説明

電動パワーステアリング装置

【課題】 車両の特定部分に作用する横風の影響を抑えて走行安定性を向上させることができる電動パワーステアリング装置を提供すること
【解決手段】 電流指令値演算部25は、横風制御判定部33と、横風制御量演算部36とを備える。横風制御判定部33は、入力された横風情報Sswに示される各領域の横風受風状態に基づいて主たる横風受風領域を判定し、その横風受風領域に対応する偏向パターンPswを特定する。また、横風制御量演算部36は、特定された偏向パターンPswに示される偏向方向と反対の方向にその偏向強度に応じたアシスト力を付与するための制御成分である横風制御量Isw*を演算する。そして、電流指令値演算部25は、操舵系に付与するアシスト力の基礎的制御目標量である基礎アシスト量Ias*に横風制御量Isw*を重畳した値を電流指令値Iq*として出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動パワーステアリング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
走行する車両を取り巻く環境は刻々と変化し、その環境変化は、車両操舵制御の外乱要因となる。とりわけ、車両側面に作用する横風は、車両の進行方向を偏向させる大きな要因の一つであり、従来より、その影響を最小化するための様々な方法が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、車両側面に相対配置された一対の圧力検出点間の差圧に基づいて、車両に作用する横風応力を演算し、その横風応力によって生ずるヨー角変化がゼロとなるように付加的操舵角を付与する方法が開示されている。そして、このような方法を採用することで、車両に作用する横風の影響を抑えて良好な走行特性を得ることができる。
【特許文献1】特開平5−193512号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、例えば、走行路線に沿って設けられた防風壁の隙間から吹きつける突風等、車両側面に作用する横風は、必ずしもその側面全域に亘って一様であるとは限らない。そして、こうした車両側面の特定部分に作用する横風の影響は、その主たる受風領域の如何によって大きく異なる。
【0005】
しかし、上記の従来方法のように、一対の圧力検出点間の差圧をもって横風応力を演算する構成では、こうした車両側面の特定部分に作用する横風に対応することができない。そのため、場合によっては却って横風の影響を助長する結果となるおそれがあり、この点において、なお改善の余地を残すものとなっていた。
【0006】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、車両の特定部分に作用する横風の影響を抑えて走行安定性を向上させることができる電動パワーステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、モータを駆動源として操舵系にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与する操舵力補助装置と、該操舵力補助装置を制御する制御手段とを備えた電動パワーステアリング装置であって、前記制御手段は、車両側面の複数の領域における各横風受風状態を示す横風情報に基づいて、主たる横風受風領域を判定する受風領域判定手段と、前記判定された横風受風領域に対応する車両の偏向方向及び偏向強度を特定する横風状態特定手段とを備え、前記特定された偏向方向と反対の方向に前記偏向強度に応じた前記アシスト力を付与すべく前記操舵力補助装置を制御すること、を要旨とする。
【0008】
上記構成によれば、車両の特定部分に作用する横風の影響を精度良く特定して、その影響を打ち消すための最適なアシスト力を操舵系に付与することができる。その結果、車両の特定部分に作用する横風の影響を抑えて走行安定性の向上を図ることができる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、前記横風情報は、前記車両側面の前部領域、中部領域及び後部領域の各部における横風受風状態を示すものであって、前記横風状態特定手段は、一方の側面の前部領域、前部及び中部領域、又は全領域が主たる横風受風領域である場合には、前記横風の受風方向と反対の方向を前記偏向方向として特定し、一方の側面の後部領域、又は中部及び後部領域が主たる横風受風領域である場合には、前記受風方向を前記偏向方向として特定すること、を要旨とする。
【0010】
