説明

電動パワーステアリング装置

【課題】 ボールねじの引っ掛かりやコギングトルク等に基づくトルクリップルを有効に抑制することのできる電動パワーステアリング装置を提供すること。
【解決手段】 電流指令値演算部25は、ステアリングの操舵角速度ωsとモータ12の回転角速度ωmをステアリングの操舵角速度に相当する値に換算した換算角速度ωm´との差分値(角速度差分値ωr=ωs−ωm´)に基づいて、電流指令値Iq*の補正成分である角速度差補償量Ir*を演算する角速度差補償量演算部36を備えている。そして、電流指令値演算部25は、この角速度差補償量Ir*をアシスト力の基礎的制御量である基礎アシスト量Ias*に重畳した値を、電流指令値Iq*としてモータ制御信号出力部26に出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動パワーステアリング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常、ステアリングホイール(ステアリング)と操舵輪との間には、複数の減速機構が介在されており、従来、電動パワーステアリング(EPS)においては、こうした減速機構における摩擦(静止摩擦、クーロン摩擦及び粘性摩擦等)、或いはその駆動源であるモータの慣性等の影響を抑制するための摩擦補償制御や慣性補償制御等が行われている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載のEPSでは、車速、並びにモータの回転角速度及び角加速度に基づいて静止摩擦、クーロン摩擦及び粘性摩擦、並びにモータ慣性等を推定し、これらの各補償電流をモータ駆動電流に重畳することによりその影響を抑制する。そして、これにより、ステアリング操作時の引っ掛かり感等を排除して、好適な操舵フィーリングを確保することができる。
【特許文献1】特開2000−103349号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、安定的なステアリング特性を実現しようとした場合、ある程度のステアリング剛性(ステアリング操作時のしっかりとした手応え)を残すことが望ましい。そのため、多くのEPSでは、操舵トルクの絶対値が所定値(1Nm程度)に満たない範囲においてそのアシスト力の付与を行わない所謂アシスト不感帯が設定されている。
【0005】
しかしながら、こうしたアシスト不感帯においては、モータのコギングトルク(図5参照)や、ラックアシスト型EPSにおけるボール送り(ボールねじ)機構の引っ掛かり(図6参照、領域γに示す範囲)が、トルクリップルとして表面化する。そして、人間には比較的遅い周期(数Hz〜10数Hz以下)のトルクリップルを知覚しやすいという特性があることから、運転者は、こうしたトルクリップルを不快に感じやすく、結果として、操舵フィーリングの悪化を招くおそれがある。
【0006】
ところが、上述のように、ステアリングと操舵輪との間には、複数の減速機構、或いはトーションバー等、捻り剛性の低い部材が介在されているため、モータの回転角速度とステアリングの回転角速度(操舵角速度)とは必ずしも一致しない。従って、上記従来例のように、モータの回転角速度(角加速度)に基づきその補償量を決定する方法では、その回転角速度や角加速度の変化が、ステアリング操作に起因するものであるか否かを区別できず、ボールねじの引っ掛かりやコギングトルクのような、定常的に存在する摩擦以外の要因に基づくトルクリップルを有効に補償することができない。それゆえ、こうしたボールねじの引っ掛かりやコギングトルクの発生自体を抑えるため、モータやボール送り機構には高い加工精度が要求されており、これがEPSの製造コストを引き上げる要因の一つとなっている。
