説明

電動パワーステアリング装置

【課題】部品点数の増加やコストアップを抑制した簡素な構成のモータ回転角検出手段を使用して運転者に不快感を与えることを抑制する。
【解決手段】運転者の操舵量に応じた前記電動モータの相対角度情報を算出するモータ相対角度情報算出部48a〜48cと、該モータ相対角度情報算出部が相対角度情報を得られない状態となることを防止して常時相対角度情報の生成を可能とする相対角度情報補完部48eとを有するモータ相対角度検出手段48を備え、前記モータ相対角度情報算出部は、前記操舵トルクに基づいてモータ相対角度変化量を算出し、算出したモータ相対角度変化量を前回サンプリング時のモータ相対角度に加算してモータ相対角度を算出する補完用相対角度情報演算部を有し、前記モータ角速度が零近傍の不感帯内にあるときに、前記補完用相対角度情報演算部で算出したモータ相対角度に基づいてモータ相対角度情報を演算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵系に対して入力される操舵トルクに応じた操舵補助力を発生する電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の電動パワーステアリング装置としては、例えば位置検出手順で、電動機の角度位置を検出し、異常検出手順で、位置検出手順より出力された位置信号の振幅値が、前記電動機の回転角位置に応じて変動し予め定めた所定値より低くなる場合の有無に基づき前記位置検出手順の異常を検出し、異常検出手順により前記位置検出手順の異常が検出された後、前記電動機の回転角度位置の変化に応じて前記位置信号の振幅値が所定のレベル以上となる回転角度位置ではトルク制御手順を実行して操舵力を補助するトルクを出力し、前記位置信号の振幅値が所定のレベル以下となる前記電動機の回転角度位置ではトルクゼロ制御手順を実行して出力トルクをゼロとすることにより、位置検出手順の異常時に突然アシストを停止してマニュアルステアリング状態としても、車両状態による反力によりステアリングホイールが急激に戻されることを防止する電動パワーステアリング装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、ロータ位置の検出機能に異常が生じ、ブラシレスモータが回転中であるときには、予め設定された固定パターンで電磁コイルの電流の向きを順に切り換える制御を行わせ、ブラシレスモータが停止してしまっているときには、駆動信号を低周波から徐々に高周波に切り換えて、ブラシレスモータを起動させるようにした車両用ブラシレスモータの制御装置が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
さらに、操舵トルクに応じた波高値の正弦波を発生する基準波発生器の出力と、これとモータ電流との偏差を増幅する誤差増幅器の出力とを位相比較器と、その位相比較出力が入力されて電圧制御出力を基準波発生器に出力する電圧制御発振器とでPLL回路を構成することにより、回転角センサを用いることなく、ブラシレスモータを駆動するようにした車両用操舵装置も提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3600805号明細書(第1頁、図7)
【特許文献2】特開2005−253226号公報(第1頁、図2)
【特許文献3】特開2003−40119号公報(第1頁、図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載の従来例にあっては、例えば車両が旋回状態であって、ステアリングホイールを切り増し方向の修正舵を当てる場合に、ステアリングホイール反力が電動パワーステアリングのアシストが得られない状態と同等の大きさとなり、運転者に対して不快感を与えるという未解決の課題がある。
また、上記特許文献2に記載の従来例にあっては、電動パワーステアリング装置としては、位置検出センサが異常となったときに、予め決められたパターンでモータを駆動した場合、運転者の意図に反してステアリングホイール回転する可能性があり、運転者の意志に従ったモータ駆動を行うことができないという未解決の課題がある。
【0007】
さらに、上記特許文献3に記載の従来例にあっては、特に電動パワーステアリングステアリングに使用するモータとしては、電源がオフされている時にステアリングホイールを回転させることが容易に想定されると共に、停車時のステアリングホイール位置を特定することはできないため、モータの初期角度を想定することはできず、運転者に違和感を与
えることを完全に防止することはできない、このため、特許文献3に記載の従来例をモータ回転角検出異常時の代替制御装置として使用することが考えられるが、この場合には、通常の制御回路構成以外にPLL回路等を設けてセンサレス駆動を前提としたアナログ回路構成が必要となるか、それと同等の演算が可能な高性能な演算処理装置を必要とし、部品点数が増加すると共に、コストが嵩むという未解決の課題がある。
【0008】
また、上記以外にも、角速度に比例する逆起電力を用いたセンサレスブラシレスモータの駆動方法が種々提案されているが、速度零付近の制御が困難であり、実現する場合に非常に高速な演算を行うことが可能なCPUを必要とし、また非常に複雑且つ難解なアルゴリズムを必要とする公知例が存在する。しかも、公知例の多くはブラシレスモータが一定方向に回転し続けることを前提としている(回転方向の反転には例えばスイッチで回転方向切り換える等の手法が前提となっている)ため、電動パワーステアリング装置のような、マスタ/スレーブ制御には適さないか、適用しようとすると非常に高速な演算が可能なCPUを必要とする等コストが嵩む要因となる。
【0009】
このため、正常時は角度検出器を用いて制御を行っている電動パワーステアリング装置で、角度検出器が異常になった場合など、角度情報を正しく得られない状態となった場合にセンサレスでモータ駆動を行うことができず、フェールセーフを発動して操舵補助制御を停止するしか方法が無いという未解決の課題がある。
そこで、本発明は、上記従来例の未解決の課題に着目してなされたものであり、部品点数の増加やコストアップを抑制した簡素な構成のモータ相対角度検出手段を使用して運転者に不快感を与えることを抑制することができる電動式パワーステアリング装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、請求項1に係る電動パワーステアリング装置は、操舵系に対して操舵補助力を発生する電動モータと、該電動モータの回転角を検出するモータ回転角検出手段と、前記操舵系に伝達される操舵トルクを検出する操舵トルク検出手段と、該操舵トルク検出手段で検出した操舵トルクに基づいて操舵補助指令値を算出し、算出した操舵補助指令値及び前記モータ回転角検出手段で検出したモータ回転角とに基づいて前記電動モータを駆動制御するモータ制御手段とを備えた電動パワーステアリング装置であって、
前記モータ回転角検出手段の異常を検出するモータ回転角異常検出手段と、運転者の前記操舵系に対する操舵量に応じた前記電動モータの相対角度情報を算出するモータ相対角度情報算出部とを有するモータ相対角度検出手段とを備え、
前記モータ制御手段は、前記モータ回転角異常検出手段で前記モータ回転角検出手段の異常を検出していないときに、当該回転角検出手段で検出したモータ回転角情報を選択し、前記モータ回転角異常検出手段で前記モータ回転角検出手段の異常を検出したときに、前記モータ相対角度検出手段で検出した相対角度情報を選択し、選択した前記モータ回転角情報又は相対角度情報に基づいて前記電動モータを駆動制御するように構成され、
前記モータ相対角度情報算出部は、前記操舵トルク検出手段で検出した操舵トルクに基づいてモータ相対角度変化量を算出し、算出したモータ相対角度変化量を前回サンプリング時のモータ相対角度に加算してモータ相対角度を算出する補完用相対角度情報演算部を有し、前記モータ角速度が零近傍の不感帯内にあるときに、前記補完用相対角度情報演算部で算出したモータ相対角度に基づいてモータ相対角度情報を演算することを特徴としている。
【0011】
また、請求項2に係る電動パワーステアリング装置は、前記モータ制御手段が、前記相対角度情報に基づいて前記電動モータを駆動制御する時に、初期角度を設定することなく任意の実角度から駆動するように構成されていることを特徴としている。
さらに、請求項3に係る電動パワーステアリング装置は、請求項1又は2に係る発明において、前記モータ相対角度情報算出部は、前記モータの逆起電圧演算部から入力される逆起電圧に基づいて相対角速度を演算し、演算した相対角速度の符号を前記操舵トルク検出手段で検出した操舵トルクに基づいて決定するように構成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、運転者の操舵量に応じた電動モータの相対角度情報算出部でモータの相対角速度、相対角度等の相対角度情報を算出し、相対角度情報補完部で、運転者の操舵量から相対角度情報が得られなくなることを防止して常時相対角度情報の出力を可能としたので、初期の実モータ角が定まらない状態でも、簡素な構成で、モータの相対角度を確実に検出することができ、モータ制御手段による電動モータの駆動制御を継続して、運転者の意図に応じた操舵補助力を発生させることができ、部品点数の増加やシステムのコストアップを招くことがないと共に、運転者に違和感を与えることなく操舵補助制御を継続することができるという効果が得られる。
このとき、モータの相対角度が実角度に対する誤差量が大きくなり続けるおそれがある要補正状態となったときに、その時の状態に応じてモータの相対角度情報を補正することにより、相対角度情報の誤差が拡大されることを確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態を示す概略構成図である。
【図2】操舵トルクセンサから出力される操舵トルク検出信号の特性線図である。
【図3】図1の制御装置の具体的構成を示すブロック図である。
【図4】制御装置のマイクロコンピュータの機能ブロック図である。
【図5】図4の電流指令値算出部の具体的構成を示すブロックである。
【図6】操舵補助制御処理で使用する操舵トルクと操舵補助指令値との関係を示す操舵補助指令値算出マップを示す説明図である。
【図7】セルフアライニングトルクの説明に供する模式図である。
【図8】図4の角速度・角加速度演算部の具体的構成を示すブロック図である。
【図9】制御装置のマイクロコンピュータで実行するモータ回転角異常検出処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図10】図9で使用する異常判定マップを示す説明図である。
【図11】制御装置のマイクロコンピュータで実行する操舵補助制御処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図12】制御装置のマイクロコンピュータで実行する相対角度情報演算処理を手順の一例を示すフローチャートである。
【図13】電動モータのロータとステータの磁界ベクトル相対角誤差とロータに発生するエネルギーの絶対値の関係を示す特性線図である。
【図14】本発明の第2の実施形態を示す機能ブロック図である。
【図15】第2の実施形態の相対角度演算処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図16】モータ回転角推定処理の機能ブロック図である。
【図17】角速度・角加速度演算部を示すブロック図である。
【図18】本発明の第3の実施形態の相対角度検出処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図19】本発明の他の実施形態における制御装置の具体例を示すブロック図である。
【図20】3相検出信号を示す信号波形図である。
【図21】a相検出信号がハイレベル固着したときの信号波形図である。
【図22】a相検出信号がローレベル固着したときの信号波形図である。
