説明

操舵制御装置

【課題】 大型化及びコストアップを抑えて、ハンドルの舵角の位置制御を従来より安定させることが可能な操舵制御装置を提供する。
【解決手段】 本発明の操舵制御装置41では、モータ回転角センサ25を利用してハンドル33の検出舵角θjを求めている。ここで、転舵モータ19は、減速機構を介してハンドル33に連結され、モータ回転角センサ25はその転舵モータ19の回転軸に備えられているので、モータ回転角センサ25を利用して求めた検出舵角θjの分解能は従来より向上し、これによりハンドル33の位置制御を安定させることが可能になる。しかも、転舵モータ19に本来的に備えられたモータ回転角センサ25を利用したので大型化及びコストアップも抑えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハンドル操作なしで自動操舵にて走行可能な車両に搭載される操舵制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、手動操舵モードと自動操舵モードとに切り替え可能な車両が開発され、市販されている。このような車両では、自動操舵モードを利用して、例えば車庫入れ操作を容易に行うことができる。具体的には、車庫の近傍に車両を停止して自動操舵モードにし、車両の移動目標位置を車庫内に設定する。すると、現在位置と移動目標位置との間の目標走行経路が演算され、その目標走行経路上の各位置における転舵輪の目標舵角が決定される。そして、運転者がアクセル及びブレーキの操作を行うだけで、車両の進行に伴って転舵輪が目標舵角と一致するように適宜転舵され(即ち、自動的にハンドルが切られ)、運転未熟者であっても、容易に車両を車庫内に収めることができる(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−42769号公報(段落[0013]〜[0016]、第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、操舵制御装置は、一般に、転舵輪の舵角の代用値としてハンドルの舵角を用いて位置制御を行う構成になっている。そして、従来の操舵制御装置は、ハンドルの回転軸に備えたハンドル舵角センサから検出舵角を取得し、その検出舵角を、車両の移動目標位置に基づいて特定されるハンドルの目標舵角と一致させるように、モータ電流指令値を演算する構成になっていた。しかしながら、ハンドル舵角センサの分解能は、従来の操舵制御装置が安定した位置制御を行うためには低すぎた。即ち、実際はハンドルの舵角が連続して変化していても、ハンドル舵角センサの分解能が低いために、操舵制御装置にしてみれば、ハンドルの舵角が断続的に変化するように受け取られ、例えば、発振が生じたり、追従遅れが大きくなり、ハンドルの舵角の位置制御を安定して行うことができない場合が起こり得た。これに対し、単に、現状より分解能が高いハンドル舵角センサを用いると形状が大きくなり、コストも上がってしまう。
【0004】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、大型化及びコストアップを抑えて、ハンドルの舵角の位置制御を従来より安定させることが可能な操舵制御装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するためになされた請求項1の発明に係る操舵制御装置は、ハンドル及び転舵輪に減速機構を介して連結された転舵モータにより、ハンドル操作なしで転舵輪の舵角を位置制御して自動操舵走行可能な車両に搭載され、予め設定された車両の移動目標位置に基づいて特定される目標舵角とハンドルの検出舵角との位置偏差に応じて転舵モータを駆動するためのモータ電流指令値を演算する操舵制御装置であって、ハンドルの回転軸に備えられたハンドル舵角センサからハンドル実舵角を取得すると共に転舵モータの回転軸に備えられたモータ回転角センサからモータ実回転角を取得し、自動操舵走行の開始時のハンドル実舵角をθc1とし、自動操舵走行の開始時を基準としたモータ実回転角の変化量をθfとし、ハンドルと転舵モータとの間の減速比をRとした場合に、θj=θc1+θf/R、から特定されるθjを検出舵角として演算するハンドル検出舵角演算部を備えたところに特徴を有する。