【0007】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、ボールねじの引っ掛かりやコギングトルク等に基づくトルクリップルを有効に抑制することのできる電動パワーステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、モータを駆動源として操舵系にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与する操舵力補助装置と、該操舵力補助装置が発生する前記アシスト力を制御する制御手段とを備えた電動パワーステアリング装置であって、ステアリングホイールの操舵角速度を検出する操舵角速度検出手段と、前記モータの回転角速度を検出するモータ角速度検出手段と、前記回転角速度を前記操舵角速度に相当する換算角速度に換算する換算角速度演算手段と、前記アシスト力の基礎制御量を演算する基礎制御量演算手段と、前記操舵角速度と前記換算角速度との差分値に基づいて前記アシスト力の補償量を演算する補償量演算手段とを備え、前記補償量演算手段は、前記差分値が大となるほど大きな値を有する前記補償量を算出し、前記制御手段は、前記基礎制御量に前記補償量を重畳した値を目標として前記アシスト力を制御すること、を要旨とする。
【0009】
請求項2に記載の発明は、ステアリングホイールの操舵トルクを検出する操舵トルク検出手段を備え、前記基礎制御量演算手段は、前記操舵トルクの絶対値が所定値よりも小さい範囲内にある場合には、前記基礎制御量をゼロと算出するものであって、前記制御手段は、前記操舵トルクの絶対値が前記範囲内にある場合に、前記基礎制御量に前記補償量を重畳した値を目標として前記アシスト力を制御すること、を要旨とする。
【0010】
上記各構成によれば、ステアリング剛性を確保するため必要な減速機構の定常的な摩擦を残したまま、ステアリングホイールの操舵角速度と換算角速度との間に生ずる速度差を打ち消すことができ、これにより、ボールねじに生ずる引っ掛かりやコギングトルク等、定常的な摩擦以外の要因に基づくトルクリップルを効果的に打ち消すことができる。さらに、このように両角速度間の速度差を打ち消すように制御することで、モータの慣性や温度変化に伴う摩擦力(静止摩擦、クーロン摩擦及び粘性摩擦等)の変化にも対応することができる。その結果、ボールねじの引っ掛かりやコギングトルク等に基づくトルクリップルを有効に抑制して、好適な操舵フィーリングを得ることができる。そして、モータやボール送り機構に高い加工精度を求める必要がなくなることから、製造コストの上昇を抑えることができるようになる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ボールねじの引っ掛かりやコギングトルク等に基づくトルクリップルを有効に抑制することが可能な電動パワーステアリング装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を電動パワーステアリング装置(EPS)に具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1は、本実施形態のEPS1の概略構成図である。同図に示すように、ステアリングホイール(ステアリング)2が固定されたステアリングシャフト3は、ラックアンドピニオン機構4を介してラック5に連結されており、ステアリング操作に伴うステアリングシャフト3の回転は、ラックアンドピニオン機構4によりラック5の往復直線運動に変換される。そして、このラック5の往復直線運動により操舵輪6の舵角、即ちタイヤ角が可変することにより、車両の進行方向が変更されるようになっている。
【0013】
EPS1は、操舵系にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与する操舵力補助装置としてのEPSアクチュエータ10と、該EPSアクチュエータ10の作動を制御する制御手段としてのEPSECU11とを備えている。
【0014】
本実施形態のEPSアクチュエータ10は、その駆動源であるモータ12がラック5と同軸に配置された所謂ラック型のEPSアクチュエータであり、モータ12が発生するアシストトルクは、ボール送り機構(図示略)を介してラック5に伝達される。尚、本実施形態のモータ12は、ブラシレスモータであり、EPSECU11から三相(U,V,W)の駆動電力の供給を受けることにより回転する。そして、EPSECU11は、このモータ12が発生するアシストトルクを制御することにより、操舵系に付与するアシスト力を制御する(パワーアシスト制御)。
【0015】
