車両用サスペンション装置、そのジオメトリ調整方法および自動車
【課題】車両前後方向の力に対するコンプライアンスステア特性をより適切なものとする。
【解決手段】車軸よりも車両上下方向の下側においてホイールハブ機構と車体とを連結し、車軸に沿って配置したトランスバースリンク部材と、車軸よりも車両上下方向の下側においてホイールハブ機構と車体とを連結し、車体との連結部がトランスバースリンク部材と車体との連結部よりも後方に位置すると共に、ホイールハブ機構との連結部がトランスバースリンク部材とホイールハブ機構との連結部よりも前方に位置するコンプレッションリンク部材と、トランスバースリンク部材およびコンプレッションリンク部材のホイールハブ機構との連結部よりも外側においてホイールハブ機構と連結し、該ホイールハブ機構との連結部よりも後側においてステアリングラック部材と連結し、車輪を転舵させるタイロッド部材とを有する車両用サスペンション装置とした。
【解決手段】車軸よりも車両上下方向の下側においてホイールハブ機構と車体とを連結し、車軸に沿って配置したトランスバースリンク部材と、車軸よりも車両上下方向の下側においてホイールハブ機構と車体とを連結し、車体との連結部がトランスバースリンク部材と車体との連結部よりも後方に位置すると共に、ホイールハブ機構との連結部がトランスバースリンク部材とホイールハブ機構との連結部よりも前方に位置するコンプレッションリンク部材と、トランスバースリンク部材およびコンプレッションリンク部材のホイールハブ機構との連結部よりも外側においてホイールハブ機構と連結し、該ホイールハブ機構との連結部よりも後側においてステアリングラック部材と連結し、車輪を転舵させるタイロッド部材とを有する車両用サスペンション装置とした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体を懸架する車両用サスペンション装置、そのジオメトリ調整方法および自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用のサスペンション装置では、キングピン軸の設定によって、目的とするサスペンション性能の実現を図っている。
例えば、特許文献1に記載の技術では、キングピンを構成する上下ピボット点の転舵時における車両前後方向の動きを抑制するリンク配置とすることにより、操縦性・安定性を向上させることとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−126014号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、車両の走行中に転舵を行った場合、走行速度に応じた横力がタイヤ接地点に入力するところ、特許文献1に記載の技術では、この横力による影響を考慮していない。さらに、旋回時に制動を行った場合、横力に加えて車輪に車両前後方向の力(後方向きの力)が作用するところ、その前後力が及ぼすリンクの変化についても考慮する必要がある。即ち、従来の車両用サスペンション装置においては、車両前後方向の力に対するコンプライアンスステア特性において改善の余地があった。
本発明の課題は、車両用サスペンション装置において、車両前後方向の力に対するコンプライアンスステア特性をより適切なものとすることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の課題を解決するため、本発明に係る車両用サスペンション装置は、車軸よりも車両上下方向の下側においてホイールハブ機構と車体とを連結し、車軸に沿って配置したトランスバースリンク部材を備える。また、車体との連結部がトランスバースリンク部材と車体との連結部よりも車両前後方向後方に位置すると共に、ホイールハブ機構との連結部がトランスバースリンク部材とホイールハブ機構との連結部よりも車両前後方向前方に位置するコンプレッションリンク部材を備える。さらに、トランスバースリンク部材およびコンプレッションリンク部材のホイールハブ機構との連結部よりも車両幅方向外側においてホイールハブ機構と連結し、該ホイールハブ機構との連結部よりも車両前後方向後側においてステアリングラック部材と連結し、車輪を転舵させるタイロッド部材を備える。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、車両前後方向の力が支配的な状況において、タイヤ接地点に入力した車両前後方向の後方向きの力に対し、トランスバースリンク部材の車輪側の連結部が車両内向きに移動する。また、タイロッド部材の車輪側の連結部即ちホイールハブ機構との連結部は車体側の連結部即ちステアリングラック部材との連結部を中心に回転して車両外向きに移動する。さらに、コンプレッションリンク部材の車輪側の連結部は車両外向きに移動する。
そのため、車輪をトーアウト方向に向けるコンプライアンスステアを実現することができる。
したがって、車両用サスペンション装置において、車両前後方向の力に対するコンプライアンスステア特性をより適切なものとすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】第1実施形態に係る自動車1の構成を示す概略図である。
【図2】サスペンション装置1Bの構成を模式的に示す斜視図である。
【図3】サスペンション装置1Bの構成を模式的に示す平面図である。
【図4】サスペンション装置1Bの構成を模式的に示す部分正面図および部分側面図である。
【図5】サスペンション装置1Bの構成を模式的に示す(a)部分平面図(左前輪)および(b)タイヤ接地面(右前輪)を示す図である。
【図6】転舵時におけるラックストロークとラック軸力との関係を示す図である。
【図7】転舵時におけるタイヤ接地面中心の軌跡を示す図である。
【図8】キングピン傾角とスクラブ半径とを軸とする座標において、ラック軸力の分布の一例を示す等値線図である。
【図9】サスペンション装置1Bをコンプレッション型のサスペンション装置によって構成した例を示す模式図である。
【図10】ロアリンク部材が交差していないコンプレッション型のサスペンション装置および本発明の場合におけるトー角とスクラブ半径との関係を示す図である。
【図11】キングピン軸の路面着点地点と横力との関係を示すグラフである。
【図12】ポジティブスクラブとした場合のセルフアライニングトルクを説明する概念図である。
【図13】キングピン傾角とスクラブ半径との関係を模式的に示す図である。
【図14】サスペンション装置1Bと比較例とにおける(a)横力コンプライアンスステアおよび(b)横剛性を示す図である。
【図15】サスペンション装置1Bと比較例とにおける前後力コンプライアンスステアを示す図である。
【図16】本発明に適用し得るコントロール/駆動回路の具体的構成を示すブロック図である。
【図17】セルフアライニングトルクを推定するための発生トルク制御マップを示す図である。
【図18】サスペンション装置の特性を示す図であって、(a)はキャスター角と応答性及び安定性との関係を示す図、(b)はキャスタートレイルと横力低減代及び直進性との関係を示す図である。
【図19】転舵応答特性を示す図であって、(a)は車両の応答特性の変化を示す特性線図、(b)は制御特性の切換タイミングを示す図である。
【図20】転舵角制御処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図21】第1の実施形態における転舵制御部の変形例を示すブロック図である。
【図22】第1の実施形態における転舵制御部の他の変形例を示すブロック図である。
【図23】本発明の第2実施形態に係るサスペンション装置1Bの構成を模式的に示す斜視図である。
【図24】サスペンション装置1Bの構成を模式的に示す平面図である。
【図25】サスペンション装置1Bの構成を模式的に示す(a)部分正面図および(b)部分側面図である。
【図26】サスペンション装置1Bの構成を模式的に示す(a)部分平面図(左前輪)および(b)タイヤ接地面(右前輪)を示す図である。
【図27】サスペンション装置1Bをテンション型のサスペンション装置によって構成した例を示す模式図である。
【図28】本発明の第3の実施形態における転舵制御部を示すブロック図である。
【図29】第3の実施形態における転舵角制御処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図30】転舵角制御処理の他の例を示すフローチャートである。
【図31】本発明の第4の実施形態における転舵制御部を示すブロック図である。
【図32】第4の実施形態に適用し得る第1遅延時間算出マップを示す特性線図である。
【図33】第4の実施形態に適用し得る第2遅延時間算出マップを示す特性線図である。
【図34】操舵角速度と車速との関係に基づいて設定される遅延時間を表すグラフである。
【図35】第4の実施形態における転舵角制御処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図36】第4の実施形態の変形例を示す転舵制御部のブロック図である。
【図37】第4の実施形態の他の変形例を示す転舵制御部のブロック図である。
【図38】第4の嫉視形態のさらに他の変形例を示す転舵制御部のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図を参照して本発明を適用した自動車の実施の形態を説明する。
(第1実施形態)
(構成)
図1は、本発明の第1実施形態に係る自動車1の構成を示す概略図である。
図1において、自動車1は、車体1Aと、ステアリングホイール2と、入力側ステアリング軸3と、操舵角センサ4と、操舵トルクセンサ5と、操舵反力アクチュエータ6と、操舵反力アクチュエータ角度センサ7と、転舵アクチュエータ8と、転舵アクチュエータ角度センサ9と、出力側ステアリング軸10と、転舵トルクセンサ11と、ピニオンギア12と、ピニオン角度センサ13と、ステアリングラック部材14と、タイロッド15と、タイロッド軸力センサ16と、車輪17FR,17FL,17RR,17RLと、車両状態パラメータ取得部21と、車輪速センサ24FR,24FL,24RR,24RLと、コントロール/駆動回路ユニット26と、メカニカルバックアップ27とを備えている。
【0009】
ステアリングホイール2は、入力側ステアリング軸3と一体に回転するよう構成され、運転者による操舵入力を入力側ステアリング軸3に伝達する。
入力側ステアリング軸3は、操舵反力アクチュエータ6を備えており、ステアリングホイール2から入力された操舵入力に対し、操舵反力アクチュエータ6による操舵反力を加える。
【0010】
操舵角センサ4は、入力側ステアリング軸3に備えられ、入力側ステアリング軸3の回転角度(即ち、運転者によるステアリングホイール2への操舵入力角度)を検出する。そして、操舵角センサ4は、検出した入力側ステアリング軸3の回転角度をコントロール/駆動回路ユニット26に出力する。
操舵トルクセンサ5は、入力側ステアリング軸3に設置してあり、入力側ステアリング軸3の回転トルク(即ち、ステアリングホイール2への操舵入力トルク)を検出する。そして、操舵トルクセンサ5は、検出した入力側ステアリング軸3の回転トルクをコントロール/駆動回路ユニット26に出力する。
【0011】
操舵反力アクチュエータ6は、モータ軸と一体に回転するギアが入力側ステアリング軸3の一部に形成されたギアに噛合しており、コントロール/駆動回路ユニット26の指示に従って、ステアリングホイール2による入力側ステアリング軸3の回転に対して反力を付与する。
操舵反力アクチュエータ角度センサ7は、操舵反力アクチュエータ6の回転角度(即ち、操舵反力アクチュエータ6に伝達した操舵入力による回転角度)を検出し、検出した回転角度をコントロール/駆動回路ユニット26に出力する。
【0012】
転舵アクチュエータ8は、モータ軸と一体に回転するギアが出力側ステアリング軸10の一部に形成されたギアに噛合しており、コントロール/駆動回路ユニット26の指示に従って、出力側ステアリング軸10を回転させる。
転舵アクチュエータ角度センサ9は、転舵アクチュエータ8の回転角度(即ち、転舵アクチュエータ8が出力した転舵のための回転角度)を検出し、検出した回転角度をコントロール/駆動回路ユニット26に出力する。
【0013】
出力側ステアリング軸10は、転舵アクチュエータ8を備えており、転舵アクチュエータ8が入力した回転をピニオンギア12に伝達する。
転舵トルクセンサ11は、出力側ステアリング軸10に設置してあり、出力側ステアリング軸10の回転トルク(即ち、ステアリングラック部材14を介した車輪17FR,17FLの転舵トルク)を検出する。そして、転舵トルクセンサ11は、検出した出力側ステアリング軸10の回転トルクをコントロール/駆動回路ユニット26に出力する。
【0014】
ピニオンギア12は、例えばラック軸で構成されるステアリングラック部材14に形成した平歯と噛合しており、出力側ステアリング軸10から入力した回転をステアリングラック部材14に伝達する。
ピニオン角度センサ13は、ピニオンギア12の回転角度(即ち、ステアリングラック部材14を介して出力される車輪17FR,17FLの転舵角度)を検出し、検出したピニオンギア12の回転角度をコントロール/駆動回路ユニット26に出力する。
【0015】
ステアリングラック部材14は、ピニオンギア12と噛合する平歯を有し、ピニオンギア12の回転を車幅方向の直線運動に変換する。本実施形態において、ステアリングラック部材14は、前輪の車軸よりも車両前方側に位置している。
タイロッド15は、ステアリングラック部材14の両端部と車輪17FR,17FLのナックルアームとを、ボールジョイントを介してそれぞれ連結している。
【0016】
タイロッド軸力センサ16は、ステアリングラック部材14の両端部に設置されたタイロッド15それぞれに設置してあり、タイロッド15に作用している軸力を検出する。そして、タイロッド軸力センサ16は、検出したタイロッド15の軸力をコントロール/駆動回路ユニット26に出力する。
ここで、操舵反力アクチュエータ6、転舵アクチュエータ8、ピニオンギヤ12、ステアリングラック部材14、タイロッド15、コントロール/駆動回路26でステアバイワイヤシステムSWBが構成されている。
【0017】
車輪17FR,17FL,17RR,17RLは、タイヤホイールにタイヤを取り付けて構成したものであり、サスペンション装置1Bを介して車体1Aに設置してある。これらのうち、前輪(車輪17FR,17FL)は、ステアバイワイヤシステムSWBを構成するタイロッド15によってナックルアームが揺動することにより、車体1Aに対する車輪17FR,17FLの向きが変化する。
【0018】
車両状態パラメータ取得部21は、車輪速センサ24FR,24FL,24RR,24RLから出力される車輪の回転速度を示すパルス信号を基に車速を取得する。また、車両状態パラメータ取得部21は、車速と各車輪の回転速度とを基に、各車輪のスリップ率を取得する。そして、車両状態パラメータ取得部21は、取得した各パラメータをコントロール/駆動回路ユニット26に出力する。
【0019】
車輪速センサ24FR,24FL,24RR,24RLは、各車輪の回転速度を示すパルス信号を、車両状態パラメータ取得部21およびコントロール/駆動回路ユニット26に出力する。
コントロール/駆動回路ユニット26は、自動車1全体を制御するものであり、各部に設置したセンサから入力する信号を基に、入力側ステアリング軸3の操舵反力、前輪の転舵角、あるいはメカニカルバックアップ27の連結について、各種制御信号を、操舵反力アクチュエータ6、転舵アクチュエータ8、あるいはメカニカルバックアップ27等に出力する。
【0020】
また、コントロール/駆動回路ユニット26は、各センサによる検出値を使用目的に応じた値に換算する。例えば、コントロール/駆動回路ユニット26は、操舵反力アクチュエータ角度センサ7によって検出された回転角度を操舵入力角度に換算したり、転舵アクチュエータ角度センサ9によって検出された回転角度を車輪の転舵角に換算したり、ピニオン角度センサ13によって検出されたピニオンギア12の回転角度を車輪の転舵角に換算したりする。
【0021】
なお、コントロール/駆動回路ユニット26は、操舵角センサ4によって検出された入力側ステアリング軸3の回転角度、操舵反力アクチュエータ角度センサ7によって検出された操舵反力アクチュエータ6の回転角度、転舵アクチュエータ角度センサ9によって検出された転舵アクチュエータ8の回転角度、および、ピニオン角度センサ13によって検出されたピニオンギア12の回転角度を監視し、これらの関係を基に、操舵系統におけるフェールの発生を検出することができる。そして、操舵系統におけるフェールを検出すると、コントロール/駆動回路ユニット26は、メカニカルバックアップ27に対し、入力側ステアリング軸3と出力側ステアリング軸10とを連結させる指示信号を出力する。
【0022】
メカニカルバックアップ27は、コントロール/駆動回路ユニット26の指示に従って、入力側ステアリング軸3と出力側ステアリング軸10とを連結し、入力側ステアリング軸3から出力側ステアリング軸10への力の伝達を確保する機構である。ここで、メカニカルバックアップ27に対しては、通常時には、コントロール/駆動回路ユニット26から、入力側ステアリング軸3と出力側ステアリング軸10とを連結しない状態を指示している。そして、操舵系統におけるフェールの発生により、操舵角センサ4、操舵トルクセンサ5および転舵アクチュエータ8等を介することなく操舵操作を行う必要が生じた場合に、入力側ステアリング軸3と出力側ステアリング軸10とを連結させる指示が入力する。
なお、メカニカルバックアップ27は、例えばケーブル式ステアリング機構等によって構成することができる。
【0023】
図2は、第1実施形態に係るサスペンション装置1Bの構成を模式的に示す斜視図である。図3は、図2のサスペンション装置1Bの構成を模式的に示す平面図である。図4は、図2のサスペンション装置1Bの構成を模式的に示す(a)部分正面図および(b)部分側面図である。図5は、図2のサスペンション装置1Bの構成を模式的に示す(a)部分平面図(左前輪)および(b)タイヤ接地面(右前輪)を示す図である。
【0024】
図2から図5に示すように、サスペンション装置1Bは、ホイールハブ機構WHに取り付けられた車輪17FR,17FLを懸架するコンプレッション型のサスペンション装置であり、車輪17FR,17FLを回転自在に支持する車軸(アクスル)32を有するアクスルキャリア33、車体側の支持部から車体幅方向に配置されてアクスルキャリア33に連結する複数のリンク部材、及びコイルスプリング等のバネ部材34を備えている。
【0025】
複数のリンク部材は、ロアリンク部材であるトランスバースリンク(トランスバースリンク部材)37とコンプレッションリンク(コンプレッションリンク部材)38、タイロッド(タイロッド部材)15、および、ストラット(バネ部材34およびショックアブソーバ40)から構成されている。本実施形態において、サスペンション装置1Bはストラット式のサスペンションであり、バネ部材34およびショックアブソーバ40が一体となったストラットの上端が、車軸32より上方に位置する車体側の支持部に連結する(以下、ストラットの上端を適宜「アッパーピボット点」と称する。)。
【0026】
ロアリンクを構成するトランスバースリンク37とコンプレッションリンク38は、車軸32より下方に位置する車体側の支持部とアクスルキャリア33の下端とを連結する。本実施形態において、トランスバースリンク37とコンプレッションリンク38とは、独立した部材からなるIアームとなっている。これらトランスバースリンク37およびコンプレッションリンク38は、車体側と各1箇所の支持部で連結し、車軸32側と各1箇所の取り付け部で連結している。さらに、本実施形態におけるトランスバースリンク37とコンプレッションリンク38とは、互いに交差した状態で車体1Aと車軸32側(アクスルキャリア33)とを連結する(以下、トランスバースリンク37とコンプレッションリンク38とが構成する仮想リンクの交点を適宜「ロアピボット点」と称する。)。
【0027】
これらロアリンクのうち、トランスバースリンク37は、車軸と略平行に設置してあり、車両上面視において、トランスバースリンク37の車輪側支持点Taは、車輪中心(車軸)よりも車両前後方向後側となっている。また、コンプレッションリンク38は、トランスバースリンク37よりも車軸に対して傾斜(車輪側支持点がより前側、車体側支持点がより後側となる向きに配置)させて設置してある。そして、コンプレッションリンク38の車輪側支持点Caは、車輪中心よりも車両前後方向前側となっている。また、トランスバースリンク37の車体側支持点Tbは、コンプレッションリンク38の車輪側支持点Caよりも車両前後方向後側となっている。また、コンプレッションリンク38の車体側支持点Cbは、トランスバースリンク37の車輪側支持点Taよりも車両前後方向後側となっている。
【0028】
このようなリンク配置とした場合、図5(b)に示すように、転舵時にタイヤ接地中心点(着力点)Oに車体の旋回外側に向かう遠心力が作用したときに、この遠心力に抗するように旋回中心に向かう横力を主にトランスバースリンク37に受け持たせることができる。また、上記リンク配置では、トランスバースリンク37の車体側支持点Tbを車輪中心よりも車両前後方向前側に位置させている。そのため、車輪に横力(車両内向きの力)が入力したとき、トランスバースリンク37の車輪側支持点Taは車両内向きに移動し、コンプレッションリンク38の車輪側支持点Caは車両外向きに移動する。したがって、入力する横力に対して、車輪をトーアウト方向に向けるコンプライアンスステアを実現することができる。即ち、車両の横方向コンプライアンスステアを確保することができる。
【0029】
タイロッド15は、車軸32の下側に位置して、ステアリングラック部材14とアクスルキャリア33を連結し、ステアリングラック部材14は、ステアリングホイール2から入力した回転力(操舵力)を伝達して転舵用の軸力を発生させる。従って、タイロッド15により、ステアリングホイール2の回転に応じてアクスルキャリア33に車幅方向の軸力が加わり、アクスルキャリア33を介して車輪17FR,17FLを転舵する。
【0030】
本実施形態に係るサスペンション装置1Bでは、車両上面視において、タイロッド15の車輪側(アクスルキャリア33側)の支持点Xaがトランスバースリンク37およびコンプレッションリンク38の車輪側支持点Ta,Caよりも車両幅方向外側に位置している。また、タイロッド15の車体側支持点Xb(ボールジョイント位置)が車輪側支持点Xaよりも車両前後方向後側に位置している。なお、上述の通り、コンプレッションリンク38の車輪側支持点Caが車輪中心よりも車両前後方向前側、トランスバースリンク37の車輪側支持点Taが車輪中心よりも車両前後方向後側に位置している。また、トランスバースリンク37の車体側支持点Taがコンプレッションリンク38の車輪側支持点Caよりも車両前後方向後側、コンプレッションリンク38の車体側支持点Cbがトランスバースリンク37の車輪側支持点Taよりも車両前後方向後側に位置している。
【0031】
このようなリンク配置としたため、車両前後方向の力が支配的な状況(比較的強い制動を行っている旋回制動時等)において、タイヤ接地点に入力した車両前後方向の力(車両後方向きの力)に対し、タイロッド15の車輪側支持点Xaは車体側支持点Xbを中心に回転して車両外向きに移動し、コンプレッションリンク38の車輪側支持点Caは車両外向きに移動する。また、トランスバースリンク37の車輪側支持点Taは車両内向きに移動する。そのため、車輪をトーアウト方向に向けるコンプライアンスステアを実現することができる。即ち、車両の前後方向コンプライアンスステアを確保することができる。
【0032】
本願発明においては、図5(b)に示すように、ステアリングホイール2が中立位置にある状態で、上記サスペンション装置1Bのキングピン軸KSがタイヤ接地面内を通り、キャスタートレイルがタイヤ接地面内を通るよう設定している。より具体的には、本実施形態におけるサスペンション装置1Bでは、キャスター角をゼロに近い値とし、キャスタートレイルがゼロに近づくようにキングピン軸を設定している。これにより、転舵時のタイヤ捻りトルクを低減でき、キングピン軸周りのモーメントをより小さくすることができる。また、スクラブ半径はゼロ以上のポジティブスクラブとしている。これにより、転舵時のタイヤ横滑り角に対し、スクラブ半径分のキャスタートレイルが生じることから、直進性を確保することができる。
【0033】
また、本願発明においては、ロアリンク部材であるトランスバースリンク37およびコンプレッションリンク38は、互いに交差した状態で車体1Aと車軸32側(アクスルキャリア33下端)を連結している。これにより、トランスバースリンク37およびコンプレッションリンク38が交差していない構造に比べて、キングピン傾角を小さくすることができると共に、スクラブ半径をポジティブスクラブ側に大きくすることができる。そのため、転舵時のタイヤ捻りトルクを小さくでき、転舵に要するラック軸力を低減できる。さらに、本願発明においては、転舵時に車輪に働く横力によって、仮想ロアピボット点が車体内側に移動するため、セルフアライニングトルク(SAT)による直進性を高めることができる。
【0034】
以下、サスペンション装置1Bにおけるサスペンションジオメトリについて詳細に検討する。
(ラック軸力成分の分析)
図6は、転舵時におけるラックストロークとラック軸力との関係を示す図である。
図6に示すように、ラック軸力成分には、主にタイヤの捻りトルクと、車輪の持ち上げトルクとが含まれ、これらのうち、タイヤの捻りトルクが支配的である。
したがって、タイヤの捻りトルクを小さくすることで、ラック軸力を低減することができることとなる。
【0035】
(タイヤの捻りトルク最小化)
図7は、転舵時におけるタイヤ接地面中心の軌跡を示す図である。
図7においては、転舵時におけるタイヤ接地面中心の移動量が大きい場合と小さい場合とを併せて示している。
上記ラック軸力成分の分析結果より、ラック軸力を低減するためには、転舵時のタイヤ捻りトルクを最小化することが有効である。
転舵時のタイヤ捻りトルクを最小化するためには、図7に示すように、タイヤ接地面中心の軌跡をより小さくすれば良い。
即ち、タイヤ接地面中心とキングピン接地点を一致させることで、タイヤ捩りトルクを最小化できる。
具体的には、キャスタートレイル0mm、スクラブ半径0mm以上とすることが有効である。
【0036】
(キングピン傾角の影響)
図8は、キングピン傾角とスクラブ半径とを軸とする座標において、ラック軸力の分布の一例を示す等値線図である。
図8においては、ラック軸力が小、中および大の3つの場合における等値線を例として示している。
タイヤ捻りトルク入力に対し、キングピン傾角が大きくなるほど、その回転モーメントが大きくなり、ラック軸力は大きくなる。したがって、キングピン傾角としては、一定の値より小さく設定することが望まれるが、スクラブ半径との関係から、例えばキングピン傾角15度以下とすると、ラック軸力を望ましいレベルまで小さくすることができる。
【0037】
なお、図8における一点鎖線(境界線)で囲んだ領域は、旋回の限界領域において、横力が摩擦の限界を超える値と推定できるキングピン傾角15度より小さく、かつ、上記タイヤ捻りトルクの観点から、スクラブ半径が0mm以上の領域を示している。本実施形態では、この領域(横軸においてキングピン傾角が15度より減少する方向で、縦軸においてスクラブ半径がゼロより増加する方向)を、より設定に適した領域としている。ただし、スクラブ半径が負の領域であっても、他の条件を本実施形態で示すものとすることで、一定の効果を得るものとなる。
【0038】
具体的にスクラブ半径とキングピン傾角とを決定する場合には、例えば、図8に示すラック軸力の分布を示す等値線をn次曲線(nは2以上の整数)として近似し、上記一点鎖線で囲んだ領域の中から、n次曲線の変曲点(またはピーク値)の位置によって定めた値を採用することができる。
【0039】
(サスペンション装置の具体的構成例)
次に、サスペンション装置1Bを実現する具体的な構成例について説明する。
図9は、サスペンション装置1Bをコンプレッション型のサスペンション装置によって構成した例を示す模式図である。
即ち、図9に示す例では、車両上面視でトランスバースリンク37(テンションロッド)が車軸に沿い、コンプレッションリンク38(コンプレッションロッド)が車軸から後方に延びた位置で車体と連結している。
【0040】
図9に示すように、コンプレッション型のサスペンション装置において、ロアリンク部材を互いに交差させたダブルピボット方式とした場合、各ロアリンク部材は、車体側支持点を中心に車両前方に回転することで旋回外輪としての転舵が可能となる(破線の状態)。このとき、仮想ロアピボット点は、ロアリンク部材が交差する点となるが、ロアリンク部材が交差していないサスペンション形式よりも車体内側に仮想ロアピボット点を形成できるため、初期スクラブ半径をポジティブスクラブ方向に大きくできる。
【0041】
図9に示すコンプレッション型のサスペンション装置では、転舵時におけるコンプレッションロッドの回転角が大きいため、仮想ロアピボット点は車体内側に移動する。この場合、車両上面視において、タイヤ前後方向におけるタイヤ中心線から仮想ロアピボット点までの距離に着目すると、仮想ロアピボット点がタイヤ中心線よりも車体内側方向に移動するため、スクラブ半径はポジティブスクラブ方向に大きくなる。したがって、コンプレッション型のサスペンション装置では、本発明を適用すると、旋回外輪としての転舵を行うことにより、ラック軸力は小さくなる。
【0042】
ちなみに、ロアリンク部材が交差していないコンプレッション型のサスペンション装置の場合、転舵時におけるコンプレッションロッドの回転角が大きいため、仮想ロアピボット点は車体外側に移動する。この場合、車両上面視において、タイヤ前後方向におけるタイヤ中心線から仮想ピボット点までの距離が、タイヤ中心線よりも車両外側に位置しているため、スクラブ半径は、ネガティブスクラブ方向に大きくなる。したがって、転舵を行うことにより、ラック軸力は大きくなる。
また、図9に示す例では、車両上面視において、転舵時に車輪中心は旋回内側に移動する。そのため、本実施形態の図5に示すように、ラック軸14を車軸より前に位置させることで、ラック軸力を低減させる効果をさらに高めることができる。
【0043】
図10は、ロアリンク部材が交差していないコンプレッション型のサスペンション装置および本発明の場合におけるトー角とスクラブ半径との関係を示す図である。
図10に示すように、本発明の場合、ロアリンク部材を交差させていない場合に比べて、中立位置(トー角が0)付近でのスクラブ半径をより大きくできる。また、旋回外輪となる転舵角が大きくなる方向(図10における−方向)では、スクラブ半径がより大きくなり、ラック軸力をより小さくできる。
【0044】
また、キャスター角を0度とすることは、サスペンション剛性を向上させることができ、また、キャスタートレイル0mmとすることは、キングピン軸KSの路面着地点と横力との関係を示す図11において符号3で示すように、キングピン軸KSの路面着地点がタイヤ接地面におけるタイヤ接地中心点(着力点)Oに一致させることを意味し、これにより大きな横力低減効果を向上させることができる。なお、タイヤ接地中心点(着力点)Oを含むタイヤ接地面内のキングピン軸KSの接地点が符号2及び符号4である場合にも、キングピン軸KSの接地点が符号1及び符号5で示すようにタイヤ接地面から前後方向に外れた位置とする場合に比較して横力を小さくすることができる。特に、キングピン軸KSの接地点がタイヤ接地中心点(着力点)より車両前方側とした場合の方がタイヤ接地中心点(着力点)より車両後方とした場合に比較して横力を小さく抑制することができる。
【0045】
(ポジティブスクラブによる直進性確保)
図12は、ポジティブスクラブとした場合のセルフアライニングトルクを説明する概念図である。この図12において、転舵時にタイヤ接地中心点(着力点)Oに車体の旋回外側に向かう遠心力が作用すると、この遠心力に抗するように旋回中心に向かう横力が発生する。なお、βは横すべり角である。
【0046】
図12に示すように、タイヤに働く復元力(セルフアライニングトルク)は、キャスタートレイル、ニューマチックトレイルの和に比例して大きくなる。
ここで、ポジティブスクラブの場合、キングピン軸の接地点から、タイヤ接地中心を通るタイヤの横すべり角β方向の直線に下ろした垂線の足の位置によって定まるホイールセンタからの距離εc(図12参照)をキャスタートレイルとみなすことができる。
そのため、ポジティブスクラブのスクラブ半径が大きければ大きいほど、転舵時にタイヤに働く復元力は大きくなる。
【0047】
本実施形態においては、キングピン軸の設定をポジティブスクラブとすると共に、ロアリンク部材を交差させない場合に比べて、初期スクラブ半径を大きく確保できることで、キャスター角を0に近づけることによる直進性への影響を低減するものである。また、ステアバイワイヤ方式を採用していることから、転舵アクチュエータ8によって最終的に目的とする直進性を確保することができる。
【0048】
(サスペンション装置の作用)
次に、本実施形態に係るサスペンション装置1Bの作用について説明する。
本実施形態に係るサスペンション装置1Bでは、2つのロアリンク部材をIアームとしている。そして、トランスバースリンク37をアクスルキャリア33から車幅方向に沿って設置し、コンプレッションリンク38をトランスバースリンク37と交差する状態で、アクスルキャリア33の下端から車両後方側に斜行させて設置している。具体的には、トランスバースリンク37の車輪側支持点Taは、車輪中心よりも車両前後方向後側、コンプレッションリンク38の車輪側支持点Caは、車輪中心よりも車両前後方向前側となっている。また、トランスバースリンク37の車体側支持点Tbは、コンプレッションリンク38の車輪側支持点Caよりも車両前後方向後側、コンプレッションリンク38の車体側支持点Cbは、トランスバースリンク37の車輪側支持点Taよりも車両前後方向後側となっている。
【0049】
上記サスペンション構造とした場合、操舵時等に車輪に入力する横力をトランスバースリンク37により多く負担させることができる。また、旋回外輪となったときに、車両内向きの横力が入力した場合、トランスバースリンク37が車両内側、コンプレッションリンク38が車両外側に回転することにより、入力する横力に対して、車輪にトーアウト特性を持たせることができる。
【0050】
また、サスペンション装置1Bでは、車両上面視において、タイロッド15の車輪側支持点Xaがトランスバースリンク37およびコンプレッションリンク38の車輪側支持点Ta,Caよりも車両幅方向外側に位置している。また、タイロッド15の車体側支持点Xb(ボールジョイント位置)が車輪側支持点Xaよりも車両前後方向後側に位置している。
【0051】
上記サスペンション構造とした場合、車両前後方向の力が支配的な状況において、タイヤ接地点に入力した車両前後方向の力(車両後方向きの力)に対し、トランスバースリンク37の車輪側支持点Taは車両内向きに移動する。また、タイロッド15の車輪側支持点Xaは車体側支持点Xbを中心に回転して車両外向きに移動し、コンプレッションリンク38の車輪側支持点Caは車両外向きに移動する。そのため、入力する車両後方向きの力に対して、車輪をトーアウト方向に向けるコンプライアンスステアを実現することができる。
【0052】
また、上記サスペンション構造において、各ロアリンク部材について車体側支持点と車輪側支持点とを結ぶ直線を仮想する。すると、それら直線の交点が、ロアリンクの仮想ロアピボット点となる。この仮想ロアピボット点と、ストラット上端によって構成されるアッパーピボット点とを結ぶ直線がキングピン軸となる。
本実施形態では、このキングピン軸をキャスタートレイルがタイヤ接地面内に位置する設定としている。
【0053】
例えば、キングピン軸の設定を、キャスター角0度、キャスタートレイル0mm、スクラブ半径0mm以上のポジティブスクラブとしている。また、キングピン傾角については、スクラブ半径をポジティブスクラブとできる範囲で、より小さい角度となる範囲(例えば15度以下)で設定する。
このようなサスペンションジオメトリとすることにより、転舵時におけるタイヤ接地面中心の軌跡がより小さいものとなり、タイヤ捻りトルクを低減できる。
【0054】
そのため、ラック軸力をより小さいものとできることから、キングピン軸周りのモーメントをより小さくでき、転舵アクチュエータ8の出力を低減することができる。また、より小さい力で車輪の向きを制御できる。即ち、操縦性・安定性の向上を図ることができる。
本実施形態におけるサスペンション装置1Bでは、2つのロアリンク部材を交差させて設置しているため、仮想ロアピボット点をタイヤ接地面中心よりも車体内側に配置し易い構造となっている。
【0055】
そのため、キングピン傾角を0度に近づけ易くなるとともに、スクラブ半径をポジティブスクラブ側に大きく取ることが容易となる。
また、キャスター角を0度、キャスタートレイルを0mmとしたことに伴い、サスペンション構造上の直進性に影響が生じる可能性があるところ、ポジティブスクラブに設定することにより、その影響を軽減している。さらに、転舵アクチュエータ8による制御と併せて、直進性を確保している。即ち、操縦性・安定性の向上を図ることができる。
【0056】
また、キングピン傾角を一定の範囲に制限したことに対しては、転舵アクチュエータ8での転舵を行うところ、運転者が操舵操作に重さを感じることを回避できる。また、路面からの外力によるキックバックについても、転舵アクチュエータ8によって外力に対抗できるため、運転者への影響を回避できる。即ち、操縦性・安定性の向上を図ることができる。
【0057】