【0006】
請求項2の発明は、請求項1に記載の操舵制御装置において、ハンドル検出舵角演算部により演算された検出舵角と、ハンドル舵角センサにより検出されたハンドル実舵角との差が、予め設定された誤差許容基準値を超えた場合に自動操舵走行を中止する自動操舵中止決定部を備えたところに特徴を有する。
【0007】
請求項3の発明は、請求項2に記載の操舵制御装置において、位置偏差の時間積分値に応じてモータ電流指令値を増減するための積分演算部を有し、自動操舵走行の中止後、自動操舵走行が再開される前までに、時間積分値をリセットする積分値リセット手段を備えたところに特徴を有する。
【0008】
請求項4の発明は、請求項2又は3に記載の操舵制御装置において、自動操舵中止決定部は、自動操舵走行が中止された旨を報知するための報知信号を出力するように構成されたところに特徴を有する。
【発明の効果】
【0009】
[請求項1の発明]
請求項1の操舵制御装置では、検出舵角θjの初期値θc1を、ハンドル舵角センサが検出したハンドル実舵角を用いて設定し、初期値θc1からの検出舵角θjの変化量を、モータ回転角センサが検出したモータ実回転角の変化量θfを減速比Rで除した値(=θf/R)とした。ここで、転舵モータは、減速機構を介してハンドルに連結され、モータ回転角センサはその転舵モータの回転軸に備えられているので、モータ回転角センサの検出結果を利用して求めた検出舵角θjの分解能は従来より向上し、これによりハンドルの位置制御を安定させることが可能になる。しかも、転舵モータに本来的に備えられたモータ回転角センサを利用したので大型化及びコストアップを抑えることができる。
【0010】
[請求項2の発明]
請求項2の操舵制御装置では、ハンドル検出舵角演算部により演算された検出舵角と、ハンドル舵角センサにより検出されたハンドル実舵角との差が、予め設定された誤差許容基準値を超えたことをもって異常を検出することができ、このような異常が発生した場合に自動操舵走行を中止することで安全が確保される。
【0011】
[請求項3の発明]
自動操舵走行が中止されてから、その自動操舵走行中に用いた時間積分値が過去のデータとして残った状態で自動操舵走行が再開されると、再開時に転舵輪が急峻に転舵する事態が生じ得る。しかしながら、請求項3の操舵制御装置によれば、自動操舵走行の中止後、自動操舵走行が再開される前までに時間積分値がリセットされるので、上記した事態を回避することができる。
【0012】
[請求項4の発明]
請求項4の操舵制御装置では、自動操舵走行が中止された旨を報知信号により確認することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態を図1〜図8に基づいて説明する。図1に示された車両10は、所謂、電動パワーステアリング装置としての操舵装置11を備え、運転者によるハンドル操作を転舵モータ19(例えば、ブラシレスモータ)で補助して転舵輪50,50を転舵することができる。具体的には、1対の転舵輪50,50の間には、転舵輪間シャフト16が差し渡され、その転舵輪間シャフト16は、筒形ハウジング18の内部に挿通されている。転舵輪間シャフト16の両端は、タイロッド17,17を介して各転舵輪50,50に連結され、筒形ハウジング18は、車両10の本体に固定されている。また、筒形ハウジング18の軸方向の中間部分には大径部18Dが備えられ、その大径部18Dに転舵モータ19が内蔵されている。転舵モータ19は、筒形ハウジング18の内面に嵌合固定されたステータ20と、ステータ20の内側に遊嵌された筒状のロータ21とを備えてなる。そして、転舵輪間シャフト16がロータ21の内側を貫通している。また、筒形ハウジング18のうち大径部18Dの一端には、ロータ21の回転位置を検出するためのモータ回転角センサ25(例えば、レゾルバ)が設けられている。
【0014】