本実施形態では、EPSECU11には、操舵トルク検出手段としてのトルクセンサ14及び車速検出手段としての車速センサ15が接続されている。尚、車速センサ15は、車内ネットワーク(CAN:Controller Area Network)を介してEPSECU11と接続されている。そして、EPSECU11は、これらトルクセンサ14及び車速センサ15によりそれぞれ検出される操舵トルクτ及び車速Vに基づいて、EPSアクチュエータ10の作動、即ちパワーアシスト制御を実行する。
【0016】
次に、本実施形態におけるEPSの制御態様について説明する。
図2は、本実施形態のEPSの制御ブロック図である。尚、以下に示す各制御ブロックは、後述するマイコン17が実行するコンピュータプログラムにより実現されるものである。
【0017】
同図に示すように、EPSECU11は、モータ制御信号を出力するマイコン17と、モータ制御信号に基づいてモータ12に三相の駆動電力を供給する駆動回路18とを備えている。
【0018】
本実施形態では、EPSECU11には、モータ12に通電される各相電流値Iu,Iv,Iwを検出するための電流センサ21u,21v、及びモータ12の回転角(電気角)θmを検出するための回転角センサ22が接続されている。そして、マイコン17は、これら各センサの出力信号に基づき検出されたモータ12の各相電流値Iu,Iv,Iw及び回転角θm、並びに上記操舵トルクτ及び車速Vに基づいて駆動回路18にモータ制御信号を出力する。
【0019】
詳述すると、マイコン17は、操舵系に付与するアシスト力の制御目標量である電流指令値Iq*を演算する電流指令値演算部25と、電流指令値演算部25により算出された電流指令値Iq*に基づいてモータ制御信号を出力するモータ制御信号出力部26とを備えている。
【0020】
電流指令値演算部25は、上記トルクセンサ14及び車速センサ15により検出された操舵トルクτ及び車速Vに基づいて電流指令値Iq*を演算し、その電流指令値Iq*をモータ制御信号出力部26に出力する。また、モータ制御信号出力部26には、電流指令値演算部25により算出された電流指令値Iq*とともに、各電流センサ21u,21vにより検出された各相電流値Iu,Iv,Iw及び回転角センサ22により検出された回転角θmが入力される。そして、モータ制御信号出力部26は、これら各相電流値Iu,Iv,Iw、及び回転角θmに基づいて、制御目標量である電流指令値Iq*にモータ12に供給される電流量(実電流値)を追従させるべくモータ制御信号を出力する。
【0021】
尚、本実施形態では、モータ制御信号出力部26は、検出された各相電流値Iu,Iv,Iwをd/q座標系のd,q軸電流値に変換(d/q変換)することにより、上記電流フィードバック制御を行う。
【0022】
即ち、電流指令値Iq*は、q軸電流指令値としてモータ制御信号出力部26に入力され、モータ制御信号出力部26は、回転角θmに基づいて各相電流値Iu,Iv,Iwをd/q変換する。続いて、モータ制御信号出力部26は、そのd,q軸電流値及びq軸電流指令値に基づいてd,q軸電圧指令値を演算し、そのd,q軸電圧指令値をd/q逆変換することにより各相の電圧指令値を算出する。そして、モータ制御信号出力部26は、この電圧指令値に基づいてモータ制御信号を生成し、駆動回路18へと出力する。
【0023】
一方、駆動回路18は、モータ12の相数に対応する複数(6個)のパワーMOSFET(以下、単にFET)により構成されており、具体的にはFET27a,27dの直列回路、FET27b,27eの直列回路及びFET27c,27fの直列回路を並列接続することにより構成されている。そして、FET27a,27dの接続点28uはモータ12のU相コイルに接続され、FET27b,27eの接続点28vはモータ12のV相コイルに接続され、FET27c,27fの接続点28wはモータ12のW相コイルに接続されている。また、各FET27a〜27fのゲート端子には、マイコン17から出力されるモータ制御信号が印加される。そして、このモータ制御信号に応答して各FET27a〜27fがオン/オフすることにより、車載電源29の直流電圧が三相の駆動電力に変換され、モータ12に供給されるようになっている。
【0024】
(ボールねじの引っ掛かり及びコギングトルク補償制御)
次に、本実施形態のEPSにおけるボールねじの引っ掛かりやコギングトルクに起因するトルクリップルの補償制御について説明する。