【図23】本発明の他の実施形態における相対角度補正処理手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の一実施形態を示す全体構成図であって、図中、1は通常の車両に搭載されているバッテリであって、このバッテリ1から出力されるバッテリ電圧Vbがヒューズ2を介して制御装置3に入力される。この制御装置3は、ヒューズ2を介して入力されるバッテリ電圧Vbが図3中に示すリレー4を介して入力された操舵系に対して操舵補助力を発生する電動モータ5を駆動するモータ駆動手段としてのモータ駆動回路6を有する。
【0015】
ここで、電動モータ5は、例えば三相交流駆動されるスター(Y)結線されたブラシレスモータで構成され、電動パワーステアリング装置の操舵補助力を発生する操舵補助力発生用モータとして動作する。この電動モータ5は、ステアリングホイール11が接続されたステアリングシャフト12に減速機構13を介して連結され、このステアリングシャフ
ト12がラックピニオン機構14に連結され、このラックピニオン機構14がタイロッド等の連結機構15を介して左右の転舵輪16に連結されている。
【0016】
そして、ステアリングシャフト12には、ステアリングホイール11に入力された操舵トルクを検出する操舵トルクセンサ17が配設されていると共に、電動モータ5にはモータ回転角を検出するレゾルバ18が配設され、操舵トルクセンサ17で検出した操舵トルク検出信号及びレゾルバ18で検出したモータ回転角検出信号が制御装置3へ入力されている。
【0017】
ここで、操舵トルクセンサ17は、ステアリングホイール11に付与されてステアリングシャフト12に伝達された操舵トルクを検出するもので、例えば、操舵トルクを図示しない入力軸及び出力軸間に介挿したトーションバーの捩れ角変位に変換し、この捩れ角変位を磁気信号で検出し、それを電気信号に変換するように構成されている。この操舵トルクセンサ17は、図2に示すように、入力される操舵トルクが零のときには、所定の中立操舵トルク検出値T0となり、この状態から例えば右切りすると、操舵トルクの増加に応じて中立操舵トルク検出値T0より増加する値となり、操舵トルクが零の状態から左切りすると操舵トルクの増加に応じて中立操舵トルクT0より減少する操舵トルク検出値Tを出力するように構成されている。
【0018】
モータ駆動回路6は、図3に示すように、2つの電界効果トランジスタQaa及びQabが直列に接続された直列回路と、この直列回路と並列に接続された同様に2つの電界効果トランジスタQba及びQbbの直列回路、電界効果トランジスタQca及びQcbの直列回路とで構成されるインバータ回路21を有する。このインバータ回路21の電界効果トランジスタQaa及びQabの接続点、電界効果トランジスタQba及びQbbの接続点並びに電界効果トランジスタQca及びQcbの接続点が電動モータ5のスター結線された各励磁コイルLa、Lb並びにLcに接続され、さらにインバータ回路21から電動モータ5に出力されるモータ駆動電流Ia、Ibがモータ電流検出回路7で検出される。
【0019】
また、モータ駆動回路は、インバータ回路21の各電界効果トランジスタFET1〜FET6を制御するFETゲート駆動回路22を有する。このFETゲート駆動回路22は、インバータ回路21の電界効果トランジスタFET1〜FET6を、後述するマイクロコンピュータ30から出力される電流指令値Iat、Ibt及びIctに基づいて決定されるデューティ比Da、Db及びDcのPWM(パルス幅変調)信号によってON/OFFされ、実際に電動モータ5に流れる電流Ia、Ib及びIcの大きさが制御される。ここで、デューティ比Da、Db及びDcの大きさに伴って上アームを構成するFET1、FET3及びDFET5と下アームを構成するFET2、FET4及びFET6は、夫々アームショートを避けるためのデッドタイムを持ってPWM駆動される。
【0020】
さらに、制御装置3はゲート駆動回路22に対して電動モータ5で操舵補助力を発生させるデューティ比のパルス幅変調信号を供給するマイクロコンピュータ30を有する。
このマイクロコンピュータ30には、電動モータ5の各相電流を検出する電流検出回路7から入力される各相電流検出値Ia〜Icと、電動モータ5の各相の端子電圧を検出する端子電圧検出回路8から入力される各相端子電圧Va〜Vcとが入力されると共に、操舵トルクセンサ17で検出した操舵トルク信号がA/D変換回路31を介して入力され、レゾルバ18の出力信号が入力されたモータ回転角信号を出力するモータ回転角検出回路32からのモータ回転角信号sinθ及びcosθ が入力端子に入力され、さらに車速
Vsを検出する車速センサ33から出力される車速検出値Vsが入力される。
【0021】
このマイクロコンピュータ30には、ヒューズ2に接続されて例えば5Vのマイクロコンピュータ用電源を形成する安定化電源回路34から出力される安定化電源が制御電源として入力されている。
ここで、モータ回転角検出回路32は、所定の周波数を有する搬送波信号sinωtをレゾルバ18に供給して、この搬送波信号sinωtを正弦波sinθで振幅変調した波形を有する正弦波信号(sinωt・sinθ)及び搬送波信号sinωtを余弦波cosθで振幅変調した波形を有する余弦波信号(sinωt・cosθ)を発生させ、これら正弦波信号(sinωt・sinθ)及び余弦波信号(sinωt・cosθ)をA/D変換器35及び36を介してマイクロコンピュータ30に入力すると共に、搬送波sinωtの例えば正のピーク時期を検出してピーク検出パルスPpをマイクロコンピュータ30に入力する。
【0022】
マイクロコンピュータ30の構成は、機能ブロック図で表すと図4に示すようになり、後述するフェールセーフ処理部49からのフェールセーフ信号SFによって操舵トルクセンサ17から入力される操舵トルクTの急激な変化を抑制して徐々に変化させる徐変制御部41と、この徐変制御部41で急激な変化が制限された操舵トルクTsと車速センサ33で検出した車速Vsが入力されると共に、後述する角速度・角加速度検出部から入力される角速度ωe及び角加速度αに基づいてベクトル制御を行って3相の電流指令値Ia*〜Ic*を算出する電流指令値算出部42と、この電流指令値算出部42から出力される電流指令値Ia*〜Ic*を後述するフェールセーフ処理部49からのフェールセーフ信号SFによって制限する電流出力制限部43と、この電流出力制限部43から出力される電流指令値Ia*〜Ic*と電流検出回路7から入力される相電流検出値Ia〜Icを減算して偏差ΔIa〜ΔIcを算出する減算部44と、この減算部44から出力される偏差ΔIa〜ΔIcを例えば比例・積分(PI)制御して指令電圧Va*〜Vc*をモータ駆動回路6のFETゲート駆動回路22に出力する電流制御部45と、電流検出回路7から入力される電流検出値Ia〜Icと、端子電圧検出回路8から入力される端子電圧Va〜Vcとが入力され、これらに基づいて各モータコイルの線間で発生する線間逆起電圧EMFab、EMFbc、EMFcaを演算する逆起電圧演算部46と、モータ回転角検出回路32から入力される正弦波信号(sinωt・sinθ)及び余弦波信号(sinωt・cosθ)とピーク検出パルスPpとに基づいて電気角で表されるモータ回転角θeを演算するモータ回転角演算部47と、逆起電圧演算部46で演算された線間逆起電圧EMFab、EMFbc、EMFcaとモータ回転角演算部47で演算されたモータ回転角θeとに基づいて角速度及び角加速度を算出する相対角度及び実角度情報検出手段としての回転角速度・角加速度演算部48と、操舵トルクセンサ17で検出した操舵トルクTs、車速センサ6で検出した車速検出値Vs及びモータ回転角演算部47で演算されたモータ回転角θeが入力され、これらに基づいて操舵トルクセンサ17、車速センサ33及びレゾルバ18、モータ回転角検出回路32、モータ回転角演算部47の異常を検出してフェールセーフ処理を行うモータ回転角異常検出手段としてのフェールセーフ処理部49とを備えている。
【0023】
ここで、電流指令値算出部42は、図5に示すように、操舵トルクセンサ17から入力される操舵トルクTsと車速検出値Vsとに基づいて図6に示す操舵補助電流指令値IM*を算出する操舵補助電流指令値算出マップを参照して操舵補助電流指令値IM*を算出する操舵補助トルク指令値演算部42Aと、この操舵補助トルク指令値演算部42Aで算出した操舵補助電流指令値IM*に対して後述する角速度・角加速度演算部48から入力される角速度ωe及び角加速度αに基づいて補償を行う指令値補償部42Bと、この指令値補償部42Bで補償された補償後トルク指令値IM*′に基づいてd−q軸電流指令値を算出し、これを3相電流指令値に変換するd−q軸電流指令値演算部42Cとで構成されている。
【0024】
操舵補助トルク指令値演算部42Aは、操舵トルクTs及び車速Vsをもとに図6に示
す操舵補助トルク指令値算出マップを参照して電流指令値でなる操舵補助トルク指令値IM*を算出する。
この操舵補助トルク指令値算出マップは、図6に示すように、横軸に操舵トルクTsをとり、縦軸に操舵補助トルク指令値IM*をとると共に、車速Vsをパラメータとした放物線状の曲線で表される特性線図で構成され、操舵トルクTsが“0”からその近傍の設定値Ts1までの間は操舵補助トルク指令値IM*が“0”を維持し、操舵トルクTが設定値Ts1を超えると最初は操舵補助指令値IM*が操舵トルクTの増加に対して比較的緩やかに増加するが、さらに操舵トルクTが増加すると、その増加に対して操舵補助トルク指令値IM*が急峻に増加するように設定され、この特性曲線が車速の増加に従って傾きが小さくなるように設定されている。
【0025】
指令値補償部42Bは、後述する角速度・角加速度演算部48で算出されたモータ角速度ωeに基づいてヨーレートの収斂性を補償する収斂性補償部51と、角速度・角加速度演算部48で算出されたモータ角加速度αに基づいて電動モータ5の慣性により発生するトルク相当分を補償して慣性感又は制御応答性の悪化を防止する慣性補償部52と、セルフアライニングトルク(SAT)を推定するSAT推定フィードバック部53とを少なくとも有する。
【0026】
ここで、収斂性補償部51は、車速センサ33で検出した車速Vs及び角速度・角加速度演算部48で算出されたモータ角速度ωeが入力され、車両のヨーの収斂性を改善するためにステアリングホイール1が振れ回る動作に対して、ブレーキをかけるように、モータ角速度ωeに車速Vに応じて変更される収斂性制御ゲインKvを乗じて収斂性補償値Icを算出する。
【0027】
また、SAT推定フィードバック部53は、操舵トルクT、角速度ω、角加速度α及び操舵補助トルク指令値演算部42Aで算出した操舵補助電流指令値IM*が入力され、これらに基づいてセルフアライニングトルクSATを推定演算する。このセルフアライニングトルクSATを算出する原理は、路面からステアリングまでの間に発生するトルクの様子を図7に示して説明する。
【0028】
すなわち、ドライバがステアリングホイール1を操舵することによって操舵トルクTが発生し、その操舵トルクTに従って電動モータ5がアシストトルクTmを発生する。その結果、車輪Wが転舵され、反力としてセルフアライニングトルクSATが発生する。
また、その際、電動モータ5の慣性J及び摩擦(静摩擦)Frによってステアリングホイール1の操舵の抵抗となるトルクが生じる。これらの力の釣り合いを考えると、下記(1)式のような運動方程式が得られる。
J・α+ Fr・sign(ω) + SAT = Tm + T …(1)
【0029】
ここで、上記(1)式を初期値ゼロとしてラプラス変換し、セルフアライニングトルクSATについて解くと下記(2)式が得られる。
SAT(s) = Tm(s) + T(s) − J・α(s) + Fr・sign(ω(s)) …(2)
上記(2)式から分かるように、電動モータ5の慣性J及び静摩擦Frを定数として予め求めておくことで、モータ角速度ω、回転角加速度α、アシストトルクTm及び操舵トルクTよりセルフアライニングトルクSATを推定することができる。ここで、アシストトルクTmは操舵補助電流指令値IM*に比例するので、アシストトルクTmに代えて操舵補助電流指令値IM*を適用する。