ロータ21の内面には、ボールナット22が組み付けられている。また、転舵輪間シャフト16の軸方向の中間部分にはボールネジ部23が形成されている。これらボールナット22とボールネジ部23とからボールネジ機構24が構成され、ロータ21と共にボールナット22が回転すると、筒形ハウジング18に対してボールネジ部23が直動し、これにより転舵輪50,50が転舵する。
【0015】
転舵輪間シャフト16の一端部側には、ラック30が形成され、ステアリングシャフト32(本発明に係る「ハンドルの回転軸」に相当する)の下端部に備えたピニオン31がこのラック30に噛合している。ステアリングシャフト32の上端部には、ハンドル33が取り付けられている。
【0016】
なお、本実施形態では、ボールネジ機構24が、転舵輪50と転舵モータ19との間を連結する本発明に係る「減速機構」に相当すると共に、ラック30、ピニオン31及びボールネジ機構24が、転舵モータ19とハンドル33との間を連結する本発明に係る「減速機構」に相当する。
【0017】
ステアリングシャフト32のうち上端寄り位置には、ハンドル舵角センサ34が取り付けられている。このハンドル舵角センサ34により、本発明に係るハンドル実舵角θ2(即ち、ハンドル33の回転角)を検出している。
【0018】
ステアリングシャフト32のうちハンドル舵角センサ34より下側部分には、トルクセンサ35が取り付けられている。トルクセンサ35は、ステアリングシャフト32にかかる負荷トルクT1によって捩れ変形する図示しないトーションバネと、そのトーションバネの両端部の回転角を検出するための図示しない1対のレゾルバとを備えてなり、それら両レゾルバが検出した回転角の差分に応じてステアリングシャフト32にかかる負荷トルクT1を検出することができる。また、転舵輪50の近傍には、転舵輪50の回転に基づいて車速Vを検出するための車速センサ36が設けられている。
【0019】
さて、本実施形態の車両10には、自動操舵システムが搭載されている。この自動操舵システムは、図示しない操作パネルの操作によって起動し、これにより車両10を手動操舵モード(即ち、手動でハンドル操作を行って転舵輪50を転舵するモード)から自動操舵モード(即ち、手動でハンドル操作を行わずに転舵輪50を自動的に転舵するモード)に切り替えることができる。ここで、図2に示すように、例えば車両10を車庫E1内に自動操舵モードにて収納する場合の操作について説明する。先ずは、手動操舵モードにて車両10を、車庫E1の進入口に横付けして、仮停止位置P2に停車する。そして、自動動作モードに切り替え、車両10に備えた図示しないカメラにて車庫E1内を車内モニタ(図示せず)に写し出す。この車内モニタには、車両形カーソル(図2の符号CS参照)が表示されており、操作パネルの操作により車両形カーソルを車内モニタに映し出された車庫E1内にセットする。これにより、車庫E1の内部が本発明に係る移動目標位置P1として設定される。
【0020】
すると、自動操舵システムに備えた目標舵角生成装置40が、仮停止位置P2と移動目標位置P1との間の目標走行経路L1を演算すると共に、その目標走行経路L1において転舵動作を行うための中間位置P3,P4を決定する。そして、各位置P2,P3,P4における目標舵角θ1を演算して出力する。本発明に係る操舵制御装置41は、それら各位置P2,P3,P4における目標舵角θ1に基づいて、各位置P2,P3,P4において転舵モータ19を駆動するためのモータ電流指令値I3をそれぞれ演算する。そして、例えば、目標舵角生成装置40が出力する音声案内に基づいてアクセル及びブレーキ操作のみを行うと、各位置P2,P3,P4において、モータ電流指令値I3に応じた電流がモータ駆動回路42から転舵モータ19に流され、転舵モータ19によって転舵輪50の舵角が目標舵角θ1に位置決めされる。これにより、目標舵角生成装置40が演算した目標走行経路L1を、アクセル及びブレーキ操作のみで車両10を走行させることができ、運転未熟者であっても車庫入れ操作を容易に行うことができる。
【0021】
また、自動操舵モードが解除されると車両10が手動操舵モードになり、運転者によるハンドル33の手動操舵が必要になる。このとき、転舵モータ19は、運転者によるハンドル操作を補助するための補助力(アシストトルク)を出力する。