【0025】
図2に示すように、本実施形態では、電流指令値演算部25は、操舵トルクτ及び車速Vに基づき操舵系に付与するアシスト力の基礎的制御量、即ち電流指令値Iq*の基礎成分である基礎アシスト量Ias*を演算する基礎制御量演算手段としての基礎アシスト量演算部35を備えている。また、電流指令値演算部25は、ステアリング2の操舵角速度ωsとモータ12の回転角速度ωmをステアリング2の操舵角速度に相当する値に換算した換算角速度ωm´との差分値(角速度差分値ωr=ωs−ωm´)に基づいて、電流指令値Iq*の補正成分である角速度差補償量Ir*を演算する補償量演算手段としての角速度差補償量演算部36を備えている。そして、電流指令値演算部25は、上記基礎アシスト量Ias*に角速度差補償量Ir*を重畳した値を電流指令値Iq*としてモータ制御信号出力部26に出力する。
【0026】
詳述すると、基礎アシスト量演算部35は、基礎アシスト量Ias*と操舵トルクτ及び車速Vとが関連付けられたマップ35aを有しており(図3参照)、同マップ35aにおいて、基礎アシスト量Ias*は、操舵トルクτが大となるほど大となるように設定されている。具体的には、基礎アシスト量Ias*は、操舵トルクτの絶対値が所定値α(約1Nm)よりも小さい範囲内において「0」となるように設定されており、操舵トルクτの絶対値が所定値α以上の範囲においては、操舵トルクτの絶対値が大となるほど、基礎アシスト量Ias*の絶対値が大となるように設定されている。尚、本実施形態のマップ35aは、基礎アシスト量Ias*と車速Vとの関係においても、車速Vが大となるほど基礎アシスト量Ias*が小となるように設定された三次元マップであるが、説明の便宜のためその図示を省略する。そして、基礎アシスト量演算部35は、入力された操舵トルクτ及び車速Vをこのマップ35aに照合することにより、基礎アシスト量Ias*を演算する。
【0027】
また、本実施形態のトルクセンサ14は、ステアリングシャフト3、即ちステアリング2の操舵角(絶対角)θsを検出可能な操舵角検出手段としての機能を有するものであり、マイコン17は、その出力信号に基づいてステアリング2の操舵角θsを検出する(図1参照)。そして、マイコン17は、その操舵角θsを時間で微分することにより操舵角速度ωsを演算し、同様にモータ12の回転角θmを時間で微分することにより回転角速度ωmを演算する。即ち、本実施形態では、トルクセンサ14及びマイコン17が操舵角速度検出手段を構成し、回転角センサ22及びマイコン17がモータ角速度検出手段を構成する。尚、モータ角速度検出手段はもちろんのこと、操舵角速度検出手段についても、その分解能はより高いほうが望ましい。
【0028】
回転角速度ωmは、換算角速度演算手段としての除算器37に入力され、同除算器37において、その回転角速度ωmがラックアンドピニオン機構4のベースギヤ比Gで除されることにより操舵角に相当する換算角速度ωm´が算出される(ωm´=ωm×(1/G))。そして、この換算角速度ωm´が上記操舵角速度ωsとともに減算器38に入力されることにより、角速度差分値ωrが算出される(ωr=ωs−ωm´)。
【0029】
尚、本実施形態では、減算器38において算出された角速度差分値ωrは、ローパスフィルタであるフィルタ演算部39に入力され、このフィルタ演算部39において、同角速度差分値ωrのうち、運転者が知覚しにくい高周波成分(数Hz〜10数Hz以上)が除去される。そして、その補正後の角速度差分値ωr´が角速度差補償量演算部36に入力される。
【0030】
本実施形態では、角速度差補償量演算部36には、上記角速度差分値ωr´とともに車速Vが入力される。そして、角速度差補償量演算部36は、これら角速度差分値ωr´及び車速Vに基づいて角速度差補償量Ir*を演算する。
【0031】
