軸比例制御器、44…d軸積分制御器、51…第1q軸減算器、52…第2q軸減算器、53…q軸比例制御器、54…q軸積分制御器、61…基準値生成部、62…第1補正部、63…第2補正部、64…乗算部、66…基準値生成部、67…第1補正部、68…第2補正部、69…乗算部、70…d軸電流制御部、71…d軸減算器、72…d軸比例制御器、73…d軸積分制御器、74…q軸加算器、81,85…バンドパスフィルタ(補正手段)、82…補正定数設定回路(補正手段)、83,84…減算器(補正手段)、M…3相ブラシレスモータ、α1,β1…第1補正係数値、α2,β2…第2補正係数値、ωn…操舵速度、τn…操舵トルク、fp,fi…基準ゲイン値、Id…d軸実電流値、Iq…q軸実電流値、Iu…U相電流、Iv…V相電流、Su,Sv,Sw…PWM信号、Vu,Vv,Vw…駆動電圧、Fpd…d軸比例ゲイン、Fpq…q軸比例ゲイン、Fid…d軸積分ゲイン、Fiq…q軸積分ゲイン、Id*…d軸目標電流値、Ie…補正電流値、Id**…補正d軸目標電流値、Iq*…q軸目標電流値、Vd*…d軸制御電圧、Ve…補正電圧、Vd**…補正d軸制御電圧、Vq*…q軸制御電圧、TBa1,TBb1…第1補正テーブル、TBa2,TBb2…第2補正テーブル、N…中立位置、B1,B2…周波数帯域、f1,f2…中心周波数。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のハンドルによる操作に基づいて、そのハンドルにかかる操舵トルクを検出するトルクセンサと、
ステアリング機構にアシストトルクを付与するモータと、
前記トルクセンサが検出した操舵トルクに基づいて、前記モータをベクトル制御するためにq軸成分のq軸目標電流値とd軸成分のd軸目標電流値を生成する目標電流値生成手段と、
前記モータからq軸成分のq軸実電流値とd軸成分のd軸実電流値を検出する実電流値検出手段と、
前記q軸目標電流値と前記q軸実電流値とに基づいて、q軸制御電圧を生成するq軸電流制御手段と、
前記d軸目標電流値と前記d軸実電流値とに基づいて、d軸制御電圧を生成するd軸電流制御手段と、
前記q軸制御電圧と前記d軸制御電圧に基づいて、前記モータに印加するための駆動電圧を生成する駆動手段と
を有した電動パワーステアリング制御装置であって、
前記車両の車両状態又は前記ハンドルの操舵状態に応じて、前記d軸成分の特性を可変させる補正手段を設け、ハンドルにかかる操舵トルクを制御することを特徴とする電動パワーステアリング制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電動パワーステアリング制御装置において、
前記補正手段は、前記車両の車両状態又は前記ハンドルの操舵状態に応じて、前記d軸電流制御手段の特性を可変させものであることを特徴とする電動パワーステアリング制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電動パワーステアリング制御装置において、
前記d軸電流制御手段の特性は、前記d軸目標電流値に対する前記d軸実電流値の周波数応答帯域であり、前記補正手段は、前記車両の車両状態又は前記ハンドルの操舵状態に応じて、前記周波数応答帯域を可変させるものであることを特徴とする電動パワーステアリング制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の電動パワーステアリング制御装置において、
前記d軸電流制御手段は、2自由度IP制御器又はPI制御器よりなり、前記制御器に含まれるd軸積分制御器の積分ゲイン及びd軸比例制御器の比例ゲインの少なくともいずれか一方が、前記補正手段にて前記車両の車両状態又は前記ハンドルの操舵状態に応じて可変されて、前記周波数応答帯域が可変されることを特徴とする電動パワーステアリング制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載の電動パワーステアリング制御装置において、
前記補正手段は、ハンドルの操舵速度、操舵トルク、操舵角及び車速の少なくともいずれか1つに基づいて、前記d軸積分制御器の積分ゲインまたは前記d軸比例制御器の比例ゲインを設定することを特徴とする電動パワーステアリング制御装置。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の電動パワーステアリング制御装置において、