【0022】
なお、この技術を応用して、例えば路線バスのハンドル操作を一部自動化することもできる。
【0023】
操舵制御装置41には、図示しないメモリが備えられ、そのメモリには図3に示したモータ電流指令値演算プログラムPG1が記憶されると共に、手動操舵モードから自動操舵モードに切り替えが開始されたか否かを判別するための自動操舵モード開始フラグFが設けられている。この自動操舵モード開始フラグFは、自動車のイグニッションキーをオンした直後は、手動操舵モードになっているので「0」に初期設定されている。そして、前記した操舵パネルの操作により、手動操舵モードから自動操舵モードに切り替えが開始されると、自動操舵モード開始フラグFは「1」にセットされ、自動操舵モードに切り替えられると、自動操舵モード開始フラグFは「0」にリセットされる。また、運転者の操作又は異常発生により、自動操舵モードが解除されて手動操舵モードに切り替えられても、自動操舵モード開始フラグFは「0」にリセットされる。
【0024】
操舵制御装置41は、所定周期でモータ電流指令値演算プログラムPG1を実行することで、上記した手動操舵モード及び自動操舵モードの両方に対応することができる。具体的には、モータ電流指令値演算プログラムPG1が実行されると、操舵制御装置41は、ハンドル舵角センサ34、トルクセンサ35、車速センサ36及びモータ回転角センサ25から各検出結果(ハンドル実舵角θ2、負荷トルクT1、車速V、モータ実回転角θ7)を取得すると共に、目標舵角生成装置40が演算した目標舵角θ1を取得する(S1)。
【0025】
次いで、アシスト制御処理(S2)を実行して、アシスト制御用電流指令値I1を演算する。このアシスト制御処理(S2)の具体的な構成に関しては後に詳説する。
【0026】
次いで、アシスト制御処理(S2)の実行後に、自動操舵モードがオンか否かを判別する(S3)。ここで、自動操舵モードがオンでない場合(S3:NO)、即ち手動操舵モード中の場合には、アシスト制御用電流指令値I1をモータ電流指令値I3としてモータ駆動回路42に出力する(S4,S7)。
【0027】
また、自動操舵モードがオンの場合(S3:YES)には、位置制御処理(S5)を実行し、位置制御用電流指令値I2を演算する。そして、その位置制御用電流指令値I2とアシスト制御用電流指令値I1との和をモータ電流指令値I3として、モータ駆動回路42に出力する(S6,S7)。この位置制御処理(S5)の具体的な構成に関しては後に詳説する。
【0028】
モータ電流指令値I3がモータ駆動回路42に出力されると(S7)、モータ電流指令値演算プログラムPG1は終了し、所定周期後に再実行される。そして、モータ電流指令値演算プログラムPG1を実行することで、図6のブロック図に示した制御系が構成される。ここで、同図に示したアシスト制御部41Aは、前記アシスト制御処理(S2)により構成され、位置制御部41Bは、前記位置制御処理(S5)によって構成され、切替部41Dは、前記ステップS3,S4,S6によって構成されている。モータ電流指令値演算プログラムPG1の全体の構成に関する説明は以上である。
【0029】
次に、モータ電流指令値演算プログラムPG1のうち前記アシスト制御処理(S2)の具体的な構成を、図4を参照しつつ説明する。アシスト制御処理(S2)が実行されると、操舵制御装置41は、トルク−電流指令値マップ(図示せず)に基づき、負荷トルクT1に応じた第1の電流指令値I11を決定する(S21)。次いで、モータ実回転角θ7を時間で微分して舵角速度θ5を求め(S22)、転舵角速度−電流指令値マップ(図示せず)に基づき、舵角速度θ5に応じた第2の電流指令値I12を決定する(S23)。次いで、車速−ゲインマップに基づいて車速Vに応じたゲインG1を決定する(S24)。そして、第1の電流指令値I11から第2の電流指令値I12を減算した値にゲインG1を乗じて、アシスト制御用電流指令値I1(=G1・(I11−I12))を演算し(S25)、このアシスト制御処理(S2)が終了する。
【0030】