更に詳述すると、角速度差補償量演算部36は、角速度差補償量Ir*と角速度差分値ωr(ωr´)及び車速Vとが関連付けられたマップ36aを有しており(図4参照)、同マップ36aにおいて、角速度差補償量Ir*は、角速度差分値ωrが大となるほど大となるように設定されている。具体的には、角速度差補償量Ir*は、角速度差分値ωrの絶対値が所定値βよりも小さい範囲内において、角速度差分値ωrが大となるほど大、即ち角速度差分値ωrの絶対値が大となるほど、角速度差補償量Ir*の絶対値が大となるように設定されている。尚、本実施形態のマップ36aは、上記のマップ35aと同様に、角速度差補償量Ir*と車速Vとの関係においても、車速Vが大となるほど角速度差補償量Ir*が小となるように設定された三次元マップであるが、説明の便宜のためその図示を省略する。そして、角速度差補償量演算部36は、入力された角速度差分値ωr´及び車速Vをこのマップ36aに照合することにより、角速度差補償量Ir*を演算する。
【0032】
上記基礎アシスト量演算部35において算出された基礎アシスト量Ias*、及び角速度差補償量演算部36において算出された角速度差補償量Ir*は、加算器40に入力される。そして、この加算器40において、基礎アシスト量Ias*に角速度差補償量Ir*が重畳された値が電流指令値Iq*としてモータ制御信号出力部26に出力されるようになっている。
【0033】
(作用・効果)
次に、上記のように構成された本実施形態のEPSの作用・効果について説明する。
上述のように、多くのEPSには、ステアリング剛性を確保すべく、操舵トルクの絶対値が所定値(1Nm程度、本実施形態のEPS1では、±αの範囲内)より小さい範囲においてアシスト力の付与を行わない所謂アシスト不感帯が設定されている。ところが、このアシスト不感帯では、モータのコギングトルク(図5参照)や、ラックアシスト型EPSにおけるボール送り(ボールねじ)機構の引っ掛かり(図6参照)がトルクリップルとして表面化し、それにより操舵フィーリングが悪化するおそれがある。
【0034】
この点を踏まえ、本実施形態のEPS1では、モータ12の回転角速度ωmをステアリング2の操舵角速度に相当する換算角速度ωm´に換算し、ステアリング2の操舵角速度ωsとこの換算角速度ωm´との差分値(角速度差分値ωr=ωs−ωm´)に基づいて角速度差補償量Ir*を演算する。そして、この角速度差補償量Ir*を電流指令値Iq*の基礎成分である基礎アシスト量Ias*に重畳することにより、操舵系に付与するアシスト力の制御目標量である電流指令値Iq*を演算する。
【0035】
即ち、ボールねじに引っ掛かりが発生した場合、或いはモータ12のコギングトルクが大となった場合には、操舵角速度ωsの絶対値に対してモータ12の換算角速度ωm´の絶対値は小、即ち角速度差分値ωrの絶対値は大となる。このとき、本実施形態のEPS1では、その角速度差分値ωr(ωr´)に基づいて角速度差補償量Ir*を演算する。詳しくは角速度差分値ωrの絶対値が大となるほど、大きな絶対値を有する角速度差補償量Ir*を演算する。そして、この角速度差補償量Ir*を基礎アシスト量Ias*に重畳した値を電流指令値Iq*とすることで、ステアリング2の操舵角速度ωsに換算角速度ωm´が追従するようにモータ12を制御する。
【0036】
つまり、上記のような構成とすれば、ステアリング剛性を確保するため必要な減速機構の定常的な摩擦を残したまま、操舵角速度ωsと換算角速度ωm´との間に生ずる速度差(角速度差分値ωr)を打ち消すことができ、これにより、ボールねじに生ずる引っ掛かりやコギングトルク等、定常的な摩擦以外の要因に基づくトルクリップルを効果的に打ち消すことができる。さらに、このように角速度差分値ωrを打ち消すように制御することで、モータ12の慣性や温度変化に伴う摩擦力(静止摩擦、クーロン摩擦及び粘性摩擦等)の変化にも対応することができる。その結果、ボールねじの引っ掛かりやコギングトルク等に基づくトルクリップルを有効に抑制して、好適な操舵フィーリングを得ることができる。そして、モータ12やボール送り機構に高い加工精度を求める必要がなくなることから、製造コストの上昇を抑えることができるようになる。
【0037】
また、本実施形態では、角速度差分値ωrは、フィルタ演算部39において、同角速度差分値ωrのうち運転者が知覚しにくい高周波成分(数Hz〜10数Hz以上)が除去されるため、上記補償制御の精度を更に向上させることができる。