前記補正手段は、ハンドルの操舵速度が速いほど、前記周波数応答帯域が高くなるように、前記d軸積分制御器の積分ゲイン及び前記d軸比例制御器の比例ゲインを設定したことを特徴とする電動パワーステアリング制御装置。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれか1項に記載の電動パワーステアリング制御装置において、
前記補正手段は、ハンドルの操舵トルクが大きいほど、前記周波数応答帯域が高くなるように、前記d軸積分制御器の積分ゲイン及び前記d軸比例制御器の比例ゲインを設定したことを特徴とする電動パワーステアリング制御装置。
【請求項8】
請求項4〜7のいずれか1項に記載の電動パワーステアリング制御装置において、
前記補正手段は、ハンドルの操舵角が中立位置に近いほど、前記周波数応答帯域が低くなるように、前記d軸積分制御器の積分ゲイン及び前記d軸比例制御器の比例ゲインを設定したことを特徴とする電動パワーステアリング制御装置。
【請求項9】
請求項1に記載の電動パワーステアリング制御装置において、
前記補正手段は、前記車両の車両状態又は前記ハンドルの操舵状態に応じて、前記d軸成分の前記d軸制御電圧、前記d軸目標電流値及び前記d軸実電流値の少なくとも1つを可変させるものであることを特徴とする電動パワーステアリング制御装置。
【請求項10】
請求項1又は9に記載の電動パワーステアリング制御装置において、
前記補正手段は、前記d軸目標電流値に対する前記d軸実電流値の周波数応答帯域の予め決められた周波数応答帯域のゲインを可変にすることを特徴とする電動パワーステアリング制御装置。
【請求項11】
請求項9又は10に記載の電動パワーステアリング制御装置において、
前記補正手段は、前記モータの回転速度信号から予め決められた周波数応答帯域の回転速度信号をバンドパスフィルタにて検出し、予め決められた周波数応答帯域における回転速度信号に基づいて補正値を算出し、その補正値にて、前記d軸制御電圧又は前記d軸目標電流値を補正するものであることを特徴とする電動パワーステアリング制御装置。
【請求項12】
請求項9又は10に記載の電動パワーステアリング制御装置において、
前記補正手段は、前記d軸実電流値から予め決められた周波数応答帯域の前記d軸実電流値をバンドパスフィルタにて検出し、その検出された前記d軸実電流値と前記d軸目標電流値とで、
前記d軸電流制御手段においてd軸制御電圧を生成させるものであることを特徴とする電動パワーステアリング制御装置。
【請求項1】
車両のハンドルによる操作に基づいて、そのハンドルにかかる操舵トルクを検出するトルクセンサと、
ステアリング機構にアシストトルクを付与するモータと、
前記トルクセンサが検出した操舵トルクに基づいて、前記モータをベクトル制御するためにq軸成分のq軸目標電流値とd軸成分のd軸目標電流値を生成する目標電流値生成手段と、
前記モータからq軸成分のq軸実電流値とd軸成分のd軸実電流値を検出する実電流値検出手段と、
前記q軸目標電流値と前記q軸実電流値とに基づいて、q軸制御電圧を生成するq軸電流制御手段と、
前記d軸目標電流値と前記d軸実電流値とに基づいて、d軸制御電圧を生成するd軸電流制御手段と、
前記q軸制御電圧と前記d軸制御電圧に基づいて、前記モータに印加するための駆動電圧を生成する駆動手段と
を有した電動パワーステアリング制御装置であって、
前記車両の車両状態又は前記ハンドルの操舵状態に応じて、前記d軸成分の特性を可変させる補正手段を設け、ハンドルにかかる操舵トルクを制御することを特徴とする電動パワーステアリング制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電動パワーステアリング制御装置において、
前記補正手段は、前記車両の車両状態又は前記ハンドルの操舵状態に応じて、前記d軸電流制御手段の特性を可変させものであることを特徴とする電動パワーステアリング制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電動パワーステアリング制御装置において、
前記d軸電流制御手段の特性は、前記d軸目標電流値に対する前記d軸実電流値の周波数応答帯域であり、前記補正手段は、前記車両の車両状態又は前記ハンドルの操舵状態に応じて、前記周波数応答帯域を可変させるものであることを特徴とする電動パワーステアリング制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の電動パワーステアリング制御装置において、