上記構成によれば、簡素な構成にて、車両の特定部分に作用する横風による偏向方向を精度良く特定することができる。
請求項3に記載の発明は、前記横風状態特定手段は、一方の側面の前部領域又は後部領域が主たる横風受風領域である場合、一方の側面の前部及び中部領域又は中部及び後部領域が主たる横風受風領域である場合、一方の側面の全領域が主たる横風受風領域である場合の順に大きな前記偏向強度を特定すること、を要旨とする。
【0011】
上記構成によれば、簡素な構成にて、車両の特定部分に作用する横風による偏向の程度を精度良く特定することができる。
請求項4に記載の発明は、前記車両側面の各領域に設けられた複数の圧力検出部を有し該各圧力検出部により検出される圧力に基づいて該各領域の横風受風状態を検出する横風状態検出装置を備えること、を要旨とする。
【0012】
上記構成によれば、簡素な構成にて、車両側面の複数の領域における各横風受風状態を検出することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、車両の特定部分に作用する横風の影響を抑えて走行安定性を向上させることが可能な電動パワーステアリング装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を電動パワーステアリング装置(EPS)に具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1は、本実施形態のEPS1の概略構成図である。同図に示すように、ステアリングホイール(ステアリング)2が固定されたステアリングシャフト3は、ラックアンドピニオン機構4を介してラック5に連結されており、ステアリング操作に伴うステアリングシャフト3の回転は、ラックアンドピニオン機構4によりラック5の往復直線運動に変換される。そして、このラック5の往復直線運動により操舵輪6の舵角、即ちタイヤ角が可変することにより、車両の進行方向が変更されるようになっている。
【0015】
EPS1は、操舵系にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与する操舵力補助装置としてのEPSアクチュエータ10と、該EPSアクチュエータ10の作動を制御する制御手段としてのEPSECU11とを備えている。
【0016】
本実施形態のEPSアクチュエータ10は、その駆動源であるモータ12がラック5と同軸に配置された所謂ラック型のEPSアクチュエータであり、モータ12が発生するアシストトルクは、ボール送り機構(図示略)を介してラック5に伝達される。尚、本実施形態のモータ12は、ブラシレスモータであり、EPSECU11から三相(U,V,W)の駆動電力の供給を受けることにより回転する。そして、EPSECU11は、このモータ12が発生するアシストトルクを制御することにより、操舵系に付与するアシスト力を制御する(パワーアシスト制御)。
【0017】
本実施形態では、EPSECU11には、トルクセンサ14及び車速検出手段としての車速センサ15が接続されている。尚、車速センサ15は、車内ネットワーク(CAN:Controller Area Network)13を介してEPSECU11と接続されている。そして、EPSECU11は、これらトルクセンサ14及び車速センサ15によりそれぞれ検出される操舵トルクτ及び車速Vに基づいて、EPSアクチュエータ10の作動、即ちパワーアシスト制御を実行する。
【0018】
次に、本実施形態におけるEPSの制御態様について説明する。
図2は、本実施形態のEPSの制御ブロック図である。尚、以下に示す各制御ブロックは、後述するマイコン17が実行するコンピュータプログラムにより実現されるものである。
【0019】
同図に示すように、EPSECU11は、モータ制御信号を出力するマイコン17と、モータ制御信号に基づいてモータ12に三相の駆動電力を供給する駆動回路18とを備えている。
【0020】
本実施形態では、EPSECU11には、モータ12に通電される各相電流値Iu,Iv,Iwを検出するための電流センサ21u,21v、及びモータ12の回転角(電気角)θを検出するための回転角センサ22が接続されている。そして、マイコン17は、これら各センサの出力信号に基づき検出されたモータ12の各相電流値Iu,Iv,Iw及び回転角θ、並びに上記操舵トルクτ及び車速Vに基づいて駆動回路18にモータ制御信号を出力する。
【0021】
詳述すると、マイコン17は、操舵系に付与するアシスト力の制御目標量である電流指令値Iq*を演算する電流指令値演算部25と、電流指令値演算部25により算出された電流指令値Iq*に基づいてモータ制御信号を出力するモータ制御信号出力部26とを備えている。