以上のように、本実施形態に係るサスペンション装置1Bでは、トランスバースリンク37を車軸と略平行に設置し、車両上面視において、コンプレッションリンク38をトランスバースリンク37と交差させて配置した。そのため、仮想ロアピボット点を車幅方向において車体内側に近づけることができる。そして、この仮想ロアピボット点が定義するキングピン軸をキングピン傾角が小さいものとし、タイヤ接地面内にキャスタートレイルが位置する設定としたため、キングピン軸周りのモーメントをより小さくすることができる。
【0058】
したがって、より小さいラック軸力で転舵を行うことができると共に、より小さい力で車輪の向きを制御できるため、操縦性・安定性を向上させることができる。
また、キングピン軸周りのモーメントをより小さくすることができる結果、ステアリングラック部材14およびタイロッド15に加わる負荷を低減でき、部材を簡素化することができる。
【0059】
また、ステアバイワイヤを実現するための転舵アクチュエータ8として、駆動能力のより低いものを用いることができ、車両の低コスト化および軽量化を図ることができる。
例えば、従来のステアバイワイヤ方式のサスペンション装置と比較した場合、本発明の構成では、主にロアリンク部材の簡素化と転舵アクチュエータ8の小型化によって、重量において約10%、コストにおいて約50%を低減することができる。
【0060】
また、転舵時においてキャスタートレイルが増加する構造であるため、高い横加速度が発生する旋回において、転舵角の切れ増しが生ずることを抑制できる。
また、転舵時に車輪に働く横力によって、仮想ロアピボット点が車体内側に移動するため、スクラブ半径が増大し、セルフアライニングトルク(SAT)による直進性を高めることができる。
さらに、ロアリンク部材を交差させて設置することにより、ロアリンク部材の支持点を車輪中心に近い位置とできるため、アクスルキャリア33の重量を低減することができる。
【0061】
図13は、本発明におけるキングピン傾角とスクラブ半径との関係を模式的に示す図である。なお、図13においては、本発明を上記コンプレッション型とした場合に加え、本発明をテンション型とした場合、比較例として、ロアリンク部材を交差させない構造のコンプレッション型およびテンション型(第2実施形態参照)とした場合、さらに、シングルピボット方式とした場合を併せて示している。
【0062】
図13に示すように、本発明をコンプレッション型およびテンション型として実現した場合、シングルピボット方式およびロアリンク部材を交差させないダブルピボット方式の各方式に比べ、キングピン傾角を0度に近いものとできると共に、スクラブ半径をポジティブスクラブ側により大きくすることが可能となっている。
特に、本発明をコンプレッション型として実現すると、キングピン傾角を0度に近づける効果、および、スクラブ半径をポジティブスクラブ側により大きくする効果という点で、より高い効果を奏するものとなる。
【0063】
また、本発明においては、トランスバースリンク37を、車軸と略平行に設置し、車両上面視において、トランスバースリンク37の車輪側支持点Taを、車輪中心よりも車両前後方向後側としている。また、コンプレッションリンク38を、トランスバースリンク37よりも車軸に対して傾斜(車輪側支持点がより前側、車体側支持点がより後側となる向きに配置)させて設置している。そして、コンプレッションリンク38の車輪側支持点Caを、車輪中心よりも車両前後方向前側としている。また、トランスバースリンク37の車体側支持点Tbを、コンプレッションリンク38の車輪側支持点Caよりも車両前後方向後側としている。また、コンプレッションリンク38の車体側支持点Cbを、トランスバースリンク37の車輪側支持点Taよりも車両前後方向後側としている。
【0064】
このようなリンク配置とした場合、車輪に入力する横力を主にトランスバースリンク37に受け持たせることができる。また、上記リンク配置では、トランスバースリンク37の車体側支持点Tbを車輪中心よりも車両前後方向前側に位置させている。そのため、車輪に横力(車両内向きの力)が入力したとき、トランスバースリンク37の車輪側支持点Taは車両内向きに移動し、コンプレッションリンク38の車輪側支持点Caは車両外向きに移動する。したがって、入力する横力に対して、車輪をトーアウト方向に向けるコンプライアンスステアを実現することができる。
【0065】
また、本発明においては、タイロッド15の車輪側の支持点Xaがトランスバースリンク37およびコンプレッションリンク38の車輪側支持点Ta,Caよりも車両幅方向外側に位置している。また、タイロッド15の車体側支持点Xbが車輪側支持点Xaよりも車両前後方向後側に位置している。
【0066】
このようなリンク配置とした場合、車両前後方向の力が支配的な状況において、タイヤ接地点に入力した車両前後方向の力(車両後方向きの力)に対し、トランスバースリンク37の車輪側支持点Taは車両内向きに移動する。また、タイロッド15の車輪側支持点Xaは車体側支持点Xbを中心に回転して車両外向きに移動し、コンプレッションリンク38の車輪側支持点Caは車両外向きに移動する。そのため、車輪をトーアウト方向に向けるコンプライアンスステアを実現することができる。
したがって、本発明によれば、車両用サスペンション装置において、車両前後方向の力に対するコンプライアンスステア特性をより適切なものとすることが可能となる。
【0067】
図14は、本発明に係るサスペンション装置1Bと比較例とにおける(a)横力コンプライアンスステアおよび(b)横剛性を示す図である。
図14において、比較例として、ロアリンク部材が交差していないコンプレッション型のサスペンションを想定している。
図14に示すように、本発明に係るサスペンション装置1Bの構成とした場合(図14中の実線)、比較例(図14中の破線)に対し、横力コンプライアンスステアは35%向上し、横剛性は29%向上している。
【0068】
また、図15は、本発明に係るサスペンション装置1Bと比較例とにおける前後力コンプライアンスステアを示す図である。
図15において、比較例として、ロアリンク部材が交差していないコンプレッション型のサスペンションを想定している。
図15に示すように、本発明に係るサスペンション装置1Bの構成とした場合(図15中の実線)、比較例(図14中の破線)に対し、前後力コンプライアンスステアは28%向上している。
なお、本実施形態において、車輪17FR,17FL,17RR,17RLがタイヤホイール、タイヤおよびホイールハブ機構WHに対応し、トランスバースリンク37がトランスバースリンク部材に対応し、コンプレッションリンク38がコンプレッションリンク部材に対応する。また、タイロッド15がタイロッドに対応する。
【0069】
(コントロール/駆動回路の具体的構成例)
次に、コントロール/駆動装置26を実現する具体的な構成例を図16〜図19について説明する。
コントロール/駆動装置26は、図16に示すように、転舵制御装置50を備えている。この転舵制御装置50は、、目標転舵角演算部51、転舵角制御部52、直進性補完部53、外乱補償部54、遅延制御部56、転舵角偏差演算部58、転舵モータ制御部59、電流偏差演算部60及びモータ電流制御部62を備えている。
目標転舵角演算部51は、車速V及び操舵角センサ4で検出した操舵角θsが入力され、これらに基づいて目標転舵角δ*を算出する。
【0070】
転舵角制御部52は、コンプライアンスステアによる転舵輪17FL及び17FRの舵角の変化量Δfl及びΔfrを算出する。これら変化量Δfl及びΔfrは、左右の駆動輪である転舵輪17FL及び17FRの駆動力を配分制御する駆動力制御装置71から出力される左右輪の駆動力TL及びTRとロアリンク37及び38のブッシュの撓みに応じたコンプライアンスステア係数afとに基づいて下記(1)式及び(2)式の演算を行うことにより算出する。そして、算出した変位量Δfl及びΔfrの変位量差を算出して転舵角制御値としてのコンプライアンスステア制御値Ac(=Δfl−Δfr)を算出する。
Δfl=af・TL …………(1)
Δfr=af・TR …………(2)
【0071】
直進性補完部53は、駆動輪駆動力を配分制御する駆動力制御装置71から出力されるからの左右輪の駆動力TL及びTRが入力されると共に、操舵トルクセンサ5で検出された操舵トルクTsが入力され、これらに基づいてセルフアライニングトルクTsaを算出し、算出したセルフアライニングトルクTsaに所定舵角補正ゲインKsaを乗算して直進性担保値としてのセルフアライニングトルク制御値Asa(=Ksa・Tsa)を算出する。
ここで、直進性補完部53におけるセルフアライニングトルクTsaの算出は、先ず、左右輪の駆動力TR及びTLの駆動力差ΔT(=TL−TR)を算出し、算出した駆動力差ΔTをもとに図17に示す発生トルク推定制御マップを参照して、トルクステア現象で転舵時に発生する発生トルクThを推定する。
【0072】
発生トルク推定制御マップは、スクラブ半径が正である、すなわちポジティブスクラブである車両用に設定されている。この発生トルク推定制御マップは、図17に示すように、横軸に駆動力差ΔTを、縦軸に発生トルクThをそれぞれとり、駆動力差ΔTが零から正方向に増加する、すなわち、左輪駆動力TLが右輪駆動力TRを上回って増加するときには、これに比例して発生トルクThが零から車両を右旋回させる方向(正方向)に増加するように設定されている。一方、駆動力差ΔTが零から負方向に増加する、すなわち右輪駆動力TRが左輪駆動力TLを上回って増加するときには、これに比例して発生トルクThが零から車両を左旋回させる方向(負方向)に増加するように設定されている。
【0073】
そして、直進性補完部53では、操舵トルクセンサ5で検出した操舵トルクTsから発生トルクThを減じてセルフアライニングトルクTsaを算出する。
なお、セルフアライニングトルクTsaの算出は、上述したように左右の駆動力差ΔTに基づいて算出する場合に限らず、左右の制動力差に基づいて同様に算出することができる。
【0074】
また、セルフアライニングトルクTsaの算出は、車両のヨーレートγを検出するヨーレートセンサ及び車両の横加速度Gyを検出する横加速度センサを設け、車両の運動方程式に基づいてヨーレートの微分値と横加速度Gyとに基づいて横力Fyを算出し、この横力Fyにニューマチックトレイルεnを乗算することにより、算出することができる。
さらには、ステアリングホイール2の操舵角θsと、セルフアライニングトルクTsaとの関係を車速Vをパラメータとして実測するか又はシミュレーションによって算出した制御マップを参照して操舵角センサ4で検出した操舵角θsと車速Vとに基づいてセルフアライニングトルクTsaを算出することもできる。
【0075】
外乱補償部54は、操舵トルクセンサ5からの操舵トルクTs、転舵アクチュエータ回転角度センサ9からの回転角θmo、及びモータ電流検出部61からのモータ電流imrが入力され、車両に入力される外乱を周波数帯域毎に分離してそれぞれ推定し、これらの外乱を抑制するための外乱補償値Adisを算出する。
【0076】
この外乱補償部54では、例えば特開平2007−237840号公報に記載されているように、運転者による操舵入力である操舵トルクTsと転舵アクチュエータ8による転舵入力を制御入力とし、実際の操舵状態量を制御量とするモデルにおいて、前記制御入力をローパスフィルタに通した値と、前記制御量を前記モデルの逆特性と前記ローパスフィルタとに通した値との差に基づいて外乱を推定する複数の外乱推定部を有する。各外乱推定部は、ローパスフィルタのカットオフ周波数を異ならせることにより、外乱を複数の周波数帯域毎に分離する。
【0077】
そして、外乱補償部54及び直進性補完部53で算出された外乱補償値Adis及びセルフアライニングトルク制御値Asaが加算器55aで加算される。この加算器55aの加算出力と転舵角制御部52で演算されたコンプライアンスステア制御値Acとが加算器55bで加算されて直進性担保制御値δaを算出する。この直進性担保制御値δaは、遅延制御部56に供給される。
【0078】
ここで、図16に示すように、転舵角制御部52、直進性補完部53、外乱補償部54及び加算器55a,55bで直進性担保部SGを構成し、この直進性担保部SGと以下に述べる遅延制御部56とで転舵応答性設定部SRSを構成している。
遅延制御部56は、図16に示すように、操舵開始検出部56a、単安定回路56b、ゲイン調整部56c及び乗算器56dを有する。
【0079】
操舵開始検出部56aは、操舵角センサ4で検出した操舵角θsに基づいて中立位置を維持する状態から右操舵又は左操舵したタイミングを検出して中立状態からの操舵開始を表す操舵開始信号SSを単安定回路56bに出力する。
また、単安定回路56bは操舵開始検出部56aから出力される操舵開始信号に基づいて所定の遅延時間例えば0.1秒の間オン状態となる制御開始遅延信号をゲイン調整部56cに出力する。
【0080】
ゲイン調整部56cは、制御開始遅延信号がオン状態であるときに、制御ゲインGaを“0”に設定し、制御開始遅延信号がオフ状態であるときに制御ゲインGaを“1”に設定し、設定した制御ゲインGaを乗算器56dに出力する。
乗算器56dでは、直進性担保部SGから出力される直進性担保制御値δaが入力され、この直進性担保制御値δaに制御ゲインGaを乗算し、乗算結果を目標転舵角演算部51からの目標転舵角δ*が入力された加算器56eに供給する。
【0081】
したがって、遅延制御部56では、操舵開始検出部56aで中立状態を維持している状態から右操舵又は左操舵を行った操舵開始状態を検出したときに、直進性担保部SGで算出された直進性担保制御値δaを目標転舵角δ*に加算する直進性担保制御を単安定回路56bで設定される所定時間例えば0.1秒間停止させるようにゲイン調整部56cで、直進性担保制御値δaに乗算する制御ゲインGaを“0”に設定する。そして、ゲイン調整部56cでは、0.1秒経過後に単安定回路56bの出力信号がオフ状態に反転すると、ゲイン調整部56cで、直進性担保制御値δaを目標転舵角δ*に加算する直進性担保制御を開始するように制御ゲインGaを“1”に設定する。
【0082】
また、遅延制御部56は、ステアリングホイール2の操舵が継続されているときには、操舵開始検出部56aで中立状態からの操舵開始を検出しないので、単安定回路56bの出力がオフ状態を維持することにより、ゲイン調整部56cで制御ゲインGaが“1”に設定される。このため、直進性担保部SGで演算された直進性担保制御値δaをそのまま加算器56eに供給する。このため、目標転舵角δ*に直進性担保制御値δaと制御ゲインGaとの乗算置Ga・δaが加算されて直進性担保制御が行われる。
【0083】
転舵角偏差演算部58は、加算器56cから出力される目標転舵角δ*に直進性担保制御値δaが加算された加算後目標転舵角δ*aからアクチュエータ8を構成する転舵モータ8aのアクチュエータ回転角度センサ9から出力される実転舵角δrを減算して転舵角偏差Δδを算出し、算出した転舵角偏差Δδを転舵モータ制御部59に出力する。
転舵モータ制御部59は、入力される角度偏差Δδが零となるようにアクチュエータ8を構成する転舵モータ8aの目標駆動電流im*を算出し、算出した目標駆動電流im*を電流偏差演算部60に出力する。
【0084】
電流偏差演算部60は、入力される目標駆動電流im*からアクチュエータ8を構成する転舵モータ8aに供給するモータ電流を検出するモータ電流検出部61から出力される実モータ駆動電流imrを減算して電流偏差Δiを算出し、算出した電流偏差Δiをモータ電流制御部62に出力する。
モータ電流制御部62は、入力される電流偏差Δiが零となるように、すなわち、実モータ駆動電流imrが目標駆動電流im*に追従するようにフィードバック制御し、実モータ駆動電流imrを転舵モータ8aに出力する。
【0085】
ここで、転舵角偏差演算部58、転舵モータ制御部59、電流偏差演算部60、モータ電流検出部61、モータ電流制御部62でアクチュエータ制御装置63が構成されている。このアクチュエータ制御装置63は、転舵アクチュエータ8を構成する転舵モータ8aの回転角度を検出する転舵アクチュエータ回転角度センサ9で検出した回転角度δrが目標転舵角δ*と一致するように制御する。このため、車両が直進走行状態であって、目標転舵角δ*が“0”となったときに、この目標転舵角δ*に回転角度δrが一致するように制御するので、前述した直進性担保部SGを主直進性担保部としたときに、副直進性担保部を構成することになる。
【0086】
(転舵制御装置の作用)
次に、上記第1実施形態における転舵制御装置の作用を図18及び図19を伴って説明する。
今、ステアリングホイール2を中立位置に保持して直進走行しているものとする。
この直進走行状態では、目標転舵角演算部51で演算される目標転舵角δ*が零となる。このとき、ステアリングホイール2が中立位置を保持しているので、左右の駆動輪となる転舵輪17FL及び17FRの駆動力又は制動力が等しくなる。このため、転舵角制御部52で前記(1)式及び(2)式で算出されるコンプライアンスステアによる転舵輪17FL及び17FRの舵角の変位量Δfl及びΔfrは等しい値となる。このため、コンプライアンスステア補正量Acは変位量Δflから変位量Δfr減算した値であるので、コンプライアンスステア補正量Acは零となる。
【0087】
同様に、直進性補完部53でも、駆動力TL及びTRが等しいので、駆動力差ΔTが零となることにより、図17に示す発生トルク推定制御マップを参照して算出される発生トルクThも零となる。一方、直進走行状態でステアリングホイール2を操舵していないので、操舵トルクTsも零であり、セルフアライニングトルクTsaも零となって、セルフアライニングトルク制御値Asaも零となる。
一方、外乱補償部54では、外乱を抑制する回覧補償値Adisが算出される。したがって、直進性担保制御値δaは回覧補償値Adisのみの値となる。この直進性担保制御値δaが遅延制御部56の乗算器56dに供給される。
【0088】
この遅延制御部56では、操舵開始検出部56aで操舵開始が検出されないので、単安定回路56bの出力はオフ状態を維持する。このため、ゲイン調整部56cでは制御ゲインGaが“1”に設定され、この制御ゲインGaが乗算器56dへ供給される。この乗算器56dからは、直進性担保制御値δaがそのまま加算器56eに供給されて、零の目標転舵角δ*に加算される。したがって、外乱補償値Adisに応じた加算後目標転舵角δ*aが算出され、この加算後目標転舵角δ*aに一致するようにアクチュエータ8の転舵モータ8aの転舵角が制御される。このため、外乱の影響を除去した直進走行を行うことができる。
【0089】
したがって、路面の段差や前輪17FR及び17FLの路面摩擦係数が異なることなどにより、路面からの入力による外乱によって前輪17FR及び17FLが転舵された場合には、転舵アクチュエータ8が回転される。これに応じて転舵アクチュエータ回転角度センサ9で検出される回転角θmoが変化することにより、この回転角θmoの変化に応じた外乱補償値Adisが出力される。
【0090】
このため、外乱補償値Adisにしたがって転舵アクチュエータ8が制御されて、サスペンション装置1Bの路面入力による転舵に抗するトルクを発生することができる。したがって、直進性担保部SGでサスペンション装置1Bの直進性を担保することができる。
また、車両の直進走行状態で、外乱補償部54で外乱を検出していない場合には、直進性担保部SGで算出される直進性担保制御値δaが零となり、目標転舵角演算部51から出力される目標転舵角δ*も零となるので、加算器56eから出力される加算後目標転舵角δ*も零となる。
【0091】
このため、アクチュエータ制御装置63によって、転舵アクチュエータ8を構成する転舵モータ8aに転舵角変位が生じると、この転舵角変位を解消するようにアクチュエータ制御装置63でモータ電流imrを出力するので、転舵輪17FR及び16FLが直進走行状態の転舵角に戻される。したがって,アクチュエータ制御装置63で直進性を担保することができる。
【0092】
ところが、ステアリングホイール2を中立位置に保持した直進走行状態を維持している状態からステアリングホイール2を右(又は左)に操舵する状態となると、この直進走行状態からの操舵による旋回状態への移行が操舵開始検出部56aで検出される。
このため、単安定回路56bから所定時間例えば0.1秒間オン状態となる制御遅延信号がゲイン調整部56cに出力される。したがって、ゲイン調整部56cで、制御遅延信号がオン状態を継続している間制御ゲインGaが“0”に設定される。このため、乗算器56dから出力される乗算出力は“0”となり、直進性担保制御値δaの加算器56eへの出力が停止される。
【0093】
したがって、ステアリングホイール2の中立位置から操舵を開始した時点から0.1秒の初期応答期間T1の間は制御ゲインGaが“0”に設定されるので、乗算器56dから出力される乗算出力が“0”となり、目標転舵角δ*に対する直進性担保制御が図19(b)で実線図示のように停止される。
このため、操舵角センサ4で検出した操舵角θsが目標転舵角演算部51に供給され、この目標転舵角演算部51で演算された目標転舵角δ*がそのまま転舵角偏差演算部58に供給される。このため、目標転舵角δ*に一致するように転舵モータ8aが回転駆動される。この間、直進性担保部SGにおける直進性担保制御が停止される。
【0094】
したがって、初期応答期間T1では、キングピン軸KSの路面接地点がタイヤの接地面内の接地中心位置に設定され、且つキャスター角が零に設定されたサスペンション装置1Bによる転舵が開始される。
このとき、サスペンション装置1Bのキャスター角が零に設定されている。このキャスター角と転舵応答性と操縦安定性との関係は、図18(a)に示すように、キャスター角が零であるときには転舵応答性が高い状態をとなるが、操縦安定性を確保することはできない、すなわち、キャスター角に対する転舵応答性と操縦安定性とはトレードオフの関係が存在する。
【0095】
このため、中立位置から操舵を開始した初期状態では、ステアバイワイヤ制御による直進性担保制御は実行されないことにより、この初期転舵をサスペンション装置1Bが賄うことになる。
この初期応答期間T1では、サスペンション装置1Bは、上述したように、キャスター角が零あり、操縦応答性が高いので、図19(a)で実線図示の特性線L1で示すように、一点鎖線図示の特性線L2で示す一般的なステアバイワイヤ形式の操舵系を有する車両における転舵応答特性(ヨーレイト)より高い転舵応答特性(ヨーレイト)とすることができる。このとき、運転者のステアリングホイール2の操舵による操舵角変化に対応した転舵角変化となるので、運転者に違和感を与えることはない。
【0096】
ところが、サスペンション装置1Bによる転舵応答性のみで初期応答期間T1を越えて転舵を継続すると、図19(a)で破線図示の特性線L3のように中期応答帰還T2及び後期応答期間T3で操舵による車両の転舵応答性が敏感になる。また、中期応答期間T2から後期応答期間T3に掛けての車両の内側への巻き込み現象が大きくなってしまう。
【0097】
このため、上記第1実施形態では、図19(b)に示すように、初期応答期間T1が経過する例えば0.1秒後に、転舵角制御部52、直進性補完部53及び外乱補償部54で構成される直進性担保部SGによる目標転舵角δ*に対する直進性担保制御がステップ状に開始される。このため、サスペンション装置1Bによる車両の転舵応答性を抑制して車両のふらつきを抑制するとともに、図19(b)で点線図示のように、ステアバイワイヤ制御によってサスペンション装置1Bの直進性を補完して、操縦安定性を確保することができる。
【0098】
その後、中期応答期間T2が終了する例えば0.3秒経過後には、直進性担保部SGによる直進性担保制御により一般的な車両の転舵応答特性に比較しても転舵応答特性をより抑制してアンダーステア傾向とすることができる。これにより、図19(a)で実線図示の特性線L1で示すように、操縦安定性を向上させることができ、特性線L1で示す理想的な車両の転舵応答特性を実現することができる。
【0099】
以上のように、本実施形態に係る車両の操舵装置によれば、サスペンション装置1Bにおいて、ロアリンクを構成する第1のリンク37と第2のリンク38とが車両上面視で交差され、キングピン軸KSをステアリングホイールが中立位置にある状態で、タイヤ接地面内を通るようにし、タイヤ接地面内にキャスタートレイルを設定しているため、キングピン軸KS周りのモーメントをより小さくすることができる。
【0100】
したがって、第1実施形態でも、より小さいラック軸力で転舵を行うことができると共に、より小さい力で車輪の向きを制御できる。すなわち、操縦性・安定性を向上させることができる。
このように、上記第1実施形態では、少なくともキングピン軸KSがタイヤ接地面内を通るように設定することにより、サスペンション装置1B自体が転舵応答性を向上させた構成とされ、これに加えてステアバイワイヤシステムSBWの直進性担保部SGによって転舵特性を制御する転舵角制御、直進性補完及び外乱補償を行ってサスペンション装置1Bの直進性を担保している。
【0101】
このため、ステアリングホイール2を中立位置に保持している状態から右又は左操舵を行った場合に、初期応答期間T1ではサスペンション装置1B自体の高い転舵応答性を利用して高応答性を確保する。その後、初期応答期間T1を経過して中期応答期間T2に入ると、転舵応答性を重視するよりは操縦安定性を重視する必要があり、ステアバイワイヤシステムSBWにおける遅延制御部56のゲイン調整部56cで制御ゲインGaが“1”に設定されることにより、直進性担保部SGで算出した直進性担保制御値δaによる直進性担保制御を開始する。
【0102】
このため、転舵角制御、直進性補完及び外乱補償等の直進性担保制御が開始されることにより、サスペンション装置1Bによる高い転舵応答性を抑制して操縦安定性を確保する。さらに、後期応答期間T3では、車両の内側への巻き込み現象を抑制するように転舵応答性をさらに低減させてアンダーステア傾向として車両のふらつきをより抑制して理想的な転舵応答性制御を確立することができる。
【0103】
さらに、転舵角制御部52を備えて、コンプライアンスステアによる転舵輪17FL及び17FRの変位量を考慮した直進性担保制御を行うことができる。このため、ロアリンク部材である第1リンク37と第2リンク38との車体1A側の支持部に介挿されるブッシュの剛性を弱く設定することが可能であり、第1リンク37と第2のリンク38とを通じて路面から車体1Aへの振動伝達率を低下させて乗心地を向上させることができる。
【0104】
なお、上記第1実施形態においては、転舵制御装置50をハードウェアで構成する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、例えば目標転舵角演算部51、直進性担保部SGを例えばマイクロコンピュータ等の演算処理装置で構成し、この演算処理装置で、図20に示す転舵制御処理を実行するようにしてもよい。
【0105】
この転舵制御処理は、図20に示すように、先ず、ステップS1で、車速V、操舵角センサ4で検出した操舵角θs、アクチュエータ回転角度センサ9で検出した回転角θmo、駆動力制御装置71の左右輪の駆動力TL,TR、操舵トルクセンサ5で検出した操舵トルクTs等の演算処理に必要なデータを読込む。次いで、ステップS2に移行して、操舵角センサ4で検出した操舵角θsに基づいてステアリングホイール2が中立位置を保持している状態から右又は左に操舵された操舵開始状態であるか否かを判定し、操舵開始状態ではないときにはステップS3に移行する。
【0106】
このステップS4では、操舵開始制御状態であることを表す制御フラグFが“1”にセットされているか否かを判定し、制御フラグFが“0”にリセットされているときには、ステップS4に移行して、制御ゲインGaを“1”に設定してからステップS5に移行する。
このステップS5では、前述した目標転舵角演算部51と同様に車速Vと操舵角θsに基づいて目標転舵角δ*を算出する。
次いで、ステップS6に移行して、前述した転舵角制御部52と同様に、左右輪の駆動力TL及びTRにコンプライアンスステア係数sfを乗算してコンプライアンスステアによる転舵輪17FL及び17FRの変位量Δfl及びΔfrを算出し、これらに基づいてコンプライアンスステア制御値Acを算出する。
【0107】
次いで、ステップS7に移行して、前述した直進性補完部53と同様に、左右輪の駆動力TL及びTRの駆動力差ΔT(=TL−TR)に基づいて図17に示す発生トルク推定制御マップを参照して、トルクステア現象で転舵時に発生する発生トルクThを推定する。そして、この発生トルクThを操舵トルクTsから減算してセルフアライニングトルクTsaを算出し、このセルフアライニングトルクTsaに所定ゲインKsaを乗算してセルフアライニングトルク制御値Asaを算出する。
【0108】
次いで、ステップS8に移行して、転舵アクチュエータ回転角度センサ9からのモータ回転角θmo、操舵トルクTs及びモータ電流検出部61で検出したモータ電流imrに基づいて車両に入力される外乱を周波数帯域毎に分離してそれぞれ推定し、これらの外乱を抑制するための外乱補償値Adisを算出する。
次いで、ステップS9に移行して、目標転舵角δ*と、コンプライアンスステア制御値Acと、セルフアライニングトルク制御値Asaと、外乱補償値Adisとに基づいて下記(3)式の演算を行って加算後目標転舵角δ*aを算出する。
δ*a=δ*+Ga(Ac+Asa+Adis) …………(3)
【0109】
次いで、ステップS10に移行して、ステップS9で算出した加算後目標転舵角δ*aを図16における転舵角偏差演算部58に出力してから前記ステップS1に戻る。
また、ステップS2の判定結果が操舵開始状態であるときにはステップS11に移行して、制御フラグFを“1”にセットしてからステップS12に移行する。さらに、ステップS3の判定結果が、制御フラグFが“1”にセットされているときに直接ステップS12に移行する。
【0110】
このステップS12では、予め設定された遅延時間(例えば0.1秒)が経過したか否かを判定する。このとき、遅延時間が経過していないときには、ステップS13に移行し、制御ゲインGaを“0”に設定してから前記ステップS5に移行して、目標転舵角δ*を算出する。
また、ステップS12の判定結果が、所定の遅延時間(例えば0.1秒)が経過したときには、ステップS14に移行して、制御フラグFを“0”にリセットしてから前記ステップS4に移行して、制御ゲインGaを“1”に設定する。
【0111】
この図20に示す転舵指令角度演算処理でも、ステアリングホイール2が中立位置に保持されている状態から右又は左に操舵が開始された操舵開始状態ではないときには、目標転舵角δ*にコンプライアンスステア制御値Ac、セルフアライニングトルク制御値Asa及び外乱補償値Adisを加算した直進性担保制御値δaを目標転舵角δ*に加算する直進性担保制御が行われる。
【0112】
これに対して、ステアリングホイール2が中立位置に保持されている状態から右又は左に操舵が開始された操舵開始状態であるときには、予め設定された遅延時間が経過するまでは、制御ゲインGaが“0”に設定されるため、直進性担保制御が停止される。このため、目標転舵角δ*のみが転舵角偏差演算部58に出力され、これによって転舵アクチュエータ8を構成する転舵モータ8aが回転駆動される。このため、初期転舵応答性はサスペンション装置自体の高転舵応答性が設定されることになり、高転舵応答性を得ることができる。
【0113】
その後、遅延時間が経過すると、制御ゲインGaが“1”に設定されるため、目標転舵角δ*にコンプライアンスステア制御値Ac、セルフアライニングトルク制御値Asa及び外乱補償値Adisが加算された直進性担保制御値δaを目標転舵角δ*に加えた値によって転舵アクチュエータ8を構成する転舵モータ8aを回転駆動する。このため、サスペンション装置1Bの高転舵応答性が抑制されると共に、サスペンション装置1Bの直進性が担保されて、理想的な転舵応答特性を得ることができる。
この転舵制御処理でも、車両の直進走行状態では、目標転舵角δ*が零となり、外乱が生じない場合には、この目標転舵角δ*が直接図16の転舵角偏差演算部58に供給されるので、前述したと同様にアクチュエータ制御装置63によって直進性が担保される。
【0114】
この図20の処理において、ステップS5の処理が目標転舵角演算部51に対応し、ステップS6の処理が転舵角制御部52に対応し、ステップS7の処理が直進性補完部53に対応し、ステップS5〜S7の処理が直進性担保部に対応しステップS2〜S4、S11〜S14の処理が遅延制御部56に対応し、ステップS2〜S14の処理が転舵応答性設定部SRSに対応している。
また、上記第1実施形態においては、直進性担保部SGを転舵角制御部52、直進性補完部53及び外乱補償部54で構成する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、転舵角制御部52、直進性補完部53及び外乱補償部54の何れか1つ又は2つを省略するようにしてもよい。
【0115】
(第1実施形態の効果)
(1)車軸よりも車両上下方向の下側においてホイールハブ機構WHと車体とを連結し、車軸に沿って配置したトランスバースリンク部材を備える。また、車体との連結部がトランスバースリンク部材と車体との連結部よりも車両前後方向後方に位置すると共に、ホイールハブ機構WHとの連結部がトランスバースリンク部材とホイールハブ機構WHとの連結部よりも車両前後方向前方に位置するコンプレッションリンク部材を備える。さらに、トランスバースリンク部材およびコンプレッションリンク部材のホイールハブ機構WHとの連結部よりも車両幅方向外側においてホイールハブ機構WHと連結し、該ホイールハブ機構WHとの連結部よりも車両前後方向後側において車体と連結し、車輪を転舵させるタイロッド部材を備える。
【0116】
これにより、車両前後方向の力が支配的な状況において、タイヤ接地点に入力した車両前後方向の後方向きの力に対し、トランスバースリンク部材の車輪側の連結部が車両内向きに移動する。また、タイロッド部材の車輪側の連結部は車体側の連結部を中心に回転して車両外向きに移動する。さらに、コンプレッションリンク部材の車輪側の連結部は車両外向きに移動する。
そのため、車輪をトーアウト方向に向けるコンプライアンスステアを実現することができる。
したがって、車両用サスペンション装置において、車両前後方向の力に対するコンプライアンスステア特性をより適切なものとすることが可能となる。
【0117】
(2)トランスバースリンク部材とホイールハブ機構WHとの連結部は車軸よりも車両前後方向後方に位置し、車体との連結部は車軸よりも車両前後方向前方に位置する。
したがって、旋回外輪としての横力が入力したとき、トランスバースリンク部材とホイールハブ機構WHとの連結部を車両内向きに移動させることができるため、旋回外輪にトーアウト特性を与えることができる。
(3)トランスバースリンク部材と車体との連結部は、コンプレッションリンク部材とホイールハブ機構WHとの連結部よりも車両前後方向後方に位置する。
したがって、トランスバースリンク部材を車軸に略平行としつつ、横力が入力した場合の回転方向を一方向に定めることができる。
【0118】
(4)コンプレッションリンク部材とホイールハブ機構WHとの連結部は車軸より車両前後方向前方に位置し、車体との連結部はトランスバースリンク部材とホイールハブ機構WHとの連結部より車両前後方向後方に位置する。
このような構成により、コンプレッションリンク部材の車軸に対する傾斜角を大きくすることができ、仮想ロアピボット点の位置を車体内側により近づけることが可能となる。
【0119】
(5)ステアリングホイールが中立位置である状態で、車両上面視における前記トランスバータリンク部材とコンプレッションリンク部材との交点をロアピボット点とするキングピン軸が、タイヤ接地面内を通るようにした。
このような構成により、キング軸周りのモーメントを最小とすることができるため、さらに小さいラック軸力で転舵を行うことができると共に、より小さい力で車輪の向きを制御できる。
したがって、本実施形態では、サスペンション装置の軽量化を図りながら操縦性・安定性を向上させることができる。
【0120】
(6)車両用サスペンション装置でステアバイワイヤシステムによる転舵輪を懸架することとした。
したがって、ステアバイワイヤシステムにおける転舵アクチュエータを利用して、本発明におけるキャスタートレイルの設定に対応する制御を行うことができ、操縦性・安定性の向上を図ることができる。
【0121】
(7)車両上面視において、車体と車輪とを連結するトランスバースリンク部材およびコンプレッションリンク部材のうち、トランスバースリンク部材を車軸に沿って配置すると共に、コンプレッションリンク部材を車輪側の連結部がより前側かつ車体側の連結部がより後側となるようにトランスバースリンク部材と交差させて設置する。また、車輪を転舵させるタイロッド部材を、トランスバースリンク部材およびコンプレッションリンク部材のホイールハブ機構WHとの連結部よりも車両幅方向外側においてホイールハブ機構WHと連結させ、該ホイールハブ機構WHとの連結部よりも車両前後方向後側において車体と連結させて配置し、車両後向きの前後力に対して、トランスバースリンク部材の車輪側の連結部を車両内向きに移動させると共に、タイロッド部材の車輪側の連結部を車両外向きに移動させる。
【0122】
これにより、車両前後方向の力が支配的な状況において、タイヤ接地点に入力した車両前後方向の後方向きの力に対し、トランスバースリンク部材の車輪側の連結部が車両内向きに移動する。また、タイロッド部材の車輪側の連結部は車体側の連結部を中心に回転して車両外向きに移動する。さらに、コンプレッションリンク部材の車輪側の連結部は車両外向きに移動する。
そのため、車輪をトーアウト方向に向けるコンプライアンスステアを実現することができる。
したがって、車両用サスペンション装置において、車両前後方向の力に対するコンプライアンスステア特性をより適切なものとすることが可能となる。
【0123】
(8)ステアリングホイールの操舵状態に応じてアクチュエータを作動させて転舵輪を転舵する転舵制御装置と、前記転舵輪を車体に支持するサスペンション装置とを備えている。サスペンション装置は、車軸よりも車両上下方向の下側でホイールハブ機構と車体とを連結する第1のリンク部材と第2のリンク部材とを車両上面視で交差させて配置した。また、前記転舵制御部は、前記サスペンション装置の直進性を担保する直進性担保部を備えている。
