説明

パワーステアリング装置

【課題】路面からの逆入力により発生する操舵機構の振動をより精度良く検出することができるパワーステアリング装置を提供する。
【解決手段】入力軸(第3コラムシャフト)に設けられ、入力軸に生じる歪振動を検出する第1歪センサと、出力軸(ピニオンシャフト)に設けられ、出力軸に生じる歪振動を検出する第2歪センサと、第2歪センサの出力信号である第2歪振動V2の位相が第1歪センサの出力信号である第1歪振動V1よりも進んでいるか否かを判断する位相判断回路84と、位相判断回路84が、第2歪振動V2の位相が第1歪振動V1の位相よりも進んでいると判断するとき、路面から操舵機構に対して作用する逆入力トルクが作用していると判断し、逆入力トルクが低減する方向に電動モータ60の駆動電流を補正する駆動電流補正回路(強化ゲイン設定回路824)と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の転舵輪に操舵アシスト力を付与するパワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、路面からの逆入力により発生する操舵機構の振動を抑制することで操舵フィーリングを向上するパワーステアリング装置が知られている。例えば、特許文献1に開示されるパワーステアリング装置は、操舵機構の状態を示す信号としてのピニオン角から、上記路面からの逆入力により発生する操舵機構の振動に対応する特定の周波数成分を抽出することにより、上記操舵機構の振動を検出し、この検出結果に基づき操舵アシスト力を補正している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−90953号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、操舵操作により発生する振動の周波数成分は幅広く、また路面からの逆入力により発生する振動の周波数成分も幅広いため、従来のパワーステアリング装置では、上記特定の周波数成分を抽出することは難しいという問題があった。本発明の目的とするところは、路面からの逆入力により発生する操舵機構の振動をより精度良く検出することができるパワーステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明のパワーステアリング装置は、好ましくは、入力軸に生じる歪振動を検出する第1歪センサと、出力軸に生じる歪振動を検出する第2歪センサと、を備え、第2歪センサの出力信号である第2歪振動の位相が第1歪センサの出力信号である第1歪振動よりも進んでいるとき、路面から操舵機構に対して逆入力トルクが作用していると判断することとした。
【発明の効果】
【0006】
よって、路面からの逆入力により発生する操舵機構の振動をより精度良く検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】実施例1のパワーステアリング装置のシステム構成図である。
【図2】実施例1の操舵機構の軸方向断面図である。
【図3】実施例1の歪センサの組立体の概略図である。
【図4】実施例1の歪センサのホイートストンブリッジ回路を表す回路図である。
【図5】実施例1の歪センサの抵抗とダミー抵抗の形状とシリコン基板の結晶方位との関係を示す図である。
【図6】実施例1のECUの構成を示すブロック線図である。
【図7】実施例1の第1歪振動V1と第2歪振動V2の波形の例を示す(正入力時)。
【図8】実施例1の第1歪振動V1と第2歪振動V2の波形の例を示す(逆入力時)。
【図9】実施例1のECUにおいて行われる制御処理の概要を示すフローチャートである。
【図10】実施例2のパワーステアリング装置のシステム構成図である。
【図11】実施例3のECUの構成を示すブロック線図である。
【図12】実施例4のパワーステアリング装置のシステム構成図である。
【図13】回転軸にトルクが生じる際に発生するせん断応力を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明のパワーステアリング装置を実現する形態を、図面に基づき説明する。
【0009】
[実施例1]
図1は、実施例1のパワーステアリング装置EPSのシステム構成図である。パワーステアリング装置EPSが設けられる車両の操舵機構(操舵系)は、操作機構とギヤ機構3とリンク機構とから構成される。操作機構は、運転者の操舵力が回転力として入力される操舵力入力手段としてのステアリングホイール(操舵輪)1と、これに接続されて上記回転力が伝達されるステアリングシャフト(操舵軸2)とを備える。ギヤ機構3は、操舵軸2に接続されて上記回転力を変換・増大する。リンク機構は、ギヤ機構3からの動力を転舵力として転舵輪5(例えば左右前輪)に伝達する。操舵軸2は、ステアリングホイール1に接続された第1コラムシャフト20と、第1コラムシャフト20にジョイントを介して連結された第2コラムシャフト(中間シャフト)21と、第2コラムシャフト21にジョイントを介して連結され、ステアリングホイール1の操舵操作に伴い回転する第3コラムシャフト(入力軸)22と、トーションバー23を介して第3コラムシャフト22と接続され、第3コラムシャフト22の回転が伝達されるピニオンシャフト(出力軸)24とを有する。第2コラムシャフト21には、回転変動や振動を抑制するための減衰力を発生する弾性体として、好ましくはゴムまたは樹脂によって形成されたカップリング25が介在されている。ギヤ機構3は、ピニオンシャフト24の回転を転舵輪5の転舵動作に変換する変換機構である。ギヤ機構3は、所謂ラック&ピニオン型であり、ピニオンシャフト24の先端に形成されたピニオン300と、ピニオン300と噛合うようにラック軸31に形成されたラック310とを有する。ラック軸31の軸方向両端には、リンク機構としてのタイロッド4を介して転舵輪5が連結される。運転者がステアリングホイール1を操舵操作すると、操舵軸2(ピニオンシャフト24)が回転駆動され、ギヤ機構3によりラック軸31が軸方向に移動し、タイロッド4を介して転舵輪5を操舵する。
【0010】