【0030】
そして、慣性補償部52で算出された慣性補償値Ii及びSAT推定フィードバック部53で算出されたセルフアライニングトルクSATが加算器54で加算され、この加算器54の加算出力と収斂性補償部51で算出された収斂性補償値Icとが加算器55で加算
されて指令補償値Icomが算出され、この指令補償値Icomが操舵補助トルク指令値演算部42Aから出力される操舵補助トルク指令値IM*に加算器56で加算されて補償後トルク指令値IM*′が算出され、この補償後トルク指令値IM*′がd−q軸電流指令値演算部42Cに出力される。
【0031】
また、d−q軸電流指令値演算部42Cは、補償後操舵補助トルク指令値IM*′とモータ角速度ωとに基づいてd軸目標電流Id*を算出するd軸目標電流算出部61と、モータ回転角θ及びモータ角速度ωに基づいてd−q軸誘起電圧モデルEMF(Electro Magnetic Force)のd軸EMF成分ed(θ)及びq軸EMF成分eq(θ)を算出する誘起電圧モデル算出部62と、この誘起電圧モデル算出部62から出力されるd軸EMF成分ed(θ)及びq軸EMF成分eq(θ)とd軸目標電流算出部61から出力されるd軸目標電流Id*と補償後操舵補助トルク指令値IM*′とモータ角速度ωとに基づいてq軸目標電流Iq*を算出するq軸目標電流算出部63と、d軸目標電流算出部61から出力されるd軸目標電流Id*とq軸目標電流算出部63から出力されるq軸目標電流Iq*とを3相電流指令値Ia*、Ib*及びIc*に変換する2相/3相変換部64とを備えている。
【0032】
また、逆起電圧演算部46は、先ず、端子電圧検出回路8から入力される各相端子電圧Va〜Vcに基づいて下記(3)式〜(5)式の演算を行って線間電圧Vab、Vbc、Vcaを算出する。
Vab=Va−Vb ……(3)
Vbc=Vb−Vc ……(4)
Vca=Vc−Va ……(5)
【0033】
次いで、算出した線間電圧Vab、Vbc、Vcaと、電流検出回路7から入力される各相電流検出値Ia〜Icとに基づいて下記(6)式〜(8)式の演算を行って各線間逆起電圧EMFab、EMFbc、EMFcaを算出する。
EMFab=Vab−{(Ra+s・La)・Ia−(Rb+s・Lb)・Ib}…(6)
EMFbc=Vbc−{(Rb+s・Lb)・Ib−(Rc+s・Lc)・Ic}…(7)
EMFca=Vca−{(Rc+s・Lc)・Ic−(Ra+s・La)・Ia}…(8)
ここで、Ra、Rb、Rcはモータの巻線抵抗、La、Lb、Lcはモータのインダクタンス、sはラプラス演算子で、ここでは微分演算(d/dt)を表している。
【0034】
そして、算出された各線間逆起電圧EMFab、EMFbc及びEMFcaの絶対値を加算して逆起電圧EMF(=|EMFab|+|EMFbc|+|EMFca|)を算出する。ここで、逆起電圧EMFを各線間逆起電圧EMFab、EMFbc及びEMFcaの絶対値を加算して求めるのは、演算を簡素化するためであり、相対角度演算精度を向上させるために逆起電圧EMFを求めるには、各線間逆起電圧EMFab、EMFbc及びEMFcaの二乗和の平方根即ちEMF=√(EMFab2+EMFbc2+EMFca2)を演算する。なお、求められる各線間逆起電圧EMFab、EMFbc及びEMFcaはモータの相対角度が得られる程度の精度でよい。
【0035】
また、前記(6)〜(8)式では、モータの巻線抵抗Ra、Rb、Rcを固定値としているが、モータの巻線抵抗Ra、Rb、Rcは温度依存性を有するので、モータ温度を検出してモータの巻線抵抗Ra、Rb及びRcを補正することが好ましいが、モータの巻線抵抗Ra、Rb及びRcとして固定値を用い、温度変動等の理由によりモータ抵抗が増減した場合でも、操舵補助制御を継続することに必要なレベルの逆起電圧・角度情報が得られる場合には固定値を採用してもよい。但し、この場合に設定するモータの巻線抵抗Ra、Rb及びRcと不感帯幅設定値は角度情報を得るために温度変化に対して十分なマージンを持った値を設定する必要がある。
【0036】
さらに、モータ回転角演算部47では、モータ回転角検出回路32からピーク検出パルスPpが入力される毎に図示しないモータ回転角算出処理を実行して、sinθ及びcosθを算出し、算出したsinθ及びcosθから電気角でなるモータ回転角θeを算出する。
さらにまた、角速度・角加速度演算部48は、図8に示すように、逆起電圧演算部46から入力される逆起電圧EMFに基づいて相対角速度ωeeを演算する相対角速度演算部48aと、操舵トルクセンサ17から入力される操舵トルクTsに基づいて回転方向を表す符号を取得する符号取得部48bと、角速度演算部48aで演算した相対角速度ωeeに符号取得部48bで取得した符号を乗算する乗算部48cと、この乗算部48cから出力される相対角速度ωeeの急激な変化を抑制するレイトリミッタ部48dと、このレイトリミッタ部48dで急激な変化が抑制された相対角速度ωeeが零近傍の角速度領域即ちωe=0を含むその近傍値±Δωの不感帯内であるか否かを判定し、ωee<−Δω又はωee>+Δωであって不感帯外であるときには相対角速度ωeeをそのまま出力し、ω−Δω≦ωee≦+Δωであって不感帯内であると判定されたときに相対角速度ωeeを予め設定した正負の相対角度情報オフセット値±Δωdに所定間隔で交互に設定して相対角速度ωeeが“0”以外の値となるように設定する相対角度情報補完部としての相対角度情報オフセット処理部48eと、相対角度情報オフセット処理部48eから出力される相対角速度ωeeを前回のモータ回転角θe(n-1)に加算して相対回転角θeeを算出する加算部48fと、この加算部48fから出力される相対回転角θeeとモータ回転角演算部47から入力される実回転角θerとをフェールセーフ信号SFに基づいて選択する選択手段としての回転角選択部48gと、モータ回転角演算部47から入力される実回転角θerを微分して実角速度ωerを算出する角速度演算部48hと、この角速度演算部48hから入力される実角速度ωerと相対角度情報オフセット処理部48eから出力される相対角速度ωeeとをフェールセーフ信号SFに基づいて選択する角速度選択部48iと、角速度選択部48iで選択された角速度ωeを微分して角加速度αを算出する角加速度演算部48jとで構成されている。ここで、逆起電圧演算部46、角速度演算部48a、符号取得部48b及び乗算部48cで相対角度情報演算部が構成されている。
【0037】
ここで、相対角速度演算部48aでは、逆起電圧演算部46から入力される逆起電圧EMFに基づいて下記(9)式の演算を行って相対角速度ωeeを算出する。
ωee=EMF/Ke …………(9)
ここに、Keはモータの逆起電圧定数[V/rpm]である。
また、逆起電圧演算部46内の図示しない不感帯設定部では、前述した各線間逆起電圧EMFab、EMFbc及びEMFcaを算出する(6)式〜(8)式のモータの巻線抵抗Ra〜Rcとして、実際の抵抗値の代わりに抵抗のモデル値を採用するため、相対角速度ωeeには誤差が生じ、その誤差はモータ電流に比例したオフセット誤差となることに基づいて電流に比例した不感帯設定を行って推定誤差を取り除くためのものである。すなわち、相対角速度ωeeは電流(逆起電圧量)に比例し、誤差も電流(逆起電圧量)に比例するためである。このため、不感帯の設定値は電流指令値IM*に応じた値に設定する。
【0038】
さらに、モータ回転速度変化によるインダクタンスの影響も受けることから、モータの回転速度に応じてインダクタンス変動分を逆起電圧演算部46にフィードバックすることにより、インダクタンス変動の影響を除去することが好ましい。
さらにまた、相対角度オフセット処理部48eの不感帯幅±Δωは、相対角度が0若しくはその近傍の領域を規定する設定値である。モータを相対角度で駆動するため、モータ相対角速度が±Δωで示される領域内で、モータのステータとロータ間の磁界拘束力が大きい場合、次に運転者がステアリングホイールを操舵して相対角度情報(この場合逆起電圧)が得られなくなり、所謂ステアリング(ハンドル)ロックとなってしまう。
【0039】
そこで、相対角度オフセット値±Δωは、相対角速度が±Δωで示される領域内の場合に、磁界の拘束力や、トーションバーの捩れ分など、運転者がステアリングホイールを操舵でき、モータを回転させて操舵量が得られるようになるまでに生じる不感帯を確実に除去する値に設定しなければならない。この不感帯を除去するための相対角度オフセット値±Δωは所定周期で符号を反転させながら相対角速度に加算する。さらに、±Δωの設定値は運転者の意図しない操舵補助を行わない量と周期内に留める必要がある。ここで、正負にオフセットさせる角度量は角度が意図しない方向へずれ続けることを防止するために同一値でなければならない。
【0040】
さらにまた、回転角選択部48gは、フェールセーフ処理部49から入力されるフェールセーフ信号SFが論理値“0”であるときにはモータ回転角演算部47から入力される実回転角θerを選択し、論理値“1”であるときに加算部48fから入力される相対回転角θeeを選択する。同様に角速度選択部48iは、フェールセーフ処理部49から入力されるフェールセーフ信号SFが論理値“0”であるときには角速度演算部48hから入力される実角速度ωerを選択し、論理値“1”であるときには相対角度情報オフセット処理部48eから入力される相対角速度ωeeを選択する。
【0041】
フェールセーフ処理部49は、図9に示すモータ回転角異常検出処理を実行する。このモータ回転角異常検出処理は、所定時間(例えば10msec)毎のタイマ割込処理として実行され、先ず、ステップS21で、図示しないモータ回転角算出処理で算出された正弦波sinθ及び余弦波cosθを読込み、次いでステップS22に移行して、正弦波sinθ及び余弦波cosθに基づいて異常判定用マップを参照して正弦波sinθ及び余弦波cosθの組み合わせが正常であるか異常であるかを判定する。ここで、異常判定用マップは、図10に示すように、横軸にsinθを、縦軸にcosθを夫々とった構成を有し、原点G(0,0)を中心に3つの同心円及び2つの四角形が表示されている。先ず、3つの同心円について説明すると、一番内側は(sinθ)2+(cosθ)2=Pmin、真ん中は(sinθ)2+(cosθ)2=1、一番外側は(sinθ)2+(cosθ)2=Pmaxの円が表示されている。大きな四角形αは一辺が2・Pmaxの正方形であり、小さな四角形βは一辺が2(Pmin/√2)の四角形である。ここで、正常領域とは大きな四角形αと小さな四角形βに囲まれた斜線部の範囲を示し、それ以外の領域は異常範囲を示す。なお、上述した判定基準のPmin及びPmaxは検出の精度やモータの極数などの影響を考慮して、PmaxとPminとにより異常検出精度を調整できる。このPmax及びPminを適切に設定することにより、モータ駆動中の故障やレゾルバ18の異常を検出することができる。そして、(sinθ)2+(cosθ)2=1は通常の正常の判定基準であり、(sinθ)2+(cosθ)2=Pmin及び(sinθ)2+(cosθ)2=PmaxはPmin<(sinθ)2+(cosθ)2<Pmaxの正常範囲を示すためのものであり、通常の正常の判定基準より広いことになる。
【0042】
次いで、ステップS22の判定結果が、sinθ及びcosθが正常である場合にはステップS23に移行して、正常であることを示す論理値“0”のフェールセーフ信号SFを角速度・角加速度演算部48に出力してからタイマ割込処理を終了し、sinθ及びcosθが異常である場合にはステップS24に移行して、異常であることを表す論理値“1”のフェールセーフ信号FSを角速度・角加速度演算部48に出力してからタイマ割込処理を終了する。このように、異常判定用マップを使用して、sinθ及びcosθが正常であるか異常であるかを判定することにより、(sinθ)2+(cosθ)2=1を判定するための(sinθ)2+(cosθ)2の演算を行う必要がなく、マイクロコンピュータ30の処理負荷を大幅に軽減することができると共に、判定時間を大幅に短縮することができる。