【0022】
電流指令値演算部25は、上記トルクセンサ14及び車速センサ15により検出された操舵トルクτ及び車速Vに基づいて電流指令値Iq*を演算し、その電流指令値Iq*をモータ制御信号出力部26に出力する。また、モータ制御信号出力部26には、電流指令値演算部25により算出された電流指令値Iq*とともに、各電流センサ21u,21vにより検出された各相電流値Iu,Iv,Iw及び回転角センサ22により検出された回転角θが入力される。そして、モータ制御信号出力部26は、これら各相電流値Iu,Iv,Iw、及び回転角θに基づいて、制御目標量である電流指令値Iq*にモータ12に供給される電流量(実電流値)を追従させるべくモータ制御信号を出力する。
【0023】
尚、本実施形態では、モータ制御信号出力部26は、検出された各相電流値Iu,Iv,Iwをd/q座標系のd,q軸電流値に変換(d/q変換)することにより、上記電流フィードバック制御を行う。
【0024】
即ち、電流指令値Iq*は、q軸電流指令値としてモータ制御信号出力部26に入力され、モータ制御信号出力部26は、回転角θに基づいて各相電流値Iu,Iv,Iwをd/q変換する。続いて、モータ制御信号出力部26は、そのd,q軸電流値及びq軸電流指令値に基づいてd,q軸電圧指令値を演算し、そのd,q軸電圧指令値をd/q逆変換することにより各相の電圧指令値を算出する。そして、モータ制御信号出力部26は、この電圧指令値に基づいてモータ制御信号を生成し、駆動回路18へと出力する。
【0025】
一方、駆動回路18は、モータ12の相数に対応する複数(6個)のパワーMOSFET(以下、単にFET)により構成されており、具体的にはFET27a,27dの直列回路、FET27b,27eの直列回路及びFET27c,27fの直列回路を並列接続することにより構成されている。そして、FET27a,27dの接続点28uはモータ12のU相コイルに接続され、FET27b,27eの接続点28vはモータ12のV相コイルに接続され、FET27c,27fの接続点28wはモータ12のW相コイルに接続されている。また、各FET27a〜27fのゲート端子には、マイコン17から出力されるモータ制御信号が印加される。そして、このモータ制御信号に応答して各FET27a〜27fがオン/オフすることにより、車載電源29の直流電圧が三相の駆動電力に変換され、モータ12に供給されるようになっている。
【0026】
(横風制御)
次に、本実施形態のEPSにおける横風制御の態様について説明する。
図1に示すように、本実施形態のEPS1は、車両側面に作用する横風の受風状態を検出する横風状態検出装置30を備えており、同横風状態検出装置30は、車内ネットワーク13を介してEPSECU11と接続されている。
【0027】
図3に示すように、本実施形態の横風状態検出装置30は、車両31の左右の各側面31a,31bに配設された複数(6個)の圧力検出部32を備えて構成されている。本実施形態では、各圧力検出部32は、車両31の各側面31a,31bの前部の領域A,D、中部の領域B,E、及び後部の領域C,Fに一つずつ、即ち車両両側面の前部領域、中部領域、及び後部領域に各々一対設けられている。横風状態検出装置30は、各圧力検出部32により検出される圧力に基づいて、各領域A〜Fの横風受風状態(各領域A〜F間の圧力分布)を検出する。そして、横風状態検出装置30は、その検出結果を横風情報SswとしてEPSECU11に出力する。
【0028】
本実施形態では、EPSECU11(マイコン17)は、入力された横風情報Sswに基づいて、車両31の側面31a,31bの各領域A〜Fのうちの主たる横風受風領域を判定し、その判定された受風領域に対応する車両の偏向方向及び偏向強度(偏向の程度)、即ち偏向パターンを特定する。そして、この偏向パターンに示される偏向方向と反対の方向にその偏向強度に応じたアシスト力を付与すべくEPSアクチュエータ10の作動を制御する(横風制御)。
【0029】
詳述すると、図2に示すように、マイコン17の電流指令値演算部25には、受風領域判定手段及び横風状態特定手段としての横風制御判定部33が設けられている。そして、横風制御判定部33は、横風状態検出装置30から入力された横風情報Sswに示される各領域A〜Fの横風受風状態(各領域A〜F間の圧力分布)に基づいて主たる横風受風領域Rswを判定し、その横風受風領域Rswに対応する偏向パターンPswを特定する。
【0030】