パワーステアリング装置EPS(以下、装置EPSという。)は、運転者の操舵力をアシストする操舵アシスト力を操舵機構に付与する操舵力補助装置としてのEPSアクチュエータ6と、操舵機構の状態を検出する検出手段としての操舵状態センサ7と、操舵状態センサ7から出力される操舵機構の状態を示す信号に基づきEPSアクチュエータ6を駆動制御する操舵補助力制御手段としてのECU(電子制御ユニット)8とを有する。EPSアクチュエータ6は、電動モータ(以下、モータ60という。)と減速機構61を有する。すなわち、装置EPSは、電動パワーステアリング装置である。モータ60は、車両に搭載される電源(バッテリ)から供給される電力により駆動され、例えば3相ブラシレスDCモータを用いることができる。モータ60には、その出力軸の回転角ないし回転位置を検出するレゾルバ等の回転角センサ601が設けられている。減速機構61は、モータ60の回転を減速して操舵軸2に伝達するギヤ機構であり、実施例1ではウォームギヤ機構を用いる。減速機構61は、モータ60の出力軸上に設けられたウォーム610と、操舵軸2のピニオンシャフト24上に設けられ、ウォーム610と噛み合うウォームホイール611とから構成される。モータ60は、減速機構61を介してピニオンシャフト24の回転に対して補助動力を与え、転舵輪5に操舵補助力を付与する。すなわち、装置EPSは、モータ60がギヤを直接駆動して操舵アシスト力を発生する所謂電動直結式(ピニオンアシスト式)である。
【0011】
図2は、操舵機構の一部の軸方向断面図(操舵軸2の軸心Oを通る平面で切った断面)である。図2に示すように、操舵機構および装置EPSの各部品はハウジング9に収容される。ハウジング9は、センサハウジング90、ギヤハウジング91、モータハウジング、及びECUハウジングから構成される。センサハウジング90には、トルクセンサ70が収容される。ギヤハウジング91には、ギヤ機構3が収容される。モータハウジングには、モータ60が収容される。ECUハウジングには、ECU8が収容される。センサハウジング90とギヤハウジング91が互いに組み合わされることにより1つのEPSユニットを構成する。モータハウジングもギヤハウジング91と一体に組付けられる。更に、ECUハウジングをモータハウジングと一体に設け、所謂機電一体型のユニットとしてもよい。以下、第3コラムシャフト22及びピニオンシャフト24が延びる方向にx軸を設け、ステアリングホイール1の側(上流側)を正方向、ギヤ機構3の側(下流側)を負方向とする。第3コラムシャフト22とピニオンシャフト24は、ハウジング9に回転自在に収容される。第3コラムシャフト22は、センサハウジング90に収容される。ピニオンシャフト24は、トーションバー23を介して第3コラムシャフト22と接続されており、ギヤハウジング91に収容される。
【0012】
第3コラムシャフト22は有底筒状であり、x軸負方向側に開口する軸方向孔220を有する。軸方向孔220のx軸正方向側の内周にはトーションバー23のx軸正方向端部が設置され、この端部は第3コラムシャフト22の径方向に延びる中立ピン25により第3コラムシャフト22に固定される。第3コラムシャフト22のx軸負方向端部は、ピニオンシャフト24のx軸正方向端部に設けられた凹部240に回転自在に収容される。トーションバー23のx軸負方向端部は、ピニオンシャフト24の凹部240の底部に設けられた嵌合孔241に、圧入等により固定される。第3コラムシャフト22のx軸方向負方向側の外周にはインナリング保持部221が形成され、インナリング保持部221にはインナリング701が設置・保持される。センサハウジング90の内周には、インナリング701と径方向に対向する部位に、センサコイル700が設置される。第3コラムシャフト22は、インナリング保持部221よりもx軸正方向側の部位で、軸受BRG1を介して回転自在にセンサハウジング90に支持されると共に、インナリング保持部221よりもx軸負方向側の端部で、ピニオンシャフト24の凹部240に設置・保持されたニードルベアリングにより回転自在に支持される。第3コラムシャフト22のx軸正方向側はxセンサハウジング90のx軸正方向端の開口から突出する。センサハウジング90のx軸正方向端の開口は、防水ブーツ92により覆われ、塞がれる。
【0013】
ピニオンシャフト24の外周には、x軸正方向側からx軸負方向側に向かって順に、アウタリング保持部242と、ウォームホイール設置部243と、第1被支持部244と、ピニオン300と、第2被支持部245とが設けられている。ピニオンシャフト24は、第1、第2被支持部244,245において、それぞれ軸受BRG2,3を介して回転自在にギヤハウジング91に支持される。アウタリング保持部242にはアウタリング702のx軸負方向端が設置・保持され、アウタリング702はセンサコイル700とインナリング701との間に介装される。ウォームホイール設置部243にはウォームホイール611が設置・固定され、ウォームホイール611は、モータ60の出力軸上に設けられギヤハウジング91内に収容されたウォーム610と噛み合う。ピニオンシャフト24のx軸負方向側の外周にはピニオン300が形成されている。ピニオン300は、ギヤハウジング91内に収容されたラック軸31の歯(ラック310)と噛合ってラック&ピニオン機構を構成している。ラック軸31の歯の背面側には、スプリング32の弾性力によりラック軸31をピニオンシャフト24の側に押し付けるリテーナ33が設置されている。
【0014】
操舵状態センサ7は、トルクセンサ70と、第1歪センサ71及び第2歪センサ72とを有する。トルクセンサ70は所謂磁歪式であり、センサコイル700と、磁路抵抗可変部材としてのインナリング701及びアウタリング702と、センサ基板703と、を有している。トルクセンサ70は、操舵軸2の回転状態(回転量)を検出し、ECU8に出力する。具体的には、第3コラムシャフト22とピニオンシャフト24との間の相対回転量(すなわちトーションバー23の捻れ量)を、運転者の操舵操作により操舵軸2に生じる操舵トルクとして検出する。
【0015】
第1歪センサ71は、第3コラムシャフト22に設けられ、第3コラムシャフト22に生じる歪みを検出する。第1歪センサ71は、防水ブーツ92内に突出する第3コラムシャフト22の(中立ピン25よりもx軸正方向側の)外周に取り付けられ(貼付され)る。第1歪センサ71は、防水ブーツ内92に設置されることで、外部使用環境に対応できるようになっている。第1歪センサ71は、受信側アンテナユニット73を介してECU8との通信が可能に設けられている。受信側アンテナユニット73は、略円環状であり、第1歪センサ71と径方向で対向する位置に、第3コラムシャフト22を取り囲むように設置される。受信側アンテナユニット73には、アンテナが第3コラムシャフト22を取り囲むように設置されている。アンテナは、接続線を介してECU8に接続されており、第1歪センサ71が送信した信号を受信してこれをECU8に送る受信側アンテナとして機能すると共に、ECU8から電力の供給を受けてこれを第1歪センサ71へ送る給電コイルとして機能する。第2歪センサ72は、ピニオンシャフト24に設けられ、ピニオンシャフト24に生じる歪みを検出する。第2歪センサ72は、ギヤハウジング91内に収容されるピニオンシャフト24の(ピニオン300のx軸正方向端の)外周に取り付けられる。第2歪センサ72は、ギヤハウジング91内に設置されることで、外部使用環境に対応できるようになっている。第2歪センサ72と径方向で対向する位置には、受信側アンテナユニット73と同様の受信側アンテナユニット74が設置されている。