この図9の処理がモータ回転角異常検出手段に対応している。
【0043】
そして、マイクロコンピュータ30は、各入力信号に基づいて指令値算出部42に相当する図11に示す操舵補助制御処理を実行する。
操舵補助制御処理は、図11に示すように、先ず、ステップS1で、操舵トルクセンサ17、車速センサ33等の各種センサの検出値及び角速度・角加速度演算部48で算出した回転角θe、角速度ωe及び角加速度αを読込み、次いでステップS2に移行して、操舵トルクTをもとに前述した図6に示す操舵補助トルク指令値算出マップを参照して操舵補助トルク指令値IM*を算出してからステップS3に移行する。
【0044】
このステップS3では、収斂性補償部51と同様にモータ角速度ωeに車速Vに応じて設定された補償係数Kvを乗算して収斂性補償値Icを算出してからステップS4に移行する。
このステップS4では、慣性補償部52と同様に、モータ角加速度αに基づいて慣性補償値Iiを算出し、次いでステップS5に移行してSAT推定フィードバック部53と同様にモータ角速度ωe及びモータ角加速度αをもとに前述した(2)式の演算を行ってセルフアライニングトルクSATを算出する。
【0045】
次いで、ステップS6に移行して、操舵補助トルク指令値IM*にステップS3〜S5で算出した収斂性補償値Ic、慣性補償値Ii及びセルフアライニングトルクSATを加算して補償後操舵補助トルク指令値IM*′を算出し、次いでステップS7に移行してステップS6で算出した補償後操舵補助トルク指令値IM*′にd−q軸電流指令値演算部42Bと同様のd−q軸指令値演算処理を実行してd軸目標電流Id*及びq軸目標電流Iq*を算出し、次いでステップS8に移行して2相/3相変換処理を行ってモータ電流指令値Ia*〜Ic*を算出する。
【0046】
次いで、ステップS9に移行して、モータ電流指令値Ia*〜Ic*からモータ電流Ia〜Icを減算して電流偏差ΔIa〜ΔIcを算出し、次いでステップS10に移行して、電流偏差ΔIa〜ΔIcについてPI制御処理を行って電圧指令値Va*〜Vc*を算出し、次いでステップS11に移行して算出した電圧指令値Vu*〜Vw*をモータ駆動回路6のFETゲート駆動回路22に出力してから操舵補助制御処理を終了して所定のメインプログラムに復帰する。
【0047】
また、マイクロコンピュータ30は、角速度・角加速度演算部48の相対角速度演算部48a、符号取得部48b、乗算部48c、レイトリミッタ部48d及び相対角度情報オフセット処理部48eに相当する図12に示す相対角速度演算処理を実行する。
この相対角速度演算処理は、所定時間(例えば1msec)毎のタイマ割込処理として実行され、先ず、ステップS31で、逆起電圧演算部46で演算した逆起電圧EMFを読込み、次いでステップS32に移行して、逆起電圧EMFに基づいて前述した(9)式の演算を行って相対角速度ωeeを算出し、次いでステップS33に移行して、操舵トルクTsの符号を取得して相対角速度ωeeに付加してからステップS34に移行する。
【0048】
このステップS34では、算出した現在の相対角速度ωee(n)から前回算出した相対角速度ωee(n-1)を減算して変化量Δωeeを算出し、次いでステップS35に移行して、算出した変化量Δωeeの絶対値が予め設定した変化量上限値Δωsを超えているか否かを判定し、|Δωee|≦Δωsであるときには変化量Δωeeが少ないものと判断して後述するステップS39に移行し、|ωee|>Δωsであるときには変化量Δωeeが大き過ぎるものと判断してステップS36に移行する。
【0049】
このステップS36では、変化量Δωeeが正値又は零である否かを判定し、Δωee≧0であるときにはステップS37に移行して、前回の相対角速度ωee(n-1)に変化量上限値Δωsを加算して現在の相対角速度ωee(n)を算出してからステップS39に移行し、Δωee<0であるときにはステップS38に移行して、前回の相対角速度ωee(n-1)から変化量上限値Δωsを減算して現在の相対角速度ωee(n)を算出してからステップS39に移行する。
【0050】
ステップS39では、ステップS33で算出した相対角速度ωee、ステップS37又はS38で算出した現在の相対角速度ωee(n)が±Δωで規定される不感帯内であるか否かを判定し、相対角速度ωeeが−Δω≦ωee≦+Δωであって不感帯内であるときには、ステップS40に移行する。
このステップS40では、モータ相対回転角θeeに対する角度変化が1加算周期当り例えば±2degとなる値に設定された相対角度情報オフセット値Δωdを現在の相対角速度ωeeとして設定し、次いでステップS41に移行して、現在の時間係数値tに“1”を加算して新たな時間係数値tを算出し、次いでステップS42に移行して、時間係数値tが所定値ts(例えば20msec相当)を超えたか否かを判定し、t>tsであるときには、ステップS43に移行して、現在の相対角度情報オフセット値Δωdに−を乗算して符号反転を行ってからステップS44に移行する。
ステップS44では、時間係数値tを“0”にクリアしてからタイマ割込処理を終了して所定のメインプログラムに復帰する。
【0051】
また、前記ステップS39の判定結果が、ωee<−Δω又はωee>+Δωであるときには不感帯外であるものと判断してそのままタイマ割込を終了し、前記ステップS42の判定結果がt≦tsであるときにもそのままタイマ割込処理を終了して所定のメインプログラムに復帰する。
この図12の処理で、ステップS31〜ステップS38の処理がモータ相対角度情報算出部に対応し、ステップS39〜S44の処理が相対角度情報補完部に対応している。
次に、上記第1の実施形態の動作を説明する。
【0052】
今、図3に示すイグニッションスイッチ37をオン状態とすることにより、制御装置3にバッテリ1からの電源が投入されて、制御装置3内のマイクロコンピュータ30で、図9に示すモータ回転角異常検出処理、図11に示す操舵補助制御処理及び図12に示す相対角速度算出処理等が実行開始される。
この状態では、マイクロコンピュータ30で実行する図11の操舵補助制御処理では、操舵トルクセンサ17で検出した操舵トルク検出値Tを読込み(ステップS1)、次いで、読込んだ操舵トルク検出値Tから中立トルクT0を減算して操舵トルクTsを算出し(ステップS2)、次いで車速センサ33から車速検出値Vsを読込み(ステップS3)、操舵トルクTsと車速検出値Vsとに基づいて図6に示す操舵補助指令値算出マップを参照して操舵補助指令値IM*を算出する(ステップS4)。
【0053】
このとき、レゾルバ18、モータ回転角検出回路32及びA/D変換器35,36が正常であるものとすると、図9のモータ回転角異常検出処理を実行したときに、図4に示すモータ回転角演算部47で、モータ回転角検出回路32から入力される正弦波信号(sinωt+sinθ)及び余弦波信号(sinωt+cosθ)とピーク検出パルスPpとに基づいて算出されるsinθ及びcosθを読込み(ステップS21)、読込んだsinθ及びcosθに基づいて図10に示す異常判定マップを参照することにより、sinθ及びcosθで表される点が斜線図示の正常領域内に入ることにより、正常と判断されて論理値“0”のフェールセーフ信号SFが角速度・角加速度演算部48に出力される。(ステップS23)。
【0054】
このため、図8に示す角速度・角加速度演算部48では、回転角選択部48gでモータ回転角演算部47によって算出される実回転角θerが選択されてこれが回転角θeとされると共に、角速度選択部48iで角速度演算部48hで実回転角θerを微分した実角速度ωerが選択されてこれが角速度ωeとされ、さらに角速度ωeを角加速度演算部48jで微分して角加速度αを算出して、これら回転角θe、角速度ωe及び角加速度αを電流指令値算出部42に出力する。
【0055】
したがって、電流指令値算出部42で実行する図11の操舵補助制御処理では、ステップS2からステップS3に移行して、角速度ωeに基づいて収斂性補償値Icを算出し、次いでモータ角加速度αに基づいて慣性補償制御用の慣性補償値Iiを算出し(ステップS4)、さらに角速度ωe、角加速度α、操舵トルクTs及び操舵補助トルク指令値IM*に基づいてセルフアライニングトルクSATを算出する(ステップS5)。
【0056】
次いで、操舵補助トルク指令値IM*に収斂性補償値Ic、慣性補償値Ii及びセルフアライニングトルクSATを加算して補償後操舵補助トルク指令値IM*′を算出し(ステップS6)、算出した補償後操舵補助トルク指令値IM*′、回転角θe及び角速度ωeに基づいてd−q軸指令値演算処理を実行して、目標d軸電流Id*及び目標q軸電流Iq*を算出し(ステップS7)、これら目標d軸電流Id*及び目標q軸電流Iq*を2相/3相変換処理して3相のモータ電流指令値Ia*、Ib*及びIc*を算出する(ステップS8)。
【0057】
そして、算出した目標相電流値Ia*、Ib*及びIc*と検出したモータ相電流Ia、Ib及びIcとに基づいて電流フィードバック処理を行って電動モータ5の各相の電圧指令値Va*、Vb*及びVc*を算出し(ステップS10)、これら各相電圧指令値Va*、Vb*及びVc*をモータ駆動回路6のFETゲート駆動回路22に出力する(ステップS11)。
このため、FETゲート駆動回路22で、モータ駆動回路6の電界効果トランジスタQua〜Qwbをパルス幅変調制御することにより、モータ駆動回路6から電動モータ5に三相駆動電流を供給して、この電動モータ5でステアリングホイール11に作用された操舵トルクに応じた方向の操舵補助力を発生させ、これを減速ギヤ13を介して出力軸12に伝達する。
【0058】
このとき、車両が停車している状態でステアリングホイール11を操舵する所謂据え切り状態では、車速Vsが零であって、図6に示す操舵補助指令値算出マップの特性線の勾配が大きいことにより、小さい操舵トルクTsで大きな操舵補助指令値IM*を算出するので、電動モータ5で大きな操舵補助力を発生して軽い操舵を行うことができる。
この車両の停車状態から車両を発進させて走行状態とし、この状態でステアリングホイール11を操舵する通常操舵状態では、車速の増加に応じて必要とする操舵補助トルクが小さくなることから、ステアリングホイール11に伝達される操舵トルクも小さい値となり、これが操舵トルクセンサ17で検出されてマイクロコンピュータ30に入力される。このため、操舵補助指令値IM*も小さい値となり、電動モータ5で発生される操舵補助トルクは据切り時の操舵補助トルクに比較して小さくなる。
【0059】
ところが、例えば車両が走行している状態で、レゾルバ18、モータ回転角検出回路32及びA/D変換器35,36のモータ回転角検出系に断線、ショート、地絡、天絡等の異常が発生すると、モータ回転角検出回路32からマイクロコンピュータ30に入力される正弦波信号(sinωt+sinθ)及び余弦波信号(sinωt+cosθ)が異常となり、これらとピーク検出パルスPpとに基づいて図示しないモータ回転角算出処理で算出されるsinθ及びcosθとの組み合わせが異常となって、図9のモータ異常検出処理で、sinθ及びcosθに基づいて図10に示す異常判定マップを参照したときに、sinθ及びcosθで表される点が斜線図示の正常領域外となり、直ちに論理値“1”のフェールセーフ信号SFが角速度・角加速度演算部48に出力される。
【0060】
このため、角速度・角加速度演算部48において、回転角選択部48gで加算部48fによって算出された相対回転角θeeが選択されると共に、角速度選択部48iで相対角度情報オフセット処理部48eによって算出される相対角速度ωeeが選択される。このとき、相対回転角θeeの初期値として、レゾルバ18等が正常であった前回の回転角θer(n-1)が加算部48fに供給される。
【0061】
このように、回転角選択部48g及び角速度選択部48iが切換えられると、その前から実行されている図12の相対回転角算出処理によって逆起電圧EMFに基づく相対(回転)角の算出処理により回転角θe、角速度ωe及び角加速度αが決定される。