【0124】
これにより、サスペンション装置のキングピン軸周りのモーメントをより小さくすることができるため、より小さいラック軸力で転舵を行うことができると共に、より小さい力で車輪の向きを制御できる。
したがって、転舵応答性を向上させることができる。このとき、キャスター角を零近傍の値とすることにより、転舵応答性をより高めたサスペンション装置を構成することができる。
そして、サスペンション装置の転舵応答性を確保することによる直進性の低下を直進性担保部で担保することができる。
【0125】
(9)直進性担保部を転舵アクチュエータとアクチュエータ制御装置とを備えたステアバイワイヤシステムで構成している。
これにより、直進性担保部を独立して設ける必要がなく、構成を簡略化することができる。
しかも、直進性担保部としては、転舵応答特性設定部SRSの直進性担保部SGを主直進性担保部とし、アクチュエータ制御装置63を副直進性担保部とすることにより、双方の直進性担保部によって、サスペンション装置の直進性をより確実に担保することができる。
【0126】
(10)ステアリングホイールが中立位置を保持している状態から右又は左に操舵されたときに、遅延制御部により直進性担保部の直進性担保制御を遅らせることにより、初期応答特性をサスペンション装置自体の転舵応答性で賄って高転舵応答性を確保する。その後、サスペンション装置自体の転舵応答性を直進性担保部による直進性担保制御で調整する。
したがって、中立位置から転舵を開始したときに、初期応答特性を高転舵応答性とすることができる。その後、サスペンション装置自体の転舵応答性を直進性担保部による直進性担保制御で調整することにより、理想的な転舵応答性を確保することができる。
【0127】
(11)直進性担保部は、セルフアライニングトルクを推定して直進性を担保している。
したがって、直進性担保部で、サスペンション装置の高応答性を確保することにより低下した直進性をセルフアライニングトルクで担保することができ、操縦・安定性を向上させることができる。
(12)直進性担保部は、少なくともコンプライアンスステアを推定して転舵輪の変位補正を行うようにした。
したがって、サスペンション装置を構成するロアアームの車体側支持部に介挿したブッシュの剛性を低下させることが可能となり、車両の乗心地を向上させることができる。
【0128】
(13)ステアリングホイールを中立位置から操舵を開始したときに、前記ステアパイワイヤシステムの転舵応答性設定部によって、転舵開始初期に前記サスペンション装置自体の転舵応答特性を初期転舵応答特性とし、初期設定時間経過後に前記ステアバイワイヤシステムの直進性担保部で前記転舵アクチュエータの前記サスペンション装置自体の直進性を担保する制御を開始する。
これにより、初期転舵にサスペンション装置の高い転舵応答特性を確保し、初期設定時間経過後に直進性担保部で前記転舵アクチュエータの前記サスペンション装置自体の直進性を担保する制御を行うことができ、理想的な転舵応答特性を得ることができる。
【0129】
(14)前記転舵応答性設定部は、前記ステアリングホイールを中立位置から操舵したときに、初期操舵状態では、前記サスペンション装置自体の転舵応答性で高い転舵応答性を設定し、前記初期操舵状態を経過した操舵状態であるときに、前記直進性担保部による直進性担保制御によって必要とする転舵応答性を設定している。
したがって、サスペンション装置を高い転舵応答特性とし、サスペンション装置の直進性を直進性担保部で担保することで、理想的な転舵応答特性を確保することができる。
【0130】
(15)前記転舵応答性設定部は、ステアリングホイールの中立位置から操舵開始したときに、前記直進性担保部による直進性担保制御の開始を遅らせる遅延制御部を備えている。
このため、遅延制御部で、直進性担保部による直進性担保制御の開始を遅らせるので、初期転舵応答特性をサスペンション装置自体の高転舵応答性とすることができる。
【0131】
(16)前記遅延制御部は、前記直進性担保部による直進性担保制御の開始を調整するゲイン調整部を有している。
これにより、ゲイン調整部で、例えば直進性担保制御における直進性担保制御値に対するゲインを“0”に設定することにより、直進性担保制御を行わず、ゲインを“0”より大きい値例えば“1”に設定することにより、直進性担保制御を開始することができる。このため、ゲイン調整部を設けることにより、直進性担保制御の開始の調整を容易に行うことができる。
【0132】
(17)前記遅延制御部は、直進性担保部による直進性担保制御を前記ステアリングホイールが中立位置を保持している状態から右又は左に操舵した操舵開始タイミングから0.1秒遅延させた後に、前記直進性担保部による直進性担保制御を開始させる。
したがって、初期転舵応答特性をサスペンション装置自体の高転舵応答特性を有効に利用することができ、0.1秒の初期期間が経過した後に直進性担保部による直進性担保制御を開始させて、理想的な転舵応答特性を得ることができる。
【0133】
(18)前記遅延制御部は、前記直進性担保部による直進性担保制御を開始させる場合に、前記直進性担保制御をステップ状に開始させる。
このため、制御開始時点で直ちに転舵角制御や直進性補完によって転舵応答特性を調整することができる。
(19)前記遅延制御部は、前記直進性担保部による直進性担保制御を開始させる場合に、前記直進性担保制御を徐々に開始させる。
このため、制御開始時点で転舵応答特性の変化を滑らかにして運転者に実際の操舵感覚と異なる感触を与えることを抑制することができる。
【0134】
(20)前記転舵制御装置は、操舵角に応じた目標転舵角を演算する目標転舵角演算部と、該目標転舵角演算部で演算した目標転舵角に前記直進性担保部の直進性担保制御値を加える加算器と、該加算器の加算出力と前記アクチュエータを構成する転舵モータの回転角度とを一致させるモータ指令電流を形成する転舵モータ制御部と、前記モータ指令電流に一致する前記転舵モータに供給するモータ駆動電流を形成する電流制御部とを備えている。
【0135】
したがって、目標転舵角演算部で、ステアリングホイールの操舵角に応じた目標転舵角を演算し、この目標転舵角に加算器で直進性担保制御値を加算し、転舵モータ制御部で、加算器の加算出力にアクチュエータを構成する転舵モータの回転角度を一致させる目標モータ電流を形成し、モータ電流制御部で目標モータ指令電流に一致させるモータ駆動電流を形成し、これを転舵モータに出力することにより、転舵モータをステアリングホイールの操舵角に応じて駆動制御することができる。ここで、目標転舵角演算部から出力される目標転舵角を転舵応答性制御部で調整しているので、最適な転舵制御を行うことができる。
【0136】
(21)ステアリングホイールを中立位置から操舵したときに、操舵開始初期に前記サスペンション装置自体の高い転舵応答特性を初期転舵応答特性として設定し、初期設定時間経過後に前記直進性担保部による直進性担保制御によって前記サスペンション装置自体の転舵応答特性を必要な転舵応答特性に調整する。
したがって、ステアリングホイールを中立位置から操舵したときに、サスペンション装置の高転舵応答特性と直進性担保部による直進性担保制御による転舵応答性の調整とによって理想的な転舵応答特性を得ることができる。
【0137】
(第1実施形態の転舵制御装置の変形例)
なお、上記第1実施形態においては、転舵制御装置50において、外乱補償部54を直進性担保部SGに設けた場合について説明した。しかしながら本発明は、上記構成に限定されるものではなく、図21に示すように、外乱補償部54を直進性担保部SGから独立させ、この外乱補償部54から出力される外乱補償値Adisを加算器56eから出力される加算後目標転舵角δ*aに加算器57で加算するようにしてもよい。この場合には、常時目標転舵角δ*に対して外乱補償値Adisを加算するので、操舵開始状態であるか否かに関わらず常時外乱の影響を抑制することができる。
【0138】
また、上記第1実施形態においては、直進性担保部SGを転舵角制御部52、直進性補完部53及び外乱補償部54で構成し、中立状態を維持している状態から右又は左に操舵を開始する操舵開始状態で、初期応答期間T1の間目標転舵角δ*に直進性担保制御値δaを加算する直進性担保制御を行わず、目標転舵角δ*をそのまま転舵角偏差演算部58に入力する場合について説明した。
【0139】
しかしながら、本発明は、上記構成に限定されるものではなく、中立状態を維持している状態から右又は左に操舵を開始する操舵開始状態で、操舵角センサ4で検出した操舵角θsと転舵アクチュエータ回転角度センサ9で検出した回転角θmoとに回転角差を生じる場合がある。この場合に直進性を担保するために、操舵角θsと回転角θmoとの回転角差を補償するトルクを転舵アクチュエータ8で発生させることが好ましい。
【0140】
このためには、図22に示すように、直進性担保部SGから独立した直進性補償部111を設けることが好ましい。この直進性補償部111から出力される直進性補償値Ascは加算器56eから出力される加算後目標転舵角δ*aに加算器57で加算される。
ここで、直進性補償部111の一の構成としては、転舵アクチュエータ回転角度センサ9で検出する転舵アクチュエータ8の回転角θmoに基づいて実転舵角を算出し、算出した実転舵角に基づいて予め設定された実転舵角と直進性補償値Ascとの関係を表す制御マップを参照して実転舵角に応じた直進性補償値Ascを算出する。
【0141】
また、直進性補償部111の他の構成としては、ラック軸14のラック軸力を歪みゲージ等のラック軸力センサ16で検出するか又はラック軸力を推定し、予め設定されたラック軸力と直進性補償値Ascとの関係を表す制御マップを参照して直進性補償値Ascを算出する。
さらに、直進性補償部111のさらに他の構成としては、転舵アクチュエータ回転角度センサ9で検出する転舵アクチュエータ8の回転角θmoに基づいて実転舵角を算出し、算出した実転舵角が中立位置を中心とする所定値以下の範囲内である場合に、予め設定された一定値の直進性補償値Ascを加算後目標転舵角δ*aに加算器57で加算する。
【0142】
また、上記第1実施形態においては、初期期間が終了した時点で直進性担保制御値δaを目標転舵角δ*に加算する直進性担保制御を直ちにステップ状の特性線L10で開始する場合について説明した。しかしながら、本発明は、上記に限定されるものではなく、図19(b)で一点鎖線図示の特性線L12ように、初期期間が経過した後に直進性担保制御値δaを徐々に増加させて補正処理を開始するようにしてもよい。また、図19(b)で点線図示の特性線L13で示すように初期期間の終了前から直進性担保制御値δaを徐々に増加させるようにしてもよい。さらには、図23(b)に示すように、所定の傾きのリニアな特性線L13で直進性担保制御値を徐々に増加させるようにしても良い。
【0143】
これらの特性線の傾きを変化させるには、上述したゲイン調整部56cで設定する制御ゲインGaを“0”及び“1”に設定する場合に代えて、時間の経過と共に、制御ゲインGaを変化させることにより調整することができる。
また、上記第1実施形態では、遅延制御部56のゲイン調整部56cで、ステアリングホイール2が中立位置を維持している状態から操舵を開始した操舵開始状態で、初期期間T1の間制御ゲインGaを“0”に設定し、その他の期間で制御ゲインGaを“1”に設定する場合について説明した。しかしながら、本発明は上記構成に限定されるものではなく、初期期間T1で制御ゲインGaを“1”に設定し、初期期間T1を経過して中期期間T2及び後期期間T3で制御ゲインGaを例えば“0.8”に設定し、その他の期間で制御ゲインGaを“1”に設定し、車両の走行状態に応じてサスペンション装置1Bの直進性担保制御の態様を変化させることもできる。
【0144】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
本実施形態に係る自動車1の機能構成は、第1実施形態における図1と同様である。
一方、本実施形態に係る自動車1は、サスペンション装置1Bの構成が第1実施形態と異なっている。
したがって、以下、サスペンション装置1Bの構成について説明する。
図23は、第2実施形態に係るサスペンション装置1Bの構成を模式的に示す斜視図である。図24は、図23のサスペンション装置1Bの構成を模式的に示す平面図である。図25は、図23のサスペンション装置1Bの構成を模式的に示す(a)部分正面図および(b)部分側面図である。図26は、図23のサスペンション装置1Bの構成を模式的に示す(a)部分平面図(左前輪)および(b)タイヤ接地面(右前輪)を示す図である。
【0145】
図23から図26示すように、サスペンション装置1Bは、ホイールハブに取り付けられた車輪17FR,17FLを懸架するテンション型のサスペンション装置であり、車輪17FR,17FLを回転自在に支持する車軸(アクスル)32を有するアクスルキャリア33、車体側の支持部から車体幅方向に配置されてアクスルキャリア33に連結する複数のリンク部材、及びコイルスプリング等のバネ部材34を備えている。
【0146】
複数のリンク部材は、ロアリンク部材であるトランスバースリンク(トランスバースリンク部材)137とテンションリンク(テンションリンク部材)138、タイロッド(タイロッド部材)15、および、ストラット(バネ部材34およびショックアブソーバ40)から構成されている。本実施形態において、サスペンション装置1Bはストラット式のサスペンションであり、バネ部材34およびショックアブソーバ40が一体となったストラットの上端が、車軸32より上方に位置する車体側の支持部に連結する(以下、ストラットの上端を適宜「アッパーピボット点」と称する。)。
【0147】
ロアリンクを構成するトランスバースリンク137とテンションリンク138は、車軸32より下方に位置する車体側の支持部とアクスルキャリア33の下端とを連結する。本実施形態において、トランスバースリンク137とテンションリンク138とは、独立した部材からなるIアームとなっている。これらトランスバースリンク137およびテンションリンク138は、車体側と各1箇所の支持部で連結し、車軸32側と各1箇所の取り付け部で連結している。さらに、本実施形態におけるトランスバースリンク137とテンションリンク138とは、互いに交差した状態で車体1Aと車軸32側(アクスルキャリア33)とを連結する(以下、トランスバースリンク137とテンションリンク138とが構成する仮想リンクの交点を適宜「ロアピボット点」と称する。)。
【0148】
これらロアリンクのうち、トランスバースリンク137は、車軸と略平行に設置してあり、車両上面視において、トランスバースリンク137の車輪側支持点Taは、車輪中心(車軸)よりも車両前後方向前側となっている。また、テンションリンク138は、トランスバースリンク137よりも車軸に対して傾斜(車輪側支持点がより後側、車体側支持点がより前側となる向きに配置)させて設置してある。そして、テンションリンク138の車輪側支持点Caは、車輪中心よりも車両前後方向後側となっている。また、トランスバースリンク137の車体側支持点Tbは、テンションリンク138の車輪側支持点Caよりも車両前後方向前側となっている。また、テンションリンク138の車体側支持点Cbは、トランスバースリンク137の車輪側支持点Taよりも車両前後方向前側となっている。
【0149】
この第2実施形態でも、前述した第1実施形態と同様に、ステアリングホイール2が中立位置にある状態で、上記サスペンション装置1Bのトランスバースリンク137及びテンションロッド138の交点をロアピポット点とするキングピン軸KSがタイヤ接地面内を通り、キャスタートレイルがタイヤ接地面内を通るよう設定している。
【0150】
このようなリンク配置とした場合、図26(b)に示すように、転舵時にタイヤ接地中心点(着力点)Oに車体の旋回外側に向かう遠心力が作用したときに、この遠心力に抗するように旋回中心に向かう横力を主にトランスバースリンク137に受け持たせることができる。また、上記リンク配置では、トランスバースリンク137の車体側支持点Tbを車輪中心よりも車両前後方向後側に位置させている。そのため、車輪に横力(車両内向きの力)が入力したとき、トランスバースリンク137の車輪側支持点Taは車両内向きに移動し、テンションリンク138の車輪側支持点Caは車両外向きに移動する。したがって、入力する横力に対して、車輪をトーイン方向に向けるコンプライアンスステアを実現することができる。
【0151】
タイロッド15は、車軸32の下側に位置して、ステアリングラック部材14とアクスルキャリア33を連結し、ステアリングラック部材14は、ステアリングホイール2から入力した回転力(操舵力)を伝達して転舵用の軸力を発生させる。従って、タイロッド15により、ステアリングホイール2の回転に応じてアクスルキャリア33に車幅方向の軸力が加わり、アクスルキャリア33を介して車輪17FR,17FLを転舵する。
【0152】
本実施形態に係るサスペンション装置1Bでは、車両上面視において、タイロッド15の車輪側(アクスルキャリア33側)の支持点Xaがトランスバースリンク37およびコンプレッションリンク38の車輪側支持点Ta,Caよりも車両幅方向外側に位置している。また、タイロッド15の車体側支持点Xb(ボールジョイント位置)が車輪側支持点Xaよりも車両前後方向後側に位置している。なお、上述の通り、テンションリンク138の車輪側支持点Caが車輪中心よりも車両前後方向後側、トランスバースリンク137の車輪側支持点Taが車輪中心よりも車両前後方向前側に位置している。また、トランスバースリンク137の車体側支持点Taがテンションリンク138の車輪側支持点Caよりも車両前後方向前側、テンションリンク138の車体側支持点Cbがトランスバースリンク137の車輪側支持点Taよりも車両前後方向前側に位置している。
【0153】
このようなリンク配置としたため、車両前後方向の力が支配的な状況(比較的強い制動を行っている旋回制動時等)において、タイヤ接地点に入力した車両前後方向の力(車両後方向きの力)に対し、タイロッド15の車輪側支持点Xaは車体側支持点Xbを中心に回転して車両外向きに移動し、テンションリンク138の車輪側支持点Caは車両内向きに移動する。また、トランスバースリンク137の車輪側支持点Taは車両外向きに移動する。そのため、車輪をトーアウト方向に向けるコンプライアンスステアを実現することができる。即ち、車両の前後方向コンプライアンスステアを確保することができる。
【0154】
本願発明においては、図26(b)に示すように、上記サスペンション装置1Bのキングピン軸を、キャスタートレイルがタイヤ接地面内に位置するよう設定している。より具体的には、本実施形態におけるサスペンション装置1Bでは、キャスター角をゼロに近い値とし、キャスタートレイルがゼロに近づくようにキングピン軸を設定している。これにより、転舵時のタイヤ捻りトルクを低減でき、キングピン軸周りのモーメントをより小さくすることができる。また、スクラブ半径はゼロ以上のポジティブスクラブとしている。これにより、転舵時のタイヤ横滑り角に対し、スクラブ半径分のキャスタートレイルが生じることから、直進性を確保することができる。
【0155】
また、本願発明においては、ロアリンク部材であるトランスバースリンク137およびテンションリンク138は、互いに交差した状態で車体1Aと車軸32側(アクスルキャリア33下端)を連結している。これにより、トランスバースリンク137およびテンションリンク138が交差していない構造に比べて、初期キングピン傾角を小さくすることができると共に、初期スクラブ半径をポジティブスクラブ側に大きくすることができる。そのため、転舵時のタイヤ捻りトルクを小さくでき、転舵に要するラック軸力を低減できる。さらに、本願発明においては、転舵時に車輪に働く横力によって、仮想ロアピボット点が車体外側に移動するため、操舵応答性を高めることができる。
【0156】
(具体的構成例)
図27は、サスペンション装置1Bをテンション型のサスペンション装置によって構成した例を示す模式図である。
図27に示すように、テンション型のサスペンション装置において、ロアリンク部材を互いに交差させたダブルピボット方式とした場合、各ロアリンク部材は、車体側支持点を中心に車両前方に回転することで旋回外輪としての転舵が可能となる(破線の状態)。このとき、仮想ロアピボット点は、ロアリンク部材が交差する点となるが、ロアリンク部材が交差していないサスペンション形式よりも車体内側に仮想ロアピボット点を形成できるため、初期スクラブ半径をポジティブスクラブ方向に大きくできる。
【0157】
図27に示すテンション型のサスペンション装置では、転舵時におけるテンションロッドの回転角が大きいため、仮想ロアピボット点は車体外側に移動する。この場合、車両上面視において、タイヤ前後方向におけるタイヤ中心線から仮想ロアピボット点までの距離に着目すると、仮想ロアピボット点がタイヤ中心線よりも車体外側方向に移動するため、スクラブ半径はポジティブスクラブの範囲内でより小さくなる。したがって、テンション型のサスペンション装置では、本発明を適用すると、旋回外輪としての転舵を行うことにより、ラック軸力は大きくなるが、転舵しない場合の初期スクラブ半径は十分大きく取れているため、ロアリンク部材が交差していないテンション型のサスペンション装置に比べて、ラック軸力値は小さく設定できる。
【0158】
ちなみに、ロアリンク部材が交差していないテンション型のサスペンション装置の場合、転舵時におけるテンションロッドの回転角が大きいため、仮想ロアピボット点は車体内側に移動する。この場合、車両上面視において、タイヤ前後方向におけるタイヤ中心線から仮想ピボット点までの距離が、タイヤ中心線よりも車体内側に位置しているため、スクラブ半径は、ポジティブスクラブ方向に大きくなる。したがって、転舵を行うことにより、ラック軸力は小さくなる。しかしながら、仮想ロアピボット点は、各リンクの延長線上にあるため、転舵しない初期状態でのスクラブ半径が小さく、ラック軸力の大幅な低減につながりにくい。
【0159】
(第2実施形態の作用)
次に、本実施形態に係るサスペンション装置1Bの作用について説明する。
本実施形態に係るサスペンション装置1Bでは、2つのロアリンク部材をIアームとしている。そして、トランスバースリンク137をアクスルキャリア33から車幅方向に沿って設置し、テンションリンク138をトランスバースリンク137と交差する状態で、アクスルキャリア33の下端から車両前方側に斜行させて設置している。具体的には、トランスバースリンク137の車輪側支持点Taは、車輪中心よりも車両前後方向前側、テンションリンク138の車輪側支持点Caは、車輪中心よりも車両前後方向後側となっている。また、トランスバースリンク137の車体側支持点Tbは、テンションリンク138の車輪側支持点Caよりも車両前後方向前側、テンションリンク138の車体側支持点Cbは、トランスバースリンク137の車輪側支持点Taよりも車両前後方向前側となっている。
【0160】
上記サスペンション構造とした場合、操舵時等に車輪に入力する横力をトランスバースリンク137により多く負担させることができる。また、旋回外輪となったときに、車両内向きの横力が入力した場合、トランスバースリンク137が車両内側、テンションリンク138が車両外側に回転することにより、入力する横力に対して、車輪にトーイン特性を持たせることができる。
【0161】
また、サスペンション装置1Bでは、車両上面視において、タイロッド15の車輪側支持点Xaがトランスバースリンク137およびコンプレッションリンク138の車輪側支持点Ta,Caよりも車両幅方向外側に位置している。また、タイロッド15の車体側支持点Xb(ボールジョイント位置)が車輪側支持点Xaよりも車両前後方向後側に位置している。
【0162】
上記サスペンション構造とした場合、車両前後方向の力が支配的な状況において、タイヤ接地点に入力した車両前後方向の力(車両後方向きの力)に対し、トランスバースリンク137の車輪側支持点Taは車両外向きに移動する。また、タイロッド15の車輪側支持点Xaは車体側支持点Xbを中心に回転して車両外向きに移動し、テンションリンク138の車輪側支持点Caは車両内向きに移動する。そのため、車輪をトーアウト方向に向けるコンプライアンスステアを実現することができる。
【0163】
以上のように、本実施形態に係るサスペンション装置1Bでは、トランスバースリンク137を車軸と略平行に設置し、車両上面視において、トランスバースリンク137の車輪側支持点Taを、車輪中心よりも車両前後方向前側としている。また、テンションリンク138を、トランスバースリンク137に対して傾斜(車輪側支持点がより後側、車体側支持点がより前側となる向きに配置)させて設置している。そして、テンションリンク138の車輪側支持点Caを、車輪中心よりも車両前後方向後側としている。また、トランスバースリンク137の車体側支持点Tbを、テンションリンク138の車輪側支持点Caよりも車両前後方向後側、テンションリンク138の車体側支持点Cbを、トランスバースリンク137の車輪側支持点Taよりも車両前後方向前側としている。
【0164】
このようなリンク配置とした場合、車輪に入力する横力を主にトランスバースリンク137に受け持たせることができる。また、上記リンク配置では、トランスバースリンク137の車体側支持点Tbを車輪中心よりも車両前後方向後側に位置させている。そのため、車輪に横力(車両内向きの力)が入力したとき、トランスバースリンク137の車輪側支持点Taは車両内向きに移動し、コンプレッションリンク138の車輪側支持点Caは車両外向きに移動する。したがって、入力する横力に対して、車輪をトーイン方向に向けるコンプライアンスステアを実現することができる。
【0165】
また、本発明においては、タイロッド15の車輪側の支持点Xaがトランスバースリンク137およびコンプレッションリンク138の車輪側支持点Ta,Caよりも車両幅方向外側に位置している。また、タイロッド15の車体側支持点Xbが車輪側支持点Xaよりも車両前後方向後側に位置している。
このようなリンク配置とした場合、車両前後方向の力が支配的な状況において、タイヤ接地点に入力した車両前後方向の力(車両後方向きの力)に対し、トランスバースリンク137の車輪側支持点Taは車両外向きに移動する。また、タイロッド15の車輪側支持点Xaは車体側支持点Xbを中心に回転して車両外向きに移動し、コンプレッションリンク138の車輪側支持点Caは車両内向きに移動する。そのため、車輪をトーアウト方向に向けるコンプライアンスステアを実現することができる。
【0166】
したがって、本発明によれば、車両用サスペンション装置において、車両前後方向の力に対するコンプライアンスステア特性をより適切なものとすることが可能となる。
第1実施形態および第2実施形態において、本発明をコンプレッション型およびテンション型のリンク構造を有するサスペンション装置に適用するものとして説明したが、これら以外の方式のサスペンション装置にも同様に適用することができる。
なお、本実施形態において、車輪17FR,17FL,17RR,17RLがタイヤホイール、タイヤおよびホイールハブ機構WHに対応し、トランスバースリンク137が第1のリンク部材に対応し、テンションリンク138がテンションリンク部材に対応する。また、タイロッド15がタイロッドに対応する。
【0167】
(第2実施形態の効果)
(1)車軸よりも車両上下方向の下側においてホイールハブ機構WHと車体とを連結し、車軸に沿って配置したトランスバースリンク部材を備える。また、車体との連結部が前記トランスバースリンク部材と車体との連結部よりも車両前後方向前方に位置すると共に、前記ホイールハブ機構WHとの連結部が前記トランスバースリンク部材と前記ホイールハブ機構WHとの連結部よりも車両前後方向後方に位置するテンションリンク部材を備える。さらに、トランスバースリンク部材およびコンプレッションリンク部材のホイールハブ機構WHとの連結部よりも車両幅方向外側においてホイールハブ機構WHと連結し、該ホイールハブ機構WHとの連結部よりも車両前後方向後側において車体と連結し、車輪を転舵させるタイロッド部材を備える。
【0168】
これにより、車両前後方向の力が支配的な状況において、タイヤ接地点に入力した車両前後方向の後方向きの力に対し、トランスバースリンク部材の車輪側の連結部が車両外向きに移動する。また、タイロッド部材の車輪側の連結部は車体側の連結部を中心に回転して車両外向きに移動し、コンプレッションリンク部材の車輪側の連結部は車両内向きに移動する。
そのため、車輪をトーアウト方向に向けるコンプライアンスステアを実現することができる。
したがって、車両用サスペンション装置において、車両前後方向の力に対するコンプライアンスステア特性をより適切なものとすることが可能となる。
【0169】
(2)トランスバースリンク部材とホイールハブ機構WHとの連結部は車軸よりも車両前後方向前方に位置し、車体との連結部は車軸よりも車両前後方向後方に位置する。
したがって、旋回外輪としての横力が入力したとき、トランスバースリンク部材とホイールハブ機構WHとの連結部を車両内向きに移動させることができるため、旋回外輪にトーイン特性を与えることができる。
【0170】
(3)トランスバースリンク部材と車体との連結部は、テンションリンク部材とホイールハブ機構WHとの連結部よりも車両前後方向前方に位置する。
したがって、トランスバースリンク部材を車軸に略平行としつつ、横力が入力した場合の回転方向を一方向に定めることができる。
(4)テンションリンク部材とホイールハブ機構WHとの連結部は車軸より車両前後方向後方に位置し、車体との連結部は前記トランスバースリンク部材とホイールハブ機構WHとの連結部より車両前後方向前方に位置する。
このような構成により、テンションリンク部材の車軸に対する傾斜角を大きくすることができ、仮想ロアピボット点の位置を車体内側により近づけることが可能となる。
【0171】
(5)ステアリングホイールが中立位置にある状態で、車両上面視における前記トランスバースリンク部材と前記テンションリンク部材との交点をロアピポット点とするキングピン軸がタイヤ接地面内を通るようにした。
この構成により、キング軸周りのモーメントを最小とすることができるため、さらに小さいラック軸力で転舵を行うことができると共に、より小さい力で車輪の向きを制御できる。
したがって、本実施形態では、サスペンション装置の軽量化を図りながら操縦性・安定性を向上させることができる。
【0172】
(6)車両上面視において、車体と車輪とを連結するトランスバースリンク部材およびテンションリンク部材のうち、トランスバースリンク部材を車軸に沿って配置すると共に、テンションリンク部材を車輪側の連結部がより後側かつ車体側の連結部がより前側となるようにトランスバースリンク部材と交差させて設置する。また、車輪を転舵させるタイロッド部材を、トランスバースリンク部材およびコンプレッションリンク部材のホイールハブ機構WHとの連結部よりも車両幅方向外側においてホイールハブ機構WHと連結させ、該ホイールハブ機構WHとの連結部よりも車両前後方向後側において車体と連結させて配置し、車両後向きの前後力に対して、トランスバースリンク部材の車輪側の連結部を車両外向きに移動させると共に、タイロッド部材の車輪側の連結部を車両外向きに移動させる。
【0173】
これにより、車両前後方向の力が支配的な状況において、タイヤ接地点に入力した車両前後方向の後方向きの力に対し、トランスバースリンク部材の車輪側の連結部が車両外向きに移動する。また、タイロッド部材の車輪側の連結部は車体側の連結部を中心に回転して車両外向きに移動し、コンプレッションリンク部材の車輪側の連結部は車両内向きに移動する。
そのため、車輪をトーアウト方向に向けるコンプライアンスステアを実現することができる。
したがって、車両用サスペンション装置において、車両前後方向の力に対するコンプライアンスステア特性をより適切なものとすることが可能となる。
【0174】
(応用例1)
第1および第2実施形態において、サスペンション装置1Bを転舵輪である前輪のサスペンション装置に適用する場合を例に挙げて説明したが、サスペンション装置1Bを非転舵輪である後輪のサスペンション装置に適用することも可能である。
この場合、転舵によって車両が旋回状態となり、後輪に横力が作用すると、その横力によって、テンションリンクおよびコンプレッションリンクが撓み、それらの車両上面視における交点が移動して、車体に対する車輪の向きが変化する(図9,27参照)。即ち、車軸に沿うロアリンク部材は横力による前後方向への移動が少なく、車軸に対して前後方向に角度をもって設置した他方のロアリンク部材は横力による前後方向への移動が大きいものとなる。
この特性を利用して、目的とする横力コンプライアンスステアを実現することができる。
特に、第2実施形態におけるテンション型のサスペンション装置1Bは、旋回外輪をトーイン方向に向ける特性を実現できるため、後輪のサスペンション装置として利用すると効果的である。
【0175】
(効果)
車軸よりも車両上下方向の下側でホイールハブ機構WHと車体とを連結する第1のリンク部材と第2のリンク部材とを車両上面視で交差させて配置した。
これにより、旋回時における横力によってリンク部材に撓みが生じ、車両上面視におけるリンク部材の交点が移動することにより、車体に対する車輪の向きを変化させることができる。
したがって、目的とする横力コンプライアンスステアを実現することができる。
【0176】
(応用例2)
第1および第2実施形態において、サスペンション装置1Bを転舵輪である前輪のサスペンション装置に適用する場合を例に挙げて説明したが、サスペンション装置1Bを転舵輪である後輪のサスペンション装置に適用することも可能である。
この場合にも、第1実施形態と同様に、仮想ロアピボット点を車幅方向において車体内側に近づけることができる。そして、この仮想ロアピボット点が定義するキングピン軸を、タイヤ接地面内にキャスタートレイルが位置する設定としたため、キングピン軸周りのモーメントをより小さくすることができる。
したがって、より小さいラック軸力で転舵を行うことができると共に、より小さい力で車輪の向きを制御できるため、操縦性・安定性を向上させることができる。
【0177】
(応用例3)
第1および第2実施形態では、タイヤ接地面内にキャスタートレイルを設定するものとし、その一例として、キャスタートレイルをゼロに近い値とする場合について説明した。
これに対し、本応用例では、キャスタートレイルの設定条件をタイヤ接地面中心からタイヤ接地面の前端までの範囲に限定するものとする。
(効果)
キャスタートレイルをタイヤ接地面中心からタイヤ接地面の前端までに設定すると、直進性の確保と操舵操作の重さの低減を両立できる。即ち、操縦性・安定性の向上を図ることができる。
【0178】
(応用例4)
第1および第2実施形態においては、図8に示す座標平面において、一点鎖線で囲んだ領域を設定に適する領域として例に挙げた。これに対し、注目するラック軸力の等値線を境界線とし、その境界線が示す範囲より内側の領域(キングピン傾角の減少方向でスクラブ半径の増加方向)を設定に適する領域とすることができる。
(効果)
ラック軸力の最大値を想定して、その最大値以下の範囲にサスペンションジオメトリを設定することができる。
【0179】
(応用例5)
第1および第2実施形態および各応用例では、ステアバイワイヤ方式の操舵装置を備える車両にサスペンション装置1Bを適用する場合を例に挙げて説明したが、ステアバイワイヤ方式ではなく、機械的な操舵機構の操舵装置を備える車両にサスペンション装置1Bを適用することが可能である。
この場合、キングピン軸を上記検討結果に基づく条件に従って決定し、キャスタートレイルをタイヤ接地面内に設定した上で、機械的な操舵機構のリンク配置をそれに合わせて構成する。
(効果)
機械的な構造を有する操舵機構においても、キングピン周りのモーメントを低減して運転者に要する操舵力をより小さいものとでき、操縦性・安定性の向上を図ることができる。
【0180】
(応用例6)
第1実施形態、第2実施形態および各応用例においては、ストラット式のサスペンション装置に本発明を適用する場合を例に挙げて説明したが、アッパーアームを備える形式のサスペンション装置に本発明を適用することもできる。
この場合、アッパーアームとアクスルキャリアとの連結点がアッパーピボット点となる。
【0181】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態を図28について説明する。
この第3実施形態では、第1実施形態における転舵制御部50における遅延制御部56の構成を変更したものである。
すなわち、第3実施形態では、遅延制御部56を図28に示すように構成している。この遅延制御部56は、操舵開始検出部56aと、加算器56eと、選択部56gと、ゲイン調整部56hとを備えている。
【0182】
ここで、操舵開始検出部56aは、操舵角センサ4で検出した操舵角θsに基づいてステアリングホイール2が中立状態を例えば直進走行状態を判断できる程度の所定時間維持している状態から右又は左に操舵を開始した操舵開始時点から次に中立位置を検出するまでの間オン状態となる操舵開始検出信号Sssを選択部56gに出力する。
【0183】
選択部56gは、常閉固定端子ta及び常開固定端子tbと、これら固定端子ta及びtbを選択する可動端子tcとを備えている。可動端子tcには、直進性担保部SGから出力される直進性担保制御値δaが入力される。常閉固定端子taは第2のゲイン調整部56iを介して加算器56eに接続されている。常開固定端子tbは、第1のゲイン調整部56hを介して加算器56eに接続されている。
そして、選択部56gは、操舵開始検出部56aから出力される操舵開始検出信号Sssがオフ状態であるときに、可動端子tcが常閉固定端子taを選択する。また、選択部56gは、操舵開始検出信号Sssがオン状態であるときに、可動端子tcが常開固定端子tbを選択する。
【0184】