ここで、上記したトルク−電流指令値マップは、例えば、負荷トルクT1が大きくなるに従って第1の電流指令値I11が大きくなるように設定されている。これにより、負荷トルクT1の増加分を、第1の電流指令値I11に応じた転舵モータ19のアシストトルクで低減させることができ、路面の摩擦係数に拘わらず、安定した操舵反力を感じながら運転者はハンドル操作を行うことができる。
【0031】
また、転舵角速度−電流指令値マップは、舵角速度θ5が大きくなるに従って第2の電流指令値I12が大きくなるように設定されている。そして、この第2の電流指令値I12が第1の電流指令値I11から減算されるので、ハンドル操作を急峻に行った場合に、操舵抵抗が大きくなり、ダンパ効果を奏する。
【0032】
また、車速−ゲインマップは、車速Vが大きくなるに従ってゲインG1が小さくなるように設定されている。これにより、車速Vが大きくなるに従って転舵モータ19のアシストトルクが低減し、高速時の急ハンドルが規制される一方、低速時には軽いハンドル操舵で車両10を大きく旋回させることができる。
【0033】
さらに、アシスト制御処理(S2)を実行することで、図6におけるアシスト制御部41Aが、図7のブロック線図で示した構成になる。ここで、同図に示した第1の電流指令値演算部41Eは、前記ステップS21により構成され、第2の電流指令値演算部41Fは、前記ステップS23により構成され、ゲイン変更乗算部41Hは、前記ステップS24,S25により構成されている。前記アシスト制御処理(S2)に関する説明は以上である。
【0034】
次に、モータ電流指令値演算プログラムPG1のうち前記位置制御処理(S5)の具体的な構成を、図5を参照しつつ説明する。位置制御処理(S5)が実行されると、操舵制御装置41は、自動操舵モード開始フラグFが「1」であるか否かを判別する(S51)。自動操舵モード開始フラグFが「1」であった場合は(S51:YES)、自動操舵モードによる自動操舵走行が開始されたものと判断し、自動操舵モード開始フラグFを「0」にセットする(S52)。次いで、自動操舵走行の開始時にハンドル舵角センサ34が検出したハンドル実舵角θ2を、ハンドル実舵角の初期値θc1として記憶すると共に(S53)、自動操舵走行の開始時にモータ回転角センサ25が検出したモータ実回転角θ7を、モータ実回転角の初期値θc2として記憶し(S54)、ステップS55以降を実行する。
【0035】
一方、自動操舵モード開始フラグFが「1」でなかった場合は(S51:NO)、自動操舵走行が継続しているものと判断し、上記した初期値θc1,θc2の設定は行わずにステップS55以降を実行する。ステップS55では、自動操舵走行の開始時のモータ実回転角θc2を基準としたモータ実回転角θ7の変化量θf(=θ7−θc2)を求める。次いで、その変化量θfを、ハンドル33と転舵モータ19との間の減速機構が有する減速比Rで除した値(=θf/R)にハンドル実舵角の初期値θc1を加えて検出舵角θj(=θc1+θf/R)を求める(S56)。なお、自動操舵走行の開始時には、モータ実回転角θ7の値が初期値θc2そのものであるから変化量θfは0となり、従って、検出舵角θjは、ハンドル実舵角の初期値θc1になる。
【0036】
上述の如く検出舵角θjを求めたら、次いで、目標舵角θ1と検出舵角θjとの偏差θ3(=θ1−θj)を求め(S57)、その偏差θ3に比例定数Kpを乗じた第3の電流指令値I21を演算する(S58)。次いで、偏差θ3の時間積分値θ4を求め(S59)、その時間積分値θ4に積分定数Kiを乗じた第4の電流指令値I22を演算する(S60)。次いで、前記アシスト制御処理(S2)で求めた舵角速度θ5に微分定数Kdを乗じた第5の電流指令値I23を演算する(S61)。そして、第3及び第4の電流指令値I21,I22の和から第5の電流指令値I23を減算して、位置制御用電流指令値I2を演算し(S62)、この位置制御処理(S5)を終了する。
【0037】