【0016】
〔歪センサの構成について〕
以下、歪センサの詳細について、第1歪センサ71を例にとって説明する。図3は、歪センサ71の組立体710の構成を表す概略図である。この組立体710は、同一のシリコン基板711上に、抵抗712aとダミー抵抗712bとを有するホイートストンブリッジ回路712、歪センサアンプ群713、アナログ/デジタルコンバータ714、整流・検波・変復調回路部715、通信制御部716、アンテナ718、及び接着部717を備えている。シリコン基板711はシリコン単結晶により形成されている。以下ではシリコン基板711と、シリコン基板711上に構成した薄膜群を総称してチップと記載する。組立体710は接着部717により第3コラムシャフト22に接着される。すなわち、シリコン基板裏面を第3コラムシャフト22との接着面とする。組立体710は、受信側アンテナユニット73からアンテナ718を介して送られた電力用高周波信号を整流・検波・変復調回路部715で平滑化し、一定電圧の直流電力にしてチップ内の各回路に電源として供給する。ホイートストンブリッジ回路712(抵抗712aとダミー抵抗712b)には、所定の電流が供給される。
【0017】
図4はホイートストンブリッジ回路712を表す回路図であり、図5は抵抗712aとダミー抵抗712bの形状とシリコン基板711の結晶方位との関係を示す図である。ホイートストンブリッジ回路712は、単結晶シリコン基板711の(001)面に、対向する2辺に設けられた一組の抵抗712a、及び対向する他の2辺に設けられた一組のダミー抵抗712bからなる。抵抗712aは、内部に不純物が拡散された拡散抵抗を含むシリコン結晶によって構成され、シリコン結晶は単結晶である。すなわち、抵抗712aは、シリコン基板711中に局所的にP型の不純物層を拡散して形成された、歪量を測定するための素子である。その長手方向(抵抗712aの両端子を結ぶ直線)はシリコン基板711の<−110>方向とほぼ一致するように形成される。ダミー抵抗712bは、抵抗712aと同様、シリコン基板711中に局所的にP型の不純物層を拡散してV字型に形成されている。V字を形成する2つの直線部分の長さは等しく、一方の直線部分の長手方向は<100>方向となり、他方の長手方向は<100>方向に対して90°回転させた方向となるようにする。ダミー抵抗712bは、このようにV字型に形成されることで抵抗値を稼ぎつつ、全体としてみて、抵抗712aの長手方向である<−110>方向に対して90°回転させた<110>方向とほぼ一致するように形成されている。また、抵抗712aとダミー抵抗712bの内部抵抗値はほぼ同じ値となるように形成する。
【0018】
第3コラムシャフト22に歪みが付加される(応力が作用する)と、第3コラムシャフト22からシリコン基板711全体に歪みが伝達される。すなわち、組立体710は、素子形成面に対向したシリコン基板711の裏面に接着部717が配されているため、第3コラムシャフト22の歪みがシリコン基板711全体に接着部717を通して歪みを与える。歪センサ71は、この歪みを計測する。具体的には、シリコン基板711中のホイートストンブリッジ回路712(抵抗712aとダミー抵抗712bの長手方向)に電圧をかけ、所定の電流を供給する。シリコン基板711に歪みが付加される(応力が作用する)と、ホイートストンブリッジ回路712の内部抵抗値がピエゾ抵抗効果に基づき変化する。歪センサ71は、供給される上記所定の電流に対する内部抵抗値の変化に伴う電圧降下量を検出することにより、第3コラムシャフト22の歪みを検出する。検出される電圧降下量(第3コラムシャフト22の歪量に相当)は、歪センサアンプ群713、アナログ/デジタルコンバータ714を通してデジタル信号に変換され、アンテナ718から受信側アンテナユニット73(ECU8)に送信される。実際には、外部からの振動により第3コラムシャフト22に付加される歪みは、所定の周波数と振幅と波形をもった振動として発生する。以下、これを歪振動という。第1歪センサ71は、第3コラムシャフト22に生じる歪振動を検出し、出力する(以下、これを第1歪振動V1という)。
【0019】
不純物拡散層の抵抗値は温度変動の影響を強く受けることから、温度補償回路として、歪みに対して感度を持つアクティブ抵抗としての抵抗712aと、歪みに対して感度を持たないダミー抵抗712bとによってホイートストンブリッジ回路712を構成する。すなわち、シリコン単結晶の場合には、そのピエゾ抵抗効果は結晶方位に依存した直交異方性を有している。よって、第3コラムシャフト22(シリコン基板711)に歪みが付加される際、ホイートストンブリッジ回路712を構成する抵抗712aのみの内部抵抗値がピエゾ抵抗効果に基づき変化し、ダミー抵抗712bの内部抵抗値はピエゾ抵抗効果に基づき変化しないように、歪みの基準となる座標系(第3コラムシャフト22の歪み方向)に対するチップの配置(シリコンの結晶方位と抵抗712a, 712bの配置)を調整する。これにより、シリコン基板711に付加される歪みに対する抵抗712aとダミー抵抗712bの出力の差分を大きくし、ブリッジ回路712の出力の感度を大きくする。以上のように、歪センサ71の処理回路が同一のシリコン基板711中に高集積されるため、コンパクトな構成となる。なお、シリコン基板711の厚さを100μm以下にすることが望ましく、その場合には第3コラムシャフト22の歪みの値と歪センサ71(抵抗712a)の位置での歪みの値をほぼ一致させることができる。すなわち、測定精度を向上できる。
【0020】
第2歪センサ72も第1歪センサ71と同様に構成されている。すなわち、第2歪センサ72は、内部に不純物が拡散された拡散抵抗を含むシリコン結晶によって構成され、シリコン結晶は単結晶である。第2歪センサ72は、外部からの振動によってピニオンシャフト24に生じる歪振動を検出し、これを出力する(以下、これを第2歪振動V2という)。第2歪センサ72の内部抵抗値は、ピニオンシャフト24に作用する外部からの振動によって、ピエゾ抵抗効果に基づき変化する。第2歪センサ72は、所定の電流が供給され、この電流に対する内部抵抗値の変化に伴う電圧降下量を検出することにより、第2歪振動V2を検出する。検出された第2歪振動V2は、受信側アンテナユニット74を介してECU8に送信される。
【0021】