このとき、逆起電圧演算部46で、前述した(3)式〜(5)式の演算を行って各線間電圧Vab、Vbc及びVcaを算出し、次いで前記(6)〜(8)式の演算を行うことにより、線間逆起電圧EMFab、EMFbc及びEMFcaを算出し、これらを加算して逆起電圧EMFを算出する。
【0062】
そして、相対回転角算出処理で、算出された逆起電圧EMFを読込み(ステップS31)、次いで逆起電圧EMFに基づいて前記(9)式の演算を行って、相対角速度ωeeを算出する(ステップS32)。
次いで、算出した相対角速度ωeeに操舵トルクセンサ17で検出した操舵トルクTsの符号を付加することにより、電動モータ5の回転方向に応じた符号を有する現在の相対角速度ωee(n)が算出される。
【0063】
そして、算出された現在の相対角速度ωee(n)から前回の相対角速度ωee(n-1)を減算して変化量Δωeeを算出し(ステップS34)、この変化量Δωeeの絶対値が変化量上限値Δωs以下であるときにはそのまま相対角速度ωee(n)を現在値とするが、変化量Δωeeの絶対値が変化量上限値Δωsを超えているときには変化量が大き過ぎるものと判断して前回の相対角速度ωee(n-1)に変化量上限値Δωsを加減算して相対角速度ωeeの変化量を制限する。
【0064】
そして、算出される相対角速度ωee(n)が不感帯外であるときには相対角速度ωee(n)を確定して、加算部48f及び角速度選択部48iに供給する。
このため、加算部48fで、相対角速度ωeeを前回の回転角θer(n-1)に加算することにより、相対回転角θeeを算出する。
この算出された相対回転角θeeが回転角選択部48gで選択されて回転角θeとして電流指令値算出部42に出力されると共に、相対角速度ωee(n)が角速度選択部48iで選択されて角速度ωeとして電流指令値算出部42に出力され、さらに角速度ωeを角加速度演算部48jで微分して角加速度αを算出し、この角加速度αも電流指令値算出部42に出力される。
【0065】
このため、電流指令値算出部42で、実行される図11の操舵補助制御処理によって、異常となった実回転角θer、これに基づく実角速度ωer、角加速度αに代えて、相対回転角θee、相対角速度ωee及び相対角加速度αが適用されて、これら相対角速度情報に基づく指令値補償処理及びd−q軸指令値演算処理が実行されて、操舵補助制御処理が継続される。
【0066】
このように、角速度・角加速度演算部48で、相対回転角θee及び相対角速度ωeeを選択している状態で、角速度演算部48aで演算される相対角速度ωeeが零近傍−Δω≦ωee≦+Δωとなることにより不感帯内となると、図12のステップS39からステップS40に移行して、相対角速度ωeeが相対角度オフセット処理される。
すなわち、不感帯内となると、所定時間(例えば20msec)に達する毎に、相対角速度ωeeとしてモータ相対回転角θeeに対する角度変化が1加算周期当り±2degとなる値に設定された相対角度情報オフセット値±Δωdを設定することを繰り返すことにより、相対角速度ωeeを“0”以外の値に設定することを繰り返す。
【0067】
このように相対角速度ωeeが不感帯内であるときには相対角速度ωeeとして±Δωdが設定され、相対角速度ωeeが“0”となることを確実に防止することができる。そして、相対角度情報オフセット値±Δωdに設定された相対角速度ωeeが加算部48fで前回の回転角θee(n-1)に加算されることにより、相対回転角θeeが前回の回転角θee(n-1)に対して相対角速度ωeeの相対角度情報オフセット値±Δωdに相当する角度変化分±2deg分変化することになる。
【0068】
すなわち、角度情報が使用できない状態、且つ例えば電動モータ5で高操舵補助力を発生している状態で、相対角速度ωeeが“0”近傍の角速度領域となると、運転者がステアリングホイール11を操舵したときに、電動モータ5を回転させる限界を超えて、所謂ステアリング(ハンドル)ロックに繋がるおそれがあるので、次に運転者がステアリングホイールを操舵して逆起電圧が得られるようになるまでの不感帯を超えるように正負に角度情報を変化させる相対角度情報オフセット値±Δωdを交互に設定することにより、相対角速度ωeeが“0”となることを確実に防止してステアリングロックの発生を確実に防止しながら相対角速度ωeeに基づく操舵補助制御処理の継続を行うことができる。
【0069】
しかも、電動モータ5の逆起電圧EMFに基づいて相対角速度ωeeを算出する場合には、電動モータ5の回転方向を捉えることが困難で、例えば電動モータ5に供給する電流の相転流や逆起電圧の見え方によってモータ回転方向を決定するようにしてもよいが、運転者の意志に反した操舵補助力を発生する可能性が残るので、上記第1の実施形態のように運転者の直接的な意志を表す操舵トルクTsの方向で決定することにより、運転者の意志に応じた回転方向を設定することができる。
【0070】
なお、相対回転角θeeに基づいて電動モータ5を回転駆動することができる原理は、以下の通りである。
すなわち、ブラシレスモータのロータとステータとの磁界ベクトル相対角誤差とロータに発生するエネルギーの絶対値との関係は図13に示すようになる。
ここで、ロータ位置を考慮せずにステータに固定の電流を流すと、図13の「状態1」に示すように、ロータとステータの磁界ベクトルが一致する所までモータはトルクを発生して回転する。
【0071】
そして、「状態2」に示すように、ロータとステータの磁界ベクトルが一致すると、ロータはステータの磁界に拘束されて動かなくなる(モータトルク=0Nm)。つまり、完全なd軸への通電状態となる。この「状態2」でモータを回したい方向と回転速度にしたがって相電流を変化させると、ロータはステータの磁界に拘束された状態で回転することになる。このときの拘束力は相電流に比例する。
【0072】
このように、上記第1の実施形態では、電動モータ5の回転角を検出する回転角検出系統に異常が発生したときに、逆起電圧EMFに基づいて相対角速度ωeeを算出することにより、運転者の操舵系に対する操舵量に応じた相対回転角θee及び相対角加速度αを算出して、操舵補助制御を継続することができるものであるが、より安全性を考えると、回転角検出系統に異常が発生したときに、操舵補助制御の感度を低下させて操舵補助制御を継続することが好ましい。
【0073】
この場合には、前述した図4の機能ブロック図で電流指令値算出部42の前後に徐変制御部41及び電流出力制限部43を設け、これら徐変制御部41及び電流出力制限部43をフェールセーフ処理部49から入力されるフェールセーフ信号SFが論理値“0”であるときには徐変機能及び制限機能を停止させ、論理値“1”であるときに徐変機能及び制限機能を発揮させるようにして、電流指令値Ia*〜Ic*を制限して、電動モータ5で発生させる操舵補助力を低下させることが好ましい。
【0074】
また、指令値補償部42Bについても、回転角検出系統が正常の場合には必要でも、逆起電圧に基づく相対角速度ωeeに基づく相対回転角θeeを使用する際には不必要に反応してしまう補償部についてはその出力を“0”とするか、“1”以下のゲイン倍することにより、正常時に比較して小さい値とすることで補償部の影響を小さくし、逆にいっそうの補償が必要となる補償部については通常よりも大きな補償値を採用するように構成することが好ましい。
【0075】
具体的には、角度情報を基にした補償制御(モータの位置を基準に補償を行うもの)は補償停止とすべきであるが、相対角度に対する実角度の誤差を小さくする効果を持つか、ゲインを正常時よりも小さくするか大きくすることで相対角と実角度の誤差を小さくする効果を持つ補償制御は行うべきである。換言すると、相対角と実角度の誤差を大きくする要素となりうる補償制御は停止とすべきである。
【0076】
さらに、上記第1の実施形態においては、線間電圧Vab〜Vcaに基づいて線間逆起電圧EMFab〜EMFcaを算出して、これらを加算してモータ逆起電圧EMFを算出するようにしたので、電動モータ5の結線即ちY結線やΔ結線に依存することなく逆起電圧から相対角速度ωeeを算出することができると共に、別途検出回路等を設けることなく逆起電圧を検出することができる利点がある。
【0077】
なお、上記第1の実施形態においては、逆起電圧EMFを線間電圧Vac〜Vcaを用いて(6)式〜(8)式に従って線間逆起電圧EMFab〜EMFcaを算出し、これらを加算して算出する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、電動モータ5としてY結線モータを適用する場合に、電動モータの中点電圧を検出して、この中点電圧を各モータ端子電圧Va〜Vcから減算して相電圧Vih(i=a〜c)を算出し、この相電圧Vihに基づいて下記(10)式の演算を行って各相の逆起電圧eiを算出し、算出した逆起電圧ea〜ecに基づいて下記(11)の演算を行って相対角速度ωeeを算出するようにしてもよい。この場合には演算負荷を大きくすることなく相対角速度ωeeと実角度の間の誤差量を小さくすることができ、回転角検出系統を省略して、相対角速度ωeeに基づいて正確な操舵補助制御処理を実行することができる。
ei=Vih−(Ri+s・Li)・Ii …………(10)
ωee=2×{max(|ea|,|eb|,|ec|)}/Ke ……(11)
この場合、中点電圧を検出する場合に代えて、中点電圧はモータ駆動回路印加電圧の1/2となることから、モータ駆動回路印加電圧1/2の値を中点電圧Vnとして相電圧Vah〜Vchを算出するようにしてもよい。
【0078】
さらに、下記(12)式のように電動モータ5の各モータ端子電圧の総和を求めて、その値をモータの相数で除した値をモータ中点電圧Vnとして各相電圧を算出するようにしてもよい。
Vn=(Va+Vb+Vc+……+Vx)÷モータ相数) ……(12)
また、逆起電圧eiを算出する場合に、上記(10)式に代えて、下記(13)式に示すように、電流制御部45から出力される電圧指令値Vi*(i=a〜c)に基づいてFETゲート駆動回路22で算出されるデューティ比Diとバッテリ電圧Vbatとモータ電流Iiとに基づいて逆起電圧eiを算出するようにしてもよい。
ei=Di・Vbat−(Ri+s・Li)・Ii …………(13)
この場合には、モータ端子電圧Va〜Vcを使用することなく逆起電圧eiを算出することができるので、上記(13)式に基づいて逆起電圧eiを算出する逆起電圧演算部を前述した逆起電圧演算部46に代えて設けることにより、モータ端子電圧検出部8を省略することができ、この分制御装置3の構成を簡略化することができる。
【0079】
また、上記(13)式に基づいて逆起電圧eiを算出する逆起電圧演算部を前記逆起電圧演算部46と並列に設けることにより、逆起電圧演算部46で逆起電圧eiを演算できない異常状態が発生した場合に、逆起電圧eiの代替え演算を行うことが可能となる。
また、上記第1の実施形態においては、相対角速度演算部48aで演算した相対角速度ωeeが不感帯内であるときに相対角度情報オフセット処理を行う場合について説明したが、これに限定されるものではなく、相対角速度ωeeが不感帯内であるか否かにかかわらず常時相対角度情報オフセット処理を行うようにしてもよい。また、この場合には、不感帯外であるときに相対角度情報オフセット値を小さくし、不感帯内であるときに相対角度情報オフセット値を大きくするようにしてもよい。
【0080】
さらに、相対角度情報オフセット値としては±2deg相当の値に限らず、0速度となってから次に操舵するまでの不感帯を超えられるように設定されていればよい。但し、相対角度情報オフセット値を大きくするか又は加算周期を大きくするか若しくはその両方を行うことにより、電動モータ5で振動を発生することが可能となるので、回転角検出系統の異常時に運転者に異常を報知して要修理状態を通知するために、大きな相対角度情報オフセット値を設定するか又は加算周期を大きくするか若しくはその両方を行ってステアリングホイール11に振動を与えるようにしてもよい。
【0081】