また、位置制御処理(S5)を実行することで、図6における位置制御部41Bが、図8のブロック線図で示した構成になる。ここで、同図に示したハンドル検出舵角演算部41Cは、ステップS51〜S56によって構成され、比例定数乗算部41Jは、前記ステップS58により構成され、積分演算部41Kは、前記ステップS59により構成され、積分定数乗算部41Lは、前記ステップS60で構成され、微分定数乗算部41Nは、前記ステップS61で構成されている。なお、微分演算部41Mは、前記アシスト制御処理(S2)のステップS22を流用して構成されている。前記位置制御処理(S5)に関する説明は以上である。
【0038】
次に、上記構成からなる本実施形態の動作を説明する。車両10が手動操舵モードになると、目標舵角生成装置40のうち図6に示したアシスト制御部41Aが、トルクセンサ35により検出された負荷トルクT1に基づいてアシスト制御用電流指令値I1を演算し、このアシスト制御用電流指令値I1が、モータ電流指令値I3としてモータ駆動回路42に付与される。そして、モータ駆動回路42が、そのモータ電流指令値I3に基づいて転舵モータ19を駆動することで、ステアリングシャフト32にかかる負荷トルクT1に応じた補助力(アシストトルク)が転舵モータ19から出力される。そして、上述の如く、路面の摩擦係数に拘わらず安定した操舵反力を得ることができると共に、高速時にはハンドル操作が重くなる一方、低速時にはハンドル操作が軽くなり、安全な走行が可能になる。
【0039】
さて、図示しない操作パネルを操作して自動操舵モードに切り替えると、目標舵角生成装置40のうち図6に示したアシスト制御部41Aが出力したアシスト制御用電流指令値I1と位置制御部41Bが出力した位置制御用電流指令値I2との和がモータ電流指令値I3として使用される。その位置制御部41Bは、上述の如く、ハンドル33の検出舵角θjと、予め設定された車両10の移動目標位置P1に基づいて特定される目標舵角θ1との偏差に基づいて位置制御用電流指令値I2を演算する。
【0040】
さて、本実施形態の操舵制御装置41(詳細には、位置制御部41B)では、検出舵角θjの初期値θc1を、ハンドル舵角センサ34が検出したハンドル実舵角θ2を用いて設定し、初期値θc1からの検出舵角θjの変化量を、モータ回転角センサ25が検出したモータ実回転角θ7の変化量θfを減速比Rで除した値(=θf/R)とした。ここで、転舵モータ19は、ラック30、ピニオン31及びボールネジ機構24からなる減速機構を介してハンドル33に連結され、モータ回転角センサ25はその転舵モータ19の回転軸に備えられているので、モータ回転角センサ25の検出結果を利用して求めた検出舵角θjの分解能は従来より向上する。具体的には、従来のハンドル舵角センサと、本実施形態に係るモータ回転角センサ25のセンサ自体の分解能が同じであれば、減速機構の減速比倍だけ検出舵角θjの分解能は向上する。
【0041】
なお、転舵モータ19に備えられたモータ回転角センサ25は、ブラシレスモータである転舵モータ19を位置制御するために備えられたものであるからハンドル舵角センサ34に比べて、本来的に分解能が高い。
【0042】
このように本実施形態の操舵制御装置41によれば、従来より高い分解能で求めた検出舵角θjを用いてモータ電流指令値I3を演算し、そのモータ電流指令値I3により転舵モータ19を駆動するので、自動操舵走行時におけるハンドル33の位置制御を従来より安定させることができる。また、本実施形態では、転舵モータ19に本来的に備えられたモータ回転角センサ25を利用することで分解能を向上させたので、新たに別部品を加えた場合に比べて大型化及びコストアップが抑えられる。しかも、この構成によれば、検出舵角θjの初期値θc1はハンドル舵角センサ34にて求めているので、モータ回転角センサ25を、アブソリュートエンコーダにする必要がなく、単に転舵モータ19の機械角を求めるだけの例えばレゾルバ等で構成して、モータ回転角センサ25を含む転舵モータ19全体の小型化も図ることができる。
【0043】