第1のゲイン調整部56hは、選択部56gを通じて直進性担保制御値δaが入力されたときに、目標転舵角δ*に対する直進性担保制御を予め設定された前述した初期応答期間T1に相当する所定時間例えば0.1秒間停止させる。すなわち、ゲイン調整部56hは選択部56gを通じて直進性担保制御値δaが入力されたときに、最初の例えば0.1秒間の初期応答期間T1の間は直進性担保制御値δaの出力を停止する(すなわち、第1実施形態における制御ゲインGaを“0”に設定したことに相当する)。また、ゲイン調整部56hは、初期応答期間T1が経過した後は直進性担保制御値δaに例えば“0.8”の制御ゲインを乗算して加算器56eに出力する(すなわち、第1実施形態における制御ゲインGaを“1”に設定した場合に近い状態とすることに相当する)。
【0185】
また、第2のゲイン調整部56iは、直進性担保制御値δaに例えば“1”の制御ゲインを乗算して直進走行時の直進性を十分に確保するようにしている。
ここで、第1のゲイン調整部56h及び第2のゲイン調整部56iで設定するゲインについては、0〜1の範囲に限らずサスペンション装置1Bの特性に応じて任意の値に設定することができる。
【0186】
したがって、遅延制御部56では、ステアリングホイール2の操舵が継続されているときには、操舵開始検出部56aで中立状態からの操舵開始を検出しないので、選択部56gによって直進性担保部SGで演算された直進性担保制御値δaを第2のゲイン調整部56iに供給する。このため、直進性担保制御値δaに“1”の制御ゲインが乗算されることにより、直進性担保制御値δaがそのまま加算器56eに供給される。このため、目標転舵角δ*に直進性担保制御値δaが加算されて良好な直進性担保制御が行われる。
【0187】
一方、操舵開始検出部56aで中立状態からの操舵開始を検出したときには、選択部56gが常開固定端子tbに切換えられて、直進性担保部SGで算出された直進性担保制御値δaがゲイン調整部56hに供給される。このため、ゲイン調整部56hで、初期応答期間T1(例えば0.1秒)の間、直進性担保制御値δaの加算器56eへの出力が停止される。したがって、目標転舵角δ*に対する直進性担保制御値δaによる直進性担保制御の開始が遅延される。その後、ゲイン調整部56hでは、所定時間が経過した後に、制御ゲインGaが“0.8”に設定されて直進性担保制御値δaをやや抑制した値となり、これが加算器56eに供給されて目標転舵角δ*に加算される。このため、目標転舵角δ*に対する直進性担保制御が開始され、サスペンション装置1Bに生じるふらつきを抑制しながら理想的な転舵応答特性を得ることができる。
【0188】
その後、ステアリングホイール2が中立位置に戻ると、操舵開始検出部56aから出力される操舵開始検出信号Sssがオフ状態となる。このため、選択部56gで可動端子tcが常閉固定端子ta側に復帰し、直進性担保部SGで算出される直進性担保制御値δaが第2のゲイン調整部56iに供給されて、直進性担保制御値がそのまま加算器56eに供給される。したがって、目標転舵角δ*に対する良好な直進性担保制御が継続される。
【0189】
(第3実施形態の効果)
このように、第3実施形態によっても、ステアリングホイール2が中立状態を維持している状態から右又は左に操舵する操舵開始時に、ゲイン調整部56hで初期応答期間T1となる例えば0.1秒の間に直進性担保制御値δaの加算器56eへの出力を停止する。その後、初期応答期間T1が経過した後に直進性担保制御値δaの加算器56eへの出力を開始する。このため、前述した第1実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0190】
しかも、ステアリングホイール2が中立位置に復帰したときに、操舵開始検出部56aから出力される操舵開始検出信号Sssがオフ状態に復帰するので、この状態で、選択部56gの可動端子tcが常閉固定端子ta側に復帰しても直進性担保制御値δa自体が小さな値となっているので、直進性担保制御の値が不連続となることはなく、円滑な切換えを行うことができる。
【0191】
(第3実施形態の変形例)
なお、上記第3実施形態においては、操舵開始検出部56aで操舵開始状態を検出してから次にステアリングホイール2の中立状態を検出するまで、操舵開始検出信号Sssをオン状態とする場合について説明した。しかしながら、本発明は、上記構成に限定されるものではなく、操舵開始検出部56aで、前述した第1実施形態と同様に、操舵開始状態を検出したときにパルス状の操舵開始検出信号Sssを出力する場合には、第1実施形態と同様に、例えば操舵開始検出時点から後期応答期間T3が終了する迄の間オン状態となる操舵開始検出部56a及び選択部56g間に単安定回路を介挿する。これにより、操舵開始時から後期応答期間T3が終了するまでの間選択部56gの可動端子tcを常開固定端子tb側に切り換えておくようにしてもよい。
【0192】
また、上記第3実施形態では、転舵制御装置50をハードウェアで構成する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、例えば目標転舵角演算部51及び直進性担保部SGを例えばマイクロコンピュータ等の演算処理装置で構成し、この演算処理装置で、図29に示す転舵制御処理を実行するようにしてもよい。
この転舵制御処理は、図29に示すように、先ず、ステップS21で、車速V、操舵角センサ4で検出した操舵角θs、駆動力制御装置71の左右輪の駆動力TL,TR、操舵トルクセンサ5で検出した操舵トルクTs等の演算処理に必要なデータを読込む。次いで、ステップS22に移行して、操舵角θsに基づいてステアリングホイール2が中立位置を保持している状態から右又は左に操舵された操舵開始状態であるか否かを判定し、操舵開始状態ではないときにはステップS23に移行する。
【0193】
このステップS23では、操舵開始制御状態であることを表す制御フラグFが“1”にセットされているか否かを判定し、制御フラグFが“0”にリセットされているときには、ステップS24に移行して、制御ゲインGaを“1”に設定してからステップS25に移行する。
このステップS25では、前述した目標転舵角演算部51と同様に車速Vと操舵角θsに基づいて目標転舵角δ*を算出する。
【0194】
次いで、ステップS26に移行して、前述した転舵角制御部52と同様に、左右輪の駆動力TL及びTRにコンプライアンスステア係数sfを乗算してコンプライアンスステアによる転舵輪17FL及び17FRの変位量Δfl及びΔfrを算出し、これらに基づいてコンプライアンスステア制御値Acを算出する。
次いで、ステップS27に移行して、前述した直進性補完部53と同様に、左右輪の駆動力TL及びTRの駆動力差ΔT(=TL−TR)に基づいて図17に示す発生トルク推定制御マップを参照して、トルクステア現象で転舵時に発生する発生トルクThを推定し、この発生トルクThを操舵トルクTsから減算してセルフアライニングトルクTsaを算出し、このセルフアライニングトルクTsaに所定ゲインKsaを乗算してセルフアライニングトルク制御値Asaを算出する。
【0195】
次いで、ステップS28に移行して、前述した外乱補償部54と同様に、転舵アクチュエータ8の回転角θmo、モータ電流検出部61で検出したモータ電流imr及び操舵トルクTsに基づいて外乱補償値Adisを算出する。
次いで、ステップS29に移行して、下記(4)式にしたがって目標転舵角δ*と、コンプライアンスステア制御値Ac、セルフアライニングトルク制御値Asa、外乱補償値Adisの加算値に制御ゲインGaを乗算した値とを加算して加算後目標転舵角δ*aを算出する。
δ*a=δ*+Ga(Ac+Asa+Adis) …………(4)
【0196】
次いで、ステップS30に移行して、算出した加算後目標転舵角δ*aを図28における転舵角偏差演算部58に出力してから前記ステップS21に戻る。
また、ステップS22の判定結果が操舵開始状態であるときにはステップS31に移行して、制御フラグFを“1”にセットしてからステップS32に移行する。さらに、ステップS23の判定結果が、制御フラグFが“1”にセットされているときに直接ステップS32に移行する。
【0197】
このステップS32では、前述したステップS24と同様に、目標転舵角δ*を算出し、次いでステップS32に移行して、予め設定された遅延時間(例えば0.1秒)が経過したか否かを判定し、遅延時間が経過していないときには、ステップS33に移行し、制御ゲインGaを“0”に設定してから前記ステップS25に移行する。
また、ステップS32の判定結果が、遅延時間が経過したときには、ステップS34に移行して、制御フラグFを“0”にリセットしてから前記ステップS25に移行し、ステップS32の判定結果が、遅延時間が経過していないときには、直接ステップS25に移行する。
【0198】
このステップS35では、操舵角センサ4で検出した操舵角θsがステアリンクホイール2の中立位置を表すか否かを判定する。この判定結果が、中立位置であるときにはステップS36に移行して制御フラグFを“0”にリセットしてから前記ステップS25に移行する。
この図29に示す転舵制御処理でも、ステアリングホイール2が中立位置に保持されている状態から右又は左に操舵が開始された操舵開始状態ではないときには、制御ゲインGaが“1”に設定されるので、目標転舵角δ*にコンプライアンスステア制御値Ac、セルフアライニングトルク制御値Asa及び外乱補償値Adisを加算した直進性担保制御値δaに基づいて転舵制御が行われ、サスペンション装置1Bの直進性が担保される。
【0199】
これに対して、ステアリングホイール2が中立位置に保持されている状態から右又は左に操舵が開始された操舵開始状態であるときには、予め設定された遅延時間が経過するまでは、制御ゲインGaが“0”に設定されるので、目標転舵角δ*のみが転舵角偏差演算部58に出力され、これによって転舵アクチュエータ8を構成する転舵モータ8aが回転駆動される。このため、初期転舵応答性はサスペンション装置自体の高転舵応答性が設定されることになり、高転舵応答性を得ることができる。
【0200】
その後、遅延時間が経過すると、制御ゲインGaが“0.8”に設定されるので、目標転舵角δ*に、コンプライアンスステア制御値Ac、セルフアライニングトルク制御値Asa及び外乱補償値Adisでなる直進性担保制御値δaに制御ゲインGaを乗じた値が加算された加算後目標転舵角δ*aによって転舵アクチュエータ8を構成する転舵モータ8aが回転駆動される。このため、ステアバイワイヤシステムSBWの直進性担保制御によりサスペンション装置の高転舵応答性が抑制されて、図19(a)の特性曲線L1で示す理想的な転舵応答特性を得ることができる。
【0201】
この図29の処理において、ステップS25の処理が目標転舵角演算部51に対応し、ステップS26の処理が転舵角制御部52に対応し、ステップS27の処理が直進性補完部53に対応し、ステップS28の処理が外乱補償部54に対応している。また、ステップS24〜S28の処理及びステップS25〜S29の処理が直進性担保部SGに対応し、ステップS22、S23、S31〜S33及びS29の処理が遅延制御部56に対応し、ステップS21〜ステップS37の処理が転舵応答性設定部SRSに対応している。
【0202】
(第3および第3の実施形態の変形例)
なお、上記第1および第3実施形態では、ステアリングホイール2が中立位置を保持している状態で、右又は左に操舵が開始されたときに、目標転舵角δ*に直進性担保制御値δaを加算する直進性担保制御を停止する場合について説明した。しかしながら、本発明では、上記に限定されるものではなく、図30に示すように、操舵周波数によって目標転舵角δ*に加算する直進性担保制御を行うか否かを判定して、転舵応答性を調整する転舵応答性調処理を行うようにしてもよい。
【0203】
この転舵応答性調整処理は、図30に示すように、ステップS41で、車速V、操舵角θs、回転角θmo、駆動力TL,TR等の演算に必要とするデータを読込む。次いで、ステップS42に移行して、操舵角センサ4から出力される操舵角θsに基づいて操舵周波数Fを検出し、次いでステップS43に移行して、検出した操舵周波数Fが予め設定した周波数閾値Fth(例えば2Hz)を超えているか否かを判定する。
【0204】
このステップS43の判定結果が、F≧Fthであるときには、高転舵応答性が必要であると判断してステップS44に移行し、目標転舵角δ*を算出し、次いでステップS45に移行して、算出した目標転舵角δ*を前述した図16の転舵角偏差演算部58に出力してから前記ステップS41に戻る。
一方、前記ステップS43の判定結果が、F<Fthであるときには、高転舵応答性を必要とせず、操縦安定性が必要であると判断してステップS46に移行して、目標転舵角δ*を算出し、次いでステップS47に移行して、コンプライアンスステア制御値Acを算出し、次いでステップS48に移行して、セルフアライニングトルク制御値Ascを算出する。
【0205】
次いで、ステップS49に移行して、外乱補償値Adisを算出し、次いでステップS50に移行して、算出した目標転舵角δ*、コンプライアンスステア制御値Ac、セルフアライニングトルク制御値Asa及び外乱補償値Adisを加算して加算後目標転舵角δ*aを算出し、次いでステップS51に移行して、加算後目標転舵角δ*aを図20の転舵角偏差演算部58に出力してから前記ステップS41に戻る。
【0206】
この転舵応答性調整処理では、ステアリングホイール2を操舵する操舵周波数Fが周波数閾値Fthより低い低周波数であるときには、高応答性を必要とせず、操縦安定性を必要としていると判断して、目標転舵角δ*に直進性担保制御値δaを加算した加算後目標転舵角δ*aによって、転舵制御を行うことにより、理想的な転舵制御を行うことができる。また、操舵周波数Fが周波数閾値Fthより高い高周波数である場合には、高応答性を必要としているものと判断してサスペンション装置1B自体の転舵応答性に基づいて転舵角制御を行うことができる。
【0207】
この場合には、操舵周波数によって、目標転舵角δ*を補正するか否かを判断するので、操舵状態に応じた最適な応答特性を設定することができる。この場合、F<Fthである場合に、操舵周波数Fの値に応じて直進性担保制御値δaに対する0〜1の間の値に設定されるゲインを乗算することにより、直進性の補正度合いを変更することが可能となり、よりきめ細かな応答性制御を行うことができる。
【0208】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態を図31〜図33について説明する。
この第4実施形態は、直進性担保制御を開始する遅延時間τを可変するようにしたものである。
すなわち、第4実施形態では、図30に示すように、遅延制御部56に遅延時間設定回路56mが設けられている。この遅延時間設定回路56mで設定された遅延時間τが単安定回路56bに供給されて遅延時間τに応じたパルス幅が設定される。
【0209】
遅延時間設定回路56mは、図30に示すように、操舵角速度演算部56n、第1遅延時間演算部56o、第2遅延時間演算部56p及び加算器56qを備えている。
操舵角速度演算部56nは、操舵角センサ4で検出されたステアリングホイール2の操舵角θsが入力され、この操舵角θsを微分して操舵角速度θsvを演算する。
【0210】
第1遅延時間演算部56oは、操舵角速度演算部56nから入力される操舵角速度θsvに基づいて図31に示す第1遅延時間算出マップを参照して第1遅延時間τ1を演算する。この第1遅延時間算出マップは、図31に示すように、操舵角速度θsvが0から所定設定値θsv1までの間は第1の遅延時間τ1が例えば最小遅延時間τmin1(例えば0.04秒)に設定され、操舵角速度θsvが所定設定値θsv1より増加すると、操舵角速度θsvの増加に応じて第1の遅延時間τ1が最大遅延時間τmax1(例えば0.06秒)まで増加するように双曲線状の特性曲線L31が設定されている。
【0211】
第2遅延時間演算部56pは、車両パラメータ取得部21で取得された車速Vが入力され、この車速Vに基づいて図32に示す第2遅延時間算出マップを参照して第2遅延時間τ2を演算する。この第2遅延時間算出マップは、図32に示すように、特性線L32が設定されている。この特性線L32は、車速Vが0から設定車速V1までの間の低車速状態では、第2の遅延時間τ2が例えば最小遅延時間τmax2(例えば0.07秒)を維持する線分L32aに設定されている。そして、車速Vが設定車速V1より増加すると、その増加量に比例して第2の遅延時間τ2が増加するリニアな成分L32bに設定されている。さらに、車速Vが設定車速V1より大きい設定車速V2以上となると第2の遅延時間τ2が最大遅延時間τmin2(例えば0.03秒)に維持される線分L32cに設定されている。
【0212】
加算器56qは、第1遅延時間演算部56oで演算された第1の遅延時間τ1と、第2遅延時間演算部56pで演算された第2の遅延時間τ2とを加算して遅延時間τ(=τ1+τ2)を算出し、遅延時間τを単安定回路56bに供給する。
この単安定回路56bは、操舵開始検出部56aから入力される操舵開始検出信号をトリガとして加算器56qから入力される遅延時間τに応じた区間オン状態となるパルス信号を形成し、このパルス信号をゲイン調整部56cに供給する。
【0213】
この第4の実施形態によると、操舵速度θsvに基づいて設定される第1の遅延時間τ1は、図31に示すように、操舵角速度θsvが遅い場合すなわち緩操舵状態では短い時間に設定され、操舵角速度θsvが速い場合すなわち急操舵状態では長い時間に設定される。逆に、車速Vに基づいて設定される第2の遅延時間τ2は、図32に示すように、車速Vが遅い場合には長い時間に設定され、車速Vが速い場合には短い時間に設定される。
【0214】
そして、第1の遅延時間τ1と第2の遅延時間τ2とが加算器56qで加算されて遅延時間τが算出される。
したがって、遅延時間τは、図33に示すように、車速Vが低い低速領域では操舵速度θsvが遅いときに遅延時間τは最小で0.11秒となり、操舵速度θsvの増加に応じて遅延時間τが増加して最大遅延時間は0.13秒まで増加する。
また、車速Vが中速領域では、遅延時間τは、操舵速度θsvが遅いときには最小で0.09秒となり、操舵速度θsvの増加に応じて遅延時間τが増加して、最大で0.11秒まで増加する。
【0215】
さらに、車速Vが高速領域では、遅延時間τは、操舵速度θvが遅いときには最小で0.07秒となり、操舵速度θsvの増加に応じた遅延時間τが増加して、最大で0.09秒となる。
このため、車速Vが低速領域にあるときには、遅延時間τは全体的に長くなって、遅延時間τ=0.12を中心として±0.01秒の範囲となる。また、中速領域では前述した第3及び第4の実施形態で設定した遅延時間τ=0.10を中心として±0.01秒の範囲となる。さらに、高速領域では遅延時間τ=0.08を中心として±0.01秒の範囲となる。
【0216】
この結果、低車速領域では、直進担保制御の開始が遅くなるので、サスペンション装置1Bで設定される高応答性の転舵応答性で機敏な操舵状態を得ることができる。また、中速領域では、直進担保制御の開始が中庸の範囲となって、適度な操舵応答性の操舵状態を得ることができる。さらに、高速領域では、直進担保制御の開始が速くなるので、サスペンション装置1Bで設定される高追う都政の転舵応答性が早めに抑制されて安定性の良い操舵状態を得ることができる。
【0217】
なお、上記第4実施形態においては、転舵制御装置50をハードウェアで構成する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、例えば目標転舵角演算部51、転舵応答性設定部SRSを例えばマイクロコンピュータ等の演算処理装置で構成し、この演算処理装置で、図35に示す転舵角制御処理を実行するようにしてもよい。
この転舵角制御処理では、前述した図20の転舵角制御処理において、ステップS2とステップS11との間に、操舵角速度θsvを算出するステップS16、第1遅延時間τ1を算出するステップS17、第2遅延時間τ2を算出するステップS18及び遅延時間τを算出するステップS19が介挿されていることを除いては同一の処理を行っている。
【0218】
ここで、ステップS16では、ステップS1で読込んだ操舵角θsを微分して操舵角速度θsvを算出する。また、ステップS17では、ステップS16で算出した操舵角速度θsvをもとにROM等のメモリに記憶した前述した図32の第1遅延時間算出マップを参照して第1遅延時間τ1を算出する。さらに、ステップS18では、ステップS1で読込んだ車速Vをもとに、ROM等のメモリに記憶した前述した図33の第2遅延時間算出マップを参照して第2遅延時間τ2を算出する。さらにまた、ステップS19では、ステップS17で算出した第1遅延時間τ1とステップS18で算出した第2遅延時間τ2とを加算して遅延時間τ(=τ1+τ2)を算出する。
【0219】
そして、前述したステップS11を経てステップS12の処理に移行する。このステップS12の処理で、ステップS18で算出した遅延時間τが経過したか否か判定し、遅延時間τが経過していないときには制御ゲインGaを“0”に設定し、遅延時間τが経過したときに制御ゲインGaを“1”に設定する。これにより、転舵角制御処理を遅延時間τだけ
この図35の転舵角制御処理では、前述した図31の第3の実施形態と同様に、操舵開始状態を検出したときに、操舵角速度θsvに基づいて第1遅延時間τ1を算出し、車速Vに基づいて第2遅延時間τ2を算出し、両者を加算して遅延時間τを算出する。
【0220】
そして、算出した遅延時間τに基づいて制御ゲインGaを決定するので、前述した第3実施形態と同様に車速V及び操舵角速度θsvに基づいて転舵状態に応じた最適な遅延時間τを設定することができる。
したがって、低車速領域では、直進担保制御の開始が遅くなるので、サスペンション装置1Bで設定される高応答性の転舵応答性で機敏な操舵状態を得ることができる。また、中速領域では、直進担保制御の開始が中庸の範囲となって、適度な操舵応答性の操舵状態を得ることができる。さらに、高速領域では、直進担保制御の開始が速くなるので、サスペンション装置1Bで設定される高追う都政の転舵応答性が早めに抑制されて安定性の良い操舵状態を得ることができる。
【0221】
(第4実施形態の効果)
(1)直進性担保制御を開始する遅延時間τを、操舵速度θsvに応じて第1の遅延時間を演算する第1の遅延時間演算部と、車速Vに応じて第2の遅延時間を演算する第2の遅延時間演算部とを設け、第1の遅延時間と第2の遅延時間とを加算部で加算して算出するように構成した。
このため、操舵速度に応じた第1の遅延時間と車速に応じた第2の遅延時間とを個別に設定することが可能となり、様々な操舵状態に応じた最適な遅延時間配分を行うことができる。
【0222】
(2)第1の遅延時間演算部では、操舵角速度をもとに例えば操舵角速度θsvの増加に応じて第1の遅延時間が減少する特性を有する第1遅延時間算出マップを参照して第1遅延時間を算出している。
このため、操舵速度θsvが遅い緩操舵状態では第1の遅延時間を短くして直進性担保制御の開始を早めて安定した操舵特性を確保することができ、操舵速度θsvが速い急操舵状態では第1の遅延時間を長くして直進性担保制御の開始を遅らせて機敏な操舵特性を確保することができる。
【0223】
(3)第2の遅延時間演算部では、車速Vをもとに、車速Vの増加に応じて第2の遅延時間が増加する特性を有する第2遅延時間算出マップを参照して第2遅延時間を算出している。
このため、車速Vが遅い低車速領域では、機敏な操舵特性を確保することができ、車速が速い高車速領域では、安定した操舵特性を確保することができる。
【0224】
(第4の実施形態の応用例1)
上記第4実施形態では、遅延時間演算部56mで、直進担保制御を開始する遅延時間τを操舵速度θsv及び車速Vの双方に基づいて遅延時間τを演算する場合について説明した。しかしながら、本発明は上記構成に限定されるものではなく、図36に示すように、第2の遅延時間演算部56p及び加算器56qを省略して操舵速度θsvに基づいて第1の遅延時間τ1を設定する第1の遅延時間演算部56oのみで遅延時間τを設定するようにしてもよい。
(効果)
この場合には、車速Vにかかわらず、操舵速度θsvに応じた最適な転舵応答特性を得ることができる。
【0225】
(第4実施形態の応用例2)
また、遅延時間演算部56mを、図37に示すように、操舵角速度演算部56n、第1遅延時間演算部56o及び加算器56qを省略して、車速Vに基づいて第2の遅延時間τ2を演算する第2遅延時間演算部56pのみを設けるようにしてもよい。
(効果)
この場合には、操舵速度θsvにかかわらず、車速Vに応じた最適な転舵応答特性を得ることができる。
【0226】
(第4実施形態の応用例3)
さらには、遅延時間演算部56mを、図38に示すように、第1遅延時間演算部56o、第2遅延時間演算部56p及び加算器56qの何れかの遅延時間を任意に選択することが可能な遅延時間選択部56rを設けるようにしてもよい。
(効果)
この場合には、遅延時間選択部56rで運転者の好みに応じた遅延時間を選択することが可能になる。
【0227】
(第4実施形態の変形例)
なおさらに、上記第4実施形態では、第1の遅延時間τ1と第2の遅延時間τ2とを加算器56qで加算して遅延時間τを算出する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、第1の遅延時間τ1と第2の遅延時間τ2とを乗算して遅延時間τを算出するようにしてもよい。この場合には、車速Vに応じて算出される第2の遅延時間を遅延ゲインとして設定し、例えば車速Vに応じて例えば0.7〜1.0の範囲で遅延ゲインを設定するようにすればよい。
さらに、本発明は自動車に適用する場合に限らず、転舵装置を有する他の車両にも適用することができる。
【符号の説明】
【0228】
1…自動車、1A…車体、1B…サスペンション装置、2…ステアリングホイール、3…入力側ステアリング軸、4…操舵角センサ、5…操舵トルクセンサ、6…操舵反力アクチュエータ、7…操舵反力アクチュエータ角度センサ、8…転舵アクチュエータ、9…転舵アクチュエータ角度センサ、10…出力側ステアリング軸、11…転舵トルクセンサ、12…ピニオンギア、14…ステアリングラック部材、15…タイロッド、17FR,17FL,17RR,17RL…車輪、21…車両状態パラメータ取得部、24FR,24FL,24RR,24RL…車輪速センサ、26…駆動回路ユニット、27…メカニカルバックアップ、32…車軸、33…アクスルキャリア、34…バネ部材、37,137…トランスバースリンク(トランスバースリンク部材)、38…コンプレッションリンク(コンプレッションリンク部材)、138…テンションリンク(テンションリンク部材)、40…ショックアブソーバ、50…転舵制御部、51…目標転舵角演算部、52…転舵角制御部、53…直進性補完部、54…外乱補償部、55…加算器、56…遅延制御部、56a…操舵開始検出部、56b…単安定回路、56c…ゲイン調整部、56d…乗算器、56e…加算器、56g…選択部、56h…ゲイン調整部、56m…遅延時間演算部、56n…操舵角速度演算部、56o…第1遅延時間演算部、56p…第2遅延時間演算部、56q…加算器、56r…遅延時間選択部、57…加算器、58…転舵角偏差演算部、59…転舵モータ制御部、60…電流偏差演算部、61…モータ電流検出部、62…モータ電流制御部、63…アクチュエータ制御装置、
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体を懸架する車両用サスペンション装置、そのジオメトリ調整方法および自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用のサスペンション装置では、キングピン軸の設定によって、目的とするサスペンション性能の実現を図っている。
例えば、特許文献1に記載の技術では、キングピンを構成する上下ピボット点の転舵時における車両前後方向の動きを抑制するリンク配置とすることにより、操縦性・安定性を向上させることとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−126014号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、車両の走行中に転舵を行った場合、走行速度に応じた横力がタイヤ接地点に入力するところ、特許文献1に記載の技術では、この横力による影響を考慮していない。さらに、旋回時に制動を行った場合、横力に加えて車輪に車両前後方向の力(後方向きの力)が作用するところ、その前後力が及ぼすリンクの変化についても考慮する必要がある。即ち、従来の車両用サスペンション装置においては、車両前後方向の力に対するコンプライアンスステア特性において改善の余地があった。
本発明の課題は、車両用サスペンション装置において、車両前後方向の力に対するコンプライアンスステア特性をより適切なものとすることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の課題を解決するため、本発明に係る車両用サスペンション装置は、車軸よりも車両上下方向の下側においてホイールハブ機構と車体とを連結し、車軸に沿って配置したトランスバースリンク部材を備える。また、車体との連結部がトランスバースリンク部材と車体との連結部よりも車両前後方向後方に位置すると共に、ホイールハブ機構との連結部がトランスバースリンク部材とホイールハブ機構との連結部よりも車両前後方向前方に位置するコンプレッションリンク部材を備える。さらに、トランスバースリンク部材およびコンプレッションリンク部材のホイールハブ機構との連結部よりも車両幅方向外側においてホイールハブ機構と連結し、該ホイールハブ機構との連結部よりも車両前後方向後側においてステアリングラック部材と連結し、車輪を転舵させるタイロッド部材を備える。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、車両前後方向の力が支配的な状況において、タイヤ接地点に入力した車両前後方向の後方向きの力に対し、トランスバースリンク部材の車輪側の連結部が車両内向きに移動する。また、タイロッド部材の車輪側の連結部即ちホイールハブ機構との連結部は車体側の連結部即ちステアリングラック部材との連結部を中心に回転して車両外向きに移動する。さらに、コンプレッションリンク部材の車輪側の連結部は車両外向きに移動する。
そのため、車輪をトーアウト方向に向けるコンプライアンスステアを実現することができる。
したがって、車両用サスペンション装置において、車両前後方向の力に対するコンプライアンスステア特性をより適切なものとすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】第1実施形態に係る自動車1の構成を示す概略図である。
【図2】サスペンション装置1Bの構成を模式的に示す斜視図である。
【図3】サスペンション装置1Bの構成を模式的に示す平面図である。
【図4】サスペンション装置1Bの構成を模式的に示す部分正面図および部分側面図である。
【図5】サスペンション装置1Bの構成を模式的に示す(a)部分平面図(左前輪)および(b)タイヤ接地面(右前輪)を示す図である。
【図6】転舵時におけるラックストロークとラック軸力との関係を示す図である。
【図7】転舵時におけるタイヤ接地面中心の軌跡を示す図である。
【図8】キングピン傾角とスクラブ半径とを軸とする座標において、ラック軸力の分布の一例を示す等値線図である。
【図9】サスペンション装置1Bをコンプレッション型のサスペンション装置によって構成した例を示す模式図である。
【図10】ロアリンク部材が交差していないコンプレッション型のサスペンション装置および本発明の場合におけるトー角とスクラブ半径との関係を示す図である。
【図11】キングピン軸の路面着点地点と横力との関係を示すグラフである。
【図12】ポジティブスクラブとした場合のセルフアライニングトルクを説明する概念図である。
【図13】キングピン傾角とスクラブ半径との関係を模式的に示す図である。
【図14】サスペンション装置1Bと比較例とにおける(a)横力コンプライアンスステアおよび(b)横剛性を示す図である。
【図15】サスペンション装置1Bと比較例とにおける前後力コンプライアンスステアを示す図である。
【図16】本発明に適用し得るコントロール/駆動回路の具体的構成を示すブロック図である。
【図17】セルフアライニングトルクを推定するための発生トルク制御マップを示す図である。
【図18】サスペンション装置の特性を示す図であって、(a)はキャスター角と応答性及び安定性との関係を示す図、(b)はキャスタートレイルと横力低減代及び直進性との関係を示す図である。
【図19】転舵応答特性を示す図であって、(a)は車両の応答特性の変化を示す特性線図、(b)は制御特性の切換タイミングを示す図である。
【図20】転舵角制御処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図21】第1の実施形態における転舵制御部の変形例を示すブロック図である。
【図22】第1の実施形態における転舵制御部の他の変形例を示すブロック図である。
【図23】本発明の第2実施形態に係るサスペンション装置1Bの構成を模式的に示す斜視図である。
【図24】サスペンション装置1Bの構成を模式的に示す平面図である。
【図25】サスペンション装置1Bの構成を模式的に示す(a)部分正面図および(b)部分側面図である。
【図26】サスペンション装置1Bの構成を模式的に示す(a)部分平面図(左前輪)および(b)タイヤ接地面(右前輪)を示す図である。
【図27】サスペンション装置1Bをテンション型のサスペンション装置によって構成した例を示す模式図である。
【図28】本発明の第3の実施形態における転舵制御部を示すブロック図である。
【図29】第3の実施形態における転舵角制御処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図30】転舵角制御処理の他の例を示すフローチャートである。
【図31】本発明の第4の実施形態における転舵制御部を示すブロック図である。
【図32】第4の実施形態に適用し得る第1遅延時間算出マップを示す特性線図である。
【図33】第4の実施形態に適用し得る第2遅延時間算出マップを示す特性線図である。
【図34】操舵角速度と車速との関係に基づいて設定される遅延時間を表すグラフである。
【図35】第4の実施形態における転舵角制御処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図36】第4の実施形態の変形例を示す転舵制御部のブロック図である。
【図37】第4の実施形態の他の変形例を示す転舵制御部のブロック図である。
【図38】第4の嫉視形態のさらに他の変形例を示す転舵制御部のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図を参照して本発明を適用した自動車の実施の形態を説明する。
(第1実施形態)
(構成)
図1は、本発明の第1実施形態に係る自動車1の構成を示す概略図である。
図1において、自動車1は、車体1Aと、ステアリングホイール2と、入力側ステアリング軸3と、操舵角センサ4と、操舵トルクセンサ5と、操舵反力アクチュエータ6と、操舵反力アクチュエータ角度センサ7と、転舵アクチュエータ8と、転舵アクチュエータ角度センサ9と、出力側ステアリング軸10と、転舵トルクセンサ11と、ピニオンギア12と、ピニオン角度センサ13と、ステアリングラック部材14と、タイロッド15と、タイロッド軸力センサ16と、車輪17FR,17FL,17RR,17RLと、車両状態パラメータ取得部21と、車輪速センサ24FR,24FL,24RR,24RLと、コントロール/駆動回路ユニット26と、メカニカルバックアップ27とを備えている。
【0009】
ステアリングホイール2は、入力側ステアリング軸3と一体に回転するよう構成され、運転者による操舵入力を入力側ステアリング軸3に伝達する。
入力側ステアリング軸3は、操舵反力アクチュエータ6を備えており、ステアリングホイール2から入力された操舵入力に対し、操舵反力アクチュエータ6による操舵反力を加える。
【0010】
操舵角センサ4は、入力側ステアリング軸3に備えられ、入力側ステアリング軸3の回転角度(即ち、運転者によるステアリングホイール2への操舵入力角度)を検出する。そして、操舵角センサ4は、検出した入力側ステアリング軸3の回転角度をコントロール/駆動回路ユニット26に出力する。
操舵トルクセンサ5は、入力側ステアリング軸3に設置してあり、入力側ステアリング軸3の回転トルク(即ち、ステアリングホイール2への操舵入力トルク)を検出する。そして、操舵トルクセンサ5は、検出した入力側ステアリング軸3の回転トルクをコントロール/駆動回路ユニット26に出力する。
【0011】
操舵反力アクチュエータ6は、モータ軸と一体に回転するギアが入力側ステアリング軸3の一部に形成されたギアに噛合しており、コントロール/駆動回路ユニット26の指示に従って、ステアリングホイール2による入力側ステアリング軸3の回転に対して反力を付与する。
操舵反力アクチュエータ角度センサ7は、操舵反力アクチュエータ6の回転角度(即ち、操舵反力アクチュエータ6に伝達した操舵入力による回転角度)を検出し、検出した回転角度をコントロール/駆動回路ユニット26に出力する。
【0012】
転舵アクチュエータ8は、モータ軸と一体に回転するギアが出力側ステアリング軸10の一部に形成されたギアに噛合しており、コントロール/駆動回路ユニット26の指示に従って、出力側ステアリング軸10を回転させる。
転舵アクチュエータ角度センサ9は、転舵アクチュエータ8の回転角度(即ち、転舵アクチュエータ8が出力した転舵のための回転角度)を検出し、検出した回転角度をコントロール/駆動回路ユニット26に出力する。
【0013】
出力側ステアリング軸10は、転舵アクチュエータ8を備えており、転舵アクチュエータ8が入力した回転をピニオンギア12に伝達する。