前記d軸電流制御手段は、2自由度IP制御器又はPI制御器よりなり、前記制御器に含まれるd軸積分制御器の積分ゲイン及びd軸比例制御器の比例ゲインの少なくともいずれか一方が、前記補正手段にて前記車両の車両状態又は前記ハンドルの操舵状態に応じて可変されて、前記周波数応答帯域が可変されることを特徴とする電動パワーステアリング制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載の電動パワーステアリング制御装置において、
前記補正手段は、ハンドルの操舵速度、操舵トルク、操舵角及び車速の少なくともいずれか1つに基づいて、前記d軸積分制御器の積分ゲインまたは前記d軸比例制御器の比例ゲインを設定することを特徴とする電動パワーステアリング制御装置。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の電動パワーステアリング制御装置において、
前記補正手段は、ハンドルの操舵速度が速いほど、前記周波数応答帯域が高くなるように、前記d軸積分制御器の積分ゲイン及び前記d軸比例制御器の比例ゲインを設定したことを特徴とする電動パワーステアリング制御装置。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれか1項に記載の電動パワーステアリング制御装置において、
前記補正手段は、ハンドルの操舵トルクが大きいほど、前記周波数応答帯域が高くなるように、前記d軸積分制御器の積分ゲイン及び前記d軸比例制御器の比例ゲインを設定したことを特徴とする電動パワーステアリング制御装置。
【請求項8】
請求項4〜7のいずれか1項に記載の電動パワーステアリング制御装置において、
前記補正手段は、ハンドルの操舵角が中立位置に近いほど、前記周波数応答帯域が低くなるように、前記d軸積分制御器の積分ゲイン及び前記d軸比例制御器の比例ゲインを設定したことを特徴とする電動パワーステアリング制御装置。
【請求項9】
請求項1に記載の電動パワーステアリング制御装置において、
前記補正手段は、前記車両の車両状態又は前記ハンドルの操舵状態に応じて、前記d軸成分の前記d軸制御電圧、前記d軸目標電流値及び前記d軸実電流値の少なくとも1つを可変させるものであることを特徴とする電動パワーステアリング制御装置。
【請求項10】
請求項1又は9に記載の電動パワーステアリング制御装置において、
前記補正手段は、前記d軸目標電流値に対する前記d軸実電流値の周波数応答帯域の予め決められた周波数応答帯域のゲインを可変にすることを特徴とする電動パワーステアリング制御装置。
【請求項11】
請求項9又は10に記載の電動パワーステアリング制御装置において、
前記補正手段は、前記モータの回転速度信号から予め決められた周波数応答帯域の回転速度信号をバンドパスフィルタにて検出し、予め決められた周波数応答帯域における回転速度信号に基づいて補正値を算出し、その補正値にて、前記d軸制御電圧又は前記d軸目標電流値を補正するものであることを特徴とする電動パワーステアリング制御装置。
【請求項12】
請求項9又は10に記載の電動パワーステアリング制御装置において、
前記補正手段は、前記d軸実電流値から予め決められた周波数応答帯域の前記d軸実電流値をバンドパスフィルタにて検出し、その検出された前記d軸実電流値と前記d軸目標電流値とで、
前記d軸電流制御手段においてd軸制御電圧を生成させるものであることを特徴とする電動パワーステアリング制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【公開番号】特開2012−218498(P2012−218498A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−83906(P2011−83906)
【出願日】平成23年4月5日(2011.4.5)
【出願人】(000101352)アスモ株式会社 (1,622)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月5日(2011.4.5)
【出願人】(000101352)アスモ株式会社 (1,622)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
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