この場合には、異常発生時から時間の経過に伴って最大値の範囲内で段階的に振動を大きくするようにしてもよい。さらに、相対角度情報オフセット処理を常時行うことで電動モータから制御音を発生させることも可能であるので、相対角度情報オフセット値及び加算周期を異常発生通知として使用可能なレベルに変化させることで要修理状態を通知する手段として採用することもできる。
【0082】
また、上記第1の実施形態においては、相対角速度ωeeに相対角度情報オフセット値±Δωdを設定する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、相対角速度ωeeに基づいて算出されるモータ回転角θeeに相対角度情報オフセット値±Δωdに相当する相対角度情報オフセット値を加減算するようにしてもよい。
さらに、上記第1の実施形態においては、0速度領域からの不感帯にある状態で、相対角速度ωeeを相対角度情報オフセット値±Δωdに設定する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、例えば逆起電圧演算部46内の図示しない不感帯設定部で設定される巻線抵抗Ra〜Rcとして実際の抵抗値の変わりに抵抗のモデル値を採用することにより、相対角速度ωeeの誤差を除去する不感帯幅を意図的に小さなものとし、本来角度情報として無視する情報を、あえて制御で使用することにより、相対角度情報オフセット値±Δωd相当の値を設定することもできる。
【0083】
さらにまた、上記第1の実施形態においては、操舵トルクに基づいて回転方向を付与する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、回転方向を付与する為に、情報の信頼性が保てる場合には、例えば舵角センサからの操舵回転方向情報と、相転流状況や逆起電圧の見え方などの2つ以上の異なる情報源から回転方向を判断して方向付与することが望ましい。
【0084】
なおさらに、上記第1の実施形態においては、逆起電圧EMFに基づいて相対角速度ωeeを算出し、この相対角速度ωeeを前回のモータ回転角θee(n-1)に加算すること
によりモータ回転角θeeを算出する場合について説明したが、線間逆起電圧EMFab、EMFbc及びEMFcaは正弦波となるので、この線間逆起電圧EMFab、EMFbc及びEMFcaの0クロス点を検出し、0クロス点を検出した時点で一意に決まるモータ回転角(電気角)でモータ回転角θeeを下記表1に示すように補正することにより、より正確なモータ回転角θeeを算出することができる。
【0085】
【表1】




【0086】
また、上記第1の実施形態においては、相対回転角θeeの初期値としてレゾルバ18等が正常であった前回の相対回転角θer(n-1)を加算部48fに供給する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、上述したように相対角度に基づいて確実にモータを駆動することができるので、初期値として任意の回転角θerを設定することができる。このため、モータ回転角が異常と判断されるまでは相対角度を算出せず、モータ回転角が異常と判断された時又は異常の兆候を捉えられた時から相対角度の算出を開始し、算出した相対角度に基づいてモータ駆動を行うようにしてもよい。この場合には演算処理装置の処理負荷を小さくすることができる。
【0087】
さらに、上記第1の実施形態においては、逆起電圧EMFに基づいて相対角度情報としての相対速度ωeeを算出する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、操舵角センサから得られた操舵角の角度変化量に基づいて相対速度ωeeを算出するようにしてもよく、さらには逆起電圧を求めることができない二重故障状態である場合は、操舵角センサから得た操舵量に切換えて直接相対角度θeeを算出するようにしてもよい。
【0088】
次に、本発明の第2の実施形態を図14〜図16について説明する。
この第2の実施形態では、相対角速度ωeeが“0”角速度領域にあるときに、相対角度情報オフセット処理を行って相対角度の補完を行う場合に代えて、操舵トルクTsに基づいて補完用相対角速度ωee′を算出する補完用相対角度情報演算部を設けるようにしたものである。
すなわち、第2の実施形態では、図14に示すように、操舵トルクセンサ17で検出した操舵トルクTsに基づいて補完用相対回転角θee′を算出する補完用相対角度情報演算部70が設けられ、この補完用相対角度情報演算部70で演算された補完用相対回転角θee′が角速度・角加速度演算部48に供給されていることを除いては前述した第1の実施形態と同様の構成を有する。
【0089】
ここで、補完用相対角度情報演算部70は、図15に示す補完用相対角度算出処理を実行する。この補完用相対角度算出処理は、所定時間(例えば1msec)毎のタイマ割込処理として実行され、先ず、ステップS51で、前記操舵補助制御処理で算出した操舵トルクTsを読込んでからステップS52に移行する。
このステップS52では、読込んだ操舵トルクTsを含むそれ以前の所定数(例えば32個)分の操舵トルクTsの平均値TsMを算出する平均化処理を行ってからステップS53に移行する。
【0090】
このステップS53では、上記ステップS52で算出される操舵トルク平均値TsMが予め設定された操舵補助制御における不感帯即ち電動パワーステアリング機構の例えば減速機効率、ラックアンドピニオン効率等の機械的な不感帯を含む設定によって求められた電動パワーステアリング機構における不感帯内であるか否かを判定し、不感帯内であるときにはステップS54に移行し、操舵トルク平均値TsMを“0”に変更してからステップS55に移行し、不感帯外であるときにはそのままステップS55に移行する。
【0091】
このステップS55では、ステップS52で算出した操舵トルク平均値TsM又はステップS54で変更した操舵トルク平均値TsMでなる現在の操舵トルク平均値TsM(n)と前回のサンプリング時の操舵トルク平均値TsM(n-1)との変化量ΔTが予め設定した上限値ΔTuを超えているか否かを判定し、ΔT>ΔTuであるときには変化量ΔTが大き過ぎるものと判断してステップS56に移行し、前回の操舵トルク平均値TsM(n-1)に上限値ΔTuを加算した値を現在の操舵トルク平均値TsM(n)として設定してからステップS57に移行し、ΔT≦ΔTuであるときには変化量ΔTが許容範囲内であるものと判断してそのままステップS57に移行する。
【0092】
このステップS55及びS56の処理は、変化量ΔTを制限するリミッタ処理であるが、この場合の上限値ΔTuは、所定値でも、車速Vsに応じて最適な値を適用するようにしてもよい。
ステップS57では、下記(13)式の演算を行ってモータ相対角度変化量ΔθMを算出してからステップS58に移行する。
ΔθM=TsM(n)・Km/212…………(13)
ここで、Kmは相対角度情報算出用ゲインである。
ステップS58では、ステップS57で算出したモータ相対角度変化量ΔθMと前回のサンプリング時に算出したモータ相対角度θMP(n-1)とを加算して、今回のモータ相対角度θMP(n)を算出してからステップS59に移行する。
【0093】
このステップS59では、モータ相対角度θMP(n)を例えば12bitの電気角0〜4096に変換してマイクロコンピュータ30に内蔵されたRAMの所定記憶領域に記憶してからタイマ割込処理を終了する。
この図15の処理と角速度・角加速度演算部48の選択部48nとが相対角度情報補完部に対応している。
そして、図15の補完用相対角度算出処理を機能ブロック図で表すと図16に示すように構成される。
なお、モータ相対角度情報算出用ゲインKmは一定値でもよいが、車速Vsに応じて変更するようにしてもよく、このために車速Vsに基づいてモータ相対角度情報演算のゲイン等のモータ進角を調整可能なパラメータを変化させるパラメータ設定手段を設けるようにしてもよい。
【0094】
また、電動モータ5や制御装置3が過熱状態となった場合に電動モータ5への通電量を小さくすることでそれ以上の温度上昇を抑制したり、車速センサ33が異常となったときに固定車速を設定して操舵補助制御を継続したりする場合で、例えば図5の操舵補助指令値算出マップの傾きは車速が速くなるに従って小さくなることで、固定化されている車速よりも遅い車速域で操舵補助力が小さく制限されてしまう場合のように、操舵補助制御処理における操舵補助力の出力が制限される場合には、相対角度情報算出用ゲインKmも、その出力制限量に応じてモータ進角を調整するように変更することが望ましい。このため、操舵補助力の出力制限状態でその出力制限量に応じて補完用相対角度情報演算のゲイン等のモータ進角を調整可能なパラメータを変化させる第2のパラメータ設定手段を設けるようにしてもよい。
【0095】
そして、角速度・角加速度演算部48が図17に示すように変更されている。すなわち、角速度・角加速度演算部48の相対角度情報オフセット処理部48eが省略され、これに代えてレイトリミッタ部48dで制限した相対角速度ωeeを直接加算部48fに供給すると共に、不感帯検出部48mに供給し、加算部48fの出力が不感帯検出部48mの検出信号によって切換えられる第2の回転角選択部48nの一方の入力側に供給され、この第2の回転角選択部48nの他方の入力側に補完用相対角度情報演算部70で算出された相対回転角θee′が供給され、この第の2回転角選択部48nで選択した相対回転角θeeが回転角選択部48gの一方の入力側に供給され、さらにレイトリミッタ部48dで制限された相対角速度が第2の角速度選択部48pの一方の入力側に供給され、この第2の角速度選択部48pの他方の入力側に補完用相対角度情報演算部70で算出された相対回転角ωee′を微分して補完用角速度ωee′を算出する角速度演算部48oの出力が供給されていることを除いては図8と同様の構成を有する。ここで、不感帯検出部48mでは相対角速度ωeeが不感帯外であるときに論理値“0”の検出信号SDを、不感帯内であるときに論理値“1”の検出信号SDを夫々第2の回転角選択部48n及び第2の角速度選択部48oに出力し、この第2の回転角選択部48nでは、検出信号SDが論理値“0”であるときには加算部48fから出力される相対回転角θeeを選択し、論理値“1”であるときには補完用相対角度情報演算部70で演算した補完用相対回転角θee′を選択し、第2の角速度選択部48oでは、検出信号SDが論理値“0”であるときにはレイトリミッタ部48dで制限した相対角速度ωeeを選択し、論理値“1”であるときに角速度演算部48oで演算した補完用相対角速度ωee′を選択するように構成されている。
【0096】
次に、上記第2の実施形態の動作を説明する。
先ず、補完用相対角度情報演算部70では、図15の補完用相対角度算出処理を実行し、タイマ割込処理によって、所定時間毎に操舵トルクTsを読込み、次いで、今回読込んだ操舵トルクTsを含む過去の所定数の操舵トルクTs(n)〜Ts(n-31)を平均化処理して操舵トルク平均値TsM(n)を算出する(ステップS52)。この平均化処理を行うことにより、操舵トルクセンサ17から出力される操舵トルクTをA/D変換器31でデジタル信号に変換した際に生じる数LSBのバタつきがノイズ成分として使用されることを確実に防止することができる。
【0097】
そして、算出した操舵トルク平均値TsM(n)が不感帯内であるか否かを判定し(ステップS53)、不感帯内にあるときには操舵トルク平均値TsM(n)を“0”に設定して(ステップS54)、運転者が意図しない時に不用意に電動モータ5が回転駆動されることを確実に防止する。
一方、操舵トルク平均値TsM(n)が不感帯外であるときには、そのままステップS55に移行する。
【0098】
そして、算出される操舵トルク平均値TsM(n)の前回サンプリング時の操舵トルク平均値TsM(n-1)との変化量ΔTを算出し、算出した変化量ΔTが予め設定した上限値ΔTuを超えたか否かを判定し、ΔT>ΔTuであるときには、変化量が大き過ぎるものと判断して前回サンプリング時の操舵トルク平均値TsM(n-1)に上限値ΔTuを加算した値を今回の操舵トルク平均値TsM(n)として設定し(ステップS56)、ΔT≦ΔTuであるときにはそのまま操舵トルク平均値TsM(n)を使用する。このステップS55及びS56の処理によって、操舵トルク平均値TsM(n)の変化量が大きいときには、変化量を上限値ΔTuに制限することにより、急激な操舵トルクTの立ち上がり時に補完用相対回転角θMPの急変を制限することができる。