運転者によりステアリングホイール1が操舵されると、第1〜第3コラムシャフト20〜22を介してピニオンシャフト24に入力される操舵トルクがトルクセンサ70により検出される。検出された操舵トルク信号はECU8に入力される。また、ECU8には、図外の車速センサからの車速信号及び操舵角センサからの操舵角信号が入力される。また、ECU8には、第1、第2歪センサ71,72からの歪振動信号V1,V2が入力される。ECU8は、入力される操舵トルク等の情報に基づき基本となる操舵アシスト量(目標の操舵アシスト力)を演算し、この目標操舵アシスト力及び入力されるモータ回転位置等の信号に基づきモータ60に駆動電流を出力し、モータ60の作動を制御する。ECU8がモータ60に流れる電流(駆動電流)を制御することにより、ピニオンシャフト24の回転に対して適切な補助動力が与えられ、運転者の操舵力がアシストされる。また、ECU8は、入力される歪振動V1,V2の情報に基づき、路面から操舵機構に対して作用する逆入力トルクの有無を判断し、有りと判断すると、逆入力トルクが低減する方向にモータ60の駆動電流を補正する。
【0022】
図6は、ECU8の構成を示すブロック線図である。ECU8は、モータ制御信号を出力するマイコン80と、そのモータ制御信号に基づいてモータ60に駆動電力を供給する駆動回路81とを備える。ECU8には、モータ60に通電される実電流値Iを検出するための電流センサ600及びモータ回転角θmを検出するための回転角センサ601が接続されている。マイコン80は、上記操舵機構の状態を示す信号並びにモータ60の実電流値I及びモータ回転角θmに基づいて、駆動回路81に出力するモータ制御信号を生成する。
【0023】
詳述すると、マイコン80は、操舵機構に付与するアシスト力の目標値、すなわち目標アシスト力に対応した電流指令値Iq*を演算する電流指令値演算回路(目標アシスト力演算回路)82と、電流指令値演算回路82により算出された電流指令値Iq*に基づいてモータ制御信号を出力するモータ制御信号出力回路83とを備える。電流指令値演算回路82は、目標アシスト力の基礎的制御成分である基本アシスト制御量Ias*を演算する基本アシスト量演算回路820と、その補償成分として、操舵トルクτの微分値(操舵トルク微分値dτ)に基づくトルク慣性補償量Iti*を演算するトルク慣性補償量演算回路821とを備える。基本アシスト量演算回路820には、操舵トルクτ及び車速Vが入力される。そして、基本アシスト量演算回路820は、これら操舵トルクτ及び車速Vに基づいて、その操舵トルクτが大きいほど、また車速Vが小さいほど、より大きな基本アシスト制御量Ias*を演算する。
【0024】
一方、トルク慣性補償量演算回路821には、操舵トルク微分値dτに加え、車速Vが入力される。そして、トルク慣性補償量演算回路821は、トルク慣性補償制御を実行するため、これらの各状態量に基づいてトルク慣性補償量Iti*を演算する。尚、「トルク慣性補償制御」は、モータ60やアクチュエータ等、装置EPSの慣性による影響を補償する制御、即ちステアリング操作における「切り始め」時の「引っ掛かり感(追従遅れ)」、及び「切り終わり」時の「流れ感(オーバーシュート)」を抑制するための制御である。そして、このトルク慣性補償制御には、転舵輪5に対する逆入力応力の印加により操舵機構に生じた振動を抑制する効果がある。基本アシスト制御量Ias*及びトルク慣性補償量Iti*(Iti**)は、加算器822に入力される。電流指令値演算回路82は、この加算器822において基本アシスト制御量Ias*にトルク慣性補償量Iti*を重畳することにより、目標アシスト力としての電流指令値Iq*を演算する。電流指令値演算回路82が出力する電流指令値Iq*は、電流センサ600により検出された実電流値I、及び回転角センサ601により検出されたモータ回転角θmとともに、モータ制御信号出力回路83に入力される。そして、モータ制御信号出力回路83は、この目標アシスト力に対応する電流指令値Iq*に実電流値Iを追従させるべくフィードバック制御を実行することによりモータ制御信号を演算する。そして、ECU8は、上記のように生成されたモータ制御信号をマイコン80が駆動回路81に出力し、駆動回路81がモータ制御信号に基づく駆動電力をモータ60に供給することにより、EPSアクチュエータ6の作動を制御する。
【0025】
マイコン80には、位相判断回路84が設けられている。位相判断回路84には、操舵機構の状態を示す信号として、第1歪センサ71の出力信号である第1歪振動V1と、第2歪センサ72の出力信号である第2歪振動V2とが入力される。第1歪振動V1は、操舵機構を構成する第3コラムシャフト22の振動状態を示し、第2歪振動V2は、操舵機構を構成するピニオンシャフト24の振動状態を示す。位相判断回路84は、所定時間内に検出された第1歪振動V1の所定のピーク値Peak1と第2歪振動V2の所定の(ピーク値Peak1に対応する)ピーク値Peak2を検出し、これらの位相(時間のずれ)を比較することにより、第2歪振動V2の位相が第1歪振動V1よりも進んでいるか否かを判断する。マイコン80は、位相判断回路84により判断された第1、第2歪振動V1,V2の位相差に基づき、操舵機構に生じた振動の発生源を判断する。すなわち、これらの振動が、運転者の操舵操作によりステアリングホイール1に対して印加される正入力応力により生じたものか、それとも路面から転舵輪5に対して印加される逆入力応力により生じたものかを判断する。図7および図8は、所定時間内に検出された第1歪振動V1と第2歪振動V2の波形の例を示す。図7に示すように、第2歪振動V2のピーク値Peak2の位相が、第1歪振動V1のピーク値Peak1の位相よりも遅れていれば、正入力と判断する。図8に示すように、第2歪振動V2のピーク値Peak2の位相が、第1歪振動V1のピーク値Peak1の位相よりも進んでいれば、逆入力と判断する。
【0026】
マイコン80は、逆入力と判断した場合には、逆入力応力の印加に起因する操舵機構の振動を抑制すべく、上記トルク慣性補償制御を強化、即ち操舵トルク微分値dτに基づく補償成分であるトルク慣性補償量Iti*を増大させる。上述のように、トルク慣性補償制御には、操舵機構に生じた振動を抑制する効果があり、当該トルク慣性補償制御を強化することで、上記逆入力応力の印加に起因する操舵機構の振動を効果的に抑制することができる。しかしながら、このようなトルク慣性補償制御の強化(トルク慣性補償量Iti*の増大)には、アシストトルクの立ち上がりが過大となりやすいという特徴があり、その濫用は、通常時における操舵フィーリングの悪化(所謂切り始めの「抜け感」)、或いは制御の不安定化(振動)等といった弊害を引き起こすおそれがある。この点を踏まえ、装置EPSでは、上記のように第1、第2歪振動V1,V2の位相差を判断することで、いち早く逆入力応力の印加に起因する振動の発生を検知する。そして、該振動の検知に基づいて、トルク慣性補償制御の強化を実行することにより、トルク慣性補償制御の強化に伴う弊害の発生を回避しつつ、速やかに逆入力応力の印加に起因する振動の抑制を図る。
【0027】