ここで、車両31の左側の側面31aにおいて、その主たる横風受風領域Rswが、前部の領域A、前部及び中部の領域A,B、又は左側の側面31aの全領域、即ち全ての領域A〜Cである場合、車両偏向方向は、受風方向と反対の進行方向右側となり、その主たる横風受風領域Rswが、後部の領域C、中部及び後部の領域B,Cである場合、車両偏向方向は、受風方向と同じ進行方向左側となる(図3参照)。また、車両31の右側の側面31bにおいて、その主たる横風受風領域Rswが、前部の領域D、前部及び中部の領域D,E、又は右側の側面31bの全ての領域D〜Fである場合、車両偏向方向は、受風方向と反対の進行方向左側となり、その主たる横風受風領域Rswが、後部の領域F、中部及び後部の領域E,Fである場合、車両偏向方向は、受風方向と同じ進行方向右側となる。
【0031】
そして、その偏向強度は、その主たる横風受風領域Rswが、前部又は後部の領域A,C(又はD,F)である場合、前部及び中部の領域A,B(又はC,F)又は中部及び後部の領域B,C(又はE,F)である場合、その全ての領域A〜C(又はD〜F)である場合の順に大となる。
【0032】
本実施形態では、横風制御判定部33は、上記偏向方向(「R」又は「L」)及び偏向強度(「1」<「2」<「3」)の組み合わせを示す複数の偏向パターンPsw(6+1通り)と、それに対応する横風受風領域Rswとが関係付けられた判定テーブル34を備えている(図4参照)。
【0033】
即ち、横風受風領域Rswが領域A又は領域Fである場合、その偏向パターンPswは何れも「R1(偏向方向右、強度1)」であり、横風受風領域Rswが領域C又は領域Dである場合、その偏向パターンPswは何れも「L1(偏向方向左、強度1)」である。また、横風受風領域Rswが領域A,B又は領域E,Fである場合、その偏向パターンPswは何れも「R2」であり、横風受風領域Rswが領域B,C又は領域D,Eである場合、その偏向パターンPswは何れも「L2」である。また、横風受風領域Rswが領域A,B,Cである場合には偏向パターンPswは「R3」であり、横風受風領域Rswが領域D,E,Fである場合には偏向パターンPswは「L3」である。
【0034】
判定テーブル34には、このような横風受風領域Rswと偏向パターンPswとの関係付けが記録されている。そして、横風制御判定部33は、この判定テーブル34に基づいて上記判定された主たる横風受風領域Rswに対応する偏向パターンPswを特定する。尚、本実施形態では、上記各横風受風領域Rswの組み合わせに対応しないものについては、その偏向パターンPswは「0」と特定される。
【0035】
また、電流指令値演算部25は、操舵トルクτ及び車速Vに基づいて操舵系に付与するアシスト力の基礎的制御目標量、即ち電流指令値Iq*の基礎成分である基礎アシスト量Ias*を演算する基礎アシスト量演算部35に加え、偏向パターンPswに示される偏向方向と反対の方向にその偏向強度に応じたアシスト力を付与するための制御成分である横風制御量Isw*を演算する横風制御量演算部36を備えている。そして、電流指令値演算部25は、この横風制御量Isw*を基礎アシスト量Ias*に重畳した値を電流指令値Iq*として出力する。
【0036】
詳述すると、横風制御量演算部36は、横風制御判定部33により判定された偏向パターンPswに基づいて上記横風制御量Isw*の基本制御量である横風基本制御量Ibs*を演算する横風基本制御量演算部41を備えている。本実施形態では、横風基本制御量演算部41は、横風基本制御量Ibs*と偏向パターンPswとが関連付けられたマップ42を備えており(図5参照)、同マップ42において、横風基本制御量Ibs*は、偏向パターンPswに示される偏向強度が大であるほどその絶対値(α1〜α3)が大となるように設定されている。そして、横風基本制御量演算部41は、このマップ42に、入力された偏向パターンPswを照合することにより横風基本制御量Ibs*を演算する。
【0037】
尚、本実施形態では、アシスト力に関する各制御量は、車両進行方向に向かって左方向が「+」、右方向が「−」と定義付けられている。従って、例えば、偏向パターンPswが「R1」である場合には、横風基本制御量Ibs*は「+α1」と演算され、偏向パターンPswが「L3」である場合には、横風基本制御量Ibs*は「−α3」と演算される。
【0038】
また、本実施形態の横風制御量演算部36は、操舵トルクτ及び車速に基づいて、横風の影響により見かけ上操舵系に発生する操舵トルクを打ち消すための操舵トルク換算制御量Ict*を演算する操舵トルク換算制御量演算部43を備えており、上記横風基本制御量Ibs*は、この操舵トルク換算制御量Ict*とともに加算器44に入力される。そして、この加算器44において、横風基本制御量Ibs*に操舵トルク換算制御量Ict*が重畳された補正後の横風基本制御量Ibs**に基づいて横風制御量Isw*の演算がなされるようになっている。