転舵トルクセンサ11は、出力側ステアリング軸10に設置してあり、出力側ステアリング軸10の回転トルク(即ち、ステアリングラック部材14を介した車輪17FR,17FLの転舵トルク)を検出する。そして、転舵トルクセンサ11は、検出した出力側ステアリング軸10の回転トルクをコントロール/駆動回路ユニット26に出力する。
【0014】
ピニオンギア12は、例えばラック軸で構成されるステアリングラック部材14に形成した平歯と噛合しており、出力側ステアリング軸10から入力した回転をステアリングラック部材14に伝達する。
ピニオン角度センサ13は、ピニオンギア12の回転角度(即ち、ステアリングラック部材14を介して出力される車輪17FR,17FLの転舵角度)を検出し、検出したピニオンギア12の回転角度をコントロール/駆動回路ユニット26に出力する。
【0015】
ステアリングラック部材14は、ピニオンギア12と噛合する平歯を有し、ピニオンギア12の回転を車幅方向の直線運動に変換する。本実施形態において、ステアリングラック部材14は、前輪の車軸よりも車両前方側に位置している。
タイロッド15は、ステアリングラック部材14の両端部と車輪17FR,17FLのナックルアームとを、ボールジョイントを介してそれぞれ連結している。
【0016】
タイロッド軸力センサ16は、ステアリングラック部材14の両端部に設置されたタイロッド15それぞれに設置してあり、タイロッド15に作用している軸力を検出する。そして、タイロッド軸力センサ16は、検出したタイロッド15の軸力をコントロール/駆動回路ユニット26に出力する。
ここで、操舵反力アクチュエータ6、転舵アクチュエータ8、ピニオンギヤ12、ステアリングラック部材14、タイロッド15、コントロール/駆動回路26でステアバイワイヤシステムSWBが構成されている。
【0017】
車輪17FR,17FL,17RR,17RLは、タイヤホイールにタイヤを取り付けて構成したものであり、サスペンション装置1Bを介して車体1Aに設置してある。これらのうち、前輪(車輪17FR,17FL)は、ステアバイワイヤシステムSWBを構成するタイロッド15によってナックルアームが揺動することにより、車体1Aに対する車輪17FR,17FLの向きが変化する。
【0018】
車両状態パラメータ取得部21は、車輪速センサ24FR,24FL,24RR,24RLから出力される車輪の回転速度を示すパルス信号を基に車速を取得する。また、車両状態パラメータ取得部21は、車速と各車輪の回転速度とを基に、各車輪のスリップ率を取得する。そして、車両状態パラメータ取得部21は、取得した各パラメータをコントロール/駆動回路ユニット26に出力する。
【0019】
車輪速センサ24FR,24FL,24RR,24RLは、各車輪の回転速度を示すパルス信号を、車両状態パラメータ取得部21およびコントロール/駆動回路ユニット26に出力する。
コントロール/駆動回路ユニット26は、自動車1全体を制御するものであり、各部に設置したセンサから入力する信号を基に、入力側ステアリング軸3の操舵反力、前輪の転舵角、あるいはメカニカルバックアップ27の連結について、各種制御信号を、操舵反力アクチュエータ6、転舵アクチュエータ8、あるいはメカニカルバックアップ27等に出力する。
【0020】
また、コントロール/駆動回路ユニット26は、各センサによる検出値を使用目的に応じた値に換算する。例えば、コントロール/駆動回路ユニット26は、操舵反力アクチュエータ角度センサ7によって検出された回転角度を操舵入力角度に換算したり、転舵アクチュエータ角度センサ9によって検出された回転角度を車輪の転舵角に換算したり、ピニオン角度センサ13によって検出されたピニオンギア12の回転角度を車輪の転舵角に換算したりする。
【0021】
なお、コントロール/駆動回路ユニット26は、操舵角センサ4によって検出された入力側ステアリング軸3の回転角度、操舵反力アクチュエータ角度センサ7によって検出された操舵反力アクチュエータ6の回転角度、転舵アクチュエータ角度センサ9によって検出された転舵アクチュエータ8の回転角度、および、ピニオン角度センサ13によって検出されたピニオンギア12の回転角度を監視し、これらの関係を基に、操舵系統におけるフェールの発生を検出することができる。そして、操舵系統におけるフェールを検出すると、コントロール/駆動回路ユニット26は、メカニカルバックアップ27に対し、入力側ステアリング軸3と出力側ステアリング軸10とを連結させる指示信号を出力する。
【0022】
メカニカルバックアップ27は、コントロール/駆動回路ユニット26の指示に従って、入力側ステアリング軸3と出力側ステアリング軸10とを連結し、入力側ステアリング軸3から出力側ステアリング軸10への力の伝達を確保する機構である。ここで、メカニカルバックアップ27に対しては、通常時には、コントロール/駆動回路ユニット26から、入力側ステアリング軸3と出力側ステアリング軸10とを連結しない状態を指示している。そして、操舵系統におけるフェールの発生により、操舵角センサ4、操舵トルクセンサ5および転舵アクチュエータ8等を介することなく操舵操作を行う必要が生じた場合に、入力側ステアリング軸3と出力側ステアリング軸10とを連結させる指示が入力する。
なお、メカニカルバックアップ27は、例えばケーブル式ステアリング機構等によって構成することができる。
【0023】
図2は、第1実施形態に係るサスペンション装置1Bの構成を模式的に示す斜視図である。図3は、図2のサスペンション装置1Bの構成を模式的に示す平面図である。図4は、図2のサスペンション装置1Bの構成を模式的に示す(a)部分正面図および(b)部分側面図である。図5は、図2のサスペンション装置1Bの構成を模式的に示す(a)部分平面図(左前輪)および(b)タイヤ接地面(右前輪)を示す図である。
【0024】
図2から図5に示すように、サスペンション装置1Bは、ホイールハブ機構WHに取り付けられた車輪17FR,17FLを懸架するコンプレッション型のサスペンション装置であり、車輪17FR,17FLを回転自在に支持する車軸(アクスル)32を有するアクスルキャリア33、車体側の支持部から車体幅方向に配置されてアクスルキャリア33に連結する複数のリンク部材、及びコイルスプリング等のバネ部材34を備えている。
【0025】
複数のリンク部材は、ロアリンク部材であるトランスバースリンク(トランスバースリンク部材)37とコンプレッションリンク(コンプレッションリンク部材)38、タイロッド(タイロッド部材)15、および、ストラット(バネ部材34およびショックアブソーバ40)から構成されている。本実施形態において、サスペンション装置1Bはストラット式のサスペンションであり、バネ部材34およびショックアブソーバ40が一体となったストラットの上端が、車軸32より上方に位置する車体側の支持部に連結する(以下、ストラットの上端を適宜「アッパーピボット点」と称する。)。
【0026】
ロアリンクを構成するトランスバースリンク37とコンプレッションリンク38は、車軸32より下方に位置する車体側の支持部とアクスルキャリア33の下端とを連結する。本実施形態において、トランスバースリンク37とコンプレッションリンク38とは、独立した部材からなるIアームとなっている。これらトランスバースリンク37およびコンプレッションリンク38は、車体側と各1箇所の支持部で連結し、車軸32側と各1箇所の取り付け部で連結している。さらに、本実施形態におけるトランスバースリンク37とコンプレッションリンク38とは、互いに交差した状態で車体1Aと車軸32側(アクスルキャリア33)とを連結する(以下、トランスバースリンク37とコンプレッションリンク38とが構成する仮想リンクの交点を適宜「ロアピボット点」と称する。)。
【0027】
これらロアリンクのうち、トランスバースリンク37は、車軸と略平行に設置してあり、車両上面視において、トランスバースリンク37の車輪側支持点Taは、車輪中心(車軸)よりも車両前後方向後側となっている。また、コンプレッションリンク38は、トランスバースリンク37よりも車軸に対して傾斜(車輪側支持点がより前側、車体側支持点がより後側となる向きに配置)させて設置してある。そして、コンプレッションリンク38の車輪側支持点Caは、車輪中心よりも車両前後方向前側となっている。また、トランスバースリンク37の車体側支持点Tbは、コンプレッションリンク38の車輪側支持点Caよりも車両前後方向後側となっている。また、コンプレッションリンク38の車体側支持点Cbは、トランスバースリンク37の車輪側支持点Taよりも車両前後方向後側となっている。
【0028】
このようなリンク配置とした場合、図5(b)に示すように、転舵時にタイヤ接地中心点(着力点)Oに車体の旋回外側に向かう遠心力が作用したときに、この遠心力に抗するように旋回中心に向かう横力を主にトランスバースリンク37に受け持たせることができる。また、上記リンク配置では、トランスバースリンク37の車体側支持点Tbを車輪中心よりも車両前後方向前側に位置させている。そのため、車輪に横力(車両内向きの力)が入力したとき、トランスバースリンク37の車輪側支持点Taは車両内向きに移動し、コンプレッションリンク38の車輪側支持点Caは車両外向きに移動する。したがって、入力する横力に対して、車輪をトーアウト方向に向けるコンプライアンスステアを実現することができる。即ち、車両の横方向コンプライアンスステアを確保することができる。
【0029】
タイロッド15は、車軸32の下側に位置して、ステアリングラック部材14とアクスルキャリア33を連結し、ステアリングラック部材14は、ステアリングホイール2から入力した回転力(操舵力)を伝達して転舵用の軸力を発生させる。従って、タイロッド15により、ステアリングホイール2の回転に応じてアクスルキャリア33に車幅方向の軸力が加わり、アクスルキャリア33を介して車輪17FR,17FLを転舵する。
【0030】
本実施形態に係るサスペンション装置1Bでは、車両上面視において、タイロッド15の車輪側(アクスルキャリア33側)の支持点Xaがトランスバースリンク37およびコンプレッションリンク38の車輪側支持点Ta,Caよりも車両幅方向外側に位置している。また、タイロッド15の車体側支持点Xb(ボールジョイント位置)が車輪側支持点Xaよりも車両前後方向後側に位置している。なお、上述の通り、コンプレッションリンク38の車輪側支持点Caが車輪中心よりも車両前後方向前側、トランスバースリンク37の車輪側支持点Taが車輪中心よりも車両前後方向後側に位置している。また、トランスバースリンク37の車体側支持点Taがコンプレッションリンク38の車輪側支持点Caよりも車両前後方向後側、コンプレッションリンク38の車体側支持点Cbがトランスバースリンク37の車輪側支持点Taよりも車両前後方向後側に位置している。
【0031】
このようなリンク配置としたため、車両前後方向の力が支配的な状況(比較的強い制動を行っている旋回制動時等)において、タイヤ接地点に入力した車両前後方向の力(車両後方向きの力)に対し、タイロッド15の車輪側支持点Xaは車体側支持点Xbを中心に回転して車両外向きに移動し、コンプレッションリンク38の車輪側支持点Caは車両外向きに移動する。また、トランスバースリンク37の車輪側支持点Taは車両内向きに移動する。そのため、車輪をトーアウト方向に向けるコンプライアンスステアを実現することができる。即ち、車両の前後方向コンプライアンスステアを確保することができる。
【0032】
本願発明においては、図5(b)に示すように、ステアリングホイール2が中立位置にある状態で、上記サスペンション装置1Bのキングピン軸KSがタイヤ接地面内を通り、キャスタートレイルがタイヤ接地面内を通るよう設定している。より具体的には、本実施形態におけるサスペンション装置1Bでは、キャスター角をゼロに近い値とし、キャスタートレイルがゼロに近づくようにキングピン軸を設定している。これにより、転舵時のタイヤ捻りトルクを低減でき、キングピン軸周りのモーメントをより小さくすることができる。また、スクラブ半径はゼロ以上のポジティブスクラブとしている。これにより、転舵時のタイヤ横滑り角に対し、スクラブ半径分のキャスタートレイルが生じることから、直進性を確保することができる。
【0033】
また、本願発明においては、ロアリンク部材であるトランスバースリンク37およびコンプレッションリンク38は、互いに交差した状態で車体1Aと車軸32側(アクスルキャリア33下端)を連結している。これにより、トランスバースリンク37およびコンプレッションリンク38が交差していない構造に比べて、キングピン傾角を小さくすることができると共に、スクラブ半径をポジティブスクラブ側に大きくすることができる。そのため、転舵時のタイヤ捻りトルクを小さくでき、転舵に要するラック軸力を低減できる。さらに、本願発明においては、転舵時に車輪に働く横力によって、仮想ロアピボット点が車体内側に移動するため、セルフアライニングトルク(SAT)による直進性を高めることができる。
【0034】
以下、サスペンション装置1Bにおけるサスペンションジオメトリについて詳細に検討する。
(ラック軸力成分の分析)
図6は、転舵時におけるラックストロークとラック軸力との関係を示す図である。
図6に示すように、ラック軸力成分には、主にタイヤの捻りトルクと、車輪の持ち上げトルクとが含まれ、これらのうち、タイヤの捻りトルクが支配的である。
したがって、タイヤの捻りトルクを小さくすることで、ラック軸力を低減することができることとなる。
【0035】
(タイヤの捻りトルク最小化)
図7は、転舵時におけるタイヤ接地面中心の軌跡を示す図である。
図7においては、転舵時におけるタイヤ接地面中心の移動量が大きい場合と小さい場合とを併せて示している。
上記ラック軸力成分の分析結果より、ラック軸力を低減するためには、転舵時のタイヤ捻りトルクを最小化することが有効である。
転舵時のタイヤ捻りトルクを最小化するためには、図7に示すように、タイヤ接地面中心の軌跡をより小さくすれば良い。
即ち、タイヤ接地面中心とキングピン接地点を一致させることで、タイヤ捩りトルクを最小化できる。
具体的には、キャスタートレイル0mm、スクラブ半径0mm以上とすることが有効である。
【0036】
(キングピン傾角の影響)
図8は、キングピン傾角とスクラブ半径とを軸とする座標において、ラック軸力の分布の一例を示す等値線図である。
図8においては、ラック軸力が小、中および大の3つの場合における等値線を例として示している。
タイヤ捻りトルク入力に対し、キングピン傾角が大きくなるほど、その回転モーメントが大きくなり、ラック軸力は大きくなる。したがって、キングピン傾角としては、一定の値より小さく設定することが望まれるが、スクラブ半径との関係から、例えばキングピン傾角15度以下とすると、ラック軸力を望ましいレベルまで小さくすることができる。
【0037】
なお、図8における一点鎖線(境界線)で囲んだ領域は、旋回の限界領域において、横力が摩擦の限界を超える値と推定できるキングピン傾角15度より小さく、かつ、上記タイヤ捻りトルクの観点から、スクラブ半径が0mm以上の領域を示している。本実施形態では、この領域(横軸においてキングピン傾角が15度より減少する方向で、縦軸においてスクラブ半径がゼロより増加する方向)を、より設定に適した領域としている。ただし、スクラブ半径が負の領域であっても、他の条件を本実施形態で示すものとすることで、一定の効果を得るものとなる。
【0038】
具体的にスクラブ半径とキングピン傾角とを決定する場合には、例えば、図8に示すラック軸力の分布を示す等値線をn次曲線(nは2以上の整数)として近似し、上記一点鎖線で囲んだ領域の中から、n次曲線の変曲点(またはピーク値)の位置によって定めた値を採用することができる。
【0039】
(サスペンション装置の具体的構成例)
次に、サスペンション装置1Bを実現する具体的な構成例について説明する。
図9は、サスペンション装置1Bをコンプレッション型のサスペンション装置によって構成した例を示す模式図である。
即ち、図9に示す例では、車両上面視でトランスバースリンク37(テンションロッド)が車軸に沿い、コンプレッションリンク38(コンプレッションロッド)が車軸から後方に延びた位置で車体と連結している。
【0040】
図9に示すように、コンプレッション型のサスペンション装置において、ロアリンク部材を互いに交差させたダブルピボット方式とした場合、各ロアリンク部材は、車体側支持点を中心に車両前方に回転することで旋回外輪としての転舵が可能となる(破線の状態)。このとき、仮想ロアピボット点は、ロアリンク部材が交差する点となるが、ロアリンク部材が交差していないサスペンション形式よりも車体内側に仮想ロアピボット点を形成できるため、初期スクラブ半径をポジティブスクラブ方向に大きくできる。
【0041】
図9に示すコンプレッション型のサスペンション装置では、転舵時におけるコンプレッションロッドの回転角が大きいため、仮想ロアピボット点は車体内側に移動する。この場合、車両上面視において、タイヤ前後方向におけるタイヤ中心線から仮想ロアピボット点までの距離に着目すると、仮想ロアピボット点がタイヤ中心線よりも車体内側方向に移動するため、スクラブ半径はポジティブスクラブ方向に大きくなる。したがって、コンプレッション型のサスペンション装置では、本発明を適用すると、旋回外輪としての転舵を行うことにより、ラック軸力は小さくなる。
【0042】
ちなみに、ロアリンク部材が交差していないコンプレッション型のサスペンション装置の場合、転舵時におけるコンプレッションロッドの回転角が大きいため、仮想ロアピボット点は車体外側に移動する。この場合、車両上面視において、タイヤ前後方向におけるタイヤ中心線から仮想ピボット点までの距離が、タイヤ中心線よりも車両外側に位置しているため、スクラブ半径は、ネガティブスクラブ方向に大きくなる。したがって、転舵を行うことにより、ラック軸力は大きくなる。
また、図9に示す例では、車両上面視において、転舵時に車輪中心は旋回内側に移動する。そのため、本実施形態の図5に示すように、ラック軸14を車軸より前に位置させることで、ラック軸力を低減させる効果をさらに高めることができる。
【0043】
図10は、ロアリンク部材が交差していないコンプレッション型のサスペンション装置および本発明の場合におけるトー角とスクラブ半径との関係を示す図である。
図10に示すように、本発明の場合、ロアリンク部材を交差させていない場合に比べて、中立位置(トー角が0)付近でのスクラブ半径をより大きくできる。また、旋回外輪となる転舵角が大きくなる方向(図10における−方向)では、スクラブ半径がより大きくなり、ラック軸力をより小さくできる。
【0044】
また、キャスター角を0度とすることは、サスペンション剛性を向上させることができ、また、キャスタートレイル0mmとすることは、キングピン軸KSの路面着地点と横力との関係を示す図11において符号3で示すように、キングピン軸KSの路面着地点がタイヤ接地面におけるタイヤ接地中心点(着力点)Oに一致させることを意味し、これにより大きな横力低減効果を向上させることができる。なお、タイヤ接地中心点(着力点)Oを含むタイヤ接地面内のキングピン軸KSの接地点が符号2及び符号4である場合にも、キングピン軸KSの接地点が符号1及び符号5で示すようにタイヤ接地面から前後方向に外れた位置とする場合に比較して横力を小さくすることができる。特に、キングピン軸KSの接地点がタイヤ接地中心点(着力点)より車両前方側とした場合の方がタイヤ接地中心点(着力点)より車両後方とした場合に比較して横力を小さく抑制することができる。
【0045】
(ポジティブスクラブによる直進性確保)
図12は、ポジティブスクラブとした場合のセルフアライニングトルクを説明する概念図である。この図12において、転舵時にタイヤ接地中心点(着力点)Oに車体の旋回外側に向かう遠心力が作用すると、この遠心力に抗するように旋回中心に向かう横力が発生する。なお、βは横すべり角である。
【0046】
図12に示すように、タイヤに働く復元力(セルフアライニングトルク)は、キャスタートレイル、ニューマチックトレイルの和に比例して大きくなる。
ここで、ポジティブスクラブの場合、キングピン軸の接地点から、タイヤ接地中心を通るタイヤの横すべり角β方向の直線に下ろした垂線の足の位置によって定まるホイールセンタからの距離εc(図12参照)をキャスタートレイルとみなすことができる。
そのため、ポジティブスクラブのスクラブ半径が大きければ大きいほど、転舵時にタイヤに働く復元力は大きくなる。
【0047】
本実施形態においては、キングピン軸の設定をポジティブスクラブとすると共に、ロアリンク部材を交差させない場合に比べて、初期スクラブ半径を大きく確保できることで、キャスター角を0に近づけることによる直進性への影響を低減するものである。また、ステアバイワイヤ方式を採用していることから、転舵アクチュエータ8によって最終的に目的とする直進性を確保することができる。
【0048】
(サスペンション装置の作用)
次に、本実施形態に係るサスペンション装置1Bの作用について説明する。
本実施形態に係るサスペンション装置1Bでは、2つのロアリンク部材をIアームとしている。そして、トランスバースリンク37をアクスルキャリア33から車幅方向に沿って設置し、コンプレッションリンク38をトランスバースリンク37と交差する状態で、アクスルキャリア33の下端から車両後方側に斜行させて設置している。具体的には、トランスバースリンク37の車輪側支持点Taは、車輪中心よりも車両前後方向後側、コンプレッションリンク38の車輪側支持点Caは、車輪中心よりも車両前後方向前側となっている。また、トランスバースリンク37の車体側支持点Tbは、コンプレッションリンク38の車輪側支持点Caよりも車両前後方向後側、コンプレッションリンク38の車体側支持点Cbは、トランスバースリンク37の車輪側支持点Taよりも車両前後方向後側となっている。
【0049】
上記サスペンション構造とした場合、操舵時等に車輪に入力する横力をトランスバースリンク37により多く負担させることができる。また、旋回外輪となったときに、車両内向きの横力が入力した場合、トランスバースリンク37が車両内側、コンプレッションリンク38が車両外側に回転することにより、入力する横力に対して、車輪にトーアウト特性を持たせることができる。
【0050】
また、サスペンション装置1Bでは、車両上面視において、タイロッド15の車輪側支持点Xaがトランスバースリンク37およびコンプレッションリンク38の車輪側支持点Ta,Caよりも車両幅方向外側に位置している。また、タイロッド15の車体側支持点Xb(ボールジョイント位置)が車輪側支持点Xaよりも車両前後方向後側に位置している。
【0051】
上記サスペンション構造とした場合、車両前後方向の力が支配的な状況において、タイヤ接地点に入力した車両前後方向の力(車両後方向きの力)に対し、トランスバースリンク37の車輪側支持点Taは車両内向きに移動する。また、タイロッド15の車輪側支持点Xaは車体側支持点Xbを中心に回転して車両外向きに移動し、コンプレッションリンク38の車輪側支持点Caは車両外向きに移動する。そのため、入力する車両後方向きの力に対して、車輪をトーアウト方向に向けるコンプライアンスステアを実現することができる。
【0052】
また、上記サスペンション構造において、各ロアリンク部材について車体側支持点と車輪側支持点とを結ぶ直線を仮想する。すると、それら直線の交点が、ロアリンクの仮想ロアピボット点となる。この仮想ロアピボット点と、ストラット上端によって構成されるアッパーピボット点とを結ぶ直線がキングピン軸となる。
本実施形態では、このキングピン軸をキャスタートレイルがタイヤ接地面内に位置する設定としている。
【0053】
例えば、キングピン軸の設定を、キャスター角0度、キャスタートレイル0mm、スクラブ半径0mm以上のポジティブスクラブとしている。また、キングピン傾角については、スクラブ半径をポジティブスクラブとできる範囲で、より小さい角度となる範囲(例えば15度以下)で設定する。
このようなサスペンションジオメトリとすることにより、転舵時におけるタイヤ接地面中心の軌跡がより小さいものとなり、タイヤ捻りトルクを低減できる。
【0054】
そのため、ラック軸力をより小さいものとできることから、キングピン軸周りのモーメントをより小さくでき、転舵アクチュエータ8の出力を低減することができる。また、より小さい力で車輪の向きを制御できる。即ち、操縦性・安定性の向上を図ることができる。
本実施形態におけるサスペンション装置1Bでは、2つのロアリンク部材を交差させて設置しているため、仮想ロアピボット点をタイヤ接地面中心よりも車体内側に配置し易い構造となっている。
【0055】
そのため、キングピン傾角を0度に近づけ易くなるとともに、スクラブ半径をポジティブスクラブ側に大きく取ることが容易となる。
また、キャスター角を0度、キャスタートレイルを0mmとしたことに伴い、サスペンション構造上の直進性に影響が生じる可能性があるところ、ポジティブスクラブに設定することにより、その影響を軽減している。さらに、転舵アクチュエータ8による制御と併せて、直進性を確保している。即ち、操縦性・安定性の向上を図ることができる。
【0056】
また、キングピン傾角を一定の範囲に制限したことに対しては、転舵アクチュエータ8での転舵を行うところ、運転者が操舵操作に重さを感じることを回避できる。また、路面からの外力によるキックバックについても、転舵アクチュエータ8によって外力に対抗できるため、運転者への影響を回避できる。即ち、操縦性・安定性の向上を図ることができる。
【0057】
以上のように、本実施形態に係るサスペンション装置1Bでは、トランスバースリンク37を車軸と略平行に設置し、車両上面視において、コンプレッションリンク38をトランスバースリンク37と交差させて配置した。そのため、仮想ロアピボット点を車幅方向において車体内側に近づけることができる。そして、この仮想ロアピボット点が定義するキングピン軸をキングピン傾角が小さいものとし、タイヤ接地面内にキャスタートレイルが位置する設定としたため、キングピン軸周りのモーメントをより小さくすることができる。
【0058】
したがって、より小さいラック軸力で転舵を行うことができると共に、より小さい力で車輪の向きを制御できるため、操縦性・安定性を向上させることができる。
また、キングピン軸周りのモーメントをより小さくすることができる結果、ステアリングラック部材14およびタイロッド15に加わる負荷を低減でき、部材を簡素化することができる。
【0059】
また、ステアバイワイヤを実現するための転舵アクチュエータ8として、駆動能力のより低いものを用いることができ、車両の低コスト化および軽量化を図ることができる。
例えば、従来のステアバイワイヤ方式のサスペンション装置と比較した場合、本発明の構成では、主にロアリンク部材の簡素化と転舵アクチュエータ8の小型化によって、重量において約10%、コストにおいて約50%を低減することができる。
【0060】
また、転舵時においてキャスタートレイルが増加する構造であるため、高い横加速度が発生する旋回において、転舵角の切れ増しが生ずることを抑制できる。
また、転舵時に車輪に働く横力によって、仮想ロアピボット点が車体内側に移動するため、スクラブ半径が増大し、セルフアライニングトルク(SAT)による直進性を高めることができる。
さらに、ロアリンク部材を交差させて設置することにより、ロアリンク部材の支持点を車輪中心に近い位置とできるため、アクスルキャリア33の重量を低減することができる。
【0061】
図13は、本発明におけるキングピン傾角とスクラブ半径との関係を模式的に示す図である。なお、図13においては、本発明を上記コンプレッション型とした場合に加え、本発明をテンション型とした場合、比較例として、ロアリンク部材を交差させない構造のコンプレッション型およびテンション型(第2実施形態参照)とした場合、さらに、シングルピボット方式とした場合を併せて示している。
【0062】
図13に示すように、本発明をコンプレッション型およびテンション型として実現した場合、シングルピボット方式およびロアリンク部材を交差させないダブルピボット方式の各方式に比べ、キングピン傾角を0度に近いものとできると共に、スクラブ半径をポジティブスクラブ側により大きくすることが可能となっている。
特に、本発明をコンプレッション型として実現すると、キングピン傾角を0度に近づける効果、および、スクラブ半径をポジティブスクラブ側により大きくする効果という点で、より高い効果を奏するものとなる。
【0063】
また、本発明においては、トランスバースリンク37を、車軸と略平行に設置し、車両上面視において、トランスバースリンク37の車輪側支持点Taを、車輪中心よりも車両前後方向後側としている。また、コンプレッションリンク38を、トランスバースリンク37よりも車軸に対して傾斜(車輪側支持点がより前側、車体側支持点がより後側となる向きに配置)させて設置している。そして、コンプレッションリンク38の車輪側支持点Caを、車輪中心よりも車両前後方向前側としている。また、トランスバースリンク37の車体側支持点Tbを、コンプレッションリンク38の車輪側支持点Caよりも車両前後方向後側としている。また、コンプレッションリンク38の車体側支持点Cbを、トランスバースリンク37の車輪側支持点Taよりも車両前後方向後側としている。
【0064】
このようなリンク配置とした場合、車輪に入力する横力を主にトランスバースリンク37に受け持たせることができる。また、上記リンク配置では、トランスバースリンク37の車体側支持点Tbを車輪中心よりも車両前後方向前側に位置させている。そのため、車輪に横力(車両内向きの力)が入力したとき、トランスバースリンク37の車輪側支持点Taは車両内向きに移動し、コンプレッションリンク38の車輪側支持点Caは車両外向きに移動する。したがって、入力する横力に対して、車輪をトーアウト方向に向けるコンプライアンスステアを実現することができる。
【0065】
また、本発明においては、タイロッド15の車輪側の支持点Xaがトランスバースリンク37およびコンプレッションリンク38の車輪側支持点Ta,Caよりも車両幅方向外側に位置している。また、タイロッド15の車体側支持点Xbが車輪側支持点Xaよりも車両前後方向後側に位置している。
【0066】
このようなリンク配置とした場合、車両前後方向の力が支配的な状況において、タイヤ接地点に入力した車両前後方向の力(車両後方向きの力)に対し、トランスバースリンク37の車輪側支持点Taは車両内向きに移動する。また、タイロッド15の車輪側支持点Xaは車体側支持点Xbを中心に回転して車両外向きに移動し、コンプレッションリンク38の車輪側支持点Caは車両外向きに移動する。そのため、車輪をトーアウト方向に向けるコンプライアンスステアを実現することができる。
したがって、本発明によれば、車両用サスペンション装置において、車両前後方向の力に対するコンプライアンスステア特性をより適切なものとすることが可能となる。
【0067】
図14は、本発明に係るサスペンション装置1Bと比較例とにおける(a)横力コンプライアンスステアおよび(b)横剛性を示す図である。
図14において、比較例として、ロアリンク部材が交差していないコンプレッション型のサスペンションを想定している。
図14に示すように、本発明に係るサスペンション装置1Bの構成とした場合(図14中の実線)、比較例(図14中の破線)に対し、横力コンプライアンスステアは35%向上し、横剛性は29%向上している。
【0068】
また、図15は、本発明に係るサスペンション装置1Bと比較例とにおける前後力コンプライアンスステアを示す図である。
図15において、比較例として、ロアリンク部材が交差していないコンプレッション型のサスペンションを想定している。
図15に示すように、本発明に係るサスペンション装置1Bの構成とした場合(図15中の実線)、比較例(図14中の破線)に対し、前後力コンプライアンスステアは28%向上している。
なお、本実施形態において、車輪17FR,17FL,17RR,17RLがタイヤホイール、タイヤおよびホイールハブ機構WHに対応し、トランスバースリンク37がトランスバースリンク部材に対応し、コンプレッションリンク38がコンプレッションリンク部材に対応する。また、タイロッド15がタイロッドに対応する。
【0069】
(コントロール/駆動回路の具体的構成例)
次に、コントロール/駆動装置26を実現する具体的な構成例を図16〜図19について説明する。
コントロール/駆動装置26は、図16に示すように、転舵制御装置50を備えている。この転舵制御装置50は、、目標転舵角演算部51、転舵角制御部52、直進性補完部53、外乱補償部54、遅延制御部56、転舵角偏差演算部58、転舵モータ制御部59、電流偏差演算部60及びモータ電流制御部62を備えている。
目標転舵角演算部51は、車速V及び操舵角センサ4で検出した操舵角θsが入力され、これらに基づいて目標転舵角δ*を算出する。
【0070】
転舵角制御部52は、コンプライアンスステアによる転舵輪17FL及び17FRの舵角の変化量Δfl及びΔfrを算出する。これら変化量Δfl及びΔfrは、左右の駆動輪である転舵輪17FL及び17FRの駆動力を配分制御する駆動力制御装置71から出力される左右輪の駆動力TL及びTRとロアリンク37及び38のブッシュの撓みに応じたコンプライアンスステア係数afとに基づいて下記(1)式及び(2)式の演算を行うことにより算出する。そして、算出した変位量Δfl及びΔfrの変位量差を算出して転舵角制御値としてのコンプライアンスステア制御値Ac(=Δfl−Δfr)を算出する。
Δfl=af・TL …………(1)
Δfr=af・TR …………(2)
【0071】
直進性補完部53は、駆動輪駆動力を配分制御する駆動力制御装置71から出力されるからの左右輪の駆動力TL及びTRが入力されると共に、操舵トルクセンサ5で検出された操舵トルクTsが入力され、これらに基づいてセルフアライニングトルクTsaを算出し、算出したセルフアライニングトルクTsaに所定舵角補正ゲインKsaを乗算して直進性担保値としてのセルフアライニングトルク制御値Asa(=Ksa・Tsa)を算出する。
ここで、直進性補完部53におけるセルフアライニングトルクTsaの算出は、先ず、左右輪の駆動力TR及びTLの駆動力差ΔT(=TL−TR)を算出し、算出した駆動力差ΔTをもとに図17に示す発生トルク推定制御マップを参照して、トルクステア現象で転舵時に発生する発生トルクThを推定する。
【0072】
発生トルク推定制御マップは、スクラブ半径が正である、すなわちポジティブスクラブである車両用に設定されている。この発生トルク推定制御マップは、図17に示すように、横軸に駆動力差ΔTを、縦軸に発生トルクThをそれぞれとり、駆動力差ΔTが零から正方向に増加する、すなわち、左輪駆動力TLが右輪駆動力TRを上回って増加するときには、これに比例して発生トルクThが零から車両を右旋回させる方向(正方向)に増加するように設定されている。一方、駆動力差ΔTが零から負方向に増加する、すなわち右輪駆動力TRが左輪駆動力TLを上回って増加するときには、これに比例して発生トルクThが零から車両を左旋回させる方向(負方向)に増加するように設定されている。
【0073】
そして、直進性補完部53では、操舵トルクセンサ5で検出した操舵トルクTsから発生トルクThを減じてセルフアライニングトルクTsaを算出する。
なお、セルフアライニングトルクTsaの算出は、上述したように左右の駆動力差ΔTに基づいて算出する場合に限らず、左右の制動力差に基づいて同様に算出することができる。
【0074】
また、セルフアライニングトルクTsaの算出は、車両のヨーレートγを検出するヨーレートセンサ及び車両の横加速度Gyを検出する横加速度センサを設け、車両の運動方程式に基づいてヨーレートの微分値と横加速度Gyとに基づいて横力Fyを算出し、この横力Fyにニューマチックトレイルεnを乗算することにより、算出することができる。
さらには、ステアリングホイール2の操舵角θsと、セルフアライニングトルクTsaとの関係を車速Vをパラメータとして実測するか又はシミュレーションによって算出した制御マップを参照して操舵角センサ4で検出した操舵角θsと車速Vとに基づいてセルフアライニングトルクTsaを算出することもできる。
【0075】
外乱補償部54は、操舵トルクセンサ5からの操舵トルクTs、転舵アクチュエータ回転角度センサ9からの回転角θmo、及びモータ電流検出部61からのモータ電流imrが入力され、車両に入力される外乱を周波数帯域毎に分離してそれぞれ推定し、これらの外乱を抑制するための外乱補償値Adisを算出する。
【0076】
この外乱補償部54では、例えば特開平2007−237840号公報に記載されているように、運転者による操舵入力である操舵トルクTsと転舵アクチュエータ8による転舵入力を制御入力とし、実際の操舵状態量を制御量とするモデルにおいて、前記制御入力をローパスフィルタに通した値と、前記制御量を前記モデルの逆特性と前記ローパスフィルタとに通した値との差に基づいて外乱を推定する複数の外乱推定部を有する。各外乱推定部は、ローパスフィルタのカットオフ周波数を異ならせることにより、外乱を複数の周波数帯域毎に分離する。
【0077】
そして、外乱補償部54及び直進性補完部53で算出された外乱補償値Adis及びセルフアライニングトルク制御値Asaが加算器55aで加算される。この加算器55aの加算出力と転舵角制御部52で演算されたコンプライアンスステア制御値Acとが加算器55bで加算されて直進性担保制御値δaを算出する。この直進性担保制御値δaは、遅延制御部56に供給される。
【0078】
ここで、図16に示すように、転舵角制御部52、直進性補完部53、外乱補償部54及び加算器55a,55bで直進性担保部SGを構成し、この直進性担保部SGと以下に述べる遅延制御部56とで転舵応答性設定部SRSを構成している。
遅延制御部56は、図16に示すように、操舵開始検出部56a、単安定回路56b、ゲイン調整部56c及び乗算器56dを有する。
【0079】
操舵開始検出部56aは、操舵角センサ4で検出した操舵角θsに基づいて中立位置を維持する状態から右操舵又は左操舵したタイミングを検出して中立状態からの操舵開始を表す操舵開始信号SSを単安定回路56bに出力する。