【0099】
そして、設定された相対回転角変化量ΔθMを前回のサンプリング時の補完用相対回転角θMP(n-1)に加算することにより、今回の補完用相対回転角θMPを算出し、これを12bitの電気角(0〜4096)に変換してマイクロコンピュータ30に内蔵するRAMの所定記憶領域に更新記憶する。
このため、図17の角速度・角加速度演算部48で、モータ回転角検出系統が正常である場合には、前述した第1の実施形態と同様に、回転角選択部48gでモータ回転角演算部47によって演算された実回転角θerが選択されると共に、角速度選択部48iで角速度演算部48hで算出される実角速度ωerを選択し、選択した実角速度ωerを角加速度演算部48jで微分して角加速度αを算出し、実回転角θer、実角速度ωer及び角加速度αを電流指令値算出部42に供給することにより、これらに基づいて正確な相目標電流Ia*〜Ic*を算出し、この相目標電流Ia*〜Ic*と電流検出値Ia〜Icとの偏差ΔIa〜ΔIcを算出し、この偏差ΔIa〜ΔIcをPI制御処理して電圧指令値Va*〜Vc*を算出し、これら電圧指令値Va*〜Vc*をモータ駆動回路6のFETゲート駆動回路22に出力することにより、電動モータ5に三相駆動電流を供給して操舵補助力を発生させる。
【0100】
そして、レゾルバ18を含む回転角検出系統に異常が発生したことをフェールセーフ処理部49で検出すると、このフェールセーフ処理部49から論理値“1”のフェールセーフ信号SFが回転角選択部48g及び角速度選択部48iに出力される。これによって前述した第1の実施形態と同様に逆起電圧EMFに基づく相対角速度ωeeを選択する。
そして、算出した相対角速度ωeeが不感帯外であるときには、不感帯検出部48mで論理値“0”の不感帯検出信号SDが第2の回転角選択部48m及び第2の角速度選択部48pに出力され、この第2の回転角選択部48nで加算部48fによって算出された相対回転角θeeが選択されると共に、第2の角速度選択部48pでレイトリミッタ部48dから出力される相対角速度ωeeが選択されて、逆起電圧EMFに基づいて算出される相対回転角θee、相対角速度ωee及び相対角加速度αに基づいて電流指令算出部42で3相電流指令値Ia*〜Ic*が算出され、電動モータ5が駆動制御されて電動モータ5から操舵補助力が発生されることにより、操舵補助制御処理が継続される。
【0101】
この操舵補助制御処理の継続状態で、相対角速度演算部48aで演算される相対角速度ωeeが不感帯内となると、不感帯検出部48mから論理値“1”の検出信号SDが第2の回転角選択部48m及び第2の角速度選択部48pに出力されることにより、第2の回転角選択部48mで補完用相対角度情報演算部70で算出されてマイクロコンピュータ30のRAMに格納されている補完用相対回転角θMPが選択されると共に、第2の角速度選択部48pで角速度演算部48oで算出される補完用相対回転角θee′(=θMP)を微分した相対角速度ωee′が選択される。
【0102】
このため、逆起電圧EMFに基づいて算出された相対角速度ωeeが“0”角速度近傍の不感帯内であるときには、補完用相対角度情報演算部70で演算された操舵トルクTsに基づいて算出される補完用相対回転角θMP及びその微分値でなる相対角速度ωee′が選択されると共に、補完用相対角速度ωee′を微分した相対角加速度αが指令値算出部42に出力されることにより、前述した第1の実施形態と同様にステアリング(ハンドル)ロックの発生を防止しながら補完用相対回転角θMP、補完用相対角速度ωee′及び相対角加速度αに基づいて操舵補助制御処理を継続することができる。
【0103】
なお、上記第2の実施形態においては、相対角速度ωeeが不感帯内であるときに、操舵トルクTsに基づいて算出する補完用相対角速度ωee′を選択する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、相対角速度ωeeが不感帯内になったときの操舵トルクTsが大きい場合には相対角度θeeが急変する場合が生じるので、相対角速度ωeeが不感帯内となったときの操舵トルクTsが大きい場合には、操舵トルクTsの変化量に基づいて補完用相対回転角θee′を算出するように設定することが好ましい。
【0104】
また、上記第2の実施形態においては、逆起電圧EMFに基づいて算出した相対角速度ωeeが不感帯内であるときに、操舵トルクTsに基づいて算出した補完用相対回転角θee′及び補完用相対角速度ωee′を適用する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、逆起電圧EMFに基づいて算出した相対角速度ωeeが不感帯内になるときに、電動モータ5で発生する操舵補助力が小さいか否かを例えば指令値算出部42で算出した操舵補助トルク指令値IM*の大小で判定し、操舵補助力が小さいときには逆起電圧EMFに基づいて算出した相対角速度ωee、相対回転角θee、相対角加速度αに基づいて操舵補助制御処理を継続し、操舵補助力が大きいときは操舵トルクに基づく補完用相対回転角θee′、補完用相対角速度ωee′及び相対角加速度αに基づいて操舵補助制御処理を継続するようにしてもよい。
【0105】
さらに、上記第2の実施形態においては、0速度領域であるか否かを相対角速度ωeeが不感帯内であるか否かによって判断する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、逆起電圧EMFから得られる角度情報θeeが不正確な区間(相対角速度ωeeが不感帯外となっても逆起電圧EMFの0クロス点を判断できないときなど)でも補完用相対角速度ωee′を選択するようにしてもよい。
【0106】
さらにまた、上記第2の実施形態においては、補正値としてΔθMを“0”に設定する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、相対回転角θMP(n)の増加量を極めて小さい値に抑制することができる程度の値に設定するようにしてもよい。
なおさらに、上記第2の実施形態においては、操舵トルクTsを平均化した操舵トルク平均値TsMを使用して相対回転角変化量ΔθMを算出する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、操舵トルクTsそのものを入力値として相対回転変化量ΔθMを算出するようにしてもよく、要は操舵トルクTsに基づく値であれば任意の演算値を適用することができる。
【0107】
次に、本発明の第3の実施形態を図18について説明する。
この第3の実施形態では、前述した第1及び第2の実施形態では、運転者の操舵量に応じたブラシレスモータの相対角度情報を算出する場合に、ブラシレスモータの逆起電圧に基づいて相対角度情報を構成する相対角速度を算出するようにしているので、ブラシレスモータの逆起電圧を正常に検出することができない状態となったときには相対角度情報を得ることができない状態となり、操舵補助制御を中止せざるを得ない。このため、第3の実施形態では、ブラシレスモータの逆起電圧を正常に検出することができない状態となったときでも操舵補助制御を継続することができるようにしたものである。
【0108】
すなわち、第3の実施形態では、マイクロコンピュータ30で、図18に示す相対角度演算処理を実行する。
この相対角度演算処理は、所定時間(例えば10msec)毎のタイマ割込処理として実行され、先ず、ステップS81で、レゾルバ18及びモータ回転角演算部47で検出されるモータ回転角θerが正常であるか否かを判定する。この判定は、前述した図9のモータ回転角異常検出処理で出力されるフェールセーフ信号SFを読込み、これが論理値“0”であるか否かを判断することにより行う。
【0109】
このステップS81の判定結果が、モータ回転角θerが正常であるときには、ステップS82に移行して、モータ回転角θerを使用して、モータ角速度ωe及び角加速度αを算出してからタイマ割込処理を終了して所定のメインプログラムに復帰し、モータ回転角θerが正常でないときにはステップS83に移行する。
このステップS83では、運転者の操舵量に応じた相対角度情報を正常に算出することができるか否かを判定する。この相対角度情報の算出が正常であるか否かの判定は、例えばモータ端子電圧検出部8で検出したモータ端子電圧が正常であるか否かを判断することにより行い、相対角度情報の算出が正常である場合には、ステップS84に移行して、前述した第1の実施形態と同様の相対角度情報検出処理を実行してからタイマ割込処理を終了して所定のメインプログラムに復帰し、相対角度情報の算出が異常であるときには、ステップS85に移行して、前述した第2の実施形態における補完用相対角度情報演算部70で実行する図15の補完用相対角度情報演算処理と同様の処理を行う相対角度情報検出処理を実行してからタイマ割込処理を終了して所定のメインプログラムに復帰する。
【0110】
この第3の実施形態によると、レゾルバ18及びモータ回転角演算部47で構成されるモータ回転角検出部が正常であるときには、ステップS82に移行して、このモータ回転角検出部で検出されたモータ回転角θerを使用して、モータ角速度ωe及び角加速度αを算出するが、モータ回転角検出部が異常となった場合には、モータ端子電圧の検出が正常であるか否かを判定し、モータ端子電圧の検出が正常である場合には、ステップS84に移行して、前述した第1の実施形態による相対角度情報検出処理を行って、相対角速度ωee、相対回転角θee、相対角加速度αを演算する。
【0111】
しかしながら、モータ端子電圧の検出が異常である場合には、前述した第1の実施形態による相対角度情報の正確な演算を行うことができないので、ステップS85に移行して、前述した第2の実施形態における補完用角度情報演算部70で実行する図15の補完用角度情報演算処理を相対角度情報検出処理として実行することにより、逆起電圧EMFを使用することなく操舵トルクTsに基づいて相対回転角θMPを算出し、算出した相対回転角θMPを使用して相対角速度ωee及び相対角加速度αを算出する。
【0112】
このように、上記第3の実施形態によると、相対角度情報の算出を2段階で行うことができるので、前述した第1の実施形態による逆起電圧EMFに基づいて相対角速度ωee、相対回転角θee及び相対角加速度αでなる相対角度情報を算出することができない場合であっても、操舵トルクTsに基づいて相対回転角θee、相対角速度ωee及び相対角加速度αでなる相対角度情報を算出することができ、異常発生時における操舵補助制御の継続が可能な範囲を広範囲とすることができ、より確実な操舵補助制御を行うことができる。
なお、上記第3の実施形態においては、モータの端子電圧の検出が正常であるときに、前述した第1の実施形態と同様の相対角度情報検出処理を実行する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、前述した第2の実施形態と同様の相対角度情報検出処理を実行するようにしてもよい。
【0113】
また、上記第3の実施形態においては、逆起電圧に基づく相対角度演算処理が行えない場合に、操舵トルクに基づく相対角度演算処理を行う場合について説明したが、これに限定されるものではなく、逆起電圧に基づく相対角度演算処理が行えない場合に、他の処理に使用する操舵角センサを使用して、操舵角センサから得た操舵角の角度変化量に基づいて相対角度を算出するようにしてもよく、さらに操舵角に基づく相対角度演算処理が行えない場合に操舵トルクに基づく相対角度演算処理を行うようにしてもよく、これら3つの操舵角演算処理の組合せは故障率等で決定するようにしてもよい。
【0114】