【0039】
また、横風制御量演算部36は、操舵トルクτに基づく操舵トルクゲインKtを演算する操舵トルクゲイン演算部45と、車速Vに基づく車速ゲインKvを演算する車速ゲイン演算部46とを備えている。本実施形態では、操舵トルクゲイン演算部45は、操舵トルクゲインKtと操舵トルクτとが関連付けられたマップ45aを有しており(図6参照)、車速ゲイン演算部46は、車速ゲインKvと車速Vとが関連付けられたマップ46aを有している(図7参照)。本実施形態では、マップ45aにおいて、操舵トルクゲインKtは、操舵トルクτの絶対値がゼロから増加するに従って大となるように設定されており、マップ46aにおいて、車速ゲインKvは、車速Vが所定の車速V0以上である場合に、該車速Vが大となるに従って大となるように設定されている。そして、操舵トルクゲイン演算部45は、操舵トルクτをマップ45aに照合することにより操舵トルクゲインKtを演算し、車速ゲイン演算部46は、車速Vをマップ46aに照合することにより車速ゲインKvを演算する。
【0040】
本実施形態では、これら操舵トルクゲイン演算部45により算出された操舵トルクゲインKt及び車速ゲイン演算部46により算出された車速ゲインKvは、補正後の横風基本制御量Ibs**とともに乗算器47に入力される。そして、横風制御量演算部36は、補正後の横風基本制御量Ibs**に操舵トルクゲインKt及び車速ゲインKvを乗じた値を横風制御量Isw*として算出する。
【0041】
本実施形態では、横風制御量演算部36において算出された横風制御量Isw*は、切替/徐変制御部48を介して加算器49に入力される。切替/徐変制御部48には、横風制御判定部33の出力する横風制御信号が入力されるようになっており、切替/徐変制御部48は、この横風制御信号に基づいて、加算器49に対する横風制御量Isw*の出力をオン/オフ制御する。そして、切替/徐変制御部48から加算器49への横風制御量Isw*の出力がオンとなり、同加算器49において、基礎アシスト量演算部35により算出された基礎アシスト量Ias*に横風制御量Isw*が重畳されることにより、その値が電流指令値Iq*としてモータ制御信号出力部26に出力されるようになっている。
【0042】
詳述すると、横風制御判定部33は、横風制御を開始する所定の条件として、車内ネットワーク13の通信状態が正常であり、偏向パターンPswが「0」以外、車速Vが所定の車速V1以上、且つ操舵トルクτが所定の操舵トルクτ0以下である場合に、横風制御信号を「オン」とする。
【0043】
具体的には、図8のフローチャートに示すように、横風制御判定部33は、通信状態が正常であるかを判定し(ステップ101)、正常である場合(ステップ101:YES)には、偏向パターンPswが「0」以外であるかを判定する(ステップ102)。そして、偏向パターンPswが「0」以外である場合(ステップ102:YES)には、続いて車速Vが所定の車速V1以上であるかを判定し(ステップ103)、車速Vが所定の車速V1以上である場合(ステップ103:YES)には、操舵トルクτが所定の操舵トルクτ0以下であるかを判定する(ステップ104)。そして、操舵トルクτが所定の操舵トルクτ0以下である場合(ステップ104:YES)には、横風制御信号を「オン」とする(ステップ105)。尚、横風制御判定部33は、上記ステップ101〜ステップ104における判定条件の何れかを満たさない場合(ステップ101〜ステップ104:NO)には、横風制御信号を「オフ」とする(ステップ106)。
【0044】
一方、切替/徐変制御部48は、横風制御信号が「オン」である場合に、加算器49に対する横風制御量Isw*の出力をオンとし、横風制御判定部33の出力する横風制御信号が「オン」から「オフ」となった場合には、加算器49に出力する横風制御量Isw*を時間経過とともに徐々に低減する(徐変制御)。具体的には、横風制御信号が「オフ」となった場合、加算器49に出力する横風制御量Isw*を時間経過とともに低減する制限率にて制限し、所定時間t0経過時には制限後の横風制御量Isw**を「0」とする(図9参照)。
【0045】
詳述すると、図10のフローチャートに示すように、切替/徐変制御部48は、先ず、横風制御判定部33から入力される横風制御信号が「オン」であるか否かを判定する(ステップ201)。そして、横風制御信号が「オン」である場合(ステップ201:YES)には、横風制御フラグをセットし(ステップ202)、加算器49に対する横風制御量Isw*の出力をオンとする(ステップ203)。
【0046】