また、単安定回路56bは操舵開始検出部56aから出力される操舵開始信号に基づいて所定の遅延時間例えば0.1秒の間オン状態となる制御開始遅延信号をゲイン調整部56cに出力する。
【0080】
ゲイン調整部56cは、制御開始遅延信号がオン状態であるときに、制御ゲインGaを“0”に設定し、制御開始遅延信号がオフ状態であるときに制御ゲインGaを“1”に設定し、設定した制御ゲインGaを乗算器56dに出力する。
乗算器56dでは、直進性担保部SGから出力される直進性担保制御値δaが入力され、この直進性担保制御値δaに制御ゲインGaを乗算し、乗算結果を目標転舵角演算部51からの目標転舵角δ*が入力された加算器56eに供給する。
【0081】
したがって、遅延制御部56では、操舵開始検出部56aで中立状態を維持している状態から右操舵又は左操舵を行った操舵開始状態を検出したときに、直進性担保部SGで算出された直進性担保制御値δaを目標転舵角δ*に加算する直進性担保制御を単安定回路56bで設定される所定時間例えば0.1秒間停止させるようにゲイン調整部56cで、直進性担保制御値δaに乗算する制御ゲインGaを“0”に設定する。そして、ゲイン調整部56cでは、0.1秒経過後に単安定回路56bの出力信号がオフ状態に反転すると、ゲイン調整部56cで、直進性担保制御値δaを目標転舵角δ*に加算する直進性担保制御を開始するように制御ゲインGaを“1”に設定する。
【0082】
また、遅延制御部56は、ステアリングホイール2の操舵が継続されているときには、操舵開始検出部56aで中立状態からの操舵開始を検出しないので、単安定回路56bの出力がオフ状態を維持することにより、ゲイン調整部56cで制御ゲインGaが“1”に設定される。このため、直進性担保部SGで演算された直進性担保制御値δaをそのまま加算器56eに供給する。このため、目標転舵角δ*に直進性担保制御値δaと制御ゲインGaとの乗算置Ga・δaが加算されて直進性担保制御が行われる。
【0083】
転舵角偏差演算部58は、加算器56cから出力される目標転舵角δ*に直進性担保制御値δaが加算された加算後目標転舵角δ*aからアクチュエータ8を構成する転舵モータ8aのアクチュエータ回転角度センサ9から出力される実転舵角δrを減算して転舵角偏差Δδを算出し、算出した転舵角偏差Δδを転舵モータ制御部59に出力する。
転舵モータ制御部59は、入力される角度偏差Δδが零となるようにアクチュエータ8を構成する転舵モータ8aの目標駆動電流im*を算出し、算出した目標駆動電流im*を電流偏差演算部60に出力する。
【0084】
電流偏差演算部60は、入力される目標駆動電流im*からアクチュエータ8を構成する転舵モータ8aに供給するモータ電流を検出するモータ電流検出部61から出力される実モータ駆動電流imrを減算して電流偏差Δiを算出し、算出した電流偏差Δiをモータ電流制御部62に出力する。
モータ電流制御部62は、入力される電流偏差Δiが零となるように、すなわち、実モータ駆動電流imrが目標駆動電流im*に追従するようにフィードバック制御し、実モータ駆動電流imrを転舵モータ8aに出力する。
【0085】
ここで、転舵角偏差演算部58、転舵モータ制御部59、電流偏差演算部60、モータ電流検出部61、モータ電流制御部62でアクチュエータ制御装置63が構成されている。このアクチュエータ制御装置63は、転舵アクチュエータ8を構成する転舵モータ8aの回転角度を検出する転舵アクチュエータ回転角度センサ9で検出した回転角度δrが目標転舵角δ*と一致するように制御する。このため、車両が直進走行状態であって、目標転舵角δ*が“0”となったときに、この目標転舵角δ*に回転角度δrが一致するように制御するので、前述した直進性担保部SGを主直進性担保部としたときに、副直進性担保部を構成することになる。
【0086】
(転舵制御装置の作用)
次に、上記第1実施形態における転舵制御装置の作用を図18及び図19を伴って説明する。
今、ステアリングホイール2を中立位置に保持して直進走行しているものとする。
この直進走行状態では、目標転舵角演算部51で演算される目標転舵角δ*が零となる。このとき、ステアリングホイール2が中立位置を保持しているので、左右の駆動輪となる転舵輪17FL及び17FRの駆動力又は制動力が等しくなる。このため、転舵角制御部52で前記(1)式及び(2)式で算出されるコンプライアンスステアによる転舵輪17FL及び17FRの舵角の変位量Δfl及びΔfrは等しい値となる。このため、コンプライアンスステア補正量Acは変位量Δflから変位量Δfr減算した値であるので、コンプライアンスステア補正量Acは零となる。
【0087】
同様に、直進性補完部53でも、駆動力TL及びTRが等しいので、駆動力差ΔTが零となることにより、図17に示す発生トルク推定制御マップを参照して算出される発生トルクThも零となる。一方、直進走行状態でステアリングホイール2を操舵していないので、操舵トルクTsも零であり、セルフアライニングトルクTsaも零となって、セルフアライニングトルク制御値Asaも零となる。
一方、外乱補償部54では、外乱を抑制する回覧補償値Adisが算出される。したがって、直進性担保制御値δaは回覧補償値Adisのみの値となる。この直進性担保制御値δaが遅延制御部56の乗算器56dに供給される。
【0088】
この遅延制御部56では、操舵開始検出部56aで操舵開始が検出されないので、単安定回路56bの出力はオフ状態を維持する。このため、ゲイン調整部56cでは制御ゲインGaが“1”に設定され、この制御ゲインGaが乗算器56dへ供給される。この乗算器56dからは、直進性担保制御値δaがそのまま加算器56eに供給されて、零の目標転舵角δ*に加算される。したがって、外乱補償値Adisに応じた加算後目標転舵角δ*aが算出され、この加算後目標転舵角δ*aに一致するようにアクチュエータ8の転舵モータ8aの転舵角が制御される。このため、外乱の影響を除去した直進走行を行うことができる。
【0089】
したがって、路面の段差や前輪17FR及び17FLの路面摩擦係数が異なることなどにより、路面からの入力による外乱によって前輪17FR及び17FLが転舵された場合には、転舵アクチュエータ8が回転される。これに応じて転舵アクチュエータ回転角度センサ9で検出される回転角θmoが変化することにより、この回転角θmoの変化に応じた外乱補償値Adisが出力される。
【0090】
このため、外乱補償値Adisにしたがって転舵アクチュエータ8が制御されて、サスペンション装置1Bの路面入力による転舵に抗するトルクを発生することができる。したがって、直進性担保部SGでサスペンション装置1Bの直進性を担保することができる。
また、車両の直進走行状態で、外乱補償部54で外乱を検出していない場合には、直進性担保部SGで算出される直進性担保制御値δaが零となり、目標転舵角演算部51から出力される目標転舵角δ*も零となるので、加算器56eから出力される加算後目標転舵角δ*も零となる。
【0091】
このため、アクチュエータ制御装置63によって、転舵アクチュエータ8を構成する転舵モータ8aに転舵角変位が生じると、この転舵角変位を解消するようにアクチュエータ制御装置63でモータ電流imrを出力するので、転舵輪17FR及び16FLが直進走行状態の転舵角に戻される。したがって,アクチュエータ制御装置63で直進性を担保することができる。
【0092】
ところが、ステアリングホイール2を中立位置に保持した直進走行状態を維持している状態からステアリングホイール2を右(又は左)に操舵する状態となると、この直進走行状態からの操舵による旋回状態への移行が操舵開始検出部56aで検出される。
このため、単安定回路56bから所定時間例えば0.1秒間オン状態となる制御遅延信号がゲイン調整部56cに出力される。したがって、ゲイン調整部56cで、制御遅延信号がオン状態を継続している間制御ゲインGaが“0”に設定される。このため、乗算器56dから出力される乗算出力は“0”となり、直進性担保制御値δaの加算器56eへの出力が停止される。
【0093】
したがって、ステアリングホイール2の中立位置から操舵を開始した時点から0.1秒の初期応答期間T1の間は制御ゲインGaが“0”に設定されるので、乗算器56dから出力される乗算出力が“0”となり、目標転舵角δ*に対する直進性担保制御が図19(b)で実線図示のように停止される。
このため、操舵角センサ4で検出した操舵角θsが目標転舵角演算部51に供給され、この目標転舵角演算部51で演算された目標転舵角δ*がそのまま転舵角偏差演算部58に供給される。このため、目標転舵角δ*に一致するように転舵モータ8aが回転駆動される。この間、直進性担保部SGにおける直進性担保制御が停止される。
【0094】
したがって、初期応答期間T1では、キングピン軸KSの路面接地点がタイヤの接地面内の接地中心位置に設定され、且つキャスター角が零に設定されたサスペンション装置1Bによる転舵が開始される。
このとき、サスペンション装置1Bのキャスター角が零に設定されている。このキャスター角と転舵応答性と操縦安定性との関係は、図18(a)に示すように、キャスター角が零であるときには転舵応答性が高い状態をとなるが、操縦安定性を確保することはできない、すなわち、キャスター角に対する転舵応答性と操縦安定性とはトレードオフの関係が存在する。
【0095】
このため、中立位置から操舵を開始した初期状態では、ステアバイワイヤ制御による直進性担保制御は実行されないことにより、この初期転舵をサスペンション装置1Bが賄うことになる。
この初期応答期間T1では、サスペンション装置1Bは、上述したように、キャスター角が零あり、操縦応答性が高いので、図19(a)で実線図示の特性線L1で示すように、一点鎖線図示の特性線L2で示す一般的なステアバイワイヤ形式の操舵系を有する車両における転舵応答特性(ヨーレイト)より高い転舵応答特性(ヨーレイト)とすることができる。このとき、運転者のステアリングホイール2の操舵による操舵角変化に対応した転舵角変化となるので、運転者に違和感を与えることはない。
【0096】
ところが、サスペンション装置1Bによる転舵応答性のみで初期応答期間T1を越えて転舵を継続すると、図19(a)で破線図示の特性線L3のように中期応答帰還T2及び後期応答期間T3で操舵による車両の転舵応答性が敏感になる。また、中期応答期間T2から後期応答期間T3に掛けての車両の内側への巻き込み現象が大きくなってしまう。
【0097】
このため、上記第1実施形態では、図19(b)に示すように、初期応答期間T1が経過する例えば0.1秒後に、転舵角制御部52、直進性補完部53及び外乱補償部54で構成される直進性担保部SGによる目標転舵角δ*に対する直進性担保制御がステップ状に開始される。このため、サスペンション装置1Bによる車両の転舵応答性を抑制して車両のふらつきを抑制するとともに、図19(b)で点線図示のように、ステアバイワイヤ制御によってサスペンション装置1Bの直進性を補完して、操縦安定性を確保することができる。
【0098】
その後、中期応答期間T2が終了する例えば0.3秒経過後には、直進性担保部SGによる直進性担保制御により一般的な車両の転舵応答特性に比較しても転舵応答特性をより抑制してアンダーステア傾向とすることができる。これにより、図19(a)で実線図示の特性線L1で示すように、操縦安定性を向上させることができ、特性線L1で示す理想的な車両の転舵応答特性を実現することができる。
【0099】
以上のように、本実施形態に係る車両の操舵装置によれば、サスペンション装置1Bにおいて、ロアリンクを構成する第1のリンク37と第2のリンク38とが車両上面視で交差され、キングピン軸KSをステアリングホイールが中立位置にある状態で、タイヤ接地面内を通るようにし、タイヤ接地面内にキャスタートレイルを設定しているため、キングピン軸KS周りのモーメントをより小さくすることができる。
【0100】
したがって、第1実施形態でも、より小さいラック軸力で転舵を行うことができると共に、より小さい力で車輪の向きを制御できる。すなわち、操縦性・安定性を向上させることができる。
このように、上記第1実施形態では、少なくともキングピン軸KSがタイヤ接地面内を通るように設定することにより、サスペンション装置1B自体が転舵応答性を向上させた構成とされ、これに加えてステアバイワイヤシステムSBWの直進性担保部SGによって転舵特性を制御する転舵角制御、直進性補完及び外乱補償を行ってサスペンション装置1Bの直進性を担保している。
【0101】
このため、ステアリングホイール2を中立位置に保持している状態から右又は左操舵を行った場合に、初期応答期間T1ではサスペンション装置1B自体の高い転舵応答性を利用して高応答性を確保する。その後、初期応答期間T1を経過して中期応答期間T2に入ると、転舵応答性を重視するよりは操縦安定性を重視する必要があり、ステアバイワイヤシステムSBWにおける遅延制御部56のゲイン調整部56cで制御ゲインGaが“1”に設定されることにより、直進性担保部SGで算出した直進性担保制御値δaによる直進性担保制御を開始する。
【0102】
このため、転舵角制御、直進性補完及び外乱補償等の直進性担保制御が開始されることにより、サスペンション装置1Bによる高い転舵応答性を抑制して操縦安定性を確保する。さらに、後期応答期間T3では、車両の内側への巻き込み現象を抑制するように転舵応答性をさらに低減させてアンダーステア傾向として車両のふらつきをより抑制して理想的な転舵応答性制御を確立することができる。
【0103】
さらに、転舵角制御部52を備えて、コンプライアンスステアによる転舵輪17FL及び17FRの変位量を考慮した直進性担保制御を行うことができる。このため、ロアリンク部材である第1リンク37と第2リンク38との車体1A側の支持部に介挿されるブッシュの剛性を弱く設定することが可能であり、第1リンク37と第2のリンク38とを通じて路面から車体1Aへの振動伝達率を低下させて乗心地を向上させることができる。
【0104】
なお、上記第1実施形態においては、転舵制御装置50をハードウェアで構成する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、例えば目標転舵角演算部51、直進性担保部SGを例えばマイクロコンピュータ等の演算処理装置で構成し、この演算処理装置で、図20に示す転舵制御処理を実行するようにしてもよい。
【0105】
この転舵制御処理は、図20に示すように、先ず、ステップS1で、車速V、操舵角センサ4で検出した操舵角θs、アクチュエータ回転角度センサ9で検出した回転角θmo、駆動力制御装置71の左右輪の駆動力TL,TR、操舵トルクセンサ5で検出した操舵トルクTs等の演算処理に必要なデータを読込む。次いで、ステップS2に移行して、操舵角センサ4で検出した操舵角θsに基づいてステアリングホイール2が中立位置を保持している状態から右又は左に操舵された操舵開始状態であるか否かを判定し、操舵開始状態ではないときにはステップS3に移行する。
【0106】
このステップS4では、操舵開始制御状態であることを表す制御フラグFが“1”にセットされているか否かを判定し、制御フラグFが“0”にリセットされているときには、ステップS4に移行して、制御ゲインGaを“1”に設定してからステップS5に移行する。
このステップS5では、前述した目標転舵角演算部51と同様に車速Vと操舵角θsに基づいて目標転舵角δ*を算出する。
次いで、ステップS6に移行して、前述した転舵角制御部52と同様に、左右輪の駆動力TL及びTRにコンプライアンスステア係数sfを乗算してコンプライアンスステアによる転舵輪17FL及び17FRの変位量Δfl及びΔfrを算出し、これらに基づいてコンプライアンスステア制御値Acを算出する。
【0107】
次いで、ステップS7に移行して、前述した直進性補完部53と同様に、左右輪の駆動力TL及びTRの駆動力差ΔT(=TL−TR)に基づいて図17に示す発生トルク推定制御マップを参照して、トルクステア現象で転舵時に発生する発生トルクThを推定する。そして、この発生トルクThを操舵トルクTsから減算してセルフアライニングトルクTsaを算出し、このセルフアライニングトルクTsaに所定ゲインKsaを乗算してセルフアライニングトルク制御値Asaを算出する。
【0108】
次いで、ステップS8に移行して、転舵アクチュエータ回転角度センサ9からのモータ回転角θmo、操舵トルクTs及びモータ電流検出部61で検出したモータ電流imrに基づいて車両に入力される外乱を周波数帯域毎に分離してそれぞれ推定し、これらの外乱を抑制するための外乱補償値Adisを算出する。
次いで、ステップS9に移行して、目標転舵角δ*と、コンプライアンスステア制御値Acと、セルフアライニングトルク制御値Asaと、外乱補償値Adisとに基づいて下記(3)式の演算を行って加算後目標転舵角δ*aを算出する。
δ*a=δ*+Ga(Ac+Asa+Adis) …………(3)
【0109】
次いで、ステップS10に移行して、ステップS9で算出した加算後目標転舵角δ*aを図16における転舵角偏差演算部58に出力してから前記ステップS1に戻る。
また、ステップS2の判定結果が操舵開始状態であるときにはステップS11に移行して、制御フラグFを“1”にセットしてからステップS12に移行する。さらに、ステップS3の判定結果が、制御フラグFが“1”にセットされているときに直接ステップS12に移行する。
【0110】
このステップS12では、予め設定された遅延時間(例えば0.1秒)が経過したか否かを判定する。このとき、遅延時間が経過していないときには、ステップS13に移行し、制御ゲインGaを“0”に設定してから前記ステップS5に移行して、目標転舵角δ*を算出する。
また、ステップS12の判定結果が、所定の遅延時間(例えば0.1秒)が経過したときには、ステップS14に移行して、制御フラグFを“0”にリセットしてから前記ステップS4に移行して、制御ゲインGaを“1”に設定する。
【0111】
この図20に示す転舵指令角度演算処理でも、ステアリングホイール2が中立位置に保持されている状態から右又は左に操舵が開始された操舵開始状態ではないときには、目標転舵角δ*にコンプライアンスステア制御値Ac、セルフアライニングトルク制御値Asa及び外乱補償値Adisを加算した直進性担保制御値δaを目標転舵角δ*に加算する直進性担保制御が行われる。
【0112】
これに対して、ステアリングホイール2が中立位置に保持されている状態から右又は左に操舵が開始された操舵開始状態であるときには、予め設定された遅延時間が経過するまでは、制御ゲインGaが“0”に設定されるため、直進性担保制御が停止される。このため、目標転舵角δ*のみが転舵角偏差演算部58に出力され、これによって転舵アクチュエータ8を構成する転舵モータ8aが回転駆動される。このため、初期転舵応答性はサスペンション装置自体の高転舵応答性が設定されることになり、高転舵応答性を得ることができる。
【0113】
その後、遅延時間が経過すると、制御ゲインGaが“1”に設定されるため、目標転舵角δ*にコンプライアンスステア制御値Ac、セルフアライニングトルク制御値Asa及び外乱補償値Adisが加算された直進性担保制御値δaを目標転舵角δ*に加えた値によって転舵アクチュエータ8を構成する転舵モータ8aを回転駆動する。このため、サスペンション装置1Bの高転舵応答性が抑制されると共に、サスペンション装置1Bの直進性が担保されて、理想的な転舵応答特性を得ることができる。
この転舵制御処理でも、車両の直進走行状態では、目標転舵角δ*が零となり、外乱が生じない場合には、この目標転舵角δ*が直接図16の転舵角偏差演算部58に供給されるので、前述したと同様にアクチュエータ制御装置63によって直進性が担保される。
【0114】
この図20の処理において、ステップS5の処理が目標転舵角演算部51に対応し、ステップS6の処理が転舵角制御部52に対応し、ステップS7の処理が直進性補完部53に対応し、ステップS5〜S7の処理が直進性担保部に対応しステップS2〜S4、S11〜S14の処理が遅延制御部56に対応し、ステップS2〜S14の処理が転舵応答性設定部SRSに対応している。
また、上記第1実施形態においては、直進性担保部SGを転舵角制御部52、直進性補完部53及び外乱補償部54で構成する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、転舵角制御部52、直進性補完部53及び外乱補償部54の何れか1つ又は2つを省略するようにしてもよい。
【0115】
(第1実施形態の効果)
(1)車軸よりも車両上下方向の下側においてホイールハブ機構WHと車体とを連結し、車軸に沿って配置したトランスバースリンク部材を備える。また、車体との連結部がトランスバースリンク部材と車体との連結部よりも車両前後方向後方に位置すると共に、ホイールハブ機構WHとの連結部がトランスバースリンク部材とホイールハブ機構WHとの連結部よりも車両前後方向前方に位置するコンプレッションリンク部材を備える。さらに、トランスバースリンク部材およびコンプレッションリンク部材のホイールハブ機構WHとの連結部よりも車両幅方向外側においてホイールハブ機構WHと連結し、該ホイールハブ機構WHとの連結部よりも車両前後方向後側において車体と連結し、車輪を転舵させるタイロッド部材を備える。
【0116】
これにより、車両前後方向の力が支配的な状況において、タイヤ接地点に入力した車両前後方向の後方向きの力に対し、トランスバースリンク部材の車輪側の連結部が車両内向きに移動する。また、タイロッド部材の車輪側の連結部は車体側の連結部を中心に回転して車両外向きに移動する。さらに、コンプレッションリンク部材の車輪側の連結部は車両外向きに移動する。
そのため、車輪をトーアウト方向に向けるコンプライアンスステアを実現することができる。
したがって、車両用サスペンション装置において、車両前後方向の力に対するコンプライアンスステア特性をより適切なものとすることが可能となる。
【0117】
(2)トランスバースリンク部材とホイールハブ機構WHとの連結部は車軸よりも車両前後方向後方に位置し、車体との連結部は車軸よりも車両前後方向前方に位置する。
したがって、旋回外輪としての横力が入力したとき、トランスバースリンク部材とホイールハブ機構WHとの連結部を車両内向きに移動させることができるため、旋回外輪にトーアウト特性を与えることができる。
(3)トランスバースリンク部材と車体との連結部は、コンプレッションリンク部材とホイールハブ機構WHとの連結部よりも車両前後方向後方に位置する。
したがって、トランスバースリンク部材を車軸に略平行としつつ、横力が入力した場合の回転方向を一方向に定めることができる。
【0118】
(4)コンプレッションリンク部材とホイールハブ機構WHとの連結部は車軸より車両前後方向前方に位置し、車体との連結部はトランスバースリンク部材とホイールハブ機構WHとの連結部より車両前後方向後方に位置する。
このような構成により、コンプレッションリンク部材の車軸に対する傾斜角を大きくすることができ、仮想ロアピボット点の位置を車体内側により近づけることが可能となる。
【0119】
(5)ステアリングホイールが中立位置である状態で、車両上面視における前記トランスバータリンク部材とコンプレッションリンク部材との交点をロアピボット点とするキングピン軸が、タイヤ接地面内を通るようにした。
このような構成により、キング軸周りのモーメントを最小とすることができるため、さらに小さいラック軸力で転舵を行うことができると共に、より小さい力で車輪の向きを制御できる。
したがって、本実施形態では、サスペンション装置の軽量化を図りながら操縦性・安定性を向上させることができる。
【0120】
(6)車両用サスペンション装置でステアバイワイヤシステムによる転舵輪を懸架することとした。
したがって、ステアバイワイヤシステムにおける転舵アクチュエータを利用して、本発明におけるキャスタートレイルの設定に対応する制御を行うことができ、操縦性・安定性の向上を図ることができる。
【0121】
(7)車両上面視において、車体と車輪とを連結するトランスバースリンク部材およびコンプレッションリンク部材のうち、トランスバースリンク部材を車軸に沿って配置すると共に、コンプレッションリンク部材を車輪側の連結部がより前側かつ車体側の連結部がより後側となるようにトランスバースリンク部材と交差させて設置する。また、車輪を転舵させるタイロッド部材を、トランスバースリンク部材およびコンプレッションリンク部材のホイールハブ機構WHとの連結部よりも車両幅方向外側においてホイールハブ機構WHと連結させ、該ホイールハブ機構WHとの連結部よりも車両前後方向後側において車体と連結させて配置し、車両後向きの前後力に対して、トランスバースリンク部材の車輪側の連結部を車両内向きに移動させると共に、タイロッド部材の車輪側の連結部を車両外向きに移動させる。
【0122】
これにより、車両前後方向の力が支配的な状況において、タイヤ接地点に入力した車両前後方向の後方向きの力に対し、トランスバースリンク部材の車輪側の連結部が車両内向きに移動する。また、タイロッド部材の車輪側の連結部は車体側の連結部を中心に回転して車両外向きに移動する。さらに、コンプレッションリンク部材の車輪側の連結部は車両外向きに移動する。
そのため、車輪をトーアウト方向に向けるコンプライアンスステアを実現することができる。
したがって、車両用サスペンション装置において、車両前後方向の力に対するコンプライアンスステア特性をより適切なものとすることが可能となる。
【0123】
(8)ステアリングホイールの操舵状態に応じてアクチュエータを作動させて転舵輪を転舵する転舵制御装置と、前記転舵輪を車体に支持するサスペンション装置とを備えている。サスペンション装置は、車軸よりも車両上下方向の下側でホイールハブ機構と車体とを連結する第1のリンク部材と第2のリンク部材とを車両上面視で交差させて配置した。また、前記転舵制御部は、前記サスペンション装置の直進性を担保する直進性担保部を備えている。
【0124】
これにより、サスペンション装置のキングピン軸周りのモーメントをより小さくすることができるため、より小さいラック軸力で転舵を行うことができると共に、より小さい力で車輪の向きを制御できる。
したがって、転舵応答性を向上させることができる。このとき、キャスター角を零近傍の値とすることにより、転舵応答性をより高めたサスペンション装置を構成することができる。
そして、サスペンション装置の転舵応答性を確保することによる直進性の低下を直進性担保部で担保することができる。
【0125】
(9)直進性担保部を転舵アクチュエータとアクチュエータ制御装置とを備えたステアバイワイヤシステムで構成している。
これにより、直進性担保部を独立して設ける必要がなく、構成を簡略化することができる。
しかも、直進性担保部としては、転舵応答特性設定部SRSの直進性担保部SGを主直進性担保部とし、アクチュエータ制御装置63を副直進性担保部とすることにより、双方の直進性担保部によって、サスペンション装置の直進性をより確実に担保することができる。
【0126】
(10)ステアリングホイールが中立位置を保持している状態から右又は左に操舵されたときに、遅延制御部により直進性担保部の直進性担保制御を遅らせることにより、初期応答特性をサスペンション装置自体の転舵応答性で賄って高転舵応答性を確保する。その後、サスペンション装置自体の転舵応答性を直進性担保部による直進性担保制御で調整する。
したがって、中立位置から転舵を開始したときに、初期応答特性を高転舵応答性とすることができる。その後、サスペンション装置自体の転舵応答性を直進性担保部による直進性担保制御で調整することにより、理想的な転舵応答性を確保することができる。
【0127】
(11)直進性担保部は、セルフアライニングトルクを推定して直進性を担保している。
したがって、直進性担保部で、サスペンション装置の高応答性を確保することにより低下した直進性をセルフアライニングトルクで担保することができ、操縦・安定性を向上させることができる。
(12)直進性担保部は、少なくともコンプライアンスステアを推定して転舵輪の変位補正を行うようにした。
したがって、サスペンション装置を構成するロアアームの車体側支持部に介挿したブッシュの剛性を低下させることが可能となり、車両の乗心地を向上させることができる。
【0128】
(13)ステアリングホイールを中立位置から操舵を開始したときに、前記ステアパイワイヤシステムの転舵応答性設定部によって、転舵開始初期に前記サスペンション装置自体の転舵応答特性を初期転舵応答特性とし、初期設定時間経過後に前記ステアバイワイヤシステムの直進性担保部で前記転舵アクチュエータの前記サスペンション装置自体の直進性を担保する制御を開始する。
これにより、初期転舵にサスペンション装置の高い転舵応答特性を確保し、初期設定時間経過後に直進性担保部で前記転舵アクチュエータの前記サスペンション装置自体の直進性を担保する制御を行うことができ、理想的な転舵応答特性を得ることができる。
【0129】
(14)前記転舵応答性設定部は、前記ステアリングホイールを中立位置から操舵したときに、初期操舵状態では、前記サスペンション装置自体の転舵応答性で高い転舵応答性を設定し、前記初期操舵状態を経過した操舵状態であるときに、前記直進性担保部による直進性担保制御によって必要とする転舵応答性を設定している。
したがって、サスペンション装置を高い転舵応答特性とし、サスペンション装置の直進性を直進性担保部で担保することで、理想的な転舵応答特性を確保することができる。
【0130】
(15)前記転舵応答性設定部は、ステアリングホイールの中立位置から操舵開始したときに、前記直進性担保部による直進性担保制御の開始を遅らせる遅延制御部を備えている。
このため、遅延制御部で、直進性担保部による直進性担保制御の開始を遅らせるので、初期転舵応答特性をサスペンション装置自体の高転舵応答性とすることができる。
【0131】
(16)前記遅延制御部は、前記直進性担保部による直進性担保制御の開始を調整するゲイン調整部を有している。
これにより、ゲイン調整部で、例えば直進性担保制御における直進性担保制御値に対するゲインを“0”に設定することにより、直進性担保制御を行わず、ゲインを“0”より大きい値例えば“1”に設定することにより、直進性担保制御を開始することができる。このため、ゲイン調整部を設けることにより、直進性担保制御の開始の調整を容易に行うことができる。
【0132】
(17)前記遅延制御部は、直進性担保部による直進性担保制御を前記ステアリングホイールが中立位置を保持している状態から右又は左に操舵した操舵開始タイミングから0.1秒遅延させた後に、前記直進性担保部による直進性担保制御を開始させる。
したがって、初期転舵応答特性をサスペンション装置自体の高転舵応答特性を有効に利用することができ、0.1秒の初期期間が経過した後に直進性担保部による直進性担保制御を開始させて、理想的な転舵応答特性を得ることができる。
【0133】
(18)前記遅延制御部は、前記直進性担保部による直進性担保制御を開始させる場合に、前記直進性担保制御をステップ状に開始させる。
このため、制御開始時点で直ちに転舵角制御や直進性補完によって転舵応答特性を調整することができる。
(19)前記遅延制御部は、前記直進性担保部による直進性担保制御を開始させる場合に、前記直進性担保制御を徐々に開始させる。
このため、制御開始時点で転舵応答特性の変化を滑らかにして運転者に実際の操舵感覚と異なる感触を与えることを抑制することができる。
【0134】
(20)前記転舵制御装置は、操舵角に応じた目標転舵角を演算する目標転舵角演算部と、該目標転舵角演算部で演算した目標転舵角に前記直進性担保部の直進性担保制御値を加える加算器と、該加算器の加算出力と前記アクチュエータを構成する転舵モータの回転角度とを一致させるモータ指令電流を形成する転舵モータ制御部と、前記モータ指令電流に一致する前記転舵モータに供給するモータ駆動電流を形成する電流制御部とを備えている。
【0135】
したがって、目標転舵角演算部で、ステアリングホイールの操舵角に応じた目標転舵角を演算し、この目標転舵角に加算器で直進性担保制御値を加算し、転舵モータ制御部で、加算器の加算出力にアクチュエータを構成する転舵モータの回転角度を一致させる目標モータ電流を形成し、モータ電流制御部で目標モータ指令電流に一致させるモータ駆動電流を形成し、これを転舵モータに出力することにより、転舵モータをステアリングホイールの操舵角に応じて駆動制御することができる。ここで、目標転舵角演算部から出力される目標転舵角を転舵応答性制御部で調整しているので、最適な転舵制御を行うことができる。
【0136】
(21)ステアリングホイールを中立位置から操舵したときに、操舵開始初期に前記サスペンション装置自体の高い転舵応答特性を初期転舵応答特性として設定し、初期設定時間経過後に前記直進性担保部による直進性担保制御によって前記サスペンション装置自体の転舵応答特性を必要な転舵応答特性に調整する。
したがって、ステアリングホイールを中立位置から操舵したときに、サスペンション装置の高転舵応答特性と直進性担保部による直進性担保制御による転舵応答性の調整とによって理想的な転舵応答特性を得ることができる。
【0137】
(第1実施形態の転舵制御装置の変形例)
なお、上記第1実施形態においては、転舵制御装置50において、外乱補償部54を直進性担保部SGに設けた場合について説明した。しかしながら本発明は、上記構成に限定されるものではなく、図21に示すように、外乱補償部54を直進性担保部SGから独立させ、この外乱補償部54から出力される外乱補償値Adisを加算器56eから出力される加算後目標転舵角δ*aに加算器57で加算するようにしてもよい。この場合には、常時目標転舵角δ*に対して外乱補償値Adisを加算するので、操舵開始状態であるか否かに関わらず常時外乱の影響を抑制することができる。
【0138】
また、上記第1実施形態においては、直進性担保部SGを転舵角制御部52、直進性補完部53及び外乱補償部54で構成し、中立状態を維持している状態から右又は左に操舵を開始する操舵開始状態で、初期応答期間T1の間目標転舵角δ*に直進性担保制御値δaを加算する直進性担保制御を行わず、目標転舵角δ*をそのまま転舵角偏差演算部58に入力する場合について説明した。
【0139】
しかしながら、本発明は、上記構成に限定されるものではなく、中立状態を維持している状態から右又は左に操舵を開始する操舵開始状態で、操舵角センサ4で検出した操舵角θsと転舵アクチュエータ回転角度センサ9で検出した回転角θmoとに回転角差を生じる場合がある。この場合に直進性を担保するために、操舵角θsと回転角θmoとの回転角差を補償するトルクを転舵アクチュエータ8で発生させることが好ましい。
【0140】
このためには、図22に示すように、直進性担保部SGから独立した直進性補償部111を設けることが好ましい。この直進性補償部111から出力される直進性補償値Ascは加算器56eから出力される加算後目標転舵角δ*aに加算器57で加算される。
ここで、直進性補償部111の一の構成としては、転舵アクチュエータ回転角度センサ9で検出する転舵アクチュエータ8の回転角θmoに基づいて実転舵角を算出し、算出した実転舵角に基づいて予め設定された実転舵角と直進性補償値Ascとの関係を表す制御マップを参照して実転舵角に応じた直進性補償値Ascを算出する。
【0141】
また、直進性補償部111の他の構成としては、ラック軸14のラック軸力を歪みゲージ等のラック軸力センサ16で検出するか又はラック軸力を推定し、予め設定されたラック軸力と直進性補償値Ascとの関係を表す制御マップを参照して直進性補償値Ascを算出する。
さらに、直進性補償部111のさらに他の構成としては、転舵アクチュエータ回転角度センサ9で検出する転舵アクチュエータ8の回転角θmoに基づいて実転舵角を算出し、算出した実転舵角が中立位置を中心とする所定値以下の範囲内である場合に、予め設定された一定値の直進性補償値Ascを加算後目標転舵角δ*aに加算器57で加算する。
【0142】
また、上記第1実施形態においては、初期期間が終了した時点で直進性担保制御値δaを目標転舵角δ*に加算する直進性担保制御を直ちにステップ状の特性線L10で開始する場合について説明した。しかしながら、本発明は、上記に限定されるものではなく、図19(b)で一点鎖線図示の特性線L12ように、初期期間が経過した後に直進性担保制御値δaを徐々に増加させて補正処理を開始するようにしてもよい。また、図19(b)で点線図示の特性線L13で示すように初期期間の終了前から直進性担保制御値δaを徐々に増加させるようにしてもよい。さらには、図23(b)に示すように、所定の傾きのリニアな特性線L13で直進性担保制御値を徐々に増加させるようにしても良い。
【0143】
これらの特性線の傾きを変化させるには、上述したゲイン調整部56cで設定する制御ゲインGaを“0”及び“1”に設定する場合に代えて、時間の経過と共に、制御ゲインGaを変化させることにより調整することができる。
また、上記第1実施形態では、遅延制御部56のゲイン調整部56cで、ステアリングホイール2が中立位置を維持している状態から操舵を開始した操舵開始状態で、初期期間T1の間制御ゲインGaを“0”に設定し、その他の期間で制御ゲインGaを“1”に設定する場合について説明した。しかしながら、本発明は上記構成に限定されるものではなく、初期期間T1で制御ゲインGaを“1”に設定し、初期期間T1を経過して中期期間T2及び後期期間T3で制御ゲインGaを例えば“0.8”に設定し、その他の期間で制御ゲインGaを“1”に設定し、車両の走行状態に応じてサスペンション装置1Bの直進性担保制御の態様を変化させることもできる。
【0144】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
本実施形態に係る自動車1の機能構成は、第1実施形態における図1と同様である。
一方、本実施形態に係る自動車1は、サスペンション装置1Bの構成が第1実施形態と異なっている。
したがって、以下、サスペンション装置1Bの構成について説明する。