詳述すると、マイコン80の電流指令値演算回路82には、トルク慣性補償制御を強化、即ちトルク慣性補償量Iti*を増大させるための強化ゲインKを設定する強化ゲイン設定回路824が設けられており、位相判断回路84が出力する判断結果は、この強化ゲイン設定回路824に入力される。強化ゲイン設定回路824は、第2歪振動V2の位相が第1歪振動V1よりも進んでいる(遅れていない)との判断結果が入力されると、強化ゲインKを「0」より大きく「1」より小さい所定値に設定する一方、第2歪振動V2の位相が第1歪振動V1よりも遅れているとの判断結果が入力されると、強化ゲインKを「0」に設定する。強化ゲイン設定回路824により設定された強化ゲインKは、加算器825に入力される。そして、加算器825において当該強化ゲインKに「1」が加算されることにより、ゲインK´となる。更に、このゲインK´は、乗算器826に入力され、乗算器826においてトルク慣性補償量Iti*に乗算される。そして、第2歪振動V2の位相が第1歪振動V1よりも進んでいるときは、強化ゲインKに「1」が加算されることにより、少なくとも「1」より大きい値を有するゲインK´となる。このゲインK´がトルク慣性補償量Iti*に乗算されることでトルク慣性補償量Iti*が増大補正され、この増大補正後のトルク慣性補償量Iti**が用いられることで、トルク慣性補償制御の強化が実行される。このようにトルク慣性補償制御の強化が実行されるとき、電流指令値Iq*(モータ駆動電流)は、逆入力トルクが低減する方向に補正される。以上のように、強化ゲイン設定回路824は、第2歪振動V2の位相が第1歪振動V1の位相よりも進んでいると位相判断回路84により判断されたとき、操舵機構に対して路面から作用する逆入力トルクが作用していると判断し、逆入力トルクが低減する方向にモータ60の駆動電流(モータアシスト制御量)を補正する駆動電流補正回路を構成する。
【0028】
図9は、ECU8において行われる、逆入力による振動発生の検出処理、及びこの検出結果に基づく振動抑制処理の概要を表すフローチャートである。ステップS1では、トルクセンサ70や車速センサの出力信号(操舵トルクτ及び車速V)を読み込み、これらに基づき電流指令値Iq*(モータ駆動電流)を演算する。その後、ステップS2に移行する。ステップS2では、第1、第2歪センサ71,72の出力信号(第1、第2歪振動V1,V2)を読み込み、ステップS3に移行する。ステップS3では、第2歪振動V2が第1歪振動V1より遅れているか否かを判断し、遅れていると判断すればステップS4に移行し、遅れていない(進んでいる)と判断すればステップS5に移行する。ステップS4では、電流指令値Iq*(モータ駆動電流)を補正せず(強化ゲインKを「0」に設定し)、ステップS6に移行する。ステップS5では、逆入力トルクが低減する方向に電流指令値Iq*(モータ駆動電流)を補正し(強化ゲインKを「0」より大きい値に設定し)、ステップS6に移行する。ステップS6では、電流指令値Iq*(モータ駆動電流)に基づきモータ60を駆動制御する。
【0029】
[実施例1の作用]
次に、実施例1の装置EPSの作用を説明する。
第2歪振動V1の位相が第1歪振動V1よりも進んでいるか否かを判断する位相判断回路84を備え、位相判断回路84が、第2歪振動V1の位相が第1歪振動V1の位相よりも進んでいると判断すると、路面から操舵機構に対して逆入力トルクが作用していると判断する。このように、振動の発生源(操舵操作からの正入力か路面からの逆入力か)を一対の歪センサ71,72の出力信号の位相差に基づき検出することにより、路面からの逆入力の検出精度を高めることができる。すなわち、例えば、路面からの逆入力により発生する操舵機構の振動に対応する特定の周波数成分を予め実験等により推定し、操舵機構の状態を示す信号(操舵角等)から上記特定の周波数成分を抽出することにより、路面からの逆入力の有無を判断する方法も考えられる。しかし、実際には、操舵操作により発生する振動の周波数成分は幅広く、また路面からの逆入力により発生する振動の周波数成分も幅広いため、上記特定の周波数成分のみを用いて路面からの逆入力の有無を判断することは難しい。これに対し、実施例1の装置EPSでは、路面からの逆入力の有無を一対の歪センサ71,72の出力信号の位相差に基づき検出するため、路面からの逆入力により発生する操舵機構の振動を、その周波数の如何によらず、精度良く検出することができる。逆入力による振動を精度よく検出することで、基本アシスト制御量Ias*を演算するために用いる操舵トルクτの検出値に対する逆入力による影響を低減し、適切な電流指令値Iq*を作成可能である。よって、運転者の操舵操作を阻害するような操舵アシスト力の発生を抑制することができる。また、路面からの逆入力のダンピング制御(トルク慣性補償制御)の精度を向上させることができる。したがって、操舵フィーリングをより向上することができる。
【0030】
なお、実施例1では、トーションバー23の上流側(第3コラムシャフト22)と下流側(ピニオンシャフト24)にそれぞれ歪センサ71,72を設けたが、要は、各歪センサ71,72の出力信号間に検出可能な位相差が発生するような距離だけ一対の歪センサ71,72が離れていればよい。よって、ステアリングホイール1と転舵輪5との間の動力伝達経路(操舵軸2やラック軸31)上の任意の位置に両センサ71,72を配置してもよい。
【0031】
位相判断回路84は、所定時間内に検出された第1歪振動V1のピーク値Peak1と第2歪振動V2のピーク値Peak2の位相を比較することにより、第2歪振動V2の位相が第1歪振動1の位相よりも進んでいるか否かを判断する。よって、歪振動V1,V2の位相の比較精度を確保しながら、演算回路の演算負荷を低減することができる。
【0032】
各歪センサ71,72は、第3コラムシャフト22及びピニオンシャフト24のそれぞれに作用する外部からの振動によってピエゾ抵抗効果に基づき変化する内部抵抗値の変化に基づき、それぞれ歪振動V1,V2を検出する。すなわち、シリコンには、応力が作用すると抵抗値が変化するというピエゾ抵抗効果がある。このように、ピエゾ抵抗効果を用いた歪センサ71,72を用いた場合には、抵抗の断面積の変化に起因する抵抗値の変化を利用する歪センサ(例えば金属薄膜細線を用いた抵抗線式歪みゲージ)を用いた場合よりも、歪みによる抵抗値の変化が著しく大きいため、検出精度の高い歪量検出を行うことができる。よって、路面からの逆入力により発生する操舵機構の振動の検出精度を向上することができる。また、各歪センサ71,72は、所定の電流が供給され、この電流に対する内部抵抗値の変化に伴う電圧降下量を検出することにより、それぞれ歪振動V1,V2を検出する。よって、簡便な構成により歪振動を検出することができる。
【0033】