一方、上記ステップ201において、横風制御信号が「オフ」である場合(ステップ201:NO)、切替/徐変制御部48は、続いて横風制御フラグがセットされているかを判定する(ステップ204)。そして、横風制御フラグがセットされている場合(ステップ204:YES)には、上記徐変制御を実行する(ステップ205)。尚、横風制御フラグがセットされていない場合(ステップ204:NO)には、加算器49に対する横風制御量Isw*の出力をオフとする(ステップ206)。
【0047】
次に、切替/徐変制御部48は、上記ステップ205における徐変制御により制限された横風制御量Isw**が「0」となったか否かを判定し(ステップ207)、同横風制御量Isw**が「0」である場合(ステップ207:YES)には、横風制御フラグをクリアする(ステップ208)。そして、上記ステップ204が実行され、横風制御フラグがセットされていないと判定されることにより(ステップ204:NO)、ステップ206において、横風制御量Isw**の出力がオフとされるようになっている。
【0048】
以上、本実施形態によれば、以下のような特徴を得ることができる。
(1)電流指令値演算部25は、横風制御判定部33と、横風制御量演算部36とを備える。横風制御判定部33は、入力された横風情報Sswに示される各領域A〜Fの横風受風状態に基づいて主たる横風受風領域Rswを判定し、その横風受風領域Rswに対応する偏向パターンPswを特定する。また、横風制御量演算部36は、特定された偏向パターンPswに示される偏向方向と反対の方向にその偏向強度に応じたアシスト力を付与するための制御成分である横風制御量Isw*を演算する。そして、電流指令値演算部25は、操舵系に付与するアシスト力の基礎的制御目標量である基礎アシスト量Ias*に横風制御量Isw*を重畳した値を電流指令値Iq*として出力する。
【0049】
このような構成とすれば、車両の特定部分に作用する横風の影響を精度良く特定して、その影響を打ち消すための最適なアシスト力を操舵系に付与することができる。その結果、車両の特定部分に作用する横風の影響を抑えて走行安定性の向上を図ることができる。
【0050】
(2)横風制御量演算部36は、横風制御判定部33により判定された偏向パターンPswに基づいて上記横風制御量Isw*の基本制御量である横風基本制御量Ibs*を演算する横風基本制御量演算部41と、横風の影響により見かけ上操舵系に発生する操舵トルクを打ち消すための操舵トルク換算制御量Ict*を演算する操舵トルク換算制御量演算部43を備える。そして、横風制御量演算部36は、横風基本制御量Ibs*に操舵トルク換算制御量Ict*が重畳された補正後の横風基本制御量Ibs**に基づいて横風制御量Isw*を演算する。
【0051】
このような構成とすれば、横風の影響により操舵系に生ずる見かけ上の操舵トルクに由来する制御成分を排除して、より最適なアシスト力を操舵系に付与することができる。
(3)横風制御量演算部36は、操舵トルクτに基づく操舵トルクゲインKtを演算する操舵トルクゲイン演算部45と、車速Vに基づく車速ゲインKvを演算する車速ゲイン演算部46とを備え、車速ゲイン演算部46は、車速Vが所定の車速V0以上である場合に、該車速Vが大となるに従って大となる車速ゲインKvを算出する。そして、横風制御量演算部36は、補正後の横風基本制御量Ibs**に操舵トルクゲインKt及び車速ゲインKvを乗じた値を横風制御量Isw*として算出する。
【0052】
このような構成とすれば、横風の影響を受けやすい高速走行時において車速が速いほど横風制御量Isw*を大とすることができる。
(4)横風制御量演算部36において算出された横風制御量Isw*は、切替/徐変制御部48を介して加算器49に入力され、同加算器49において、基礎アシスト量Ias*に横風制御量Isw*が重畳されることにより、その値が電流指令値Iq*として出力される。そして、切替/徐変制御部48は、横風制御判定部33の出力する横風制御信号が「オン」から「オフ」となった場合には、加算器49に出力する横風制御量Isw*を時間経過とともに徐々に低減する。
【0053】
このような構成とすれば、横風制御の終了時に伴う電流指令値Iq*の急峻な変化を抑制することができ、これにより、好適な操舵フィーリングを確保することができる。
なお、上記各実施形態は以下のように変更してもよい。
【0054】
・本実施形態では、横風状態検出装置30は、車両31の左右の各側面31a,31bに配設された複数(6個)の圧力検出部32を備えて構成されることとしたが、最終的に車両側面の主たる横風受風領域Rswを特定可能な横風情報Sswを出力可能なものであればよい。