図23は、第2実施形態に係るサスペンション装置1Bの構成を模式的に示す斜視図である。図24は、図23のサスペンション装置1Bの構成を模式的に示す平面図である。図25は、図23のサスペンション装置1Bの構成を模式的に示す(a)部分正面図および(b)部分側面図である。図26は、図23のサスペンション装置1Bの構成を模式的に示す(a)部分平面図(左前輪)および(b)タイヤ接地面(右前輪)を示す図である。
【0145】
図23から図26示すように、サスペンション装置1Bは、ホイールハブに取り付けられた車輪17FR,17FLを懸架するテンション型のサスペンション装置であり、車輪17FR,17FLを回転自在に支持する車軸(アクスル)32を有するアクスルキャリア33、車体側の支持部から車体幅方向に配置されてアクスルキャリア33に連結する複数のリンク部材、及びコイルスプリング等のバネ部材34を備えている。
【0146】
複数のリンク部材は、ロアリンク部材であるトランスバースリンク(トランスバースリンク部材)137とテンションリンク(テンションリンク部材)138、タイロッド(タイロッド部材)15、および、ストラット(バネ部材34およびショックアブソーバ40)から構成されている。本実施形態において、サスペンション装置1Bはストラット式のサスペンションであり、バネ部材34およびショックアブソーバ40が一体となったストラットの上端が、車軸32より上方に位置する車体側の支持部に連結する(以下、ストラットの上端を適宜「アッパーピボット点」と称する。)。
【0147】
ロアリンクを構成するトランスバースリンク137とテンションリンク138は、車軸32より下方に位置する車体側の支持部とアクスルキャリア33の下端とを連結する。本実施形態において、トランスバースリンク137とテンションリンク138とは、独立した部材からなるIアームとなっている。これらトランスバースリンク137およびテンションリンク138は、車体側と各1箇所の支持部で連結し、車軸32側と各1箇所の取り付け部で連結している。さらに、本実施形態におけるトランスバースリンク137とテンションリンク138とは、互いに交差した状態で車体1Aと車軸32側(アクスルキャリア33)とを連結する(以下、トランスバースリンク137とテンションリンク138とが構成する仮想リンクの交点を適宜「ロアピボット点」と称する。)。
【0148】
これらロアリンクのうち、トランスバースリンク137は、車軸と略平行に設置してあり、車両上面視において、トランスバースリンク137の車輪側支持点Taは、車輪中心(車軸)よりも車両前後方向前側となっている。また、テンションリンク138は、トランスバースリンク137よりも車軸に対して傾斜(車輪側支持点がより後側、車体側支持点がより前側となる向きに配置)させて設置してある。そして、テンションリンク138の車輪側支持点Caは、車輪中心よりも車両前後方向後側となっている。また、トランスバースリンク137の車体側支持点Tbは、テンションリンク138の車輪側支持点Caよりも車両前後方向前側となっている。また、テンションリンク138の車体側支持点Cbは、トランスバースリンク137の車輪側支持点Taよりも車両前後方向前側となっている。
【0149】
この第2実施形態でも、前述した第1実施形態と同様に、ステアリングホイール2が中立位置にある状態で、上記サスペンション装置1Bのトランスバースリンク137及びテンションロッド138の交点をロアピポット点とするキングピン軸KSがタイヤ接地面内を通り、キャスタートレイルがタイヤ接地面内を通るよう設定している。
【0150】
このようなリンク配置とした場合、図26(b)に示すように、転舵時にタイヤ接地中心点(着力点)Oに車体の旋回外側に向かう遠心力が作用したときに、この遠心力に抗するように旋回中心に向かう横力を主にトランスバースリンク137に受け持たせることができる。また、上記リンク配置では、トランスバースリンク137の車体側支持点Tbを車輪中心よりも車両前後方向後側に位置させている。そのため、車輪に横力(車両内向きの力)が入力したとき、トランスバースリンク137の車輪側支持点Taは車両内向きに移動し、テンションリンク138の車輪側支持点Caは車両外向きに移動する。したがって、入力する横力に対して、車輪をトーイン方向に向けるコンプライアンスステアを実現することができる。
【0151】
タイロッド15は、車軸32の下側に位置して、ステアリングラック部材14とアクスルキャリア33を連結し、ステアリングラック部材14は、ステアリングホイール2から入力した回転力(操舵力)を伝達して転舵用の軸力を発生させる。従って、タイロッド15により、ステアリングホイール2の回転に応じてアクスルキャリア33に車幅方向の軸力が加わり、アクスルキャリア33を介して車輪17FR,17FLを転舵する。
【0152】
本実施形態に係るサスペンション装置1Bでは、車両上面視において、タイロッド15の車輪側(アクスルキャリア33側)の支持点Xaがトランスバースリンク37およびコンプレッションリンク38の車輪側支持点Ta,Caよりも車両幅方向外側に位置している。また、タイロッド15の車体側支持点Xb(ボールジョイント位置)が車輪側支持点Xaよりも車両前後方向後側に位置している。なお、上述の通り、テンションリンク138の車輪側支持点Caが車輪中心よりも車両前後方向後側、トランスバースリンク137の車輪側支持点Taが車輪中心よりも車両前後方向前側に位置している。また、トランスバースリンク137の車体側支持点Taがテンションリンク138の車輪側支持点Caよりも車両前後方向前側、テンションリンク138の車体側支持点Cbがトランスバースリンク137の車輪側支持点Taよりも車両前後方向前側に位置している。
【0153】
このようなリンク配置としたため、車両前後方向の力が支配的な状況(比較的強い制動を行っている旋回制動時等)において、タイヤ接地点に入力した車両前後方向の力(車両後方向きの力)に対し、タイロッド15の車輪側支持点Xaは車体側支持点Xbを中心に回転して車両外向きに移動し、テンションリンク138の車輪側支持点Caは車両内向きに移動する。また、トランスバースリンク137の車輪側支持点Taは車両外向きに移動する。そのため、車輪をトーアウト方向に向けるコンプライアンスステアを実現することができる。即ち、車両の前後方向コンプライアンスステアを確保することができる。
【0154】
本願発明においては、図26(b)に示すように、上記サスペンション装置1Bのキングピン軸を、キャスタートレイルがタイヤ接地面内に位置するよう設定している。より具体的には、本実施形態におけるサスペンション装置1Bでは、キャスター角をゼロに近い値とし、キャスタートレイルがゼロに近づくようにキングピン軸を設定している。これにより、転舵時のタイヤ捻りトルクを低減でき、キングピン軸周りのモーメントをより小さくすることができる。また、スクラブ半径はゼロ以上のポジティブスクラブとしている。これにより、転舵時のタイヤ横滑り角に対し、スクラブ半径分のキャスタートレイルが生じることから、直進性を確保することができる。
【0155】
また、本願発明においては、ロアリンク部材であるトランスバースリンク137およびテンションリンク138は、互いに交差した状態で車体1Aと車軸32側(アクスルキャリア33下端)を連結している。これにより、トランスバースリンク137およびテンションリンク138が交差していない構造に比べて、初期キングピン傾角を小さくすることができると共に、初期スクラブ半径をポジティブスクラブ側に大きくすることができる。そのため、転舵時のタイヤ捻りトルクを小さくでき、転舵に要するラック軸力を低減できる。さらに、本願発明においては、転舵時に車輪に働く横力によって、仮想ロアピボット点が車体外側に移動するため、操舵応答性を高めることができる。
【0156】
(具体的構成例)
図27は、サスペンション装置1Bをテンション型のサスペンション装置によって構成した例を示す模式図である。
図27に示すように、テンション型のサスペンション装置において、ロアリンク部材を互いに交差させたダブルピボット方式とした場合、各ロアリンク部材は、車体側支持点を中心に車両前方に回転することで旋回外輪としての転舵が可能となる(破線の状態)。このとき、仮想ロアピボット点は、ロアリンク部材が交差する点となるが、ロアリンク部材が交差していないサスペンション形式よりも車体内側に仮想ロアピボット点を形成できるため、初期スクラブ半径をポジティブスクラブ方向に大きくできる。
【0157】
図27に示すテンション型のサスペンション装置では、転舵時におけるテンションロッドの回転角が大きいため、仮想ロアピボット点は車体外側に移動する。この場合、車両上面視において、タイヤ前後方向におけるタイヤ中心線から仮想ロアピボット点までの距離に着目すると、仮想ロアピボット点がタイヤ中心線よりも車体外側方向に移動するため、スクラブ半径はポジティブスクラブの範囲内でより小さくなる。したがって、テンション型のサスペンション装置では、本発明を適用すると、旋回外輪としての転舵を行うことにより、ラック軸力は大きくなるが、転舵しない場合の初期スクラブ半径は十分大きく取れているため、ロアリンク部材が交差していないテンション型のサスペンション装置に比べて、ラック軸力値は小さく設定できる。
【0158】
ちなみに、ロアリンク部材が交差していないテンション型のサスペンション装置の場合、転舵時におけるテンションロッドの回転角が大きいため、仮想ロアピボット点は車体内側に移動する。この場合、車両上面視において、タイヤ前後方向におけるタイヤ中心線から仮想ピボット点までの距離が、タイヤ中心線よりも車体内側に位置しているため、スクラブ半径は、ポジティブスクラブ方向に大きくなる。したがって、転舵を行うことにより、ラック軸力は小さくなる。しかしながら、仮想ロアピボット点は、各リンクの延長線上にあるため、転舵しない初期状態でのスクラブ半径が小さく、ラック軸力の大幅な低減につながりにくい。
【0159】
(第2実施形態の作用)
次に、本実施形態に係るサスペンション装置1Bの作用について説明する。
本実施形態に係るサスペンション装置1Bでは、2つのロアリンク部材をIアームとしている。そして、トランスバースリンク137をアクスルキャリア33から車幅方向に沿って設置し、テンションリンク138をトランスバースリンク137と交差する状態で、アクスルキャリア33の下端から車両前方側に斜行させて設置している。具体的には、トランスバースリンク137の車輪側支持点Taは、車輪中心よりも車両前後方向前側、テンションリンク138の車輪側支持点Caは、車輪中心よりも車両前後方向後側となっている。また、トランスバースリンク137の車体側支持点Tbは、テンションリンク138の車輪側支持点Caよりも車両前後方向前側、テンションリンク138の車体側支持点Cbは、トランスバースリンク137の車輪側支持点Taよりも車両前後方向前側となっている。
【0160】
上記サスペンション構造とした場合、操舵時等に車輪に入力する横力をトランスバースリンク137により多く負担させることができる。また、旋回外輪となったときに、車両内向きの横力が入力した場合、トランスバースリンク137が車両内側、テンションリンク138が車両外側に回転することにより、入力する横力に対して、車輪にトーイン特性を持たせることができる。
【0161】
また、サスペンション装置1Bでは、車両上面視において、タイロッド15の車輪側支持点Xaがトランスバースリンク137およびコンプレッションリンク138の車輪側支持点Ta,Caよりも車両幅方向外側に位置している。また、タイロッド15の車体側支持点Xb(ボールジョイント位置)が車輪側支持点Xaよりも車両前後方向後側に位置している。
【0162】
上記サスペンション構造とした場合、車両前後方向の力が支配的な状況において、タイヤ接地点に入力した車両前後方向の力(車両後方向きの力)に対し、トランスバースリンク137の車輪側支持点Taは車両外向きに移動する。また、タイロッド15の車輪側支持点Xaは車体側支持点Xbを中心に回転して車両外向きに移動し、テンションリンク138の車輪側支持点Caは車両内向きに移動する。そのため、車輪をトーアウト方向に向けるコンプライアンスステアを実現することができる。
【0163】
以上のように、本実施形態に係るサスペンション装置1Bでは、トランスバースリンク137を車軸と略平行に設置し、車両上面視において、トランスバースリンク137の車輪側支持点Taを、車輪中心よりも車両前後方向前側としている。また、テンションリンク138を、トランスバースリンク137に対して傾斜(車輪側支持点がより後側、車体側支持点がより前側となる向きに配置)させて設置している。そして、テンションリンク138の車輪側支持点Caを、車輪中心よりも車両前後方向後側としている。また、トランスバースリンク137の車体側支持点Tbを、テンションリンク138の車輪側支持点Caよりも車両前後方向後側、テンションリンク138の車体側支持点Cbを、トランスバースリンク137の車輪側支持点Taよりも車両前後方向前側としている。
【0164】
このようなリンク配置とした場合、車輪に入力する横力を主にトランスバースリンク137に受け持たせることができる。また、上記リンク配置では、トランスバースリンク137の車体側支持点Tbを車輪中心よりも車両前後方向後側に位置させている。そのため、車輪に横力(車両内向きの力)が入力したとき、トランスバースリンク137の車輪側支持点Taは車両内向きに移動し、コンプレッションリンク138の車輪側支持点Caは車両外向きに移動する。したがって、入力する横力に対して、車輪をトーイン方向に向けるコンプライアンスステアを実現することができる。
【0165】
また、本発明においては、タイロッド15の車輪側の支持点Xaがトランスバースリンク137およびコンプレッションリンク138の車輪側支持点Ta,Caよりも車両幅方向外側に位置している。また、タイロッド15の車体側支持点Xbが車輪側支持点Xaよりも車両前後方向後側に位置している。
このようなリンク配置とした場合、車両前後方向の力が支配的な状況において、タイヤ接地点に入力した車両前後方向の力(車両後方向きの力)に対し、トランスバースリンク137の車輪側支持点Taは車両外向きに移動する。また、タイロッド15の車輪側支持点Xaは車体側支持点Xbを中心に回転して車両外向きに移動し、コンプレッションリンク138の車輪側支持点Caは車両内向きに移動する。そのため、車輪をトーアウト方向に向けるコンプライアンスステアを実現することができる。
【0166】
したがって、本発明によれば、車両用サスペンション装置において、車両前後方向の力に対するコンプライアンスステア特性をより適切なものとすることが可能となる。
第1実施形態および第2実施形態において、本発明をコンプレッション型およびテンション型のリンク構造を有するサスペンション装置に適用するものとして説明したが、これら以外の方式のサスペンション装置にも同様に適用することができる。
なお、本実施形態において、車輪17FR,17FL,17RR,17RLがタイヤホイール、タイヤおよびホイールハブ機構WHに対応し、トランスバースリンク137が第1のリンク部材に対応し、テンションリンク138がテンションリンク部材に対応する。また、タイロッド15がタイロッドに対応する。
【0167】
(第2実施形態の効果)
(1)車軸よりも車両上下方向の下側においてホイールハブ機構WHと車体とを連結し、車軸に沿って配置したトランスバースリンク部材を備える。また、車体との連結部が前記トランスバースリンク部材と車体との連結部よりも車両前後方向前方に位置すると共に、前記ホイールハブ機構WHとの連結部が前記トランスバースリンク部材と前記ホイールハブ機構WHとの連結部よりも車両前後方向後方に位置するテンションリンク部材を備える。さらに、トランスバースリンク部材およびコンプレッションリンク部材のホイールハブ機構WHとの連結部よりも車両幅方向外側においてホイールハブ機構WHと連結し、該ホイールハブ機構WHとの連結部よりも車両前後方向後側において車体と連結し、車輪を転舵させるタイロッド部材を備える。
【0168】
これにより、車両前後方向の力が支配的な状況において、タイヤ接地点に入力した車両前後方向の後方向きの力に対し、トランスバースリンク部材の車輪側の連結部が車両外向きに移動する。また、タイロッド部材の車輪側の連結部は車体側の連結部を中心に回転して車両外向きに移動し、コンプレッションリンク部材の車輪側の連結部は車両内向きに移動する。
そのため、車輪をトーアウト方向に向けるコンプライアンスステアを実現することができる。
したがって、車両用サスペンション装置において、車両前後方向の力に対するコンプライアンスステア特性をより適切なものとすることが可能となる。
【0169】
(2)トランスバースリンク部材とホイールハブ機構WHとの連結部は車軸よりも車両前後方向前方に位置し、車体との連結部は車軸よりも車両前後方向後方に位置する。
したがって、旋回外輪としての横力が入力したとき、トランスバースリンク部材とホイールハブ機構WHとの連結部を車両内向きに移動させることができるため、旋回外輪にトーイン特性を与えることができる。
【0170】
(3)トランスバースリンク部材と車体との連結部は、テンションリンク部材とホイールハブ機構WHとの連結部よりも車両前後方向前方に位置する。
したがって、トランスバースリンク部材を車軸に略平行としつつ、横力が入力した場合の回転方向を一方向に定めることができる。
(4)テンションリンク部材とホイールハブ機構WHとの連結部は車軸より車両前後方向後方に位置し、車体との連結部は前記トランスバースリンク部材とホイールハブ機構WHとの連結部より車両前後方向前方に位置する。
このような構成により、テンションリンク部材の車軸に対する傾斜角を大きくすることができ、仮想ロアピボット点の位置を車体内側により近づけることが可能となる。
【0171】
(5)ステアリングホイールが中立位置にある状態で、車両上面視における前記トランスバースリンク部材と前記テンションリンク部材との交点をロアピポット点とするキングピン軸がタイヤ接地面内を通るようにした。
この構成により、キング軸周りのモーメントを最小とすることができるため、さらに小さいラック軸力で転舵を行うことができると共に、より小さい力で車輪の向きを制御できる。
したがって、本実施形態では、サスペンション装置の軽量化を図りながら操縦性・安定性を向上させることができる。
【0172】
(6)車両上面視において、車体と車輪とを連結するトランスバースリンク部材およびテンションリンク部材のうち、トランスバースリンク部材を車軸に沿って配置すると共に、テンションリンク部材を車輪側の連結部がより後側かつ車体側の連結部がより前側となるようにトランスバースリンク部材と交差させて設置する。また、車輪を転舵させるタイロッド部材を、トランスバースリンク部材およびコンプレッションリンク部材のホイールハブ機構WHとの連結部よりも車両幅方向外側においてホイールハブ機構WHと連結させ、該ホイールハブ機構WHとの連結部よりも車両前後方向後側において車体と連結させて配置し、車両後向きの前後力に対して、トランスバースリンク部材の車輪側の連結部を車両外向きに移動させると共に、タイロッド部材の車輪側の連結部を車両外向きに移動させる。
【0173】
これにより、車両前後方向の力が支配的な状況において、タイヤ接地点に入力した車両前後方向の後方向きの力に対し、トランスバースリンク部材の車輪側の連結部が車両外向きに移動する。また、タイロッド部材の車輪側の連結部は車体側の連結部を中心に回転して車両外向きに移動し、コンプレッションリンク部材の車輪側の連結部は車両内向きに移動する。
そのため、車輪をトーアウト方向に向けるコンプライアンスステアを実現することができる。
したがって、車両用サスペンション装置において、車両前後方向の力に対するコンプライアンスステア特性をより適切なものとすることが可能となる。
【0174】
(応用例1)
第1および第2実施形態において、サスペンション装置1Bを転舵輪である前輪のサスペンション装置に適用する場合を例に挙げて説明したが、サスペンション装置1Bを非転舵輪である後輪のサスペンション装置に適用することも可能である。
この場合、転舵によって車両が旋回状態となり、後輪に横力が作用すると、その横力によって、テンションリンクおよびコンプレッションリンクが撓み、それらの車両上面視における交点が移動して、車体に対する車輪の向きが変化する(図9,27参照)。即ち、車軸に沿うロアリンク部材は横力による前後方向への移動が少なく、車軸に対して前後方向に角度をもって設置した他方のロアリンク部材は横力による前後方向への移動が大きいものとなる。
この特性を利用して、目的とする横力コンプライアンスステアを実現することができる。
特に、第2実施形態におけるテンション型のサスペンション装置1Bは、旋回外輪をトーイン方向に向ける特性を実現できるため、後輪のサスペンション装置として利用すると効果的である。
【0175】
(効果)
車軸よりも車両上下方向の下側でホイールハブ機構WHと車体とを連結する第1のリンク部材と第2のリンク部材とを車両上面視で交差させて配置した。
これにより、旋回時における横力によってリンク部材に撓みが生じ、車両上面視におけるリンク部材の交点が移動することにより、車体に対する車輪の向きを変化させることができる。
したがって、目的とする横力コンプライアンスステアを実現することができる。
【0176】
(応用例2)
第1および第2実施形態において、サスペンション装置1Bを転舵輪である前輪のサスペンション装置に適用する場合を例に挙げて説明したが、サスペンション装置1Bを転舵輪である後輪のサスペンション装置に適用することも可能である。
この場合にも、第1実施形態と同様に、仮想ロアピボット点を車幅方向において車体内側に近づけることができる。そして、この仮想ロアピボット点が定義するキングピン軸を、タイヤ接地面内にキャスタートレイルが位置する設定としたため、キングピン軸周りのモーメントをより小さくすることができる。
したがって、より小さいラック軸力で転舵を行うことができると共に、より小さい力で車輪の向きを制御できるため、操縦性・安定性を向上させることができる。
【0177】
(応用例3)
第1および第2実施形態では、タイヤ接地面内にキャスタートレイルを設定するものとし、その一例として、キャスタートレイルをゼロに近い値とする場合について説明した。
これに対し、本応用例では、キャスタートレイルの設定条件をタイヤ接地面中心からタイヤ接地面の前端までの範囲に限定するものとする。
(効果)
キャスタートレイルをタイヤ接地面中心からタイヤ接地面の前端までに設定すると、直進性の確保と操舵操作の重さの低減を両立できる。即ち、操縦性・安定性の向上を図ることができる。
【0178】
(応用例4)
第1および第2実施形態においては、図8に示す座標平面において、一点鎖線で囲んだ領域を設定に適する領域として例に挙げた。これに対し、注目するラック軸力の等値線を境界線とし、その境界線が示す範囲より内側の領域(キングピン傾角の減少方向でスクラブ半径の増加方向)を設定に適する領域とすることができる。
(効果)
ラック軸力の最大値を想定して、その最大値以下の範囲にサスペンションジオメトリを設定することができる。
【0179】
(応用例5)
第1および第2実施形態および各応用例では、ステアバイワイヤ方式の操舵装置を備える車両にサスペンション装置1Bを適用する場合を例に挙げて説明したが、ステアバイワイヤ方式ではなく、機械的な操舵機構の操舵装置を備える車両にサスペンション装置1Bを適用することが可能である。
この場合、キングピン軸を上記検討結果に基づく条件に従って決定し、キャスタートレイルをタイヤ接地面内に設定した上で、機械的な操舵機構のリンク配置をそれに合わせて構成する。
(効果)
機械的な構造を有する操舵機構においても、キングピン周りのモーメントを低減して運転者に要する操舵力をより小さいものとでき、操縦性・安定性の向上を図ることができる。
【0180】
(応用例6)
第1実施形態、第2実施形態および各応用例においては、ストラット式のサスペンション装置に本発明を適用する場合を例に挙げて説明したが、アッパーアームを備える形式のサスペンション装置に本発明を適用することもできる。
この場合、アッパーアームとアクスルキャリアとの連結点がアッパーピボット点となる。
【0181】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態を図28について説明する。
この第3実施形態では、第1実施形態における転舵制御部50における遅延制御部56の構成を変更したものである。
すなわち、第3実施形態では、遅延制御部56を図28に示すように構成している。この遅延制御部56は、操舵開始検出部56aと、加算器56eと、選択部56gと、ゲイン調整部56hとを備えている。
【0182】
ここで、操舵開始検出部56aは、操舵角センサ4で検出した操舵角θsに基づいてステアリングホイール2が中立状態を例えば直進走行状態を判断できる程度の所定時間維持している状態から右又は左に操舵を開始した操舵開始時点から次に中立位置を検出するまでの間オン状態となる操舵開始検出信号Sssを選択部56gに出力する。
【0183】
選択部56gは、常閉固定端子ta及び常開固定端子tbと、これら固定端子ta及びtbを選択する可動端子tcとを備えている。可動端子tcには、直進性担保部SGから出力される直進性担保制御値δaが入力される。常閉固定端子taは第2のゲイン調整部56iを介して加算器56eに接続されている。常開固定端子tbは、第1のゲイン調整部56hを介して加算器56eに接続されている。
そして、選択部56gは、操舵開始検出部56aから出力される操舵開始検出信号Sssがオフ状態であるときに、可動端子tcが常閉固定端子taを選択する。また、選択部56gは、操舵開始検出信号Sssがオン状態であるときに、可動端子tcが常開固定端子tbを選択する。
【0184】
第1のゲイン調整部56hは、選択部56gを通じて直進性担保制御値δaが入力されたときに、目標転舵角δ*に対する直進性担保制御を予め設定された前述した初期応答期間T1に相当する所定時間例えば0.1秒間停止させる。すなわち、ゲイン調整部56hは選択部56gを通じて直進性担保制御値δaが入力されたときに、最初の例えば0.1秒間の初期応答期間T1の間は直進性担保制御値δaの出力を停止する(すなわち、第1実施形態における制御ゲインGaを“0”に設定したことに相当する)。また、ゲイン調整部56hは、初期応答期間T1が経過した後は直進性担保制御値δaに例えば“0.8”の制御ゲインを乗算して加算器56eに出力する(すなわち、第1実施形態における制御ゲインGaを“1”に設定した場合に近い状態とすることに相当する)。
【0185】
また、第2のゲイン調整部56iは、直進性担保制御値δaに例えば“1”の制御ゲインを乗算して直進走行時の直進性を十分に確保するようにしている。
ここで、第1のゲイン調整部56h及び第2のゲイン調整部56iで設定するゲインについては、0〜1の範囲に限らずサスペンション装置1Bの特性に応じて任意の値に設定することができる。
【0186】
したがって、遅延制御部56では、ステアリングホイール2の操舵が継続されているときには、操舵開始検出部56aで中立状態からの操舵開始を検出しないので、選択部56gによって直進性担保部SGで演算された直進性担保制御値δaを第2のゲイン調整部56iに供給する。このため、直進性担保制御値δaに“1”の制御ゲインが乗算されることにより、直進性担保制御値δaがそのまま加算器56eに供給される。このため、目標転舵角δ*に直進性担保制御値δaが加算されて良好な直進性担保制御が行われる。
【0187】
一方、操舵開始検出部56aで中立状態からの操舵開始を検出したときには、選択部56gが常開固定端子tbに切換えられて、直進性担保部SGで算出された直進性担保制御値δaがゲイン調整部56hに供給される。このため、ゲイン調整部56hで、初期応答期間T1(例えば0.1秒)の間、直進性担保制御値δaの加算器56eへの出力が停止される。したがって、目標転舵角δ*に対する直進性担保制御値δaによる直進性担保制御の開始が遅延される。その後、ゲイン調整部56hでは、所定時間が経過した後に、制御ゲインGaが“0.8”に設定されて直進性担保制御値δaをやや抑制した値となり、これが加算器56eに供給されて目標転舵角δ*に加算される。このため、目標転舵角δ*に対する直進性担保制御が開始され、サスペンション装置1Bに生じるふらつきを抑制しながら理想的な転舵応答特性を得ることができる。
【0188】
その後、ステアリングホイール2が中立位置に戻ると、操舵開始検出部56aから出力される操舵開始検出信号Sssがオフ状態となる。このため、選択部56gで可動端子tcが常閉固定端子ta側に復帰し、直進性担保部SGで算出される直進性担保制御値δaが第2のゲイン調整部56iに供給されて、直進性担保制御値がそのまま加算器56eに供給される。したがって、目標転舵角δ*に対する良好な直進性担保制御が継続される。
【0189】
(第3実施形態の効果)
このように、第3実施形態によっても、ステアリングホイール2が中立状態を維持している状態から右又は左に操舵する操舵開始時に、ゲイン調整部56hで初期応答期間T1となる例えば0.1秒の間に直進性担保制御値δaの加算器56eへの出力を停止する。その後、初期応答期間T1が経過した後に直進性担保制御値δaの加算器56eへの出力を開始する。このため、前述した第1実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0190】
しかも、ステアリングホイール2が中立位置に復帰したときに、操舵開始検出部56aから出力される操舵開始検出信号Sssがオフ状態に復帰するので、この状態で、選択部56gの可動端子tcが常閉固定端子ta側に復帰しても直進性担保制御値δa自体が小さな値となっているので、直進性担保制御の値が不連続となることはなく、円滑な切換えを行うことができる。
【0191】
(第3実施形態の変形例)
なお、上記第3実施形態においては、操舵開始検出部56aで操舵開始状態を検出してから次にステアリングホイール2の中立状態を検出するまで、操舵開始検出信号Sssをオン状態とする場合について説明した。しかしながら、本発明は、上記構成に限定されるものではなく、操舵開始検出部56aで、前述した第1実施形態と同様に、操舵開始状態を検出したときにパルス状の操舵開始検出信号Sssを出力する場合には、第1実施形態と同様に、例えば操舵開始検出時点から後期応答期間T3が終了する迄の間オン状態となる操舵開始検出部56a及び選択部56g間に単安定回路を介挿する。これにより、操舵開始時から後期応答期間T3が終了するまでの間選択部56gの可動端子tcを常開固定端子tb側に切り換えておくようにしてもよい。
【0192】
また、上記第3実施形態では、転舵制御装置50をハードウェアで構成する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、例えば目標転舵角演算部51及び直進性担保部SGを例えばマイクロコンピュータ等の演算処理装置で構成し、この演算処理装置で、図29に示す転舵制御処理を実行するようにしてもよい。
この転舵制御処理は、図29に示すように、先ず、ステップS21で、車速V、操舵角センサ4で検出した操舵角θs、駆動力制御装置71の左右輪の駆動力TL,TR、操舵トルクセンサ5で検出した操舵トルクTs等の演算処理に必要なデータを読込む。次いで、ステップS22に移行して、操舵角θsに基づいてステアリングホイール2が中立位置を保持している状態から右又は左に操舵された操舵開始状態であるか否かを判定し、操舵開始状態ではないときにはステップS23に移行する。
【0193】
このステップS23では、操舵開始制御状態であることを表す制御フラグFが“1”にセットされているか否かを判定し、制御フラグFが“0”にリセットされているときには、ステップS24に移行して、制御ゲインGaを“1”に設定してからステップS25に移行する。
このステップS25では、前述した目標転舵角演算部51と同様に車速Vと操舵角θsに基づいて目標転舵角δ*を算出する。
【0194】
次いで、ステップS26に移行して、前述した転舵角制御部52と同様に、左右輪の駆動力TL及びTRにコンプライアンスステア係数sfを乗算してコンプライアンスステアによる転舵輪17FL及び17FRの変位量Δfl及びΔfrを算出し、これらに基づいてコンプライアンスステア制御値Acを算出する。
次いで、ステップS27に移行して、前述した直進性補完部53と同様に、左右輪の駆動力TL及びTRの駆動力差ΔT(=TL−TR)に基づいて図17に示す発生トルク推定制御マップを参照して、トルクステア現象で転舵時に発生する発生トルクThを推定し、この発生トルクThを操舵トルクTsから減算してセルフアライニングトルクTsaを算出し、このセルフアライニングトルクTsaに所定ゲインKsaを乗算してセルフアライニングトルク制御値Asaを算出する。
【0195】
次いで、ステップS28に移行して、前述した外乱補償部54と同様に、転舵アクチュエータ8の回転角θmo、モータ電流検出部61で検出したモータ電流imr及び操舵トルクTsに基づいて外乱補償値Adisを算出する。
次いで、ステップS29に移行して、下記(4)式にしたがって目標転舵角δ*と、コンプライアンスステア制御値Ac、セルフアライニングトルク制御値Asa、外乱補償値Adisの加算値に制御ゲインGaを乗算した値とを加算して加算後目標転舵角δ*aを算出する。
δ*a=δ*+Ga(Ac+Asa+Adis) …………(4)
【0196】
次いで、ステップS30に移行して、算出した加算後目標転舵角δ*aを図28における転舵角偏差演算部58に出力してから前記ステップS21に戻る。
また、ステップS22の判定結果が操舵開始状態であるときにはステップS31に移行して、制御フラグFを“1”にセットしてからステップS32に移行する。さらに、ステップS23の判定結果が、制御フラグFが“1”にセットされているときに直接ステップS32に移行する。
【0197】
このステップS32では、前述したステップS24と同様に、目標転舵角δ*を算出し、次いでステップS32に移行して、予め設定された遅延時間(例えば0.1秒)が経過したか否かを判定し、遅延時間が経過していないときには、ステップS33に移行し、制御ゲインGaを“0”に設定してから前記ステップS25に移行する。
また、ステップS32の判定結果が、遅延時間が経過したときには、ステップS34に移行して、制御フラグFを“0”にリセットしてから前記ステップS25に移行し、ステップS32の判定結果が、遅延時間が経過していないときには、直接ステップS25に移行する。
【0198】
このステップS35では、操舵角センサ4で検出した操舵角θsがステアリンクホイール2の中立位置を表すか否かを判定する。この判定結果が、中立位置であるときにはステップS36に移行して制御フラグFを“0”にリセットしてから前記ステップS25に移行する。
この図29に示す転舵制御処理でも、ステアリングホイール2が中立位置に保持されている状態から右又は左に操舵が開始された操舵開始状態ではないときには、制御ゲインGaが“1”に設定されるので、目標転舵角δ*にコンプライアンスステア制御値Ac、セルフアライニングトルク制御値Asa及び外乱補償値Adisを加算した直進性担保制御値δaに基づいて転舵制御が行われ、サスペンション装置1Bの直進性が担保される。
【0199】
これに対して、ステアリングホイール2が中立位置に保持されている状態から右又は左に操舵が開始された操舵開始状態であるときには、予め設定された遅延時間が経過するまでは、制御ゲインGaが“0”に設定されるので、目標転舵角δ*のみが転舵角偏差演算部58に出力され、これによって転舵アクチュエータ8を構成する転舵モータ8aが回転駆動される。このため、初期転舵応答性はサスペンション装置自体の高転舵応答性が設定されることになり、高転舵応答性を得ることができる。
【0200】
その後、遅延時間が経過すると、制御ゲインGaが“0.8”に設定されるので、目標転舵角δ*に、コンプライアンスステア制御値Ac、セルフアライニングトルク制御値Asa及び外乱補償値Adisでなる直進性担保制御値δaに制御ゲインGaを乗じた値が加算された加算後目標転舵角δ*aによって転舵アクチュエータ8を構成する転舵モータ8aが回転駆動される。このため、ステアバイワイヤシステムSBWの直進性担保制御によりサスペンション装置の高転舵応答性が抑制されて、図19(a)の特性曲線L1で示す理想的な転舵応答特性を得ることができる。
【0201】
この図29の処理において、ステップS25の処理が目標転舵角演算部51に対応し、ステップS26の処理が転舵角制御部52に対応し、ステップS27の処理が直進性補完部53に対応し、ステップS28の処理が外乱補償部54に対応している。また、ステップS24〜S28の処理及びステップS25〜S29の処理が直進性担保部SGに対応し、ステップS22、S23、S31〜S33及びS29の処理が遅延制御部56に対応し、ステップS21〜ステップS37の処理が転舵応答性設定部SRSに対応している。
【0202】
(第3および第3の実施形態の変形例)
なお、上記第1および第3実施形態では、ステアリングホイール2が中立位置を保持している状態で、右又は左に操舵が開始されたときに、目標転舵角δ*に直進性担保制御値δaを加算する直進性担保制御を停止する場合について説明した。しかしながら、本発明では、上記に限定されるものではなく、図30に示すように、操舵周波数によって目標転舵角δ*に加算する直進性担保制御を行うか否かを判定して、転舵応答性を調整する転舵応答性調処理を行うようにしてもよい。
【0203】
この転舵応答性調整処理は、図30に示すように、ステップS41で、車速V、操舵角θs、回転角θmo、駆動力TL,TR等の演算に必要とするデータを読込む。次いで、ステップS42に移行して、操舵角センサ4から出力される操舵角θsに基づいて操舵周波数Fを検出し、次いでステップS43に移行して、検出した操舵周波数Fが予め設定した周波数閾値Fth(例えば2Hz)を超えているか否かを判定する。
【0204】