【0038】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・本実施形態では、特に言及しなかったが、基礎アシスト量Ias*が「0」となる操舵トルクτの絶対値が所定値α(約1Nm)よりも小さい範囲内においてのみ、同基礎アシスト量Ias*に角速度差補償量Ir*を重畳した値を電流指令値Iq*とする構成としてもよい。
【0039】
次に、以上の実施形態から把握することのできる請求項以外の技術的思想を記載する。
(イ)請求項1又は請求項2に記載の電動パワーステアリング装置において、所定周波数以上の高周波成分を除去するローパスフィルタを備え、前記補償量演算手段は、前記ローパスフィルタを通過した補正後の前記差分値に基づいて前記補償量を演算すること、を特徴とする電動パワーステアリング装置。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本実施形態のEPSの概略構成図。
【図2】本実施形態のEPSの制御ブロック図。
【図3】基礎アシスト量と操舵トルクとが関連付けられたマップの概略構成図。
【図4】角速度差補償量と角速度差分値とが関連付けられたマップの概略構成図。
【図5】モータに発生するコギングトルクを示す波形図。
【図6】ボールねじの引っ掛かりにより生ずるトルクリップルを示す波形図。
【符号の説明】
【0041】
1…EPS、2…ステアリングホイール(ステアリング)、6…操舵輪、10…EPSアクチュエータ、11…EPSECU、12…モータ、14…トルクセンサ、15…車速センサ、17…マイコン、18…駆動回路、22…回転角センサ、25…電流指令値演算部、26…モータ制御信号出力部、35…基礎アシスト量演算部、36…角速度差補償量演算部、35a,36a…マップ、37…除算器、38…減算器、39…フィルタ演算部、40…加算器、τ…操舵トルク、V…車速、θs…操舵角、ωs…操舵角速度、θm…回転角、ωm…回転角速度、ωm´…換算角速度、ωr,ωr´…角速度差分値、Iq*…電流指令値、Ias*…基礎アシスト量、Ir*…角速度差補償量、G…ベースギヤ比、α,β…所定値。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータを駆動源として操舵系にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与する操舵力補助装置と、該操舵力補助装置が発生する前記アシスト力を制御する制御手段とを備えた電動パワーステアリング装置であって、
ステアリングホイールの操舵角速度を検出する操舵角速度検出手段と、
前記モータの回転角速度を検出するモータ角速度検出手段と、
前記回転角速度を前記操舵角速度に相当する換算角速度に換算する換算角速度演算手段と、
前記アシスト力の基礎制御量を演算する基礎制御量演算手段と、
前記操舵角速度と前記換算角速度との差分値に基づいて前記アシスト力の補償量を演算する補償量演算手段とを備え、
前記補償量演算手段は、前記差分値が大となるほど大きな値を有する前記補償量を算出し、
前記制御手段は、前記基礎制御量に前記補償量を重畳した値を目標として前記アシスト力を制御すること、を特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電動パワーステアリング装置において、
ステアリングホイールの操舵トルクを検出する操舵トルク検出手段を備え、
前記基礎制御量演算手段は、前記操舵トルクの絶対値が所定値よりも小さい範囲内にある場合には、前記基礎制御量をゼロと算出するものであって、
前記制御手段は、前記操舵トルクの絶対値が前記範囲内にある場合に、前記基礎制御量に前記補償量を重畳した値を目標として前記アシスト力を制御すること、
を特徴とする電動パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−131179(P2006−131179A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−325064(P2004−325064)
【出願日】平成16年11月9日(2004.11.9)
【出願人】(302066630)株式会社ファーベス (138)
【出願人】(000003470)豊田工機株式会社 (198)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】