【0055】
具体的には、ヨーレイト及び横方向加速度(横G)を検出し、これらヨーレイト及び横方向加速度について、車両側面に横風を受けていない通常時の理論値との比較により、主たる横風受風領域を推定し、その領域を示す横風情報Sswを出力する構成であってもよい。例えば、領域Aや領域A,Bが主たる横風受風領域Rswである場合、ヨーレイト及び横方向加速度は、ともに通常時の理論値よりも「−」方向に増加する(図3参照)。そして、主たる横風受風領域Rswが領域A又は領域A,Bであるかは、それぞれの増加の程度により判定することができる。
【0056】
・本実施形態では、横風状態検出装置30は、車両31の各側面31a,31bの前部の領域A,D、中部の領域B,E、及び後部の領域C,Fの横風受風状態(各領域A〜F間の圧力分布)を検出し、その検出結果を横風情報SswとしてEPSECU11に出力することとしたが、検出領域は、より細分化してもよい。
【0057】
・本実施形態では、切替/徐変制御部48は、横風制御判定部33の出力する横風制御信号が「オン」から「オフ」となった場合には、加算器49に出力する横風制御量Isw*を時間経過とともに徐々に低減(徐変)することとしたが、徐変することなく横風制御量Isw*の出力をオフとする構成としてもよい。
【0058】
・本実施形態では、横風制御量演算部36は、横風基本制御量演算部41に加え、操舵トルク換算制御量演算部43、操舵トルクゲイン演算部45、及び車速ゲイン演算部46を備えることとした。しかし、これに限らず、少なくとも偏向パターンPswに示される偏向方向及び偏向強度に基づいて、偏向方向と反対の方向にその偏向強度に応じたアシスト力を付与するための制御成分である横風制御量Isw*を演算する構成であればよい。
【0059】
・本実施形態では、横風制御判定部33は、横風制御を開始する所定の条件として、車内ネットワーク13の通信状態が正常であり、偏向パターンPswが「0」以外、車速Vが所定の車速V1以上、且つ操舵トルクτが所定の操舵トルクτ0以下である場合に、横風制御信号を「オン」とすることとした(図8参照)。しかし、これに限らず、更に「所定時間継続して」という条件を付加してもよい。これは、横風制御信号を「オフ」とする場合についても同様である。
【0060】
次に、以上の実施形態から把握することのできる請求項以外の技術的思想を記載する。
(イ)請求項1〜請求項4の何れか一項に記載の電動パワーステアリング装置において、前記制御手段は、操舵トルク及び車速に基づいて前記アシスト力の基礎制御量を演算する基礎制御量演算部と、前記偏向方向及び偏向強度に基づいて該偏向方向と反対の方向に前記アシスト力を付与するための横風制御量を演算する横風制御量演算部とを備え、前記アシスト力の基礎制御量に前記横風制御量を重畳した値を制御目標量として前記操舵力補助装置を制御すること、を特徴とする電動パワーステアリング装置。
【0061】
(ロ)前記(イ)に記載の電動パワーステアリング装置において、前記横風制御量演算手段は、前記偏向方向及び偏向強度に基づく基本制御量を演算する横風基本制御量演算手段と、前記操舵トルク及び車速に基づいて、横風の影響により見かけ上操舵系に発生するトルクを打ち消すための操舵トルク換算制御量を演算する操舵トルク換算制御量演算手段とを備え、前記横風基本制御量に前記操舵トルク換算制御量を重畳した値に基づいて前記横風制御量を演算すること、を特徴とする電動パワーステアリング装置。
【0062】
(ハ)前記(ロ)に記載の電動パワーステアリング装置において、前記横風制御量演算手段は、前記操舵トルクに基づく操舵トルクゲインを演算する操舵トルクゲイン演算手段と、前記車速に基づく車速ゲインを演算する車速ゲイン演算手段とを備え、前記横風基本制御量及び前記操舵トルク換算制御量を重畳した値に前記操舵トルクゲイン及び前記車速ゲインを乗ずることにより前記横風制御量を演算するものであって、前記車速ゲイン演算手段は、前記車速が所定の車速以上である場合に、該車速が大となるに従って大となる車速ゲインを演算すること、を特徴とする電動パワーステアリング装置。
【0063】
(ニ)請求項1〜請求項4,及び上記(イ),(ロ),(ハ)の何れか一項に記載の電動パワーステアリング装置において、前記制御手段は、前記反対の方向へのアシスト力の付与を終了する場合には、該反対方向に付与するアシスト力を時間経過とともに徐々に低減すること、を特徴とする電動パワーステアリング装置。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本実施形態のEPSの概略構成図。
【図2】本実施形態のEPSの電気的構成を示すブロック図。