このステップS43の判定結果が、F≧Fthであるときには、高転舵応答性が必要であると判断してステップS44に移行し、目標転舵角δ*を算出し、次いでステップS45に移行して、算出した目標転舵角δ*を前述した図16の転舵角偏差演算部58に出力してから前記ステップS41に戻る。
一方、前記ステップS43の判定結果が、F<Fthであるときには、高転舵応答性を必要とせず、操縦安定性が必要であると判断してステップS46に移行して、目標転舵角δ*を算出し、次いでステップS47に移行して、コンプライアンスステア制御値Acを算出し、次いでステップS48に移行して、セルフアライニングトルク制御値Ascを算出する。
【0205】
次いで、ステップS49に移行して、外乱補償値Adisを算出し、次いでステップS50に移行して、算出した目標転舵角δ*、コンプライアンスステア制御値Ac、セルフアライニングトルク制御値Asa及び外乱補償値Adisを加算して加算後目標転舵角δ*aを算出し、次いでステップS51に移行して、加算後目標転舵角δ*aを図20の転舵角偏差演算部58に出力してから前記ステップS41に戻る。
【0206】
この転舵応答性調整処理では、ステアリングホイール2を操舵する操舵周波数Fが周波数閾値Fthより低い低周波数であるときには、高応答性を必要とせず、操縦安定性を必要としていると判断して、目標転舵角δ*に直進性担保制御値δaを加算した加算後目標転舵角δ*aによって、転舵制御を行うことにより、理想的な転舵制御を行うことができる。また、操舵周波数Fが周波数閾値Fthより高い高周波数である場合には、高応答性を必要としているものと判断してサスペンション装置1B自体の転舵応答性に基づいて転舵角制御を行うことができる。
【0207】
この場合には、操舵周波数によって、目標転舵角δ*を補正するか否かを判断するので、操舵状態に応じた最適な応答特性を設定することができる。この場合、F<Fthである場合に、操舵周波数Fの値に応じて直進性担保制御値δaに対する0〜1の間の値に設定されるゲインを乗算することにより、直進性の補正度合いを変更することが可能となり、よりきめ細かな応答性制御を行うことができる。
【0208】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態を図31〜図33について説明する。
この第4実施形態は、直進性担保制御を開始する遅延時間τを可変するようにしたものである。
すなわち、第4実施形態では、図30に示すように、遅延制御部56に遅延時間設定回路56mが設けられている。この遅延時間設定回路56mで設定された遅延時間τが単安定回路56bに供給されて遅延時間τに応じたパルス幅が設定される。
【0209】
遅延時間設定回路56mは、図30に示すように、操舵角速度演算部56n、第1遅延時間演算部56o、第2遅延時間演算部56p及び加算器56qを備えている。
操舵角速度演算部56nは、操舵角センサ4で検出されたステアリングホイール2の操舵角θsが入力され、この操舵角θsを微分して操舵角速度θsvを演算する。
【0210】
第1遅延時間演算部56oは、操舵角速度演算部56nから入力される操舵角速度θsvに基づいて図31に示す第1遅延時間算出マップを参照して第1遅延時間τ1を演算する。この第1遅延時間算出マップは、図31に示すように、操舵角速度θsvが0から所定設定値θsv1までの間は第1の遅延時間τ1が例えば最小遅延時間τmin1(例えば0.04秒)に設定され、操舵角速度θsvが所定設定値θsv1より増加すると、操舵角速度θsvの増加に応じて第1の遅延時間τ1が最大遅延時間τmax1(例えば0.06秒)まで増加するように双曲線状の特性曲線L31が設定されている。
【0211】
第2遅延時間演算部56pは、車両パラメータ取得部21で取得された車速Vが入力され、この車速Vに基づいて図32に示す第2遅延時間算出マップを参照して第2遅延時間τ2を演算する。この第2遅延時間算出マップは、図32に示すように、特性線L32が設定されている。この特性線L32は、車速Vが0から設定車速V1までの間の低車速状態では、第2の遅延時間τ2が例えば最小遅延時間τmax2(例えば0.07秒)を維持する線分L32aに設定されている。そして、車速Vが設定車速V1より増加すると、その増加量に比例して第2の遅延時間τ2が増加するリニアな成分L32bに設定されている。さらに、車速Vが設定車速V1より大きい設定車速V2以上となると第2の遅延時間τ2が最大遅延時間τmin2(例えば0.03秒)に維持される線分L32cに設定されている。
【0212】
加算器56qは、第1遅延時間演算部56oで演算された第1の遅延時間τ1と、第2遅延時間演算部56pで演算された第2の遅延時間τ2とを加算して遅延時間τ(=τ1+τ2)を算出し、遅延時間τを単安定回路56bに供給する。
この単安定回路56bは、操舵開始検出部56aから入力される操舵開始検出信号をトリガとして加算器56qから入力される遅延時間τに応じた区間オン状態となるパルス信号を形成し、このパルス信号をゲイン調整部56cに供給する。
【0213】
この第4の実施形態によると、操舵速度θsvに基づいて設定される第1の遅延時間τ1は、図31に示すように、操舵角速度θsvが遅い場合すなわち緩操舵状態では短い時間に設定され、操舵角速度θsvが速い場合すなわち急操舵状態では長い時間に設定される。逆に、車速Vに基づいて設定される第2の遅延時間τ2は、図32に示すように、車速Vが遅い場合には長い時間に設定され、車速Vが速い場合には短い時間に設定される。
【0214】
そして、第1の遅延時間τ1と第2の遅延時間τ2とが加算器56qで加算されて遅延時間τが算出される。
したがって、遅延時間τは、図33に示すように、車速Vが低い低速領域では操舵速度θsvが遅いときに遅延時間τは最小で0.11秒となり、操舵速度θsvの増加に応じて遅延時間τが増加して最大遅延時間は0.13秒まで増加する。
また、車速Vが中速領域では、遅延時間τは、操舵速度θsvが遅いときには最小で0.09秒となり、操舵速度θsvの増加に応じて遅延時間τが増加して、最大で0.11秒まで増加する。
【0215】
さらに、車速Vが高速領域では、遅延時間τは、操舵速度θvが遅いときには最小で0.07秒となり、操舵速度θsvの増加に応じた遅延時間τが増加して、最大で0.09秒となる。
このため、車速Vが低速領域にあるときには、遅延時間τは全体的に長くなって、遅延時間τ=0.12を中心として±0.01秒の範囲となる。また、中速領域では前述した第3及び第4の実施形態で設定した遅延時間τ=0.10を中心として±0.01秒の範囲となる。さらに、高速領域では遅延時間τ=0.08を中心として±0.01秒の範囲となる。
【0216】
この結果、低車速領域では、直進担保制御の開始が遅くなるので、サスペンション装置1Bで設定される高応答性の転舵応答性で機敏な操舵状態を得ることができる。また、中速領域では、直進担保制御の開始が中庸の範囲となって、適度な操舵応答性の操舵状態を得ることができる。さらに、高速領域では、直進担保制御の開始が速くなるので、サスペンション装置1Bで設定される高追う都政の転舵応答性が早めに抑制されて安定性の良い操舵状態を得ることができる。
【0217】
なお、上記第4実施形態においては、転舵制御装置50をハードウェアで構成する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、例えば目標転舵角演算部51、転舵応答性設定部SRSを例えばマイクロコンピュータ等の演算処理装置で構成し、この演算処理装置で、図35に示す転舵角制御処理を実行するようにしてもよい。
この転舵角制御処理では、前述した図20の転舵角制御処理において、ステップS2とステップS11との間に、操舵角速度θsvを算出するステップS16、第1遅延時間τ1を算出するステップS17、第2遅延時間τ2を算出するステップS18及び遅延時間τを算出するステップS19が介挿されていることを除いては同一の処理を行っている。
【0218】
ここで、ステップS16では、ステップS1で読込んだ操舵角θsを微分して操舵角速度θsvを算出する。また、ステップS17では、ステップS16で算出した操舵角速度θsvをもとにROM等のメモリに記憶した前述した図32の第1遅延時間算出マップを参照して第1遅延時間τ1を算出する。さらに、ステップS18では、ステップS1で読込んだ車速Vをもとに、ROM等のメモリに記憶した前述した図33の第2遅延時間算出マップを参照して第2遅延時間τ2を算出する。さらにまた、ステップS19では、ステップS17で算出した第1遅延時間τ1とステップS18で算出した第2遅延時間τ2とを加算して遅延時間τ(=τ1+τ2)を算出する。
【0219】
そして、前述したステップS11を経てステップS12の処理に移行する。このステップS12の処理で、ステップS18で算出した遅延時間τが経過したか否か判定し、遅延時間τが経過していないときには制御ゲインGaを“0”に設定し、遅延時間τが経過したときに制御ゲインGaを“1”に設定する。これにより、転舵角制御処理を遅延時間τだけ
この図35の転舵角制御処理では、前述した図31の第3の実施形態と同様に、操舵開始状態を検出したときに、操舵角速度θsvに基づいて第1遅延時間τ1を算出し、車速Vに基づいて第2遅延時間τ2を算出し、両者を加算して遅延時間τを算出する。
【0220】
そして、算出した遅延時間τに基づいて制御ゲインGaを決定するので、前述した第3実施形態と同様に車速V及び操舵角速度θsvに基づいて転舵状態に応じた最適な遅延時間τを設定することができる。
したがって、低車速領域では、直進担保制御の開始が遅くなるので、サスペンション装置1Bで設定される高応答性の転舵応答性で機敏な操舵状態を得ることができる。また、中速領域では、直進担保制御の開始が中庸の範囲となって、適度な操舵応答性の操舵状態を得ることができる。さらに、高速領域では、直進担保制御の開始が速くなるので、サスペンション装置1Bで設定される高追う都政の転舵応答性が早めに抑制されて安定性の良い操舵状態を得ることができる。
【0221】
(第4実施形態の効果)
(1)直進性担保制御を開始する遅延時間τを、操舵速度θsvに応じて第1の遅延時間を演算する第1の遅延時間演算部と、車速Vに応じて第2の遅延時間を演算する第2の遅延時間演算部とを設け、第1の遅延時間と第2の遅延時間とを加算部で加算して算出するように構成した。
このため、操舵速度に応じた第1の遅延時間と車速に応じた第2の遅延時間とを個別に設定することが可能となり、様々な操舵状態に応じた最適な遅延時間配分を行うことができる。
【0222】
(2)第1の遅延時間演算部では、操舵角速度をもとに例えば操舵角速度θsvの増加に応じて第1の遅延時間が減少する特性を有する第1遅延時間算出マップを参照して第1遅延時間を算出している。
このため、操舵速度θsvが遅い緩操舵状態では第1の遅延時間を短くして直進性担保制御の開始を早めて安定した操舵特性を確保することができ、操舵速度θsvが速い急操舵状態では第1の遅延時間を長くして直進性担保制御の開始を遅らせて機敏な操舵特性を確保することができる。
【0223】
(3)第2の遅延時間演算部では、車速Vをもとに、車速Vの増加に応じて第2の遅延時間が増加する特性を有する第2遅延時間算出マップを参照して第2遅延時間を算出している。
このため、車速Vが遅い低車速領域では、機敏な操舵特性を確保することができ、車速が速い高車速領域では、安定した操舵特性を確保することができる。
【0224】
(第4の実施形態の応用例1)
上記第4実施形態では、遅延時間演算部56mで、直進担保制御を開始する遅延時間τを操舵速度θsv及び車速Vの双方に基づいて遅延時間τを演算する場合について説明した。しかしながら、本発明は上記構成に限定されるものではなく、図36に示すように、第2の遅延時間演算部56p及び加算器56qを省略して操舵速度θsvに基づいて第1の遅延時間τ1を設定する第1の遅延時間演算部56oのみで遅延時間τを設定するようにしてもよい。
(効果)
この場合には、車速Vにかかわらず、操舵速度θsvに応じた最適な転舵応答特性を得ることができる。
【0225】
(第4実施形態の応用例2)
また、遅延時間演算部56mを、図37に示すように、操舵角速度演算部56n、第1遅延時間演算部56o及び加算器56qを省略して、車速Vに基づいて第2の遅延時間τ2を演算する第2遅延時間演算部56pのみを設けるようにしてもよい。
(効果)
この場合には、操舵速度θsvにかかわらず、車速Vに応じた最適な転舵応答特性を得ることができる。
【0226】
(第4実施形態の応用例3)
さらには、遅延時間演算部56mを、図38に示すように、第1遅延時間演算部56o、第2遅延時間演算部56p及び加算器56qの何れかの遅延時間を任意に選択することが可能な遅延時間選択部56rを設けるようにしてもよい。
(効果)
この場合には、遅延時間選択部56rで運転者の好みに応じた遅延時間を選択することが可能になる。
【0227】
(第4実施形態の変形例)
なおさらに、上記第4実施形態では、第1の遅延時間τ1と第2の遅延時間τ2とを加算器56qで加算して遅延時間τを算出する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、第1の遅延時間τ1と第2の遅延時間τ2とを乗算して遅延時間τを算出するようにしてもよい。この場合には、車速Vに応じて算出される第2の遅延時間を遅延ゲインとして設定し、例えば車速Vに応じて例えば0.7〜1.0の範囲で遅延ゲインを設定するようにすればよい。
さらに、本発明は自動車に適用する場合に限らず、転舵装置を有する他の車両にも適用することができる。
【符号の説明】
【0228】
1…自動車、1A…車体、1B…サスペンション装置、2…ステアリングホイール、3…入力側ステアリング軸、4…操舵角センサ、5…操舵トルクセンサ、6…操舵反力アクチュエータ、7…操舵反力アクチュエータ角度センサ、8…転舵アクチュエータ、9…転舵アクチュエータ角度センサ、10…出力側ステアリング軸、11…転舵トルクセンサ、12…ピニオンギア、14…ステアリングラック部材、15…タイロッド、17FR,17FL,17RR,17RL…車輪、21…車両状態パラメータ取得部、24FR,24FL,24RR,24RL…車輪速センサ、26…駆動回路ユニット、27…メカニカルバックアップ、32…車軸、33…アクスルキャリア、34…バネ部材、37,137…トランスバースリンク(トランスバースリンク部材)、38…コンプレッションリンク(コンプレッションリンク部材)、138…テンションリンク(テンションリンク部材)、40…ショックアブソーバ、50…転舵制御部、51…目標転舵角演算部、52…転舵角制御部、53…直進性補完部、54…外乱補償部、55…加算器、56…遅延制御部、56a…操舵開始検出部、56b…単安定回路、56c…ゲイン調整部、56d…乗算器、56e…加算器、56g…選択部、56h…ゲイン調整部、56m…遅延時間演算部、56n…操舵角速度演算部、56o…第1遅延時間演算部、56p…第2遅延時間演算部、56q…加算器、56r…遅延時間選択部、57…加算器、58…転舵角偏差演算部、59…転舵モータ制御部、60…電流偏差演算部、61…モータ電流検出部、62…モータ電流制御部、63…アクチュエータ制御装置、
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤを取り付けるタイヤホイールと、
前記タイヤホイールを支持するホイールハブ機構と、
車軸よりも車両上下方向の下側において前記ホイールハブ機構と車体とを連結し、車軸に沿って配置したトランスバースリンク部材と、
車軸よりも車両上下方向の下側において前記ホイールハブ機構と車体とを連結し、車体との連結部が前記トランスバースリンク部材と車体との連結部よりも車両前後方向後方に位置すると共に、前記ホイールハブ機構との連結部が前記トランスバースリンク部材と前記ホイールハブ機構との連結部よりも車両前後方向前方に位置するコンプレッションリンク部材と、
前記トランスバースリンク部材および前記コンプレッションリンク部材の前記ホイールハブ機構との連結部よりも車両幅方向外側において前記ホイールハブ機構と連結し、該ホイールハブ機構との連結部よりも車両前後方向後側においてステアリングラック部材と連結し、車輪を転舵させるタイロッド部材と、
を有することを特徴とする車両用サスペンション装置。
【請求項2】
前記トランスバースリンク部材と前記ホイールハブ機構との連結部は車軸よりも車両前後方向後方に位置し、車体との連結部は車軸よりも車両前後方向前方に位置することを特徴とする請求項1記載の車両用サスペンション装置。
【請求項3】
前記トランスバースリンク部材と車体との連結部は、前記コンプレッションリンク部材とホイールハブ機構との連結部よりも車両前後方向後方に位置することを特徴とする請求項1または2記載の車両用サスペンション装置。
【請求項4】
前記コンプレッションリンク部材とホイールハブ機構との連結部は車軸より車両前後方向前方に位置し、車体との連結部は前記トランスバースリンク部材とホイールハブ機構との連結部より車両前後方向後方に位置することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の車両用サスペンション装置。
【請求項5】
タイヤを取り付けるタイヤホイールと、
前記タイヤホイールを支持するホイールハブ機構と、
車軸よりも車両上下方向の下側において前記ホイールハブ機構と車体とを連結し、車軸に沿って配置したトランスバースリンク部材と、
車軸よりも車両上下方向の下側において前記ホイールハブ機構と車体とを連結し、車体との連結部が前記トランスバースリンク部材と車体との連結部よりも車両前後方向前方に位置すると共に、前記ホイールハブ機構との連結部が前記トランスバースリンク部材と前記ホイールハブ機構との連結部よりも車両前後方向後方に位置するテンションリンク部材と、
前記トランスバースリンク部材および前記テンションリンク部材の前記ホイールハブ機構との連結部よりも車両幅方向外側において前記ホイールハブ機構と連結し、該ホイールハブ機構との連結部よりも車両前後方向後側においてステアリングラック部材と連結し、車輪を転舵させるタイロッド部材と、
を有することを特徴とする車両用サスペンション装置。
【請求項6】
前記トランスバースリンク部材と前記ホイールハブ機構との連結部は車軸よりも車両前後方向前方に位置し、車体との連結部は車軸よりも車両前後方向後方に位置することを特徴とする請求項5記載の車両用サスペンション装置。
【請求項7】
前記トランスバースリンク部材と車体との連結部は、前記テンションリンク部材とホイールハブ機構との連結部よりも車両前後方向前方に位置することを特徴とする請求項5または6記載の車両用サスペンション装置。
【請求項8】
前記テンションリンク部材とホイールハブ機構との連結部は車軸より車両前後方向後方に位置し、車体との連結部は前記トランスバースリンク部材とホイールハブ機構との連結部より車両前後方向前方に位置することを特徴とする請求項5から7のいずれか1項に記載の車両用サスペンション装置。
【請求項9】
ステアリングホイールが中立位置である状態で、車両上面視における前記トランスバースリンク部材とコンプレッションリンク部材との交点をロアピボット点とするキングピン軸が、タイヤ接地面内を通ることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の車両用サスペンション装置。
【請求項10】
ステアリングホイールが中立位置である状態で、車両上面視における前記トランスバースリンク部材と前記テンションリンク部材との交点をロアピボット点とするキングピン軸が、タイヤ接地面内を通ることを特徴とする請求項5から8のいずれか1項に記載の車両用サスペンション装置。
【請求項11】
ステアリングホイールの変位を検出し、検出結果に基づいてステアリングラックをアクチュエータで変位させるステアバイワイヤシステムによる転舵輪を懸架することを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の車両用サスペンション装置。
【請求項12】
車両上面視において、車体と車輪とを連結するトランスバースリンク部材およびコンプレッションリンク部材のうち、前記トランスバースリンク部材を車軸に沿って配置すると共に、前記コンプレッションリンク部材を車輪側の連結部がより前側かつ車体側の連結部がより後側となるように前記トランスバースリンク部材と交差させて設置し、車輪を転舵させるタイロッド部材を、前記トランスバースリンク部材および前記コンプレッションリンク部材の前記ホイールハブ機構との連結部よりも車両幅方向外側において前記ホイールハブ機構と連結させ、該ホイールハブ機構との連結部よりも車両前後方向後側においてステアリングラック部材と連結させて配置し、車両後向きの前後力に対して、前記トランスバースリンク部材の車輪側の連結部を車両内向きに移動させると共に、前記タイロッド部材の車輪側の連結部を車両外向きに移動させることを特徴とする車両用サスペンション装置のジオメトリ調整方法。
【請求項13】
車両上面視において、車体と車輪とを連結するトランスバースリンク部材およびテンションリンク部材のうち、前記トランスバースリンク部材を車軸に沿って配置すると共に、前記テンションリンク部材を車輪側の連結部がより後側かつ車体側の連結部がより前側となるように前記トランスバースリンク部材と交差させて設置し、車輪を転舵させるタイロッド部材を、前記トランスバースリンク部材および前記テンションリンク部材の前記ホイールハブ機構との連結部よりも車両幅方向外側において前記ホイールハブ機構と連結させ、該ホイールハブ機構との連結部よりも車両前後方向後側においてステアリングラック部材と連結させて配置し、車両後向きの前後力に対して、前記トランスバースリンク部材の車輪側の連結部を車両外向きに移動させると共に、前記タイロッド部材の車輪側の連結部を車両外向きに移動させることを特徴とする車両用サスペンション装置のジオメトリ調整方法。
【請求項14】
ステアリングホイールの操舵状態に応じてアクチュエータを作動させて転舵輪を転舵する転舵制御装置と、
前記転舵輪を車体に支持するサスペンション装置とを備え、
前記サスペンション装置は、タイヤを取り付けるタイヤホイールと、前記タイヤホイールを支持ホイールハブ機構と、車軸よりも車両上下方向の下側において前記ホイールハブ機構と車体とを連結する第1のリンク部材と、車軸よりも車両上下方向の下側において前記ホイールハブ機構と車体とを連結し、前記第1のリンク部材と車両上面視において交差する第2のリンク部材とを有し、
前記転舵制御装置は、前記サスペンション装置の直進性を担保する直進性担保部を備えていることを特徴とする自動車。
【請求項15】
前記直進性担保部は、ステアリングホイールを操舵したときの操舵角の変位を検出し、検出結果に基づいて転舵輪を転舵させる転舵アクチュエータと該転舵アクチュエータを制御するアクチュエータ制御装置とを備えたステアバイワイヤシステムであることを特徴とする請求項14記載の自動車。
【請求項16】
前記直進性担保部は、セルフアライニングトルクを推定して前記サスペンション装置の直進性を担保することを特徴とする請求項14または15に記載の自動車。
【請求項17】
前記転舵制御装置は、前記ステアリングホイールを中立位置から操舵を開始したときに、前記直進性担保部による直進性担保制御を調整して初期転舵応答性を前記サスペンション装置自体の転舵応答性に設定する転舵応答性設定部を備えていること特徴とする請求項15または16に記載の自動車。
【請求項18】
前記転舵制御装置は、コンプライアンスステアを推定して転舵輪の変位補正を行う転舵角制御部を有することを特徴とする請求項17に記載の自動車。
【請求項19】
前記転舵制御装置は、前記ステアリングホイールを中立位置から操舵を開始したときに、初期転舵状態では、前記サスペンション装置自体の転舵応答性で高い転舵応答性を設定し、前記初期転舵状態を経過した転舵状態であるときに、前記直進性担保部による直進性担保制御によって必要とする転舵応答性を設定すること特徴とする請求項17または18に記載の自動車。
【請求項20】
前記転舵応答性設定部は、前記ステアリングホイールを中立位置から操舵したときに、前記直進性担保部による直進性担保制御を遅らせる遅延制御部を備えていることを特徴とする請求項16から19のいずれか1項に記載の自動車。
【請求項21】
前記遅延制御部は、前記直進性担保部による直進性担保制御の開始を調整するゲイン調整部を有することを特徴とする請求項20に記載の自動車。
【請求項22】
前記転舵制御装置は、操舵角に応じた目標転舵角を演算する目標転舵角演算部と、該目標転舵角演算部で演算した目標転舵角に前記直進性担保部の直進性担保制御値を加える加算器と、該加算器の加算出力と前記転舵アクチュエータを構成する転舵モータの回転角度とを一致させるモータ指令電流を形成する転舵モータ制御部と、前記モータ指令電流に一致する前記転舵モータに供給するモータ駆動電流を形成する電流制御部とを備えていることを特徴とする請求項14から21のいずれか1項に記載の自動車。
【請求項23】
前記遅延制御部は、操舵角センサで検出した操舵角を微分した操舵角速度をもとに第1遅延時間を演算する第1遅延時間演算部と、車速をもとに第2遅延時間を演算する第2遅延時間演算部との少なくとも一方を備えていることを特徴とする請求項20から22のいずれか1項に記載の自動車。
【請求項24】
前記遅延制御部は、操舵角センサで検出した操舵角を微分した操舵角速度をもとに第1遅延時間を演算する第1遅延時間演算部と、車速をもとに第2遅延時間を演算する第2遅延時間演算部と、前記第1遅延時間及び第2遅延時間を加算して遅延時間を算出する加算部とを備えていることを特徴とする請求項20から22のいずれか1項に記載の自動車。
【請求項25】
前記第1遅延時間演算部は、操舵角速度と第1遅延時間との関係を表す第1遅延時間算出マップを有し、操舵角速度をもとに前記第1遅延時間算出マップを参照して第1遅延時間を算出することを特徴とする請求項23または24に記載の自動車。
【請求項26】
前記第2遅延時間演算部は、車速と第2遅延時間との関係を表す第2遅延時間算出マップを有し、操舵角速度をもとに前記第2遅延時間算出マップを参照して第2遅延時間を算出することを特徴とする請求項23または24に記載の自動車。
【請求項1】
タイヤを取り付けるタイヤホイールと、
前記タイヤホイールを支持するホイールハブ機構と、
車軸よりも車両上下方向の下側において前記ホイールハブ機構と車体とを連結し、車軸に沿って配置したトランスバースリンク部材と、
車軸よりも車両上下方向の下側において前記ホイールハブ機構と車体とを連結し、車体との連結部が前記トランスバースリンク部材と車体との連結部よりも車両前後方向後方に位置すると共に、前記ホイールハブ機構との連結部が前記トランスバースリンク部材と前記ホイールハブ機構との連結部よりも車両前後方向前方に位置するコンプレッションリンク部材と、
前記トランスバースリンク部材および前記コンプレッションリンク部材の前記ホイールハブ機構との連結部よりも車両幅方向外側において前記ホイールハブ機構と連結し、該ホイールハブ機構との連結部よりも車両前後方向後側においてステアリングラック部材と連結し、車輪を転舵させるタイロッド部材と、
を有することを特徴とする車両用サスペンション装置。
【請求項2】
前記トランスバースリンク部材と前記ホイールハブ機構との連結部は車軸よりも車両前後方向後方に位置し、車体との連結部は車軸よりも車両前後方向前方に位置することを特徴とする請求項1記載の車両用サスペンション装置。
【請求項3】
前記トランスバースリンク部材と車体との連結部は、前記コンプレッションリンク部材とホイールハブ機構との連結部よりも車両前後方向後方に位置することを特徴とする請求項1または2記載の車両用サスペンション装置。
【請求項4】
前記コンプレッションリンク部材とホイールハブ機構との連結部は車軸より車両前後方向前方に位置し、車体との連結部は前記トランスバースリンク部材とホイールハブ機構との連結部より車両前後方向後方に位置することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の車両用サスペンション装置。
【請求項5】
タイヤを取り付けるタイヤホイールと、
前記タイヤホイールを支持するホイールハブ機構と、
車軸よりも車両上下方向の下側において前記ホイールハブ機構と車体とを連結し、車軸に沿って配置したトランスバースリンク部材と、
車軸よりも車両上下方向の下側において前記ホイールハブ機構と車体とを連結し、車体との連結部が前記トランスバースリンク部材と車体との連結部よりも車両前後方向前方に位置すると共に、前記ホイールハブ機構との連結部が前記トランスバースリンク部材と前記ホイールハブ機構との連結部よりも車両前後方向後方に位置するテンションリンク部材と、
前記トランスバースリンク部材および前記テンションリンク部材の前記ホイールハブ機構との連結部よりも車両幅方向外側において前記ホイールハブ機構と連結し、該ホイールハブ機構との連結部よりも車両前後方向後側においてステアリングラック部材と連結し、車輪を転舵させるタイロッド部材と、
を有することを特徴とする車両用サスペンション装置。
【請求項6】
前記トランスバースリンク部材と前記ホイールハブ機構との連結部は車軸よりも車両前後方向前方に位置し、車体との連結部は車軸よりも車両前後方向後方に位置することを特徴とする請求項5記載の車両用サスペンション装置。
【請求項7】
前記トランスバースリンク部材と車体との連結部は、前記テンションリンク部材とホイールハブ機構との連結部よりも車両前後方向前方に位置することを特徴とする請求項5または6記載の車両用サスペンション装置。
【請求項8】
前記テンションリンク部材とホイールハブ機構との連結部は車軸より車両前後方向後方に位置し、車体との連結部は前記トランスバースリンク部材とホイールハブ機構との連結部より車両前後方向前方に位置することを特徴とする請求項5から7のいずれか1項に記載の車両用サスペンション装置。
【請求項9】
ステアリングホイールが中立位置である状態で、車両上面視における前記トランスバースリンク部材とコンプレッションリンク部材との交点をロアピボット点とするキングピン軸が、タイヤ接地面内を通ることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の車両用サスペンション装置。
【請求項10】
ステアリングホイールが中立位置である状態で、車両上面視における前記トランスバースリンク部材と前記テンションリンク部材との交点をロアピボット点とするキングピン軸が、タイヤ接地面内を通ることを特徴とする請求項5から8のいずれか1項に記載の車両用サスペンション装置。
【請求項11】
ステアリングホイールの変位を検出し、検出結果に基づいてステアリングラックをアクチュエータで変位させるステアバイワイヤシステムによる転舵輪を懸架することを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の車両用サスペンション装置。
【請求項12】
車両上面視において、車体と車輪とを連結するトランスバースリンク部材およびコンプレッションリンク部材のうち、前記トランスバースリンク部材を車軸に沿って配置すると共に、前記コンプレッションリンク部材を車輪側の連結部がより前側かつ車体側の連結部がより後側となるように前記トランスバースリンク部材と交差させて設置し、車輪を転舵させるタイロッド部材を、前記トランスバースリンク部材および前記コンプレッションリンク部材の前記ホイールハブ機構との連結部よりも車両幅方向外側において前記ホイールハブ機構と連結させ、該ホイールハブ機構との連結部よりも車両前後方向後側においてステアリングラック部材と連結させて配置し、車両後向きの前後力に対して、前記トランスバースリンク部材の車輪側の連結部を車両内向きに移動させると共に、前記タイロッド部材の車輪側の連結部を車両外向きに移動させることを特徴とする車両用サスペンション装置のジオメトリ調整方法。
【請求項13】
車両上面視において、車体と車輪とを連結するトランスバースリンク部材およびテンションリンク部材のうち、前記トランスバースリンク部材を車軸に沿って配置すると共に、前記テンションリンク部材を車輪側の連結部がより後側かつ車体側の連結部がより前側となるように前記トランスバースリンク部材と交差させて設置し、車輪を転舵させるタイロッド部材を、前記トランスバースリンク部材および前記テンションリンク部材の前記ホイールハブ機構との連結部よりも車両幅方向外側において前記ホイールハブ機構と連結させ、該ホイールハブ機構との連結部よりも車両前後方向後側においてステアリングラック部材と連結させて配置し、車両後向きの前後力に対して、前記トランスバースリンク部材の車輪側の連結部を車両外向きに移動させると共に、前記タイロッド部材の車輪側の連結部を車両外向きに移動させることを特徴とする車両用サスペンション装置のジオメトリ調整方法。
【請求項14】
ステアリングホイールの操舵状態に応じてアクチュエータを作動させて転舵輪を転舵する転舵制御装置と、
前記転舵輪を車体に支持するサスペンション装置とを備え、
前記サスペンション装置は、タイヤを取り付けるタイヤホイールと、前記タイヤホイールを支持ホイールハブ機構と、車軸よりも車両上下方向の下側において前記ホイールハブ機構と車体とを連結する第1のリンク部材と、車軸よりも車両上下方向の下側において前記ホイールハブ機構と車体とを連結し、前記第1のリンク部材と車両上面視において交差する第2のリンク部材とを有し、
前記転舵制御装置は、前記サスペンション装置の直進性を担保する直進性担保部を備えていることを特徴とする自動車。
【請求項15】
前記直進性担保部は、ステアリングホイールを操舵したときの操舵角の変位を検出し、検出結果に基づいて転舵輪を転舵させる転舵アクチュエータと該転舵アクチュエータを制御するアクチュエータ制御装置とを備えたステアバイワイヤシステムであることを特徴とする請求項14記載の自動車。
【請求項16】
前記直進性担保部は、セルフアライニングトルクを推定して前記サスペンション装置の直進性を担保することを特徴とする請求項14または15に記載の自動車。
【請求項17】
前記転舵制御装置は、前記ステアリングホイールを中立位置から操舵を開始したときに、前記直進性担保部による直進性担保制御を調整して初期転舵応答性を前記サスペンション装置自体の転舵応答性に設定する転舵応答性設定部を備えていること特徴とする請求項15または16に記載の自動車。
【請求項18】
前記転舵制御装置は、コンプライアンスステアを推定して転舵輪の変位補正を行う転舵角制御部を有することを特徴とする請求項17に記載の自動車。
【請求項19】
前記転舵制御装置は、前記ステアリングホイールを中立位置から操舵を開始したときに、初期転舵状態では、前記サスペンション装置自体の転舵応答性で高い転舵応答性を設定し、前記初期転舵状態を経過した転舵状態であるときに、前記直進性担保部による直進性担保制御によって必要とする転舵応答性を設定すること特徴とする請求項17または18に記載の自動車。
【請求項20】
前記転舵応答性設定部は、前記ステアリングホイールを中立位置から操舵したときに、前記直進性担保部による直進性担保制御を遅らせる遅延制御部を備えていることを特徴とする請求項16から19のいずれか1項に記載の自動車。
【請求項21】
前記遅延制御部は、前記直進性担保部による直進性担保制御の開始を調整するゲイン調整部を有することを特徴とする請求項20に記載の自動車。
【請求項22】
前記転舵制御装置は、操舵角に応じた目標転舵角を演算する目標転舵角演算部と、該目標転舵角演算部で演算した目標転舵角に前記直進性担保部の直進性担保制御値を加える加算器と、該加算器の加算出力と前記転舵アクチュエータを構成する転舵モータの回転角度とを一致させるモータ指令電流を形成する転舵モータ制御部と、前記モータ指令電流に一致する前記転舵モータに供給するモータ駆動電流を形成する電流制御部とを備えていることを特徴とする請求項14から21のいずれか1項に記載の自動車。
【請求項23】
前記遅延制御部は、操舵角センサで検出した操舵角を微分した操舵角速度をもとに第1遅延時間を演算する第1遅延時間演算部と、車速をもとに第2遅延時間を演算する第2遅延時間演算部との少なくとも一方を備えていることを特徴とする請求項20から22のいずれか1項に記載の自動車。
【請求項24】
前記遅延制御部は、操舵角センサで検出した操舵角を微分した操舵角速度をもとに第1遅延時間を演算する第1遅延時間演算部と、車速をもとに第2遅延時間を演算する第2遅延時間演算部と、前記第1遅延時間及び第2遅延時間を加算して遅延時間を算出する加算部とを備えていることを特徴とする請求項20から22のいずれか1項に記載の自動車。
【請求項25】
前記第1遅延時間演算部は、操舵角速度と第1遅延時間との関係を表す第1遅延時間算出マップを有し、操舵角速度をもとに前記第1遅延時間算出マップを参照して第1遅延時間を算出することを特徴とする請求項23または24に記載の自動車。
【請求項26】
前記第2遅延時間演算部は、車速と第2遅延時間との関係を表す第2遅延時間算出マップを有し、操舵角速度をもとに前記第2遅延時間算出マップを参照して第2遅延時間を算出することを特徴とする請求項23または24に記載の自動車。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
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【図10】
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【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【公開番号】特開2013−107615(P2013−107615A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−31303(P2012−31303)
【出願日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
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