また、各歪センサ71,72は、内部に不純物が拡散された拡散抵抗を含むシリコン結晶によって構成される。よって、高サイクル疲労を起こしやすい抵抗線式歪みゲージを用いた場合に比べ、高精度で信頼性の高い歪センサを得ることができる。すなわち、回転軸の歪み測定のように高サイクルの変形を伴う用途でも、また自動車の操舵軸など高い信頼性が要求される用途に用いる場合でも、降伏強度が大きな半導体結晶を用いることから、高サイクルの負荷に対しても疲労することがない。また、温度補正を行うために複数の抵抗を用いてホイートストンブリッジ回路を構成する場合にも、抵抗の剥離や損傷等の心配がない。したがって、長期間の信頼性を確保することができる。また、シリコン結晶は単結晶である。よって、金属薄膜を用いることで腐食しやすい抵抗線式歪みゲージや、複数の結晶粒界において環境腐食が発生しうる多結晶シリコンを用いた半導体ゲージに比べ、単結晶であり粒界が存在しないことから、腐食環境化や水分のある環境下においても腐食せず、より信頼性が高く検出精度の高い歪センサを得ることができる。また、他の電気回路との整合性がよい、破壊強度が大きい、安価である等のメリットがある。
【0034】
[実施例1の効果]
以下、実施例1のパワーステアリング装置EPSが奏する効果を列挙する。
(1)ステアリングホイール1の操舵操作に伴い回転する入力軸(第3コラムシャフト22)と、入力軸とトーションバー23を介して接続され、入力軸の回転が伝達される出力軸(ピニオンシャフト24)と、出力軸の回転を転舵輪5の転舵動作に変換する変換機構(ギヤ機構3)と、から構成される操舵機構と、操舵機構に操舵力を付与する電動モータ60と、入力軸に設けられ、入力軸に生じる歪振動を検出する第1歪センサ71と、出力軸に設けられ、出力軸に生じる歪振動を検出する第2歪センサ72と、第2歪センサ72の出力信号である第2歪振動V2の位相が第1歪センサ71の出力信号である第1歪振動V1よりも進んでいるか否かを判断する位相判断回路84と、位相判断回路84が、第2歪振動V2の位相が第1歪振動V1の位相よりも進んでいると判断するとき、路面から操舵機構に対して作用する逆入力トルクが作用していると判断し、逆入力トルクが低減する方向に電動モータ60の駆動電流を補正する駆動電流補正回路(強化ゲイン設定回路824)と、を有する。
よって、路面からの逆入力により発生する操舵機構の振動をより精度良く検出することができる。
【0035】
(2)位相判断回路84は、所定時間内に検出された第1歪振動V1のピーク値Peak1と第2歪振動V2のピーク値Peak2の位相を比較することにより第2歪振動V2の位相が第1歪振動V1の位相よりも進んでいるか否かを判断する。
このように簡便な構成とすることで、演算回路(位相判断回路84)の演算負荷を低減することができる。
【0036】
(3)第1歪センサ71および第2歪センサ72は、入力軸(第3コラムシャフト22)および出力軸(ピニオンシャフト24)のそれぞれに作用する外部からの振動によってピエゾ抵抗効果に基づき変化する内部抵抗値の変化に基づき第1歪振動V1および第2歪振動V2を検出する。
よって、ピエゾ抵抗効果を用いた歪センサを用いることにより、検出精度を向上することができる。
【0037】
(4)第1歪センサ71および第2歪センサ72は、所定の電流が供給され、この電流に対する内部抵抗値の変化に伴う電圧降下量を検出することにより第1歪振動V1および第2歪振動V2を検出する。
よって、構成を簡便化することができる。
【0038】
(5)第1歪センサ71および第2歪センサ72は、内部に不純物が拡散された拡散抵抗を含むシリコン結晶によって構成される。
よって、信頼性を向上しつつ検出精度を向上することができる。
【0039】
(6)シリコン結晶は単結晶である。
よって、信頼性を向上しつつ検出精度を向上することができる。
【0040】
[実施例2]
実施例2は、第1、第2歪センサ71,72をそれぞれカップリング25の上流側と下流側に配置した例を示す。
【0041】
図10は、実施例2の装置EPSのシステム構成図である。第1歪センサ71は、カップリング25の上流側、すなわちカップリング25とステアリングホイール1との間のコラムシャフト、具体的には第1コラムシャフト20に配置されている。なお、第2コラムシャフト21におけるカップリング25よりも上流側に第1歪センサ71を配置してもよい。第2歪センサ72は、カップリング25の下流側、すなわちカップリング25と転舵輪5との間の動力伝達経路上に配置されている。具体的にはラック軸31に配置されている。なお、カップリング25よりも下流側であれば任意の位置に配置してよく、例えば第2コラムシャフト21におけるカップリング25よりも下流側、第3コラムシャフト22やピニオンシャフト24、またはタイロッド4(実施例4を参照)に第2歪センサ72を配置してもよい。その他の構成、例えば第1、第2歪センサ71,72の構成や、ECU8(位相判断回路84や駆動電流補正回路)の構成は、実施例1と同様である。
【0042】
すなわち、カップリング25を介して接続される入力軸(第1コラムシャフト20)と出力軸(第3コラムシャフト22やピニオンシャフト24)またはラック軸31とにそれぞれ歪センサ71,72が設けられ、これらセンサ71,72が検出した歪振動V1,V2の位相差に基づき逆入力の有無を判断する。よって、各歪センサ71,72間の距離を実施例1よりも大きくすれば、各歪センサ71,72の出力信号(歪振動)の位相差は実施例1よりも増大する。これにより、路面からの逆入力により発生する操舵機構の振動をより精度よく検出することができる。また、各歪センサ71,72の出力信号(歪振動)は、これらの歪センサ71,72が離れている分だけ位相差が発生するだけでなく、所定のダンピング特性を有するカップリング25を介することで、位相差がさらに増大する。具体的には、下流(転舵輪5)側のラック軸31から上流(ステアリングホイール1)側に伝達される振動は、遅れ要素としてのカップリング25を経過すると、減衰すると共に位相が遅れる。同様に、上流側の第1コラムシャフト20から下流(ラック軸31)側に伝達される振動は、カップリング25を経過すると、減衰すると共に位相が遅れる。よって、各歪センサ71,72により検出される歪振動V1,V2間の位相差が増大し、逆入力を判断するためのピーク値Peak1,Peak2間の位相差(入力方向により生じる時間差)も大きくなるため、判断の精度を向上することができる。その他の作用効果は実施例1と同様である。
【0043】
(実施例2の効果)
以下、実施例2から把握される効果を列挙する。