なお、この種の自動操舵走行可能な車両10に備えた操舵制御装置41は、転舵モータ19を制御するために設けられたものであるから、その転舵モータ19に備えたモータ回転角センサ25の検出信号は、車内LANを介さずに操舵制御装置41に取り込まれている。これに対して、ハンドル舵角センサ34の検出信号は車内LANを介して操舵制御装置41に取り込まれているのが一般的である。そして、従来の操舵制御装置が、車内LANの通信周期でハンドル舵角センサの検出信号を取り込んでいたところを、本実施形態の操舵制御装置41では、車内LANの通信周期とは無関係な短い周期でモータ回転角センサ25の検出信号を取り込むことができる。このことによっても、従来より検出舵角θjの分解能が実質的に高くなり、ハンドル33の位置制御を安定させることができる。
【0044】
[第2実施形態]
本実施形態は、図9に示されており、前記第1実施形態とは、位置制御処理の構成の一部のみが異なる。即ち、本実施形態の位置制御処理(S500)は、前記第1実施形態の位置制御処理(S5)のうち、ステップS56とS57との間にステップS90を設け、このステップS90において、ステップS51〜S56により演算された検出舵角θjと、ハンドル舵角センサ34が検出したハンドル実舵角θ2との差Δθ(=θj−θ2)が、予め設定された誤差許容基準値K1内であるか否かを判別する。ここで、差Δθが誤差許容基準値K1を超えた場合には(S90:NO)、自動操作モードをオフし(S91)、自動操舵モード開始フラグFを「0」にリセットし(S92)、さらに位置制御用電流指令値I2を「0」に設定してから(S93)位置制御処理(S500)を抜ける。
【0045】
一方、差Δθが誤差許容基準値K1内であった場合には(S90:YES)、前記第1実施形態で説明したステップS57,S58を実行後、自動操舵モード開始フラグFが「1」であるか否かを判別する(S94)。ここで、自動操舵モード開始フラグFが「1」であったときには(S94:YES)、自動操舵モードがオフされてから、再度、自動操舵モードがオンされた(即ち、自動操舵走行を中止後に、再び、自動操舵走行が再開された)と判断して自動操舵モード開始フラグFを「0」にセットし(S95)、時間積分値θ4を「0」に初期設定する(S96)。そして、前記第1実施形態で説明したステップS60以降を実行する。また、自動操舵モード開始フラグFが「0」であったときには(S94:NO)、自動操舵モードが開始後、維持されていると判断し、時間積分値θ4を演算してから(S59)、その時間積分値θ4を用いてステップS60以降を実行する。
【0046】
上述した本実施形態の構成によれば、ハンドル33と転舵モータ19とは機械的に連結されているので、正常時には、ハンドル舵角センサ34が検出したハンドル実舵角θ2と、モータ回転角センサ25が検出したθ7とは連動して変化する。従って、正常時には、検出舵角θjとハンドル実舵角θ2との差は誤差許容基準値K1内に収まる。しかしながら、車内LANによる通信異常や、ハンドル舵角センサ34又はモータ回転角センサ25の何れかのセンサに異常等が生じた場合には、検出舵角θjとハンドル実舵角θ2との差Δθが誤差許容基準値K1を超えて大きくなる。そして、本実施形態では、上記した異常を、検出舵角θjとハンドル実舵角θ2との差Δθが誤差許容基準値K1を超えたことをもって検出し、自動操舵走行を中止することで安全が確保される。
【0047】
ところで、自動操舵走行が中止され、その自動操舵走行を行った際に用いた時間積分値θ4が過去のデータとして残った状態で、次に自動操舵走行が再開されると、その再開時におけるモータ電流指令値I3が時間積分値θ4により大きな値になり、転舵輪50が急峻に転舵されるような事態が生じ得る。しかしながら、本実施形態の操舵制御装置41によれば、自動操舵走行の中止後、自動操舵走行が再開される前までに、時間積分値θ4がリセットされるので、上記した事態を回避することができる。
【0048】
[他の実施形態]
本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、例えば、以下に説明するような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
【0049】
(1)前記実施形態の操舵装置11は、ボールネジ機構24を介して、転舵モータ19が転舵輪間シャフト16に連結された構成であったが、図10に示すように、ステアリングシャフト32の途中にウォームホイール70を取り付け、転舵モータ72の回転軸に取り付けたウォームギヤ71をウォームホイール70に噛合させた構成にしてもよい。