また、上記第1〜第3の実施形態においては、レゾルバ18及びモータ回転角検出回路32を含むモータ回転角検出系の異常を、sinθ及びcosθに基づいて異常判定マップを参照して検出する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、sinθ系とcosθ系とがショートしたときには、sin2θ+cos2θ=1であることを利用して、ショートを検出するようにしてもよく、この場合には、sinθとcosθとは互いに同じ値となりながら一定の範囲で振幅が変化し、電気角45度のときに最大、225度のときに最小となるので、これら最大及び最小のピークを監視して、電気角45度及び225度に相対回転角θeeを補正するようにしてもよい。
【0115】
また、上記第1〜第3の実施形態においては、sinθ及びcosθをマイクロコンピュータ30で実行するモータ回転角算出処理で算出する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、モータ回転角検出回路32内でsinθ及びcosθを算出するようにしてもよく、さらにはモータ回転角検出手段としてレゾルバ18に代えて例えば、特開平2004−20548号公報に記載されているように、電動モータ5の軸受内にエンコーダを構成する永久磁石をその中心を通過する仮想平面によりS極とN極とが均等に2分割される様に着磁し、このエンコーダのS極及びN極と対向して90度位相がずれた位置に磁気センサを設け、これら磁気センサからsinθ及びcosθを出力する回転状態検出装置を適用するようにしてもよい。このように、モータ回転検出手段からsinθ及びcosθが例えば電圧として出力される場合には、マイクロコンピュータ30でsinθ及びcosθの振幅が予め設定した範囲内であるか否かを判定することにより、sinθ及びcosθの何れか一方の振幅が設定範囲外となったときに、sinθ又はcosθの系統に地絡異常又は天絡異常が発生したものと判断するようにしてもよい。この場合、仮にcosθの系統が正常であるものとすると、sinθ及びcosθの座標系においては、cosθが最大値となる角度は0度であり、最小値となる角度は180度、中央である場合は90度又は270度であることを利用して、cosθが最大値となったときに相対回転角θee又は相対角速度ωeeを“0”に補正するようにしてもよい。この場合の最大値の検出は、ピーク検出処理又はピーク検出回路を適用するようにしてもよいが、ピーク値が予め分かっている場合にはそのピーク値に達したか否かを判定することにより最大値を検出することができ、このピーク値が温度などの影響を受ける場合には、例えば0度及び180度のピーク値は異常となる直前の値をピーク値として設定するようにしてもよい。
【0116】
このように、sinθ及びcosθの何れか一方が異常となった場合には、正常な信号のピーク値を監視して、そのピーク値となった時点の角度を相対回転角θeeの補正値として採用することもできる。
また、モータの回転位置検出手段として、図19に示すように、通常の三相ブラシレスモータに設けられるa相、b相及びc相の極位置を検出するホールセンサ等の3つの極位置センサ101a、101b及び101cを適用する場合には、これら極位置センサ101a、101b及び101cから出力される相検出信号Sa、Sb及びScが図20に示すように120度の位相差を有することから、これら相検出信号Sa、Sb及びScに基づいて異常となった1つの極位置センサ101i(i=a、b、c)を検出することができる。
【0117】
すなわち、各相検出信号Sa、Sb及びScのオンオフ状態で表される通電状態は図20の最下段に示すように1から6までの通電状態を繰り返している。
この状態で、例えばa相の極位置センサ101aがハイレベルで固着した場合には、図21に示すように、オンオフ状態で表される通電状態が“4”、“5”及び“6”と新たなa相検出信号Saがハイレベル、b相検出信号Sbがハイレベル、c相検出信号Scがハイレベルとなる通電状態“7”とが所定の順序で繰り返されることになり、通電状態“7”となったところで、異常を検出することができるが、本来a相検出信号Saがハイレベルとなる0度〜180度の範囲では、正常時とパターンが変わらない。ここで、通電状態“4”は0度〜360度の範囲で、1度だけ現れる一意な通電状態であり、この通電状態“4”は通電状態“5”又は“6”となるエッジ部では正しく角度を読み取ることができる。同様に、b相検出信号Sb及びc相検出信号Scがハイレベルで固着した場合には、夫々通電状態“2”及び“1”が一意に角度を検出できる領域として存在し、同様に角度を正しく認識できる点が存在する。
【0118】
また、a相検出信号Saがローレベルで固着した場合も同様に、図22に示すように、本来a相検出信号Saがローレベルとなる領域(180〜360度)で正常に角度の検出が可能であり、通電状態“3”の部分は0〜360度の範囲で一意であり、これが通電状態“2”及び“1”となるエッジ部で正しく角度を読み取ることができる。さらに、b相検出信号Sb及びc相検出信号Scがハイレベルで固着した場合には、夫々通電状態“5”及び“6”が一意に角度を検出できる領域として存在し、同様に角度を正しく認識できる点が存在する。
【0119】
以上により、モータ極位置を含む回転体の回転を検出する極位置センサ101a〜101cの異常を通電状態“7”又は“0”を検出することにより、認識することができ、通電状態“7”で異常を検出した場合には、通電状態“1”、“2”及び“4”を認識すれば、その切り換わりエッジで正常な角度の補正が可能であり、通電状態“0”で異常を検出した場合には、通電状態“3”、“5”及び“6”を認識すれば、その切り換わりエッジで正常な角度の補正が可能である。
【0120】
したがって、上述したsinθ及びcosθを出力する回転状態検出装置を適用する場合や上記極位置センサ101a〜101cを使用した場合には、実角度を正確に認識できる点が存在することにより、例えば、図23に示す相対角度補正処理を実行することができる。この相対角度補正処理は、ステップS91で、逆起電圧EMFを読込み、次いでステップS92に移行して、要補正状態であるか否かを判定する。この要補正状態であるか否かの判定は、例えば逆起電圧EMFの値又はその変化量ΔEMFが大きいか否かを判断し、逆起電圧EMFの値又はその変化量ΔEMFが小さいときには要補正状態ではないものと判断してそのままタイマ割込処理を終了するが、逆起電圧EMFの値又はその変化量ΔEMFが大きいときには、要補正状態であるものと判断してステップS93に移行し、回転状態検出装置又は極位置センサ101a〜101cでの検出信号から実角度を認識できる状態であるか否かを判定し、実角度を認識できないときには実角度を認識できるまで待機し、実角度を認識できるときには、ステップS94に移行して、実角度情報を相対角度θeeとして設定してからタイマ割込処理を終了する。この相対角度補正処理において、ステップS92の処理が要補正状態検出手段に対応し、ステップS93及びS94の処理が相対角度情報補正手段に対応している。
【0121】
また、上記第1〜第3の実施形態においては、操舵補助制御をマイクロコンピュータ30を使用して行う場合について説明したが、これに限定されるものではなく、他の演算処理装置を適用することもできる外、演算回路、加算回路、比較回路等を使用するハードウェアで構成することもできる。
さらに、上記第1〜第3の実施形態においては、マイクロコンピュータ30で操舵補助制御処理を実行し、FETゲート駆動回路22でパルス幅制御処理を実行する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、マイクロコンピュータ30で操舵補助制御処理及びパルス幅制御処理の双方を実行するようにし、このマイクロコンピュータ30でインバータ回路21を直接駆動制御するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0122】
1…車載バッテリ、3…制御装置、5…電動モータ、6…モータ駆動回路、11…ステアリングホイール、12…ステアリングシャフト、13…減速装置、17…トルクセンサ、18…レゾルバ、21…インバータ回路、22…FETゲート駆動回路、30…マイクロコンピュータ、32…モータ回転角検出回路、33…車速センサ、42…電流指令値算出部、42A…操舵補助トルク指令値演算部、42B…指令値補償部、42C…d−q軸電流指令値演算部、44…減算部、45…電流制御部、46…逆起電圧演算部、47…モータ回転角演算部、48…角速度・角加速度演算部、48a…相対角速度演算部、48b…符号取得部、48c…乗算部、48d…レイトリミッタ部、48e…ディザ処理部、48f…加算部、48g…回転角選択部、48h…角速度演算部、48i…角速度選択部、48j…角加速度演算部、48m…不感帯検出部、48n…第2の回転角選択部、48o…角速度演算部、48p…第2の角速度選択部、49…フェールセーフ処理部、70……補完用相対角度情報演算部、101a〜101c…極位置検出センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操舵系に対して操舵補助力を発生する電動モータと、該電動モータの回転角を検出するモータ回転角検出手段と、前記操舵系に伝達される操舵トルクを検出する操舵トルク検出手段と、該操舵トルク検出手段で検出した操舵トルクに基づいて操舵補助指令値を算出し、算出した操舵補助指令値及び前記モータ回転角検出手段で検出したモータ回転角とに基づいて前記電動モータを駆動制御するモータ制御手段とを備えた電動パワーステアリング装置であって、
前記モータ回転角検出手段の異常を検出するモータ回転角異常検出手段と、運転者の前記操舵系に対する操舵量に応じた前記電動モータの相対角度情報を算出するモータ相対角度情報算出部とを有するモータ相対角度検出手段とを備え、
前記モータ制御手段は、前記モータ回転角異常検出手段で前記モータ回転角検出手段の異常を検出していないときに、当該回転角検出手段で検出したモータ回転角情報を選択し、前記モータ回転角異常検出手段で前記モータ回転角検出手段の異常を検出したときに、前記モータ相対角度検出手段で検出した相対角度情報を選択し、選択した前記モータ回転角情報又は相対角度情報に基づいて前記電動モータを駆動制御するように構成され、
前記モータ相対角度情報算出部は、前記操舵トルク検出手段で検出した操舵トルクに基づいてモータ相対角度変化量を算出し、算出したモータ相対角度変化量を前回サンプリング時のモータ相対角度に加算してモータ相対角度を算出する補完用相対角度情報演算部を有し、前記モータ角速度が零近傍の不感帯内にあるときに、前記補完用相対角度情報演算部で算出したモータ相対角度に基づいてモータ相対角度情報を演算することを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項2】
前記モータ制御手段は、前記相対角度情報に基づいて前記電動モータを駆動制御する時に、初期角度を設定することなく任意の実角度から駆動するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項3】
前記モータ相対角度情報算出部は、前記モータの逆起電圧演算部から入力される逆起電圧に基づいて相対角速度を演算し、演算した相対角速度の符号を前記操舵トルク検出手段で検出した操舵トルクに基づいて決定するように構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の電動パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2012−139097(P2012−139097A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−82303(P2012−82303)
【出願日】平成24年3月30日(2012.3.30)
【分割の表示】特願2007−172388(P2007−172388)の分割
【原出願日】平成19年6月29日(2007.6.29)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】