(1)ステアリングホイール1の操舵操作に伴い回転する入力軸(第1コラムシャフト20)と、入力軸とゴムまたは樹脂によって形成されたカップリング25を介して接続され、入力軸の回転が伝達される出力軸(第3コラムシャフト22やピニオンシャフト24)と、出力軸の回転を転舵輪5の転舵動作に変換する変換機構(ギヤ機構3)と、から構成される操舵機構と、操舵機構に操舵力を付与する電動モータ60と、入力軸に設けられ、入力軸に生じる歪振動を検出する第1歪センサ71と、出力軸に設けられ、出力軸に生じる歪振動を検出する第2歪センサ72と、第2歪センサ72の出力信号である第2歪振動V2の位相が第1歪センサ71の出力信号である第1歪振動V1よりも進んでいるか否かを判断する位相判断回路84と、位相判断回路84が、第2歪振動V2の位相が第1歪振動V1の位相よりも進んでいると判断するとき、路面から操舵機構に対して作用する逆入力トルクが作用していると判断し、逆入力トルクが低減する方向に電動モータ60の駆動電流を補正する駆動電流補正回路(強化ゲイン設定回路824)と、を有する。
よって、路面からの逆入力により発生する操舵機構の振動をより精度良く検出することができる。
【0044】
(2)変換機構(ギヤ機構3)はラック&ピニオン機構であり、第2歪センサ72は、ラック軸31に設けられ、ラック軸31に生じる歪振動を検出する。
よって、各歪センサ71,72間の距離を大きくとることで、検出精度を向上することができる。
【0045】
[実施例3]
実施例3は、実施例2と同様、第1、第2歪センサ71,72をそれぞれカップリング25の上流側と下流側に配置した構成において、第1歪振動V1または第2歪振動V2のうち所定の周波数成分を抽出するフィルタ85をECU8に備えた例を示す。
【0046】
図11は、実施例3のECU8の構成を示すブロック線図である。マイコン80は、実施例1の構成に加え、特定周波数抽出回路としてのフィルタ85を備える。フィルタ85は、路面からの逆入力トルクにより発生する操舵機構の振動に対応する特定の周波数成分を予め実験等により設定し、入力される第1歪振動V1または第2歪振動V2のうち上記特定の周波数成分を抽出する。そして、抽出した周波数成分を強化ゲイン設定回路824に出力する。強化ゲイン設定回路824は、フィルタ85により上記特定の周波数成分が抽出され、かつ位相判断回路84が第2歪振動V2の位相が第1歪振動V1の位相よりも進んでいると判断するとき、トルク慣性補償量Iti*を増大させることでトルク慣性補償制御を強化する。すなわち、入力される上記周波数成分が減少するように、電流指令値Iq*(モータ駆動電流)を補正する。なお、フィルタ85は抽出した周波数成分の実効値をパワースペクトルSpとして強化ゲイン設定回路824に出力し、強化ゲイン設定回路824はパワースペクトルSpが所定の閾値以上である場合にトルク慣性補償量Iti*を増大させることとしてもよい。
【0047】
上記のように構成された実施例2の装置EPSでは、第1歪センサ71と第2歪センサ72の間にカップリング25を介することにより、一方から他方へ伝達される歪振動の周波数が変化(遅延)する。この変化により、逆入力トルクの成分を特定の周波数成分として抽出する精度が向上する。すなわち、抽出される周波数成分中に正入力トルクの成分が混入した場合でも、位相判断回路84の判断結果を介することで、上記混入した成分を誤って逆入力トルクと判断することが抑制される。よって、電流指令値Iq*(モータ駆動電流)の補正制御の制御精度を向上させることができる。他の作用効果は実施例2と同様である。なお、実施例1のように、第1歪センサ71と第2歪センサ72の間にカップリング25を介さない構成としてもよい。
【0048】
(実施例3の効果)
以下、実施例3から把握される効果を列挙する。
(1)第1歪振動V1または第2歪振動V2のうち逆入力トルクに対応した所定の周波数成分を抽出するフィルタ85を備え、駆動電流補正回路(強化ゲイン設定回路824)は、位相判断回路84が第2歪振動V2の位相が第1歪振動V1の位相よりも進んでいると判断するとき、所定の周波数成分が減少するように電動モータ60の駆動電流を補正する。
よって、路面からの逆入力により発生する操舵機構の振動をより精度良く検出することができる。
【0049】
[実施例4]
実施例4は、実施例2と同様、第1、第2歪センサ71,72をそれぞれカップリング25の上流側と下流側に配置した構成において、第1歪センサ71により操舵トルクτを検出するようにした例を示す。
【0050】
図12は、実施例4の装置EPSのシステム構成図である。第1歪センサ71は、実施例2と同様、第1コラムシャフト20に配置されている。なお、第2コラムシャフト21におけるカップリング25よりも上流側に第1歪センサ71を配置してもよい。第2歪センサ72は、実施例2と異なり、タイロッド4に配置されている。なお、カップリング25よりも下流側であれば任意の位置に配置してよい。また、トーションバー23の捻れ量を検出する磁歪式のトルクセンサ70が省略され、その代わりに、第1歪センサ71が第1コラムシャフト20の歪量に基づき操舵トルクτを検出する。図13に示すように、操舵軸2(第1コラムシャフト20)にトルクが生じる際、軸の両端で回転量に差が発生し、軸にはせん断応力τxyが生じる。第1歪センサ71がせん断応力τxyを歪量として検出することで、操舵軸2(第1コラムシャフト20)に生じるトルク量(操舵トルクτ)を計測することができる。具体的には、第1歪センサ71のホイートストンブリッジ回路712を構成する抵抗712aのみの内部抵抗値がピエゾ抵抗効果に基づき変化し、ダミー抵抗712bの内部抵抗値は変化しないように、歪みの基準となる座標系(図13のxy座標)に対するチップの配置(シリコンの結晶方位と抵抗712a, 712bの配置)を調整する。なお、チップを2枚用いて両者の検出値の組み合わせに基づき操舵トルクτを計測することとしてもよい。また、トルクセンサを構成するチップと第1歪振動V1の検出センサを構成するチップとを、共通化してもよいし、別々に設けてもよい。その他の構成は、実施例2と同様である。
【0051】
実施例4の装置EPSにあっては、トルクセンサ70を省略し、第1歪センサ71により操舵トルクτを検出するようにしたため、装置EPSの構成を簡素化することができる。他の作用効果は実施例2と同様である。
【0052】
[他の実施例]
以上、本発明を実現するための形態を、実施例1〜4に基づいて説明してきたが、本発明の具体的な構成は実施例に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても、本発明に含まれる。
例えば、装置EPSのギヤ機構3はラック&ピニオン型に限らず、例えば可変ギヤ比型であってもよい。また、装置EPSは、モータ60がピニオンシャフトPSの回転に対して補助動力を与えるピニオンアシスト式であるが、これに限らず、例えばラック軸31にモータ60を取付けてこれを駆動し、ラック軸31の移動に対して補助動力を与えるラックアシスト式であってもよい。
実施例では、逆入力応力の印加により操舵機構に生じる振動を抑制するため、ECU8にトルク慣性補償量演算回路821を設けてトルク慣性補償制御を行い、逆入力有りと判断したときにトルク慣性補償制御を強化することとしたが、実施例のようなトルク慣性補償制御を行わず、位相判断結果に基づき基本アシスト量Ias*を直接補正する駆動電流補正回路を設けることとしてもよい。また、例えばインバースフィルタを用いて逆入力トルクのダンピング制御を行うこととしてもよい。