【0050】
(2)前記第1及び第2の実施形態において、操舵制御装置41が自動操舵モードから手動操舵モードに切り替えた旨の報知信号を出力する構成としてもよい。これにより、運転者の操作に依らず、自動操舵モードが解除されたことを確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の第1実施形態に係る車両の概念図
【図2】自動操舵走行にて車両を車庫内に駐車する場合の概念図
【図3】モータ電流指令値演算プログラムのフローチャート
【図4】アシスト制御処理のフローチャート
【図5】位置制御処理のフローチャート
【図6】操舵制御装置のブロック線図
【図7】アシスト制御部のブロック線図
【図8】位置制御部のブロック線図
【図9】第2実施形態の位置制御処理のフローチャート
【図10】操舵装置の変形例を示した車両の概念図
【符号の説明】
【0052】
10 車両
19,72 転舵モータ
24 ボールネジ機構
25 モータ回転角センサ
30 ラック
31 ピニオン
32 ステアリングシャフト
33 ハンドル
34 ハンドル舵角センサ
40 目標舵角生成装置
41 操舵制御装置
41C ハンドル検出舵角演算部
50 転舵輪
I3 モータ電流指令値
K1 誤差許容基準値
L1 目標走行経路
P1 移動目標位置
R 減速比
θ1 目標舵角
θ2 ハンドル実舵角
θ7 モータ実回転角
θf 変化量
θj 検出舵角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハンドル及び転舵輪に減速機構を介して連結された転舵モータにより、ハンドル操作なしで前記転舵輪の舵角を位置制御して自動操舵走行可能な車両に搭載され、
予め設定された車両の移動目標位置に基づいて特定される目標舵角と前記ハンドルの検出舵角との位置偏差に応じて前記転舵モータを駆動するためのモータ電流指令値を演算する操舵制御装置であって、
前記ハンドルの回転軸に備えられたハンドル舵角センサからハンドル実舵角を取得すると共に前記転舵モータの回転軸に備えられたモータ回転角センサからモータ実回転角を取得し、
前記自動操舵走行の開始時の前記ハンドル実舵角をθc1とし、
前記自動操舵走行の開始時を基準とした前記モータ実回転角の変化量をθfとし、
前記ハンドルと前記転舵モータとの間の減速比をRとした場合に、
θj=θc1+θf/R
、から特定されるθjを前記検出舵角として演算するハンドル検出舵角演算部を備えたことを特徴とする操舵制御装置。
【請求項2】
前記ハンドル検出舵角演算部により演算された前記検出舵角と、前記ハンドル舵角センサにより検出された前記ハンドル実舵角との差が、予め設定された誤差許容基準値を超えた場合に前記自動操舵走行を中止する自動操舵中止決定部を備えたことを特徴とする請求項1に記載の操舵制御装置。
【請求項3】
前記位置偏差の時間積分値に応じて前記モータ電流指令値を増減するための積分演算部を有し、前記自動操舵走行の中止後、前記自動操舵走行が再開される前までに、前記時間積分値をリセットする積分値リセット手段を備えたことを特徴とする請求項2に記載の操舵制御装置。
【請求項4】
前記自動操舵中止決定部は、前記自動操舵走行が中止された旨を報知するための報知信号を出力するように構成されたことを特徴とする請求項2又は3に記載の操舵制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2006−123663(P2006−123663A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−313325(P2004−313325)
【出願日】平成16年10月28日(2004.10.28)
【出願人】(302066630)株式会社ファーベス (138)
【出願人】(000003470)豊田工機株式会社 (198)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】