【図3】横風状態検出装置の概略構成図。
【図4】判定テーブルの概略構成図。
【図5】横風基本制御量と偏向パターンとが関連付けられたマップの概略構成図。
【図6】操舵トルクゲインと操舵トルクとが関連付けられたマップの概略構成図。
【図7】車速ゲインと車速とが関連付けられたマップの概略構成図。
【図8】横風制御開始判定の処理手順を示すフローチャート。
【図9】横風制御量の徐変制御の説明図。
【図10】横風制御量の出力切替及び横風制御量の徐変制御の処理手順を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0065】
1…EPS、10…EPSアクチュエータ、11…EPSECU、12…モータ、13…車内ネットワーク、17…マイコン、18…駆動回路、25…電流指令値演算部、26…モータ制御信号出力部、30…横風状態検出装置、31…車両、31a,31b…側面、32…圧力検出部、33…横風制御判定部、34…判定テーブル、35…基礎アシスト量演算部、36…横風制御量演算部、41…横風基本制御量演算部、42…マップ、43…操舵トルク換算制御量演算部、44,49…加算器、45…操舵トルクゲイン演算部、46…車速ゲイン演算部、47…乗算器、48…切替/徐変制御部、τ…操舵トルク、A〜F…操舵トルク、V…車速、Kt…操舵トルクゲイン、Kv…車速ゲイン、Iq*…電流指令値、Psw…偏向パターン、Rsw…横風受風領域、Ssw…横風情報、Ias*…基礎アシスト量、Ibs*,Ibs**…横風基本制御量、Ict*…操舵トルク換算制御量、Isw*,Isw**…横風制御量。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータを駆動源として操舵系にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与する操舵力補助装置と、該操舵力補助装置を制御する制御手段とを備えた電動パワーステアリング装置であって、
前記制御手段は、
車両側面の複数の領域における各横風受風状態を示す横風情報に基づいて、主たる横風受風領域を判定する受風領域判定手段と、
前記判定された横風受風領域に対応する車両の偏向方向及び偏向強度を特定する横風状態特定手段とを備え、
前記特定された偏向方向と反対の方向に前記偏向強度に応じた前記アシスト力を付与すべく前記操舵力補助装置を制御すること、を特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電動パワーステアリング装置において、
前記横風情報は、前記車両側面の前部領域、中部領域及び後部領域の各部における横風受風状態を示すものであって、
前記横風状態特定手段は、一方の側面の前部領域、前部及び中部領域、又は全領域が主たる横風受風領域である場合には、前記横風の受風方向と反対の方向を前記偏向方向として特定し、一方の側面の後部領域、又は中部及び後部領域が主たる横風受風領域である場合には、前記受風方向を前記偏向方向として特定すること、を特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項3】
請求項2に記載の電動パワーステアリング装置において、
前記横風状態特定手段は、一方の側面の前部領域又は後部領域が主たる横風受風領域である場合、一方の側面の前部及び中部領域又は中部及び後部領域が主たる横風受風領域である場合、一方の側面の全領域が主たる横風受風領域である場合の順に大きな前記偏向強度を特定すること、を特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項4】
請求項1〜請求項3の何れか一項に記載の電動パワーステアリング装置において、
前記車両側面の各領域に設けられた複数の圧力検出部を有し該各圧力検出部により検出される圧力に基づいて該各領域の横風受風状態を検出する横風状態検出装置を備えること、を特徴とする電動パワーステアリング装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2006−123754(P2006−123754A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−315289(P2004−315289)
【出願日】平成16年10月29日(2004.10.29)
【出願人】(302066630)株式会社ファーベス (138)
【出願人】(000003470)豊田工機株式会社 (198)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】