実施例では、歪センサ71,72のアンテナは、外部接続用の電極パッドを不要として信頼性を向上するためにチップ内に内蔵することとしたが、電力(出力)を稼ぐためにチップの外部にアンテナを形成することとしてもよい。また、チップの外部から歪センサ71,72に電力を供給することとしたが、チップ内に電源(蓄電池)を備えることとしてもよい。また、エネルギ供給及びECU8との通信方法としては、アンテナに誘導電磁界を形成する電磁誘導を用いるもののほか、マイクロ波を受信、復調して用いたものや、光を用いてエネルギ供給及び交信を行なうものでもよい。また、無線形式に限らず、スリップリングや固定ハーネス等を用いた有線形式によるものであってもよい。
シリコンの結晶方位と抵抗712a, 712bの配置は、実施例のものに限らず、任意に調整可能である。例えば以下の組み合わせのいずれかであってもよい。
1)抵抗712aをN型不純物拡散層で<100>方向を長手とし、ダミー抵抗712bをP型不純物拡散層で<100>方向を長手とし、2つの抵抗712a及び2つのダミー抵抗712bが平行配置されているもの
2)抵抗712aをN型不純物拡散層で<100>方向を長手とし、ダミー抵抗712bをN型不純物拡散層で形成し、ダミー抵抗712bはV字形状でV字を形成する直線部分の長手方向が<110>方向とされているもの
3)抵抗712aをP型不純物拡散層で、ダミー抵抗712bをN型不純物拡散層で形成し、抵抗712a及びダミー抵抗712bをともに<110>方向を長手とするように形成し、かつ、2つの抵抗712a及び2つのダミー抵抗712bが平行配置されているもの
【符号の説明】
【0053】
1 ステアリングホイール
22 第3コラムシャフト(入力軸)
23 トーションバー
24 ピニオンシャフト(出力軸)
3 ギヤ機構(変換機構)
5 転舵輪
60 電動モータ
71 第1歪センサ
72 第2歪センサ
84 位相判断回路
824 強化ゲイン設定回路(駆動電流補正回路)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングホイールの操舵操作に伴い回転する入力軸と、前記入力軸とトーションバーを介して接続され、前記入力軸の回転が伝達される出力軸と、前記出力軸の回転を転舵輪の転舵動作に変換する変換機構と、から構成される操舵機構と、
前記操舵機構に操舵力を付与する電動モータと、
前記入力軸に設けられ、前記入力軸に生じる歪振動を検出する第1歪センサと、
前記出力軸に設けられ、前記出力軸に生じる歪振動を検出する第2歪センサと、
前記第2歪センサの出力信号である第2歪振動の位相が前記第1歪センサの出力信号である第1歪振動よりも進んでいるか否かを判断する位相判断回路と、
前記位相判断回路が、前記第2歪振動の位相が前記第1歪振動の位相よりも進んでいると判断するとき、路面から前記操舵機構に対して作用する逆入力トルクが作用していると判断し、前記逆入力トルクが低減する方向に前記電動モータの駆動電流を補正する駆動電流補正回路と、
を有することを特徴とするパワーステアリング装置。
【請求項2】
ステアリングホイールの操舵操作に伴い回転する入力軸と、前記入力軸とゴムまたは樹脂によって形成されたカップリングを介して接続され、前記入力軸の回転が伝達される出力軸と、前記出力軸の回転を転舵輪の転舵動作に変換する変換機構と、から構成される操舵機構と、
前記操舵機構に操舵力を付与する電動モータと、
前記入力軸に設けられ、前記入力軸に生じる歪振動を検出する第1歪センサと、
前記出力軸に設けられ、前記出力軸に生じる歪振動を検出する第2歪センサと、
前記第2歪センサの出力信号である第2歪振動の位相が前記第1歪センサの出力信号である第1歪振動よりも進んでいるか否かを判断する位相判断回路と、
前記位相判断回路が、前記第2歪振動の位相が前記第1歪振動の位相よりも進んでいると判断するとき、路面から前記操舵機構に対して作用する逆入力トルクが作用していると判断し、前記逆入力トルクが低減する方向に前記電動モータの駆動電流を補正する駆動電流補正回路と、
を有することを特徴とするパワーステアリング装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のパワーステアリング装置において、
前記位相判断回路は、所定時間内に検出された前記第1歪振動のピーク値と前記第2歪振動のピーク値の位相を比較することにより前記第2歪振動の位相が前記第1歪振動の位相よりも進んでいるか否かを判断することを特徴とするパワーステアリング装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載のパワーステアリング装置において、
前記第1歪センサおよび前記第2歪センサは、前記入力軸および前記出力軸の夫々に作用する外部からの振動によってピエゾ抵抗効果に基づき変化する内部抵抗値の変化に基づき前記第1歪振動および前記第2歪振動を検出することを特徴とするパワーステアリング装置。
【請求項5】
請求項4に記載のパワーステアリング装置において、
前記第1歪センサおよび前記第2歪センサは、所定の電流が供給され、この電流に対する前記内部抵抗値の変化に伴う電圧降下量を検出することにより前記第1歪振動および前記第2歪振動を検出することを特徴とするパワーステアリング装置。
【請求項6】
請求項5に記載のパワーステアリング装置において、
前記第1歪センサおよび前記第2歪センサは、内部に不純物が拡散された拡散抵抗を含むシリコン結晶によって構成されることを特徴とするパワーステアリング装置。
【請求項7】
請求項6に記載のパワーステアリング装置において、
前記シリコン結晶は単結晶であることを特徴とするパワーステアリング装置。
【請求項8】
請求項2に記載のパワーステアリング装置において、
前記第1歪振動または前記第2歪振動のうち前記逆入力トルクに対応した所定の周波数成分を抽出するフィルタを備え、
前記駆動電流補正回路は、前記位相判断回路が前記第2歪振動の位相が前記第1歪振動の位相よりも進んでいると判断するとき、前記所定の周波数成分が減少するように前記電動モータの駆動電流を補正することを特徴とするパワーステアリング装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2013−71689(P2013−71689A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−213668(P2011−213668)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】